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2024年11月21日
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【婦警さん】
2010年10月18日
近頃朝方が寒いので布団のありがたみも増し、結果寝坊。こいつは大変にいけないと思いながら自転車を必死に漕いでたら、交差点で何かとぶつかった。
「いたた……こらーっ! 危ないじゃないの!」
「あーっ! おまえはさっきの転校生!」
「違うっ!」
「確かに。順番と職業と年齢を間違えた」
俺がぶつかった相手は同い年の転校生などではなく、青い制服に身を包んだ婦警さんだった。警察学校を出てすぐなのだろうか、俺とそう変わらない歳のように見える。向こうさんも自転車に乗っていたようで、近くで自転車が転がっていた。
「気をつけろ……機嫌を損ねると腰のマグナムが俺の心臓を撃ち抜くに違いねえ!」
「マグナムなんて物騒なもの持ってないわよ! ていうか、そもそも撃たない! キミねえ、あんまり変なこと言ってたら公務執行妨害で逮捕するわよ?」
「うっうっうっ……」
「泣きながら両手を差し出すなッ!」
「どうしろと言うのだ」
「こっちの台詞よ……はぁ、朝から変なのに捕まっちゃったなあ」
婦警さんは疲れたように肩を落とした。
「警官なのに捕まるとは洒落が利いてる。はっはっは」
「うるさいっ! もーいーから行きなさい。キミ、学生でしょ? いいの? 遅刻しちゃうわよ?」
「婦警さんに誘惑されたと言い張って遅刻から免れるから大丈夫だ」
「ちっとも大丈夫じゃないっ! ていうか、そんなので遅刻は免除しないと思うわよ!」
「どんなエロい誘惑をされたか、先生に詳しく説明するから大丈夫だ。なに、こう見えても趣味で小説を書いてる。そういった描写は得意だ」
「誰もそんな心配はしてないっ! あーもーっ、早く行けっ!」
「警察官に追い払われるとは。なかなかに悲しい出来事だ」
「いーから早く行きなさい。まったくもぉ……あ痛っ!」
失意のどん底に落ちながら自転車に乗ろうとしたら、婦警さんが突然声をあげた。
「どしました?」
「な、なんでもないのよ、なんでも。いいからキミは早く学校行きなさい」
婦警さんは俺の目から逃れるように右足を後ろに回した。だが、その程度で俺からは逃れられない!
「ククク……婦警さんもまだまだ甘いようで。この俺様に隙を見せるとはなぁ……」
「な、何よ。何をする気よ!」
「弱って動けない獲物を前に、何をするかだなんて……答える必要もあるまい?」
「ま、まさか……や、やだ、ちょっと、冗談でしょ?」
「それは……自分の身体に聞いてみなッ!」
「き……きゃあああああああッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
中二病を存分に発揮しながら婦警さんを抱き上げたら、いっぱい叩かれた。
「ヤだヤだヤだヤだ! おかあさーん!」
「痛い痛い。動くな。せめて殴るな」
殴られながらもずしーんずしーんと移動し、近くの公園へ。
「はい、ちょっとここで大人しくしてろよ」
「ううう……う?」
婦警さんをベンチに下ろし、近くの水道へ。ハンケチを水で濡らし、戻ってくる。
「はい、ちょと痛いヨー」
「痛っ!? ……あ」
ニセ中国人を装いながら、怪我した膝にハンカチをちょんちょんとあてる。砂などが取れたら、もう一度ハンカチを濡らし、膝にあてる。
「ん、これでよし。交番に戻ったらちゃんと手当てしろよ。んじゃ、俺は学校行ってくる」
「え……あ、え?」
「ばーいびー」
そのまま颯爽と自転車にまたがって去れたらそれなりに格好もつくのだろうが、生憎と徒歩で公園まで来たので、てってこ走って公園から逃げる。やれやれ、恥ずかしい。
遅刻した言い訳に嘘エロ小噺を担任にしたら余計に怒られ、放課後、一人で教室の掃除をするよう言いつけられてしまった。
「あー……疲れた」
