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2025年04月30日
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【人魚ちなみん】

2010年04月09日
「貝ブラっていいよね。男の夢だよね。誰かやれ」
 かなみに殴られ、まつりに斬られ、みことに窓から放り出された後、俺は泣きながら帰宅した。
 そこで待っていたのは、人魚なちなみだった。
「……人魚です。ぴちぴち」
「……いつの間に先回りを?」
「……泣き叫んで許しを請っているにも関わらず、みことに窓から投げ捨てられたところ辺り、かな」
 とても恥ずかしいところを見られていたようだ。日常と言えなくもないが。
「で、何用でしょう?」
「……貝ブラです。にひ」
 ちなみは胸を張って、貝ブラを強調した。……ほぼまっ平らな胸で、どうやって貼り付けてるのだろう。
「……嬉しい?」
「ま、まぁ、それなりに」
 本当は脳汁が耳から出そうなほど嬉しいけど、言ったら調子に乗るので言わない。
「……あんまり喜ばないので、今日は帰ります」
「待って死ぬほど嬉しいからここにいてお願いします!」
 今回だけは俺の負けということにしてやろう、と土下座しながら心の中で思う。
「……にひ」
 ちなみは意地の悪そうな笑みを浮かべた。……計算ずくだな、チクショウ。
「……どうです? おっぱいぼいーんな私が貝ブラして」
「おっぱいぺたーんだけど、貝ブラはいいな。堪らないな。鼻血が出そうだ」
「…………」
 なぜか睨まれた。褒めたのに。
「……どうせ私はぺたんこです。ちょっとくらい夢見てもいいじゃないですか。……タカシはいじわるです」
 上目遣いに睨むちなみに、俺は頭をなでながら優しく言った。
「大丈夫、小学生みたいで可愛いぞ」
「……全然まったくちっとも嬉しくありません」
 最上級の褒め言葉が通用しない。女心は難しい。
「ほら、えーっと、そのな、つるぺただと……」
 俺がどう言い繕うか考えていると、ちなみの胸に張られた貝が床に落ちた。
「……こういう素敵なハプニングが起こるし」
 ピンク色のつぼみを網膜に焼き付けながら言った。言い切った。
「…………」
 胸を押さえ、怒りに震えるちなみ。
「……がう!」
 がぶり、と俺の腕に噛み付いてきた。
「痛え! 何すんでい!」
「……見ました。私のおっぱい見ました」
「違う! 見たのはおっぱいではなく乳首だ!」
「一緒です! というかより悪いです! もうお嫁にいけません!」
「元よりお前みたいな変な奴が嫁にいけるわけないだろ、ばーか!」
「……う~! がう、がう、がう!」
 噛まれまくった。
「……タカシはひどいです。あんまりです」
 ちなみは噛むのをやめ、ぽつりと呟いた。
 ひどいのはちなみだろう、と全身に刻まれた噛み跡を見ながら思った。
「……そういう時は、嘘でも『俺が嫁にもらってやる』と言うものです」
「嘘は嫌いなんだ」
「……そう、ですか」
 うつむいたちなみに、俺は言った。
「だから、嘘が本当になるまで待ってくれ。なに、そう時間はかからないさ」
「え……」
「……に、二回も言えるか! こんなクソ恥ずかしいこと!」
 ちなみが柔らかく微笑むのを、俺は顔が熱くなるのを感じながら横目で見ていた。

