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2024年11月21日
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幽霊「幽霊です」 男「怖いなあ」 前編

2012年07月24日
幽霊「ひゅーどろどろどろ。……怖いですか?」

男「うん、怖い」

幽霊「あまりそう見えないんですけど」

男「うーん。でも、怖いよ?」

幽霊「そですか。ならいいんです」

男「気がついたら知らない人が家にいるなんて、恐怖以外の何物でもないよ」

幽霊「そっちの意味で怖いんですか」

拍手[58回]

男「だって、寝てたらなんか知らない女の子が枕元にいるんだもの。そりゃ怖いよ」

幽霊「幽霊ですから、枕元に現れます」

男「なるほど、それが仕事だからなあ」

幽霊「いえ、別に対価をもらってるわけじゃないので、正確には仕事じゃないです」

男「じゃあ、なんで怖がらせるの?」

幽霊「……趣味?」

男「悪趣味だなあ」

幽霊「…………」ションボリ

男「悪いことをした気がした」

幽霊「悲しいです」ションボリ

男「ごめんね?」

幽霊「ダメです。許しません。呪い殺します」

男「困るなあ」

幽霊「幽霊ですからしょうがないんです。諦めてください」

男「なるほど、呪うのも仕事だから仕方ないか」

幽霊「いえ、対価がないので仕事じゃないです」

男「じゃあ、やっぱ趣味で呪うのか。悪趣味だな!」

幽霊「…………」ションボリ

男「この幽霊は打たれ弱すぎる」


幽霊「あまりいじめないでください」(涙目)

男「分かった。ごめんな?」

幽霊「……悪気がないようなので、許します」

男「で、なんで俺の家にやってきたの、趣味で人を怖がらせたり呪い殺したりする人?」

幽霊「いじめないと言ったのに」(涙目)

