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2024年11月22日
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【犬子 クリスマス】
2010年01月20日
今年もクリスマスがやってきた。別に数日過ぎてなんてないぜ。
「えへへ~、クリスマスだね、符長くん」
「つまり、浮かれポンチな台詞を吐く犬を見守る季節がやってきたということだ」
「浮かれポンチ!?」
「おや、犬子。いたことに全く気づかなかった俺に何か用か? あ、何か妖怪。なんちて。うひゃひゃ」
「うー……絶対気づいてたくせに。あと、何か妖怪がちっとも面白くないのに……」
「それはもう、何か用かと言った時点でセットでついてくるから諦めろ」
「うゅー……」
「うゆ? まあいいや。で、何か用か? あ、何か妖」
「妖怪はもういいのっ! ……あ、あのね、もーすぐクリスマスだよね?」
「俺の周辺で突如時空のねじれが起こり、さらにその現象に巻き込まれないのであれば、そうだな」
「ふつーにそうだねって言えばいいのにぃ……」
「任せろ。普通とか超得意」
「…………」
俺が普通とか言うと、決まってみんなジト目で見ます。
「……まあいいよ。あのね、そのね、えっとね?」
「何をもじもじしている。……ああ! 尿なら尿置き場へ」
「違うよっ! デリカシーがなさすぎるよっ! ていうか尿置き場って何!?」
「いわゆる便所」
「いわゆる方で言ってよ!」
「すいません。以後いわゆります」
「日本語がおかしいよぉ……じゃなくて! もーすぐ! クリスマスだよ!」
「はぁ」
「ご予定は!」
「皆無」
「やったあ!」
「チクショウ! 犬子が俺のもてなさを全力で喜ぶ! これはもう冬休み全てをかけて呪いの儀式を行い、犬子にしっぽを生やし名実共に犬にするしか!」
「情熱の方向性がとっても駄目な方向だよ!? それに、私は犬じゃないよ!」
「犬子なんて頓狂な名前のくせに何言ってんだ」
「また!? だから、これは符長くんが勝手につけたあだ名なの!」
変なことを言う犬だなあ。
「うー……また聞いてないフリしてるしぃ……」
「俺の基本スキルだ。とまれ、俺はさる事情により呪術の勉強をしなければならないので、これにて」
「絶対私にしっぽ生やす気だよこの人!? じゃなくて! ……あのね、クリスマス、予定、ないんだよね?」
「チクショウ、繰り返す聞くことにより俺の自尊心をズタズタにする作戦か! シンプルながら確実に俺の心は引き裂かれているぞ!」
「ネガティブすぎるよ! そーじゃなくて、予定ないんだったら私と一緒に過ごさないかって……」
ぴたり、と犬子の動きが止まった。かと思ったら、ゆっくり犬子の顔が赤くなっていくではないか。
「あ、あ、あぅぅ……」
「何を赤くなっている」
「だ、だってだってだって! ……もー! 符長くんのばか!」
「貴様、俺の秘密どこで知った!?」
「もー! もーもーもー!」
牛言語を駆使しながら、犬子は俺の胸をぺこぽこ叩いた。
「いたた、いたいた。やめれ犬子」
「符長くんが一緒にクリスマスしてくれるって言うまで叩くのやめないー!」
「クリスマスは動詞じゃないと思う上、ジョジョの台詞をインスパイアしてることに動揺を隠せないが、全然構わないぞ」
「う……?」
「だから、俺は犬子と一緒にクリスマスを祝う。おーけー?」
「お……おーけーおーけー! 超おーけーだよぅ! ……にひゃ~」
犬子はぺこぽこ暴動をやめると、両手を頬にあててニッコニコに微笑んだ。
「嬉しそうですね!」
「う、嬉しくなんてないもん。演技だもん」
「つ、ツンデレだああああ! 逃げろ!」
「なんで!?」
「……?」
「首を傾げないでよ!」
なわけ(?)で、クリスマス当日。てっきり色々な箇所を徘徊した挙句お城で様々な運動をするのかと思ったら、犬子の家に集合、らしい。