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【「人生」って何?と考えるツンデレ】

2010年04月08日
 昼休み、飯も食い終わり暇に任せてぼんやり教室を眺めてると、ちなみが真剣な表情で何か考え込んでいるのに気がついた。
「よっ、何やってんだ?」
「……む、人が思索に耽っているところを得意のセクハラトークで邪魔する気ですね」
「普通に声かけただけですよ!?」
「……そうやって油断させといて、『背が小さい奴は胸も小さい』とか、『小学生は小学校へ行こうね、お嬢ちゃん』とか言うつもりですね」
「言いません!」
「……なんだ、残念」
 残念なのか。
「……とにかく、私は哲学的な問題を考えてる最中なのです。……邪魔しないように」
「ほう、哲学。よく分からんけど小難しげだな」
「そうです、小難しいのです。……タカシには一生かかっても理解できないような難問です」
 ちなみはことあるごとに俺を馬鹿にするので少し悲しい。
「ま、ま。三人寄ればもんじゅメルトダウンの恐怖という格言もある。一人より二人で考えた方がいいかと」
「三人寄れば文殊の知恵、です。……やっぱりタカシはオッペケペーです」
 よく分からないけど、馬鹿にされていることだけは伝わってきました。
「……まぁ、オッペケペーなりに考えるのもいいかもしれません」
 そう言って、ちなみは俺の方に向き直った。
「……人生、とは何でしょう」
「じ、人生デスか?」
「……昨日から考えているのですが……答えが出ないのです」
「まー哲学に答えなんてないしなぁ……」
 頭をかいてどうしたもんかとしばし考える。
「……やはり、タカシじゃ分からないですね。……相談した私がバカでした」
「いやいやいや、分かるぞ。俺に任せろ」
「え……?」
 途端、ちなみの瞳が期待で満ちた。
「人生とは! それ即ち、ちっちゃい子を愛でることである!」
「…………」
 気のせいか、ちなみの目が犯罪者を見るそれに変わっているような。
「……本気で、タカシに相談した私が馬鹿でした」
「ええっ、なんで!? ちっちゃい子可愛いよ!? ちなみとか!」
「……私は小さくないです」
 思い切り頬をつねられた。大変痛いです。あと、ちなみは小さいです。
「……はぁ、タカシはダメダメです。ダメダメのうえ、性犯罪者ときた」
「まだ捕まってない! 前科0犯!」
「……まだ、という辺りに自信のほどが窺い知れます」
「ええい、重箱の隅をつつくな! とにかくだ。人生なんざ幸せになったもん勝ちだぞ」
「……え?」
「俺はちっちゃい子を愛でてたら幸せだ。だから、ちなみも何でもいいから幸せなことを探すんだな」
「…………」
「どした? ぼやーっとして」
「……本当に時々ですが、タカシはすごいことを言うので油断できません」
 なんだ、すごいことって。……今日はまだセクハラ言ってないよな?
「……よく、分かりました」
「な、何が?」
「……分からないなら、いいです。……それでこそ、タカシです」
 馬鹿にされているような、褒められているような。
「……すっきりしたら、おなかが空きました。学食に行きましょう」
「え、お前弁当食ったんじゃないのか?」
「……育ち盛りは、すぐお腹が空くんです。……たくさん食べると、背も伸びます」
「いや、背とか胸とか無理だから。諦めろ」
「……今日はタカシのおごりですか。メニューの端から端まで頼むのもいいですね」
「ええっ!? なんで!?」
「……さ、早く行きましょう。お昼休みが終わっちゃいます」
「え、もう奢るの確定? あれ、なんで?」
 首を傾げながら、俺はちなみに着いていくのだった。

