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2025年02月05日
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【カップルが妬ましいツンデレ】

2010年12月08日
 かなみと一緒に帰宅してると、何やらすげぇ圧が。一体どうしたのかと思って隣を見たら、あらかなみさん鬼の形相。
「すいませんこれだけしかないんです」
「震えながら財布を出すなッ!」
 必死の危険回避も空しく殴られた。
「そうじゃなくて、あれ」
「ん? あー」
 かなみが指差した先に、男女の生徒がいた。手を繋ぎ、仲睦まじげに笑い合いながら歩いてる。
「ね、二人でぶち殺さない?」(満面の笑み)
「もう怖すぎて俺にはこうするしか」
「だから、財布を出すなッ!」
 また殴られた。よく殴られます。
「ったく……冗談よ、ばーか。でも、ムカつくわね。なんか楽しそうに笑っちゃってさ」
「そっか? 微笑ましいじゃん」
「うわ、うそ臭。死ね」
「…………」
 そうこうしているうちに、件の恋人たちは角を曲がって視界から消えてしまった。
「手なんか繋いじゃってさ……どうかと思うわよ」
「だと言うのに、かなみは未だ例の恋人たちのことを喋っていた。それほど嫉妬の炎が彼女の内を焦がしているのだろうか。いや、そうではなく、あの女性の胸が平均よりも大きいことに嫉妬を感じずにはぐええええ」
 首を絞めて言葉を止める荒業を受ける。
「違うわよッ! 外で普通に手を繋いでうらやましいなーって……あ」
「ああ。そうだったのか。気づかず申し訳なかった」
 すかさずかなみの手を握る。
「ちがっ、違うわよっ! なんでアンタなんかと手を繋がなくちゃいけないのよ!」
「なんでって……恋人同士だから?」
 その台詞だけでかなみの顔がみるみる赤くなっていく。
「そ、そんなわけないでしょっ! アンタが一方的にあたしを好きなだけで、あたしはしょーがなくつきあってあげてるのっ! 優しいから!」
 この恋人は一事が万事この調子なので、手を繋ぐのも一苦労。何せ、人前では恥ずかしがって、とてもじゃないが繋いでくれないのだ。
「そ、それはともかく、早く離しなさいよ、馬鹿」
「でもですね、かなみさん。周囲にはいま俺たち以外いないようなのですが」
「ほっ、ホント!? ……ホントだ」
 かなみは慌てた様子で周囲をうかがった。俺たち以外はブロック塀の上で猫がアクビしてるくらいで、人影はないようだった。
「……じゃ、じゃあ。繋ぐ」
 かなみは下を向き、小さな小さな声で呟いた。髪から覗く耳がやたら赤い。
「──じゃないっ、繋いであげる! アンタがあんまりにも繋ぎたいみたいだから!?」
 がぶあっと顔をあげ、かなみは突然叫んだ。目がぐるぐるしてて怖い。
「おりゃ」
「ふにゃーっ!?」
 なので、ほっぺを引っ張って落ち着かせてみる。
「はひふふほほっ!」
「落ち着いたか?」
「ほひふははひはほっ、ははっ!」
 翻訳家がいないので何言ってんだか全く分からないので、とりあえず手を離してみたら殴られた。
「痛いのですが」
「人のほっぺをいきなり引っ張ったりするからよ、ばかっ!」
「まあ、なんだ。ちょっとは落ち着いたようですね」
「え、あ、うん。……べ、別にさっきのパニックとアンタと手を繋ぐことは関係ないからね。ほ、ホントに」
「でもまあ、またああなったら嫌だし今回は手を繋ぐのナシということで」
「ダメッ!!!」
 殊の外大きい声でびっくりした。だが、出した本人が一番びっくりしてる。
「あ、その、えと……違う。いや、違わない。え、えと、その……えと、どっ、どうしたらいいの!?」
「知らんがな……」
 なんかもう疲れちゃったので、かなみの手をさりげなく握る。
「ふひゃっ!?」
「帰ろ。とっとと帰ろ」
「あ、あの、あの! て、手! 手、繋いでる!?」
「あーそだな」
「そだなじゃなくて、そだなじゃなくて!」
「あんまりうるさくすると、何事かと人が集まること請け合い」
「う……」
 かなみは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに口をつぐんだ。ただ、真っ赤な顔で俺をじーっと見ているので大変居心地が悪い。
「……ち、違うからね。別にアンタと手なんか繋いでも嬉しくなんてないから」
「何も言ってないのですが」
「う、うるさい! 黙らないと、黙らないと……えと、アンタって何されたら辛い?」
「かなみに嫌われると辛い」
 かなみが全力で赤くなった。
「そ、そーゆートコ嫌い! 嫌い嫌い嫌い!」
「悲しい限りだ」
「全っ然思ってないでしょ! なんかニヤニヤしてるもん! もーっ! 嫌い嫌い、大っ嫌い!!!」
 嫌い嫌いと言いながらも、決して俺の手を離そうとしないかなみだった。