どうにか終わった頃には、既に5時を回っていた。さて、帰るか。
だらだらと自転車を漕いでると、朝に事故った交差点に出くわした。……まさか朝の婦警、いやしないだろうな。
「……あーっ! き、キミ! そこのキミ!」
「ん? ぐあ」
「……そ、そう。こっち振り向いて今まさに電柱にぶつかったキミ」
「……それはつまり俺のことだな」
朝と同じように地面に転がりながら答える。
「あ、あははー……ごめんね? 私が声かけなかったらぶつからなかったよね?」
「全くだ。あいたた……」
むっくら起き上がり、声の主を確かめる……までもなく、奴だ。朝の婦警だ。
「それで、何用だ? くだらん用件だと殺す」
「おまわりさんだよ!?」
「しまった、図に乗った。……でも、まあ、いいか!」
「よくないっ! ……じゃなかった。え、えっと、えっとね?」
「なんだろうか。やっぱ捕まえるの? 嫌だなあ。まあいいや、はい」
「違うっ! すぐに両手を差し出すなっ! ……え、えっと、これ」
そう言いながら、婦警さんは何やら布っきれを差し出した。なんだろう。なんか見覚えあるな。
「は、ハンカチ。朝、キミが貸してくれたの」
「ああ、そうそう。思い出した。記憶のピースががっちと一致した。ああすっきりした。じゃあ俺はこれで」
「待って待ってまだ話終わってない!」
「なに? 捕まえるの?」
「なんでキミはそう捕まえられたがるかなあ……」
「基本的にビクビクして生きているもので」
「何かの虫みたいだね、キミ」
酷い言われ様だ。
「そ、そうじゃなくてね。あ、あの、え~っと……ほ、ほら! 警察官を助けたで賞を授与しないといけないの!」
「うわ、超頭悪ぃ」
「警察官に酷い暴言を!?」
「しまった。俺って奴はいつもこうだ。はい、どうぞ」
「だから、すぐに両手を差し出すなっ! ホントに逮捕しちゃうぞ!?」
「昔そんなアニメがありましたね。いや全然知らないので踏み込まれると何もできなくなるので気をつけて」
「う~……そんなのはどうでもいいのっ! 朝のお礼をしたいの! で、でも、言っとくけど、好意とかじゃないから勘違いしたらダメだよ? ただの警察官としてのお礼なんだからね?」
「知らん。ていうか、礼とかいいです」
「いくないの! あのね、ちゃんといいことしたんだから、お礼を受けるのは当たり前なんだよ?」
「そんな大層なことをした覚えはないんだが……」
「…………」
「ん? どした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔、いわゆるハト豆な顔をして」
「そんないわゆるなんてないよっ! じゃなくてね、……ううん、まあいいや!」
「?」
「いーの! こほん。……え、えっとね。ほ、ほら、私……じゃないや。本官は警察官なので、本官を助けてくれたキミにお礼しないといけないの」
「さっきも言ったけど、礼とかいらないのですが」
「いいの! しないといけないの! キミは黙ってお礼されたらいいの!」
「まあくれるというなら貰うが……一体どんなお礼を?」
「え? え、えーっと……」
……何も考えてなかったな、コイツ。
「ま、待って! すぐ! すぐ考えるから!」
「もういいよ。なんか疲れたし帰る」
「待って待って帰らないで! すぐ思いつくから!」
「いい。帰る」
「待って待って待ってー!」
そのまま回れ右して帰ろうとしたのだが、ありえないことに婦警さんは俺の腕にしがみついて動きを遮った。
「ええい、離せ!」
「お礼するまで離さないー!」
「じゃあもうその乳の感触がお礼ってことにするから離せ」
さっきから腕にほにょんほにょんとそれなりの大きさの乳の感触が踊っていてお兄さん嬉しいです。
「え……え、えっち!」
「ぐがっ」
なんか脳天にすげぇ衝撃。超殴られたっぽい。
「いてて……お、お前なあ、恩人を殴るか?」
「う、うるさい、ばかっ! えっちなこと言うキミが悪いんだからね!」
婦警さんは少し離れた場所から顔を真っ赤にして叫んでいた。
「子供の戯言と流せよ……」