男「嘘をつきました」

幽霊「酷いです。もう泣きます。ひんひん」

男「泣かれると良心がうずく。申し訳ないことをした。こんなことなら嘘をつくんじゃなかった」

幽霊「ぐすぐす……もう嘘をつきませんか? いじめませんか?」

男「いいえいいえ」

幽霊「うえぇぇん」

男「ああつい本音が」


幽霊「…………」ブスーッ

男「あの後、どうにか謝り倒して泣き止ませたはいいが、先程から幽霊が部屋の隅っこで体育座りをしてこっちをじーっと見ている」

幽霊「…………」ブスーッ

男「正直なところ、明日も学校なのでとっとと寝たいところなんだが、不機嫌そうな幽霊が気になって寝られない」

幽霊「…………」ブスーッ

男「……でも、まあ、いいか!」

幽霊「ええっ!?」

男「お休み、幽霊さん」

幽霊「あ、あの、まだ許してません、許してませんよ?」

男「でも、眠いんだ。ほら、もう朝の3時だし」

幽霊「起こして上げますから、もうちょっと頑張って起きててください。そして私をいじめことをいっぱい謝ってください」

男「嫌だ」

幽霊「!!?」

男「そういうわけで、お休み」

幽霊「ね、寝たら呪いますよ!?」

男「幽霊の趣味が出た」

幽霊「またいじめた! うえぇぇん!」

男「やかましくて寝れない」


──翌日──

幽霊「起きて。起きてください」ユサユサ

男「zzz……」

幽霊「朝です。早く起きてください」ユサユサユサ

男「ん、……うぅん……ん、むぅ」

幽霊「はぁ、やっと起きた……」

男「んー……うわぁ、知らない人!」

幽霊「幽霊ということで驚いて欲しいです……」

男「……あ、ああ、なんだ。昨夜の幽霊か。驚かすなよ」

幽霊「そして幽霊なのに微塵も怖がられていないことに悲しみを禁じ得ません」

男「おはよ、幽霊さん」

幽霊「はぁ……あれからいっぱい寝るの邪魔したのに、すぐに寝ちゃってそれから全然起きませんでした。起こすの、すっごく苦労しました」

男「何言ってるか全然分からん。ちょっと待って、耳栓取るから」

幽霊「耳栓!? いつの間に!? ずるいです、卑怯です!」

男「……っと。んじゃ改めて、おはよう、幽霊さん」

幽霊「あ、おはようございます」ペコリン

男「ところで、幽霊って朝日に当たったらぐげぇぇぇってヒキガエルみたいな断末魔出しながら消えたりしないの?」

幽霊「隙あらばいじめます! ひどいです!」

男「いや、心配したんだよ?」

幽霊「とてもそうは思えないです! 悪意たっぷりです!」

男「ばれた」

幽霊「やっぱりいじめてました。ひんひん」

男「朝飯何にしようかな」

幽霊「女の子が泣いてるんだからちょっとは慰めてください。ひんひん」

男「厄介な同居人が増えたものだ。ああはいよしよし」ナデナデ

幽霊「ふああっ!?」

男「しまった、頭が性感帯だったか!」

幽霊「違います」

男「それはどうかな?」

幽霊「本人が違うと言っているのです! 違うのです! そうじゃなくて、どうして私に触れるんですか?」

男「え、いや、さっき俺を揺り起こしてたろ? 普通に物に触れるんじゃないのか?」

幽霊「いいえ、無理です。ほら、物を触っても通り抜けます」スカスカ

男「うーん。じゃ、幽霊さんは実は幽霊じゃない、とか?」

幽霊「幽霊です。あいでんててーが崩壊しそうなことを言わないでください」

男「アイデンティティ」

幽霊「あいでんててー」


男「ふむ。じゃ、俺も幽霊なんだろ」

幽霊「仲間!? ……でも、生きてるように見えます」

男「生きてるからな。心臓忙しすぎ」

幽霊「また騙されました。しょっくです」

男「ちなみに、俺は通り抜けない」ドヤアッ

幽霊「当然のことをドヤ顔でされて癇に障りましたが、触った目覚ましが床に落ちて蓋が開き、さらに電池がばらまかれ、わたわたしながら拾う無様な所を見れたのでプラスマイナスゼロです」

