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2024年11月21日
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【牛を求む妹】
2010年05月17日
「ねーお兄ちゃん、ぎゅーして、ぎゅー?」
妹のみゆが牛してくれ、などと頓狂なことを言う。
「とてもノー! 牛はまるで関係ない! 抱っこを擬態語と妹の愛らしさ、その両方を最大限に生かして表現した技法なの!」
「それを言ってる時点で色々ダメだし、あと、兄の思考を普通に読むのはやめてはくれまいか」
「にゃ?」(小首をこてりと傾げながら)
「分からないフリをされては仕方ない、諦めよう。……フリだと!?」
「自分で言っておいて自分で驚いてるよ、お兄ちゃん!」
「いやはや。それで、ぎゅーですか」
「うん、ぎゅー! いいかにゃ? ダメかにゃ? もしぎゅーしてくれるなら、みゆはとっても嬉しいよ?」
「妹が喜ぶのであれば、兄として何ら躊躇する理由はない。さあ来い、みゆ!」
「にゃーっ! お兄ちゃーんっ!」
むわーって飛んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるような動きでヘッドロックへと移行する。
「うにゃあああ!? なんか頭がずきずきすりゅー!?」
「それは大変だ。頭痛薬を用意しようね」
「間違った用法だよ、お兄ちゃん! この頭痛はお兄ちゃんが今まさにみゆに行っているヘッドロックのせいに相違ないよ!」
「それはどうかな?」
「いにゃにゃにゃにゃ!? 絶対にそうだもん! なぜならお兄ちゃんが力をぐいって入れた瞬間にみゆの頭もうにって痛くなったもん!」
「ウニか。最近寿司食べてねぇなあ」
「みゆに攻撃してる途中というのに、お兄ちゃんの脳がお散歩真っ最中!? うにゅれ許せないよ、ただでさえみゆに攻撃するという禁忌を犯しておきながら、あまつさえみゆに集中しないなんて……言語道断だよ!」
お寿司食べたいなあとか思ってたら、何やらみゆから尋常ならざるオーラが放出されだしたような。
「ふぉぉぉぉ……震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート! 必・殺、バックドローップ!」
兄の身体がふわりと宙に浮いたと思ったら、そのまま後頭部を地面にしたたかに打ち付けられた。超痛え。
「ぐおお……」
「……ふぅっ。まったくもー! みゆにヘッドロックするだなんて、ひどいお兄ちゃんだよ! 許せない度が極めて高いよ!」
「兄の脳がでろりと零れ落ちたので、それで許してはくれまいか」
「こぼれてないよ? こぼれるまでやるる?」
「すいません兄が全面的に悪かったです」
この妹はやると言ったら絶対にやるので、いつものように土下座で許しを請う。
「まったくもー……最初っから素直にぎゅーってしたらいいのに。……んじゃ、そゆことで、改めて、ぎゅーってしてくれるかにゃ?」
「ああ、分かった。おいで、みゆ」
「んじゃ……うにゃーっ♪」
ぴょいんと飛び込んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるようにヘッドロックへ移行する。
「またヘッドロックされにゃっ!?」
「ふふ……ふわーっはっはっは! 甘いぞ、みゆ! 兄があれしきのことで懲りると思ったか!」
当然の帰結として、またバックドロップされ頭が割れそう。
「うーにゅ……やっぱ割れるまでやった方がいいのかにゃ?」
「すいません完全に完膚なきまで兄が悪かったです」
「にゅー……もう酷いことしない?」
「する」
「…………」
もう一度宙に舞い上がった。
「もうみゆをいじめない?」
「いじめません」
客観的に見ればどちらがいじめの首謀者か一目瞭然だが、兄妹間においては基本的に兄がいじめる側に立っているらしい。
「よろしい。んじゃ、今度こそみゆを抱っこするんだよ? ぎゅーってするんだよ? ついでにちゅーとかもするんだよ?」
「何か追加されましたが」
「お兄ちゃん、バックドロップ好きだね?」
「ぼくはみゆがだいすきなのでちゅーがしたいです」
「や、やだ、お兄ちゃん。みゆを大好きだなんて……もう、やんやん♪」
嬉しそうにやんやんと笑うみゆだったが、果たして自分が脅迫したことに気づいているのだろうか。
「んじゃ、今度こそ抱っこだよ? ぎゅーだよ?」
「もう兄もそろそろ脳がいかれるので、分かってます」
「んじゃ……ふにゅっ」
恐る恐るやってきたみゆを、むぎゅっと抱きしめる。