「なんかキミ私より年下とは思えないんだもん! 留年しまくって二十歳超えてたりする?」
「酷い侮辱だ。新聞に投書してやる」
「う、うそ、うそ! 私が幼すぎるだけだよ!」
「知り合って間もないが、よく知ってる」
「冷静に肯定されちゃった……」
なんか打ちひしがれている。
「まあそう落ち込むな。大丈夫、体つきはそれなりに大人だったぞ!」
「嬉しくないっ!」
ずびしっと親指を立ててウインクしてやったというのに、婦警さんときたら先ほどより顔を赤らめるばかり。
「ううう……と、とにかく! お礼するから、ここに住所と名前と電話番号書いて!」
そう言って、婦警さんは懐から手帳を取り出した。
「個人情報保護の観点から断りたいです」
「う、ううう……」
「泣きそうになるなッ! 分かった、書くよ、書きゃーいいんだろっ!」
半泣きの婦警さんから手帳を奪い取り、手早く書く。ほんとに大人か、この人。
「な、泣いてなんかないからねっ! ちょっと悲しくなっちゃっただけなんだから! 大人がこんなすぐ泣くわけないじゃないの!」
「いばるな。ほい、書いた」
手帳を返すと、婦警さんは顔を輝かせた。
「へへ……。じゃあ、思いついたらお礼するから! 忘れないからね! 覚えててね!」
「知らん。ていうか、いいと言ってるのに」
「私の気が済まないの!」
「超面倒臭え」
「面倒臭いとか言わないの! ……あ、ああーっ! もうこんな時間! 大変、先輩にまた怒られる!」
ふと腕時計を見て、婦警さんは素っ頓狂な声をあげた。
「また、って……お前はいっつも怒られているんだなあ」
「……た、たまにだよ? ホントに」
「こんな信頼できない台詞初めてだ」
「ホントに! ホントなの! そんなへっぽこじゃないの!」
「いーから早く行けへっぽこ婦警。早くしないと先輩とやらに怒られるぞ」
「酷いあだ名つけられた!?」
なにやらぶちぶち言いながら、婦警さんは自転車に乗って去っていった。
「あー……なんか超疲れた。……あ」
そういや、ハンカチ貸したままだ。……まあいいか、なんかまたお礼するとか言ってたし、その時で。
「いたた……こらーっ! 危ないじゃないの!」
「あーっ! おまえはさっきの転校生!」
「違うっ!」
「確かに。順番と職業と年齢を間違えた」
俺がぶつかった相手は同い年の転校生などではなく、青い制服に身を包んだ婦警さんだった。警察学校を出てすぐなのだろうか、俺とそう変わらない歳のように見える。向こうさんも自転車に乗っていたようで、近くで自転車が転がっていた。
「気をつけろ……機嫌を損ねると腰のマグナムが俺の心臓を撃ち抜くに違いねえ!」
「マグナムなんて物騒なもの持ってないわよ! ていうか、そもそも撃たない! キミねえ、あんまり変なこと言ってたら公務執行妨害で逮捕するわよ?」
「うっうっうっ……」
「泣きながら両手を差し出すなッ!」
「どうしろと言うのだ」
「こっちの台詞よ……はぁ、朝から変なのに捕まっちゃったなあ」
婦警さんは疲れたように肩を落とした。
「警官なのに捕まるとは洒落が利いてる。はっはっは」
「うるさいっ! もーいーから行きなさい。キミ、学生でしょ? いいの? 遅刻しちゃうわよ?」
「婦警さんに誘惑されたと言い張って遅刻から免れるから大丈夫だ」
「ちっとも大丈夫じゃないっ! ていうか、そんなので遅刻は免除しないと思うわよ!」
「どんなエロい誘惑をされたか、先生に詳しく説明するから大丈夫だ。なに、こう見えても趣味で小説を書いてる。そういった描写は得意だ」
「誰もそんな心配はしてないっ! あーもーっ、早く行けっ!」
「警察官に追い払われるとは。なかなかに悲しい出来事だ」
「いーから早く行きなさい。まったくもぉ……あ痛っ!」
失意のどん底に落ちながら自転車に乗ろうとしたら、婦警さんが突然声をあげた。
「どしました?」
「な、なんでもないのよ、なんでも。いいからキミは早く学校行きなさい」
婦警さんは俺の目から逃れるように右足を後ろに回した。だが、その程度で俺からは逃れられない!
