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2025年02月04日
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【バレンタインなのにイス扱いしてくるツンデレ】

2012年02月18日
 今日はバレンタインということで、ちょっとは期待していたのだけど、何やら俺の予想と違う。
「あのー。かなみさん? 一体これはどういうことなのでしょうか」
「うるさい。イスのくせに話しかけるな、ばか」
 かなみと一緒に帰ったんだけどね。俺の家まで来て、なんか知らないけど、俺の膝の上にちょこんと座ってるの。今現在も。
「時に四つ足にトランスフォーム~コンボイの謎~するので誤解されるのも仕方が無いと思いますが、実は人間なんですよ?」
「そのくらい知ってるわよ! イス扱いしてるってだけよ! アンタはあたし専用のイスなんだから、黙ってあたしに座られてたらいいのよ!」
「いやそりゃ無茶な話でゴンスよ。俺の膝が大変ですよ? 主に感触的な意味で」
「変態!」
「ありがとうございます!」(満面の笑み)
「うー……ホンモノめ。死んじゃえ、ばか」
 などと悪態をつきながらも、決して俺から離れようとしない。どうすればいいの。(ナディアのED風)
「…………」
 脳内で突如繰り広げられたナディアコンサートに出席してたら、かなみが自分の肩越しにこちらをじーっとみていることに気づいた。何やら不満気な様子だ。
「むー……」
 口でも不満を表現している。これはかなりの不満度に違いない。ただ、いったい何が不満なのか、その一点だけが分からないのだけれど。
「……よし。こうなったら運否天賦だ、俺の選択はこれだッ!」
「ひゃっ!?」
 かなみの頭に手をのせ、なでなで開始。俺にはこれくらいしか。
「いかがですか、姫?」
「……ご、50点。もっと頑張りなさいよ、ばか」
「分かった、火が出るまで頑張る」
「なでる速度を頑張れって言ってるんじゃないわよ!」
「そう言われても」
 しかし、50点という低評価の割には、かなみの顔はご機嫌っぽいのだが。ふぅむ。
「まったく……今日もバカね、アンタは」
「そんなことはないと思うのだけど」
「何言ってるのよ。馬鹿よ馬鹿、それも大馬鹿」
「あまり馬鹿馬鹿言うない」
「せ、折角このかなみちゃんが哀れなアンタにチョコをあげるチャンスをやろうってのに、それをふいにしようって言うんだもの。馬鹿以外の何者でもないわよ」
「ほう。……む? いま素敵な言葉を聞きましたが!!!」
「ん、あ、ああ。チョコ? ぐーぜん持っててね。自分で食べてもいいんだけど、ほ、ほら、なんか今日バレンタインらしいし。そ、その、……あ、アンタ欲しいでしょ?」
「そりゃ当然!」
「そ、そだよね。……よかった、用意しといて」(ぼそり)
「用意していたのであれば、偶然持っていたという発言はおかしいのではないでしょうか」
「思わず言っちゃった言葉を聞き逃す努力くらいしなさいッ!」
 なんか超怒られた。
「うー……と、とにかく。このチョコが欲しいのなら、あたしをもてなすことね」
「つまり、そのチョコが欲しいのなら、かなみをもてなすのだな?」
「そ、そうだけど……なんで繰り返したの?」
「よし。そのチョコが欲しいので、かなみをもてなしてやる!」
「また繰り返した! なんで!?」
「さて、そのチョコが欲しいでのかなみをもてなしたいが、何をしたらかなみは喜ぶのだろう」
「なんかもう言うこと自体が楽しくなっちゃってるみたいだし……。あのね、あたしは抱っ……」
 ぴたりとかなみの動きが止まった。
「だ? 脱穀?」
「そ、そう! 脱穀! 脱穀が大好きなの!」
 何やら真っ赤になりながら、かなみはあわあわと慌てて言った。
「なるほど。脱穀マニアなのか。変な奴」
「そ、そうなの! あたし変な奴なの! えへへ、えへえへ!」
「だが、生憎とここには稲穂などないので、抱っこで手を打ってはどうだろうか」
「ぅあーっ! もーっ! やっぱ気づいてるしい! アンタなんて大っ嫌い!!!」
「いやははは。つーわけで、むぎゅー……と、したいのですが、その。いい?」
「へ、へっ!?」
「だから、抱っこ。その、していい?」
「……………………い、いい」
 かなりの時間逡巡したようだが、許可は出してもらった。まあ、視線は明後日の方向に向いたままだったが。
「べっ、別に抱っこが好きとかアンタだから許したとか勘違いしないでよねっ!?」
「じゃあどう考えればいいのだ」
「…………。い、いーから早く抱っこしろっ!」
「はいはい」(むぎゅっ)
「むきゅっ。こ、こら! もーちょっと緩く抱っこしなさい!」
「頭のネジを?」
「それ以上緩くするとネジが取れちゃうわよ?」
「随分自虐的だなあ」
