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2024年11月23日
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【牛を求む妹】

2010年05月17日
「ねーお兄ちゃん、ぎゅーして、ぎゅー?」
 妹のみゆが牛してくれ、などと頓狂なことを言う。
「とてもノー! 牛はまるで関係ない! 抱っこを擬態語と妹の愛らしさ、その両方を最大限に生かして表現した技法なの!」
「それを言ってる時点で色々ダメだし、あと、兄の思考を普通に読むのはやめてはくれまいか」
「にゃ?」(小首をこてりと傾げながら)
「分からないフリをされては仕方ない、諦めよう。……フリだと!?」
「自分で言っておいて自分で驚いてるよ、お兄ちゃん!」
「いやはや。それで、ぎゅーですか」
「うん、ぎゅー! いいかにゃ? ダメかにゃ? もしぎゅーしてくれるなら、みゆはとっても嬉しいよ?」
「妹が喜ぶのであれば、兄として何ら躊躇する理由はない。さあ来い、みゆ!」
「にゃーっ! お兄ちゃーんっ!」
 むわーって飛んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるような動きでヘッドロックへと移行する。
「うにゃあああ!? なんか頭がずきずきすりゅー!?」
「それは大変だ。頭痛薬を用意しようね」
「間違った用法だよ、お兄ちゃん! この頭痛はお兄ちゃんが今まさにみゆに行っているヘッドロックのせいに相違ないよ!」
「それはどうかな?」
「いにゃにゃにゃにゃ!? 絶対にそうだもん! なぜならお兄ちゃんが力をぐいって入れた瞬間にみゆの頭もうにって痛くなったもん!」
「ウニか。最近寿司食べてねぇなあ」
「みゆに攻撃してる途中というのに、お兄ちゃんの脳がお散歩真っ最中!? うにゅれ許せないよ、ただでさえみゆに攻撃するという禁忌を犯しておきながら、あまつさえみゆに集中しないなんて……言語道断だよ!」
 お寿司食べたいなあとか思ってたら、何やらみゆから尋常ならざるオーラが放出されだしたような。
「ふぉぉぉぉ……震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート! 必・殺、バックドローップ!」
 兄の身体がふわりと宙に浮いたと思ったら、そのまま後頭部を地面にしたたかに打ち付けられた。超痛え。
「ぐおお……」
「……ふぅっ。まったくもー! みゆにヘッドロックするだなんて、ひどいお兄ちゃんだよ! 許せない度が極めて高いよ!」
「兄の脳がでろりと零れ落ちたので、それで許してはくれまいか」
「こぼれてないよ? こぼれるまでやるる?」
「すいません兄が全面的に悪かったです」
 この妹はやると言ったら絶対にやるので、いつものように土下座で許しを請う。
「まったくもー……最初っから素直にぎゅーってしたらいいのに。……んじゃ、そゆことで、改めて、ぎゅーってしてくれるかにゃ?」
「ああ、分かった。おいで、みゆ」
「んじゃ……うにゃーっ♪」
 ぴょいんと飛び込んできたみゆを、がっしと受け止め、そのまま流れるようにヘッドロックへ移行する。
「またヘッドロックされにゃっ!?」
「ふふ……ふわーっはっはっは! 甘いぞ、みゆ! 兄があれしきのことで懲りると思ったか!」
 当然の帰結として、またバックドロップされ頭が割れそう。
「うーにゅ……やっぱ割れるまでやった方がいいのかにゃ?」
「すいません完全に完膚なきまで兄が悪かったです」
「にゅー……もう酷いことしない?」
「する」
「…………」
 もう一度宙に舞い上がった。
「もうみゆをいじめない?」
「いじめません」