「ふにゅー♪ せいこーだよ、お兄ちゃん♪ むぎゅーだよ、むぎゅーってされてるよ!」
「確保成功」
「確保されせいこー! こりはもう、お兄ちゃんに一生捕まえられたままに違いないよ!」
「野生動物保護の観点から、その方がよいと考えました」
「みゆもそう考えました! なので、一生一緒なのですよ! こりはまるで結婚のようですにゃ?」
みゆがじーっと兄を見る。視線が力を帯びているため、目を逸らす。
「Yes or はい だよ、お兄ちゃん?」
「選択肢があるようでないですね」
「……一緒なの、お兄ちゃんは嫌なのかにゃ?」
みゆは目を伏せ、悲しそうにつぶやいた。
「こんな可愛い妹に寂しそうな顔をさせる奴は誰だ! 俺がたたっ斬ってやる!」
「お兄ちゃんが自殺をほのめかしている!?」
「しまった。しょうがない、死にます」
「無駄に諦めがいいよ、お兄ちゃん!」
「いやははは」
よし。これで話題を逸らせた。やれやれだ。
「んで、答えはどうなのかにゃ?」
なんということでしょう。逸らせていなかった。
「ええと……まあ、将来的には」
「にゃんと! 色よい返事がもらえたよ! こりはもう今から婚約とかしてはいかがかにゃ?」
「婚約すると二酸化炭素と反応して白くにごるからダメなんだ」
「お兄ちゃんが知らない間に石灰水になってる!? でも、それならしょうがないよね。白くにごりたくないもんね」
まさか通るとは。我が妹ながら天晴れだ。
「そりはそりとして、ちゅーはどうなったのかにゃ?」
「う。覚えていたのですね」
「みゆは頭がいいので覚えているの! ほらほら、ちゅーだよ、ちゅー? ちゅーちゅーにゃーにゃーだよ?」
「ネズミと猫の珍道中ですね。トムとジェリーを思い出しますね」
「そんなものは思い出さなくていーの! ちゅーするの!」
「……分かった。兄に任せろ」
ぐいっとみゆを引き寄せる。みゆは一瞬こわばった顔をした後、ぎゅっと固く目をつむった。
「……にゃ?」
その頬に、ちゅっと口付ける。
「……ふぅ!」
「何をやりきった顔してるかー! ほっぺじゃなくて、口にするの! むちゅーって! べろべろーって! べろんべろんって! べろぉんべろぉんって!」
「擬音があんまりです」
「いいの! でもなんかほっぺもそれはそれで幸せになっちゃうので困ってます!」
みゆは怒りながらも喜びが隠せないようで、時折にやにやしていた。
「じゃあいいじゃん。今日のところはそれで」
「うにゅー……じゃ、次回は口だよ? 絶対だよ? 嘘ついたら拷問だよ?」
「最後の台詞が怖いので、なかなか頷けないよね」
「頷かないと拷問だよ?」
超高速でうなずく。
「よろしい。……んじゃ、もっかい、ほっぺでいーから、その、……ちゅーしてくれるかにゃ?」
少し照れながら言うみゆのほっぺに、唇を寄せる兄でした。
妹のみゆが牛してくれ、などと頓狂なことを言う。
「とてもノー! 牛はまるで関係ない! 抱っこを擬態語と妹の愛らしさ、その両方を最大限に生かして表現した技法なの!」
「それを言ってる時点で色々ダメだし、あと、兄の思考を普通に読むのはやめてはくれまいか」
「にゃ?」(小首をこてりと傾げながら)
「分からないフリをされては仕方ない、諦めよう。……フリだと!?」
「自分で言っておいて自分で驚いてるよ、お兄ちゃん!」
「いやはや。それで、ぎゅーですか」
「うん、ぎゅー! いいかにゃ? ダメかにゃ? もしぎゅーしてくれるなら、みゆはとっても嬉しいよ?」
「妹が喜ぶのであれば、兄として何ら躊躇する理由はない。さあ来い、みゆ!」
「にゃーっ! お兄ちゃーんっ!」
むわーって飛んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるような動きでヘッドロックへと移行する。
「うにゃあああ!? なんか頭がずきずきすりゅー!?」
「それは大変だ。頭痛薬を用意しようね」
「間違った用法だよ、お兄ちゃん! この頭痛はお兄ちゃんが今まさにみゆに行っているヘッドロックのせいに相違ないよ!」
「それはどうかな?」
「いにゃにゃにゃにゃ!? 絶対にそうだもん! なぜならお兄ちゃんが力をぐいって入れた瞬間にみゆの頭もうにって痛くなったもん!」
「ウニか。最近寿司食べてねぇなあ」
「みゆに攻撃してる途中というのに、お兄ちゃんの脳がお散歩真っ最中!? うにゅれ許せないよ、ただでさえみゆに攻撃するという禁忌を犯しておきながら、あまつさえみゆに集中しないなんて……言語道断だよ!」
お寿司食べたいなあとか思ってたら、何やらみゆから尋常ならざるオーラが放出されだしたような。