「あたしじゃなくてアンタの頭のネジよッ!」
「ロボットじゃあるまいし、頭にネジなんてないぞ。頭大丈夫か?」
「うがー!」
 からかったら暴れだしたので、背中をぽんぽん叩いて落ち着かせる。
「うぅー……やっぱアンタなんて嫌いよ」
「なんと。そして今気づいたが、この態勢は大丈夫か?」
「へ? ……へ、へぇっ!?」
 最初は俺に背を預けた態勢で座っていたはずなのだが、先程暴れたせいで姿勢がくるりと180度回転、向き合った状態で抱き合ったモノがこちらになります。む、どういうわけか料理番組風味に。
「……だ、だいじょーぶだ、問題ない」
「ならその全力で顔が赤いのをどうにかしろ」
「だいじょーぶだ、問題ないの!」
「頑ななイーノックめ。しかし、この態勢で抱っことなると、その」
「い、いーじゃん。抱っこしやすいだろーし。……こ、こゆこともできるし」
「う」
 鼻と鼻をチョンと合わされた。こんなことされると、とても嬉しいので何も抵抗できなくなります。
「…………」
 そしてやった本人の方が恥ずかしがってるのはどういうことだ。
「あー……うん。とりあえず、抱っこな、抱っこ」
「う、うん」
 軽く抱っこしてかなみの後頭部をぽんぽん。この態勢ならばお互いに顔を見ないですむので、恥ずかしさは軽減されるハズだ。
「……その、頭ぽんぽんっての、ネットで見たの?」
「ん? あー、なんか女性に気に入られるらしいな」
「※だけどね」
「しまった、俺に扱える代物ではなかったか! 人類には過ぎた代物だったんだ!」
「……まー、でも、その。……あたしは、そんな嫌じゃないよ? アンタにぽんぽんされるの」
「そうなのか? 実を言うと無意識にしていたのでどうしよう状態だったので、結果として助かった」
「……天然?」
「いや、俺は常に意図的にボケてるぞ。そして今回は特にボケていないのだけれど」
「うー……注意しとかないとね」
「何が」
「いーの。アンタって、そーゆーことは察しが悪いよね」
「まったく何の話か分からないのだけれども」
「だから、いーんだってば。あんまりしつこいと嫌いになっちゃうぞ」
「む。じゃあ今は好きなのか」
「すっ……なっ、なわけないじゃん! ばーかばーかばーか!」
 べりりと俺を引き剥がすと、かなみは顔を赤くしながら馬鹿馬鹿と連呼した。
「冗談に決まっとろーが」(むぎゅっ)
「むきゅっ。……ふん、知ってるわよ。ばか」
「なるほど。ところで、そろそろチョコをもらえないでしょうか」
「……ヤだ」
「えっ」
「ヤだ! こんなもてなしじゃ全然足りない! もっといっぱい抱っこしたりなでなでしたりちゅーしたりしなさいよっ!」
 再びべりりと俺を引き剥がし、かなみは何やら妙なことを言い出した。
「えっ」
「あっ、ちっ、違うっ! ちゅーはナシ、ちゅーはまだ!」
「えっ」
「だ、だからあ! ……も、もー! ナシ! 今のナシ! 全部ナシなの!」
「言葉は放たれる矢の如く。こぼれたミルクは戻らないですよ?」
「う……うっさい! ミルクがこぼれたなら舐めとればいいじゃないの!」
「ほう。面白い、そういう無茶は嫌いじゃない。じゃあ今から私が舐めとりますので、おっぱいから母乳を出してください」
「出ないわよッ! 屏風から虎を出せみたいに言うなッ!」
「坊主が屏風に上手にニャルラトホテプの絵を描いた」
「あたしの知ってる早口言葉と違うっ! 坊主が人外のもの描いてる!」
「想像すると、なかなかにシュールな光景ですね。そんな坊主に葬式あげられた日には、成仏できそうにないですね」
「成仏どころか、魂を何か変なものに捧げられそうよ……」
「閑話休題、やはりちゅーをしないとチョコはもらえないのでしょうか?」
「今の話題引っ張ってなかったことにしたかったのに! したかったのに! 今日もアンタはヤなやつ!!!」
「いやははは」
 全力で頬をつねられた。痛え。
「これ以上ちゅーのことを言ったら殺すからねっ!?」
「了解、とても怖いので言いません。じゃあ、その。抱っこの続きをしてもよろしいか?」
「……よ、よろしい。じゃあ、はい」
 かなみは両手を前に出し、抱っこのポーズをした。
「うーん可愛い。写真撮っていい?」
「だ、ダメに決まってるでしょ!」
「ネットにあげる時は目線入れるから」
「絶対ダメ!!!」
 真顔だ。説得ロールに失敗した。
「うー……アンタと一緒だと、ムードも何もあったもんじゃないわね……」
「ギクシャクするの苦手なんですよ。つーわけで、ぎゅー」(むぎゅっ)
「ふきゅっ。……たまには、甘い囁きとかあってもいーかなーって思うけどなー」
「ふむ。……お前の鉄拳で、何度血反吐を吐いたか分からないゼ……」
「甘くない! ちっとも甘くない!」
「奇遇だな。俺も甘いどころか、口の中に鉄の味が蘇りました」
「もっと色々あるでしょ? ……や、優しいトコロが素敵だとか」
