忍者ブログ

[PR]

2024年11月22日
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【ツンデレとビデオレンタル店へ】

2010年04月21日
 学校帰り、姉さんと一緒にビデオレンタル店に行った。
「姉さん、なに借りよっか?」
「そうだな……サスペンスか、アクションかな」
「それもいいけど、たまにはホラーとか見ない? キャーッ! とか言って抱きついてほしい弟心」
「別に借りるのは構わないが、私は別にホラーは苦手じゃないぞ。むしろ、お前の方が苦手じゃないのか?」
 言われてみれば、その通り。夜一人でトイレに行けないこと請け合いです。
「しかし、弟に頼られるのも姉の務め。どうしてもと言うなら借りてもいいぞ。ああ、トイレにも着いて行ってやるから安心していいぞ」
「すいません、俺が悪かったです」
 素直に謝り、別のコーナーへ。
「んー、どれにしよっか、姉さん」
「…………」
「姉さん?」
 返事が無いので振り返ると、姉さんはとあるビデオに釘付けになっていた。……子猫物語だ。
「……姉さん、動物モノ好きだね」
「う」
 姉さんは少しだけ顔を染めた。
「それ、DVDで持ってるでしょ。ほらほら、行くよ」
「け、けど、チャトランが、チャトランがこっちをじっと見てるんだ。借りないと可哀想だ」
「はいはい、いーから行く行く」
「ああっ、チャトラン、チャトラーン……」
 姉さんは眉目秀麗、文武両道の完璧超人なんだけど、可愛いものに弱すぎる。
 先日も捨て猫を拾ってきて大騒動になった。なんで猫アレルギーなのに何度も何度も拾ってくるのだろう。
「おまえはひどい奴だな。あんなにつぶらな瞳をしたチャトランをほっておくなんて」
 姉さんは恨みがましく俺を睨んだ。少し頬が膨らんでるのが微笑ましい。
「なにが悲しくてDVD持ってるのに、ビデオ借りなきゃいけないんだよ……」
「……なんか、もう一度見たくなったな。タカシ、ビデオはもういいから帰って一緒に子猫物語見よう」
「ええっ! 俺、一昨日も見させられたよ!?」
「姉に付き合うのが弟の務めだ。ほら、いいから帰るぞ!」
 姉さんは俺の手を取り、ビデオ屋を飛び出した。……もう子猫物語見飽きたよ。

拍手[8回]