男「ふぅ……朝からいい運動をした」

幽霊「爽やかな顔が不愉快です。それで、どうして私に触れるのですか? 陰陽師の血筋なのですか?」

男「全然知らないけど、そうなんだ」

幽霊「もう騙されません。それは嘘です!」ビシッ

男「当たり」

幽霊「わーいわーい!」ピョンピョン

男「この幽霊可愛いなあ。飼おうかなあ」ナデナデ

幽霊「飼うとは何事ですか! 一個人として尊重してください!」

男「死んだ奴に人権なんてないだろ。……と、なると」

幽霊「何やらひどいことをされそうです」ガタガタ

男「よぅし! 恋人としてチュッチュチュッチュしよう」

幽霊「嫌です」

男「悲しい」


男「それはそれとして、ご飯食べる?」

幽霊「幽霊なので食べられません」

男「偏食は体に良くないぞ?」

幽霊「好き嫌いの話ではないのです」

男「好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしら」

幽霊「どうして往年の名作ギャルゲーの話をしているのですか?」

男「だって、いきなりサメの話とかしだしたら頭おかしい奴だと思われるだろ」

幽霊「ギャルゲーの話でもかなりのものだと思われますよ」

男「で、なんでお前はそんな知識があるんだ」

幽霊「……生前の私は、ゲーマーだったようです」


男「で、パンとご飯どっちがいい?」

幽霊「だから、食べられないと……」

男「ま、パンでいいよな」

幽霊「うぅー」

男「オーブンに入れて、ちっちっち、はい二分経過。できあがり」

幽霊「食べられないのに……」

男「バターしかないけど、別にいいよな」ヌリヌリ

幽霊「いい匂いです……」

男「じゃ、おあがりなさい」

幽霊「食べられないです……」グゥー

男「腹が鳴ってるぞ。臓器があるのか」モグモグ

幽霊「ないです。ないけど鳴るのです。こんな焼きたてのパンを目の前に置かれちゃ、お腹も鳴ります」ググゥー

男「んー。まあ、ものは試しだ。食ってみろ」

幽霊「そもそも掴めないのに……あ、あれ?」

男「ひぃ、パンが幽体離脱! 怖い!」

幽霊「幽霊を無視してパンに怯えないでください」

男「で、なんでパンから薄い透けたパンが出てきたんだ? 手品?」

幽霊「んー……お供え、ですかね?」

男「そうだ!」

幽霊「何が!?」

男「いや、何のことか分からなかったから、勢いでごまかそうとしたんだけど、聞き返されたので失敗した」

幽霊「……黙って聞いててください」

男「はい」

幽霊「ええと……お供えされて初めて、幽霊はご飯を食べることができるんです……かね?」

男「なんで疑問形なんだ」

幽霊「……幽霊になってから、ご飯食べたことないんです」

男「ダイエットは身体によくないぞ?」

幽霊「ここはしんみりするところなのに」


男「まあ、話はなんとなく微妙に分かったような気がしないでもない」

幽霊「とんでもなく曖昧です」

男「で、結局その透けてるパンは食べられるのか?」

幽霊「…………。はぐっ」

男「おおっ」

幽霊「もぐもぐ。もぐもぐもぐ。……た、食べられます」

男「おお、よかったな幽霊さん!」

幽霊「食べられます。……おいしーです」ポロポロ

男「お、おい」

幽霊「ぐすぐす……ご飯って、こんなおいしかったんですね……」ポロポロ

男「これはパンだけどな」

幽霊「そういう話じゃないです……ぐすぐす」

男「まあ、なんにしても良かったな」

幽霊「はい……はい!」

男「じゃあ、満足したようなのでとっとと成仏しろ」

幽霊「酷いです! 言い方ってものがあると思います!」

男「えーと。会えなくなるのは寂しいけど、とっとと成仏しろ」

幽霊「あまり変わってません! それに、パン食べて成仏って、あんまりです。餓鬼のようです」

男「ところで、そのお前の分にと焼いたパンは、どうすればいいのだろうか」

幽霊「食べましたよ? おいしかったです」

男「いや、そうじゃなくて、物質のパンの方。幽体のじゃなくて」

幽霊「……育ち盛りなら、パンのひとつやふたつ、ヘーキですよね?」

男「はぁ……。明日からは焼くの一枚でいいか」モグモグ

幽霊「…………」グゥー

男「さっき食っただろ。腹を鳴らすな」

幽霊「な、鳴らしてなんていませんよ!? 酷い言いがかりです!」ググゥー

男「……もう一枚焼くか?」

幽霊「…………///」コクン


男「さて、このパンは昼飯用にするか」

幽霊「もぐもぐもぐ。はぁぁ……♪」

男「んじゃ、俺は学校行ってくるな」

幽霊「もぐ? あ、私も行きます」

男「連れていきたいのは山々なんだが、ペット禁止なんだ」

幽霊「酷い扱いです。ペットではないです。幽霊です」

男「んー……でも、連れて行ったら騒ぎになるだろ? 騒ぎになると目立つだろ? そしたらテレビとかネットで話題になるだろ? 一躍有名人になるだろ?(俺が) 芸能界デビューしちゃうだろ?(俺が) ……よし、来い!」

