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2024年11月23日
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紫1

2010年04月12日
 歩いてると、なんか踏んだ。
紫「いったー! アンタ、いきなり何すんのよ!」
男「なんか足元から声がする気がする」
紫「踏んでる! すっごい頭踏んでる! とっととのけ!」
男「ちょっと人生に疲れたな……ここらで一休みするか」
 その場に座り込むと、下から「むぎゅ」という愉快な音がした。
男「茶でもすするか。水筒こぽこぽ……はふー」
紫「のけって……言ってるでしょーッ!」
 噴火したように紫が立ち上がった。押されて顔から地面に激突する。さらに持ってたコップが宙を舞い、中の茶が俺に降り注いだ。
男「うーん、冷たい」
紫「ちょっと! 人が昼寝してる所をいきなり踏むなんて、マナー違反よ!」
 マナー違反というのはどうかと思う。
男「ごめんなさい、小さくて見えなかったんだ」
紫「ちっ、小さい!? 小さいって言った!?」
男「水筒こぽこぽ……はふー」
紫「なにお茶飲んでるのよ!」
男「ああん」
 お茶を取り上げられた。
紫「訂正して。『紫は小さくなんかない、それどころか人並み以上に大きい大人の女性だ』って」
 随分と脚色されていた。
男「ええと……『紫は小さくない。ただし、胸はその真逆である』」
紫「ぜんっぜん違うっ!」
男「そんな長い文章覚えられるか。三文字で頼む」
紫「えっ! ええと、ええと……」
男「ごーよんさんにーいちー」
紫「ああっ、ま、待って!」
男「ぜろー。じゃ、そゆことで」
 そそくさと逃げようとしたら、足を掴まれた。すると、顔面から地面に当たって大変痛い。
男「痛いじゃないか」
紫「鼻血出てるわよ。かっこわる」
 出させた張本人がいけしゃあしゃあと。
男「じゃあ、鼻血を出した子一等賞という風説を流布する旅に出るのでこれで」
 そそくさと逃げようとしたらまた足を掴まれた。以下略。
男「まだ何か用か?」
紫「まだ謝ってもらってない。ちゃんと謝って」
男「昼飯に食ったラーメンの汁を残してしまい、申し訳ありませんでした」
紫「そんなの知らないわよ! そうじゃなくて、踏んだことを謝って!」
男「すいませんでした」
紫「なんでウサギに謝ってるの!?」
 思わず飼育小屋のウサギに向かい土下座していた。
男「たぶん、紫に謝るくらいならウサギに謝った方がマシだと思ったんだろうな」
紫「あたし、ウサギ以下!?」
男「具体的に言うと、ウサギの糞以上、ウサギ未満、かな。よかったな、霊長類として糞に負けてたらプライドも何もないもんな。はっはっは」
 紫の頭を軽くなでる。うむ、これで紫のプライドも保てたことだし、万事上手くいった。
紫「…………」
 上手くいった、と思ったのだが紫の目の色が怪しくなってきた。
男「ええと、よく分からんのだが、……ひょっとして怒ってる?」
紫「怒ってるわよ! 何よ、ウサギ未満って! あたしの魅力はウサギに劣るっていうの!?」
男「うん」
紫「がーん!」
 紫はがーんと口で言って、ふらふらとその場に座り込んでしまった。
男「だって、ウサギ可愛いもん」
紫「あ、あたしだって可愛いわよ! うっふーん! ほら、ほら!」
男「自称美術家が酔っ払いながら作った彫刻みたい」
紫「うっ……うわああああん! 覚えてろ、ばかー!」
 紫は子供みたいに泣きながらどっか行ってしまった。
男「……面白い娘さんだなぁ」
 残された俺は、ぼんやり紫の走っていった場所を見ていた。

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【ボクっ娘とダウナーとタカシ】

2010年04月11日
 暇なんで梓の家に遊びに行ったら、そこに家主と話してるちなみがいた。