PR

【朝起きたらツンデレが横にいた】

2010年04月20日
 起きたら、隣に藪坂がいて気持ち良さそうに寝息を立ててるんだけど、これはどういうことか。
 1:無意識のうちにお持ち帰りかな? ……かな?
 2:藪坂が夜中に遊びに来たものの俺が寝てることに憤慨し、嫌がらせで隣に寝た
 3:夢
「3だ。間違いない」
 というわけでもう一度布団に潜り込み、藪坂のささやかな膨らみに顔を埋める。
 ぅおっ、すげー気持ちいい。顔がとろけそうだ。
「んぅ……ん?」
 しかし、夢にしては感覚がやけにリアルだ。近頃の夢は感触まで再現できるんだな。長生きしてよかった。
「……何やってんだ、別府」
「おっぱい」
 頭上からの声に答えると超殴られた。
「夢なのに痛みがあるってのはどういう仕様だコンチクショウ!」
「なんでお前がキレてんだ! 朝っぱらから人の胸に顔埋めんな!」
「すいません、次は夜にします」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
 日本語はなかなか難しい、と顔を真っ赤にして胸をかばってる藪坂を見て思った。
「まぁ胸に顔を埋めたのは少しばかり悪かった。けど、おまえも人の布団に忍び込むのはよくないぞ? わざわざ俺の家まで来て……悪い気はしないがな」
「これはオレにあてがわれた布団! 加えて言うなら、ここは教室! さらに言うなら、ここには女子しかいない!」
 藪坂の言葉に、ゆっくり周囲を見渡す。確かにここは教室で、パジャマ姿の女子たちが俺を胡散臭そうに見ていた。
「おお、そういや今は文化祭の準備期間。んで、昨晩は泊り込みしたんだったな。はっはっは」
 女子たちの冷たい視線なんて、笑って誤魔化せ。……無理っぽいなぁ。
「……で、なんで別府がここにいるんだ? 事と次第によっちゃあ先生に突き出す」
 冷や汗が背中を伝う。そんな理由、俺が知りたい。
「え、えーとえーと、その……」
「その?」
「その、……愛しの藪坂に逢いたくて」
 女子達から黄色い声があがる。一瞬遅れて、藪坂の顔から火が吹いた。
「なっ、ななな、なに言ってんだよ馬鹿ッ!」
「俺には一晩なんて時間、長すぎる。……耐えられなかったんだ」
 そう言って、藪坂をぎゅっと抱きしめる。
 口からでまかせで煙に巻くのは得意中の得意だ。ただ、自分自身が煙に巻かれることも多々ある。
「あ、あぅあぅ、あぅ……」
 藪坂は顔を真っ赤にして訳の分からない言葉を呟いていた。
 それにしても、こうして藪坂の暖かな体を抱いてると、なんだか落ち着く。
「あ、あのさ、オレ、べ、別府のこと、嫌いじゃないし、そ、その、……でも、こんなみんな見てる前で……」
「ぐー」
「寝んなぁッ!」
 落ち着きすぎて眠ってしまった。
「えーと、まぁそういう訳だ。誤解が解けたところで戻る」
「あれ? でも別府くん、昨日の夜にフラっとやってきて、『ねるー』とか言って普通に藪坂さんの布団に入ってたよね?」
 童顔な女生徒に言われ、昨夜の記憶がうっすらよみがえる。
「ああ! そういや昨夜便所行って、男子のとこ戻らないで、いつもの教室に戻ったような記憶あるなぁ。寝ボケてたんだな、きっと」
 理由も解けて気分スッキリ、さぁ今日も準備頑張ろうと教室を出ようとしたら、手を掴まれた。藪坂だ。
「……オレが愛しくて逢いに来たんじゃなかったのか?」
 鬼も裸足で逃げ出すような表情でそんなこと言われても、俺にできることなんて尿を漏らすことぐらいだ。
「ち、違うんです、これには訳が!」
「……10秒待ってやる。オレが納得できる理由を言えたら、許してやる」
 ベキボキと指を鳴らす藪坂を見ながら、俺は10秒後に訪れるであろう自身の運命に涙した。

拍手[11回]

【バレンタインとツンデレ】

2010年04月19日
「チョコください、委員長」
「ヤ」
 いつものように委員長と帰宅してる最中、今日はバレンタインと気づきチョコをせがむも一言で断られた。
「なんで貴方にチョコをあげないといけないの。甘いのが食べたいなら、コンビニで何か買ってきたらいいじゃない」
「や、そうではなくて。バレンタインに愛の塊チョコを食べたいという男心でして」
「だったら尚のことよ。貴方なんかにあげるチョコなんてないわよ」
「むぐぐ……し、しかし、付き合っているというのに、愛する彼氏にチョコの一つぐらいいいのでは?」
「だっ、誰と誰が付き合ってるってのよ、誰が!」
「俺と、委員長が、ラブラブ」
 顔に参考書を投げつけられた。
「へ、変なこと言わないで! 私はただ、頭の悪い別府くんに勉強を教えてあげてるだけ! 勘違いしないでよ!」
「では、勘違いを真実にしようではないか。おお、そういえば今日はバレンタイン。さ、委員長。チョコください」
 地面に落ちた参考書を委員長に返すと、また投げつけられた。角が当たって超痛え。
「いいから帰る! おばさまと担任の先生と校長先生に貴方の勉強頼まれてるんだから、ちょっとは頑張りなさいよ」
「う、ううう……チョコ、チョコ……甘いチョコが食いたい」
 俺は委員長に引かれながら、えぐえぐとしゃくり上げるのだった。近所の園児が俺を指差し笑ってるのが悔しかった。

