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2025年04月21日
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【頭が痛いボクっ娘】

2010年02月26日
 いつものようにボクっ娘をいじめようと梓の席へ行くと、なんだか顔色が悪い。
「梓、どした? なんか調子が悪そうだぞ?」
「ん……? うん、なんだか頭が痛くて……」
 いつもの無駄な元気もなりを潜め、梓は辛そうに額を押さえていた。
「何やってんだよ」
「う~……ボクが悪いんじゃないもん」
「そうじゃなくて」
 俺は無理やり梓を立たせた。
「ひゃっ!? た、タカシ?」
「調子悪いんだったら無理して授業なんか受けんな。ほれ、保健室行くぞ」
 梓に肩を貸し、ざわつく教室を出る。
「……タカシ、なんか優しい」
「俺はいつだって優しいさ」
「……嘘。いっつもボクのこといじめてるくせに」
「いーから病人は黙ってろ。ほれ、保健室着いたぞ」
 中に入る。運が悪いことに、養護教諭は席を外しているようだ。
 梓をベッドにそっと寝かせ、戸棚を漁り頭痛薬を探す。
「ねぇなぁ……クソッ」
「あ、あのねタカシ、ボク薬飲まなくても大丈夫だよ。寝てたらすぐ治るから」
「……そうか?」
 ベッドの側の椅子に座り、梓を見る。教室で見たときより多少顔色はよくなっているように見えた。
「ごめんな、役立たずで」
「あははっ、気にしないでよ。……タカシ、もういいよ。授業出ないと」
「たまにゃサボるのも良いさ」
「あははっ、そういうのは普段真面目に授業に出てる人のセリフだよ」
「うっせ」
 軽く梓のほっぺを引っ張る。
「う~、やっぱタカシはいじわるだ……」
「ほら、もう寝ろ。起きてちゃ治るもんも治らねえよ」
「ん……ねぇ、タカシ」
「ん?」
「その……ね? その……寝るまででいいから、……手、握っててくれる?」
 顔を半分布団で隠し、恥ずかしそうに梓は言った。
「今日は随分と甘えん坊だな」
 梓の頭を優しくなでる。梓は気持ちよさそうな、恥ずかしそうな微妙な表情を見せた。
「……だ、だって、病気の時って不安になるし……今日はタカシ優しいし、してくれるかな、って……」
「……今日だけだぞ?」
 そっと梓の手を握る。彼女の手は小さく、そして柔らかかった。
「……えへへへっ♪ タカシの手、あったかーい」
「ほら、寝るまでいてやるからもう寝ろ」
 梓の幸せそうな顔を見るのが照れくさくて、そっぽを向きながら言った。
「うん。お休み、タカシ」
「お休み、梓。いい夢を」
 空いた手で梓の頭をなでると、梓は安心したように目をつむった。
 程なくして、小さな寝息が聞こえてきたのを確認し席を立つ。
 しかし、手はしっかりと握られたままだった。手を外そうとしても、がっちり梓の指が俺の指をホールドしていて外れそうにない。
「……まぁいっか」
 再び椅子に座り、俺はくぅくぅと寝息を立てる梓の顔を見ていた。

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【コンビニでおにぎりの具がどれが一番かでけんかする男とボクっ娘】

2010年02月26日
 ボクっ娘と一緒にコンビニへ飯を買いに来た。協議の結果、おにぎりを買うことになった。
「ねーねータカシ、何のおにぎりにする?」
「クリームパン」
「おにぎりって言ってるだろ! 人の話聞きなよ!」
「じゃあアンパンでいい」
「そうじゃなくて! ボクの話聞いてないでしょ!?」
「聞いてるが、聞き流してる」
「余計タチ悪いよぉ!」
「んで、おまえ何にする? シャケなんてどうだ? 俺結構好きなんだ」
「……はぁ、もういいよ。ボクは……えっと、ツナマヨにしよっかな」
「ボクっ娘の主食はツナマヨとか言う得体の知れない物、と……」