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【コタツみゆ】

2010年11月29日
「じーっ……」
 先ほどから妹のみゆがコタツの中に入り込み、顔だけ出してこっちをじーっと見てるので困る。
「あの、みゆさん。何か御用でしょうか?」
「お兄ちゃんを捕獲したいんだけど、みゆは乙女なのでそんなことは口に出せずに困ってるところなんだよ、お兄ちゃん!」
 言ってる。全部言ってる。
「なるほど兄を捕獲したいのか。じゃあブービートラップでも仕掛ければいいんじゃなかろうか」
「猿は関係ないよ! 全くお兄ちゃんはいついかなる時も頭が悪いんだから! ふんとにもう!」
 本当に頭が悪いのはどちらなのだろう。
「まあ猿は置いといてー。……ぶるぶるぶる。このコタツは寒いにゃー。壊れてるから電気が入らないのにゃー。人肌恋しいにゃー」
「こっちに来てストーブに当たればいいと思う」
「覇ッ!」
 妹が気合を飛ばすと、ストーブが吹っ飛んで壁にめり込んだ。
「あにゃー、ストーブなくなっちった。ふしぎ!」
 妹がどんどん人外の能力をつけていくので将来が不安すぎる。
「てなわけでー。にゅー、寒いよ寒いよー。誰かあっためてくんないかなー?」
「ここにカイロもあります」
「覇ぁッ!」
 妹の気合により、手の平にあったカイロが一瞬で弾け飛び、中の鉄粉が中空を舞った。
「あにゃー、今度はカイロもなくなっちったよ。ふしぎ! ──あと、これ以上コタツ以外の暖房器具を見せたら殺す」
 妹に殺すって冷徹な声で言われた。
「んじゃ、今度こそ。……ぶるぶるぶる。うにゅー、寒くて寒くて泣いちゃいそうだよー」
「兄は寒さとは別の理由により震えが止まらず、かつ泣きそうです」
「一緒だね、一緒だね! 嬉しいね!」
 なかなかその喜びは共有できない。
「ふんじゃ、そのお似合い兄妹は、一緒にコタツに入るべきだと思います! ていあん!」
「その提案を蹴ったらどうなるんでしょうか」
「兄妹のどっちかがミンチに! ふしぎ!」
 たぶんきっと絶対確実に兄がミンチになるんだろうなあ。
「……はぁ。あー、寒いからコタツにでも入るかなあ」
 妹の目がきんらきんらしだした。
「ここ! ここに入っては如何かな、お兄ちゃん! 今ならみゆ付きなので、あったかですにゃ!」
「じゃあ入ります」
 なんかもう抵抗しても無駄っぽいので、素直にみゆの隣に身体を滑り込ませる。なるほど確かに電源は入っていないので中は寒いが、隣に猫系妹がいるのでそんなに悪くない。
「えへへー、お兄ちゃんが隣ー♪ お兄ちゃんが隣ー♪」
 やたら嬉しそうにニコニコしながら、妹が鼻をピスピス言わせつつ身体を寄せてきた。
「鼻が鳴ってますよ」
「お兄ちゃんだけが聞ける最高の楽器だよ! お兄ちゃん、らっきー♪」
 兄には鼻づまりにしか聞こえない。とか思ってたら、コタツの中でみゆが足を絡ませてきた。
「へへー。こしたらもっと暖かいよ?」
「生足ですね」
「女の子の生足をすりすりできて、お兄ちゃんらっきー♪」
 ……そこはまあ、ノーコメントでひとつ。
「つまり、お兄ちゃんもらっきーと思ったんだね?」
「どうして兄の思考を読むのですか」
「にゃははー。みゆにかかればお茶の子さいさいだよ!」
 勘弁してほしい。本当に。
「では、引き続きすりすりへ移行しますか? そりともおっぱいすりすりの方がいいですかにゃ?」
「なんか性的な響きが聞こえた気がしますが、気のせいだな!」
「おっぱいもみもみがいいの? にゃ……お兄ちゃん、えっちだよぉ」
 してない。そんな提案してない。
「でもまぁ、お昼からそんなことしたらダメだもんね。そゆことするのは夜だもんね」
「いや、別に決まってないとは思うが……」
「んじゃ、するる?」
「しません」
「残念なことこのうえないのにゃー……」
 どうにかえろす方向への道を封鎖することに成功。やれやれだ。
「しょがない。今日の夜までお預けだね、お兄ちゃん」
 ……半日だけ封鎖に成功。
「ふわわわ……にゅー、なんか眠くなってきちゃったよ」
「幸いにしてコタツだし、寝るのも可かも。あ、でも壊れてるからこのまま寝ると風邪引くか……」
「うんしょ、うんしょ」
 みゆはコンセントを取り出すと、コタツから身体を半分だけ出して近くのソケットに差し込んだ。
「ふひゅー。外は寒いねー」
 そして、素早くコタツの中に戻り、兄に抱きついた。
「ええっと。……お?」
 そのまますりすりされてると、コタツの中がどんどん暖かくなっていくではないか。
「壊れてたんじゃ?」
「あれ、うそ!」
 ぺかーっとした笑顔で言われては、もう何も言えない。
「お兄ちゃんとコタツに入ってふにゃふにゃしたかったから嘘ついた! 嘘つきは泥棒の始まりだけど、みゆは既にお兄ちゃんのハート泥棒なのでいいよね?」
「よくはないと思う」
「がががーん! じゃあ、嘘つきめーってお兄ちゃんに怒られて、罰だーってことでいっぱいいっぱい中に出されちゃうのカナ?」
「後半おかしい」
「あ、まちがいまちがい。いっぱいいっぱい膣に」
「大変ストップ! 膣と書いて“なか”と読まないで!」
「ふああ……にゅー、暖かくなってきたら眠くなってきちったよ。寝ていーい?」
「あー……うん。なんか、まあいいや」
「にゅー♪」
 嬉しげに兄の胸にすりすりしてるみゆを見てたら、なんかこっちまで眠くなってきた。よし、寝よう!
「あ、お兄ちゃん。寝てる時にみゆにいたづらしてもいいけど、最後までしちゃダメだよ? 最後までするのは、みゆが起きてる時に!」
「色々間違いを直したいです」
「ふんじゃ、お休みなさいですにゃ、お兄ちゃん!」
 寝られた。畜生。まあいいや、兄も寝よう。
 そんなわけで、妹を抱きかかえて一緒に寝ました。

拍手[11回]