「チョコー……」
「はぁ、まだ言ってる」
 家に帰り、委員長から個別授業を受けてるがまるで頭に入らない。俺はコタツの上に頭を乗せ、どうして委員長がチョコをくれないのか考えていた。
「……金か? 委員長! 金を俺が出せば、チョコを買ってくれるか?」
「ヤ」
 委員長の一言で撃沈する。……どうやら本気でくれないようだ。
「今年こそ、チョコ0から脱却できると思ったんだけどなぁ……現実は甘くないなぁ」
「え、別府くん、チョコ今まで貰ったことないの?」
「も、貰ったことくらいある! 確か幼稚園の時に、保母さんから貰ったような」
「…………」
「な、なんだよぅその目は! 貰ったのは事実だ! たぶん!」
「……そうね。よかったね」
 どうしてか、憐憫の目で見られているような気がしてならない。
「ほら、いいからこの問解きなさい」
「うー……花子さんと太郎くんがいます。二人が子作りをしたとして、何ヵ月後に子供が生まれるでしょう、か……。最近の教科書は過激だな」
「そんなの全然書いてないわよ! 今やってるの数学だし!」
「うーん……3以上数えられないから、数学苦手なんだよなぁ」
「もうちょっとマシな言い訳しなさいよ。ほら、頑張る頑張る。今日のノルマが終わったら、ご褒美あげるから」
「ご褒美!? 処女か、処女だな!」
 物凄い怒られた。
「すいません、おっぱいタッチで我慢します」
「なんでよ! そういうのじゃないわよ!」
 なんだか分からないが、ご褒美があるなら頑張ろう。
 その後、17回ほど委員長に怒られながらも、どうにか今日のノルマを終える。
「うー……つーかーれーたーぁー……」
「お疲れ様。はい、ご褒美」
「さてはチョコだな!? なんだかんだ言って優しいからな、委員長は」
 コタツの上にちょこんと置かれたそれは、チョコにしてはやけに丸々としてて、オレンジ色で、ミカンのようで。
「……いかん。目を酷使しすぎたせいか、チョコがミカンに見える」
「おいしいわよ、ミカン」
 委員長は鞄からミカンを4つほど取り出し、そのうちの一つを手に取った。
「ミカン、嫌い?」
「嫌いじゃないけど、今日ぐらいは黒くて甘くて、でもどこか苦味のある菓子を食べたかったなぁ、とか」
 ぶちぶち文句を言いながら、ミカンの皮を剥いて食べる。
「ん、甘い」
「でしょ? 私、ミカンって好きなんだ。このミカン当たりね」
 チョコを貰えないのは残念だけど、まぁこうやってコタツに入って委員長とミカン食うのも悪くない、かな。
 ……ごめんなさい強がりです。本当は血尿が出るほどチョコが欲しかったです。
「おいしいわね、このミカン」
「むぐむぐ……委員長、いちいち白い筋取るのやめたら? 気にすることないと思うが」
「この方がおいしいし、綺麗よ」
 適当に話してると、すぐにミカンは二人の腹の中に収まってしまった。
 委員長を玄関先まで送る。外はもう夕闇に包まれていた。
「ミカンありがとな、委員長。美味かったよ」
「そ、そう。……あ、そうだ。コレあげる」
 そう言って委員長が差し出したのは、綺麗にラッピングされた小さな包みだった。
「え、委員長、これって……」
「じゃ、じゃあまた明日!」
 委員長は素早く走って行ってしまった。部屋に戻り、包みを開ける。果たして、そこには小さなチョコが入っていた。
「委員長……」
 小さくて、少し歪んだチョコを頬張る。甘くて、少しだけ苦かった。

 翌日。俺はいつもの場所で委員長を待っていた。いつもより少し遅れて、委員長がゆっくりやって来た。
「おっはよー、委員長!」
「お、おはよう……」
 委員長はなんだか居心地悪そうに体を揺すった。
「チョコありがとうな、委員長。あんな嬉しいチョコは生まれて初めてだ」
「ち、チョコチョコ言わないでくれる? 義理なんだから、そんな喜ばないでよ」
「や、義理でもなんでも嬉しいもんは嬉しいし。それをしっかり伝えないのは失礼だと思うわけで」
「……そ、そう。義理でそんな喜んで、おめでたい性格ね」
「ま、ホントは本命がよかったんだけどな。それは来年まで待つ」
「だっ、誰が貴方なんかに本命チョコをあげるってのよ! 貴方なんて、来年もその次もずーっと義理に決まってるわよ!」
「ほう、委員長は俺とずーっと一緒か。幸せなことこの上ないな」
「なっ……!」
 委員長は顔を赤くして口元をもごもごさせた後、一人で学校へ向かってしまった。
「ああ待って待って委員長! 一緒に行こう!」
 足早に歩く委員長の後を、俺は軽く駆けて追いかけるのだった。

拍手[8回]