幽霊「有名人以降は無理だと思います。それと、私は普通の人には見えないので、騒ぎにもならないと思います」

男「そっか。でも、何も見えない空間にニヤニヤしながら話しかける奴ってのは騒ぎにならないかな?」

幽霊「怖いです! なんでニヤニヤしてるんですか!?」

男「だって、幽霊とはいえ女の子が裸でいたら誰だってニヤニヤしちゃうだろ」

幽霊「なんで私が裸って前提なんですか!? 変態さんじゃないですか!」

男「そうだったらいいなーっていう、他愛のない空想だよ」

幽霊「妄想の域に達しているように思えてなりません」

男「まあ、なんだ。大丈夫っぽいし、ついてきていいよ」

幽霊「わーい♪」

男「でも、行く先で会う人を次々と呪うのは勘弁な。俺が重篤な伝染病にかかってると勘違いされそうだから」

幽霊「人を悪霊か何かと勘違いしている様子です」

男「違うの?」

幽霊「違います! 善良な幽霊なのですよ、私は! ふんがい!」

男「あれ? でも、俺を怖がらせたり呪ったりしようとしてなかった?」

幽霊「……しゅ、趣味です。趣味ではないですが、そういうアレです。とにかく、私は悪霊ではないのです」

男「やっぱ悪趣味だな!」

幽霊「ひんひん」


男「ところで、学校に来るのは構わないんだが、なんで来たいんだ?」

幽霊「楽しそうだからです。あーゆーところに行ってみたかったんです」

男「……いや、普通に一人で行けばよかっただろうに。なんでわざわざ俺と一緒に行く必要が?」

幽霊「……ああいう陽の気が集まっているところには、幽霊は行けないのです。はじかれてしまうのです」

男「俺と一緒だと大丈夫なのか?」

幽霊「今はおにーさんに取り憑いてますから、大丈夫だと思います」

男「え、俺取り憑かれてるの!? 怖っ、怖あっ!」

幽霊「あっ、怖がられました! ひゅーどろどろ!」

男「いや、そんな元気いっぱいに言われても怖くない」

幽霊「残念です……」

男「しかし、取り憑かれてるのか。困ったなあ」

幽霊「……こっ、こんな可愛い子に取り憑かれてるんだから、むしろらっきーですよ、おにーさん?///」

男「それもそうだな!」

幽霊「納得が早すぎて逆に怪しいです……」

男「近く呪いの効果で変死するだろうけど、こんな可愛い子に取り憑かれてるんだから、それくらい甘んじて受け入れよう」

幽霊「変な効果を勝手に付加しないでください。そんな力はないです」

男「断る!」

幽霊「どういうわけか、このおにーさんは変死したがります」

男「別にしたがるわけじゃ……あっ、いかん、時間!」

幽霊「遅刻して走って校門をくぐろうとして挟まれて死んじゃえばいいんです」

男「くそぅ、悪辣で悪趣味な幽霊にかまってるばかりに!」

幽霊「悪辣じゃないし、悪趣味でもないです。人を怖がらせるのは……そう、幽霊としての本能です!」

男「知らん。興味ない。喋るな」

幽霊「ひんひん」

男「ほら、泣いてないで行くぞ」

幽霊「泣かしたのはおにーさんなのに」


男「ダーッシュ!」

幽霊「だーっしゅ」フヨフヨ

男「ええい、幽霊は浮くなんてチートスキルを持っててずるいなあ!」

幽霊「鳥のようで素敵ですか?」

男「バルンガのようで素敵だなあ」

幽霊「せめて風船……なんでウルトラQ……」ブツブツ

男「ぶつぶつ呟きながらついてくるな。朝から気が滅入る」

幽霊「幽霊なのでしょうがないです。ひゅーどろどろ」

男「それ口で言ってるの?」

幽霊「はい」

男「馬鹿丸出しだな!」

幽霊「ひんひん」


男「ぜーぜー……ふぅ、セーフ」

幽霊「お疲れ様です、おにーさん。タオルはご入り用ですか?」

男「お、気がきくな。さんきう」

幽霊「持ってませんが」

男「…………」ギリギリ

幽霊「いひゃいいひゃい、いひゃいでふおひーはん!」

男「俺だから頬を引っ張るので済んでいるが、そこらの一般人なら外道照身霊波光線を照射して強制成仏させられてるぞ」

幽霊「ううう……そこらの一般人は、そんな必殺技持ってません」ヒリヒリ

男「いや、そうとは限らないぞ。じゃあ誰かに聞いてみて、もしその技を持ってたら照射してもらうからな」