「何メモってんだよ! ボクっ娘じゃなくて梓! 別に主食じゃないよ! 得体知れてるし!」
 いっぱいつっこまれた。あと、最後の言葉日本語が変。
「じゃあ間を取ってシャケ買え、シャケ。うまいぞ」
「どこの間を取ったらそうなるんだよぉ! シャケなんてまずいの、買ってもボク食べないよ!」
「何っ、貴様シャケの美味さを知らんのか!? 嘆かわしい、ああ嘆かわしい! おっぱい揉んでやれ」
「揉むなっ! 何考えてんだよばかっ!」
 薄い乳を揉むと怒られた。どさくさに紛れて揉んだのに、なんでばれたんだろう。
「うー……タカシはすぐボクのおっぱい触るからキライ」
「ごめんなさい」
 とりあえず涙目の梓に謝っておく。
「……もうこんなことしない?」
「ああ、次は感じさせるよう努力する」
「そういう意味で怒ったんじゃないよ!」
 女心は難しかった。
「……はぁ。ホント、タカシって馬鹿だよね。シャケが美味しいとか言ってるし。ツナマヨが美味しさを知らないなんて、人生の半分は損してるよ!」
「ほう、ということは全人類は人生を半分損しているんだな」
「なんでだよっ! みんなツナマヨ大好きだから、損してるのはタカシだけだよ!」
「なら今までの損を取り返すため、梓のツナマヨくれ」
「嫌だよ! 自分で買いなよ」
「ちょっとでいいから。なんなら口移しでもいいぞ」
「な、なんでタカシなんかとキスしなきゃならないんだよ!」
「ちょっとした気遣い。梓も新品のおにぎりやるの嫌だろ?」
「そんな気遣い要らないよ! のーさんきゅーだよ! もうっ、タカシは好きにしたらいいよ」
 梓が勝手にツナマヨを抱えてレジへ行くので、すかさず後ろに張り付いてついていく。
「これくださーい」
 梓は店員のお姉さんに能天気な声で清算を頼んだ。
「二人で手と手を取り合い、さらには口移しまで行うというバカップルも裸足で逃げ出す彼氏彼女遁走作戦で食うので箸はひとつでいいです」
「しないよっ! 後ろから変なこと言うな、ばかっ!」
 店員のお姉さんは引きつった笑顔を見せた。
「もー、ホントのホントにタカシは馬鹿なんだね。ボク、恥ずかしかったよ」
 コンビニから出ると、梓はため息混じりに俺を非難した。
「俺は梓と一緒なら、誰に何を言われても平気だぞ」
「ボクはタカシのせいで恥ずかしいって言ってるんだよ!」
 叫びすぎのせいか、梓は顔を真っ赤にして叫んだ。
「まぁ気にするな。……あ」
「どしたの?」
「自分の分のメシ買うの忘れてた」
「ボクをいじめてるからだよ。罰だよ、罰。やっぱり神様は見てるんだね♪」
「くっ、無神論者の俺を前に神の名を呼ぶとはいい度胸だ。こうなったら梓のツナマヨを奪取する他方法はないな」
「なんでだよっ! あげないよ!」
「じゃあやっぱり先ほど言ったように口移しで」
「余計ダメだよっ! ……はぁ、もういいよ。ボクのおにぎり半分あげるよ」
「おっ、さすがは梓。なんだかんだ言って優しいな」(なでなで)
「わっ、な、なでないでよ。すぐボクのこと子供扱いするんだから……」
 満更でもない表情で、梓は困ったようにはにかんだ。

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【両手の使えない男に弁当をあーんで食べさせてあげるツンデレ】

2010年02月24日
 さる事故で両手を怪我してしまい、色々と不便な毎日です。
「だから猿事故ではないと言っているだろう、このボクっ娘が!」
「まったくの意味不明だよっ!? なんでボク怒られてるんだよ! ていうかボクっ娘言うなっ!」
 なんとなくボクっ娘を怒鳴ったら逆に怒られた。
「まったく……あんまりボクを怒らせない方がいいよ? ほら、タカシ今ノート取れないでしょ。どーせあとでノート貸してもらうつもりなんだろ? ボクを怒らせたら、貸してあげないんだからね」