「ふぉぉぉぉ……震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート! 必・殺、バックドローップ!」
兄の身体がふわりと宙に浮いたと思ったら、そのまま後頭部を地面にしたたかに打ち付けられた。超痛え。
「ぐおお……」
「……ふぅっ。まったくもー! みゆにヘッドロックするだなんて、ひどいお兄ちゃんだよ! 許せない度が極めて高いよ!」
「兄の脳がでろりと零れ落ちたので、それで許してはくれまいか」
「こぼれてないよ? こぼれるまでやるる?」
「すいません兄が全面的に悪かったです」
この妹はやると言ったら絶対にやるので、いつものように土下座で許しを請う。
「まったくもー……最初っから素直にぎゅーってしたらいいのに。……んじゃ、そゆことで、改めて、ぎゅーってしてくれるかにゃ?」
「ああ、分かった。おいで、みゆ」
「んじゃ……うにゃーっ♪」
ぴょいんと飛び込んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるようにヘッドロックへ移行する。
「またヘッドロックされにゃっ!?」
「ふふ……ふわーっはっはっは! 甘いぞ、みゆ! 兄があれしきのことで懲りると思ったか!」
当然の帰結として、またバックドロップされ頭が割れそう。
「うーにゅ……やっぱ割れるまでやった方がいいのかにゃ?」
「すいません完全に完膚なきまで兄が悪かったです」
「にゅー……もう酷いことしない?」
「する」
「…………」
もう一度宙に舞い上がった。
「もうみゆをいじめない?」
「いじめません」
客観的に見ればどちらがいじめの首謀者か一目瞭然だが、兄妹間においては基本的に兄がいじめる側に立っているらしい。
「よろしい。んじゃ、今度こそみゆを抱っこするんだよ? ぎゅーってするんだよ? ついでにちゅーとかもするんだよ?」
「何か追加されましたが」
「お兄ちゃん、バックドロップ好きだね?」
「ぼくはみゆがだいすきなのでちゅーがしたいです」
「や、やだ、お兄ちゃん。みゆを大好きだなんて……もう、やんやん♪」
嬉しそうにやんやんと笑うみゆだったが、果たして自分が脅迫したことに気づいているのだろうか。
「んじゃ、今度こそ抱っこだよ? ぎゅーだよ?」
「もう兄もそろそろ脳がいかれるので、分かってます」
「んじゃ……ふにゅっ」
恐る恐るやってきたみゆを、むぎゅっと抱きしめる。
「ふにゅー♪ せいこーだよ、お兄ちゃん♪ むぎゅーだよ、むぎゅーってされてるよ!」
「確保成功」
「確保されせいこー! こりはもう、お兄ちゃんに一生捕まえられたままに違いないよ!」
「野生動物保護の観点から、その方がよいと考えました」
「みゆもそう考えました! なので、一生一緒なのですよ! こりはまるで結婚のようですにゃ?」
みゆがじーっと兄を見る。視線が力を帯びているため、目を逸らす。
「Yes or はい だよ、お兄ちゃん?」
「選択肢があるようでないですね」
「……一緒なの、お兄ちゃんは嫌なのかにゃ?」
みゆは目を伏せ、悲しそうにつぶやいた。
「こんな可愛い妹に寂しそうな顔をさせる奴は誰だ! 俺がたたっ斬ってやる!」
「お兄ちゃんが自殺をほのめかしている!?」
「しまった。しょうがない、死にます」
「無駄に諦めがいいよ、お兄ちゃん!」
「いやははは」
よし。これで話題を逸らせた。やれやれだ。
「んで、答えはどうなのかにゃ?」
なんということでしょう。逸らせていなかった。
「ええと……まあ、将来的には」
「にゃんと! 色よい返事がもらえたよ! こりはもう今から婚約とかしてはいかがかにゃ?」
「婚約すると二酸化炭素と反応して白くにごるからダメなんだ」
「お兄ちゃんが知らない間に石灰水になってる!? でも、それならしょうがないよね。白くにごりたくないもんね」
まさか通るとは。我が妹ながら天晴れだ。
「そりはそりとして、ちゅーはどうなったのかにゃ?」
「う。覚えていたのですね」
「みゆは頭がいいので覚えているの! ほらほら、ちゅーだよ、ちゅー? ちゅーちゅーにゃーにゃーだよ?」
「ネズミと猫の珍道中ですね。トムとジェリーを思い出しますね」
「そんなものは思い出さなくていーの! ちゅーするの!」
「……分かった。兄に任せろ」
ぐいっとみゆを引き寄せる。みゆは一瞬こわばった顔をした後、ぎゅっと固く目をつむった。
「……にゃ?」
その頬に、ちゅっと口付ける。
「……ふぅ!」
「何をやりきった顔してるかー! ほっぺじゃなくて、口にするの! むちゅーって! べろべろーって! べろんべろんって! べろぉんべろぉんって!」
「擬音があんまりです」
