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2024年11月21日
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【犬子 電車】

2011年06月02日
「大変羨ましい記述があったので俺もしたい」
「朝から何の話?」
 登校するなり先日とある掲示板で見たことを簡潔に述べたら、目の前の人間に擬態した犬は小首を傾げた。
「満員電車でえろいことしたいって話」
「あ、朝から不潔だよ、符長くん!」
「テメェ、俺が昨日風呂に入ってないことをどこで知った!?」
 頭がかゆい符長彰人ですこんにちは。……むぅ、何だこの脳内で発生するこんにちはは。
「超勘違いだよ! それはそれで汚いよ! 毎日お風呂には入らないとダメだよ!」
「いや違うんだ、聞いてくれ。シャンプーが切れてたんで買いに行かなくちゃいけなかったんだけど、出かけるのが面倒で、もういっそ風呂に入らなくてもいいか! と思ったんだ」
「思わないの! もー……今日学校終わったら一緒にシャンプー買いに行ってあげるから、今日はお風呂入るんだよ?」
「犬子が一緒に入ってくれるなら入る」
「は、入らないよ! 入るわけないよ! 今日も符長くんはえっちだよ!」
「いや、ついでにお前の身体を洗ってやろうと思って。月に一度くらいは洗った方がいいと思ってな」
「当然のように犬扱いされてるよ! 今日も言うけど、私は犬じゃなくて人間なの! 髪型が犬っぽいだけなの! その結果、符長くんが勝手に犬子犬子言ってるだけ!」
「この人間に擬態した犬は流暢に日本語を使うなあ」
「うう……日常のように聞き流してるよ……」
「で、話は戻るんだが、電車ね」
「嫌だよ!」
「まだ話は終わってない」
「分かるもん! どーせ私に痴漢したいとかって話でしょ! そんなの、絶対嫌だから!」
「いや、俺も犬の尻を触る趣味はない」
「ここでも犬扱い!?」
「でも隠されたしっぽは触りたい。もふもふ感が強いに違いない」
「うう……そんなの存在しないのに、なんだかプレッシャーを感じるよ……」
「ええと。痴漢じゃなくてだな、抱き合いたいのだ」
 がっかり感の強かった犬子だったが、その台詞を聞いた瞬間、バネ仕掛けのおもちゃみたいにこっちを勢いよく見たのでびっくりした。
「ど、どした?」
「な、なんでもない、なんでもない! いーから続けて!」
「は、はぁ。ええとだな、満員電車は狭いだろ? だから、抱き合うことにより省スペースで素敵だね効果を得られるので俺もやってみてえと思ったのでお前を誘ったということだ」
「…………」
「どした? 犬子?」
「……あー、あのね、符長くん?」
「は、はぁ」
 何やら手を合わせ、身体を斜めにしてこちらに問いかけてきたので、ややひるみながら返答する。
「省スペースってことは、エコだよね?」
「はぁ、まぁそうだな」
「エコはさ、大事だからさ、そのさ、……や、やってあげてもいいかもだよ?」
「エコとか吐き気がするくらい嫌いだからいいよ」
「符長くんのスキル:天邪鬼が発動したよ!」
「普通につっこめ」
「いひゃいいひゃい」
 なんとなく犬子のほっぺを引っ張る。柔らかい。
「うー……符長くんのばか。痛いじゃないの」
「許して欲しい気持ちが少しだけある」
「いっぱいあるの! 普通は! そしてもっと普通に謝るの! 普通は!」
「任せろ、普通とか超得意」
「…………」
 俺がこういう台詞を言うと、誰が相手でもじろーっとした目で見られます。基本的に信頼されてない様子。
「はぁ……まあいいよ、符長くんだし。それで、あの……?」
「ん、ああ。痴漢な。乳でも尻でも揉んでやろう」
「しないよ! 抱っこだよ! 抱き合うのだよ!」
「痴漢の方が楽しそうだなあ」
「抱っこなの! 今日は抱っこの日!」
 ちうわけで、犬子が抱け抱け言うので放課後、電車に乗ってみた。
「……全然人いないね」
 ただ一つの誤算は、帰宅ラッシュが過ぎた後だったようで、人影はほぼ皆無で、普通に座れてしまうことだった。
「犬子がシャンプー買うのに手間取るからだ」
「酷い責任転嫁だよ! それを言うなら符長くんの方が悪いよ! 私の持つ買い物カゴに何回も何回も犬用シャンプー入れるんだもん! それで30分は時間使ったよ!」
