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2024年11月21日
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【親方、空から女の子が!という状況に陥ったら】
2012年01月05日
とある日の昼下がり。飯を食い終わった俺は、学食から教室に戻るため、学校の階段を上っていた。
けんけんとリズミカルに昇る俺はなんてかっこいいんだ、とか思いながらふと頭上を見上げると、親方、空から女の子が!
いや違うこれラピュタ違うただの現実! という高速思考のもと、急ぎ落下点まで移動し、落ちてきた女子をがっしり抱きとめる。しかしこれが超重くてお兄さん泣きそう。
「…………え?」
当の女子は何が起こったのか理解していないのか、目をぱちくりさせている。
負けるか俺もぱちくりさせてやる、という無駄な負けん気をなんとか抑え、その女生徒を廊下に下ろす。
「ふー……。危ないぞ。気をつけろ」
それだけ言って、そそくさと逃げる。
「え? ……え? え、あ、あのっ!」
なんか後ろで言ってる気がするが、いいです。注目されるの超苦手なんです。
ということがあったのが昨日。そして今日の俺はというと。
「……ええと。説明してもらえると大変ありがたいのですが」
「そうね。私もそうしようと思ってたところよ」
何やら男子生徒数人に囲まれ、無理矢理どこかの教室に連れて来られたんですの。俺を運んだ生徒達は既に去り、代わりになんだか怖い顔をした女生徒がいるんですの。理解しがたいんですの。
「ジャッジメントですの!」
「はぁ!?」
「あ、いや、なんでもないです」
いかん。ですの口調が続くと思わず黒子になってしまう。オネニーサマ!(間違い)
「……ま、まあいいわ。あのね、私の顔に見覚えあるでしょ?」
「いいぃえ」
「……え?」
「ないです」
「…………」
「帰っていいですか?」
「見覚えあるでしょっ!?」
「はいっ」
本当はないのだけど、とても怖かったので思わず肯定してしまった俺を一体誰が責められようか。
「そ、そう。そうよね。そりゃそうよね。私だけ覚えてるわけないものね」
しかし、そうすることによって何やら向こうさんが納得しているようだったので、俺の決断はあながち間違っていなかったようだ。
「そ、それで。なんで逃げたのよ」
「……?」
「な、何を不思議そうな顔してるのよ! ……お礼のひとつも言わせないでさ。勝手に逃げちゃって」
何の話か皆目見当がつかないが、話の展開上理解している風を装わないといけない。
「いや、あの、ごめんなさい?」
「何よ、その疑問系は!」
どこまでいっても理解していないので、ハテナの野郎がつい顔を出してしまう。
「と、とにかく、そーゆーことだから。……あの、ありがとう。助けてくれて。感謝してます」
そう言って、目の前の女子はぺこりと頭を下げた。どうやら俺は以前この女子を助けたようだ。
「いや、まあ気にするな。それで、反物はいつもらえるのだろうか」
「たんもの?」
「恩返しといえば自分の毛を使い、反物を織るものだろう。君はたぶん俺が以前助けた鶴か何かだろう?」
「違うわっ! 人をなんだと思ってんのよ!」
「鶴、もしくはそれに類した存在。獣の類であると予想される」
「だから、違うって言ってんでしょうがっ! そもそもアンタ前に鶴なんて助けたの?」
「この間道で困ってる外人なら助けた。ただ、もうこれが全然言葉が通じなくて通じなくて」
「それ全然関係ないっ! んじゃ何、私はその外人が日本人に化けて恩返しにやってきたってこと!?」
「ゲラゲラゲラ! 超意味ねー!」
「笑うなーっ!」
「いや、だってそれ以外に俺が助けた奴なんて誰も……」
……ん? 助ける?
「あっ、お前昨日の階段落ちの奴か!」
「今更!?」
「あー、あーあーあー。そういやそんな気がしないこともないようなこともない。つまり……お前は誰だ?」
一回余分なものが入ったため、一周回って誰だか分からなくなってしまった。
「さっき貴方が言った通りよっ! ……な、なんだってこんな変な奴に……」
何やら女性はショックを受けているようだった。
「……決めたっ! 貴方、今日から生徒会入りなさい!」
「はい?」
「貴方の変なトコロ、私が全部直してあげる! だから、生徒会に入りなさい!」
「いや、意味が分からない」
「生徒会長である私が直々にアンタを矯正してあげるって言ってるのに、逆らうっての!?」
「いや逆らうとか……えっ、お前って生徒会長なの?」
「ええっ、知らなかったの!? 朝礼で挨拶とかしてるでしょ!?」
「朝は眠いから夢うつつだし、壇上まで見通せるほど透き通ったまなこをしてないし、そもそもそんな健康体でもないから、朝礼では貧血でぶっ倒れそうでフラフラしてるのでそれどころでは」
「えっ? ……君、体弱いの?」
「まあ、強い方ではないですね」
本当に自慢ではないが、俺はよく体調を崩す。学校を休む頻度もそれなりに多い。病弱なのは美少女にしか似合わないってのに、我ながら厄介な体だ。
「……なのに、私を助けてくれたの?」
「あー、や、まあ、その。咄嗟だったし。色々考える余裕なんかなかったし」
「…………」
会長は俺をじーっと見ている。何やら頬付近が赤く染まってる気がするが、気のせいに違いない。目が潤んでるのも、きっと気のせいだ。
「……や、その! アレだよ、俺がやらなくてもきっと誰かが助けたよ!? その助けた奴が偶然俺だっただけで! だから、別に気にする必要ないと思いますよ? じゃ、俺はこれにて!」
「……あっ、待て逃げるなっ!」
「ぐげっ」
「きゃああああっ!?」
なんだか居た堪れなくなって逃げようとしたら、会長が咄嗟に伸ばした手が俺の喉に納まり、しかもいい具合に頚動脈を押さえたがため、一瞬で気絶したという伝説がここに誕生した。
「……うぅん」
「あっ、気がついた?」
何やら声が聞こえる。妙に声が近い。
「……む、むぅ」
「本っ当、アンタって弱いのね。これは心と一緒に身体も鍛えなおす必要があるかもしんないわね」
「そんな、人を虚弱体質みたいに……」
「こんなか弱い女の子に気絶させられといて、何言ってるのよ」
「俺も初対面の女性に気絶させられるとは夢にも思わなかった」
「初対面じゃないわよ! 二回目よ!」
「あの階段落ちを一回に入れるのはどうかと思うが」
「うぐ……い、一回は一回よ。文句ある?」
「いや、ないが……」
「そ、それより。……ど、どうなのよ」
「具体性にかける質問。故に、何を指しているのか推測不能。結論:寝る」
「寝るなッ! ……じゃ、じゃなくて。ほ、ほら、オトコノコって好きなんでしょ? こーゆーの」
「またしても具体性にかける問いかけ。彼女は一体何のことを喋っているのだろうか」
「あーもー分かるでしょうがっ! この状況だと!」
「俺に分かることはといえば、やけに会長の顔が近いのと、会長の髪が顔にあたるなあと思うことと、何やら枕がふにょふにょして気持ちいいことくらいしか」
「そ、そう。それ。枕。……ふにょふにょとか言うな、ばか」
「枕?」
枕が一体なんだと言うのだろうか。手をやってみる。
「ふひゃっ!? い、いきなり触るな、ばか!」
いやね、これがもう完璧に人の足。しかも、女性(予想)の足。つまり、そこから察するに、現在俺は“膝枕”と呼ばれる極楽にいるようだ。
「……ああ。夢か」
「現実よっ!」
こんな幸せなことが俺の人生に起こるなんて想定してなかったが故の結論だったが、否定されては仕方ない。受け入れよう。
「俺は、今、会長に膝枕をされているっ!」
「なっ、何を叫んでるのよ、ばかっ!」
受け入れたら受け入れたで怒られる。どうしろと言うのだ。あと、照れ隠しだとは思うのだけど、ビンタをしないで。何度もしないで。何度も何度もしないで。
「顔が痛え」
「はーはーはー……変なこと言うからよ、ばか」
「そんなつもりはないのだけれど」
「ううぅ……そ、それで。理解したところで、どうなのよ」
「いや、そりゃ、ねぇ?」
「わ、私に同意を求めないでよ。男ならはっきり言いなさいよ」
「そんなの、幸せに決まってるじゃないですか」
「……そ、そう」
静かに赤面しないで。こっちまで恥ずかしくなってくる。
「な、なに赤くなってんのよ! か、勘違いしないでよね、枕がなかったからしょーがなくしてあげただけなんだからねっ!?」
「今後も常備しない方向でお願いします」
「も、もうしてあげるわけないでしょ、この馬鹿! 私のせいで気絶させちゃったから、特別中の特別にしてあげただけなんだからねっ!」
「自殺も視野に入れる程度には絶望する事実ですね」
「そんなことで死ぬなっ!」
俺の顔をぺちぺち叩いて激励する会長だった。
けんけんとリズミカルに昇る俺はなんてかっこいいんだ、とか思いながらふと頭上を見上げると、親方、空から女の子が!