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【かめちなみん】

2010年04月04日
 学校に行くと、なんか変なのが俺の机の上に載ってた。
「……新手のいじめか? なんだこれ、甲羅?」
 机の上にある甲羅は、人ひとり入れるほどの大きさだった。……人ひとり?
「しまった、最近なかったから油断してた!」
 机から飛びのくより早く、甲羅の穴ぼこから手が伸びて俺の腕をがっしと掴んだ。
「……かめです。かめかめ」
 かめかめ言いながらちなみが顔を出した。
「亀はかめかめ言いません」
「……しゅん」
 しゅん、と言いながらも俺の手を放そうとしない亀。
「てーかここ学校だぞ? 学び舎に亀が入ってきていいと思ってるのか?」
「……亀にそんなこと言われても、分かりません」
 む、亀であることを逆手に取るとはやるな。
「じゃあ池にでも放しに行こう」
「がぶ」
 甲羅を持とうとしたら手を噛まれた。
「亀は噛まないよ?」
「……噛み付きカメです。噛みます、よ?」
 よ、と言いながら小首を傾げられても困る。
「知らないかもしれないが、噛まれると痛いんだぞ」
 違う、誰も噛んだ箇所を舐めろなんて言ってない。いや、気持ちいいけど!
「ぺろぺろ、ぺろぺろ……治りました?」
「まだ! もっと!」
「……タカシは治療とは別の目的で舐めさせようとしてる。……鬼畜」
 ばれた。ばれたけど、鬼畜とか言うな。そこまで酷い事してない。
「見た? 別府くん、ちなみに舌での奉仕という鬼畜な行為させてるよ」
「うわ、別府サイテー」
 級友たちの微妙に聞こえる程度の囁く声が聞こえる。このクラスでは、治療行為は鬼畜な行為になるようです。あと奉仕とか言うな。
「つーかちなみ、学校に着ぐるみ着てくるな」
「……可愛いのに」
「可愛くても、カメの着ぐるみで学校に登校してはいけません」
「……校長先生が、いいって言いました」
 うちの校長、頭おかしい。
「……さっき偶然廊下で会って、『かか可愛いっ! 制服代わりに最適っぽい! ……よし、それで学校生活送るの許可許可!』とか言ってました」
 うちの校長、本格的に頭おかしい。
「……なんか、校長先生ってタカシに似てます」
「しし失礼な! 俺は頭おかしくないぞ!」
「……考えなしに勢いで喋るところ、とか」
 悲しいことにまるで反論できない。
「そんなことは極めてどうでもいい。いーから着替えて来い、もうすぐ授業始まるぞ」
「むっ。……まだ、褒めてもらってないです。……褒めてもらったら、着替えます」
「えーと、この甲羅硬そうだな」
「……そんなところ褒めてもらっても、嬉しくありません」
 カメの褒める場所なんて、甲羅くらいしか思いつかない。
「えーとえーとえーと、防御力高そう」
「……また甲羅。……ダメです、不きょきゃです」
 ちなみは不許可と言えなかった。
「不……なに?」
「ふ、ふきょきゃ。……ふきょきゃ、……ふきょ、きゃ」
 何度言っても言えないようです。
「きょ、きょきゃ! ……きゅ」
「きょきゃ? 許可じゃなくて、きょきゃ?」
「……うう、タカシがいじめる。……はっ、まさかタカシは浦島さん?」
「ばーか」
 ちなみの鼻を軽くデコピンする。
「あぅっ。……カメをいじめるとは、ひどいです。許しがたいです。……カメの恨みを思い知るべきです」
 そう言って、ちなみはいきなり俺に覆いかぶさった。甲羅がやけに重い。
「ぐあ、重い……」
「……レディーに対してあんまりな暴言。許すまじ、です」
「の、のいてください、カメさん。重いっす」
「……言うこと聞いてくれるなら、どきます」
「な、なんだ?」
「……抱っこ」
「…………。はい?」
「だ、だから……抱っこ、……してください。……そしたら、のきます」
「え、いや、けど」
「……ダメ、ですか?」
 ダメです。ダメですが、とても重くて苦しくて情けない様子をクラスメイトに見られてる現状でダメと言えません。
「ばっちこい!」
「……わ、分かりました」
 そう言うと、ちなみは俺から離れてそそくさと教室を出て行った。そしてすぐに制服姿で戻ってくると、ぽふりと俺の膝に収まった。
「ば、ばっちきました」
 クラスメイト達の生暖かい視線にさらされ、尋常でないほど恥ずかしい。
「やっぱダメ。のけ」
「…………」(うるうる)
「──と言うほど狭量でもない別府タカシさんを尊敬してもいいよ?」
 泣かれるのだけは勘弁。すごく苦手です。
「……ふふ、たやすい」
「あれぇ、嘘泣き!?」
「うるさいぞ、別府」
 いつの間にか来ていた教師に叱られた。
「あ、すいません……いやいやいや! 違うっしょ、怒るのは俺の胸に張り付いてる物体にこそ怒るべきでは!」
 物体の頬が膨れた。
「いや、別にいいじゃん。先生も学生の頃はそういう風に授業受けたいって欲望あったし、よく分かるぞ」
「いや、分かるな! おかしいだろ、絶対!」
「大丈夫、他の先生たちにも言っておくから今日はそのまま授業受けろ。よかったなー、別府」
 よくない。全然よくない。嬉しそうに俺の胸にすりすりする物体を見ながら、そう思った。