「いいえ」(即答)
「…………」
「いてててっ! 無言で耳を引っ張るな!」
「うるさいっ! アンタなんか嫌い嫌いっ! ばかっ!」
「むう。でも、俺以外には優しいよな。というか、俺にだけ厳しいというか」
「そ、それは……」
「?」
「あっ、アンタが馬鹿だからしょーがないの! あたしは悪くないの!」
「酷い話だ」(なでなで)
「うっ……理不尽なこと言われてるのに、優しく頭なんかなでるな、ばか」
「うーん。なんかね。言ってるお前の方が辛そうな気がしてね」
「……気のせいだもん。そゆとこ、嫌い。大嫌い」
「いやはや」
「……嫌いだから、ずっとアンタに嫌がらせしてやる。これから先ずっと」
「え」
「そ、その最初の嫌がらせが、……んしょ、これ」
 かなみは近くに落ちてた自分のバッグを漁り、中から小奇麗な箱を取り出した。そしてそれを俺に渡してきた。
「えーっと。これは、その、チョコ?」
「中身は毒。相手はしぬ」
「嫌がらせの範疇を超えてますね」
「食べて」
「はい」
 パワーオブパワーで包装を破り、蓋を開ける。中に入ってるチョコが明らかにハート型で顔がほてりんぐ。
「し、心臓を模したからハート型なの。……手作りでハート型だからって、本命と勘違いしないでよね。義理なんだからね」
「そこまで手間暇かけたなら、もう本命でいいだろ」
「愛情じゃなくて毒を入れてるから義理なの!」
「義理チョコならぬ義理毒物か。義理で死ぬのは嫌だなあ。モチロン本命毒物でも嫌なものは嫌だが」
「いーから早く食べろ!」
「へーへー」
 そんなわけで、一口かじる。
「ど、どう? おいしい?」
「もぐもぐ……うん、甘くておいしい」
「ほっ。……ほっとか言ってない!」
「もうちょっと言い訳頑張れ」
「う、うるさいの! ……それで、どう? しぬ?」
「たぶんだけど、毒は入ってないから死なない」
「は、入ってるもん。砂糖も食べ過ぎたら毒だもん。……偶然、レシピ通りの量しかなかったからだいじょぶだけど」
「それ普通のチョコだよね」
「そ、そんなのより、どだった? おいしかった? おいしいから好きになった?」
「なんか最後おかしい」
「いーから! どーなのよ!」
「おいしいと好きになるなら、俺は全国のコックさんへ告白行脚に出かけなければならないので、おいしかったが特に感情の変化はないようだ」
「バレンタインのチョコレートに限るから大丈夫なの!」
「しかし、仮に俺がお前を好きになったとして、お前は俺が嫌いなんだよな?」
「えっ? う、うん。……いちおー」
「じゃあ、失恋しか道はないのか。それは嫌だなあ」
「もー! いーから素直に好きだって言え! そしたら断ってやるから!」
「あんまりだ」
「うるさいうるさいうるさいっ! アンタみたいなのは、あたしに100回くらい告白して初めてOKもらえるんだからねっ!」
「ほう。言い換えると、100回告白したら付き合えるということなのだな?」
「えっ? ……ま、まあ、そうなる……かな?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
「早い早い早い! そして怖い! なんで無表情で連呼してるのよっ!?」
「こうも続けて言うと作業感でいっぱいだが、しょうがないよね」
「しょうがなくないっ! もっと一回一回心を込めて言いなさいよっ!」
「早く100回言ってつるぺたおっぱいを舐めたいなあ。さて、好き好き好きっ好き一休さ」
「そんな心は込めるなッ! あと最後一休さんの歌になってた!」
「ままならないなあ。ところで何回言ったかな?」
「こんなのノーカンよ、ノーカン! 一回一回心を込めなきゃカウントには入れないに決まってるじゃない!」
「超めんどくせえ」
「アンタ本当にあたしと付き合う気あるの!?」
「めんどくさいから、今まで通りかなみの頭なでたり膝に座られたり抱っこしたりの関係でいいや」
「…………。……な、なんか客観的に聞くともう既に付き合ってるみたいじゃない。全然付き合ってなんてないけど!」
「ふむ。じゃあ今後はそういうの全部やめようか」
「今日もヤな奴でいじわるで最悪!」(がじがじ)
「噛まないで」
「じゃあそういういじわるなこと言うな、ばかっ! がうがうっ!」
「あら可愛い。これはなでるしかない」(なでなで)
「お、怒ってる最中なのになでるな、ばかっ」
「困った顔もたまりませんね」(なでなで)
「う、うー……」
「……ハァハァ」
「こっそり興奮してるっ! やっぱ変態だコイツ!」
「しまった、ばれてた。しょうがない、堂々と興奮しよう。ハァハァ、ハァハァ!」
「怖いわよっ!」
「ままならないなあ」(なんとなくほっぺふにふに)
「全力でこっちの台詞よっ!」
 自分のほっぺをふにふにされながらも、俺の頬をぐにーっと引っ張るかなみだった。