「……あ、百合の園に男が」
「レズっ!? デジカメ買ってくるからちょっと待ってろ!」
「違うよっ! もうっ、ちなみちゃん変なこと言わないでよ!」
「……タカシはすぐ騙される。……おばかの称号を授ける」
「いや、梓の称号を授かるわけにはいかないので辞退する」
「ボク、おばかなの!?」
 二人で静かに頷くと、梓は何やらショックを受けたようにぽふりと布団に倒れた。
「うう……二人していじめる……」
「で、二人で何やってたんだ?」
 しくしく泣いてる梓をほってちなみに話しかける。
「……体のとある部位を擦り付けあうゲーム」
「百合ッ!? デジカメ買ってくるからちょっと待ってろ! あと俺も混ぜろ!」
「違うよっ! 一緒にお話してたんだよ!」
 枕にしみをつけてた梓が起き上がるなり叫んだ。
「ちなみ、適当言うなよ……期待するじゃん」
「……タカシはえっちなことだとすぐ騙される。……えろす王の称号を授ける」
「もう抱えきれないくらい持ってるからいらないです」
「……残念」
 ちなみは心底残念そうに肩を落とした。
「それよりタカシも一緒にお喋りしない? 今ね、恋人ができたらしたいこと話してたの」
 梓が俺の隣にちょこんと座り、俺を見上げながら言った。
「そりゃエッチだろう」
「「…………」」
 二人分の冷たい視線が俺に突き刺さる。
「訂正、SEXだ」
「そういうこと言ってるんじゃないよ!」
 梓は顔を赤くして叫んだ。
「タカシ0点! そんなんじゃ恋人なんて未来永劫できないよ! ねー?」
「……ねー」
 二人して俺を非難する。
「しかし、好きな人とエッチしたいというのは正しい感情だと思うが」
「そ、そうだけど……でも、ボクは抱っことか頭なでなでとかしてほしいよ」
 梓の言葉に、ちなみはコクコク頷いた。
「子供か、お前ら」
「う、うう……タカシのせいだよ! すぐボクやちなみちゃんの頭なでるから……」
「恨むなら、なでてオーラを出す自分の頭を恨め」
「あうううう……」
 悲しげにうめく梓だった。
「しかし……抱っこやらなでなでやら、子供がしてもらうと喜ぶようなことばっかだな。ま、見た目二人とも子供だし、ちょうどいいか。わはははは!」
「「…………」」
 二人は自分の胸を見下ろし、深くため息をついた。
「……どーせボクのおっぱいはちっちゃいもん」
「……よく、小学生とか中学生に間違われる」
「あ、あの、お二人さん?」
 負のオーラを放ち、二人は再びため息をついた。
「牛乳飲んだら大きくなるって言うけど、効かないよね、ちなみちゃん」
「……毎日飲んでるけど、ダメ。……効果、なし」
 顔を見合わせ、三度ため息をつく二人。ううむ、どうしたもんか。
「ま、まぁ大丈夫だって。成長期なんだし、すぐ大きくなる」
 そう言って二人の頭を優しくなでる。
「あ……」
「はぅ……」
 それだけで二人は嬉しそうに目を細めた。
「まぁ、小さいままでも俺としては嬉しいけどな」
「な、なんで?」
「このサイズだったら抱っこしたりなでなでするのに丁度いいからな。大きくなったら、それをするのも難しい」
「……ボク、牛乳飲むのやめる!」
「え?」
「……私も」
「ええっ!?」
「べ、別にタカシのためとかじゃなくて、無理するのもよくないって思っただけだよ!」
 横でちなみがウンウン頷いてるが、嘘だろ。明らかに。
「だ、だから、無理せずなでなでしてもいいよ? ボク、大人だからそれくらい我慢できるもん」
 恋人ができたら、なでなでして欲しいって言ったの誰だっけ。
「……ん。……なでなで狂いのタカシがなでなでをやめたら、発狂すること請け合い」
 そんなこと請け合うな。そこまでアレな人じゃないぞ、俺。
「な、なでなでするなら近く寄った方がいいよね」
 そう言って、梓は俺の膝に座った。
「……や、やれやれ、タカシはわがままだ」
 続いてちなみも空いてる膝にぽふりと。
「だ、抱っこしてもいいよ。ボク、へーきだもん」