「こんにちは」
玄関を潜ったら、破裂音に出迎えられた。
「めりーくりすまー」
「ぐはあっ! チクショウ、血が止まらねえ! ここまでか!」
「勝手に死にかけてる!? 違うよ、銃じゃなくてクラッカーだよ!?」
サンタ服の犬子がクラッカー片手にあわあわしていた。
「痛みもないしクラッカーが目に留まってたし、おかしいとは思ったんだ」
「はぁ……」
やりきれない感じのため息を吐かれた。
「まーいーよ。……えへへ、めりーくりすますだよ、符長くん」
「ああ、実にメリーだな」
不躾に犬子を眺める。赤と白のいわゆるサンタルックに身を包んだ犬子は、俺の高揚も相まって、とても可愛く見えた。
「あと、何気にミニスカなのが高評価に結びついたのではなかろうか」
「えっ! ……う~、符長くんのえっち」
犬子は恥ずかしそうにスカートの裾を下に引っ張った。
「ごめんなさい。お詫びに目を潰します」
「やりすぎだよっ! なに自分の親指じっと見つめて息を荒げてるのこの人!? やる気充分だよぉ!?」
必死に止められたので、目潰しはやめる。
「やれやれ、犬子のせいで大変なことになるところだった」
「ありえない責任転嫁だよ!」
「ところで、玄関先で小芝居を繰り広げるのもいいが、そろそろ中に入れてもらえないだろうか。寒くて辛いのです」
「あっ……ご、ごめんね。入っていいよ」
「そうもすんなり通されると、何か罠があるんじゃないかと俺の天邪鬼成分が鎌首をもたげる」
「いーから入るの!」
犬子に背を押されながらトントントンと階段を上がり、犬子の部屋に入る。
「あの……あんまり見ないでね? 恥ずかしいから」
そう言われたら仕方ない、じろじろ眺める。やはり名前が示すように犬属性なのだろう、犬のぬいぐるみがベッドに固めて置かれている。あとは普通に本棚に、机に……ん?
「見ないでって言ってるのに……あああああ!」
普段の犬子らしからぬ超スピードで机の元までやってくると、犬子は写真立てを高速で倒した。
「はーはーはー……みっ、見た!?」
「い、いいや」
「そ、そう……よかったあ」
「…………」
ごめんなさい嘘です。見ました。なんか俺に超似てる奴が写ってました。……ていうか、俺だな。なんか体育祭の時っぽいが……隠し撮り?
「あ、あのね! これね、ろ、ロックバンドのボーカルの人の写真なの! ミーハーって思われるの嫌だったから!」
「あ、ああそうか」
そうか、俺は知らない間にロックバンドのボーカルだったのだな。超音痴なのになあ。
「あ、あは、あははははー」
「げぎゃっげぎゃっげぎゃっ」
「符長くんが悪魔系の何かに憑り付かれた!?」
「笑い声です」
「ありえないくらい怖すぎるよ!」
「ごめんね。これあげるから許して」
そう言って、鞄から小さな包みを取り出し、犬子に渡す。
「あっ……これ、プレゼント?」
「ここに来る最中、髭を生やした全身赤い人物に『どうかこれを……奴らの手の届かない場所へ廃棄してくれ』と託された品だ」
「サンタさんかと思いきや、何やらキナ臭い品だよ!」
「ちなみに、赤は衣装の赤ではなく、人間の身体に流れる赤です」
「どこかの危ない組織に狙われてるよその人!?」
「そんな素敵な品を。何がいいのかまったく分からなかったので、俺流です」
「あ、やっぱり符長くんの買ったプレゼントなんだ。えへ、何かな?」
包装を破らないよう注意しながら、犬子は丁寧にプレゼントを開けた。
「あっ、耳あて! うわ、すっごくかわいー♪ あっ、それに手袋と……マフラーも!」
「手作りなら言うことないのであろうが、生憎とそんなスキルは持ち合わせてないので、店を練り歩いて集めた練り品です」
「練り品……」
プレゼントを貰った身でありながら、嫌そうな犬子だった。
「あ、ありがとね、符長くん。私、すっごくすっごく嬉しいよ! ……でも、ちょっと意外だね?」