「犬子が買い物カゴを持つだなんて賢いマネをするから、ご褒美をあげたくなっちゃったんだ」
「テレビとかでたまにやる買い物する利口な犬と思われてる!?」
「それとも、骨とかの方が嬉しいのか?」
「知らないよ! なぜなら私は人間だから!」
「うーむ。仮に人間だとしても、犬寄りの人間だよな?」
「え? う、うん、そう、かなぁ……? 自分じゃよくわかんないけど」
「犬と人間を比率で表すなら、99:1くらいだな」
「ほぼ犬!?」
「保母犬。親を失った可哀想な子供を集めて育てる優しい妖怪犬。しかし、もし俺が同等の行為を行った場合は警察官が大挙してやってくるだろうからこの国はおかしいと思う」
「嘘解説はいいのっ! ……そ、それよりさ、え、えっとね? だ、抱っこはどうなるのカナ?」
「どうも何も、混んでないんだからしても意味ないだろ」
「あ、そ、そっか。そだね。そだよね。……そりゃそうだよね」
 途端に犬子のテンションが激下がりした。
「恐らく衆人環視の中で頭がフットーしちゃいそうになりたかったに違いないだろうに、申し訳ないことをした」
「そこまでやるつもりはないよっ!」
 しかし、簡単にテンションが上がったのでこの犬は簡単で素敵だと思ったので頭をなでてみる。
「え、え……?」
 当の犬子はなでられる理由が分からないのか、困惑した様子で頭をなでられていた。
「……う、うー」
 しかし、やがて観念したのか、小さく頬を染めてただなでられていた。
「やはり犬子の名は伊達ではないのか、なで感がハンパではなくよいな」
「……あの、あのさ、符長くん。私以外に誰かの頭をなでたことあるの?」
「ぬいぐるみを含んでいいなら、ある! と力強く答えよう。含んじゃいけないなら黙秘権を活用します」
 犬子の顔が憐憫だか安心だか非常に微妙な表情になった。
「ところで犬子さんや」
「ん? なぁに、符長くん?」
「先ほど抱っこは意味がないと言った俺が言うのもなんだが、やっぱ抱っこして省スペース秘技を実践してみたいと思う俺を君はどう思うか」
「よきことだと思うよっ!!!」
「超声がでけえ!」
 ものすごく大きな声だったのでとてもびっくりした。幸いにして俺たちが乗ってるのはほぼ人がいないローカル線だったので騒ぎにはならないようだけど。
「あ、ご、ごめんね。ついおっきな声が出ちゃったよ」
「まあいいが……そんなに省スペースを実践したかったのか?」
「え? え、あ、うんっ! そうなの! 省エネ大好き!」
「俺は玉子焼きが好き」
「なんか違うよっ! ……あのさ、今度作ってきてあげよっか?」
「おお、さんきう」
 嬉しかったので頭をなでてあげたら、ニコニコされた。パンツの下のしっぽ(予想)も振ってるに違いない。
「えへへー。……あ、そ、それで、だ、抱っこは?」
「ああ、そだな。そのために来たのだし」
 というわけで、両手を広げてカムカムするのだが、犬子は一向に俺の檻に入ろうとしない。
「どした?」
「うぅー……そこに飛び込むための理論武装は完璧だけど、それはそれで恥ずかしいんだよ! ドキドキするんだよ! 符長くんがなんでもない顔してるのが憎らしいんだよ!」
「ばか、俺だってあとでガムテープで服を綺麗にしなきゃな、あ、でもガムテープなかったどうしようと内心ドキドキなんだぞ?」
「ここに至って未だ犬扱いとな!?」
 なんだその口調。
「……あ、でも、ドキドキが大分薄れたよ。これならいけそうな気がするよ!」
「じゃあ衆人環視の中頭がフットーしそうなくらい抱き合いましょう」
「またしてもドキドキが再発したよ! 絶対わざとだよコンチクショウ! それと、衆人環視じゃないよ! 人っ子ひとりいないよ!」
 本当にこの電車は大丈夫かと思うほど人気がない。まあ、今回に限ってはラッキーなのだけれども。
「じゃあいいじゃん。ほれ、おいで」
「うぅー……」
 犬子はやたら赤い顔でこちらを見たり目を伏せたりを繰り返すと、やがて意を決したように拳を握り締めて鼻息を漏らした。
「よ……よしっ。やっ、やるよっ、符長くん!」
「任せろ、飛んできたらその勢いを利用してえいやっと網棚に収納してやる」
「そんなのちっとも頼んでないよっ! 収納しないで!」
 そりゃそうだ。
「もー……常に変なことばっか言って。いーから普通に抱っこするんだよ? 頭とかもなでるんだよ?」
「なんか追加された」
「い、いーの! ついでなの!」