【節分とツンデレ】

2010年04月19日
 昼休み。豆を廊下に蒔いてたら、学食で食事を終えたかなみに見つかりこっぴどく叱られた。
「いやでも、今日は節分ですし……」
 腫れた顔をさすりながらどうにか言い訳するも、
「だからって廊下歩いてる人にぶつけんなッ!」
 かなみは飛沫を飛ばしながら俺を怒鳴るのだった。
「そう怒るな。ほら、お前もやったらいかに楽しいか分かるだろう。なくなったら、そこに置いといた豆使っていいから」
 教室の隅を占拠している豆袋を指しつつ、かなみに豆を持たせる。すると、かなみの口角が吊り上がっていくではないか。
 しまった。鬼に金棒、かなみに豆だ。殺される。
「……そうね。鬼は外と言うし、馬鹿も外でいいわよね」
「いやいやいや! 馬鹿も人権を保持している感じが痛い痛い痛い!」
 かなみはこの上なく嬉しそうに俺に豆をぶつけた。
「あーっはっはっはっは! こりゃ楽しいわ!」
「……あ、またタカシがいじめられてる」
 ちなみが俺を指差し酷いこと言った。
「いじめられてねぇ! 倒錯した愛の形だ!」
「ちなみ、アンタもやる?」
「……やる」
 ちなみは嬉しそうに豆を受け取ると、楽しそうに俺目がけ豆を投げつけた。
「いてててて! 畜生、そうは見えないのに何気に豆痛え!」
「……うふふふふ、これ、楽しい」
 このままここにいては豆に殺される。俺は校庭まで逃げることにした。
「あ、逃げた! みんな、手伝って!」
 かなみの声に、「おう」とか「任せろ」とか「私もやりたかったんだー」とか、そんな声が背中から聞こえてくる。
 畜生、なんでウチのクラスこういう時だけ団結力がありやがるんだ!
 上履きのまま校庭に出る。校庭にいる生徒たちが、俺の顔を見て驚いてる。失礼な。
 ……いや、違う。俺じゃない、俺の背後を見て驚いてる。
 恐る恐る肩越しに背後を見る。ウチのクラス総出で俺を追いかけていた。
「な、なんで全員が!?」
「日頃の行いの成果ね! あーっはっはっはっは!」
 かなみは嬉しそうに哄笑した。
「ふふふふふ……タカシ! 積年の恨み、ここで晴らせてもらう!」
「恨み持たれる覚えなんてねーよ!」
 みことの投げる豆弾をどうにか避ける。……ありえねー、地面に穴開いてる。
「ふふっ、愉快よのぉ♪」
 どこから先回りしたのか、満面の笑みでまつりが眼前の木の後ろから現れ、至近距離で豆を俺に投げつけた。
「秘技! 今時マトリックス!」
 説明しよう! 今時マトリックスとは、今時マトリックスの例の変なポーズをして弾丸をさけることである!
「いてててて! 超痛え!」
 今時マトリックスは豆を避けることは出来ないだけでなく、腰に致命的なダメージを与えた。
「あははははっ、やっぱりタカシって馬鹿だねー。ボクもいくよーッ!」
 梓の投げるひょろひょろ豆を受け取り、反対に投げ返す。
「ふぎゃっ! ……ううううう、なんでボクだけ当たらないんだよー!」
「そんなへろへろ豆、当たる方がどうかしてるさな。わはははひぎゃ!」
 腰に手を当て笑ってると、四方八方から豆の集中砲火を受けた。
「なーに笑ってるのよ。ほらほら、逃げないと死ぬわよ?」
「うぐぐぐぐ……奥義、セクハラ離脱!」
 説明しよう! セクハラ離脱とは、女生徒のスカートをめくり、それに人々が気を取られている隙に包囲から脱出することである!
 結果は大成功。女生徒二人の悲鳴と、見事なしまぱんを網膜に残し、俺はその場から逃げた。すまない、見知らぬ女生徒よ。
「た、タカシーッ! 絶対許さないわよーッ!」
 鬼気迫る声が聞こえたけど、聞こえないフリ。振り返ると、たぶん失禁する。
 今年一番の頑張りを使い、どうにか校庭裏の窓から校舎に逃げ込む。
「はぁ、やれやれ……ん?」
「…………」
 小さな先輩が洋式便座の上に座り、顔を真っ赤にして俺を見ていた。よく見ると、スカートからパンツが覗いていた。
「や、先輩。……その、なんというか、……パンツにプリントされてる熊、かわいいね」