「ボクっ娘のノートは落書きまみれだから、借りてもなぁ……」
「落書きなんてしてないよっ!」
「あれ、そだっけ? 前に教科書借りた時、全ての人物画に髭が書き加えられていたような気がしたが……」
「それタカシが書いたんだよ! 人の教科書に落書きするなんてサイテーだよ!」
「今は申し訳ない気持ちで一杯かも」
「“かも”って言った! 絶対申し訳ないなんて思ってないよこの人!?」
「お腹が空いたとは思ってる」
「そんなの知んないよっ! ……とにかくさ、今はボクのほうが立場は上なんだから、タカシは奴隷みたいな気分でいた方がいいよ」
「よし分かった。どこを舐めればいい?」
「なんの奴隷だよっ! どこも舐めなくていいっ! 靴を脱がすなっ!」
 口で必死に脱がそうとしたら、べけんべけん蹴られた。
「足でも舐めようかと思ったのに……俺の奴隷根性は伝わらなかったようだ」
「どーせタカシのことだから、ボクの足舐めたいだけなんだろっ!」
「足だけでなく、全身あますところなく舐めたいです」
「そっ、そんなこと思うな、ばかばか、変態っ!」
 正直に言ったのに叱られた。
「そんな話はどうでもいい。今は昼休みなので、飯を食いたいが生憎手がコレなので食えないのです」
 包帯でグルグル巻きの両手をバルタン星人のようにあげると、梓はため息をついた。
「で、ボクにどうしろって言うんだよ。……まさか、食べさせてくれなんて言うんじゃないだろうね?」
「食べさせて」
「嫌だよっ! なんでボクが食べささなきゃいけないんだよ! そ、そんなの、恋人みたいじゃんか!」
「しかし、食わせてもらわなければ、俺にはどうしようもない」
「う、う~……」
 梓は悩んでいるようだ。よし、もう一押し!
「今なら口移しで食べさせてもいいから」
「余計嫌だよっ! なんでボクがサービスしなきゃいけないんだよっ!」
 俺の案はお気に召さなかったようだ。
「もー、分かったよ。これ以上長引かせたらまた変な事言うだろうし、食べさせてあげるよ」
「ありがとな、梓。梓はいい奴だな。いい奴は早死にするって言うよな。梓は早く死ぬのか。俺、梓の分まで生きるよ」
「なんでそんな結論に落ち着くんだよ! なんで普通に“ありがとう”とだけ言えないかな……」
 梓はぶちぶち言いながら俺の鞄から弁当箱を取り出し、フタを開けた。
「ほら、口開けて」
「なんだか恋人同士みたいで照れるな」
「気にしないようにしてるんだからイチイチ言うなっ! ほら、あーん!」
 梓は真っ赤な顔をしたまま箸でおかずを掴み、俺の口に入れた。
「むぐむぐ」
「……どう? おいしい?」
「おいしい」
 のはいいが、周囲から殺気に満ちた視線が俺に突き刺さっているような。それ以上に、昼休みの喧騒の間を縫って「別府殺す」とか「無事に帰れると思えるなよ」という剣呑な声が聞こえてしまい怖すぎる。何気に人気あるんだな、梓って。
「こうやって見てる分には、何も考えてないアホの子みたいなのになあ」
「侮辱された!?」
 知らない間に心の声が通常の声にシフトしていた。
「あー、ごめんごめん。酷いことは心に留めておくから、食べさせて」
「留めんなっ! なんだよ、こーんな甲斐甲斐しくタカシを手伝ってあげてるボクに不満でもあるのかよ!」
「……ないな。そこそこ可愛いし、何気に優しいし、貧乳だし」
「な、なんで貧乳を褒め言葉として使ってるんだよ! タカシってば根っからの変態だね、ホント」
 俺を軽く叩きながら、梓は嬉しそうに笑っていた。
「いーから次」
「わ、分かったよ。はい、あーん」
「あー」
 次のおかずが投入される。
「もしゃもしゃ」
「おいしい?」
「おいしい」
「あはっ、タカシそればっか」
「おまいが毎回おいしいかどうか聞くからだ」
「だ、だって、タカシって基本的に無表情だから、おいしいかどうか分かんないもん……」
 少し困ったような顔をして、梓は口を尖らせた。