【ツンデレ悪魔っ子】

2010年11月24日
 友人が悪魔を召喚したらしい。一切の疑問を抱かず、ホイホイ様子を見に行く。
「おー、来たか……」
 俺を出迎えた友人は、何やら憔悴しきった様子だった。
「一体全体どうしたというのだ、友人B」
「友人Bってのにつっこみする気力すりゃねーよ……ほら、あれ見ろよ」
 指差した先には、何やらぶすーっとした顔のおにゃのこが座り込んでいた。ただ、頭からツノが、お尻からはしっぽが生えてます。
「悪魔っ子だ! 可愛いなあはふン!」
 突発的に始まった俺の歓喜のダンスを見て、悪魔っ子が明らかに怯えた。申し訳ないと思う。
「……召喚した俺が言うのもなんだけど、ちょっとは現実に疑問を持てよ」
「いやあ、はっは。んで、どしたの? 自慢するのか? 任せろ、羨ましがることにかけてはちょっとしたもんだぞ! ただ、羨ましすぎるあまり後で呪うのでそこは我慢してください」
 俺が発言すると、どうしたことかどんどん友人の顔がうんざりしたものになっていきます。
「いや……あのな、ちょっとあの子、俺の手に負えねーんだ」
「ほう?」
「いやらしいことしようと必死に魔術を独学で勉強して呼び出したはいいけど、いきなり襲い掛かってきて。結界を張ってたからなんとかなったけど、俺はもう怖くて怖くて」
「はぁ。んじゃ、もったいないけど元の世界に帰したら?」
「そうしたいんだけど……」
 そう言いながら、友人はちらりと悪魔っ子を見た。
「アンタを殺すまでは還らないからね」
 ニヤリ、と底冷えのする笑みを浮かべる悪魔っ子。なかなかどうして、悪魔的ではないか。俺が召喚したんじゃなくてよかったぁ。
「還そうにも、抵抗されて還せないんだ」
「大変だね。俺は他人事なので問題ないけど」
「で、お前を呼び出したわけだ、親友」
 そう言って、友人Bはにこやかな笑みを浮かべた。
「お前を生け贄にして、この悪魔を強制的に“召還”する」
「はい? ……はい?」
 たすっ、と小さな衝撃。胸元に、ほんの小さな、俺の人差し指くらいの棒が突き刺さっていた。……ナイフ?
「え?」
「悪いな、親友。俺はまだ死にたくないんでな」
 いかん。これはマジにいかん奴だ。身体に力が入らない。倒れた。倒れたのか。何か甲高い声が聞こえる。悪魔っ子の声か。死ぬのか。なんでかなあ。嫌だなあ。