「……わ、私も」
「いや、でも」
「「いいから!」」
「……はい」
 何か得体の知れない敗北感を感じながら、俺は梓とちなみをぎゅっと抱きしめた。
「あぅ……」
「は、はぅ……」
 気持ち良さそうな声を漏らし、二人はうっとりした顔で目をつむった。
「なんか、二人の未来の恋人に申し訳ない気分が」
「えへへっ、だいじょーぶだよ♪」
「何が大丈夫なんだか……」
「……タカシが気にする必要ない。……ほら、抱っこ」
 気持ち良さそうに俺の胸に顔を埋めながら抱っこをせがむちなみを見ながら、俺はもう一度ぎゅっと二人を抱きしめるのだった。

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【ツンデレと寄り道】

2010年04月07日
 放課後、帰ろうと思ったら友人らに捕まり、マックに連行され、だらりだらだらお喋り。
「暇ねー……ちょっとタカシ、なんか面白いことしなさいよ」
「ギョーザ」
 かなみがジュース飲みながらかったるそうに言うので、大変面白い一発芸を披露する。
「……耳をフタしただけで、タカシは面白いと思ってる。……無様」
「ちち、違うぞちなみ! ほ、本当の俺はもっと面白いんだ!? な、いずみ?」
「呼びかけながらウチのポテト食うな、アホ!」
 たまに食うポテトは美味しい。それが他人の物なら尚更だ。
「弁償しい! 一万円や!」
「ヤクザもびっくり価格ですね。そこのメニューには220円と書いてますよ?」
「後は慰謝料や! 払わんのやったら今すぐ返してや! ほら、ほら!」
「任せろ。ぐええええ」
「ちょっと、何いきなり指をノドにつっこんでのよ! 吐くなら便所行きなさい!」
「……やれやれ、タカシは所構わず吐こうとする。……はっ、マーキング?」
 俺の友人たちはちっとも俺を心配してくれないので、とても悲しい。あと、俺は人間なのでマーキングしません。
「んなアホなことやってへんで、早よ代わりのポテト買ーてきて。タカシのおごりで」
「お金ないのです」
「借金一万追加、と……」(懐からメモ帳を取り出し書き書き)
「奢る! 奢るからそんな無体はどうか勘弁!」
「あ、あたしもお願い。タカシの奢りでね」
「……私も。あと、ミルクも」
「おまえらに奢る意味が分からないし、乳を飲んだところでちなみが大きくなる可能性は限りなく低いので断ります」
「……タカシはいずみっちだけ特別扱いするだけでなく、私を子供とあざ笑う。……許しがたい行為」
「いやいやいや、あざ笑ってない。心の中では馬鹿にしてるけど」
「……そういうことは、思っても口にしない」(ほっぺぷくー)
「なに? 特別扱いは否定しないの?」
 かなみがいやらしく俺を突付いてきた。
「この守銭奴に恨みを買うと、不思議なことに翌日から借金を取立てられ、身も心もボロボロになるのです。特別扱いも止む無しかと」
「誰が守銭奴や! ウチは人よりちょっとだけお金が好きなだけの、か~いい女の子やで?」
「あ、いや、可愛いのは認めるが」
「そ、そか? あ、あは、あはは」
 自分で言ったことなのに、いずみは顔を赤らめた。変な奴。
「でも、守銭奴だよな」
「なんやてっ!」
 とても怖いのでかなみに助けを求めようと目をそちらに向けると、冷ややかな目が待っていた。
「……ふーん、特別なんだぁ。へーぇ、あたしにはちっっっっっっとも特別なことしてくんないのにね」
 友達相手に特別も何もないだろうと思いつつ、救いの手をちなみに求める。
「……どーせ、子供だもん」(ほっぺぷくー)
 未だほっぺぷくー中で話にならない。
「ええと……ぽ、ポテト買ってくる!」
 席を立とうとしたら、腕を掴まれた。いずみとかなみの手が左右から伸びている。
「まぁまぁ。それはええから、じっくり話でもせぇへん?」
「そうね。色々話したいこと、あるものね?」
 あれれ? 不思議、暑くもないのに汗が吹き出てきたよ?