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【ツンデレに噂話について詰問されたら】

2012年02月10日
 もうすぐバレンタインという噂を聞きつけた俺は、根回しに躍起になっていた。だが、どうにもうまくいかない。
 そんなある日の放課後。今日はどこから行こうか教室でプランを練っていると、かなみが何やら不機嫌そうな顔をしてこちらにやってきた。とても怖いのでそーっと逃げようとしたら回りこまれた。
「くそっ! やっぱり大魔王からは逃げられない!」
「誰が魔王よッ! くだらないことしてないで、ちょっと顔貸しなさいよ」
「嫌な予感しかしねぇので嫌です」
「早く!」
「はいすいません」
 叱られたので、素直に自分の席に着く。かなみは近くの机の上に座った。お行儀が悪いですよ?
「あのさ、なんか最近『放課後に色んな教室を練り歩き、食物を必死な顔でねだる妖怪が出る』って噂が流れてるんだけど、アンタなんかしたでしょ?」
「あー。多分その妖怪のモデル俺です」
「やっぱか! あたしも聞きながらアンタを想像したわよ! 勝手に学校の七不思議を増やすな馬鹿っ!」
「別に好んで増やしたわけではない。ただチョコをもらおうと必死だっただけなんです。それがよもや学校の歴史に名を刻む羽目になろうとは……」
「なんかかっこよさげだけど、どう考えてもかっこ悪いわよ」
 ですよねー。
「んで、なに? チョコ? あ、バレンタインの」
 コクリとうなずくと、かなみはいかにも馬鹿にした様子で俺に話しかけた。
「その調子だと、当然のようにチョコレートはもらえそうにないみたいね。ま、トーゼンよね。誰がアンタみたいな変人にチョコを渡すってのよ♪」
「今日もかなみは楽しそうに俺を罵倒しますね」
「罵倒じゃないわ、ただ事実を述べているだけよ。それが、どういうことか、罵倒になっちゃうのよねー。不思議♪」
「俺の魅力がなせる技だな!」
「けなしてるんだからそろそろ怒れッ! 何を全部吸収してるのよ!」
「なんで俺が怒られてるの?」
 頬をぐにーっと引っ張られた。痛い。
「うー……ちっとも堪えてないし」
「いや、痛いんですよ? ただ、人より表情に出にくいだけで」
「あ、引き千切ったら流石のアンタでも痛がるかな?」
「助けてぇ!」
「叫ぶなッ! 冗談よ、冗談」
「なんだ。かなみのことだ、頬を引き千切るだけに飽きたらず、太ももとかつまんで引き千切るに違いない! と強く思ったんだが……いや俺の勘違いでよかったよかった」
「どこの花山と勘違いしてんのよッ!」
「握撃!」
「ふにゃあ!?」
 わっしと顔を掴んだら、やけに可愛いリアクションをされて、俺は一体どうしたら。
「…………」
「…………」
 どうしたらいいか分からなくなって、そっと手をのけたら、あらかなみさん顔真っ赤。
「……えーと」
「うるさい喋るな死ねッ! そしてさっきの忘れなさい!」
「ネコミミつけて『なでなでしてくださいですにゃあ』と媚っび媚びに言ってくれるなら忘れる」
「なんで恥ずかしいのを隠すためにより恥ずかしいマネしなきゃいけないのよ! するわけないでしょ、この馬鹿!」
「むぅ。しょうがない、さっきの『ふにゃあ』を脳内リピートして楽しもう」
「忘れなさいって言ったでしょ! 忘れろ、この馬鹿!」
「脳内リピート開始。ふにゃあふにゃあふにゃあ」
「アンタを殺してあたしは死なないッ!」
「ふにゃげげげ」
 首を締められたので忘れることにする。そしてさっきのかなみの台詞だと、ただ俺が殺されるだけなので納得いかない。
「はぁはぁ……あのさ、死ぬから」
「それがあたしの望みよ」
「なんて酷いやつだ。チョコはもらえず、よもや死をもらう羽目になろうとは」(ドヤッ)
「うわっ、超うっとうしい。……そ、それで、やっぱりチョコはもらえそうにないの?」
 興味がないのだろう、かなみは髪の先をいじりながら素っ気なく聞いた。ただ、視線だけが毛先と俺の間をせわしなく行き来していた。
「あー。なんかね、誰もくれないんですよ。俺も知らないことなんだが、どうやら俺には既に相手がいるからって」
「相手っ!? どっ、どういうことよッ!?」
「痛い痛い苦しいやめて誰か助けてぇ!」
「うるさいっ!」
 がっくんがっくん揺さぶられたので、得意の萌えボイスで悲鳴をあげたら怒られた。
「いやね、なんか俺にはいつも側にいる奴がいるらしくて。仲が良さそうな悪そうな、一見するとよく分からない関係で、でもいっつも側にいるからチョコを渡すのもねぇ、という話なんです」
「だだだ誰よそれっ! 名前を言いなさいよ、名前!」
「俺も名前までは。ただ、容姿の特徴は聞いてきた」
「よしっ! 極々稀に役に立つわね!」
「でへへぇ」
「うわっ、気持ち悪ッ! 死ね!」
「…………」
 折角のいい気分が台無しだ。
「はぁ……ええと、そいつの特徴なんだが、なんかいっつも俺をぽんぽん叩いてるらしい」
「ふーん。あたし以外にそんな殊勝な趣味を持った奴がいるのね。是非お友達になりたいわ」
「お前は一度殊勝という単語を調べなおしたほうがいいと思う」
「うっさい。ほらほら、早く次の特徴言いなさいよ」
「ん、ああ。でだな、身長はあまり高くないらしい。平均よりもやや低いとか」
「ふーん」
「これは俺様大喜びなんだが、胸はぺったんぺったんつるぺったんだとか。最高だよね!」
「…………」
「最高だよね!」(満面の笑み)
 繰り返すと殴られます。要注意。
「まったく……ん? アンタをいっつも殴ってて、小柄で、胸がぺった……す、スレンダー? ……それって」
「あと、頭の両端から昆布が垂れてるらしい。ここまで変な奴は人間ではなく妖怪の一種だと思う」
「明らかにあたしのことじゃない! あと昆布じゃない! 髪! ツインテールだって何百回と言ってるでしょ! え、ていうか周りのみんなもこの髪形を昆布って認識してるの!?」
「いや、なんかツインテールとかなんとか訳の解らんことを言ってたから、きちんと意訳してあげた。こんな気の利く俺を褒めてはどうだろうか」
 いや、殴るんじゃなくて。褒めるの。
「この馬鹿は……あれ? じゃあ、え? み、みんなあたしとアンタのこと……?」
 何やらかなみの顔がゆっくりと赤くなっていきますよ?
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわよ! うぅ……こ、こっち見るな馬鹿!」
「よく分からんが、大丈夫か? 保健室行くか?」
「そ、そういうんじゃないから、別に! 心配とかするな、ばか!」
「まあ、問題ないならいいんだけど。女の子なんだから、どこかおかしいと思ったら無理せず保健室へ行くんだぞ?」
「う、うるさいっ! 女の子とか言うな、ばかっ! ばかばかばかっ!」
「いやはや。ところでかなみ、俺にチョコをくれませんかね?」
「えっ?」
「いやね、この調子だと誰にももらえそうにないんですよ。俺の側にいる謎の人物は結局お前ってことで解決してしまったし、ここはやはりかなみに頼るしか」
「……ふ、ふーん。そなんだ。あたしのチョコが欲しいんだ」
「この際だ、多少なら異物が混入されていても文句言わない」
「込めないわよッ! 人をなんだと思ってるのよ!」
「隙あらば俺を殺そうとする暗殺者」
「違うわよっ! んなことしたことないわよっ!」
 いやもう今日既に殺されかけたけど。
「ああもう、どっと疲れた……」
「まあそういう訳で、頼む。チョコくれ。いや、ください」
「……ふっふ~ん。どーしよっかな?」
 ニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべるかなみ。本領発揮といったところか。
「分かった。どこを舐めればいい?」
「なんでよっ! 寄るな変態ッ!」
 負けじとこちらも本領を発揮させたら嫌がられた。
「いや、こういうシチュエーションなので、どっか舐めさせられるものかと。個人的にはおっぱいとかがいいです」
「はぁぁ……そうよね、こういう奴だったもんね。……あーあ、なんでこんな奴を……」
 かなみは俺を見ながら何やらぶつくさ言っていた。
「うー……ちょっとこっち来なさいよ、ばか」
「馬鹿ではないが、了解」
 てってこ近寄ると、何やら頬を引っ張られた。
「痛いのですが」
「ふん。冗談ばっか言ってるからよ、ばか。罰よ、罰」
「我々の業界ではご褒美ですよ」
「どこの業界よ! 全く……ばかなんだから。えいえいっ」
「ご褒美ではあるが、痛いのですよ?」
「チョコほしいんでしょ? だったら我慢することね。とーっ、やーっ♪」
 かなみは小さく笑いながら俺の頬をむいむいと楽しげに引っ張るのだった。