 ………………。
 …………。
 ……。

「……ねぇ。ねぇ!」
「うーんむにゃむにゃもう食べられないよ」
「絶対起きてる! ねぇ、起きなさいよ!」
「痛い!?」
 なんか殴られた。人がいい気になって寝てるというのになんという仕打ち! よし、一言いってやる!
「てめえ、ふざけるなよ! てめ……」
「はぁ、やっと起きた。遅いわよ、馬鹿」
「…………」
「ん? なによ、馬鹿面下げて」
 どうして悪魔っ子が目の前にいますか。あいつは、友人Bは……ってぇ!
「超思い出した! なんかアイツに刺されたんだ! あの野郎! 友人Cに降格だ!」
「降格って……」
「ん? てゆうか、刺されたよね、俺」
 悪魔っ子に確認を取ると、こっくりうなずかれた。
「うん。アンタは一回死んだの」
「なるほど。……えええっ!?」
「うわあっ!?」
「え、え!? 俺死んだの!? どうしよう困ったまだ見たいアニメも読みたい漫画もやりたいゲームも死ぬほどあるのに! ていうか死ぬほどっつーか実際に死んだんだよなわはははは!」
「不謹慎ッ!」
「自分が死んだんだし、笑ってもいいと思ったんだ」
「はぁ……なんか思ったより馬鹿みたいね。助けない方がよかったかなー」
「ん?」
 何やら俺にとって大事な台詞が飛び出した予感。
「ええと……助けてくれたの、俺を? 悪魔な君が?」
「そうよ。悪魔が人を助けちゃ悪い?」
「うーん……どうなんだろう、分からん。人間の作った勝手な悪魔像しか俺は知らないので」
「…………」
「ん? どうしました悪魔っ子。呆けた顔も可愛いですよ?」
「し、知らないわよッ! ……でも、うん。アンタは馬鹿みたいだけど、ちゃんと自分で考えてるみたいね」
「はい?」
「よし、決めた! アンタ、あたしと契約しなさい」
「分かった」
「早いッ! 契約内容を聞きなさいよね! あたしだったから良かったものの、もっと狡猾な悪魔だったら今頃尻の毛までむしりとられてるわよ!」
「最近の悪魔は除毛サービスもするんですね」
「そういうことじゃないッ!」
 悪魔との会話は難しい。
「何よこの人間……今の人間ってみんなこうなの?」
 どうやら向こうもこちらと同じような感想を抱いたようだ。
「ま、まあいいわ。ええとね、アンタはあの魔術師に一度殺されたの。で、たぶんだけど、その魂を触媒にして、あたしを無理矢理“召還”……ええと、元の世界に戻そうとしたの」
「触媒?」
「アンタの魂を使って魔術を発動しようとしたの」
「なんと! 俺の魂にそんな特別な力が! 隠れた素質なのか!?」
「誰の魂でも発動すんのよ。悪魔の魔法にも似たようなのあるから分かるの」
「…………」
「でも、魔術が発動する前に、あたしがアンタの魂を奪っちゃったの。当然魂はなくなっちゃったから魔術は失敗、あの魔術師はどっか逃げちゃったわ」
 なんて勝手な野郎だ、あいつ……。
「で、こっからが大変だったのよ。一度消えた命をもう一度蘇らせるのよ? もー超大変だったわよ」
「お世話になりました」
「失敗しちゃってもしょうがないわよね」
「……え?」
 なんか変な言葉が聞こえた気がする。
「だから、まあ、なんていうか……ご、ごめんね?」
「詳細が分からないから怒れないけど、とんでもなく嫌な予感がします」
「命の再生は失敗しちゃったから、とりあえず魔法具で動かしてるけど……定期的に魔力を注がないと死んじゃうの。でも……まあいいわよね?」
「よくねー! 魔力ってゲームくらいでしかお目にかかりませんよそんなの! そんなレアな燃料困る! あ、灯油とかで動くようになりません?」
「ならないッ! アンタ魔法具をストーブか何かと勘違いしてない!?」
「か、勘違いしないでよね! 灯油飲んだら死んじゃうんだからね!」
「どやかましいッ!」
 超怒られた。ていうか人間界に詳しいな、悪魔っ子。
「ところで、そもそも魔法具ってなんですか。いや、言葉の雰囲気でなんとなくは分かるんですが」
「そのまま、魔法の道具の総称よ。本来は死体や人形を自分の意のままに動かせる道具なんだけど……今回は魂があったし、アンタ自身の意思で動かせるみたいね」
「死体て……つまり、今の俺はゾンビみたいなものなのですか」
「ま、そうね」
「……別段腐ってないようですが」
 自分の身体をまさぐる。服が真っ赤に染まってて一度死んだんだなあと思えて嫌だが、身体は特に腐ってるとかそういうことはないようだ。
「死んでからすぐ再生したからね。新鮮そのものよ」
「人を鮮魚みたいに……!」
「あははっ。で、ここから相談、っていうか、アンタのその装置のことなんだけど」
「あー。魔力な。どうしたらいいの? 今ある魔力が尽きたら諦めるしかないの? それでも今ある命を精一杯に輝かせたらいいの? うわ自分で言ってて嘘くせえ。あまりのうそ臭さに生を諦めそうだ。あ、もう死んでたか。はっはっは!」
「……アンタ、たぶん魔界に行っても違和感ないと思うわよ」
 悪魔に太鼓判押された。
「じゃなくて! あーもーなんでこうも脱線するかなあ! あのね、アンタの魔法具は、あたしの魔力で動くの。だから、一日に一度は魔力を注がないといけないの!」
「魔力充填……いかん、えろいことしか浮かばねえ! いや、そういうことなのでしょうか!? そうだといいな、嬉しいな!」
「そ、そんなわけないでしょ、馬鹿! このえっちえっちえっち!」
 違ったらしい。罵声と落ちてた石を受けながら反省する。血が出るので辛い。
「……ふう。だ、だから、アンタと一緒にいなきゃいけないの!」
「え」
「な、何よ。嫌でもいなきゃアンタ死んじゃうのよ! それでもいいの!?」
「いや、そうじゃなくて、俺は全く問題ないけど、そちらが色々と問題あると思うのですが」
「い、いいわよ。一応、あたしのせいでアンタ死んじゃったんだし。それくらいは責任取らないと」
「ほー……。今時珍しいくらい偉い悪魔ですね。いや、悪魔の価値観的にはどうだか知らないけど」
「とっ、とにかく! どっちにしろ、あたしはしばらくこの世界にいるつもりなの。あの逃げた魔術師をとっ捕まえて嬲り殺しにして魂の一つでも貰わないと割に合わないわ……」
 訂正。やっぱり悪魔です。
「と、ゆーわけで。しばらく世話になるわよ」
「はい。……はい? え、俺の世話に?」
「当たり前じゃない。アンタの家に住まわせてもらうわよ。それとも、どっかに別荘でも持ってるの?」
「そんなブルジョワに見えるか? もし見えるなら今日からお前はメガネっ子属性も保持しなければならないので大変ですよ?」
「知らないわよッ! とにかくっ、そーゆーことだから! ……も、もちろん言っとくけど、変なことしたらぶち殺すからねっ!?」
「もう死んでます」
「あ、そうだったわね。あははははっ!」
「ウヒッ、ウヒヒヒヒッ」
「怖っ、怖あっ! 何その笑い声!? え、アンタも悪魔なの?」
「違います」
「紛らわしい笑い声あげるなっ!」
 どうしてだか俺が怒られる羽目に。不思議だねと思いつつ、今日から悪魔っ子と一緒だ!
「よし、事故と称して風呂覗いたり着替え覗いたり朝のドキドキハプニングを起こしたりしてやる……!」
「覗いたらミンチね」
 笑顔が超怖かったので覗きは控えます。なるべく。できるだけ。でもまあ覚悟だけはしとけよ。

拍手[14回]