「梓が手ずから食べさせてくれたら、まずいものでも美味しくなるに決まってるだろ」
「う……た、タカシはそういうこと、さらっと言うよね。勘違いする子もいるかもしんないから、あんまり言わない方がいいよ?」
「勘違い? 何の?」
「……な、なんでもないっ! ほら、あーん」
 誤魔化すように梓は次のおかずを俺の口に入れた。
「まぐまぐ」
「どう? おいしい?」
「まずい」
「舌の根も乾かないうちからまずいって言ったよこの人!?」
「大根葉の炒め物は苦いからあんまり好きじゃないんだ」
 なんでこんな渋いもの作るかなあ、母さん。
「ボクが食べさせたら何でもおいしくなるんじゃないのかよっ!」
「梓が口移しで食べさせてくれたら、まずいものでも美味しくなるやも」
「するわけないだろっ! そんなの恋人同士でもやんないよっ!」
「じゃあ口の中のご飯を移さなくていいから、口と口だけ合わそう。特別に舌を絡ませる事を許可する」
「それただのキスじゃん! まったく意味ないよ!」
「やれやれ、梓はわがままだなあ……これだからボクっ娘呼ばわりされるんだぞ?」
「いやいやいや! ちっともわがままじゃないし、ボクのことボクっ娘なんて呼んでるのタカシだけなんだからね!」
「じゃあ次からは先生のこともボクっ娘と呼ぶ」
「そういうことじゃないっ! そもそも先生は自分のことボクって言わない!」
「はい? 呼びましたか?」
 近くで女生徒たちと飯を食ってた大谷先生がひょっこり顔を出した。
「呼んでませんっ!」
「ひぃぃっ、梓ちゃんが怒りました、先生なのに怒られました! 先生、先生としての威厳ぜろですか!?」
「よしよし。梓、子供を怒鳴るな」
「子供じゃありません! 大人ですっ! ちょっと小さいだけです! 大人の許容範囲内ですっ!」
 ここの生徒たちより小さい大谷先生が怒った。
「いーから先生は黙っててください!」
「はうっ! ……わ、分かりました。先生は戻ります。べ、別に梓ちゃんが怖いから戻るんじゃないですからねっ!」
 半泣きで先生は戻っていった。戻った先で生徒達に慰められているのが見えた。本当に先生か、あの人。
「あんな小さな子をいじめて、大人気ないとは思わないかね」
「う、うるさいなあ……後で謝っておくよ」
 自分でも悪いと思ったのか、梓はちょっとバツが悪そうにぼそぼそ言った。
「ま、いいや。次の飯をくれ」
「あ、うん。はい、あーん」
 大きく口を開けていると、女生徒が梓に声をかけた。二言三言言葉を交わすと、梓は何かに気づいたように大きな声をあげた。
「あっ! ……ごめんタカシ、ボク用事があったんだ。すぐ終わるから、ちょっとだけ待っててくれる?」
「おっけー」
 ごめんねと言い残し、梓は女生徒と一緒に教室を出ていった。
 ……さて暇だ。手は使えないから飯は食えないし、どうしようかなと思ってたら、近くで飯を食ってた女生徒の集団がやってきた。
「あの、別府くん……」
「一発芸、バルタン星人のマネ。ふぉっふぉっふぉ」
 苦笑された。俺の芸もまだまだのようだ。
「そうじゃなくて、あの、私たちが食べさせてもいい?」
「……どゆこと?」
 話を聞くと、さっきから梓が俺に飯を食べさせているのを見て、自分たちもやりたくなったらしい。
「女の子ってのは、誰かに飯を食べさせたがる願望があるんだな」
「そ、そういうわけじゃなくて……」
 いまいち要領を得ないが、俺としては飯を食えるのなら問題なし。
「じゃ、別府くん、口開けて。はい、あーん」
「あー」
 ポニーテールの女子が俺にご飯を食べさせる。
「おいしい?」
「むぐむぐ、おいしい」
「あはっ、よかった」
 嬉しそうにはにかむポニーの子。
「つぎ私私! はい別府くん、あーん!」
「あー」
 続いてショートカットの元気っ子が俺の口に飯を。
「どう? どう? おいしい? おいしいっしょ?」
「むぐむぐ、おいしい」
「にひー☆ 私が食べさせたんだから当然っしょ!」