「む?」
「ほら、符長くんのプレゼントって、何かもっと奇をてらったものっぽいイメージがあるから」
「俺も最初はそう思い、めかぶ等を5kgほど贈ろうかと思ったのだが、面白いばかりで喜ばれないと思ったのでな。それとも今から買ってこようか?」
「超お断るよ!」
NOな感じの手で断られた。
「健康になるのにか?」
「そんなのより、これの方が嬉しいもん。えへへ、ふわふわー♪」
耳あてのウサギ毛が気に入ったのか、犬子は毛をほわほわと触ってはにへにへしていた。
「あ、そだ。……あ、あのね、あのね。符長くんが気に入るかどうか分かんないけど……その、私、一生懸命作ったの。よ、よかったら、貰ってくれ……る?」
「そう言いながら犬子が取り出したのは、先ほど俺が渡したプレゼントだった。いらなかったにしても、もう少し処分の方法があるように思える」
「超違うよっ!? すっごくすっごく嬉しかったのに何言ってるのこの人!? 手作りのマフラーだよ!」
「いや、嬉しさのあまり混乱したフリをしたんだ。ごめんね」
「そ、そっかぁ、混乱したフリならしょうが……フリ!?」
「おお、青いまふりゃー。嬉しいぞ、犬子」
「……あ、あのね、ごめんね。私、不器用だから、なんだかぼろぼろだけど……でもね! 一生懸命編んだの」
改めて受け取ったプレゼントを見る。確かに犬子の言うとおり市販のマフラーと比べ、少々不恰好という印象は否めない。既に所々ほつれてるし。
「まあ、でも、俺は全然気にしないぞ」
早速マフラーを装備してみる。冷気耐性があがった。これでかがやく息も怖くない。
「……や、やっぱなし! もっと上手になってからあげるから、それ返して! 作り直す!」
「断る。この俺様がどうして犬子ごときの言うことを聞かねばならないのか」
「やー! 返してー!」
マフラーの奪おうとする不届きな犬子の顔を片手で押さえる。
「うー! うーうー!」
「はっはっは。他愛無い」
「はぁはぁはぁ……うー」
「うーじゃねえ。諦めろ、このマフラーはこの状態で俺様に使われる運命にあるのだ」
「あぅー……」
ようやっと諦めたのか、犬子は抵抗をやめた。ということなので、犬子の顔から手を離す。
「この冬は、いやこれから冬になれば常にこれを身に着け、犬子の不器用さを世間に知らしめてやる!」
「……遠まわしにずっと使うって言ってるし」
「気のせいさ」
「……符長くんのばか」
少し拗ねたような目つきをしながら、犬子は俺の手をきゅっと握った。
「……そんなかっこ悪いマフラーしてたら、符長くんが馬鹿にされるのに」
「その度に『ああ本当は犬子が馬鹿にされているのになあ』と思いニンマリするから問題ないさ」
「……意地悪のフリ、だね?」
「根っからの意地悪に何を言ってるのか」
「……えへへ。やっぱり符長くんは優しいね」
「人の話を聞いてるのかね、キミは」
犬子のほっぺたを軽く引っ張るが、犬子は笑顔を崩さなかった。くそう。
「そ、それよりだな。そろそろぱーてーを開催しないか?」
「あ、うん! ……あ、あのね、私、ケーキも焼いてみたの」
「つまり、今から俺は炭を食うのか。悪いが胃腸薬も一緒に用意してくれると助かる」
「違うよっ! お菓子作りは上手だもん。これは自信を持って出せるもん。ちょっと待っててね、今から取って来るから」
そう言って、犬子は部屋から出て行った。ほどなくて、大きなホールケーキを持って戻ってきた。
「はい、サンタの手作りケーキだよ。えへ、いっぱい食べてくれると嬉しいな?」
テーブルにケーキを置き、犬子は俺の前に皿を置いた。そして、俺のすぐ隣に腰を下ろした。
「えへへ……お邪魔します♪」
「断る」
「え……あ、ご、ごめんね。私、調子に乗りすぎちゃったね」
「冗談に決まってるだろうが」
立ち上がりかけた犬子の手を取って引き止める。びっくりした。
「……いーの?」