「いいの! でもなんかほっぺもそれはそれで幸せになっちゃうので困ってます!」
みゆは怒りながらも喜びが隠せないようで、時折にやにやしていた。
「じゃあいいじゃん。今日のところはそれで」
「うにゅー……じゃ、次回は口だよ? 絶対だよ? 嘘ついたら拷問だよ?」
「最後の台詞が怖いので、なかなか頷けないよね」
「頷かないと拷問だよ?」
超高速でうなずく。
「よろしい。……んじゃ、もっかい、ほっぺでいーから、その、……ちゅーしてくれるかにゃ?」
少し照れながら言うみゆのほっぺに、唇を寄せる兄でした。
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【ぬいぐるみ代わりに兄をぎゅっとする妹】
2010年04月07日
「とてもよいことを思いついたので言うみゆは偉いかにゃ?」
夜、眠いので寝ようと布団に入ったら、既に入っていた妹のみゆが顔を出すなりそんなことを言い出したので驚いた。
「偉いかもしれないが、その前に兄が吃驚のため心臓が今まさに停止しかかっているので助けてぶくぶく」
「お兄ちゃんの口から無数の泡が! お兄ちゃんはカニだったのかにゃ?」
「人です」
「なんでなのにゃー……」
何やら助けてくれる具合ではなかったので、自力で回復することにする。
「ふぅ。それで、何を思いついたのだ?」
「ふにゃー♪」
人が折角尋ねる姿勢を見せたというのに、妹と来たら兄に抱きつき嬉しそうに顔をこすりつけごろごろ言ってる始末。
「これ、みゆさん。兄は妹の思いついた事象について興味があるようですよ?」
「しかしですね、お兄ちゃん。みゆはお兄ちゃんの匂いにくらくらきた模様ですにゃ! はぐはぐ♪」
みゆは嬉しそうに兄の腕をあむあむ噛んだ。痛くはなく、むしろ心地よい感触だったが、やっぱり思いついたことが気になる。
「思いついた事を兄に教えてくれないと泣く」
「悠然とした口調で子供同然な事を!?」
「ほら、どうしたみゆ。早くしないと泣くぞ? いいのか?」
「うう……脅しだかなんだか分からないけど、分かったよ、言うよ。あのね、ぬいぐるみが欲しいの」
「そっか。じゃ、今度の休みに買いに行こうな」
「にゃー! そこは断るとこなの!」
「え、いやしかし、妹が望むことは、兄はできるだけ叶えてあげたいと思うのだが」
「にゃ……ふ、ふにゅ。こ、このお兄ちゃんめ。みゆをドキドキさせるとは生意気なのにゃ」
みゆは兄の腕をつんつんとつつきながら、俺を見上げた。うるうると揺れる瞳に、思わず引き込まれ──って。
「ふぅ、危ない危ない。思わずむちゅーとしそうになりました」
「みゆは構わないですだよ? いや、むしろ! そしてその先もがっつりやりたい所存ですにゃ!」
「その所存はとりあえず横に置きなさい」
「残念なことこの上ないのにゃー……」
「んで?」
「にゅ? あ、そうそう。あのね、ぬいぐるみが欲しいのですにゃ。しかしお兄ちゃんは買ってくれないのですだよ!」
「いや、そんな高くもないだろうし、別に問題」
「しゃーらっぷ! お兄ちゃんは買ってくれないのですだよ」
「……はい」
「そこでみゆは考えた! いっしょーけんめー考えた! おひるねも我慢して考えた! ……偉い?」
「あー偉い偉い」(なでなで)
「にゃーにゃー♪」(嬉しそう)
半ばなげやりに頭をなでてのだったけど、嬉しそうで何よりです。
「んとね、ぬいぐるみの代わりにお兄ちゃんをむぎゅーってしようと思ったの? めいあん?」
「そのむぎゅーにかかる力の程度によります。どのくらい?」
「にゅーっとね、5とん?」(小首をこてりと傾げながら)
死ぬよね。
「丁重にお断りさせていただきます」
「ががががーん! むぎゅーってしたいのに丁重にお断るだなんて許せないよ!」
「みゆと同年代の女性と同じくらいの筋力でむぎゅーっとするなら考えないでもないです」
「じゃあ、そのような感じでやるので、むぎゅーってしていーかにゃ?」
「そのような感じであるならば、兄としても断る理由はない。おいで」
こいこいと手招きすると、みゆは破顔して兄に抱きついた。
「ふにゅー♪ このぬいぐるみ代わりのお兄ちゃんは、とてもよいという噂ですにゃ。なぜなら、抱きついてると幸せが後から後から湧いて来るから!」
「とても嬉しそうで何よりです」
「お兄ちゃんにも何か沸いてるのかにゃ?」
「兄は適温に沸いております」
「お兄ちゃんが給湯器に!?」
漢字間違いによる悲劇と言えよう。
「あ、でも確かに暖かい。にゃ、ホコホコー♪」
しかし、嬉しそうに兄に抱きついてすりすりしている妹を見るに、あながち悲劇でもないかなあと思ったりもした。