いや違うこれラピュタ違うただの現実! という高速思考のもと、急ぎ落下点まで移動し、落ちてきた女子をがっしり抱きとめる。しかしこれが超重くてお兄さん泣きそう。
「…………え?」
当の女子は何が起こったのか理解していないのか、目をぱちくりさせている。
負けるか俺もぱちくりさせてやる、という無駄な負けん気をなんとか抑え、その女生徒を廊下に下ろす。
「ふー……。危ないぞ。気をつけろ」
それだけ言って、そそくさと逃げる。
「え? ……え? え、あ、あのっ!」
なんか後ろで言ってる気がするが、いいです。注目されるの超苦手なんです。
ということがあったのが昨日。そして今日の俺はというと。
「……ええと。説明してもらえると大変ありがたいのですが」
「そうね。私もそうしようと思ってたところよ」
何やら男子生徒数人に囲まれ、無理矢理どこかの教室に連れて来られたんですの。俺を運んだ生徒達は既に去り、代わりになんだか怖い顔をした女生徒がいるんですの。理解しがたいんですの。
「ジャッジメントですの!」
「はぁ!?」
「あ、いや、なんでもないです」
いかん。ですの口調が続くと思わず黒子になってしまう。オネニーサマ!(間違い)
「……ま、まあいいわ。あのね、私の顔に見覚えあるでしょ?」
「いいぃえ」
「……え?」
「ないです」
「…………」
「帰っていいですか?」
「見覚えあるでしょっ!?」
「はいっ」
本当はないのだけど、とても怖かったので思わず肯定してしまった俺を一体誰が責められようか。
「そ、そう。そうよね。そりゃそうよね。私だけ覚えてるわけないものね」
しかし、そうすることによって何やら向こうさんが納得しているようだったので、俺の決断はあながち間違っていなかったようだ。
「そ、それで。なんで逃げたのよ」
「……?」
「な、何を不思議そうな顔してるのよ! ……お礼のひとつも言わせないでさ。勝手に逃げちゃって」
何の話か皆目見当がつかないが、話の展開上理解している風を装わないといけない。
「いや、あの、ごめんなさい?」
「何よ、その疑問系は!」
どこまでいっても理解していないので、ハテナの野郎がつい顔を出してしまう。
「と、とにかく、そーゆーことだから。……あの、ありがとう。助けてくれて。感謝してます」
そう言って、目の前の女子はぺこりと頭を下げた。どうやら俺は以前この女子を助けたようだ。
「いや、まあ気にするな。それで、反物はいつもらえるのだろうか」
「たんもの?」
「恩返しといえば自分の毛を使い、反物を織るものだろう。君はたぶん俺が以前助けた鶴か何かだろう?」
「違うわっ! 人をなんだと思ってんのよ!」
「鶴、もしくはそれに類した存在。獣の類であると予想される」
「だから、違うって言ってんでしょうがっ! そもそもアンタ前に鶴なんて助けたの?」
「この間道で困ってる外人なら助けた。ただ、もうこれが全然言葉が通じなくて通じなくて」
「それ全然関係ないっ! んじゃ何、私はその外人が日本人に化けて恩返しにやってきたってこと!?」
「ゲラゲラゲラ! 超意味ねー!」
「笑うなーっ!」
「いや、だってそれ以外に俺が助けた奴なんて誰も……」
……ん? 助ける?
「あっ、お前昨日の階段落ちの奴か!」
「今更!?」
「あー、あーあーあー。そういやそんな気がしないこともないようなこともない。つまり……お前は誰だ?」
一回余分なものが入ったため、一周回って誰だか分からなくなってしまった。
「さっき貴方が言った通りよっ! ……な、なんだってこんな変な奴に……」
何やら女性はショックを受けているようだった。
「……決めたっ! 貴方、今日から生徒会入りなさい!」
「はい?」
「貴方の変なトコロ、私が全部直してあげる! だから、生徒会に入りなさい!」
「いや、意味が分からない」
「生徒会長である私が直々にアンタを矯正してあげるって言ってるのに、逆らうっての!?」
「いや逆らうとか……えっ、お前って生徒会長なの?」
「ええっ、知らなかったの!? 朝礼で挨拶とかしてるでしょ!?」
「朝は眠いから夢うつつだし、壇上まで見通せるほど透き通ったまなこをしてないし、そもそもそんな健康体でもないから、朝礼では貧血でぶっ倒れそうでフラフラしてるのでそれどころでは」
「えっ? ……君、体弱いの?」
「まあ、強い方ではないですね」
本当に自慢ではないが、俺はよく体調を崩す。学校を休む頻度もそれなりに多い。病弱なのは美少女にしか似合わないってのに、我ながら厄介な体だ。
「……なのに、私を助けてくれたの?」
「あー、や、まあ、その。咄嗟だったし。色々考える余裕なんかなかったし」
「…………」
会長は俺をじーっと見ている。何やら頬付近が赤く染まってる気がするが、気のせいに違いない。目が潤んでるのも、きっと気のせいだ。
「……や、その! アレだよ、俺がやらなくてもきっと誰かが助けたよ!? その助けた奴が偶然俺だっただけで! だから、別に気にする必要ないと思いますよ? じゃ、俺はこれにて!」
「……あっ、待て逃げるなっ!」
「ぐげっ」
「きゃああああっ!?」
なんだか居た堪れなくなって逃げようとしたら、会長が咄嗟に伸ばした手が俺の喉に納まり、しかもいい具合に頚動脈を押さえたがため、一瞬で気絶したという伝説がここに誕生した。
「……うぅん」
「あっ、気がついた?」
何やら声が聞こえる。妙に声が近い。
「……む、むぅ」
「本っ当、アンタって弱いのね。これは心と一緒に身体も鍛えなおす必要があるかもしんないわね」
「そんな、人を虚弱体質みたいに……」
「こんなか弱い女の子に気絶させられといて、何言ってるのよ」
「俺も初対面の女性に気絶させられるとは夢にも思わなかった」
「初対面じゃないわよ! 二回目よ!」
「あの階段落ちを一回に入れるのはどうかと思うが」
「うぐ……い、一回は一回よ。文句ある?」
「いや、ないが……」
「そ、それより。……ど、どうなのよ」
「具体性にかける質問。故に、何を指しているのか推測不能。結論:寝る」
「寝るなッ! ……じゃ、じゃなくて。ほ、ほら、オトコノコって好きなんでしょ? こーゆーの」
「またしても具体性にかける問いかけ。彼女は一体何のことを喋っているのだろうか」
「あーもー分かるでしょうがっ! この状況だと!」
「俺に分かることはといえば、やけに会長の顔が近いのと、会長の髪が顔にあたるなあと思うことと、何やら枕がふにょふにょして気持ちいいことくらいしか」
「そ、そう。それ。枕。……ふにょふにょとか言うな、ばか」
「枕?」
枕が一体なんだと言うのだろうか。手をやってみる。
「ふひゃっ!? い、いきなり触るな、ばか!」