 客観的に見ればどちらがいじめの首謀者か一目瞭然だが、兄妹間においては基本的に兄がいじめる側に立っているらしい。
「よろしい。んじゃ、今度こそみゆを抱っこするんだよ? ぎゅーってするんだよ? ついでにちゅーとかもするんだよ?」
「何か追加されましたが」
「お兄ちゃん、バックドロップ好きだね?」
「ぼくはみゆがだいすきなのでちゅーがしたいです」
「や、やだ、お兄ちゃん。みゆを大好きだなんて……もう、やんやん♪」
 嬉しそうにやんやんと笑うみゆだったが、果たして自分が脅迫したことに気づいているのだろうか。
「んじゃ、今度こそ抱っこだよ? ぎゅーだよ?」
「もう兄もそろそろ脳がいかれるので、分かってます」
「んじゃ……ふにゅっ」
 恐る恐るやってきたみゆを、むぎゅっと抱きしめる。
「ふにゅー♪ せいこーだよ、お兄ちゃん♪ むぎゅーだよ、むぎゅーってされてるよ!」
「確保成功」
「確保されせいこー! こりはもう、お兄ちゃんに一生捕まえられたままに違いないよ!」
「野生動物保護の観点から、その方がよいと考えました」
「みゆもそう考えました! なので、一生一緒なのですよ! こりはまるで結婚のようですにゃ?」
 みゆがじーっと兄を見る。視線が力を帯びているため、目を逸らす。
「Yes or はい だよ、お兄ちゃん?」
「選択肢があるようでないですね」
「……一緒なの、お兄ちゃんは嫌なのかにゃ?」
 みゆは目を伏せ、悲しそうにつぶやいた。
「こんな可愛い妹に寂しそうな顔をさせる奴は誰だ! 俺がたたっ斬ってやる!」
「お兄ちゃんが自殺をほのめかしている!?」
「しまった。しょうがない、死にます」
「無駄に諦めがいいよ、お兄ちゃん!」
「いやははは」
 よし。これで話題を逸らせた。やれやれだ。
「んで、答えはどうなのかにゃ?」
 なんということでしょう。逸らせていなかった。
「ええと……まあ、将来的には」
「にゃんと! 色よい返事がもらえたよ! こりはもう今から婚約とかしてはいかがかにゃ?」
「婚約すると二酸化炭素と反応して白くにごるからダメなんだ」
「お兄ちゃんが知らない間に石灰水になってる!? でも、それならしょうがないよね。白くにごりたくないもんね」
 まさか通るとは。我が妹ながら天晴れだ。
「そりはそりとして、ちゅーはどうなったのかにゃ?」
「う。覚えていたのですね」
「みゆは頭がいいので覚えているの! ほらほら、ちゅーだよ、ちゅー? ちゅーちゅーにゃーにゃーだよ?」
「ネズミと猫の珍道中ですね。トムとジェリーを思い出しますね」
「そんなものは思い出さなくていーの! ちゅーするの!」
「……分かった。兄に任せろ」
 ぐいっとみゆを引き寄せる。みゆは一瞬こわばった顔をした後、ぎゅっと固く目をつむった。
「……にゃ?」
 その頬に、ちゅっと口付ける。
「……ふぅ!」
「何をやりきった顔してるかー! ほっぺじゃなくて、口にするの! むちゅーって! べろべろーって! べろんべろんって! べろぉんべろぉんって!」
「擬音があんまりです」
「いいの! でもなんかほっぺもそれはそれで幸せになっちゃうので困ってます!」
 みゆは怒りながらも喜びが隠せないようで、時折にやにやしていた。
「じゃあいいじゃん。今日のところはそれで」
「うにゅー……じゃ、次回は口だよ? 絶対だよ? 嘘ついたら拷問だよ?」
「最後の台詞が怖いので、なかなか頷けないよね」
「頷かないと拷問だよ?」
 超高速でうなずく。
「よろしい。……んじゃ、もっかい、ほっぺでいーから、その、……ちゅーしてくれるかにゃ?」
 少し照れながら言うみゆのほっぺに、唇を寄せる兄でした。

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