「あーんって食べさせてくれるなら」
「えっ……いいの!? や、やたっ」
「え」
冗談だ、と言う間もなく、犬子はいそいそとケーキを切り分け皿に載せると、その皿を持って俺を見た。
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」
「え、あ、うん」
犬子は真剣な目でケーキにフォークをぶっ刺し、そして、それを俺に向けた。
「あ、あーん!」
「すいません殺さないでください」
「殺さないよ!? 何言ってるのこの人!?」
「いや、あまりの恐怖に。なんか手が震えてるし、これから人を殺すかのように決意に満ちた顔をしていたので、つい」
「きんちょーしてるんだよ!」
「緊張の夏」
「冬だよ! いーから! あーん!」
「食べてもいいけど、そのままフォークを俺の口内に突き立てたりしない?」
「怖いよ! ……あ、あの、ひょっとして、嫌なのかな?」
「冗談は名前だけにしろ。あー」
「符長くんがつけておいてなんて言い草なの!?」
「いーから早く食わせろ。あー」
「あ、う、うん。はい、どうぞ」
口の中にケーキが放り込まれる。
「むしゃむしゃむしゃ」
「ど、どうかな? 私的には上出来なんだけど……」
「もぐもぐもぐ」
「……だ、だめかな? おいしくない?」
「もっちゃもっちゃもっちゃ」
「……あ、あの! おいしくなかったら、ぺって吐いちゃっていいよ? 私、へーきだよ?」
「もぐもぐごくん。おかわり」
「…………」
「犬子?」
「も、もー! おいしーならおいしーって早く言ってよ! ……不安だったじゃない」
「おいしい」
「う、あ、あぅ……」
「言ったら言ったで赤くなるとは。困った犬だ」
湯気が出そうな勢いで赤くなってる犬子の頭を、なんとなくなでる。
「えへへ……あ、あのね。あのねあのね、符長くん。私ね、いま……幸せだよ?」
「犬の本領発揮といったところか。簡単で羨ましい」
「なでられたから幸せだと思われてる!? 違うよ、符長くんと一緒だからだよ!?」
「恥ずかしいことを臆面もなく言われた」
「い……言うよ? だって、今日はクリスマスだもん。そのくらいは神様も多めに見てくれるもん」
そう言って、犬子は何かを期待した目で俺を見た。
「きゅふー」
鼻を摘まんで欲しいのだろうと思ったので、実行したら変な声を出された。
「うー、違うのにぃ……」
「わはは、変な声&顔」
「うー……」
「冗談だ。あー……もし違ったら、あとで謝る」
犬子の鼻から手を離し、今度は犬子をそっと抱きしめる。
「わ、わ!」
「む。違ったか? どうにもこういった機微には疎くて。すまない」
「ち、違ったけど、結果おーらい、かも」
犬子はうっとりした顔で呟いた。空いてる手で頭もなでる。
「は、はぅ……あ、あのね、符長くん。も、もっといっぱいなでなでしてくれる?」
「乳を?」
「頭だよぅ! なんでおっぱいになるの!?」
「気にするな、ただの欲求だ」
「うー……えっちぃ」
「ふふん」
「誇らしげな意味が分からないよぉ。……お、おっぱいは、そ、その、……そのうち」
「可能性があると!? 諦めずに生きてきてよかった!」
「よ、喜びすぎだよ! ……で、でもね、私、そんなおっきくないよ? それでもいい?」
「むしろ! その方が!」
「変態さんだよ!?」
「そんな変態さんのことを好きなのは誰でしょうね」
「し、知らないもん。私は別に符長くんのこと、好きとかじゃないもん」
「抱っこされてる状態で何を言ってるかね、この娘さんは」(なでなで)
「し……知んないもん。知んないけど、もっとなでなで。あ、あとねあとね、ぎゅーって、して? ……いい?」
「俺としても願ってもない望みだ」
「あ……えへ、えへへへへっ♪ ……符長くん?」
「うん?」
「呼んだだけだよっ♪」
もう嬉しくて仕方のない様子の犬子と一緒の聖夜でした。
「えへへ~、クリスマスだね、符長くん」