いやね、これがもう完璧に人の足。しかも、女性(予想)の足。つまり、そこから察するに、現在俺は“膝枕”と呼ばれる極楽にいるようだ。
「……ああ。夢か」
「現実よっ!」
こんな幸せなことが俺の人生に起こるなんて想定してなかったが故の結論だったが、否定されては仕方ない。受け入れよう。
「俺は、今、会長に膝枕をされているっ!」
「なっ、何を叫んでるのよ、ばかっ!」
受け入れたら受け入れたで怒られる。どうしろと言うのだ。あと、照れ隠しだとは思うのだけど、ビンタをしないで。何度もしないで。何度も何度もしないで。
「顔が痛え」
「はーはーはー……変なこと言うからよ、ばか」
「そんなつもりはないのだけれど」
「ううぅ……そ、それで。理解したところで、どうなのよ」
「いや、そりゃ、ねぇ?」
「わ、私に同意を求めないでよ。男ならはっきり言いなさいよ」
「そんなの、幸せに決まってるじゃないですか」
「……そ、そう」
静かに赤面しないで。こっちまで恥ずかしくなってくる。
「な、なに赤くなってんのよ! か、勘違いしないでよね、枕がなかったからしょーがなくしてあげただけなんだからねっ!?」
「今後も常備しない方向でお願いします」
「も、もうしてあげるわけないでしょ、この馬鹿! 私のせいで気絶させちゃったから、特別中の特別にしてあげただけなんだからねっ!」
「自殺も視野に入れる程度には絶望する事実ですね」
「そんなことで死ぬなっ!」
俺の顔をぺちぺち叩いて激励する会長だった。
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【魚が嫌いな男にツンデレが文句を言ったら】
2011年08月17日
とある休日、朝からのんべんだらりとしていた俺の元へ珍客がやってきた。それも、二人。
「さあ、これを食べてください」
「ぷにっ!」
「……え?」
俺の前に差し出される、魚。ぴちぴち跳ねてる生魚。
「いや、意味が分からない」
「別府くん、魚が嫌いなんですってね」
「ぷにっ」
「だからこんな頭が悪いんです。魚のDHAを摂取していないのが原因です。コレを食べて、頭がよくなってください」
「ぷにっ!」
「いや、この一連の会話を鑑みるに、どう考えてもお前の方が頭悪いだろ、委員長」
「なんですってえ!」
「痛っ、痛い! そして生臭い!」
魚で殴打された。それは武器ではないです。
「そしてお前はなんなのだ、ぷに子」
「ぷにー」
さっきからぷにぷに言って委員長に追随しているフリをしているぷに子のほっぺを引っ張る。
こやつはぷに国というふざけた名前の国からやってきたぷに子(命名:俺)だ。一説によると姫さんという噂だが、まさかね。
「ぷにちゃんをいじめないでくださいっ!」
などとぼんやりしながらぷに子をふにふにしてたら、委員長に取られた。
「ぷに、ぷにー!」
しかし、当のぷに子は俺に向け手を伸ばしている。昔、この国に来たての頃に世話を焼いたせいか、刷り込み的に気に入られている俺だ。
「こらっ、ぷにちゃん! こんなのに触ったら病気になりますよっ!」
「ふふ。酷い扱いだ」
しかし、それとは真逆に委員長には嫌われている。……まあ、休みだってのにこうしてわざわざ家まで来てくれるのだから、そこまで嫌われていない……のか?
「なんですか。こっち見ないでください。気持ち悪いです」
訂正。超嫌われてます。
「あんまりにも悲しいのでぷに子と遊ぼう。おいで、ぷに子」
「ぷにーっ!」
「あっ、こらっ!」
おいでおいでしたら、ぷに子は委員長の拘束を解き、ばびゅーんと飛んできた。がっしと受け止め、頭をなでる。
「ぷにっ、ぷにっ♪」
「ああはいはい、落ち着け」
「ぷににー♪」
「うぐ……そ、そんなことしてる暇があるなら魚を食べなさい、魚っ!」
「もがっ!?」
突然ぴちぴちと跳ねてる新鮮なお魚を口に突っ込まれた。
「ぷはっ。……あのな。どんな拷問だ」
「知りません! 別府くんのばか!」
「いやいや。人の口の中に魚突っ込む方がよほど馬鹿……というか、常識がないと思うぞ」
「ぷに! ぷににっ!」
俺と並び、一緒に委員長を攻撃するぷに子。ただ、ぷに語なので普通の人には何言ってんだか分かりゃしないが。
「ぷ、ぷにちゃんまで……別府くんに劣るだなんて、物凄くショックです」
しかし、委員長と俺はぷに子と付き合いが長いのでぷに語をなんとなく理解できる。そして俺以下はそんなにダメですか。俺まで落ち込みそうだ。
「ぷにー……」
そして、落ち込む二人に置いていかれたぷに子も落ち込んだ。
「いや、別にお前は落ち込まなくていいだろ」
「ぷに?」
ぷに子のほっぺをぷにぷにしながら訂正する。
「……ああもうっ! イチャイチャしすぎですっ! 私がいることをお忘れですかっ!?」
突如委員長が爆発したのでびっくりした。
「いや、イチャイチャって……別に、なぁ?」
「ぷにー♪」
「あああああっ!?」
なあ、って言ってるのに、ぷに子さんったら空気を読まずに俺に抱きついたりなんかして。頬擦りなんかしたりして(焦)。
「わっ、わざとですか!? わざと私に見せ付けてるんですか!?」
「なんでやねん」
なんか知らんが涙目になってる委員長にずびしと突っ込みをいれる。
「ううぅ……も、もういいです! 知りません! たあっ!」
たあの掛け声とともに、委員長が俺の膝にわっさと降って来た。右の膝にはぷに子、左の膝には委員長が住んでおります。
「なんで気がつけば両手に花なの?」
「知りません! 別府くんがこれみよがしにぷにちゃんとイチャイチャするからですっ! 理由なんてないですっ!」
「いやいや。超自分で理由言ってますが」
「うるさいですっ!」
委員長の目が石川賢ばりにぐるぐるしている。こいつぁマズイ。
「ぷにっ、ぷににっ!」
そしてコイツこそ理由はないのだろうけど、ぷに子が全力で頬擦りしてきてちょっと痛い。
「あっ! それ、私にも! 私にもしてください!」
「いやいや。別にこれは俺が能動的にしているのではなくて、ぷに子が自分から」
「早くっ!」
「……はい」
暴走してる委員長に道理を説いても無意味だ。俺は諦めて委員長に頬擦りした。
「ううううぅ……」
「い、委員長? 大丈夫か?」
「なんですかっ! 別に幸せなんかじゃないですっ! もっといっぱいしてくださいっ!」
「…………。はい」
なんか色々思ったが、頬擦り続行。
「ぷにっ! ぷににっ!」
と思ったが、何やらぷに子が怒ってる。
「あーと。まさかとは思うが、お前もしてほしいと?」
「ぷにー♪」
正解らしい。その証拠にほっぺにちゅってされた。
「ああーっ!? わ、私も! 私もそれする!」
「え」
と思う間もなく、真っ赤の顔が寄ってきて、ほっぺに柔らかくて熱い感触。
「え、えーと。い、委員長?」
「……さ、魚」