【ツンデレ妖狐】

2010年11月17日
 夜、ノドが乾いたので近所のコンビニに向かい、缶コーヒーを買う。
「ん……?」
 そのままなんとなく近所をぷらぷらと散歩してたら、ある家屋が目に付いた。いわゆる幽霊屋敷という奴で、俺がガキなら探検ぼくの町といったところだろうが、何やら様子がおかしい。
 普段であればその門にでかい南京錠がかけてあるのだが、今日はどういったわけかその物々しい鍵が外されていた。
 首を伸ばして中を窺うが、薄ぼんやりとした闇に包まれており、どうにも判然としない。ただ、いつもは閉まっているドアが開いていることだけは分かった。
 どこかの悪ガキが季節外れの肝試しでもしているのかもしれない。少し興味はあったが、それ以上にからまれたら超怖いので回れ右しようとくるりと後ろを向いたら、ぴきぴきと何かが割れる音がした。
「お?」
 そしてすぐに、視界が真っ暗になった。いや、違う。落ちてる。超落ちてる。俺がまっさかさまに落ちている。
「なんとぉぉぉぉぉ!?」
 なんで!? 地盤沈下? 一般的な住宅街にまさかのクレバス発生? いやなんでもいい、絶対死んだよコレ!
 思いつく限りの悪態を吐いたが未だ終着点には着かない。ていうか結構落ちてるけど……まさかマントルまで行かないよなげぼがばぐば。
「………………っぷはあっ!」
 必死に泳いで水面に顔を出す。どうやら地下水が溜まってできた湖に落ちたようだ。おかげで命拾いした。
「あー……どんだけ不運なんだ、俺。いや、生きてるから幸運なのか。……分からん」
 とにかく、ここから脱出しないと。とはいえ、困った。明かりが一切ないので、何も見えない。さっきは必死に泳いだ先が偶然水面だっただけで、運が悪ければ今頃ぼくドザエモンになっていたやも。
 まあいい。泳げばその先に地面があるはず。というわけで、すいすい泳いで陸地を探す。……しっかし、真っ暗な湖ってのは超怖いな。何も見えねえ。
「……うん?」
 しばらく泳いでると、少し先に何か薄ぼんやりとした明かりが目に付いた。こんな地下に……なんだ?
 明かり目掛けてわっせわっせ泳ぐ。しばらく泳ぐと、陸地についた。そのまま明かり目掛けてしばらく歩くと、目的の場所に辿り着いた。古びた祠だ。
「こんな地下に祠……やばい匂いしかしねえ」
 しかも、祠自体が光を放つという超常現象が起きている。何コレ。放電現象?
 触ったら呪われそうだが、周囲があまりにも真っ暗すぎて生物の本能として明かりを求めずにはいられないので、恐る恐る祠に手を触れる。
 途端、光が満ちた。あまりのまぶしさに咄嗟に目をつむる。
『やっとか。どれほど時が流れた』
「お? ……お?」
 声が聞こえる。だけど、まだ目がチカチカして目を開けられない。
『聞こえておるな、そこな童。この祠を破壊せい』
「暗闇にやられて幻聴か? ……まずいな、早くどうにかして脱出しないと」
『おい、童。ワシの声が聞こえているなら返事せい。おい』
「しっかし、困ったなあ……ちょっと前にあったチリの落盤事故はたしか地下700mくらいだったけど……ここはどのくらい深いんだろうか」
『ワシの話を聞けッ!』
 どうにも幻聴がうるさい。それはそうとして、そろそろ目が治ってきた。ゆっくり目を開けると、薄ぼんやりとした女の子が目の前に。
「うわあっ!?」
『わひゃあっ!?』
 俺がびっくりしたら、それに呼応して女の子も驚いた。
『な、なんじゃ、なんじゃ!?』
「いや、目を開けたら人がいてびっくりした。終わり」
『そ、そうなのかえ……あー、びっくりしたのじゃ』
 女の子はほっと胸をなでおろした。中学生くらいだろうか。白い袴のようなものを纏っている。どうしてこんな地下にこんな子が? ……実際に聞くか。
「ていうか、なんでこんなところに人が?」
『人ではない。妖狐じゃ』
「ようこそようこ?」
『ぬ?』
 ……いやいや、何を普通にボケているか。そうじゃない。妖狐……妖怪? 狐の?
「ここでまず信じる信じないの選択があるのだろうけど、面白そうなので信じる一択で!」
 どうしてだろう、そこはかとなく妖狐が引いてる気がする。見ず知らずの妖怪を引かせる己の会話センスに惚れ惚れする。
『そ、そうかや。それなら話は早いのじゃ。死にたくなければ祠を破壊せい』
「まあまあ、その前に質問させてくれ。妖狐ってのはアレですか、玉藻前に化けた九尾の狐とかっていう有名なアレですか」
『ああ、この島国でそういうのがおったらしいのぉ。ワシは大陸におったので詳しくは知らんが、噂は届いておったぞ』
 大陸……中国か。てことは中国産の妖狐か、コイツは。
「その大陸の狐がどうして日本の地下深くにいるんだ? 祠ってことは……封印か何かされてんのか?」
 びくん、と妖狐が一瞬はねた。
『な、なんのことかちっとも分からんのじゃ。さっぱりなのじゃ』
「嘘が下手すぎです」
『う、嘘なんかじゃないのじゃ! 封印もされてないのじゃ! それとは全然関係ないのじゃが、祠を破壊するのじゃ!』
「祠を壊すと解放されるんですね」
『ぬなっ!? き……貴様、ワシの心が読めるのかや!?』
「妖狐ってのもピンキリでダメな妖狐もいるんだなあ。初めての妖怪がダメなのかぁ。少し残念だ」
『ダメとか言ってはダメなのじゃあーっ!』
「はっはっは。あー愉快だった。さて、んじゃ俺は帰るな」
『帰ってはダメなのじゃ、ダメなのじゃーっ! その前に祠を、祠をーっ!』
 妖狐は俺を掴んで引きとめようとした。だが、その手は俺の身体を通り過ぎ、虚空を掴んだ。
「…………。うわあああーっ! おーばーけーっ!!!」
『違わいっ! 幽体だけ外に出してるだけじゃ! 本体は未だ封印されてるのじゃ!』
「ああやっぱ封印されてるのか」
『はうわっ!? ぬ、ぬぅ……この童、神童かや?』
「あー、ちょっといいか? さっきから人を童々といってるが、俺は子供ではないよ?」
『何を言ってのじゃ。1000歳をゆうに越すワシからすれば、人など皆童じゃ』
「うわっ、超ババアだ!」
『ば、ばばあではないのじゃ! 人生の先輩に失礼じゃぞ貴様!』
「ババアだババア、スーパーババア! ビームとか撃てる?」
『撃てんのじゃ! ……びーむってなんじゃの?』
 ちょっと小首を傾げて訊ねる超ババア。あら可愛い。
「なんかビーってしてるの」
『全く分からんのじゃ……』
「詳しくはググれ」
『また分からん単語を! 貴様こっちは封印されとるってことを念頭に入れて話すのじゃ!』