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【ゆら姉と七瀬 夕食の買い出し】

2012年02月05日
 学校も終わったので、部屋でゆっくりしてるとゆら姉が部屋にやってきた。
「アキくん、晩ご飯のお買い物行こ?」
「ん、いいけど、珍しいな。いつもは学校帰りに寄るのに」
「うーん。そうしたかったんだけど、どういうことか女狐が一緒にいたからねー♪」
 ゆら姉が笑顔なのに超怖い。
「しかも、あろうことか、その女狐が可愛い可愛い弟の“姉”になるとか言い出してねー?」
「ゆ、ゆら姉。あ、あの、その、手! 手をつないで一緒にでかけようか?」
 あまりの恐怖にとりあえずおもねる。
「え、えっ? ……も、もー。本当にアキくんはお姉ちゃん離れができなくて困っちゃうね♪」
 それが功を奏したのか、ゆら姉の周囲に渦巻いていたどす黒いオーラは消えた。大変怖かった。
「……そ、それとも、おうちで適当なの食べて、余った時間で、そ、その。……ちゅー、する?」
 違う意味で姉が怖い。
「いや、最近そればっかでもう食材が残ってなかったように思うのだけど」
 そして俺も怖い。
「あ、そ、そだったね。……えへ、毎日ちゅーだったね?」
 どうして俺の姉はこうも可愛いのか。
「ほっぺ! ほっぺだけどね!」
 なぜか分からないが、どこかの誰かに喧伝しなければならない気がしたので大きな声でそう言ってみる。
「え、えと。……そ、それは、お口にして欲しいってことなのカナ?」
 俺の理性が大変ピンチ。
「で、でも、姉弟だし……だ、だけど、弟が望むならそれも……そ、それに、姉弟ならノーカンだよね? ねっ?」
「は、早く買い物に行こう、ゆら姉! 冬は陽が沈むのが早いこと請け合い!」
「あっ、待ってよぉ」
 そんなわけで、姉弟仲良くおてて繋いで近所のスーパーへやってきたのだが。
「あ」
「あ」
 ついさっき見かけた顔と再開したわけで。
「……これはもう運命?」(なでなで&ぎゅっ)
「人の弟を勝手に可愛がらないでいただけますっ!?」
 偶然にも買い物に来ていた七瀬が俺を見るなりハグ&なでなでをしかけた結果、ゆら姉が半泣きになってます。
「ふーふー……あのね、七瀬ちゃん? この弟は“私”の弟なの。勝手に可愛がらないでもらえる?」
「でも、私も彰人の姉だからしょうがない?」
「それあなたが勝手に言ってるだけでしょっ! この女狐め! もー、アキくん! なんとか言ってやってよ!」
「あ、もやしが安い。よし、今日はもやし炒めにしよう」
「お姉ちゃんの話を聞きなさいっ!」
「わひぃっ」
 もやしが1個9円だったのでカゴにわっさわっさと入れてたら、なんか超怒られたので超驚いた超。
「あ、今の声、犬みたいでかわいい。録音しておくので、もう一度鳴いて?」
 そして七瀬は少し変だ。
「嫌です」
「七瀬、しょんぼり……」
 でもちょっと可愛い。
「アキくんっ!」
「いていていて」
 弟の思念を読み取るという姉の基本スキルが発動したため、ゆら姉が機嫌を悪くして俺の耳を引っ張ります。
「ぺろぺろ」
「なっ、七瀬っ!?」
「なっ、何してるんですかあなたはっ!?」
 そのやりとりをぼーっと見ていた七瀬が突如、俺の耳をなめだした。
「……痛そうだったから、治療?」
 姉ってのはどこの姉も舐めて治すのか。
「あ、あの、七瀬? べ、別に舐める必要は」
「お、お姉ちゃんも! お姉ちゃんも舐める!」
「え、いや、ゆら姉、あの」
 どういうことかゆら姉まで俺の耳を舐めだした。
「ゆら姉も七瀬も、その、弟的にはどうかと思うなー?」
「ぺろぺろ。……七瀬、お姉ちゃん?」
「え、えーと。……七瀬お姉ちゃんも、その、舐める必要は」
「ぺろぺろ……はぁはぁ……ちゅーちゅー……はぁはぁ」
「なんか発情してるよこの人ーっ!?」
 スーパーで女の子二人に耳を舐められてる変態がいたら、俺と思っていただいて結構です。