幽霊「非常に困ります! やめてください!」

友「……一人で何やってんだ、男」

男「やあ我が友、いいところに。もしよかったらなんだが、今からこの幽霊に外道照身霊波光線を照射してくれませんかね?」

幽霊「大ぴんちです! 強制成仏なんてまっぴらごめんです!」

友「……? 何言ってんだ、お前は」

幽霊「あ、おにーさん。この人は見えない人のようですよ?」

男「いやまったく、俺は何を言ってるんだろうな。幽霊なんて馬鹿げたものは存在しないと言うのに」

幽霊「います! 超います! おにーさんが否定するのは悲しいです!」ポカポカ

男「ぶべらはべら」

友「? なあ男、お前何かに殴られてねーか?」

男「いたた……いや、ただのパントマイムだ」

幽霊「のっとぱんとまいむ! 私が叩いているのです!」ポカポカ

男「ぶべらはべら」

友「……よく分からんが、楽しそうだな。じゃ、俺は先に教室行ってるな」


男「ふぅ……エンターティナーを演ずることにより、外道照身霊波光線から守ってやったぞ。感謝の証として、ち、ち、ちっすを許可する!」

幽霊「しません」

男「がーんだな……出鼻をくじかれた」

幽霊「なんで孤独のグルメですか?」

男「さて、んじゃ教室行くか」

幽霊「わくわくします!」

男「期待してるところ悪いが、別に女子が半裸で闊歩とかしてないぞ?」

幽霊「そんな学校は存在しません」

男「なんでだろうなあ……!」

幽霊「うーん。おにーさんは気持ち悪いですね?」

男「幽霊に言われると結構ショックだな」


男「着いた。ここが教室だ」

幽霊「わぁ……! 有象無象がひしめいています!」

男「この幽霊口が悪いな」

友「……なあ男、さっきからお前何と喋ってんだ?」

幽霊「あ、さっきの人です。こんにちは」ペコリン

男「こんにちは」ペコリン

幽霊「おにーさんにしたのではないのです!」プンプン

友「何もないとこに頭下げたり……いきなりなんだ? まあ、奇行は今に始まった話じゃないからいいけど」

男「いやね、聞いてくれよ友。実は、幽霊がここにいるんだ」

友「…………。へー」

幽霊「まるで信じてない目をしてます」

男「もちろん嘘だけどな」

幽霊「嘘ではないのです! そこを否定してどうするのですか!」

友「……ああ、幽霊がいる、っていうごっこ遊びをしてるのか」

男「あー、うん、そんな感じ」

幽霊「なんかうまい具合にまとまりましたね」

男「全て計算ずくだ」

幽霊「絶対にうそです!」

友「……ま、んじゃいると仮定して……んーと、よろしくな、幽霊さん」ペコリ

幽霊「あ、ハイ! よろしくお願いします!」ペコリン

男「幽霊の奴、お前の顔が気に入らないから『俺の嫁メモリアル』を部屋の机の上に置いといてやるって言ってるぞ」

幽霊「言ってません!」

友「なんで俺の持ってるエロ本知ってんだ!?」


キーンコーンカーンコーン

教師「ぅーい、席に着けー」ガラッ

友「まあいいや……んじゃ後でな」

男「はぁやれやれどっこいしょあいたたた」

女「どこのおじさんよ」

男「やあ、君は席が隣の女さんではないか。いかん、説明口調が過ぎる。お母さんに怒られるかも」

女「なに言ってんのよ。……それより、話があるんだけど」

男「困った、告白された」

女「してないわよッ!」

教師「あー? 女ー? どうかしたかー?」

女「い、いいえ、なんでもないデス……///」

男「朝から元気だなあ」

女「誰のせいよ……!」ギュー

男「ほおをひっはふは」

女「と、とにかく! あとで話があるからね。逃げないで待ってなさいよね」チラチラ

幽霊「…………」


 ────

男「さて、昼休み、すなわちあとになったわけだが」

男「なんか変なところに連れてこられた。想像するに異次元に違いない。幽霊の仕業か。あとでぶち殺す」

幽霊「違いますよ!? もう死んでますし!」

女「ここは空き教室。……単刀直入に言うわ。私、幽霊が見えるの」ジロッ

幽霊「!」

男「ああ、メンヘルか。きめぇ」