「まあいいか。じゃあ、そういうことで、おいで」
「う……うんっ!」
 両手を広げて再びカムカムしたら、今度こそ犬子は勢いをつけて俺に飛びついた。
「へ、へへー……できた、できたよ♪」
「こいつは偉い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないもん、人だもん♪」
 何がそんなに嬉しいんだか知らないが、犬子は笑いながら俺の胸にごりごり顔をこすりつけている。犬というよりむしろ猫のマーキングのよう。
「じゃあ、省スペース術を試しましょうか」
「あ、そだね」
 ちうわけで、二人で抱き合って立つが、周囲に人が一切いないため、これが省スペースになるのか分からない。
「……よく分かんないね」
 犬子もそう思ったのか、情けない笑顔を見せた。
「うーむ。いや待て、もっと密着すれば分かるかもしれないと下心を満載にしながら言ってみる」
「後半で何もかも台無しだよ、符長くん!」
「でも、犬子には乳力がないから密着してもよく分からないから別にいいか」
「あーっ!? その台詞は女子として許せないよ!」
「でも、俺は胸がない方が好きなんだ」
「……ま、まあ、私は心が広いから許すけども」
「しかし、俺は真性のロリコン野郎なので10歳以下じゃないとダメなんだ」
「符長くんがもうダメだった!?」
「冗談、冗談だ。まだ俺はその域まで達してない」
 半泣きになったので、慌てて訂正する。
「うぅー……」
「そう唸るな。皮いい顔が台無しだぞ?」
「折角のモテ台詞が誤変換のために台無しだよ、符長くん!」
「いや、これであってる」
「皮膚を褒められたの!?」
「だって、ニキビひとつない皮いい顔だろ」
 犬子のほっぺを両手で包み込んでふにふにしながら言う。実に皮いい顔だ。
「うぅー……素直に喜べないよ」
「じゃあ俺が代わりに素直に喜ぶ。ひゃほー!」
「代わりの意味が全く分からないよ、符長くん!」
「犬子と抱きあえて嬉しいんだ」
「え、あ、あ……」
 今更ながら自分の状態を把握したのか、犬子は赤くなってうつむいた。
「そう赤くなるな。ほら、一応検証って体だから大丈夫だ」
「そうやってわざわざ全部言っちゃうから意味ないよ、符長くん!」
「正直者だから仕方ないんだ。将来的に金の斧と銀の斧を手に入れてウハウハの予定なんだ」
「童話を将来設計に組み込んでる!?」
「ただ、鉄の斧を持ってないことだけが不安要素だな。どこに売ってんだろ? 武器屋?」
「現実とフィクションを混同してるよ、符長くん!」
「犬が人語を解する時点で現実も何もないと思うが」
「まだ犬!? もーこーゆー状態なんだからちょっとはらぶらぶな雰囲気になってもおかしくないと思うのに、いつもと変わらないのはどういうことなのだよ!?」
「なんだその口調」
「もー! いーからちょっとはラブ因子が欲しいの!」
「そういうことは恋人に言いなさい。外見は器量良しだし、なおかつ俺みたいな天邪鬼に付き合える優しさを持ってるんだから、すぐにできるはずだ」
「うっ、そ、それはそのー……あの、ね?」
「?」
 何やら意味ありげにこちらをチラチラ見てくる。……ああ、そうか。
「よしよし」(なでなで)
「違うよっ! ご褒美が欲しい犬じゃないよっ!」
「なんだ。女心ってのは難しいな」
「犬扱いしてる時点で女心も何もないよ……。と、ところでさ」
「うん?」
「も、もーなでなではしてくんないの?」
「…………」
「べっ、別にしてほしいとかじゃなくてね!? 別にちっとも気持ちよくなんかないし! 心がほわほわーとか何のことって感じだし! ずっとこうしててほしいだなんて考えもしないし!」
「いやはや、犬子の忠犬っぷりにはほとほと脱帽だな」(なでなで)
「違うのっ! 忠犬とか意味分かんないしっ! 嬉しくなんてないしっ!?」
「それはそうと、もうちょっとなでますか?」
「……ま、まあ、もうちょっとなら。あ、あと、もうちょっとぎゅってしてくれてもいいし」
 尋常ではないほど顔を赤くしながら、何やら口の中でぶちぶち言ってる犬子だった。

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無題
この犬ちょっと性的すぎるよね
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