「つまり、浮かれポンチな台詞を吐く犬を見守る季節がやってきたということだ」
「浮かれポンチ!?」
「おや、犬子。いたことに全く気づかなかった俺に何か用か? あ、何か妖怪。なんちて。うひゃひゃ」
「うー……絶対気づいてたくせに。あと、何か妖怪がちっとも面白くないのに……」
「それはもう、何か用かと言った時点でセットでついてくるから諦めろ」
「うゅー……」
「うゆ? まあいいや。で、何か用か? あ、何か妖」
「妖怪はもういいのっ! ……あ、あのね、もーすぐクリスマスだよね?」
「俺の周辺で突如時空のねじれが起こり、さらにその現象に巻き込まれないのであれば、そうだな」
「ふつーにそうだねって言えばいいのにぃ……」
「任せろ。普通とか超得意」
「…………」
俺が普通とか言うと、決まってみんなジト目で見ます。
「……まあいいよ。あのね、そのね、えっとね?」
「何をもじもじしている。……ああ! 尿なら尿置き場へ」
「違うよっ! デリカシーがなさすぎるよっ! ていうか尿置き場って何!?」
「いわゆる便所」
「いわゆる方で言ってよ!」
「すいません。以後いわゆります」
「日本語がおかしいよぉ……じゃなくて! もーすぐ! クリスマスだよ!」
「はぁ」
「ご予定は!」
「皆無」
「やったあ!」
「チクショウ! 犬子が俺のもてなさを全力で喜ぶ! これはもう冬休み全てをかけて呪いの儀式を行い、犬子にしっぽを生やし名実共に犬にするしか!」
「情熱の方向性がとっても駄目な方向だよ!? それに、私は犬じゃないよ!」
「犬子なんて頓狂な名前のくせに何言ってんだ」
「また!? だから、これは符長くんが勝手につけたあだ名なの!」
変なことを言う犬だなあ。
「うー……また聞いてないフリしてるしぃ……」
「俺の基本スキルだ。とまれ、俺はさる事情により呪術の勉強をしなければならないので、これにて」
「絶対私にしっぽ生やす気だよこの人!? じゃなくて! ……あのね、クリスマス、予定、ないんだよね?」
「チクショウ、繰り返す聞くことにより俺の自尊心をズタズタにする作戦か! シンプルながら確実に俺の心は引き裂かれているぞ!」
「ネガティブすぎるよ! そーじゃなくて、予定ないんだったら私と一緒に過ごさないかって……」
ぴたり、と犬子の動きが止まった。かと思ったら、ゆっくり犬子の顔が赤くなっていくではないか。
「あ、あ、あぅぅ……」
「何を赤くなっている」
「だ、だってだってだって! ……もー! 符長くんのばか!」
「貴様、俺の秘密どこで知った!?」
「もー! もーもーもー!」
牛言語を駆使しながら、犬子は俺の胸をぺこぽこ叩いた。
「いたた、いたいた。やめれ犬子」
「符長くんが一緒にクリスマスしてくれるって言うまで叩くのやめないー!」
「クリスマスは動詞じゃないと思う上、ジョジョの台詞をインスパイアしてることに動揺を隠せないが、全然構わないぞ」
「う……?」
「だから、俺は犬子と一緒にクリスマスを祝う。おーけー?」
「お……おーけーおーけー! 超おーけーだよぅ! ……にひゃ~」
犬子はぺこぽこ暴動をやめると、両手を頬にあててニッコニコに微笑んだ。
「嬉しそうですね!」
「う、嬉しくなんてないもん。演技だもん」
「つ、ツンデレだああああ! 逃げろ!」
「なんで!?」
「……?」
「首を傾げないでよ!」
なわけ(?)で、クリスマス当日。てっきり色々な箇所を徘徊した挙句お城で様々な運動をするのかと思ったら、犬子の家に集合、らしい。
「こんにちは」
玄関を潜ったら、破裂音に出迎えられた。
「めりーくりすまー」
「ぐはあっ! チクショウ、血が止まらねえ! ここまでか!」
「勝手に死にかけてる!? 違うよ、銃じゃなくてクラッカーだよ!?」
サンタ服の犬子がクラッカー片手にあわあわしていた。
「痛みもないしクラッカーが目に留まってたし、おかしいとは思ったんだ」