「落ち着いてください」
 耳がよだれでべったべたになるまで舐められた後、比較的客の少ない一角までやってきて二人を落ち着かせる。
「お、お姉ちゃんは落ち着いてるもん。この女狐が私のアキくんを舐めるから、お姉ちゃんの聖なる唾液で消毒しただけだもん」
「聖なる唾液……聖なる液……略して聖水?」
「略すな」
「あぅ」
 七瀬の頭をぺこちんと軽く叩く。
「……彰人の耳は聖水まみれ?」
「そういう趣味はない」
「残念……」
「あるのっ、七瀬お姉ちゃんそっちの趣味あるの!?」
 さすがにふるえがとまりません。
「ないけど、弟のためなら頑張る所存?」
 七瀬お姉ちゃんは努力の方向性が間違ってる模様。
「ていうかアキくんっ! 何を普通に七瀬ちゃんのことをお姉ちゃんって呼んでるの! お姉ちゃんはゆら姉一人だけでしょっ!」
「そうなんだけど、呼ばないと無限ループに陥るからしょうがないんだ」
「弟の信頼を勝ち取った七瀬?」
「その勝ち誇った顔がムカツクーっ!」
「ああもう姉たち喧嘩しない」(なでなで)
 俺の手はふたつあるので、両方を用いて二人の姉の頭をなでて落ち着かせる。弟にはそんな技能もあるのです。
「むー。お姉ちゃんなのに、子供扱いするし……」
「…………」(ぽーっ)
「こらそこっ! ぽーっとしない! ていうか私の方が幸せだしっ! ねーっ、アキくん!?」
「分かりません」
「幸せなのっ!」
 などと侃々諤々言い合ってたら、七瀬お姉ちゃんが俺をつんつんとつっついてきた。
「ん、どした七瀬お姉ちゃん?」
「も、もっかい。もっかい」
 何この可愛い生物。
「七瀬を、もっかいなでて?」
 何この可愛い生物。大事なことなので2回言いました。
「お姉ちゃんえくすとりーむりーむーっ!!!」
 そして姉の読弟術により、ゆら姉の機嫌が悪くなって俺の頬が引っ張られる。痛い。
「ていうかそこの新参姉っ! 弟に篭絡されてどうするっ! 弟を篭絡してこそ、姉なのよっ!」
「!!!!!」
 ゆら姉が間違った知識を七瀬お姉ちゃんに伝授している。七瀬は七瀬で無駄に感銘を受けているし。ああもう。
「ちょっとでいいからゆら姉は黙っててください」(なでなで)
「うっ……こ、この程度でお姉ちゃんが黙る……黙るはずが……ふにゃ~」
 黙った。さてと。
「んで、七瀬お姉ちゃんも飯買いに来たのか? 親の手伝いなんて偉いな」
「? ……七瀬は一人暮らし。知らなかった?」
「え、あ、そ、そなのか」
 聞いても大丈夫な話なのだろうか。下手に踏み込んで傷つけてもなあ。かといって「ああそう大変だねじゃあ俺はゆら姉とイチャイチャするのでこれで」と見捨てるのも酷過ぎるし、ううむ。
「……だいじょぶ。親は健在。ちょお元気?」
「そ、そか。……べ、別に心配なんてしてないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
「くぎゅううううう?」
「七瀬お姉ちゃんのレスポンスは素晴らしいな」(なでなで)
「弟に褒められると大変に嬉しい。新発見?」
「はいはい、よかったな。あ、そだ。一人暮らしなんだろ? もしよかったらなんだが、俺んちで一緒に飯食うか? 二人も三人も料理の手間はそう変わら」
「お姉ちゃん、大反対っ!」
「……七瀬、大賛成?」
 軽い気持ちで誘ったら、姉たちの意見が真っ二つに割れた。
「お姉ちゃんが思うに思うにっ、二人から三人に変わったら料理の手間はとんでもないことになるよっ! 料理の時間が30分から5光年になっちゃうよっ!」
「光年は距離の単位だ。そして今日の飯の担当は俺だから大丈夫だ」
「アキくぅぅぅぅん……」
「はいはい」
 ゆら姉が非常に情けない声で泣きそうな顔になっていたので、頭をなでてあげた。
「七瀬を呼んでくれると、あーんしてあげる所存?」
「いや、あの。なんというかそれをされても嬉しいは嬉しいのだけど色々と問題があいててててて」
「がうがうがうっ!」
 自分に不利な雰囲気を感じ取ったのか、ゆら姉が俺の腕を噛みだした。
「じゃあ、夕食に呼んでもらった礼として、背中を流してあげる?」
「がうがうがうがうっ!」
「痛い痛い痛い痛い!」
 七瀬お姉ちゃんが何か言うたびに、俺の腕に歯がめり込みます。
「うーん。……いっそ添い寝?」
「お願いだから何も言わずに家に来てくださいお願いします!」
 このままでは腕が噛み千切られてしまうので、壊れたおもちゃみたいにぺこぺこ頭を下げて懇願する。誘わないって選択肢はナシだしね。
「……いいの?」
 七瀬お姉ちゃんが視線でゆら姉に伺いを立てている。早くも我が家のヒエラルキーを見通したか。やるな、七瀬お姉ちゃん!(誰でも分かることに気づいてない模様)
「はぁ……しょーがないよ、アキくんはこう見えて頑固なところがあるし。あと、非常に不本意だけど、七瀬ちゃんもアキくんの姉的存在になっちゃったみたいだし」
 ゆら姉のお許しが出た。これなら何の問題もない。
「よし。そんなわけで、今日は姉弟そろってもやしパーティーだ!」
「……ふつつか姉ですが、今日からよろしくお願いします?」
「嫁入りを認めたとかじゃないしっ! よろしくしないしっ! 今日だけ特別だしっ! ふしゃー!」
「ふしゃーじゃねえ。んじゃ一緒に行くか、七瀬お姉ちゃん?」
「…………」(こくこくこくこく)
 何やらやけに嬉しそうな七瀬お姉ちゃんと一緒に、レジへ向かうのだった。
「がぶがぶがぶがぶ」
 そして七瀬お姉ちゃんの頷く数と同じだけ、ゆら姉は俺の腕を噛むのだった。痛いです。