「googleで検索しろってことだ」
『説明されたのに分からんのじゃうわーんっ!』
「ああ泣かしてしまったこのロリババアは可愛いなあウヒヒヒヒ」
『全く慰めておらんっ! 尋常ならざるほど怖いのじゃ! 寄るな、痴れ者!』
 妖怪に怯えられた。悲しい。
「まあいいや……ともかく、帰るな。んじゃ、元気で」
『だから、待つのじゃってば! ……ああそうじゃ。貴様、どうやって帰るつもりかえ?』
「え?」
『ここは地下深き我が閨。どうやって地上まで戻るつもりかえ?』
 妖狐は余裕を取り戻したようで、ゆったりした所作で俺に伝えた。
「どうって……いや、普通にワープして」
『わーぷ?』
「ここから地上まで一瞬に移動する技術だ。それを行える道具が今、俺のポケットの中に入ってる」
『え……えええええっ!? えっ、今の技術ってそんなに発達してるのかや!?』
「うん」
 当然そんなわけありませんが、話のイニシアチブを渡さないために嘘を吐く。あと、その方が楽しそう。
『ど、どしよ……え、えっと、で、でも、準備に時間がかかったりする……じゃろ?』
「一秒もいりません。あ、秒ってのは、……ってくらいの時間だ」
『すぐではないかや!? あ、あの……わ、わーぷ? する前にの? ちょちょっと、祠を破壊してはくれんかの?』
「破壊するとお前の本体が解放されるんですね」
『さっ! さ、されんのじゃよ? え、えっと、景観が悪いから壊して欲しいだけなのじゃ。ほ、ほんとじゃよ?』
「嘘だったら解放された瞬間に1ピコにまで分解する」
『なんかまた分かんない単位出されたけど分解ってのは分かっちゃってとっても怖いのじゃうわーんっ!』
 当然そんな凶悪武器なぞ持っていないが、そんなことは妖狐は知らないので全部信じて泣いちゃってあら可愛い。
「ああまた合法ロリを泣かしてしまった。この合法ロリは可愛いなあウヒヒヒヒ」
『ううう……ちょっとは慰める努力を見せるのじゃ、愚か者ッ! なんだかずっと怖いのじゃ!』
「はいはい、ごめんな」
 触われはしないが、見た目は頭がある箇所をなでなでする。
『ぬー……あ、あの、の? 本当は、祠を壊すとワシの本体が解放されるのじゃ。う、嘘じゃったが、いま本当のことを言ったから分解せんの? の?』
「そうだな。本当のこと言ったし、特別に半分解にしとくよ」
『半分されたら充分死んじゃうのじゃ、あほーっ! ぬーっ!』
「あーはいはい。分解しないよ」
『よかったのじゃー。解放されたはいいが即分解では、何のために何年も封印されたか分からんでのぉ』
「あ、そだ。封印っつってるけど、なんで封印なんてされたんだ? 何か悪さでもしたのか?」
『ふふ……よく聞いてくれたのじゃ。時の権力者に憑りつき、悪政の限りをつくしたのじゃ! いやー、楽しかったのー♪ ……ま、まあ、見つかって封印されたが』
「にゃるほど、悪か。やっぱ封印しとこ」
『あああーっ!? ちっ、ちが、違うのじゃ! え、えっと……お、お花畑を荒らした……のじゃ?』
「あら可愛い。それなら封印を解いてあげる……わけねーっ!」
『ひゃうわーっ!?』
 一瞬すごい笑顔になった妖狐だったが、ものっそい驚いていた。
「ていうかだな、嘘がお粗末すぎだ。もうちょっと頑張れ。じゃないと分解する」
『怖いのじゃ怖いのじゃ怖いのじゃーっ! 人をすぐに分解しようとするでない、たわけっ!』
「人じゃないじゃん、お前」
『妖怪を分解するでないっ!』
「ああ、それならいい」
 頭付近をなでなでする。だが、実体がないのでどうにもこうにも。
『ぬう……の、のう。さっきからしてるそれ、なんじゃ?』
「ああ、なでなでだ。頭をなでると女性は喜ぶらしいのだが、生憎と未だ幽体にしかしたことないので効果のほどは未だ分からずだ」
『そ、そうかや。……ま、まあ、封印から解かれたら特別に受けてやってもよいぞよ?』
「何年封印されてるのか知らないけど、埃まみれだろうし嫌だからお断りします」
『貴様は悪魔かや!?』
「人です」
『うぬぬ……ふんっ! じゃあもういいのじゃ! なでなでなどされたくもないわいっ!』
「そうか。まあそれはそれとして、ぼちぼち俺は帰」
『だから、帰ってはいけないのじゃーっ! それではワシはまた何百年と待たねばならぬではないか! もう一人ぼっちは嫌なのじゃあーっ!』
 今度こそ本音らしきものが出た。
『こんな真っ暗なところで、ずーっと一人だったのじゃあ……。一人は嫌じゃ、嫌なのじゃあ……』
 ぐすぐすとぐずりながら、少女は俺に訴えた。多少なりとも良心が痛む。
「うーん……解放してやりたいけど、でもなあ。さっきの話を聞いた限りじゃ、また悪行を働かない保証もないしなあ」
『しないのじゃ、もうしないのじゃ! 絶対しないのじゃ! 約束するのじゃ!』
「信用してやりたいが、口約束じゃあなあ……うーん、何かいい方法はないものか」
『ぬうう……あっ、そうじゃ! あのの、ワシが貴様の使役獣になるのじゃ!』
 さも名案だ、とでも言いたげに妖狐は目を輝かせた。
「何スか、使役獣って」
『ふふーん、そんなのも知らないかや? 貴様はアホアホよのぉ♪ ……あっ、ちっ、違、違うのじゃ! ワシがアホアホなのじゃ! じゃから衣嚢を探ってはいかん!」
 ポケットを探って分解装置を探すフリをしたら死ぬほど怯えられた。
『え、えっと、の? 使役獣というのは、人がワシら妖怪を扱えるようにする術じゃ。本来は人が行う術なのじゃが、ワシはすごい妖怪なので貴様にその術を教えてやるのじゃ。感謝するのじゃよ?』
「扱うってコトは……お前の行動を俺の意思で制限できたりするってことか?」
『そうじゃ! なんじゃ、呑み込みが早いではないか。そしたら貴様はワシの悪行を防げるから問題ないし、ワシも解放されてお互い大喜びじゃ! じゃから、いいじゃろ? の、の?』
「ふむ……」
 それが本当なら、断る理由もない。あと、女の子を使役するって超楽しそう。
「よし、じゃあそれをしてみよう。あ、一応言っておくが嘘だったら分解」
『嘘じゃないのじゃ! すぐに分解しようとしてはいかんのじゃ! 貴様は軽く言っておるがこちらは毎回怖くて泣きそうになるんじゃぞ!?』
「わはははは!」
『わはははじゃないのじゃーっ! もーっ、いいから使役の契約をするのじゃ! この祠に手を置くのじゃ』
「ん、こうか?」
『そう。そしてこう唱えるのじゃ』