「……! ……!」
 先輩は半狂乱で俺にトイレットペーパーを投げた。
「ごごごめん先輩! この侘びはいずれまた!」
 ほうほうの体で便所から逃げ出す。……うう、女子便所の窓だったとは。
「あーっ! アンタ、どっから出てきてんのよ!」
 便所から出てくるところをかなみに見つかった。
「女子便所」
 素直に答えると、いつになく鋭い勢いで豆が飛んできた。
「アンタ……アンタ、ぜーったいに殺す!」
「まま待って! 先輩のパンツを見たのは不可抗力でして!」
「こ……この、犯罪者がーッ!」
 鬼はどっちだ、と言いたい程かなみの顔が憤怒に染まる。
 本気で身の危険を感じたので、必死に走ってかなみを振り切り屋上へ。
「あ、タカシや」
「ニイハオ、タカシ。何やってるアル?」
「うぐ、いずみにメイシン……」
 屋上には、手すりにもたれ掛かったいずみとメイシンがいた。
「お、お前らも俺を?」
「なんかあったん? ウチら、昼休みはずっとここにおったから知らんねんけど」
「そうアル。ワタシたち、ここでご飯食べてたネ」
 しかし、そう言われても素直に信じることは出来ない。
「悪いが、調べさせてもらう」
「え、ちょ、ちょっと」
「な、何するカ?」
 いずみとメイシンの体をまさぐり、豆がないか調べる。
「ちょ、ちょっと、こんなお天道様が出てるうちからやなんて……ウチ、ウチ」
「た、タカシ……そんなことされたら、ワタシ、あぅぅ……」
 ふむ……どうやら豆はないようだ。勘違いを詫びるため顔を上げると、熱っぽく潤むいずみとメイシンの瞳が。
「ふ、二人とも、どしたの?」
「はぁはぁ……た、タカシ……ウチ、ウチな」
「た、タカシ……ワタシ、ワタシは……」
「ここかーっ、タカシーッ!」
 叫び声と同時に扉が大きな音を立てて開いた。そこに、かなみがいた。
「や、やぁ、かなみ。ご機嫌いかが?」
「な……あ、あ、アンタ、何やってんの!?」
 何をやってるか、と言われても。ただいずみとメイシン、二人と抱き合って
「って、何ぃぃぃぃ!? ち、違う、誤解だ!」
「何が誤解よ! 何をどう見ても乳繰り合ってるようにしか見えないじゃない! し、しかも二人同時だなんて……不潔よ!」
「乳繰り合ってるとは……また凄い言葉が出てきたなぁ」
「誤魔化すなぁ!」
 かなみと話してる間に、続々とクラスメイトが屋上にやってきた。
「……むっ。……タカシ、変態行為してる」
「ふっ、不潔なッ! ええい、今日こそ成敗してくれる!」
「まったく、こんな楽しそうなことになんで儂を呼ばんのじゃ!? 許さん、手打ちの刑じゃ!」
「…………」
「綺麗なお姉さんをはずかしめた罰を、って先輩が言ってるよ。ボクも助太刀したい気分だよ!」
 みんな勝手なこと言ってやがる。一つだけ共通してるのは、どうやら俺は今日死ぬらしい。
「は、ははは……いずみ、メイシン、助けて」
「なんや分からんけど、タカシが悪いみたいやな」
「そうアルね。たまには懲らしめられるべきアル」
 望みは絶たれた。……否、切り札がまだある!
「……家主のピンチだ。こういう時くらい役に立て、無駄飯食らいの幽霊ッ!」
 一か八か、空に向かって叫ぶ。刹那、何もない空間から煙とともに幽霊が現れた。
「無駄飯ぐらいじゃないわよッ! たまに掃除とか手伝ってるじゃない!」
「頬に飯粒ついてる」
「ご、ご飯食べてる最中に呼ばれたんだから仕方ないじゃない! そ、それでピンチって?」
「俺を除き、この場にいる連中全員呪え」
「ああ、そういうの無理。ごめーんね。んじゃ、ご飯食べてくるー」
 何の役にも立たず、幽霊は消えた。
「……心底使えねー! 畜生、あの無駄飯食らい!」
「……呪えとか、面白いこと言うわねー、タカシ?」
 じりじりと、笑顔の奥に怒気を秘めたかなみたちが寄ってきた。
「は、ははは、……冗談だよ?」
 クラスメイト総出で豆をぶつけられた。豆で臨死体験できるとは思いもしなかった。