「え、ええと、そんなどうでもいいことより、ちなみを鑑賞しないか? きっと愉快だぞ」
 そう言ってちなみに水を向ける。
「……タカシはいつも私を子ども扱いする。……まったく、タカシはダメだ」(ほっぺぷくー)
「ほーら、ほっぺが膨れて……ああ可愛いなぁ」
「「…………」」
 どうしたことか、さっきよりも鋭い視線がかなみといずみ両方から俺の方へ。
「うーん尿意。数時間は便所に篭もるから、先に帰ってていいぞ」
 そのまま逃げ去ろうとしたら、いつか見たように俺の腕に二人の手が伸びた。
「気にせんでええで。じーっくり話そうやないか。な?」
「そうよ。なんだったら閉店するまで、ね?」
「あ、あはは……はい」
 針のむしろに座らされてるような長い長い時間を、頬をふくらませるちなみを見たりつついたり怒られたりしながらどうにか完遂。

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【教師とツンデレ】

2010年04月03日
 昔からの念願である、教師になった。ヤッタネ!
 で、テストの採点をしてると、日頃なにかと噛み付いてくる双海の点数が良かった。
 うむ、ここは褒めまくって懐柔しよう。大人の悪知恵、思い知れ!
 というわけでテストを返却する日が来ました。
「はーいはーい、静かに静かにー。テスト返す……静かに静かにー、テスト返します。だから静かに、静かにしてーお願いー」
「はいはいはい! ほら、みんな黙る! 先生テスト返せないでしょ!」
 双海が手を叩いてそう言うと、教室が静まった。
「や、助かったぞ双海」
「先生がしっかりしてくれれば済む話なんです!」
 俺も静まる。
「ほ、ほら! 落ち込んでないで早くテスト返しちゃってください!」
「おっ、落ち込んでなんかないぞ! ホントだぞ!?」
「いいから早くする!」
「はいっ」
 出席順にテストを返して行くと、双海の番になった。
「双海ー、双海奈々ー。出席番号21番、双海奈々ー」
「いますっ! いちいちフルネームで呼ばないでください!」
「ご、ごめんなさい」
 ついいつものクセで謝ってしまったが、ここからが大人の本領発揮だ。褒めに褒めて懐柔作戦開始!
「いや、双海は凄いな。学級委員で、そのうえ成績優秀と来た。先生びっくりだよ」
「……いきなりなんです? そんなのいいから、テスト返してください」
 訝しげに俺をじろじろ見る双海。ま、負けるな俺!
「そ、その、テスト! そう、いい点数でした! すごいね!」
「……馬鹿にしてるんですか?」
 いかん、褒めているにも関わらず、双海の機嫌がみるみる悪化してる!
「や、先生が学生の頃はいっつも補習受けてたし。すごいなーって、その、ね?」
「なんでそんな必死に褒めてるんです? ……まさか、褒めて懐柔しようとかそんな浅はかなこと考えてませんよね?」
 見透かされていた。大人っぽく華麗に誤魔化せ!