女「違うわよ! きめぇとか言うなッ! ほらっ、そこにいるでしょ! アンタに憑いてるのが!」ビシィッ

幽霊「ふわあっ!?」

男「ふわあ(笑)」

幽霊「び、びっくりして思わず口から飛び出ただけです! 別に普段からそんな感じではないのです!」

男「いや、何も恥じる必要はない。むしろどんどんそういう萌え言語を使うように。大好物です」

幽霊「なんて人に取り憑いちゃったのでしょうか……」ガックリ

男「えーと。なんだっけ。ああそう、幽霊か。そんなのいるわけねーじゃん」

女「ええっ!?」

幽霊「ええっ!?」

女「いやいや、いやいやいや! アンタさっきものすごい会話してたじゃないの!」

幽霊「そですよ! たくさんいじめられました!」

女「ねー?」

幽霊「ねー?」

男「ねー?」

女「アンタは関係ないッ!」

男「楽しそうだったからさりげなく入ったんだけど、ばれた」

幽霊「満面の笑みですごく気持ち悪かったです……」

男「この幽霊腹立つな」ギュー

幽霊「いひゃいいひゃいでふ」


女「……で。この幽霊なんなの」ジロッ

幽霊「ひっ」

男「いや、何と言われても。便利な性欲処理装置、としか」

幽霊「ええっ!?」

女「アンタを殺して私も死ぬッ!」ギュー

男「ぐげげぇ」

幽霊「おにーさんの首がぎゅーっと締められ、目がくるりんっと白色にちぇんじしました。もう少しで私の仲間になりそうです」


男「はぁ……軽い冗談なんだから、首を締めるな。ツッコミが激しすぎる」

女「う、うるさい! あんなの冗談でもなんでもないわよ! このド変態!」

男「ありがとうございます!」

女「うわぁ……」

幽霊「満面の笑みです。取り憑く相手を明らかに間違えました。きゃんせるしたいです」

女「えーと……この幽霊が、アンタに取り憑いてるのね?」

男「簡単に言うと、そんな感じ」

幽霊「……も、もしかして、外道照身霊波光線ですか?」ブルブル

女「はぁ?」

男「何言ってんだコイツは。頭悪ぃなあ」

幽霊「おにーさんが言ったことなのに! ふんがいです!」プンプン

男「ごめんね?」ナデナデ

女「…………」ジーッ

幽霊「は、はぅぅ! 睨まれています!」

男「こらこら、子供たち。貧乳同士仲良くしなさい」

女「誰が子供で誰が貧乳よッ!」ドゲシッ

幽霊「ひ、貧乳はすてーたすで希少価値なんですよ!?」

男「古いな。だが、個人的に貧乳は大好きなので諸手を上げてその理論に賛同します」

女「……あ、アンタの好みなんて知らないわよ///」

幽霊「まったくです! 好きで小さいわけではないのです!」

男「すいません、先ほど殴られた際に噴出した鼻血が止まらないのでティッシュをください」


女「まったく……まあ、殴った私も悪いけども」グイグイ

男「ふがふが。いや、全部お前が悪い」

女「最初に悪口言ったアンタも悪いわよッ!」グイッ

男「ふがあ。押し込むな」

女「あ、ご、ゴメン……これでどう?」クイクイ

男「ん、よし。どうだ、幽霊?」

幽霊「鼻声のうえティッシュが鼻に詰まっていて、おにーさんの最大カッコ悪さを更新しました」

男「ままならないなあ」

女「……で。なんで取り憑かれてるの?」

男「そういや俺も知らないや。なんで?」

女「そんなことも知らずにのほほんと学校に……本っ当、コイツは……!」ギリギリ

男「頬をつねらないでいただきたい。理由は、痛いから」

女「うっさい!」

幽霊「あはは。あのですね、私の住んでる家に、おにーさんがやってきたからです」

女「えっ、アンタ幽霊屋敷に住んでるの!?」

男「え? えーと、うん」

幽霊「ええっ!?」

女「ちょっと! 幽霊ちゃんが”ええっ”て言ってるわよ!」

男「そんな怖いところに住んだ覚えはないけど、幽霊が住んでたようだし、そういう意味では幽霊屋敷かなあ、って後付けで思ったんだ。でも見た目は普通のアパートだよ?」

幽霊「普通ではないです。おんぼろアパートです。一人で気ままにいたのに、なんであんなところに、しかもピンポイントで私の部屋に住むんですか、おにーさん。迷惑です」ギュー

