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2024年11月22日
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【犬子 寂しい】

2010年01月24日
 冬というのは結構厄介なもので、普段は鳴りを潜めている感情が鎌首をもたげて俺に襲い掛かってくる。いわゆる物悲しいという奴だ。
「具体的に言うと、犬子が最終的にルーベンスの絵の前で全裸の子供たちに連れて行かれるくらい寂しい」
「いきなり電話で家まで呼び出されたと思ったら、人の最後を勝手にパトラッシュと極めて相似にされた!?」
 友人の犬子が部屋に入ってくるなりモノローグの続きを言ったら、大変驚かれた。
「いや、似てるのはネロの最後であり、パトラッシュは犬なので違うと言いたかったが、よく考えるとどっちも犬なのでそうなんだ」
「最終的に犬にされた!? ていうか、いっつも言ってるけど、私は犬じゃないよ! 符長くんが私のこと犬子犬子って言ってるだけなの!」
 犬子犬子言う符長彰人ですこんにちは。……ううむ、心の中で自己紹介するクセどうにかしないとな。それより。
「犬耳があるクセになに言ってんだ」
「こ、これは犬耳じゃなくてそーゆー髪型なの! マクロスのランカちゃんといーっしょ! ほらほら!」
 自身の髪を持って俺に見せ付けるが、何を言っているのか分からないフリをする。
「うー……分からないフリするしぃ」
「俺の特権だ。で、だ、犬子」
「うん? なぁに、符長くん?」
 こいこいと手招きすると、さっきまでの悲しそうな雰囲気を一瞬で粉砕し、犬子はこっちへ寄って来た。
「えへ。なぁに?」
「全く用はないのだが、一人になると寂しさのあまり自害する、もしくは半狂乱になって近くの人物を殺害する可能性が極めて高いので俺を構え」
「うさぎより性質が悪いよこの人!? ……ていうか、寂しいの?」
 こっくりうなずくと、犬子は嬉しそうにほにゃーっと笑った。
「貴様、俺の物悲しさを笑ったなあ!? チクショウ、後でお前の家に火をつけてやる!」
「普通に犯罪だよ! じゃなくて、なくて、そじゃなくてさ。……そーゆー時に私を頼ってくれたのがね、なんかね、……うれしーなあって。えへ♪」
 照れ臭そうに指をからませ、赤い顔ではにかまれたりしたら、俺の頭はおかしくなります(断定)。
「じゃ、寂しい符長くんのため、私が一緒にいたげるね♪」
「よきにはからえ」
「王様だ!」
 違うと思う。
「それで、何しよっか? ゲーム?」
「何でもいい。傍にいてくれたら、それで」
「ふぇ!?」
 突如、犬子の顔が真っ赤になった。ヤクイ病気が突然発症したに違いない。
「帰れ。移る」
「何が!? じゃ、じゃなくて、そ、その……び、びっくりしたの」
「自分の余命に? たぶんそう長くないが、気を落とすな」
「なんで病人扱いされてるの! そーじゃなくて、……そ、そゆこと言われたの、初めてだから」
「俺も遊びに来た友達に余命宣告するの初めてだ」
「そっちじゃなくて! ……そ、傍にいてくれとか言われたの、初めてだったから。……びっくりした」
 む。よく考えたら、まるで恋人同士の台詞ではないか。……いかんな。どうも犬子が相手だと、気安くしすぎてしまう。
「じゃ、じゃあその……いるね、ずっと。そばに」
 言葉を訂正しようとしてたら、犬子は俺の手を包むように両手で握り、赤い顔のままにっこり笑った。出かけた言葉をノドの奥に仕舞い込む。
「いやはや、なんというか、恋人のようで素敵ですね」
「こっ! こっ、こここっ、こ、こー!?」
「コー。フランス、ノルマンディーの一地方。ルーアン、ディエップ、ル・アーブルを結ぶ三角形の範囲を指す」
「知らないよっ! 動揺してるんだよっ!」
 冷静に自分の動揺を説明するな。
「う、うう~……ふ、符長くんはそーゆーこと、するっと言うからずるいよね」
「するっと坊主と呼んでくれ」
「するっと坊主」
 嫌になるくらい嬉しくなかった。
「やめてくれ」
「最初から言わなきゃいいのに……」
「するっと坊主だから仕方ないんだ」
「するっと坊主」
「やめてください!」
「あはは。……ね、まだ悲しい?」
「む? ……おお!」
 言われて気づいたが、犬子が来てから件の感情は消えていた。それどころか、幸せいっぱい夢いっぱい(?)だ。
「えへ。お役に立てたようで嬉しいよ」
「あっぱれ。褒美をとらす」
「王様だ! ……いや、殿様?」
 どっちでもいい。
「じゃ、じゃあね、ご褒美……いい?」
「いいけど、その結果俺の生命反応が停止するような褒美は勘弁してください」
「しないよ! ……えっとねえ?」
 で。
「こんなのが褒美?」
「褒美だよ。すっごいご褒美♪」
 犬子が言うご褒美とは、俺が彼女を後ろから抱っこし、一緒にゲームをするというものだった。
「よいのですか?」
「よいのです。……あっ! もー、ちゃんと手加減してよ!」
 よそ見をしていたのか、犬子操る白い機械人形が爆風に巻き込まれ消えた。
「あと、符長くんばっかアイテム取るの禁止!」
「無茶を言うな」
「無茶を言うの! そんな爆弾ぽこぽこ置かれたら勝てるものも勝てないもん! ……ああっ!」
 犬子は自ら爆弾で入り口を塞ぎ、勝手に自滅した。
「うー……」
「そんな目で見られても、今のはしょうがないだろ。お前の操作ミスだ」
「めーれー。死んで悲しい私を慰めなさい」
「命令ならばしょうがない」
 後ろから犬子のほっぺをゆっくりさする。
「ふゃ……はふー♪ う、ううー♪」
「どういうことだ」
「符長くんの手から発射されてる幸せ光線により、脳がとけました。……学会に発表したいよ。いい?」
「嘲笑の渦に包まれるのでやめて」
「ノーベル平和賞間違いなしなのにぃ……」
 犬子はもうコントローラーから手を離し、身体をこちらに向けていた。抱き合って座っている形だ。人が見たら10人中10人が恋人同士と言うだろうが、誰も見てないので良し。
「符長くん」
「はい?」
「抱っこー」
「してます」
「もっと!」
 もっと、とな。more抱っこ?
「もっと全身全霊で抱っこしなさい。ゲームしながらとかじゃなくて」
「お前が一緒にゲームしようとか言ったと記憶してますが」
「みょみみみみ。記憶操作。したのでゲームとかもういいから、抱っこ」
 脳を操作されては仕方ないので、スーファミの電源を落とし、犬子を抱っこする。
「うー♪」
 俺の肩と頭の間に自分の頭を収め、犬子は幸せそうな声をあげた。
「あぐあぐあぐ♪」
「食うな」
「犬だから仕方ないもん。符長くんが私を犬認定したから仕方ないもん。わんわん!」
「困り犬だな、お前は」
「わんわん♪」
 それから犬子を撫でたりほっぺをすりすりしてたら日が暮れたのでびっくりした。また次の休みに同じことしよう。

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