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【ゆら姉 と七瀬】

2012年02月05日
 教室にどうにか辿り着く。神の悪戯か悪魔の仕業か、俺とゆら姉は一緒のクラスなので同時に教室に入る。
「むぎゅっ」
 すると入り口で詰まるので注意が必要です。
「もー、アキくん! お姉ちゃんをむぎゅってしないの!」
「さっきしろって言ったじゃん」
「そ、そのむぎゅっとこのむぎゅっは別なの!」
「知ってます」
「アキくんっ!」
「はいっ、すいません」
 姉を怒らせてから席に着く。
「はぁ、やれやれ」
「今日も大騒ぎ?」
 ふぅと息を吐いてると、隣の席の学生が声をかけてきた。友人の七瀬だ。
「俺は好きで騒ぎを起こしているわけではないんだが、姉をからかうのが大好きなため、往々にして大騒ぎになる」
「彰人が騒ぎの原因?」
「客観的に見るとそのようだが、幸いにして俺には自分を客観視する能力に欠けているので気づかないで済んでいるんだ」
「……酷い話?」
「気のせいだ」
 などと軽口を叩き合ってると、HRが終わったようで、先生が入れ替わった。さあ授業授業。

「とか思ってたらあっという間に時間が経って昼休みになっているこの現実を七瀬はどう思うか」
「お弁当忘れた? ……あーん?」
「いや、弁当は持ってきてる。あーんは結構」
「あーん?」
「……あーん」
 この七瀬という奴は結構頑固なので、仕方なく口を開ける。と。
「うちの弟を餌付けしないでもらえます?」
 ゆら姉が俺たちの席へやってきて、非常にトゲのある口調で七瀬を牽制した。
「…………。あーん?」
 七瀬はゆら姉と俺の顔を見比べた後、特に気にせず再び俺にあーん攻勢を仕掛けた。
「こっ、こらっ! 餌付けしちゃダメって言ってるでしょ!」
 もちろんゆら姉がそれをただ手をこまねいているはずもなく、きちんと止めてくれた。さすがは姉、頼りになる!
「そういうのは、姉の仕事ですっ!」
 訂正。敵の増援が現れた。
「ほらほら、アキくん。お姉ちゃんのご飯を食べたいよね? はい、あーん」
「……実は、七瀬は彰人よりも早生まれ。これはもう彰人の姉と言っても過言ではない?」
 何か七瀬が妄言を呟いてる。嫌な予感しかしねぇ。
「彰人は七瀬お姉ちゃんのご飯を食べるべき。はい、あーん」
 姉が増えた。どうしてこうなった。
「落ち着こう。少し落ち着こう。七瀬、お前は自分の言ってることを分かってるのか?」
「七瀬お姉ちゃん」
「いや、だから」
「な・な・せ・お・ね・え・ちゃ・ん」
「……七瀬お姉ちゃん」
 遺伝子に刻み込まれた弟の因子が、姉と銘打たれたものに逆らう力をことごとく奪っていく。
「お、お姉ちゃん……」
 七瀬の目がキラキラ輝きだして見えるのは俺だけなのか。あと、その横で真っ黒なオーラをまとってる姉が超怖い。
「ゆらさん、この弟ください」
「絶っっっっっっっっっっっっっ対にあげませんっ!!!!!」
 ゆら姉が俺の頭をかき抱きながら半泣きで答えた。ためが長え。すずねえか。
「ていうかアキくんっ! どーして勝手にお姉ちゃんを作っちゃうの! そりゃアキくんは弟力は尋常じゃないからしょうがないかもしんないけど、でもお姉ちゃんは私だけなのっ!」
「もぐもぐ」
「普通にお弁当食べてるー!?」
 なんかもう疲れたので自分の弁当を食ってたら、ゆら姉が驚いてた。
「あーん?」
「だから、人の弟を餌付けしないでーっ! もうっ、お姉ちゃんのお弁当食べなさい! ほらほらっ、アキくん! あーんだよ、あーん!」
「もがもが」
 二人がかりで飯を詰め込まれる昼食だった。

 チャイムが鳴って、ゆら姉が名残惜しげに自分の席へ戻っていった。それを見届けてから、小声で七瀬に話しかける。
「おい、七瀬。どういうことだよ」
「……七瀬お姉ちゃん?」
「……はぁ。どういうことなんだ、七瀬お姉ちゃん?」
「お、お姉ちゃん……はぁはぁ、はぁはぁ」(なでなで)
「いや、分からない。そして怖い」
「……隣の席にずっといたため、前々から七瀬は彰人の弟力にしてやられていた。その結果、姉力が発露した?」
「あの、お前もゆら姉も普通に使ってたが、なんだ、弟力って」
「……簡単に言うと、周囲の人間が甘やかさずにはいられない空気を無意識で作り出す力?」
「あー……」
 非常に不本意だが、納得してしまった。道理で近所のおばちゃん連中やらばあちゃんたちやら商店街の人たちが菓子や野菜や果物を持っていけと俺に渡すはずだ。
「特に、年上の女性に効果絶大?」
「なるほど。思い当たるフシがちらほらというか枚挙に暇がないです」
「だから、七瀬が姉になってしまっても仕方がない?」
「そのだからはおかしい。流石に無理があると思うぞ」
「彰人のせいなのに……わがままな弟を持って、七瀬は困惑してる?」
「早くも姉気取りだ」
「だけど、七瀬は包容力が自慢の姉なので、そんな弟も優しく包んであげる?」
「えっ」
 机の下で、きゅっと手を握られた。同級生の、それも結構なレベルの女子にそんなことされたら、そりゃ、その、照れます。
「はぁはぁ、はぁはぁ……今日は七瀬の家に泊まるといい。明日にでもゆらさんに言っておくから?」
「スーパー遠慮しておきますっ」
 なぜか獲物を狙う目になってる七瀬の手を離す……ってえ、離れねえ! なんて力だ!? しかもなんかこっちに来てるし!?
「大丈夫、天井の染みを数えてるうちに終わるから?」
「明らかに何かされる!? ていうかそれ台詞男女逆じゃ!?」
「あーーーーーーーーーーーっ!!! アキくんが新しい姉に手篭めにされてるーーーーーーーーーーーーっ!!!!?」
 思わず大きな声で突っ込んだら、それに気づいたゆら姉がとんでもないことを教室中に響かせました。
 なんていうか、その。後のことはあまり思い出したくありません。