「はい?」
「魚! 最近食べてなかったから、私まで別府くんのレベルまで馬鹿になっちゃいました! だから、こんなことやっちゃってるんです! 普段の私ならこんなこと絶対やんないです!」
「あ、ああ、そだな」
少なくとも、普段の委員長ならもうちょっとマシな言い訳をしているハズ。
「わ、分かればいいんです。今日だけちょっとおかしいだけなんです。ふにふにしてください」
「なんか最後の言葉がおかしいです」
「冷静に指摘しないでくださいっ!」
委員長が顔を真っ赤にして怒った。
「わはは。委員長かーわいい」
「ううぅぅぅ……別府くんなんて大嫌いです」
「ぷにー♪」
「あっ、ぷにちゃんずるい! 私も!」
とまあ、なんていうか、なんていうか。暴走って怖いよね。
「さあ、これを食べてください」
「ぷにっ!」
「……え?」
俺の前に差し出される、魚。ぴちぴち跳ねてる生魚。
「いや、意味が分からない」
「別府くん、魚が嫌いなんですってね」
「ぷにっ」
「だからこんな頭が悪いんです。魚のDHAを摂取していないのが原因です。コレを食べて、頭がよくなってください」
「ぷにっ!」
「いや、この一連の会話を鑑みるに、どう考えてもお前の方が頭悪いだろ、委員長」
「なんですってえ!」
「痛っ、痛い! そして生臭い!」
魚で殴打された。それは武器ではないです。
「そしてお前はなんなのだ、ぷに子」
「ぷにー」
さっきからぷにぷに言って委員長に追随しているフリをしているぷに子のほっぺを引っ張る。
こやつはぷに国というふざけた名前の国からやってきたぷに子(命名:俺)だ。一説によると姫さんという噂だが、まさかね。
「ぷにちゃんをいじめないでくださいっ!」
などとぼんやりしながらぷに子をふにふにしてたら、委員長に取られた。
「ぷに、ぷにー!」
しかし、当のぷに子は俺に向け手を伸ばしている。昔、この国に来たての頃に世話を焼いたせいか、刷り込み的に気に入られている俺だ。
「こらっ、ぷにちゃん! こんなのに触ったら病気になりますよっ!」
「ふふ。酷い扱いだ」
しかし、それとは真逆に委員長には嫌われている。……まあ、休みだってのにこうしてわざわざ家まで来てくれるのだから、そこまで嫌われていない……のか?
「なんですか。こっち見ないでください。気持ち悪いです」
訂正。超嫌われてます。
「あんまりにも悲しいのでぷに子と遊ぼう。おいで、ぷに子」
「ぷにーっ!」
「あっ、こらっ!」
おいでおいでしたら、ぷに子は委員長の拘束を解き、ばびゅーんと飛んできた。がっしと受け止め、頭をなでる。
「ぷにっ、ぷにっ♪」
「ああはいはい、落ち着け」
「ぷににー♪」
「うぐ……そ、そんなことしてる暇があるなら魚を食べなさい、魚っ!」
「もがっ!?」
突然ぴちぴちと跳ねてる新鮮なお魚を口に突っ込まれた。
「ぷはっ。……あのな。どんな拷問だ」
「知りません! 別府くんのばか!」
「いやいや。人の口の中に魚突っ込む方がよほど馬鹿……というか、常識がないと思うぞ」
「ぷに! ぷににっ!」
俺と並び、一緒に委員長を攻撃するぷに子。ただ、ぷに語なので普通の人には何言ってんだか分かりゃしないが。
「ぷ、ぷにちゃんまで……別府くんに劣るだなんて、物凄くショックです」
しかし、委員長と俺はぷに子と付き合いが長いのでぷに語をなんとなく理解できる。そして俺以下はそんなにダメですか。俺まで落ち込みそうだ。
「ぷにー……」
そして、落ち込む二人に置いていかれたぷに子も落ち込んだ。
「いや、別にお前は落ち込まなくていいだろ」
「ぷに?」
ぷに子のほっぺをぷにぷにしながら訂正する。
「……ああもうっ! イチャイチャしすぎですっ! 私がいることをお忘れですかっ!?」
突如委員長が爆発したのでびっくりした。
「いや、イチャイチャって……別に、なぁ?」
「ぷにー♪」
「あああああっ!?」
なあ、って言ってるのに、ぷに子さんったら空気を読まずに俺に抱きついたりなんかして。頬擦りなんかしたりして(焦)。
「わっ、わざとですか!? わざと私に見せ付けてるんですか!?」
「なんでやねん」
なんか知らんが涙目になってる委員長にずびしと突っ込みをいれる。
「ううぅ……も、もういいです! 知りません! たあっ!」
たあの掛け声とともに、委員長が俺の膝にわっさと降って来た。右の膝にはぷに子、左の膝には委員長が住んでおります。
「なんで気がつけば両手に花なの?」
「知りません! 別府くんがこれみよがしにぷにちゃんとイチャイチャするからですっ! 理由なんてないですっ!」
「いやいや。超自分で理由言ってますが」
「うるさいですっ!」
委員長の目が石川賢ばりにぐるぐるしている。こいつぁマズイ。
「ぷにっ、ぷににっ!」
そしてコイツこそ理由はないのだろうけど、ぷに子が全力で頬擦りしてきてちょっと痛い。
「あっ! それ、私にも! 私にもしてください!」
「いやいや。別にこれは俺が能動的にしているのではなくて、ぷに子が自分から」
「早くっ!」
「……はい」
暴走してる委員長に道理を説いても無意味だ。俺は諦めて委員長に頬擦りした。
「ううううぅ……」
「い、委員長? 大丈夫か?」
「なんですかっ! 別に幸せなんかじゃないですっ! もっといっぱいしてくださいっ!」
「…………。はい」
なんか色々思ったが、頬擦り続行。
「ぷにっ! ぷににっ!」
と思ったが、何やらぷに子が怒ってる。
「あーと。まさかとは思うが、お前もしてほしいと?」
「ぷにー♪」
正解らしい。その証拠にほっぺにちゅってされた。
「ああーっ!? わ、私も! 私もそれする!」
「え」
と思う間もなく、真っ赤の顔が寄ってきて、ほっぺに柔らかくて熱い感触。
「え、えーと。い、委員長?」
「……さ、魚」
「はい?」
「魚! 最近食べてなかったから、私まで別府くんのレベルまで馬鹿になっちゃいました! だから、こんなことやっちゃってるんです! 普段の私ならこんなこと絶対やんないです!」
「あ、ああ、そだな」
少なくとも、普段の委員長ならもうちょっとマシな言い訳をしているハズ。
「わ、分かればいいんです。今日だけちょっとおかしいだけなんです。ふにふにしてください」
「なんか最後の言葉がおかしいです」
「冷静に指摘しないでくださいっ!」
委員長が顔を真っ赤にして怒った。
「わはは。委員長かーわいい」
「ううぅぅぅ……別府くんなんて大嫌いです」
「ぷにー♪」
「あっ、ぷにちゃんずるい! 私も!」
とまあ、なんていうか、なんていうか。暴走って怖いよね。
【アン 押しかけむぅ】
2011年03月31日
家でピコピコとゲームをしてると、何の前触れもなくドアがドアー(擬音)って開いたのでどあー(悲鳴)って驚いた。
「……洒落かい?」