「そそそんなわけないじゃん! へ、へ、変な奴だなぁあはははは!」
「……ふーん。ちなみに私、そういう小細工する人、だいっ嫌いです」
 膝から崩れ落ちるくらいショック。ショックだけど、なんとか踏ん張って崩れ落ちない。
「うわっ、ちょ、ちょっと大丈夫?」
「へ、へーき。だいじょぶ。なんでもない」
 崩れ落ちはしなかったが、あまりのショックのためか膝が笑ってる。
「ちょっと、本当に大丈夫なんですか? 保健室行きます?」
「だ、だいじょぶ。授業しないと」
 その後、テストの答え合わせをしたのだが、双海の言葉が響いてたのか随分酷い授業をしてしまった。
「はぁ……」
 昼休み、屋上でこっそり紫煙を吐く。本当は禁煙なのだが、屋上ではOKというのが暗黙の了解になっている。もちろん、生徒はダメだが。
「……でも、なんでこんなショック受けたんだ?」
 教え子全員に好かれることなんて無理って分かってる。別に双海に嫌われたところで、いいじゃないか。
「あっ、先生。やっぱここにいたんですね」
 ぼんやりそんなことを考えてると、ドアを開いて双海が顔を出した。
「おー、双海か。どした? なんか質問でも?」
 タバコを携帯灰皿に入れ、双海に向き直る。
「あーっ! 先生、タバコ吸ったらダメですよ? ここは禁煙ですし、何より体に悪いんですから」
「あーはいはい、悪かった。もう吸わない」
「とか言って、いっつも吸ってるじゃないですか。もぅ……」
 そういや、ここで前に何回か同じようなやり取りしたっけ。
「おまえ、俺のお袋みたいなこと言うのな」
「心配されてるうちが華ですよ。そんなことより、大丈夫なんですか?」
「ん?」
「ほら、……その、私がだいっ嫌いなんて言ったから先生、なんか辛そうで……」
「あー……」
 隠してたつもりなんだが、伝わってしまっていたようだ。教師失格だな。
「だいじょぶだっての。別におまえに嫌いと言われたところで凹むような俺じゃねーべ?」
 や、本当はべこんべこんに凹みまくってたけど。
「……先生、嘘下手ですね」
「ぐ」
「授業も下手だし」
「うぐ」
「生徒にも舐められてるし」
「うぐぐ」
「そんなんじゃ世間を渡っていけませんよ? もっとしっかりしないと」
 双海は腰に手を当て、小さくため息をついた。
「あーうっせうっせうっせ! 嘘下手なのは性格だし授業下手なのは新米だし生徒に舐められてるのは生徒と距離が近いといい方に考える所存です!」
 双海に背を向け、タバコを取り出そうとして、やめる。舌の根も乾かないうちにまた吸うと、双海になに言われるか分かったもんじゃないしな。
「……はぁ。ダメダメですね、先生」
「うっさい。いーから飯でも食ってこい」
「先生が行くなら、私も行きます」
「俺は今日昼抜き。給料前で金ないの。だからほれ、早く戻れ。昼休み終わるぞ」
「じゃ、私のお弁当半分食べます?」
「えっ」
 思わず振り向くと、少しだけ恥ずかしそうにしてる双海がいた。
「ほら、だいっ嫌いなんて言っちゃったお詫びとして。ね?」
「や、でもほら、教師が生徒に飯たかるって外聞が悪すぎるというか」
「いいからいいから! ほら、早く!」
 双海は俺の手を取って、軽く駆け出した。
「うわっ、ちょ、待て!」
「あっ、そうそう」
 双海は急に立ち止まり、俺に背を向けたまま言った。
「……小細工する先生は嫌いですけど、小細工が下手な先生は嫌いじゃないですよ?」
「……えっと、それって」
「ほっ、ほら! 早くしないと昼休み終わっちゃいますよ!」
 後ろからなのではっきりしないが、かすかに見えた双海の顔は真っ赤に染まっていたような気がした。

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魔幼女

2010年04月02日
 唯一の特技である逃げ足を用い、誰一人戦うことなくやってきた魔王城。真っ向から戦うと100%負けるので、暗殺だ!
 というわけで魔物に見つからないよう、震えながら夜を待つ。草木も眠る丑三つ時、こっそり魔王がいるという部屋に忍び込む。
 ……魔王がいる部屋ってくらいだから骸骨とか血まみれの死体とかゴロゴロしてると思ったが、なんか、すげーファンシー。女の子の部屋みたい。
 おっと、それより魔王だ魔王。こいつを倒して救国の英雄に!