 臨死体験の後、十八番の土下座で許しを請って皆に許してもらった。
 その後、ぼんやり過ごしてると放課後になってお家へダッシュ。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさいまし」「ん、おかーりー」
 なんか、俺の部屋なのにリナっぽい女生徒と藪坂っぽい女生徒がいる。
「……いかん、俺の病状が幻覚までレベルアップした」
「幻覚って失礼ですわね。本物ですわよ」
「……レベルアップって何だよ」
 藪坂がせんべいを食いながら馬鹿にしたように……って
「おまえ、なに俺のせんべい食ってんだよ! 返せ!」
「せんべいうめー。ばりばりばり」
 手を伸ばすが時すでに遅く、藪坂は一気に俺の、俺のせんべいを!
「う、ううううう……クラス中から寄ってたかっていじめられ、果ては楽しみにしていたせんべいまでも……!」
「や、藪坂さん、タカシ泣いてますわよ?」
「う……せ、せんべいくらいで泣くなよ。男だろ?」
「ううっ……こうなっては、藪坂の手に残るせんべいの欠片だけでも!」
 藪坂に襲い掛かり、手を舐めまくる。
「なっ、何しやがるテメェ!」
「べろべろべろべろ! うーん、せんべいの味しない。強いて言うなら、藪坂味?」
「きゃああああ! た、タカシが藪坂さんを手篭めに!」
 藪坂は俺の頭をぽこぽこ殴るし、リナはでっかい声でとんでもないこと叫ぶし、たーいへん。
「……落ち着いたか?」
「はい、すいませんでした」
 顔を腫らしながら藪坂に頭を下げる。二人がかりで殴られ、とても痛かったです。
「ええとな、オレらが別府ん家来たのは」
「わたくし達も豆まきをしたかったんですわ」
 それなら二人で勝手にやってくれよ、と言いたかったけど言わない。もう殴られるの嫌だし。
「やっぱ鬼役は別府で決まりだろ? 豆投げやすいし」
 決まってません。勝手に俺に鬼の面をつけないでください。
「まぁ……とっても似合ってますわ。まるで鬼の面をつけるために生まれてきたかのよう」
 褒められても嬉しくない。ていうか、微妙に馬鹿にされてるような。
「んじゃ、豆まき開始ー!」
「いや、あの」
「えいえいっ、ですわっ」
 文句を言う暇もなく、リナが俺めがけ豆を投げつけた。
 しかし、そこはクラスメイト全員から豆を投げられたという経験を持つ俺。この程度の豆、痛くも痒くもない。
「あら……なんだか平気って感じですわね。やはり、これを使わないとダメのようですわね」
 リナは、さっきから気になっていたどでかい袋から、何か禍々しい機械を取り出した。
「な、なんですか、それ?」
「鬼殲滅用機関銃、らしいですわ。詳しいことは知りませんが、とっても素敵ですわよね?」
「あっ、いいなそれ。オレにも貸して」
「いいですわよ、もう一つありますから」
 よく分からんが、また死ぬのは嫌なので藪坂が機械をいじくってる間に窓から脱出。
「逃がさないぜっ!」
 藪坂の叫びと同時に、怪しい機械から豆がとんでもない勢いで飛び出した。
「いででででででッ! こんなの豆まきじゃねえ!」
 窓から庭に立ってる木に飛び移り、リナたちから距離を取る。体に穴開くかと思った。
「うふふふふっ、そんなところにいたらダメですわよ。……すぐ終わってしまいますわ」
 リナはどこか恍惚とした表情で機械のトリガーを引き絞った。素早く手を離し、木から飛び降りる。
「りっ、リナ! その機械禁止! 見ろ、木の枝吹き飛んだぞ!?」
「うふふふっ、タカシも吹き飛びたくなかったら逃げた方がいいですわよ?」
 リナの目にハンターの炎が灯る。さぁ、逃げろ。
「なっ、なんで俺ばっかこんな目に……!」
 泣きながら裸足で街を駆ける俺を、通行人が奇異の目で見ていた。
「うふふふ……楽しいわ、楽しいですわ、タカシ!」
「あははははっ! 逃げろ逃げろ、別府ーッ!」
 狩猟者の声が背後から聞こえてきたので、俺は涙を撒き散らしながら逃げた。
 すぐ捕まった。トラウマがまた増えた。豆が怖い。