夜、眠いので寝ようと布団に入ったら、既に入っていた妹のみゆが顔を出すなりそんなことを言い出したので驚いた。
「偉いかもしれないが、その前に兄が吃驚のため心臓が今まさに停止しかかっているので助けてぶくぶく」
「お兄ちゃんの口から無数の泡が! お兄ちゃんはカニだったのかにゃ?」
「人です」
「なんでなのにゃー……」
何やら助けてくれる具合ではなかったので、自力で回復することにする。
「ふぅ。それで、何を思いついたのだ?」
「ふにゃー♪」
人が折角尋ねる姿勢を見せたというのに、妹と来たら兄に抱きつき嬉しそうに顔をこすりつけごろごろ言ってる始末。
「これ、みゆさん。兄は妹の思いついた事象について興味があるようですよ?」
「しかしですね、お兄ちゃん。みゆはお兄ちゃんの匂いにくらくらきた模様ですにゃ! はぐはぐ♪」
みゆは嬉しそうに兄の腕をあむあむ噛んだ。痛くはなく、むしろ心地よい感触だったが、やっぱり思いついたことが気になる。
「思いついた事を兄に教えてくれないと泣く」
「悠然とした口調で子供同然な事を!?」
「ほら、どうしたみゆ。早くしないと泣くぞ? いいのか?」
「うう……脅しだかなんだか分からないけど、分かったよ、言うよ。あのね、ぬいぐるみが欲しいの」
「そっか。じゃ、今度の休みに買いに行こうな」
「にゃー! そこは断るとこなの!」
「え、いやしかし、妹が望むことは、兄はできるだけ叶えてあげたいと思うのだが」
「にゃ……ふ、ふにゅ。こ、このお兄ちゃんめ。みゆをドキドキさせるとは生意気なのにゃ」
みゆは兄の腕をつんつんとつつきながら、俺を見上げた。うるうると揺れる瞳に、思わず引き込まれ──って。
「ふぅ、危ない危ない。思わずむちゅーとしそうになりました」
「みゆは構わないですだよ? いや、むしろ! そしてその先もがっつりやりたい所存ですにゃ!」
「その所存はとりあえず横に置きなさい」
「残念なことこの上ないのにゃー……」
「んで?」
「にゅ? あ、そうそう。あのね、ぬいぐるみが欲しいのですにゃ。しかしお兄ちゃんは買ってくれないのですだよ!」
「いや、そんな高くもないだろうし、別に問題」
「しゃーらっぷ! お兄ちゃんは買ってくれないのですだよ」
「……はい」
「そこでみゆは考えた! いっしょーけんめー考えた! おひるねも我慢して考えた! ……偉い?」
「あー偉い偉い」(なでなで)
「にゃーにゃー♪」(嬉しそう)
半ばなげやりに頭をなでてのだったけど、嬉しそうで何よりです。
「んとね、ぬいぐるみの代わりにお兄ちゃんをむぎゅーってしようと思ったの? めいあん?」
「そのむぎゅーにかかる力の程度によります。どのくらい?」
「にゅーっとね、5とん?」(小首をこてりと傾げながら)
死ぬよね。
「丁重にお断りさせていただきます」
「ががががーん! むぎゅーってしたいのに丁重にお断るだなんて許せないよ!」
「みゆと同年代の女性と同じくらいの筋力でむぎゅーっとするなら考えないでもないです」
「じゃあ、そのような感じでやるので、むぎゅーってしていーかにゃ?」
「そのような感じであるならば、兄としても断る理由はない。おいで」
こいこいと手招きすると、みゆは破顔して兄に抱きついた。
「ふにゅー♪ このぬいぐるみ代わりのお兄ちゃんは、とてもよいという噂ですにゃ。なぜなら、抱きついてると幸せが後から後から湧いて来るから!」
「とても嬉しそうで何よりです」
「お兄ちゃんにも何か沸いてるのかにゃ?」
「兄は適温に沸いております」
「お兄ちゃんが給湯器に!?」
漢字間違いによる悲劇と言えよう。
「あ、でも確かに暖かい。にゃ、ホコホコー♪」
しかし、嬉しそうに兄に抱きついてすりすりしている妹を見るに、あながち悲劇でもないかなあと思ったりもした。
【あーん製造機になってるみゆ】
2010年02月03日
兄は食事をしないと死ぬタイプの人間なので、ご飯を食べます。
「今日も妹製作の飯、いわゆるみゆ飯が美味え」
「嬉しいことを言うお兄ちゃんめ! 褒美として一生食べさせてあげるよ! 檻とかに入れて」
「フォアグラですか。兄の肝臓が大ピンチ」
「ふぉあぐらー」
響きが気に入ったのか、ふぉあぐらーと言いながらサラダをぱりぱり食べる妹のみゆ。
「むぐむぐ……ね、お兄ちゃんはふぉあぐら食べたことある?」
そんな高級食品、食ったことねえ。だがしかし、そんなことを言っては兄として鼎の軽重を問われかねない。
「ももももももちろんあるともさ! あれはうまいぞ、何せガチョウの肝臓だからな!」
「どんな味なの?」
さて困った、まるで想像がつかない。
「えーと……ガチョウっぽい味?」
「……全然分かんないんだけど」