 金やら女やら名声やらという文字が頭を駆け巡る中、天蓋のついたベッドに近寄る。
魔幼「……くーくー」
 そこにいたのは魔王ではなく、クマのぬいぐるみを抱いたちっちゃな女の子だった。……もしかして魔王、逃げた?
勇者「ふ……ふははははは! 俺に恐れをなして逃げたか! 恐るるに足らず、魔王!」
魔幼「ん……むぅ、うるさい……」
 幼女が起きた。半開きの目を手でごしごしとこすり、俺を見た。
魔幼「……だれ?」
勇者「みんなの憧れ、勇者だよ」
 親しみやすさを演出するためにっこり笑いかけると、幼女の目が見開かれた。
魔幼「もっ、もう来たの!? ど、どうしよ、今日は来ないと思ってなんの準備もしてないのに……あぅぅ」
 女の子はベッドから飛び降りると、わたわたとタンスが置いてある方に走った。
魔幼「あうっ!」
 こけた。
勇者「あーはいはい、なに焦ってんだか知らないけど、俺は魔王とかと違って無差別に虐殺とかしないから安心しな」
 女の子を抱き起こすと、睨まれた。
魔幼「わたしだって無差別じゃない! 逆らう人とかだけしか殺してないぞ!」
勇者「子供が変なこと言い出した」
魔幼「子供じゃなくて、魔王だぞ!」
勇者「ぶわははは!」
魔幼「笑った!?」
勇者「や、面白い娘っ子だ。よし、お兄ちゃんの妹にしてやるから、人に言えないようなことしよう」
魔幼「いーやー! はなせ、ばかー!」
勇者「よーし、とりあえずお医者さんごっこしような。どこが悪いんですかー?」
魔幼「わっ、こら、服を脱がせんな!」
 楽しい楽しいことをしてたら、廊下から複数の足音が聞こえてきたが、今はお医者さんごっこの方が大事!
側近「魔王様! 勇者が潜入したと報告が……」
魔幼「うわーん、はなせ、はなせよー!」
勇者「うーん、いけない世界に足を踏み入れたようだ。だがしかし、ロリはいいなぁ」
 女の子の平坦な胸元に顔を埋めていて気づかなかったが、なんか化け物に囲まれてる。
 集団リンチの末、死んだ。
王様「おお勇者よ、死んでしまうとは情けな……」
勇者「よし、もっかい!」
王様「ひいっ!?」
 棺桶から勢いよく飛び出したら、王様が変な声あげてた。
勇者「こんにちは、勇者です」
王様「しし、知っとるわい! いきなり棺桶から飛び出すな! びっくりして死ぬかと思ったわい……」
勇者「あー確かにおっさんぐらいの歳だと、衝撃で棺桶に入る可能性は高いわな。はっはっは」
王様「…………」
 不穏な空気を感じたので、逃げるように呪文で魔王城の王座まで飛ぶ。
魔幼「うわっ、また来た!」
 王座には魔王ではなく、先ほどの幼女がいた。
勇者「こんにちは、愛でに来ました」
魔幼「ちがうだろ、おまえ魔王たおしに来たんだろ!?」
勇者「あ、あー……いや、覚えてたよ?」
魔幼「うそつけっ!」
勇者「けど、魔王いないみたいだし楽しく遊びましょう」
魔幼「だ、だからわたしが魔王なの! が、がおー、がおー!」
勇者「ふむ、魔王ごっこか? なら俺も魔王に。……貴様のはらわたを喰らい尽くしてくれるわッ!」
 得意の化け物ボイスで、幼女に凄む。
魔幼「う……うわぁぁん! こわいよーーーーーーっ!!!」
 幼女が全力で泣き出した。その鳴き声を聞きつけた化け物たちに、また囲まれた。
王様「おお勇者よ、また死んだか……」
 なかなか魔王に会えない。

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