「ククク……婦警さんもまだまだ甘いようで。この俺様に隙を見せるとはなぁ……」
「な、何よ。何をする気よ!」
「弱って動けない獲物を前に、何をするかだなんて……答える必要もあるまい?」
「ま、まさか……や、やだ、ちょっと、冗談でしょ?」
「それは……自分の身体に聞いてみなッ!」
「き……きゃあああああああッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
中二病を存分に発揮しながら婦警さんを抱き上げたら、いっぱい叩かれた。
「ヤだヤだヤだヤだ! おかあさーん!」
「痛い痛い。動くな。せめて殴るな」
殴られながらもずしーんずしーんと移動し、近くの公園へ。
「はい、ちょっとここで大人しくしてろよ」
「ううう……う?」
婦警さんをベンチに下ろし、近くの水道へ。ハンケチを水で濡らし、戻ってくる。
「はい、ちょと痛いヨー」
「痛っ!? ……あ」
ニセ中国人を装いながら、怪我した膝にハンカチをちょんちょんとあてる。砂などが取れたら、もう一度ハンカチを濡らし、膝にあてる。
「ん、これでよし。交番に戻ったらちゃんと手当てしろよ。んじゃ、俺は学校行ってくる」
「え……あ、え?」
「ばーいびー」
そのまま颯爽と自転車にまたがって去れたらそれなりに格好もつくのだろうが、生憎と徒歩で公園まで来たので、てってこ走って公園から逃げる。やれやれ、恥ずかしい。
遅刻した言い訳に嘘エロ小噺を担任にしたら余計に怒られ、放課後、一人で教室の掃除をするよう言いつけられてしまった。
「あー……疲れた」
どうにか終わった頃には、既に5時を回っていた。さて、帰るか。
だらだらと自転車を漕いでると、朝に事故った交差点に出くわした。……まさか朝の婦警、いやしないだろうな。
「……あーっ! き、キミ! そこのキミ!」
「ん? ぐあ」
「……そ、そう。こっち振り向いて今まさに電柱にぶつかったキミ」
「……それはつまり俺のことだな」
朝と同じように地面に転がりながら答える。
「あ、あははー……ごめんね? 私が声かけなかったらぶつからなかったよね?」
「全くだ。あいたた……」
むっくら起き上がり、声の主を確かめる……までもなく、奴だ。朝の婦警だ。
「それで、何用だ? くだらん用件だと殺す」
「おまわりさんだよ!?」
「しまった、図に乗った。……でも、まあ、いいか!」
「よくないっ! ……じゃなかった。え、えっと、えっとね?」
「なんだろうか。やっぱ捕まえるの? 嫌だなあ。まあいいや、はい」
「違うっ! すぐに両手を差し出すなっ! ……え、えっと、これ」
そう言いながら、婦警さんは何やら布っきれを差し出した。なんだろう。なんか見覚えあるな。
「は、ハンカチ。朝、キミが貸してくれたの」
「ああ、そうそう。思い出した。記憶のピースががっちと一致した。ああすっきりした。じゃあ俺はこれで」
「待って待ってまだ話終わってない!」
「なに? 捕まえるの?」
「なんでキミはそう捕まえられたがるかなあ……」
「基本的にビクビクして生きているもので」
「何かの虫みたいだね、キミ」
酷い言われ様だ。
「そ、そうじゃなくてね。あ、あの、え~っと……ほ、ほら! 警察官を助けたで賞を授与しないといけないの!」
「うわ、超頭悪ぃ」
「警察官に酷い暴言を!?」
「しまった。俺って奴はいつもこうだ。はい、どうぞ」
「だから、すぐに両手を差し出すなっ! ホントに逮捕しちゃうぞ!?」
「昔そんなアニメがありましたね。いや全然知らないので踏み込まれると何もできなくなるので気をつけて」
「う~……そんなのはどうでもいいのっ! 朝のお礼をしたいの! で、でも、言っとくけど、好意とかじゃないから勘違いしたらダメだよ? ただの警察官としてのお礼なんだからね?」
「知らん。ていうか、礼とかいいです」
「いくないの! あのね、ちゃんといいことしたんだから、お礼を受けるのは当たり前なんだよ?」
