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2024年11月24日
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【ゆら姉 と七瀬】

2012年02月05日
 教室にどうにか辿り着く。神の悪戯か悪魔の仕業か、俺とゆら姉は一緒のクラスなので同時に教室に入る。
「むぎゅっ」
 すると入り口で詰まるので注意が必要です。
「もー、アキくん! お姉ちゃんをむぎゅってしないの!」
「さっきしろって言ったじゃん」
「そ、そのむぎゅっとこのむぎゅっは別なの!」
「知ってます」
「アキくんっ!」
「はいっ、すいません」
 姉を怒らせてから席に着く。
「はぁ、やれやれ」
「今日も大騒ぎ?」
 ふぅと息を吐いてると、隣の席の学生が声をかけてきた。友人の七瀬だ。
「俺は好きで騒ぎを起こしているわけではないんだが、姉をからかうのが大好きなため、往々にして大騒ぎになる」
「彰人が騒ぎの原因?」
「客観的に見るとそのようだが、幸いにして俺には自分を客観視する能力に欠けているので気づかないで済んでいるんだ」
「……酷い話?」
「気のせいだ」
 などと軽口を叩き合ってると、HRが終わったようで、先生が入れ替わった。さあ授業授業。

「とか思ってたらあっという間に時間が経って昼休みになっているこの現実を七瀬はどう思うか」
「お弁当忘れた? ……あーん?」
「いや、弁当は持ってきてる。あーんは結構」
「あーん?」
「……あーん」
 この七瀬という奴は結構頑固なので、仕方なく口を開ける。と。
「うちの弟を餌付けしないでもらえます?」
 ゆら姉が俺たちの席へやってきて、非常にトゲのある口調で七瀬を牽制した。
「…………。あーん?」
 七瀬はゆら姉と俺の顔を見比べた後、特に気にせず再び俺にあーん攻勢を仕掛けた。
「こっ、こらっ! 餌付けしちゃダメって言ってるでしょ!」
 もちろんゆら姉がそれをただ手をこまねいているはずもなく、きちんと止めてくれた。さすがは姉、頼りになる!
「そういうのは、姉の仕事ですっ!」
 訂正。敵の増援が現れた。
「ほらほら、アキくん。お姉ちゃんのご飯を食べたいよね? はい、あーん」
「……実は、七瀬は彰人よりも早生まれ。これはもう彰人の姉と言っても過言ではない?」
 何か七瀬が妄言を呟いてる。嫌な予感しかしねぇ。
「彰人は七瀬お姉ちゃんのご飯を食べるべき。はい、あーん」
 姉が増えた。どうしてこうなった。
「落ち着こう。少し落ち着こう。七瀬、お前は自分の言ってることを分かってるのか?」
「七瀬お姉ちゃん」
「いや、だから」
「な・な・せ・お・ね・え・ちゃ・ん」
「……七瀬お姉ちゃん」
 遺伝子に刻み込まれた弟の因子が、姉と銘打たれたものに逆らう力をことごとく奪っていく。
「お、お姉ちゃん……」
 七瀬の目がキラキラ輝きだして見えるのは俺だけなのか。あと、その横で真っ黒なオーラをまとってる姉が超怖い。
「ゆらさん、この弟ください」
「絶っっっっっっっっっっっっっ対にあげませんっ!!!!!」
 ゆら姉が俺の頭をかき抱きながら半泣きで答えた。ためが長え。すずねえか。
「ていうかアキくんっ! どーして勝手にお姉ちゃんを作っちゃうの! そりゃアキくんは弟力は尋常じゃないからしょうがないかもしんないけど、でもお姉ちゃんは私だけなのっ!」
「もぐもぐ」
「普通にお弁当食べてるー!?」
 なんかもう疲れたので自分の弁当を食ってたら、ゆら姉が驚いてた。
「あーん?」
「だから、人の弟を餌付けしないでーっ! もうっ、お姉ちゃんのお弁当食べなさい! ほらほらっ、アキくん! あーんだよ、あーん!」
「もがもが」
 二人がかりで飯を詰め込まれる昼食だった。