 そう言って、お日さまのような笑顔をみせる元気っ子。
「……あ、あの、次は私です。……あ、あの、あーん、してください」
「あー」
 後ろに控えていた大人しそうな子が、恥ずかしそうに頬を染めて俺の口に飯を投入する。
「……ど、どうですか?」
「むぐむぐ、おいしい」
 俺の言葉に、ほっとしたように胸を撫で下ろす大人しそうっ子。
「次は私ですよー」
「……なんで先生までいるんですか」
 当然のように俺の前にいる大谷先生に問いかける。
「べ、別に先生もやりたいんじゃないですよ? 何事も経験だと思うんです! やってもいいですよね? ね?」
「口移しなら」
「思わぬところでファーストキスをする羽目になりましたよ!? こ、困りました! 先生の魅惑のぼでーが生徒を骨抜きにしてしまったようです!」
「色々思ったけど、先生、まだファーストキスしてなかったんですか」
「はううっ! ど、どうして先生の最重要機密を知ってるんですか!?」
「ダメだ、こいつ馬鹿だ」
「せっ、先生を馬鹿にするなんてダメな生徒です! 罰としてあーんしなさい! あーん!」
 罰じゃないと思うが、口答えしても色々面倒なので口を開ける。先生はおかずを掴み、俺に食べさせた。
「どうです? おいしいですか?」
「もぐもぐ、おいしい」
「うふふ……なんだかいいですね、これ。先生、気に入りました。別府くん、先生のペットになりませんか?」
「教師が生徒を肉奴隷にしようとする」
「ちっ、違います違います! 肉奴隷じゃありません! ……肉奴隷ってなんですか?」
「この場合は、先生が俺の肉体を好きな時に使える事を指します」
「へー、お買い物の時とか便利ですね。先生、高い所にある物を取るの苦手なんですよ」
 先生はちょっと勘違いしているようだ。面白いので訂正しない。
 ……のはいいが、さっきから「完全犯罪って、どうやんのかな」とか「俺にも主人公補正がかかっていれば……」とか聞こえてきて嫌になる。あと、後者の意味が分からない。
「別府くん? どうかしましたか?」
「あ、いや、なんでもない」
 意識を前に戻す。まあいいや、今はこの状況を楽しもう。とか思ってたら。
「あーッ!!!」
 超やかましい声が教室に響いた。
「待ってろって言っただろ! なんで他の子まで巻き込んでんだよ!」
 戻ってきた梓がずかずかやってきて俺を怒る。超怖い。
「や、その、違くて、この子らが自分から言ってきまして、その」
「タカシみたいなダメな奴に、そんなのしたがる女の子がいるわけないだろっ!」
 断言された。超泣きそう。
「あ、あの、お邪魔みたいだから先生たち戻りますね」
 先生たちはそそくさと元の席に戻ってしまった。せめて言い訳のひとつでも言ってから戻って欲しかった。
「さて、この機嫌が悪くなった生物をどうしたものか……」
「生物って言うなっ! 誰のせいで機嫌悪くなってると思ってるんだよっ! 待ってろって言っただろ! デレーってしてさ……馬鹿みたい!」
「や、確かに待ってろとは言われたけど、おまいは俺に食べさせるの嫌だったんだろ? 食べさす手間が省けたんだから、喜びこそすれ怒る必要ないんじゃないか?」
「う、そ、それは……」
「それに、デレーっとするのは男である以上仕方がない。可愛い子にあーんされるのは嬉しいからな」
「……なんだよ、ボク以外にされても嬉しいのかよ」(ぼそり)
「ん? すまない、よく聞こえなかったので大きな声でもう一度さんはい」
「なっ、なんでもないっ!」
「……ま、いいや。とにかく、ご飯の続きをください」
「やんないよっ! さっきの子たちに食べさせてもらったらいいだろっ!」
 困ったことに、梓はこれ以上俺にあーんをしたくないらしい。どうしようと思ってたら、先生が恐る恐る近づいてきた。
「あ、あの、先生がやりましょうか?」
「え、いいの?」
「そ、その、梓ちゃんさえよければ」