「鶏肉の倍の味」
「より一層分からないよ、お兄ちゃん! なに、倍の味って!」
「さらに倍。役満」
ごまかすため、箸をパイに見立てて両手で持ち、こんなことを言ってみる。いや、麻雀とか全然知らないので適当です。
「満漢全席!」
なんか対抗された。よく分からないが、漢字数が多いので負けたっぽい。
「みゆの勝ちー♪ ていうかお兄ちゃん、ホントはふぉあぐらなんてお高いもの、食べたことないでしょ?」
「はい」
「素直なので許してあげようと思ったけど、やっぱ嘘つきなお兄ちゃんには罰ゲームを受けてもらいます」
「いかん、殺される!」
「そこまで酷いことはしないよ! んと、罰は……そだね、今日はみゆがあーんしないとお兄ちゃんはご飯食べれない刑に処すー!」
「なるほど、そのあーんの際に使う箸に毒を塗るのだな? 死にたくないなあ」
「見当違いも甚だしいよ、お兄ちゃん! ……んじゃ、罰ゲーム開始! 早速あーんだよ、お兄ちゃん!」
みゆは箸でご飯をつまみ、兄の方に向けた。
「あー」
「はい♪ おいしい、お兄ちゃん?」
「むしゃむしゃ。飯だ」
「おいしいかどうか聞いてるの!」
「おいしい」
「にゃー♪ んじゃんじゃ、どんどん行くよ、お兄ちゃん!」
続いてみゆは何故かまたしてもご飯をつまみ、兄の方に向けた。
「はい、あーん、だよ♪」
「おかず求む」
「好き嫌いはダメだよ、お兄ちゃん?」
「いや、好き嫌いとかではなくて」
「はい、あーん♪」
「あー」
口内に飯が投入される。うむ、先ほどと同じ飯の味。
「おいしいかにゃ、お兄ちゃん?」
「あー、うん、うまいけど、兄はおかずとか食べたいような」
「ふにゅー♪ みゆがあーんすると、お兄ちゃんは喜びMAXだね♪」
「いやあの」
「んじゃ次ね♪ はいお兄ちゃん、あーん」
またしても! またしても飯がみゆの箸に!
「だから! 兄は! おかずが!」
「お兄ちゃん、あーん♪」
「あー!」
最早慣れてしまった味が口内を占める。刺激が、別の味が欲しい!
「どうかにゃどうかにゃ、お兄ちゃん?」
「おかずを! どうかおかずを!」
「みゆの愛情いっぱいのおかずを食べたくて仕方がないようだね、お兄ちゃん? まったくもー、困ったお兄ちゃんだよ♪」
言葉とは裏腹に、みゆは笑顔でハンバーグをつまんだ。
「ふっふっふー。これ、食べたいかにゃ、お兄ちゃん?」
「いい加減にしないと兄の堪忍袋の緒がかんぴょうになるぞ!」
「全く意味の分からない脅し文句だよ!」
「ほら、恵方巻とか食う季節だし」
「あー……とはならないよ、お兄ちゃん!」
ままならぬ。
「もー……ほら、食べたかったらみゆの言うことを繰り返すんだよ?」
「嫌な予感しかしないが、ハンバーグのためなら背に腹は変えられぬ」
「こほん。……『みゆの手作りハンバーグが食べられるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう』」
「みゆの手掴みマングースを食べさせられるなんて、俺はなんて可哀想なんだろう」
「信じられない改変を!? 怖いよ、怖すぎるよ!」
「ハンバーグをマングースと間違えたために起こった悲劇と言えよう」
「ありえない間違いだよ、お兄ちゃん!」
「同じカタカナだし、しょうがないよね。それはともかく、そのハンバーグを兄の口に」
「むー……まぁいいよ、なんかこれ以上焦らすとジラースになりそうだし。はい、あーん」
ジラースにはならないと思いながら、口を開けると、ハンバーグの欠片が放り込まれた。肉の味、タレの味、そして肉汁が口内を駆け巡る。
「うめぇ! 肉うめぇ!」
「みゆの手作りハンバーグ、おいしい?」
「ああ。みゆの手掴みマングース超うめえ」
「だから、これハンバーグ!」
ハンバーグかマングースか分からない肉片を飲み込む。いやはや、普段普通に食ってるものがこれほど美味いとは……やるなあ、焦らし。
「んじゃ次ね、お兄ちゃん」
そう言ってみゆが掴んだもの……ってえ、それトマト! 兄はトマトが大の苦手なのに!
「はい、お兄ちゃん。あーん、だよ♪」
「無理無理無理! それだけは絶対無理!」
「みゆのあーんがあれば、お兄ちゃんの好き嫌いも克服できるよ! ふぁいとだよ、お兄ちゃん!」
「口に入れた瞬間マングースが逆流するが、よろしいか」
「だから、ハンバーグなの! そして逆流はノーなの!」
「贅沢だなあ」
「いーから! はい、あーん!」
「だから、無理だって……むぐぅッ!?」
無理やり口の中にトマトを突っ込まれた。
「ほーら食べれた♪ やったね、お兄ちゃん!」
全くちっともやっていない! 無理なものは無理! お口の中がトマトでトマトで大変危険!