 チャイムが鳴って、ゆら姉が名残惜しげに自分の席へ戻っていった。それを見届けてから、小声で七瀬に話しかける。
「おい、七瀬。どういうことだよ」
「……七瀬お姉ちゃん?」
「……はぁ。どういうことなんだ、七瀬お姉ちゃん?」
「お、お姉ちゃん……はぁはぁ、はぁはぁ」(なでなで)
「いや、分からない。そして怖い」
「……隣の席にずっといたため、前々から七瀬は彰人の弟力にしてやられていた。その結果、姉力が発露した?」
「あの、お前もゆら姉も普通に使ってたが、なんだ、弟力って」
「……簡単に言うと、周囲の人間が甘やかさずにはいられない空気を無意識で作り出す力?」
「あー……」
 非常に不本意だが、納得してしまった。道理で近所のおばちゃん連中やらばあちゃんたちやら商店街の人たちが菓子や野菜や果物を持っていけと俺に渡すはずだ。
「特に、年上の女性に効果絶大?」
「なるほど。思い当たるフシがちらほらというか枚挙に暇がないです」
「だから、七瀬が姉になってしまっても仕方がない?」
「そのだからはおかしい。流石に無理があると思うぞ」
「彰人のせいなのに……わがままな弟を持って、七瀬は困惑してる?」
「早くも姉気取りだ」
「だけど、七瀬は包容力が自慢の姉なので、そんな弟も優しく包んであげる?」
「えっ」
 机の下で、きゅっと手を握られた。同級生の、それも結構なレベルの女子にそんなことされたら、そりゃ、その、照れます。
「はぁはぁ、はぁはぁ……今日は七瀬の家に泊まるといい。明日にでもゆらさんに言っておくから?」
「スーパー遠慮しておきますっ」
 なぜか獲物を狙う目になってる七瀬の手を離す……ってえ、離れねえ! なんて力だ!? しかもなんかこっちに来てるし!?
「大丈夫、天井の染みを数えてるうちに終わるから?」
「明らかに何かされる!? ていうかそれ台詞男女逆じゃ!?」
「あーーーーーーーーーーーっ!!! アキくんが新しい姉に手篭めにされてるーーーーーーーーーーーーっ!!!!?」
 思わず大きな声で突っ込んだら、それに気づいたゆら姉がとんでもないことを教室中に響かせました。
 なんていうか、その。後のことはあまり思い出したくありません。

「あのー……アキくん、ごめんね? お姉ちゃん、ちょっとだけ混乱しててね?」
「七瀬も申し訳ないと思ってる。許してくれる、彰人?」
 放課後の通学路。心身ともにボロボロになった俺の後を、二人の姉が申し訳なさそうにしながらついてくる。
「……はぁ。もういいよ、済んだことだし」
「そ、そだよね! そもそも、そこの変な女がアキくんを襲わなかったらこんなことならなかったのに!」
「こんな可愛い弟を襲わないなんて、無理」
「ぐ、ぐぅ……確かに!」
 納得するな。
「あ……七瀬の家は、こっちだから」
 そう言って、七瀬は俺たちの進む道から外れた方向を指さした。
「そか。んじゃまた明日な、七瀬」
「……七瀬、お姉ちゃん?」
「い、言わなくていいよ、アキくんっ! ほらほら、本物のお姉ちゃんがいるんだし!」
 そうしたいのは山々なんだが、たぶんきっと絶対に言わないとコイツは帰らない。
「……はぁ。また明日、七瀬お姉ちゃん」
「言っちゃったーーーーっ!!?」
 俺がお姉ちゃんと言うと、七瀬は満足げに微笑んで俺の頭をなでた。実を言うと、満更でもない。
「はぁはぁ……ゆらさん、やっぱりこの弟ください」
「絶対の絶対の絶対にあげませんっ!!!!!」
「どうして俺をなでると興奮すんだ」
 帰宅中もやかましい俺たちだった。

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