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【こばんざめちなみん】

2010年04月03日
 ちなみがコバンザメになった、と言い張る。
「……こばんざめなので、仕方ないのです」
 なんて言いながら、俺にぎゅーっと抱きついてきた。
「仕方ないのか?」
「のです。……やれやれ、タカシとくっつくなんて本当は不満ですが、こばんざめなので我慢です」
 我慢です、なんて言うなら嬉しそうに笑わないで。俺までにやけてくるから。
「……何だか嬉しそうですが、勘違いは禁止です。別に好きとか、そういうのじゃないのです。こばんざめの習性として、くっつかざるを得ないのです」
「得ないのか?」
「です。……あーあ、早く大きくなって巨大鮫になり、タカシの野郎を食い散らかしたいものです」
 コバンザメは大きくなっても人食い鮫にならないことを指摘したらいいのか、抱きついてる相手に食い散らかすとか言うなと注意したらいいのか。
「……まぁ、大きくなるまでの我慢です。というわけで、ご飯食べましょう。タカシが子供のようにぽろぽろこぼすご飯を食べて、こばんざめは大きくなります」
「や、期待されてるようだけど、実は飯食うの上手でして。ここ数年飯をこぼしたことがないんだ」
「…………」
 むーっという感じで睨まれた。
「代わりに涎こぼそうか?」
「……全然まったくちっとも代わりになりません。……こうなっては仕方ありません、直接タカシから栄養を摂取するしか」
 どういうことかしばらく考えて、辿り着いた答えに思わず赤面混乱大変です!
「や、ま、待つヨロシ! それはちょっと女の子として慎みに欠けているというかいや別にちなみとそういうことしたくないといったら嘘になるけどそれは段階を踏んでというかその!」
「……何か勘違いしてるようですが、違います。……タカシにご飯を食べさせてもらうだけです」
 ああなんだ、そうなのか。俺はてっきり口移しとかそういう甘ったるいアレかと。それなら別に……いやいやいや。
「それはその、なんといいますか、……恋人っぽくて、その、ね? 分かるだろ?」
「…………」
 むーっという感じで睨まれた。
「……嫌なら、別にタカシが想像した方でも……」
「いいねぇご飯食べさせるの! 恋人式食事方法と言いますかリアス式海岸と言いますか、いいよね!」
「…………」
 三度むーっという感じで睨まれる。これ以上話をこじらせるとちなみとランデブーしかねないし、とっとと飯食おう。
 ……いや、別にちなみとランデブーするの嫌とかそういうのじゃなくて、その。
「……まぁいいです。じゃあ、ご飯食べましょう、ごはん」
「ああ、分かった」
「…………」
「…………」
「……ご飯、食べないんですか?」
「食べたいのはやまやまだが、それにはお前がのいてくれないとどうしようもない予感が」
 ちなみに抱きつかれたまま動くのは大変しんどいです。
「……むぅ、これは大問題です。ごはんも食べたいですが、今の私はこばんざめなのでタカシから離れるのは至難の業です」
「や、ちょっと離れて飯食う時にでも戻ればいいじゃん」
「……折角の休みなのに、少しでも離れるなんて嫌です」
「…………」
 なんつーことを言うかな、この娘さん。俺を殺す気か。ああもう、緩むな頬!
「……こ、こばんざめの習性として、です。……私としては別にどうでもいいんですが」
「あーうん、そうな。習性なら仕方ないな」
 鼻をつまみながらちなみの話に頷く。
「よし!」
「ひゃっ」
 気合を入れ、ちなみを抱きかかえたまま立ち上がる。
「……ちょっと、びっくりです。……ぱわふるまん、です」
「そのネーミングセンスに脱帽」
「……むっ、馬鹿にされてる気がします。えいえい、許しがたいです」
「ああこら、ひっついたまま殴るな! 落ちるぞ!」
「……落ちたら、一生恨みます」
「なんて勝手な言い草だ」
「……女の子はわがままなのです。頑張れ、男の子」
「へーへー」
 ちなみとじゃれあいながら、飯食うために台所に移動しました。結構どころか、かなり楽しい一日でした。