「ややっ、お兄ちゃんの顔色が青い感じに! ……えーと、やっぱ無理だったかにゃ?」
すごい勢いでコクコクする。その勢いで口の中のトマト風味がさらに!
「しょーがない。えいやっ!」
えいやっの掛け声と共に、みゆが飛来した。隼の反射神経を持ってこれを避ける。
「ひぎゃっ!」
すると、後ろの壁にぶち当たり愉快な声が聞こえた。
「うぬぬ……お兄ちゃん! なんでよけるの!」
つい、と言いたかったが、口の中がトマトなので喋れない。
「つい、じゃないよ! まったくもー!」
普通に心を読むな。
「ふんじゃ、そろそろお兄ちゃんのお口のトマトを救出するね。むちゅー」
むちゅーと言いながら、みゆが兄に口付けし、口内のトマトを吸い出した。ずずずずずっと移動する半液体のトマトが、トマトが!
「……ぷはー! お兄ちゃん印のトマトはおいしいよ!」
「まじい! 口の中が大変まじい!」
「ぬー! みゆにちゅーされてまじいとは何事か!」
「いやだってトマトが兄の大嫌いなトマトが口の中に縦横無尽に!」
「うるにゃー! えい!」
みゆは再び兄に口づけすると、今度は口の中を舌で舐めまわし始めた。トマトの欠片を舐めとるのが目的と思われるが、それよりちっちゃな舌が兄の口内を駆けずり回って嗚呼!
「ちゅ……ちゅちゅ、ちゅ。どう? まじいのなくなった、お兄ちゃん?」
「まだ! 恐らく一生なくならない予定!」
「……え、えと、それじゃ、もっともっとちゅーしないとダメかにゃ、お兄ちゃん?」
恥ずかしげに頬を染めるみゆにコクコクうなずきまくる兄です。
「今日も妹製作の飯、いわゆるみゆ飯が美味え」
「嬉しいことを言うお兄ちゃんめ! 褒美として一生食べさせてあげるよ! 檻とかに入れて」
「フォアグラですか。兄の肝臓が大ピンチ」
「ふぉあぐらー」
響きが気に入ったのか、ふぉあぐらーと言いながらサラダをぱりぱり食べる妹のみゆ。
「むぐむぐ……ね、お兄ちゃんはふぉあぐら食べたことある?」
そんな高級食品、食ったことねえ。だがしかし、そんなことを言っては兄として鼎の軽重を問われかねない。
「ももももももちろんあるともさ! あれはうまいぞ、何せガチョウの肝臓だからな!」
「どんな味なの?」
さて困った、まるで想像がつかない。
「えーと……ガチョウっぽい味?」
「……全然分かんないんだけど」
「鶏肉の倍の味」
「より一層分からないよ、お兄ちゃん! なに、倍の味って!」
「さらに倍。役満」
ごまかすため、箸をパイに見立てて両手で持ち、こんなことを言ってみる。いや、麻雀とか全然知らないので適当です。
「満漢全席!」
なんか対抗された。よく分からないが、漢字数が多いので負けたっぽい。
「みゆの勝ちー♪ ていうかお兄ちゃん、ホントはふぉあぐらなんてお高いもの、食べたことないでしょ?」
「はい」
「素直なので許してあげようと思ったけど、やっぱ嘘つきなお兄ちゃんには罰ゲームを受けてもらいます」
「いかん、殺される!」
「そこまで酷いことはしないよ! んと、罰は……そだね、今日はみゆがあーんしないとお兄ちゃんはご飯食べれない刑に処すー!」
「なるほど、そのあーんの際に使う箸に毒を塗るのだな? 死にたくないなあ」
「見当違いも甚だしいよ、お兄ちゃん! ……んじゃ、罰ゲーム開始! 早速あーんだよ、お兄ちゃん!」
みゆは箸でご飯をつまみ、兄の方に向けた。
「あー」
「はい♪ おいしい、お兄ちゃん?」
「むしゃむしゃ。飯だ」
「おいしいかどうか聞いてるの!」
「おいしい」
「にゃー♪ んじゃんじゃ、どんどん行くよ、お兄ちゃん!」
続いてみゆは何故かまたしてもご飯をつまみ、兄の方に向けた。
「はい、あーん、だよ♪」
「おかず求む」
「好き嫌いはダメだよ、お兄ちゃん?」
「いや、好き嫌いとかではなくて」
「はい、あーん♪」
「あー」
口内に飯が投入される。うむ、先ほどと同じ飯の味。
「おいしいかにゃ、お兄ちゃん?」
「あー、うん、うまいけど、兄はおかずとか食べたいような」
「ふにゅー♪ みゆがあーんすると、お兄ちゃんは喜びMAXだね♪」
「いやあの」
「んじゃ次ね♪ はいお兄ちゃん、あーん」
またしても! またしても飯がみゆの箸に!