「はぁ……」
やりきれない感じのため息を吐かれた。
「まーいーよ。……えへへ、めりーくりすますだよ、符長くん」
「ああ、実にメリーだな」
不躾に犬子を眺める。赤と白のいわゆるサンタルックに身を包んだ犬子は、俺の高揚も相まって、とても可愛く見えた。
「あと、何気にミニスカなのが高評価に結びついたのではなかろうか」
「えっ! ……う~、符長くんのえっち」
犬子は恥ずかしそうにスカートの裾を下に引っ張った。
「ごめんなさい。お詫びに目を潰します」
「やりすぎだよっ! なに自分の親指じっと見つめて息を荒げてるのこの人!? やる気充分だよぉ!?」
必死に止められたので、目潰しはやめる。
「やれやれ、犬子のせいで大変なことになるところだった」
「ありえない責任転嫁だよ!」
「ところで、玄関先で小芝居を繰り広げるのもいいが、そろそろ中に入れてもらえないだろうか。寒くて辛いのです」
「あっ……ご、ごめんね。入っていいよ」
「そうもすんなり通されると、何か罠があるんじゃないかと俺の天邪鬼成分が鎌首をもたげる」
「いーから入るの!」
犬子に背を押されながらトントントンと階段を上がり、犬子の部屋に入る。
「あの……あんまり見ないでね? 恥ずかしいから」
そう言われたら仕方ない、じろじろ眺める。やはり名前が示すように犬属性なのだろう、犬のぬいぐるみがベッドに固めて置かれている。あとは普通に本棚に、机に……ん?
「見ないでって言ってるのに……あああああ!」
普段の犬子らしからぬ超スピードで机の元までやってくると、犬子は写真立てを高速で倒した。
「はーはーはー……みっ、見た!?」
「い、いいや」
「そ、そう……よかったあ」
「…………」
ごめんなさい嘘です。見ました。なんか俺に超似てる奴が写ってました。……ていうか、俺だな。なんか体育祭の時っぽいが……隠し撮り?
「あ、あのね! これね、ろ、ロックバンドのボーカルの人の写真なの! ミーハーって思われるの嫌だったから!」
「あ、ああそうか」
そうか、俺は知らない間にロックバンドのボーカルだったのだな。超音痴なのになあ。
「あ、あは、あははははー」
「げぎゃっげぎゃっげぎゃっ」
「符長くんが悪魔系の何かに憑り付かれた!?」
「笑い声です」
「ありえないくらい怖すぎるよ!」
「ごめんね。これあげるから許して」
そう言って、鞄から小さな包みを取り出し、犬子に渡す。
「あっ……これ、プレゼント?」
「ここに来る最中、髭を生やした全身赤い人物に『どうかこれを……奴らの手の届かない場所へ廃棄してくれ』と託された品だ」
「サンタさんかと思いきや、何やらキナ臭い品だよ!」
「ちなみに、赤は衣装の赤ではなく、人間の身体に流れる赤です」
「どこかの危ない組織に狙われてるよその人!?」
「そんな素敵な品を。何がいいのかまったく分からなかったので、俺流です」
「あ、やっぱり符長くんの買ったプレゼントなんだ。えへ、何かな?」
包装を破らないよう注意しながら、犬子は丁寧にプレゼントを開けた。
「あっ、耳あて! うわ、すっごくかわいー♪ あっ、それに手袋と……マフラーも!」
「手作りなら言うことないのであろうが、生憎とそんなスキルは持ち合わせてないので、店を練り歩いて集めた練り品です」
「練り品……」
プレゼントを貰った身でありながら、嫌そうな犬子だった。
「あ、ありがとね、符長くん。私、すっごくすっごく嬉しいよ! ……でも、ちょっと意外だね?」
「む?」
「ほら、符長くんのプレゼントって、何かもっと奇をてらったものっぽいイメージがあるから」
「俺も最初はそう思い、めかぶ等を5kgほど贈ろうかと思ったのだが、面白いばかりで喜ばれないと思ったのでな。それとも今から買ってこようか?」
「超お断るよ!」
NOな感じの手で断られた。
「健康になるのにか?」
「そんなのより、これの方が嬉しいもん。えへへ、ふわふわー♪」