 先生は様子を窺うように梓を見た。
「……別に。タカシは女の子だったら誰でもいいみたいだし」
 随分とトゲのある言いようだったが、事実なので言い返せない。
「じゃ、じゃあ……はい、あーんしてください」
「あー」
 ぱく、もぐもぐ。
「どうですか?」
「おいしい」
「あはっ、そうです……ぴゃあ!」
 先生がふと視線を梓に向けた瞬間、奇声をあげた。
「どした、先生?」
「あ、梓ちゃんがすっごく怖い顔で先生を睨みます! 怖いです! ちょっと先生泣きそうです!」
 梓を見るが、別に普通の顔だ。
「普通だぞ。偶然梓の前に怒った幽霊が通っただけだろ」
「そっちの方が怖いです! ていうか幽霊なんていません! 気のせいです! 別に怖いからいないと思い込んでるわけじゃないです!」
 イチイチ愉快な先生だった。
「とにかく、次のご飯をくれ」
「わ、分かりました。あーんしてく……ぴゃあっ!?」
 先生がまた奇声をあげた。
「は、はうう……ごめんなさい別府くん。さる事情により、先生はもう無理ですぅ……」
 先生は半泣きで箸を置き、ふらふらした足取りで戻っていった。戻った先でまたしても女生徒たちに慰められていた。
「……なんかしたか?」
「な、なんの話カナ?」
 梓はそしらぬ顔で吹けもしない口笛を吹いた。
「はぁ……。ま、いい……いやいや、よくない! 俺、飯食えないじゃん!」
「半分食べたんだから、もういいじゃん」
 俺の弁当箱にはすでに半分空きができていた。だが、全部食べないことには満足いかない。
「頼む、梓。食べさせてくれ」
「つーん。嫌だよ」
「ぬぅ……しょうがない、奥の手だ」
「え、どうするの?」
 不思議そうな梓の前で、上体を机に這わせるように近づける。そして。
「……犬食いじゃん! 汚いなあ!」
「むぐむぐ……これしか食う方法がない」
「もー、そんなのすんなよ! ……しょ、しょうがないからボクが食べさせてやるよ!」
「いいのか? なんか怒ってたのに」
「そんな汚い事されるよりマシだよ! ほら、あーん」
「あー」
 ぱく、もぐもぐ。
「どう?」
「おいしい」
「……タカシって、平和な顔してるよね。なんか、怒ってるのが馬鹿らしくなってくるよ」
「そりゃなによりだ」
「……そもそも、タカシが他の子にちょっかい出さなきゃ済む話だったんだよな」
 梓は箸で俺の頬をぷにぷにした。向こうから来たんだけど、言ったところで信じないしなあ、このボクっ娘は。
「聞いてるのかよ? まったく、このダメ男め」
 ま、楽しそうに笑ってるし、いっか。

拍手[12回]

【「ヘブンズドアー! 『ツンできない』ッ!」】

2010年02月22日
 矢に貫かれ、スタンド能力を身につけた。よし、好都合なことに遊びに来ているボクっ娘で試してみよう。
「ヘブンズドアー! 『ツンできない』ッ!」
 ボクっ娘の顔がまるで本のようにめくれる。そこに『ツンできない』と書き込み、スタンド解除。さてどうなる?
「う、ううん……タカシ、ボクに何かした?」
 梓は頭を振って俺に尋ねた。自分に何が起こったか理解していないようだ。
「何もしてないよ?」
「……そう? それならいいんだけど」
 さて、見た目上は何ら変わっていないようだが、はたして俺のスタンドは機能しているのだろうか。実践だ。
「ところで。梓、ちゅきちゅきー」
 我ながらとても気持ち悪いが、これくらいやった方が分かりやすいだろう。いつもの梓なら「タカシが狂った! ……いや、いつも通りカナ?」とか言うに違いないが、さて。
「な、なんだよ、いきなり。恥ずかしい奴だなあ」
 む、ちょっと反応が違うが概ねいつも通りか。失敗か。
「……まあ、ボクもちゅきちゅきだけどね」
 梓はぼそっと付け足した。成功だ。さて、こうなったらエロいことしたいよね。例えば、ふ、ふ、風呂に一緒に入るとか! で、洗いっことか! 手が滑らせもにゅもにゅやーんえっちとか! とか!