 少し間を置いて、妖狐は小さな声で呟きだした。
『……一二三四五六七八九十 布留部 由良由良止 布留部』
「え、えっと……ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
 奇妙な言葉の羅列を紡ぐ。意味は分からないが、何か懐かしいような、心に染み入るような、不思議な言葉だ。
「熱ッ!?」
 そんなことをぼんやり考えていると、手に衝撃が走った。見ると、手の甲に何やら紋様が浮かんでいた。
「うわ、中二病だぁ……」
『また分からぬ単語を……これで、ワシは貴様の使役獣じゃ。不本意じゃが、以後よろしくの、ええと……貴様のことをなんと呼べばいいかの?』
「ご主人様一択で」
『…………』
 とても不本意そうだが、俺は大満足。
『と、とにかく契約を果たしたので、早く出してほしいのじゃ。とっととこんな暗がりからおさらばしたいのじゃ!』
「あー……まあいいか」
 ちょっと怖いが、契約とやらをしたので大丈夫だろう。祠をガンガン蹴って破壊を試みる。
『そうじゃ、その調子じゃ! 頑張るのじゃ、ご……ご主人様!』
「フヒヒィ、フヒヒィ!」
『怖いのじゃあーっ! 明らかに契約相手を間違ったのじゃあーっ!』
 なんか言ってるけど、ご主人様ぱぅあーにより祠の支柱の破壊に成功。
『おおっ! ついに……ついに解放される日が来たのじゃ!』
 妖狐の幽体が祠に吸い込まれ、そして次の瞬間、盛大に煙と祠の破片を撒き散らし、祠から妖狐が姿を現した。
「ふふ……ふわーっはっはっは! とうとう、とうとう解放されたのじゃあーっ!」
「うるさい」
「ふぎゃっ!」
 目の前で嬉しそうに叫んでる迷惑な妖怪の頭を軽く叩く。
「ううう……痛いのじゃ、ご主人様」
「我慢しろ。さて、脱出するか」
「そじゃの。ご主人様、“わーぷ”をするのじゃ」
「あ」
 そっか。そういやそんなこと言ってたな。
「どしたのじゃ、ご主人様? わーぷせんのかえ?」
「あれ、嘘」
「……え?」
「そんな装置まだ発明されてねえ。あと、分解とかも嘘。そんな殺人兵器持ってねえ」
「な……なんじゃとおーっ!? えっ、じゃあワシは騙されて主従契約しちゃったのかえ?」
「やーいばーかばーか」
「な……なんでそんな嘘つくのじゃーッ! 今すぐワシを解放するのじゃーッ!」
「祠からは解放されたからいいじゃん」
「ちっともよくないのじゃ! あっ、そうじゃ! ……こほん。ワシを解放せぬと食い殺すぞよ!?」
「契約したらお前の行動を制限できるらしいが、そのうえで俺を食い殺すことできるの?」
「できないのじゃうわーんッ!」
「ああまた泣かしてしまった。何度見てもそそるなあウヒヒヒヒ」
「幽体を通してではなく生で見るとより一層気持ち悪いのじゃうわーんっ!」
 失敬な。ともあれ、可哀想なので頭をなでてなぐさめる。
「ぐすぐす……ううーっ、もういいのじゃ。騙されてしまったが、こんな真っ暗で何もない所で独りでいるよりマシなのじゃ。……しかし、妖怪を騙すとは妖怪より悪辣よのぉ」
 不愉快なので妖狐のほっぺをぐにーっと引っ張る。
「ふにーっ!? ふににーっ!?」
「さて、妖狐さん。お前の力でこっから脱出できない?」
「ふにに……ふがっ。なんでワシのほっぺを引っ張るかや!?」
「引っ張りたいと思ったから。で、どうなんだ?」
「ぬぅ……ま、まあできなくもないぞよ。やってほしいかや? あっ、そうじゃ! やってほしいならワシとの契約を白紙に戻すのじゃ。これは取引なのじゃ!」
「知らん。いいから俺を上まで運べ。命令です」
「了解なのじゃご主人さまーッ!」
 なんか半泣きで叫びながら、妖狐は俺を見た。
「ぐすぐす……じゃあ、ワシに掴まっててほしいのじゃ」
 そう言って、妖狐は狐の耳としっぽを生やした。これにはちょっとびっくり。
「すげぇ! 妖怪みたい!」
「だから、妖怪じゃってば! ってば!」
「二回言うな。まあいいや、こうか?」
 むぎゅっと妖狐のしっぽを無遠慮に握る。
「ふにゃ!? ち、違うのじゃ、違うのじゃ! 今から変化するから、それから掴まるのじゃ! ……あ、あと、しっぽは触ってはいかんのじゃ。しっぽは大事なのじゃ」
 妖狐はしっぽを振って俺から逃れると、自ら抱きしめるようにしっぽを持って俺に訴えた。
「分かった、聞き流す」
「なんというご主人さまに当たってしまったのじゃー……」
 絶望に身を震わせながら、妖狐は身体を縮ませた。すると、俺の目がおかしくなったのか、一気に身体が膨れ上がり、同時に全身から毛が生えた。気がつくと、妖狐は身の丈5mを越す巨大な狐になっていた。
 その巨大な狐は俺を軽く咥えると、自分の背中に乗せた。
「すげぇ! 毛深!」
『狐じゃから当たり前なのじゃ! それよりご主人さま、今から一気に駆け上がるので、しっかり毛を掴んでてほしいのじゃ。落ちても知らんのじゃ』
「え」
 という暇もあろうか、妖狐は滑るように湖面を走り、そして俺が落ちた穴の真下までくると、そのまま重力を無視して駆け上って行った。
 すさまじい風と重力が俺に襲い掛かる。とてもじゃないが目なんて開けてられない。振り落とされまいと、ただ必死で妖狐の毛に掴まるだけだ。
 そのうち、穴を抜けた。そのままの勢いで空に飛び出す。下を見たら……うお、人がゴミのようだ。超高え!
 しゅるり、と毛が俺の手の中で小さくなっていく。気がつくと、狐は少女の姿になっていた。
「おお……月じゃ。何十……いや、何百年ぶりの月かのぉ。何年経とうとその姿は色褪せず美しいのぉ」
「あのー、それより妖狐さん。絶賛落下中なんですが」
 上昇の勢いはすでに消えて久しく、ゆっくりと重力に引かれている真っ最中です。
「……助けて欲しいかの? じゃあ、ワシを解放するのじゃ!」
「知らん。いいから俺を安全に地上に下ろせ。命令です」
「うう、ううう、ううううう……了解なのじゃご主人さまーっ!」
 半泣きで魔術的な何かを唱える妖狐。途端、俺たちの落下スピードが目に見えて減速した。
「これで大丈夫なのじゃあ……ぐすぐす。酷い話じゃ。ワシはもう二度と解放されんのかのう」
「大丈夫。俺が寿命で死ぬのが早いか、お前が過労死するのが早いかのチキンレースが今始まったんだ。たかだか70年程度、妖怪ならヘッチャラさ☆」
「もっかい地下で封印された方がマシなのじゃあーっ! うわーんっ!」
 半泣きどころか全泣きの妖狐の叫びが闇夜に吸い込まれていった。