耳あてのウサギ毛が気に入ったのか、犬子は毛をほわほわと触ってはにへにへしていた。
「あ、そだ。……あ、あのね、あのね。符長くんが気に入るかどうか分かんないけど……その、私、一生懸命作ったの。よ、よかったら、貰ってくれ……る?」
「そう言いながら犬子が取り出したのは、先ほど俺が渡したプレゼントだった。いらなかったにしても、もう少し処分の方法があるように思える」
「超違うよっ!? すっごくすっごく嬉しかったのに何言ってるのこの人!? 手作りのマフラーだよ!」
「いや、嬉しさのあまり混乱したフリをしたんだ。ごめんね」
「そ、そっかぁ、混乱したフリならしょうが……フリ!?」
「おお、青いまふりゃー。嬉しいぞ、犬子」
「……あ、あのね、ごめんね。私、不器用だから、なんだかぼろぼろだけど……でもね! 一生懸命編んだの」
改めて受け取ったプレゼントを見る。確かに犬子の言うとおり市販のマフラーと比べ、少々不恰好という印象は否めない。既に所々ほつれてるし。
「まあ、でも、俺は全然気にしないぞ」
早速マフラーを装備してみる。冷気耐性があがった。これでかがやく息も怖くない。
「……や、やっぱなし! もっと上手になってからあげるから、それ返して! 作り直す!」
「断る。この俺様がどうして犬子ごときの言うことを聞かねばならないのか」
「やー! 返してー!」
マフラーの奪おうとする不届きな犬子の顔を片手で押さえる。
「うー! うーうー!」
「はっはっは。他愛無い」
「はぁはぁはぁ……うー」
「うーじゃねえ。諦めろ、このマフラーはこの状態で俺様に使われる運命にあるのだ」
「あぅー……」
ようやっと諦めたのか、犬子は抵抗をやめた。ということなので、犬子の顔から手を離す。
「この冬は、いやこれから冬になれば常にこれを身に着け、犬子の不器用さを世間に知らしめてやる!」
「……遠まわしにずっと使うって言ってるし」
「気のせいさ」
「……符長くんのばか」
少し拗ねたような目つきをしながら、犬子は俺の手をきゅっと握った。
「……そんなかっこ悪いマフラーしてたら、符長くんが馬鹿にされるのに」
「その度に『ああ本当は犬子が馬鹿にされているのになあ』と思いニンマリするから問題ないさ」
「……意地悪のフリ、だね?」
「根っからの意地悪に何を言ってるのか」
「……えへへ。やっぱり符長くんは優しいね」
「人の話を聞いてるのかね、キミは」
犬子のほっぺたを軽く引っ張るが、犬子は笑顔を崩さなかった。くそう。
「そ、それよりだな。そろそろぱーてーを開催しないか?」
「あ、うん! ……あ、あのね、私、ケーキも焼いてみたの」
「つまり、今から俺は炭を食うのか。悪いが胃腸薬も一緒に用意してくれると助かる」
「違うよっ! お菓子作りは上手だもん。これは自信を持って出せるもん。ちょっと待っててね、今から取って来るから」
そう言って、犬子は部屋から出て行った。ほどなくて、大きなホールケーキを持って戻ってきた。
「はい、サンタの手作りケーキだよ。えへ、いっぱい食べてくれると嬉しいな?」
テーブルにケーキを置き、犬子は俺の前に皿を置いた。そして、俺のすぐ隣に腰を下ろした。
「えへへ……お邪魔します♪」
「断る」
「え……あ、ご、ごめんね。私、調子に乗りすぎちゃったね」
「冗談に決まってるだろうが」
立ち上がりかけた犬子の手を取って引き止める。びっくりした。
「……いーの?」
「あーんって食べさせてくれるなら」
「えっ……いいの!? や、やたっ」
「え」
冗談だ、と言う間もなく、犬子はいそいそとケーキを切り分け皿に載せると、その皿を持って俺を見た。
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」
「え、あ、うん」
犬子は真剣な目でケーキにフォークをぶっ刺し、そして、それを俺に向けた。