 ほとばしる妄想に鼻息を荒くしてると、梓が俺をくいくい引っ張った。
「ね、ねぇ……本当にボクに何もしてない?」
「してないっての」
「うー……でも、でもね、なんか知んないけどね、タカシがすっごい好きなんだよ。好きすぎて、むきゅーって感じなんだよ。なんかしたでしょ?」
 なんだ、むきゅーって。つーかなんでそんな恥ずかしい事を真顔で言いますか。こっちが恥ずかしいジャマイカ。
「し、してない」
「ホントにぃ……? うー、なんだろ、うー……やっ!」
 気合を込めて梓が俺の背中に抱きついてきた。
「なんですか」
「なんか知んないけど、すっごくタカシに抱きつきたいんだよ! したでしょ、なんか!」
「だから、してないっての」
 『ツンできぬ』とは書いたが、『抱きつけ』とは書いてない。
「くんくんくん」
「匂うな。犬か」
「ぬー……落ち着くよっ!」
「なんで怒ってんだよ」
「タカシなんかに抱きついて落ち着く自分が不甲斐ないよっ! もっと気骨あったよ、ボク!」
「不甲斐ないって……俺が好きなのか嫌いなのか、どっちやねん」
「ちょー好きだよっ! それはそれとして、ボクってこんなふにゃふにゃじゃなかったような気がすんだよ!」
「じゃあ離れれ」
「超お断りだよっ! なんだか一時でも離れたくない気分だよ! むぎゅーだよ!」
 むぎゅーと言いながら梓がむぎゅーと抱きしめてくるのでむぎゅー(困惑)。
「あぎあぎあぎ」
「いていて、頭かじるねい」
「うー……幸せだよっ!」
「だから、なんで怒ってんだよ」
「怒ってないよ! 感情を持て余してんだよ!」
「性欲を持て余す?」
「惜しい! ちょっと違う! それMGS!」
 なぜか詳しかった。
「性欲はともかく、ちゅーはしたいよ! いい?」
「あははははは。梓は冗談が上手だなあ」
 こんな状態の梓とそれは、流石にダメだ。どうにか背中から引き剥がし、『ツンできない』を訂正せねば……!
「ね、何にもしないからさ、ちょっとこっち向いて」
「任せろ」(反対方向を向きながら)
「…………」(無言で反対方向に顔を移動)
「…………」(その反対に)
「こっち向け! ちゅーできないだろっ!」
「あっ! 梓、見ろ! 空から金星人が!」
「嘘が下手すぎだよ! 小学生でも騙されないよ!」
「いやいや、空は空でも蒼井そらのことだから」
「……怖いよ!」
 蒼井そらが開いて中から金星人が出てくる様でも想像したのか、梓は一瞬固まった。その一瞬を逃さず、梓から離れる。
「あっ! ず、ずるい!」
「ヘブンズドアー! 『ツンできない』を解除ッ!」
 再び梓の顔が本のようになり、そこに書かれた『ツンできない』を消す。
「…………」
 どうだ? 戻ったか?
「……あ、あううううーっ!」
 梓は真っ赤になって俺を叩いた。
「やあ、戻ったようですね」
「な、な、なんてことさせるんだよっ、ばかっ!」
「しかも、全部覚えているようで何よりです」
「ちっとも何よりじゃないっ! アレだろ、ボクに惚れ薬的な何かを盛ったろっ! じゃなきゃ説明できないよっ!」
 どうしよう。「スタンドでツンを取り除いただけです。いやはや、ものすっごいことになりましたね」とか言ったら怒るよな。よし、ここは大人な対応で。
「えっと、そうです。こう、ごばーっと盛りました。ごめりんこ」
「嘘っぽい! ホントのこと言えよっ!」
「いや、本当に。こう、惚れ薬をぐわーって。決してスタンドとか使ってない」
「スタンド……?」
 いかん。

 まあ結果から言うと、全部ばれた。
「ボクは! 別にタカシのことなんて! 好きじゃないもん! 惚れ薬盛られたんだもん! スタンドでツンを取ったとか意味分かんないし!」
 そんなわけで、超真っ赤な顔でがなる梓が超うるせえ。
「あーはいはいそうな、惚れ薬盛られたんだよなー。別に俺のことなんて好きじゃないもんなー」
「そうだよ! そうに決まってるよ! それはそれとして、もースタンドとかいうの使うの禁止だかんねっ! 理由は不明であり以後ずっと不明!」
「はいはいはい」
 ご立腹なボクっ娘の頭をなでて必死にご機嫌を繕う俺だった。

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【ボクっ娘と肉まんをはんぶんこして食べたら】