「そう思われるのも癪だが、結果だけ見ればそうだな」
「ははは。君は面白いね」(棒読み)
「…………。んで、何用だ、アン」
人の家に突然押しかけてきた傍若無人なこやつはアンといい、名前からも分かるとおり外国人だ。スウェーデンだかスイスだかから来たらしいが、詳しいことはよく分からん。あそこらの地理は苦手だ。
こいつの本来の名前はアンジェリカなんたらかんたらという、30文字以上ある超長い名前だったので、もう最初から覚えるのは諦め、短くアンと呼んでいる。
金髪のうえ金色の瞳と、どんだけ金色が好きなんだこの娘はと思うところだが、身体のことなので実際は好きとか関係ないと思う。
「……何をしている」
と心の中でアンのパーソナルな情報について考えてると、その当人が俺の膝の上に乗っていた。
「ああ、気にしなくていい」
「いや、気にするだろ」
「家で優雅に紅茶を飲んでいたのだけれど、どうにも据わりがよくなくてね。どうしたものかと思っていたら、君がいないことに気づいてね。こうしてわざわざ来てあげたんだ」
「頼んでねぇ」
「ああ、それから紅茶を頼む。なに、種類は問わないから安心してくれ」
「俺は執事じゃねえからそんなのを甲斐甲斐しく準備しないし、そもそもこの家に紅茶はインスタントしか存在しねぇ」
「なんだって!? そんな家が存在するのか……」
一般庶民との格差に驚いている模様。これだから金持ちは。
「ていうか降りろ。もっさりした毛が邪魔だ」
「むぅ。君ねぇ、こんな可愛らしい女子が家に来たんだ。少しくらい喜んでも罰は当たらないと思うのだけれど」
アンは頬を膨らませ、俺の膝の上から人の頬をむいむい引っ張った。
「ゲームしてたんです。このままではお前の頭が邪魔で画面が見えません」
「むぅ。君はゲーム>私、なのか? ……まさか、君はいわゆる二次元しか愛せない人なのか?」
「三次元も愛せます」
「なんだ。君、あまり私を驚かせるものではないぞ」
「しかし、その言い方だとまるで俺がアンを愛しているかのようですね」
「これほど愛らしい容姿をしている私だ、心奪われるのも無理ない話だろう?」
「奪われてねぇ。ていうかお前も別に俺のこと好きとかじゃねえだろ」
「と、当然だ。どうして私が君なんかに。少しばかり仲が良いからといって、調子に乗るものではない」
「そういうことだから、お帰りください。俺は引き続きゲームする」
アンの両ワキに手を通し、膝から下ろす。そして手でドアの方を指し示す。
「むぅーっ!」
すると、不思議なことに再び俺の頬がむぃむぃと引っ張られた。
「痛いんですよ?」
「うるさい! 人がわざわざ来てやったというのに、君ときたら喜びもせず私を邪魔者扱いして! 不愉快だ、ああ不愉快だ!」
「ああもう叫ぶな。分かった、分かったから」
ゲーム機の電源を落とすと、俺はアンを再び膝の上に座らせ、頭をなでてなだめることにした。
「……君はいつだって私を子ども扱いしているな。頭をなでておけばそれで済むと思ってる」
「実際、落ち着いてるし」
「……君の髪をとかす技術に少しばかり感心しているだけだ。それだけだ」
「ふーん。お前以外の女性の髪触ったことないけど、うまいのか、これ」
くしくしとアンの金色の髪を指でとかしながら訊ねる。一切指にからまることのない滑らかな髪は、触れているだけで気持ちいい。
「少なくとも、私はこの膝でまどろむ時を、どの椅子で眠るより心地良いと感じている」
「椅子扱いか、俺」
「もう少し頑張れば無機物から脱却できるかもしれないよ?」
「せめて生命を持ったものになりたいものだ」
「この本を読み終えるまで私の頭をなでているのであれば、昇進も夢ではないかもしれないよ?」
アンは懐から小さな小説を取り出し、ページをめくった。
「めんどくせえから無機物でいいや」
「…………」(ほっぺぷくー&恨みがましい視線&半泣き)
「……有機物になるまで頑張るゼ」(なでなで)
「う、うむ。頑張るのだよ、君」
コクコクと機械みたいに何度もうなずくと、アンは小説を読み始めるのだった。同時に、俺のいつ終わるとも知れないなでなで地獄も始まったのだった。
「……洒落かい?」
「そう思われるのも癪だが、結果だけ見ればそうだな」
「ははは。君は面白いね」(棒読み)
「…………。んで、何用だ、アン」
人の家に突然押しかけてきた傍若無人なこやつはアンといい、名前からも分かるとおり外国人だ。スウェーデンだかスイスだかから来たらしいが、詳しいことはよく分からん。あそこらの地理は苦手だ。
こいつの本来の名前はアンジェリカなんたらかんたらという、30文字以上ある超長い名前だったので、もう最初から覚えるのは諦め、短くアンと呼んでいる。
金髪のうえ金色の瞳と、どんだけ金色が好きなんだこの娘はと思うところだが、身体のことなので実際は好きとか関係ないと思う。
「……何をしている」
と心の中でアンのパーソナルな情報について考えてると、その当人が俺の膝の上に乗っていた。
「ああ、気にしなくていい」
「いや、気にするだろ」
「家で優雅に紅茶を飲んでいたのだけれど、どうにも据わりがよくなくてね。どうしたものかと思っていたら、君がいないことに気づいてね。こうしてわざわざ来てあげたんだ」
「頼んでねぇ」
「ああ、それから紅茶を頼む。なに、種類は問わないから安心してくれ」
「俺は執事じゃねえからそんなのを甲斐甲斐しく準備しないし、そもそもこの家に紅茶はインスタントしか存在しねぇ」
「なんだって!? そんな家が存在するのか……」
一般庶民との格差に驚いている模様。これだから金持ちは。
「ていうか降りろ。もっさりした毛が邪魔だ」
「むぅ。君ねぇ、こんな可愛らしい女子が家に来たんだ。少しくらい喜んでも罰は当たらないと思うのだけれど」
アンは頬を膨らませ、俺の膝の上から人の頬をむいむい引っ張った。
「ゲームしてたんです。このままではお前の頭が邪魔で画面が見えません」
「むぅ。君はゲーム>私、なのか? ……まさか、君はいわゆる二次元しか愛せない人なのか?」
「三次元も愛せます」
「なんだ。君、あまり私を驚かせるものではないぞ」
「しかし、その言い方だとまるで俺がアンを愛しているかのようですね」
「これほど愛らしい容姿をしている私だ、心奪われるのも無理ない話だろう?」
「奪われてねぇ。ていうかお前も別に俺のこと好きとかじゃねえだろ」
「と、当然だ。どうして私が君なんかに。少しばかり仲が良いからといって、調子に乗るものではない」
「そういうことだから、お帰りください。俺は引き続きゲームする」
アンの両ワキに手を通し、膝から下ろす。そして手でドアの方を指し示す。
「むぅーっ!」
すると、不思議なことに再び俺の頬がむぃむぃと引っ張られた。