「だから! 兄は! おかずが!」
「お兄ちゃん、あーん♪」
「あー!」
最早慣れてしまった味が口内を占める。刺激が、別の味が欲しい!
「どうかにゃどうかにゃ、お兄ちゃん?」
「おかずを! どうかおかずを!」
「みゆの愛情いっぱいのおかずを食べたくて仕方がないようだね、お兄ちゃん? まったくもー、困ったお兄ちゃんだよ♪」
言葉とは裏腹に、みゆは笑顔でハンバーグをつまんだ。
「ふっふっふー。これ、食べたいかにゃ、お兄ちゃん?」
「いい加減にしないと兄の堪忍袋の緒がかんぴょうになるぞ!」
「全く意味の分からない脅し文句だよ!」
「ほら、恵方巻とか食う季節だし」
「あー……とはならないよ、お兄ちゃん!」
ままならぬ。
「もー……ほら、食べたかったらみゆの言うことを繰り返すんだよ?」
「嫌な予感しかしないが、ハンバーグのためなら背に腹は変えられぬ」
「こほん。……『みゆの手作りハンバーグが食べられるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう』」
「みゆの手掴みマングースを食べさせられるなんて、俺はなんて可哀想なんだろう」
「信じられない改変を!? 怖いよ、怖すぎるよ!」
「ハンバーグをマングースと間違えたために起こった悲劇と言えよう」
「ありえない間違いだよ、お兄ちゃん!」
「同じカタカナだし、しょうがないよね。それはともかく、そのハンバーグを兄の口に」
「むー……まぁいいよ、なんかこれ以上焦らすとジラースになりそうだし。はい、あーん」
ジラースにはならないと思いながら、口を開けると、ハンバーグの欠片が放り込まれた。肉の味、タレの味、そして肉汁が口内を駆け巡る。
「うめぇ! 肉うめぇ!」
「みゆの手作りハンバーグ、おいしい?」
「ああ。みゆの手掴みマングース超うめえ」
「だから、これハンバーグ!」
ハンバーグかマングースか分からない肉片を飲み込む。いやはや、普段普通に食ってるものがこれほど美味いとは……やるなあ、焦らし。
「んじゃ次ね、お兄ちゃん」
そう言ってみゆが掴んだもの……ってえ、それトマト! 兄はトマトが大の苦手なのに!
「はい、お兄ちゃん。あーん、だよ♪」
「無理無理無理! それだけは絶対無理!」
「みゆのあーんがあれば、お兄ちゃんの好き嫌いも克服できるよ! ふぁいとだよ、お兄ちゃん!」
「口に入れた瞬間マングースが逆流するが、よろしいか」
「だから、ハンバーグなの! そして逆流はノーなの!」
「贅沢だなあ」
「いーから! はい、あーん!」
「だから、無理だって……むぐぅッ!?」
無理やり口の中にトマトを突っ込まれた。
「ほーら食べれた♪ やったね、お兄ちゃん!」
全くちっともやっていない! 無理なものは無理! お口の中がトマトでトマトで大変危険!
「ややっ、お兄ちゃんの顔色が青い感じに! ……えーと、やっぱ無理だったかにゃ?」
すごい勢いでコクコクする。その勢いで口の中のトマト風味がさらに!
「しょーがない。えいやっ!」
えいやっの掛け声と共に、みゆが飛来した。隼の反射神経を持ってこれを避ける。
「ひぎゃっ!」
すると、後ろの壁にぶち当たり愉快な声が聞こえた。
「うぬぬ……お兄ちゃん! なんでよけるの!」
つい、と言いたかったが、口の中がトマトなので喋れない。
「つい、じゃないよ! まったくもー!」
普通に心を読むな。
「ふんじゃ、そろそろお兄ちゃんのお口のトマトを救出するね。むちゅー」
むちゅーと言いながら、みゆが兄に口付けし、口内のトマトを吸い出した。ずずずずずっと移動する半液体のトマトが、トマトが!
「……ぷはー! お兄ちゃん印のトマトはおいしいよ!」
「まじい! 口の中が大変まじい!」
「ぬー! みゆにちゅーされてまじいとは何事か!」
「いやだってトマトが兄の大嫌いなトマトが口の中に縦横無尽に!」
「うるにゃー! えい!」
みゆは再び兄に口づけすると、今度は口の中を舌で舐めまわし始めた。トマトの欠片を舐めとるのが目的と思われるが、それよりちっちゃな舌が兄の口内を駆けずり回って嗚呼!
「ちゅ……ちゅちゅ、ちゅ。どう? まじいのなくなった、お兄ちゃん?」
「まだ! 恐らく一生なくならない予定!」
「……え、えと、それじゃ、もっともっとちゅーしないとダメかにゃ、お兄ちゃん?」
恥ずかしげに頬を染めるみゆにコクコクうなずきまくる兄です。