男「安いし学校近いし。そして別に狙って幽霊のいる部屋に住んだわけではない。あとお前も頬をつねるな」

女「元々平和に暮らしていた幽霊ちゃんの元へ、男という闖入者がやって来たのね。つまり、アンタが諸悪の根源ね!」ビシィッ

男「ぐわはははー。ばーれーたーかー」

幽霊「退治してやります。えいえい」ギュー

女「とりゃー!」ギュー

男「やめて」


男「双方から頬をつねられ、大変痛かった」ヒリヒリ

幽霊「調子に乗ってつねりました。少し申し訳なく思います」

男「許さん。死ねェ!」

幽霊「もう死んでます」

男「じゃあいいや、許す」

幽霊「死んだ甲斐があったというものです!」

女「あったま悪い会話してるところになんだけど、今アンタが住んでる部屋に幽霊ちゃんがいるんだから、別のところに引っ越せばいいじゃない」

男「お金がないんだ」

幽霊「おにーさんは貧乏人です」

男「だから、近くの浮遊霊の気を食べて生き長らえてるんだ」

幽霊「知らない間におにーさんに食べられてました。……な、なんだかえっちな響きですね?///」

女「…………」ギリギリ

男「軽い冗談を言っただけなのに、どうして頬をつねられているんだろう」

女「うっさい!」

幽霊「あわわわ」


男「まあなんだ、偶然幽霊のいる部屋に引越しちゃったがために起こった悲劇といえよう。だから幽霊、どっか行け」

幽霊「わ、私が先に住んでいたのです! 居住権を行使します!」

男「ひぃ、法律! 助けて!」ガシッ

女「寄るな触るな抱きつくなッ!」ゲシッ

男「すいません、難しい言葉に混乱しました」

女「ったく……///」

男「ただ、どさくさに紛れておっぱいのひとつでも揉んでやれ、という思いが今になって脳裏を駆け巡る。後悔先に立たずとはよく言ったものだ」

女「ちょっとは吟味してから喋りなさいッ!」ギュー

幽霊「このおにーさんは頭が悪いですね」

女「まぁね。……で、でも、本当はいい奴なのよ?」

男「…………」ニヤァ

幽霊「わ、悪い顔をしてますよ!? おにーさんは悪人です! えいえい!」ポカポカ

男「ぶべらはべら」

女「楽しそうで何よりね」


男「というわけで、金がないのでしばらくはこのまま幽霊と一緒に住むことに相成りました」

幽霊「本当は追い出して今までどおり一人気ままでいたかったですが、おにーさんといるとご飯が食べられるので我慢します」

女「んー……まあ、悪霊じゃないっぽいし、大丈夫かなぁ……?」

男「お、俺は悪霊とかじゃないよ!? ほ、本当に!」ガタガタ

幽霊「お、おにーさんは頭悪くてじつに変態ちっくですが、悪霊じゃないです!」

女「違うッ! 幽霊ちゃんの方! なんで生きてる男を悪霊と思うか!」

男「言い訳しながらおかしいなあとは思ったんだ」

幽霊「実を言うと私もです」

女「幽霊ちゃんも頭悪いの?」

幽霊「!!?」

男「涙目の幽霊可愛い」

女「喋るな」


男「ところで、そろそろ飯を食わないか? いい加減腹が減ったのだが」

女「……それもそうね。んじゃ、教室に戻るわよ」

幽霊「ご飯は嬉しいです。たくさん食べます!」

男「たくさん食べるのはいいが、今日の俺の昼飯は朝お前が食ったパンの抜け殻だぞ?」

幽霊「……あ」

男「即ち、お前が食う飯など存在しない」

幽霊「……へ、ヘッチャラです。今までずーっとずーっと食べてなかったから、慣れてます。問題なしです」グゥー