「痛いんですよ?」
「うるさい! 人がわざわざ来てやったというのに、君ときたら喜びもせず私を邪魔者扱いして! 不愉快だ、ああ不愉快だ!」
「ああもう叫ぶな。分かった、分かったから」
ゲーム機の電源を落とすと、俺はアンを再び膝の上に座らせ、頭をなでてなだめることにした。
「……君はいつだって私を子ども扱いしているな。頭をなでておけばそれで済むと思ってる」
「実際、落ち着いてるし」
「……君の髪をとかす技術に少しばかり感心しているだけだ。それだけだ」
「ふーん。お前以外の女性の髪触ったことないけど、うまいのか、これ」
くしくしとアンの金色の髪を指でとかしながら訊ねる。一切指にからまることのない滑らかな髪は、触れているだけで気持ちいい。
「少なくとも、私はこの膝でまどろむ時を、どの椅子で眠るより心地良いと感じている」
「椅子扱いか、俺」
「もう少し頑張れば無機物から脱却できるかもしれないよ?」
「せめて生命を持ったものになりたいものだ」
「この本を読み終えるまで私の頭をなでているのであれば、昇進も夢ではないかもしれないよ?」
アンは懐から小さな小説を取り出し、ページをめくった。
「めんどくせえから無機物でいいや」
「…………」(ほっぺぷくー&恨みがましい視線&半泣き)
「……有機物になるまで頑張るゼ」(なでなで)
「う、うむ。頑張るのだよ、君」
コクコクと機械みたいに何度もうなずくと、アンは小説を読み始めるのだった。同時に、俺のいつ終わるとも知れないなでなで地獄も始まったのだった。
悠久幻想曲のマリアの話
2011年03月26日
【婦警さん】
2010年10月18日
近頃朝方が寒いので布団のありがたみも増し、結果寝坊。こいつは大変にいけないと思いながら自転車を必死に漕いでたら、交差点で何かとぶつかった。
「いたた……こらーっ! 危ないじゃないの!」
「あーっ! おまえはさっきの転校生!」
「違うっ!」
「確かに。順番と職業と年齢を間違えた」
俺がぶつかった相手は同い年の転校生などではなく、青い制服に身を包んだ婦警さんだった。警察学校を出てすぐなのだろうか、俺とそう変わらない歳のように見える。向こうさんも自転車に乗っていたようで、近くで自転車が転がっていた。
「気をつけろ……機嫌を損ねると腰のマグナムが俺の心臓を撃ち抜くに違いねえ!」
「マグナムなんて物騒なもの持ってないわよ! ていうか、そもそも撃たない! キミねえ、あんまり変なこと言ってたら公務執行妨害で逮捕するわよ?」
「うっうっうっ……」
「泣きながら両手を差し出すなッ!」
「どうしろと言うのだ」
「こっちの台詞よ……はぁ、朝から変なのに捕まっちゃったなあ」
婦警さんは疲れたように肩を落とした。
「警官なのに捕まるとは洒落が利いてる。はっはっは」
「うるさいっ! もーいーから行きなさい。キミ、学生でしょ? いいの? 遅刻しちゃうわよ?」
「婦警さんに誘惑されたと言い張って遅刻から免れるから大丈夫だ」
「ちっとも大丈夫じゃないっ! ていうか、そんなので遅刻は免除しないと思うわよ!」
「どんなエロい誘惑をされたか、先生に詳しく説明するから大丈夫だ。なに、こう見えても趣味で小説を書いてる。そういった描写は得意だ」
「誰もそんな心配はしてないっ! あーもーっ、早く行けっ!」
「警察官に追い払われるとは。なかなかに悲しい出来事だ」
「いーから早く行きなさい。まったくもぉ……あ痛っ!」
失意のどん底に落ちながら自転車に乗ろうとしたら、婦警さんが突然声をあげた。
「どしました?」
「な、なんでもないのよ、なんでも。いいからキミは早く学校行きなさい」
婦警さんは俺の目から逃れるように右足を後ろに回した。だが、その程度で俺からは逃れられない!
「ククク……婦警さんもまだまだ甘いようで。この俺様に隙を見せるとはなぁ……」
「な、何よ。何をする気よ!」
「弱って動けない獲物を前に、何をするかだなんて……答える必要もあるまい?」
「ま、まさか……や、やだ、ちょっと、冗談でしょ?」
「それは……自分の身体に聞いてみなッ!」
「き……きゃあああああああッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
中二病を存分に発揮しながら婦警さんを抱き上げたら、いっぱい叩かれた。
「ヤだヤだヤだヤだ! おかあさーん!」
「痛い痛い。動くな。せめて殴るな」
殴られながらもずしーんずしーんと移動し、近くの公園へ。
「はい、ちょっとここで大人しくしてろよ」
「ううう……う?」
婦警さんをベンチに下ろし、近くの水道へ。ハンケチを水で濡らし、戻ってくる。
「はい、ちょと痛いヨー」
「痛っ!? ……あ」
ニセ中国人を装いながら、怪我した膝にハンカチをちょんちょんとあてる。砂などが取れたら、もう一度ハンカチを濡らし、膝にあてる。
「ん、これでよし。交番に戻ったらちゃんと手当てしろよ。んじゃ、俺は学校行ってくる」
「え……あ、え?」
「ばーいびー」
そのまま颯爽と自転車にまたがって去れたらそれなりに格好もつくのだろうが、生憎と徒歩で公園まで来たので、てってこ走って公園から逃げる。やれやれ、恥ずかしい。
遅刻した言い訳に嘘エロ小噺を担任にしたら余計に怒られ、放課後、一人で教室の掃除をするよう言いつけられてしまった。
「あー……疲れた」
どうにか終わった頃には、既に5時を回っていた。さて、帰るか。
だらだらと自転車を漕いでると、朝に事故った交差点に出くわした。……まさか朝の婦警、いやしないだろうな。
「……あーっ! き、キミ! そこのキミ!」
「ん? ぐあ」
「……そ、そう。こっち振り向いて今まさに電柱にぶつかったキミ」
「……それはつまり俺のことだな」
朝と同じように地面に転がりながら答える。
「あ、あははー……ごめんね? 私が声かけなかったらぶつからなかったよね?」
「全くだ。あいたた……」
むっくら起き上がり、声の主を確かめる……までもなく、奴だ。朝の婦警だ。
「それで、何用だ? くだらん用件だと殺す」
「おまわりさんだよ!?」
「しまった、図に乗った。……でも、まあ、いいか!」
「よくないっ! ……じゃなかった。え、えっと、えっとね?」
「なんだろうか。やっぱ捕まえるの? 嫌だなあ。まあいいや、はい」
「違うっ! すぐに両手を差し出すなっ! ……え、えっと、これ」
そう言いながら、婦警さんは何やら布っきれを差し出した。なんだろう。なんか見覚えあるな。
「は、ハンカチ。朝、キミが貸してくれたの」
「ああ、そうそう。思い出した。記憶のピースががっちと一致した。ああすっきりした。じゃあ俺はこれで」
「待って待ってまだ話終わってない!」
「なに? 捕まえるの?」