拍手[6回]

水2

2010年04月17日
 自習時間は楽しいな、わぁい。楽しいけど、眠いので寝る。
水「あ、あの、静かに、みんな静かに……」
 しばらく騒音に負けじといびきを奏でていたのだけど、隣から囁くような声が聞こえてきたので目を開ける。
男「んー……なにやってんだ、水っち?」
 声をかけると、水っちが俺の方を向いた。
水「え、えと、みんなに注意してたの。……ほら、わたし委員長だし」
 そういや、いつだったかHRで推薦されてたっけ。気が弱そうだけど、大丈夫か? ……ま、大きなお世話か。
男「んで、みんなに注意してたみたいだけど、効果の程は?」
水「あ、う……」
 耳を澄まさなくても、休み時間と変わらない騒音が耳に届く。効果0っぽい。
男「委員長なのにダメダメだな。委員長失格!」
水「……好きでなったんじゃないもん」
 ずびしと事実を突きつけると、水っちは下を向いて両手の人差し指をつんつんつつき出した。……言い過ぎた?
水「……推薦されただけだもん。……おっきい声だすの苦手だもん。……本当は保健委員とかがよかったもん」
 む、どんどん水っちがインナースペースに引きこもっていく。
男「ええい、過ぎたことをぐちぐち言うない! あと、もんもん言うな!」
水「……もんもんなんて、言ってないもん」
 言ってる。今まさに言ってる。
水「……みんな言うこと聞かないし、キミはいじめるし、……もうやだぁ」
男「あ、いや、いじめるとかそんなじゃなくて、その」
水「うっ、ぐすっ……」
 あれ、泣いてる? ……てーか、俺が泣かした?
男「ああいや違う怒ってるんじゃなくてそのあのごめんなさい俺が悪かったです!」
 泣かせるつもりなんてなかったのに……ああもう、自分が腹立たしい。
水「……うー」
 不満げに涙目で俺を見る水っち。
男「あー、その、……食べる?」
水「飴玉……。ばかにされてる……えぐっ」
 甘味で泣き止ませようとしたら逆効果。ほんに近頃の娘さんは難しいのぅ、ほっほっほ。
男「いや笑ってる場合じゃなくて!」
水「笑ってないもん、泣いてるもん……」
 俺の一人つっこみに律儀に反応する水っち。
男「ええと……その、そのうちいいことあるよ。はっはっは」
水「……超てきとー。……全然心こもってない」
 だって俺の語彙には泣いてる女性を慰める言葉なんて……あ、あった!
男「そんな顔しないで。泣き顔なんて君に似合わないよ? さ、涙を拭いて」
 いかん、自分で自分を殺したい。
水「……ばかみたい」
 お願い、誰か助けて。じゃなきゃ今すぐ俺を殺して。
黄「『さ、涙を拭いて』だって。きゃはははは!」
 黄に聞かれてた。もうやだ。
黄「ねーねー、さっきのも一回言って。『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷーっ!」
男「う……うわぁぁん! 貴様、女性のくせに男をいじめるねい! 泣いちゃったじゃねえか!」
水「わ、泣いてるのにいばってる」
 気がつけば水っちの涙は止まっていた。代わりに俺の双眸からとめどなく溢れているが。
黄「『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷぷーっ!」
男「うわぁぁん、黄色が俺を陵辱するー!」
黄「あ、コラ! 人聞きの悪いこと言うなーっ!」
 背後から何か聞こえるけど、気のせいだ。傷心の俺は教室から脱し、放浪の旅に出るのだった。
 すぐ教師に見つかって怒られた。戻らされた。
水「おかえり」
男「……ただいま」
 まぁなんか知らんけど水っち泣きやんでるし、いいか。
黄「ねーねーみんなー、モノマネするよー。『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷふーっ!」
 だから、黄がみんなを集めて俺を小馬鹿にするのも我慢できるような気がしないような予感がないわけでもない。
男「う、ううう……」
水「あ、また泣いてる。あはは、私以上に泣き虫さんだね、キミ」
 そう言って小さく笑う水っちだった。

拍手[5回]