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【眠くなると甘えて来るツンデレ】

2010年11月12日
 まつりが遊びに来たので遊んでやったら夜になりました。
「さてお嬢さん、ボチボチ夜も更けてきたのでそろそろ帰っては如何かな?」
「う……うな……」
 いかん。そろそろどころか、こっくり船を漕いでいる。一刻も早く帰らさなければ……!
「ま、まつり。なんなら俺が家まで送っていくし、それが嫌なら親御さんかメイドさんに連絡して迎えに来てもらっても」
「うるさいのじゃー……なんだかわらわはとっても眠いのじゃー……ふわあああ……」
 いかん。船が小船から豪華客船に進化を遂げている。このままでは……!
「むぬー……ん、のー。のーのー」
 まつりは薄っすら目を開けると、身体を斜めに傾けつつ、手をくいくいして俺を呼んだ。嫌な予感を感じつつ、もそもそとまつりの元へ向かう。
「んー……かくほ!」
 確保された。具体的に言うのであれば、突然抱きしめられた。
「確保らないで」
「んー……との、わらわは眠いのじゃ」
「はぁ、それは見れば一目瞭然家内安全七転八倒ですね」
「むぬ……? うん、まあそんな感じなのじゃ」
 何がだ。
「での。眠いと枕が必要なのじゃ。なぜなら寝るから!」
「はぁ。じゃ、貸してやるよ」
「だーめなーのじゃー! 抱き枕が必須なのじゃ!」
 まつりはイヤイヤしながら枕を取ろうと立ち上がりかけた俺を揺さぶった。揺さぶられておえええって感じになり、ふらふらになりながら再びぺたりと座り込む。
「そんなわけでの? 特別にお主を抱き枕の大役に命じてやるのじゃ。感謝するのじゃぞ?」
「いいえ、結構です」
「感謝のあまりむせび泣いてもよいのじゃぞ?」
「いいえ、結構です」
「そゆわけでの、わらわは寝るのじゃ。おやすみなのじゃ♪」
「全部断ったのに何一つとして気にせず眠るだと!? この娘、やる……!」
「すぴゃすぴゃ、なのじゃ♪」
「起きてませんか?」
「起きてないのじゃー。わらわは寝てるのじゃ。起こしてはいかんのじゃよ?」
「返事してませんか」
「してないのじゃ。ふわあああ……ぬー。んじゃ、本当に寝るのじゃ。お休みなのじゃ、ぬし殿♪」
「いや、ちょっと待って。勝手に寝ないで。お休まないで」
「ふにゅふにゅ……」
 結局最後まで俺の話なんてちっとも聞かずに、まつりは幸せそうにふにゅふにゅ言いながら眠りに就いた。
「はぁ……なんちうか、なんちうか」
 色々思いながらも、携帯でまつりのメイドさんを呼ぶ。
 数分後、俺に向かってしきりにお辞儀をするメイドさんに連れられ、まつりは車で帰っていった。何もしてないのに超疲れた。

 んで、翌日。
「わらわのせいじゃないぞ!?」
「うわあっ」
 登校するなり朝からまつりが超やかましい。
「あーびっくりした。いきなり何の話だ」
「き、昨日の話じゃ、たわけ!」
「あー。物凄い迷惑を受けたが、同時にふにゅふにゅ言ってる可愛い生物を愛でられて大変満足しております」
 まつりが真っ赤になった。
「ひ、人を生物とか言うなッ! ……あ、あと、可愛いとか言うでない、おろかもの」
 何その後半の可愛らしい抗議。
「と、とにかくの。昨日の出来事は全て忘れるのじゃ。なかったことにするのじゃ」
「ええっ!? まつりが眠くて船漕いでたのも、『かくほ!』とか可愛らしく俺に抱きついてきたのも、もふもふしてきたのも全部忘れろと? そんなのってないよ!」
「全部言わんでいいわい、たわけっ!」
 まつりが顔中赤くしながら半泣きで怒った。
「ううう……とにかく、忘れるのじゃ! 命令なのじゃ! わらわの言うことを聞くのじゃ!」
「うーん……じゃあ、今日また遊びに来るなら忘れる」
「ぬ……わ、分かったのじゃ。しかし、しかしじゃ! わらわは学習するのじゃ! 愚かで愚劣で常にわらわに劣情を催しておる貴様のことじゃ、昨日のことのようなことを期待しておるようじゃろうが、二度と先のようなことは起こらぬと思え!」

 そのまた翌日。
「わらわのせいじゃないぞ!?」
 なんか昨日見た光景がリピートされてる気がします。

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