「あのー……アキくん、ごめんね? お姉ちゃん、ちょっとだけ混乱しててね?」
「七瀬も申し訳ないと思ってる。許してくれる、彰人?」
 放課後の通学路。心身ともにボロボロになった俺の後を、二人の姉が申し訳なさそうにしながらついてくる。
「……はぁ。もういいよ、済んだことだし」
「そ、そだよね! そもそも、そこの変な女がアキくんを襲わなかったらこんなことならなかったのに!」
「こんな可愛い弟を襲わないなんて、無理」
「ぐ、ぐぅ……確かに!」
 納得するな。
「あ……七瀬の家は、こっちだから」
 そう言って、七瀬は俺たちの進む道から外れた方向を指さした。
「そか。んじゃまた明日な、七瀬」
「……七瀬、お姉ちゃん?」
「い、言わなくていいよ、アキくんっ! ほらほら、本物のお姉ちゃんがいるんだし!」
 そうしたいのは山々なんだが、たぶんきっと絶対に言わないとコイツは帰らない。
「……はぁ。また明日、七瀬お姉ちゃん」
「言っちゃったーーーーっ!!?」
 俺がお姉ちゃんと言うと、七瀬は満足げに微笑んで俺の頭をなでた。実を言うと、満更でもない。
「はぁはぁ……ゆらさん、やっぱりこの弟ください」
「絶対の絶対の絶対にあげませんっ!!!!!」
「どうして俺をなでると興奮すんだ」
 帰宅中もやかましい俺たちだった。

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【ゆら姉 到着】

2012年02月05日
 そんなこんなで学校へ到着。周囲の視線に負けずよく頑張った、感動した!
「アキくん、よく分からないけど古い気がするよ……」
 俺の姉はエスパーに違いない。
「それはそうと、今日もしっかり勉強するんだよ? 授業中に寝たりしちゃダメだからね?」
「じゃあ俺は一体いつ寝ればいいんだ」
「寝ちゃダメなの!」
「姉が連日の徹夜を強要する」
「昼間の話なの! 夜はぐっすり寝てもいいの!」
「なんだ。でも、夜は夜でどういうわけか布団の中が狭かったりするからなあ」
「う。……そ、そんなの、今日だけだもん。偶然だもん。暖かくなったらなくなるもん」
「暗に春までは一緒に寝るって言ってません?」
「い、いーから黙りなさい!」
「はい」
 姉の言うことは絶対なので黙る。
「そ、それから、一緒に寝てることはナイショだからね。絶対だからね」
「そりゃモチロン」
 俺だけならともかく、ゆら姉が奇異の視線にさらされるのは我慢ならないので、それはね。
「ん。分かったらいいの。いーこいーこ」(なでなで)
「わぁい」
「えへへ、かーわいい」
 男子生徒の頭を背伸びしてなでる中学生みたいなのの姿に、周囲の学生たちがひそひそと囁き合ってる。
「えーと。ゆら姉?」
「ん、どしたの? ……あ。え、えっとね、アキくん? あの、流石に学校でちゅーはね、その、そのね? ……お、おうちに帰るまで我慢できる? 無理?」
 姉の間違った方向の気遣いにより、俺へのシスコン&ロリコン疑惑が限りなく高まっていく。
「弟を暴走させて性犯罪者にさせないためには、あ、姉として、それくらいはね? きょ、姉弟だし、それくらい普通だよね? ね?」
「いま暴走しているのはゆら姉だ。頼むから落ち着いてくれ」
「ふきゅっ」
 とりあえずむぎゅっと抱きしめて落ち着かせる。この姉は昔から暴走しがちなので、こうして暴走を沈めるのも割とお手の物だ。
「……はちきゅーじゅっ、と。さて、落ち着いたか?」
「……も、元から落ち着いてるし」
 まだ少し頬に熱は残っているものの、どうにか平常運行に戻ったようだ。
「で、でも、もちょっとだけぎゅーってする?」
 ……もう少しかかる模様。少し恥ずかしそうにしながらこちらに両手を向けるちっこい姉を見ながら、そう思った。

 まあそんなことをしてりゃチャイムも鳴っちゃうわけで。
「余裕を持って学校に来たのに、どーしてこーなちゃうのよ!」
「明らかにゆら姉のせいだろうに……」
「お、お姉ちゃんだけのせいじゃないもん! アキくんがちゃんとお姉ちゃんの暴走を止めないからだもん!」
「今日もうちの姉は無茶を言う」
「アキくんっ!」
「はいっ、すいません。俺が全部悪かったです」
 姉弟仲良く遅刻しました。

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