「なんでキミはそう捕まえられたがるかなあ……」
「基本的にビクビクして生きているもので」
「何かの虫みたいだね、キミ」
酷い言われ様だ。
「そ、そうじゃなくてね。あ、あの、え~っと……ほ、ほら! 警察官を助けたで賞を授与しないといけないの!」
「うわ、超頭悪ぃ」
「警察官に酷い暴言を!?」
「しまった。俺って奴はいつもこうだ。はい、どうぞ」
「だから、すぐに両手を差し出すなっ! ホントに逮捕しちゃうぞ!?」
「昔そんなアニメがありましたね。いや全然知らないので踏み込まれると何もできなくなるので気をつけて」
「う~……そんなのはどうでもいいのっ! 朝のお礼をしたいの! で、でも、言っとくけど、好意とかじゃないから勘違いしたらダメだよ? ただの警察官としてのお礼なんだからね?」
「知らん。ていうか、礼とかいいです」
「いくないの! あのね、ちゃんといいことしたんだから、お礼を受けるのは当たり前なんだよ?」
「そんな大層なことをした覚えはないんだが……」
「…………」
「ん? どした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔、いわゆるハト豆な顔をして」
「そんないわゆるなんてないよっ! じゃなくてね、……ううん、まあいいや!」
「?」
「いーの! こほん。……え、えっとね。ほ、ほら、私……じゃないや。本官は警察官なので、本官を助けてくれたキミにお礼しないといけないの」
「さっきも言ったけど、礼とかいらないのですが」
「いいの! しないといけないの! キミは黙ってお礼されたらいいの!」
「まあくれるというなら貰うが……一体どんなお礼を?」
「え? え、えーっと……」
……何も考えてなかったな、コイツ。
「ま、待って! すぐ! すぐ考えるから!」
「もういいよ。なんか疲れたし帰る」
「待って待って帰らないで! すぐ思いつくから!」
「いい。帰る」
「待って待って待ってー!」
そのまま回れ右して帰ろうとしたのだが、ありえないことに婦警さんは俺の腕にしがみついて動きを遮った。
「ええい、離せ!」
「お礼するまで離さないー!」
「じゃあもうその乳の感触がお礼ってことにするから離せ」
さっきから腕にほにょんほにょんとそれなりの大きさの乳の感触が踊っていてお兄さん嬉しいです。
「え……え、えっち!」
「ぐがっ」
なんか脳天にすげぇ衝撃。超殴られたっぽい。
「いてて……お、お前なあ、恩人を殴るか?」
「う、うるさい、ばかっ! えっちなこと言うキミが悪いんだからね!」
婦警さんは少し離れた場所から顔を真っ赤にして叫んでいた。
「子供の戯言と流せよ……」
「なんかキミ私より年下とは思えないんだもん! 留年しまくって二十歳超えてたりする?」
「酷い侮辱だ。新聞に投書してやる」
「う、うそ、うそ! 私が幼すぎるだけだよ!」
「知り合って間もないが、よく知ってる」
「冷静に肯定されちゃった……」
なんか打ちひしがれている。
「まあそう落ち込むな。大丈夫、体つきはそれなりに大人だったぞ!」
「嬉しくないっ!」
ずびしっと親指を立ててウインクしてやったというのに、婦警さんときたら先ほどより顔を赤らめるばかり。
「ううう……と、とにかく! お礼するから、ここに住所と名前と電話番号書いて!」
そう言って、婦警さんは懐から手帳を取り出した。
「個人情報保護の観点から断りたいです」
「う、ううう……」
「泣きそうになるなッ! 分かった、書くよ、書きゃーいいんだろっ!」
半泣きの婦警さんから手帳を奪い取り、手早く書く。ほんとに大人か、この人。
「な、泣いてなんかないからねっ! ちょっと悲しくなっちゃっただけなんだから! 大人がこんなすぐ泣くわけないじゃないの!」
「いばるな。ほい、書いた」
手帳を返すと、婦警さんは顔を輝かせた。
「へへ……。じゃあ、思いついたらお礼するから! 忘れないからね! 覚えててね!」
「知らん。ていうか、いいと言ってるのに」
「私の気が済まないの!」
「超面倒臭え」
「面倒臭いとか言わないの! ……あ、ああーっ! もうこんな時間! 大変、先輩にまた怒られる!」
ふと腕時計を見て、婦警さんは素っ頓狂な声をあげた。
「また、って……お前はいっつも怒られているんだなあ」
「……た、たまにだよ? ホントに」
「こんな信頼できない台詞初めてだ」
「ホントに! ホントなの! そんなへっぽこじゃないの!」
「いーから早く行けへっぽこ婦警。早くしないと先輩とやらに怒られるぞ」
「酷いあだ名つけられた!?」
なにやらぶちぶち言いながら、婦警さんは自転車に乗って去っていった。
「あー……なんか超疲れた。……あ」
そういや、ハンカチ貸したままだ。……まあいいか、なんかまたお礼するとか言ってたし、その時で。
「いたた……こらーっ! 危ないじゃないの!」
「あーっ! おまえはさっきの転校生!」
「違うっ!」
「確かに。順番と職業と年齢を間違えた」
俺がぶつかった相手は同い年の転校生などではなく、青い制服に身を包んだ婦警さんだった。警察学校を出てすぐなのだろうか、俺とそう変わらない歳のように見える。向こうさんも自転車に乗っていたようで、近くで自転車が転がっていた。
「気をつけろ……機嫌を損ねると腰のマグナムが俺の心臓を撃ち抜くに違いねえ!」
「マグナムなんて物騒なもの持ってないわよ! ていうか、そもそも撃たない! キミねえ、あんまり変なこと言ってたら公務執行妨害で逮捕するわよ?」
「うっうっうっ……」
「泣きながら両手を差し出すなッ!」
「どうしろと言うのだ」
「こっちの台詞よ……はぁ、朝から変なのに捕まっちゃったなあ」
婦警さんは疲れたように肩を落とした。
「警官なのに捕まるとは洒落が利いてる。はっはっは」
「うるさいっ! もーいーから行きなさい。キミ、学生でしょ? いいの? 遅刻しちゃうわよ?」
「婦警さんに誘惑されたと言い張って遅刻から免れるから大丈夫だ」
「ちっとも大丈夫じゃないっ! ていうか、そんなので遅刻は免除しないと思うわよ!」
「どんなエロい誘惑をされたか、先生に詳しく説明するから大丈夫だ。なに、こう見えても趣味で小説を書いてる。そういった描写は得意だ」
「誰もそんな心配はしてないっ! あーもーっ、早く行けっ!」
「警察官に追い払われるとは。なかなかに悲しい出来事だ」
「いーから早く行きなさい。まったくもぉ……あ痛っ!」
失意のどん底に落ちながら自転車に乗ろうとしたら、婦警さんが突然声をあげた。
「どしました?」
「な、なんでもないのよ、なんでも。いいからキミは早く学校行きなさい」
婦警さんは俺の目から逃れるように右足を後ろに回した。だが、その程度で俺からは逃れられない!