「そんな大層なことをした覚えはないんだが……」
「…………」
「ん? どした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔、いわゆるハト豆な顔をして」
「そんないわゆるなんてないよっ! じゃなくてね、……ううん、まあいいや!」
「?」
「いーの! こほん。……え、えっとね。ほ、ほら、私……じゃないや。本官は警察官なので、本官を助けてくれたキミにお礼しないといけないの」
「さっきも言ったけど、礼とかいらないのですが」
「いいの! しないといけないの! キミは黙ってお礼されたらいいの!」
「まあくれるというなら貰うが……一体どんなお礼を?」
「え? え、えーっと……」
……何も考えてなかったな、コイツ。
「ま、待って! すぐ! すぐ考えるから!」
「もういいよ。なんか疲れたし帰る」
「待って待って帰らないで! すぐ思いつくから!」
「いい。帰る」
「待って待って待ってー!」
そのまま回れ右して帰ろうとしたのだが、ありえないことに婦警さんは俺の腕にしがみついて動きを遮った。
「ええい、離せ!」
「お礼するまで離さないー!」
「じゃあもうその乳の感触がお礼ってことにするから離せ」
さっきから腕にほにょんほにょんとそれなりの大きさの乳の感触が踊っていてお兄さん嬉しいです。
「え……え、えっち!」
「ぐがっ」
なんか脳天にすげぇ衝撃。超殴られたっぽい。
「いてて……お、お前なあ、恩人を殴るか?」
「う、うるさい、ばかっ! えっちなこと言うキミが悪いんだからね!」
婦警さんは少し離れた場所から顔を真っ赤にして叫んでいた。
「子供の戯言と流せよ……」
「なんかキミ私より年下とは思えないんだもん! 留年しまくって二十歳超えてたりする?」
「酷い侮辱だ。新聞に投書してやる」
「う、うそ、うそ! 私が幼すぎるだけだよ!」
「知り合って間もないが、よく知ってる」
「冷静に肯定されちゃった……」
なんか打ちひしがれている。
「まあそう落ち込むな。大丈夫、体つきはそれなりに大人だったぞ!」
「嬉しくないっ!」
ずびしっと親指を立ててウインクしてやったというのに、婦警さんときたら先ほどより顔を赤らめるばかり。
「ううう……と、とにかく! お礼するから、ここに住所と名前と電話番号書いて!」
そう言って、婦警さんは懐から手帳を取り出した。
「個人情報保護の観点から断りたいです」
「う、ううう……」
「泣きそうになるなッ! 分かった、書くよ、書きゃーいいんだろっ!」
半泣きの婦警さんから手帳を奪い取り、手早く書く。ほんとに大人か、この人。
「な、泣いてなんかないからねっ! ちょっと悲しくなっちゃっただけなんだから! 大人がこんなすぐ泣くわけないじゃないの!」
「いばるな。ほい、書いた」
手帳を返すと、婦警さんは顔を輝かせた。
「へへ……。じゃあ、思いついたらお礼するから! 忘れないからね! 覚えててね!」
「知らん。ていうか、いいと言ってるのに」
「私の気が済まないの!」
「超面倒臭え」
「面倒臭いとか言わないの! ……あ、ああーっ! もうこんな時間! 大変、先輩にまた怒られる!」
ふと腕時計を見て、婦警さんは素っ頓狂な声をあげた。
「また、って……お前はいっつも怒られているんだなあ」
「……た、たまにだよ? ホントに」
「こんな信頼できない台詞初めてだ」
「ホントに! ホントなの! そんなへっぽこじゃないの!」
「いーから早く行けへっぽこ婦警。早くしないと先輩とやらに怒られるぞ」
「酷いあだ名つけられた!?」
なにやらぶちぶち言いながら、婦警さんは自転車に乗って去っていった。
「あー……なんか超疲れた。……あ」
そういや、ハンカチ貸したままだ。……まあいいか、なんかまたお礼するとか言ってたし、その時で。
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