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【龍を召喚できる姉ちなみん】

2010年04月02日
「……タカくん、タカくん」
 ゲームをしてたら、ちなねぇが俺の背をつんつん突いてきた。
「ゲーム中なので後で」
「……えい」
「あああああ! リセットした! 猫リセットならぬ、姉リセットした!」
 膝を突いて悲しみに浸っていると、ちなねぇが顔を覗き込んできた。
「……どんまい」
「誰のせいで悲しんでると思ってんだ!」
「……あのね、タカくん。……お姉ちゃん、すごい特技を編み出しました」
 俺の話なんてちっとも聞かずに、ちなねぇは変なこと言い出した。
「特技? セーブせずに2時間ぶっつけでしてたゲームのデータを復元するとか?」
「その特技とは……龍を召還することなのです」
 すごい? と目が訴えてるが無視。
「そんなのできるわけねぇじゃん、ばーか」
「むっ。……姉を馬鹿呼ばわりとは、いい度胸です。……すなわち、グッド度胸」
 あまり怒られている気がしない。
「……そんなグッド度胸保持の弟を、召還した龍に噛み砕いてもらいましょう」
「え」
「……なむなむ、なむなむ」
 なむなむ言い出した姉を見る。……いや、まさか、マジ?
「……龍さん龍さん、出て来いはよーん」
 両手を上げ、聞くだけでやる気を根こそぎ奪われるような掛け声を上げるちなねぇ。刹那、上げた両手の間から煙が出た。
「……ふふ、せいこー」
 煙が消えると、そこに一匹の龍がいた。……手の平サイズの。
「小さッ!」
「……山椒は、小粒でもぴりりと辛いと言います。……うなぎに最適。……そうだ、今日はうなぎにしましょう。タカくん、作るの手伝ってください」
「や、それは構わんが今はうなぎより龍を! 助けてちなねぇ!」
 このままではミニ龍に噛み砕かれ、新聞の一面を飾ってしまう。……いいとこスポーツ新聞だな。
 なんて考えてると、龍が俺めがけ躍りかかってきた!
「うわぁっ!」
 目を瞑って痛みを待つ。待つ。……来ない。そっと目を開ける。
「ぴー♪」
 龍は長い舌を器用に操り、俺の頬をぺろぺろ舐めてた。
「あ、味見されてる! ちなねぇ、助けて!」
「……おかしい、敵を襲うはずなのに。……説明書、せつめいしょ……」
 ちなねぇは胸元から薄い冊子を取り出し、読み始めた。一刻も早くこの状況から脱すべく、俺も隣から覗き込む。
『犬っぽい何かでも出来る! 必殺召還の書!』
 説明書の題にやる気を削がれながら、問題の箇所を探す。……あ、あったあった。
『召還された龍は召還主と同じ思考をします。対象を憎めばその対象を攻撃しますが、近くに好意を抱く対象がいた場合、その対象と遊ぶ事を優先します』
「…………」
「…………」
「ぴー♪」
 俺の部屋に、龍の甲高い鳴き声が響き渡る。
「えーと、ちなねぇ、これって……」
「ち、違う、違うのです。誰も弟に好意なんて抱いてません」
 真っ赤な顔で否定されても、そうですかと頷くのは難しいです。
「まーとにかく噛み砕かれることはないみたいだな。よかったよかった」
 胸を撫で下ろし、龍を見る。落ち着いて見てみれば、愛嬌があって可愛いと言えなくもない。
「ぴー♪」
「おっ、あははっ。うん、結構可愛いじゃないか」
 ぺろぺろと舌を伸ばしてきた龍の顎の下をなでる。龍は嬉しそうにぴーぴー鳴いた。
 そんな俺たちを、ちなねぇは面白くなさそうにじっと見ていた。
「……ぴー」
 なんか怖いなぁと思ってたら、突然ちなねぇが龍の鳴きマネをしながら俺のほおを舐めた。
「ちっ、ちちち、ちなねぇ!?」
「……召還主ですから、召還した龍の真似をするのも仕方ないのです」
「そっ、そそ、そっかな?」
「そうなのです。……やれやれ、弟の頬を舐める羽目になるとは。……さまなーも大変です」
 大変です、と言いながら、ちなねぇは凄く嬉しそうだった。

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