「あ、あーん!」
「すいません殺さないでください」
「殺さないよ!? 何言ってるのこの人!?」
「いや、あまりの恐怖に。なんか手が震えてるし、これから人を殺すかのように決意に満ちた顔をしていたので、つい」
「きんちょーしてるんだよ!」
「緊張の夏」
「冬だよ! いーから! あーん!」
「食べてもいいけど、そのままフォークを俺の口内に突き立てたりしない?」
「怖いよ! ……あ、あの、ひょっとして、嫌なのかな?」
「冗談は名前だけにしろ。あー」
「符長くんがつけておいてなんて言い草なの!?」
「いーから早く食わせろ。あー」
「あ、う、うん。はい、どうぞ」
口の中にケーキが放り込まれる。
「むしゃむしゃむしゃ」
「ど、どうかな? 私的には上出来なんだけど……」
「もぐもぐもぐ」
「……だ、だめかな? おいしくない?」
「もっちゃもっちゃもっちゃ」
「……あ、あの! おいしくなかったら、ぺって吐いちゃっていいよ? 私、へーきだよ?」
「もぐもぐごくん。おかわり」
「…………」
「犬子?」
「も、もー! おいしーならおいしーって早く言ってよ! ……不安だったじゃない」
「おいしい」
「う、あ、あぅ……」
「言ったら言ったで赤くなるとは。困った犬だ」
湯気が出そうな勢いで赤くなってる犬子の頭を、なんとなくなでる。
「えへへ……あ、あのね。あのねあのね、符長くん。私ね、いま……幸せだよ?」
「犬の本領発揮といったところか。簡単で羨ましい」
「なでられたから幸せだと思われてる!? 違うよ、符長くんと一緒だからだよ!?」
「恥ずかしいことを臆面もなく言われた」
「い……言うよ? だって、今日はクリスマスだもん。そのくらいは神様も多めに見てくれるもん」
そう言って、犬子は何かを期待した目で俺を見た。
「きゅふー」
鼻を摘まんで欲しいのだろうと思ったので、実行したら変な声を出された。
「うー、違うのにぃ……」
「わはは、変な声&顔」
「うー……」
「冗談だ。あー……もし違ったら、あとで謝る」
犬子の鼻から手を離し、今度は犬子をそっと抱きしめる。
「わ、わ!」
「む。違ったか? どうにもこういった機微には疎くて。すまない」
「ち、違ったけど、結果おーらい、かも」
犬子はうっとりした顔で呟いた。空いてる手で頭もなでる。
「は、はぅ……あ、あのね、符長くん。も、もっといっぱいなでなでしてくれる?」
「乳を?」
「頭だよぅ! なんでおっぱいになるの!?」
「気にするな、ただの欲求だ」
「うー……えっちぃ」
「ふふん」
「誇らしげな意味が分からないよぉ。……お、おっぱいは、そ、その、……そのうち」
「可能性があると!? 諦めずに生きてきてよかった!」
「よ、喜びすぎだよ! ……で、でもね、私、そんなおっきくないよ? それでもいい?」
「むしろ! その方が!」
「変態さんだよ!?」
「そんな変態さんのことを好きなのは誰でしょうね」
「し、知らないもん。私は別に符長くんのこと、好きとかじゃないもん」
「抱っこされてる状態で何を言ってるかね、この娘さんは」(なでなで)
「し……知んないもん。知んないけど、もっとなでなで。あ、あとねあとね、ぎゅーって、して? ……いい?」
「俺としても願ってもない望みだ」
「あ……えへ、えへへへへっ♪ ……符長くん?」
「うん?」
「呼んだだけだよっ♪」
もう嬉しくて仕方のない様子の犬子と一緒の聖夜でした。
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無題
犬子が可愛いすぎて俺がヤバイ
無題
久しぶりに読みましたが、大好き...って気持ちがいっぱいに溢れててすごくあったかい気持ちになれますね ありがとうございました、少しうるっと来ましたよ
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