男「腹を鳴らしながら言う台詞ではないなあ。ああ可哀想だ可哀想だ。誰か幽霊にご飯をあげる優しい奴はいないかなあ?」チラチラ

女「ああもう、普通に言いなさいよね。幽霊ちゃん、私のお弁当で良かったら食べる?」

幽霊「ほ、本当ですか!? こんないい人に巡り合えるなんて、感激しきりです!」

男「全て俺の人徳がなせる業なのだから、俺を崇め奉るように」

幽霊「嫌です」

男「お、女! この幽霊の奴が俺を崇めない! こらしめてやってくだせえ!」

女「幽霊ちゃんは好き嫌いとかある?」

幽霊「なんでも食べれます」

男「無視かぁー」


友「……お、戻ってきたか。二人して何やってたんだ?」

男「搾乳プレイ」

幽霊「お、おにーさんが女さんに凄まじい勢いで廊下に連れ出されました!」

女「何言ってんのよッ!」

男「ご飯食べないの? お腹空いたんだけど」

女「アンタが余計なこと言わなけりゃ、今頃普通に食べれたんだけどねッ!」ギリギリ

男「おや、脳が大変に痛いですね。ひょっとしたら死ぬやも」

幽霊「お、おにーさんのこめかみにおねーさんの指がめりこんでいます!」

男「実況ご苦労さまです」ナデナデ

幽霊「あ……えへへっ♪」

女「…………」ギリギリギリ

男「何が気に障ったのか分からないが、こめかみに掛かる圧が増したので、このままでは確実に死ぬ」

幽霊「おにーさんの口からあぶくが出てきました」


男「死にかけた。いや、3/4は死んでたな」

女「いい? 変なこと言わないで、普通にしてなさいよね」

男「はい」

幽霊「教室に戻ります」


友「うーす。お前ら、相変わらず仲いいな」

女「は、はぁ!? どこを見たらそう見えるってのよ! ……こ、こんな奴なんかと///」

男「ご飯ご飯」イソイソ

女「…………」ギリギリ

男「変なことを言ってないのにまた頬をつねられた。もう法則が分からないよ」

幽霊「おにーさんは、鈍感さんなんですか?」

男「ああ。俺が、俺達が土管だ!」

幽霊「聞き間違えてるのに肯定しましたよ!? そしてどういうわけか私まで土管にされました。幽霊なのに」

友「……? ああ、朝の幽霊ごっこか。まだここにいるのか?」

幽霊「はい! います!」

男「いや、成仏した」

幽霊「!!?」

女「あんまりいじめないの。……はい、幽霊ちゃん。これ食べていいわよ」コトッ

友「あれ、女さんも付き合ってあげてるの? 珍しいね」

女「んー、まぁ、ね」

幽霊「お、お弁当です! いただきます!」

女「……物の幽体離脱? そんな感じになるんだ」

友「?」

男「冷めた食パンおいしくない」モソモソ


幽霊「もぐもぐもぐ……げふー! ごちそうさまでした!」

女「ん。おいしかった?」

幽霊「はい! それはもう!」

女「そっか。よかった」ナデナデ

幽霊「あ……えへへへへっ♪」

男「見ろよ友、女が何もない空間に手をゆらゆらとしてるぞ。俺が思うに、薬が切れた結果の幻覚が見えてるのだと思うぞ」

友「いや、普通にお前の戯言に付き合ってあげてるだけだろ」

女「男、あとで顔貸せ」

男「たぶん殴られる。言うんじゃなかった」

友「ご愁傷様」

幽霊「あわわわわ」
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