2010年02月21日
「んー……くはぁぁぁぁ」
「もー、でっかいアクビしてぇ……だらしないなあ」
 ボクっ娘と一緒に帰ってる最中、全身を伸ばしてアクビしたら、ボクっ娘が生意気にも俺をたしなめる。
「仕方ないだろう、こうも暖かいとアクビの一つも出る」
「あー、最近暖かいもんね。ボクも授業中とか、ついうとうとしちゃうよ」
「この暖かさは、ボクっ娘の脳内環境が外に漏れ出たんだろうな。迷惑な話だ」
「ボクの脳内がぽかぽかお花畑って言いたいんだろっ! タカシの悪口ましーん!」
「おっ、自分の事をよく分かってるな。偉いぞ」(なでなで)
「わふわふ♪ ……はうっ! な、なでんなよっ! タカシになでられたら、なんかわふわふ言っちゃうんだよ!」
「やーい萌えキャラ」
「萌えキャラ違うっ!」
 そんな感じでいつものように梓をいじってたら、コンビニの前を通りがかった。
「梓さん、肉まん食べません?」
「ません! 今けんかのまっさいちゅーだよ! 普通に誘うな!」
「喧嘩のつもりは毛頭ないが……まあいいや。ほら入るほら入る」
「あぅっ、押すなよ! もー、強引だなぁ……」
 梓の背中を押してコンビニに入る。そしてそっと俺だけ抜け出し、店外から梓の様子を眺める。
「ま、いーや。ねータカシ、何買うの? ……あれ? タカシ?」
 きょろきょろと店の中を見回す梓。んむ、馬鹿っぽくて実に愉快。あ、目があった。
「もー! なんで店の外にいるんだよ!」
 梓はぷりぷりしながら出てきた。
「ちょっと透き通った爺さんが俺を呼ぶんだよ」
「タカシ見えちゃいけないものが見えてるよ!?」
「よく見たら腹の辺りから臓物のようなものが出てたような……」
「どっ、どうせ嘘だろ! 知ってるもんね、ボクを怖がらせよーとしてることくらい!」
「嘘だといいんだが……」
「そっ、そーゆー思わせぶりなこと言ってボクを怖がらせるの禁止禁止禁止っ! ほら、いーからコンビニ入る!」
 今度は梓に押されて俺が店内へ。
「梓、臓物のこぼれた爺さんに気をつけろ。黄泉路を共にする羽目になるぞ」
「う、嘘でもそーゆー怖いこと言うな、ばかっ!」
 適度に怖がらせたので満足。肉まん買って店を出る。
「うー……」
 そして、周囲を警戒してるボクっ娘が俺の後をついてくる。
「そう怖がるでない。俺の嘘だってことくらい気がついてるだろ?」
「それはそれとして、なんか怖いんだよっ!」
「大丈夫。もし爺さんが襲ってきたら、俺、絶対に梓のこと、放って逃げるから」
 梓の手を握り、真剣な目で訴えかける。
「た、タカシ……ボク、嬉し……ん? え、逃げるの!? ボク放って!?」
「だって怖いじゃん、臓物撒き散らしながら走ってくる爺なんて」
「そこはタカシが『絶対に梓のこと守るから』とかかっくいーこと言って、ボクが感動する場面だろ!」
「無茶を言うない。お化けとか怖いだろ」
「うー……まあいいや。もし本当にボクが困ってたら、タカシは絶対ボクを助けてくれるって知ってるもん」
「随分と高い評価されてんな。俺、何かお前の弱み握ってたっけ?」
「違うよ。今までの経験からそう判断したんだよ」
 そう言って、梓は優しい笑みを浮かべた。……ええい、この娘は。
「ふん。騙されてるとも知らずに」
「……タカシ、相変わらず褒められるの苦手だねぇ。顔、真っ赤だよ?」
「うるさい。黙ってたら肉まんやるから黙ってろ」
「あ、はんぶんこしてくれるの? やっぱタカシは優しいね」
「だから、こんなつまらんことでイチイチ褒めるでない、ばかちん」
 誤魔化すように梓の頭をやや乱暴になでる。
「やー、なでんなよぉ♪」
「嬉しそうにするでない、ばか」
 肉まんを半分に割って、梓に渡す。
「えへ、ありがとね。まふっ、まぐまぐ……ん、たまに食べるとおいしいね」
「まったく関係ないが、中国産の餃子で大騒ぎが起きたな」
「コンビニに中国産の材料は使ってないって張り紙してたよ? それに、もしこれで原因で死んでも、タカシと一緒だからへーきだよ♪」
 ちっとも笑顔を崩してくれない梓を腕に絡ませながら、一緒に帰宅した。

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