「ククク……婦警さんもまだまだ甘いようで。この俺様に隙を見せるとはなぁ……」
「な、何よ。何をする気よ!」
「弱って動けない獲物を前に、何をするかだなんて……答える必要もあるまい?」
「ま、まさか……や、やだ、ちょっと、冗談でしょ?」
「それは……自分の身体に聞いてみなッ!」
「き……きゃあああああああッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
中二病を存分に発揮しながら婦警さんを抱き上げたら、いっぱい叩かれた。
「ヤだヤだヤだヤだ! おかあさーん!」
「痛い痛い。動くな。せめて殴るな」
殴られながらもずしーんずしーんと移動し、近くの公園へ。
「はい、ちょっとここで大人しくしてろよ」
「ううう……う?」
婦警さんをベンチに下ろし、近くの水道へ。ハンケチを水で濡らし、戻ってくる。
「はい、ちょと痛いヨー」
「痛っ!? ……あ」
ニセ中国人を装いながら、怪我した膝にハンカチをちょんちょんとあてる。砂などが取れたら、もう一度ハンカチを濡らし、膝にあてる。
「ん、これでよし。交番に戻ったらちゃんと手当てしろよ。んじゃ、俺は学校行ってくる」
「え……あ、え?」
「ばーいびー」
そのまま颯爽と自転車にまたがって去れたらそれなりに格好もつくのだろうが、生憎と徒歩で公園まで来たので、てってこ走って公園から逃げる。やれやれ、恥ずかしい。
遅刻した言い訳に嘘エロ小噺を担任にしたら余計に怒られ、放課後、一人で教室の掃除をするよう言いつけられてしまった。
「あー……疲れた」
どうにか終わった頃には、既に5時を回っていた。さて、帰るか。
だらだらと自転車を漕いでると、朝に事故った交差点に出くわした。……まさか朝の婦警、いやしないだろうな。
「……あーっ! き、キミ! そこのキミ!」
「ん? ぐあ」
「……そ、そう。こっち振り向いて今まさに電柱にぶつかったキミ」
「……それはつまり俺のことだな」
朝と同じように地面に転がりながら答える。
「あ、あははー……ごめんね? 私が声かけなかったらぶつからなかったよね?」
「全くだ。あいたた……」
むっくら起き上がり、声の主を確かめる……までもなく、奴だ。朝の婦警だ。
「それで、何用だ? くだらん用件だと殺す」
「おまわりさんだよ!?」
「しまった、図に乗った。……でも、まあ、いいか!」
「よくないっ! ……じゃなかった。え、えっと、えっとね?」
「なんだろうか。やっぱ捕まえるの? 嫌だなあ。まあいいや、はい」
「違うっ! すぐに両手を差し出すなっ! ……え、えっと、これ」
そう言いながら、婦警さんは何やら布っきれを差し出した。なんだろう。なんか見覚えあるな。
「は、ハンカチ。朝、キミが貸してくれたの」
「ああ、そうそう。思い出した。記憶のピースががっちと一致した。ああすっきりした。じゃあ俺はこれで」
「待って待ってまだ話終わってない!」
「なに? 捕まえるの?」
「なんでキミはそう捕まえられたがるかなあ……」
「基本的にビクビクして生きているもので」
「何かの虫みたいだね、キミ」
酷い言われ様だ。
「そ、そうじゃなくてね。あ、あの、え~っと……ほ、ほら! 警察官を助けたで賞を授与しないといけないの!」
「うわ、超頭悪ぃ」
「警察官に酷い暴言を!?」
「しまった。俺って奴はいつもこうだ。はい、どうぞ」
「だから、すぐに両手を差し出すなっ! ホントに逮捕しちゃうぞ!?」
「昔そんなアニメがありましたね。いや全然知らないので踏み込まれると何もできなくなるので気をつけて」
「う~……そんなのはどうでもいいのっ! 朝のお礼をしたいの! で、でも、言っとくけど、好意とかじゃないから勘違いしたらダメだよ? ただの警察官としてのお礼なんだからね?」
「知らん。ていうか、礼とかいいです」
「いくないの! あのね、ちゃんといいことしたんだから、お礼を受けるのは当たり前なんだよ?」
「そんな大層なことをした覚えはないんだが……」
「…………」
「ん? どした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔、いわゆるハト豆な顔をして」
「そんないわゆるなんてないよっ! じゃなくてね、……ううん、まあいいや!」
「?」
「いーの! こほん。……え、えっとね。ほ、ほら、私……じゃないや。本官は警察官なので、本官を助けてくれたキミにお礼しないといけないの」
「さっきも言ったけど、礼とかいらないのですが」
「いいの! しないといけないの! キミは黙ってお礼されたらいいの!」
「まあくれるというなら貰うが……一体どんなお礼を?」
「え? え、えーっと……」
……何も考えてなかったな、コイツ。
「ま、待って! すぐ! すぐ考えるから!」
「もういいよ。なんか疲れたし帰る」
「待って待って帰らないで! すぐ思いつくから!」
「いい。帰る」
「待って待って待ってー!」
そのまま回れ右して帰ろうとしたのだが、ありえないことに婦警さんは俺の腕にしがみついて動きを遮った。
「ええい、離せ!」
「お礼するまで離さないー!」
「じゃあもうその乳の感触がお礼ってことにするから離せ」
さっきから腕にほにょんほにょんとそれなりの大きさの乳の感触が踊っていてお兄さん嬉しいです。
「え……え、えっち!」
「ぐがっ」
なんか脳天にすげぇ衝撃。超殴られたっぽい。
「いてて……お、お前なあ、恩人を殴るか?」
「う、うるさい、ばかっ! えっちなこと言うキミが悪いんだからね!」
婦警さんは少し離れた場所から顔を真っ赤にして叫んでいた。
「子供の戯言と流せよ……」
「なんかキミ私より年下とは思えないんだもん! 留年しまくって二十歳超えてたりする?」
「酷い侮辱だ。新聞に投書してやる」
「う、うそ、うそ! 私が幼すぎるだけだよ!」
「知り合って間もないが、よく知ってる」
「冷静に肯定されちゃった……」
なんか打ちひしがれている。
「まあそう落ち込むな。大丈夫、体つきはそれなりに大人だったぞ!」
「嬉しくないっ!」
ずびしっと親指を立ててウインクしてやったというのに、婦警さんときたら先ほどより顔を赤らめるばかり。
「ううう……と、とにかく! お礼するから、ここに住所と名前と電話番号書いて!」
そう言って、婦警さんは懐から手帳を取り出した。
「個人情報保護の観点から断りたいです」
「う、ううう……」
「泣きそうになるなッ! 分かった、書くよ、書きゃーいいんだろっ!」
半泣きの婦警さんから手帳を奪い取り、手早く書く。ほんとに大人か、この人。
「な、泣いてなんかないからねっ! ちょっと悲しくなっちゃっただけなんだから! 大人がこんなすぐ泣くわけないじゃないの!」
「いばるな。ほい、書いた」
手帳を返すと、婦警さんは顔を輝かせた。
「へへ……。じゃあ、思いついたらお礼するから! 忘れないからね! 覚えててね!」
「知らん。ていうか、いいと言ってるのに」
「私の気が済まないの!」
「超面倒臭え」
「面倒臭いとか言わないの! ……あ、ああーっ! もうこんな時間! 大変、先輩にまた怒られる!」
ふと腕時計を見て、婦警さんは素っ頓狂な声をあげた。
「また、って……お前はいっつも怒られているんだなあ」
「……た、たまにだよ? ホントに」
「こんな信頼できない台詞初めてだ」
「ホントに! ホントなの! そんなへっぽこじゃないの!」
「いーから早く行けへっぽこ婦警。早くしないと先輩とやらに怒られるぞ」
「酷いあだ名つけられた!?」
なにやらぶちぶち言いながら、婦警さんは自転車に乗って去っていった。
「あー……なんか超疲れた。……あ」
そういや、ハンカチ貸したままだ。……まあいいか、なんかまたお礼するとか言ってたし、その時で。