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2025年02月05日
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【かなみは俺の嫁2】
2011年03月19日
今日もかなみは俺の嫁です。
とはいえ、学校ではそういう関係であることは秘密にしているので、表面上は今まで通りただの友人としている。そういうわけで、友人として一緒に登校しているのだけれど。
「…………」
きンらきンらした目で俺の方を見ながら、これみよがしに手をふりふりしてアッピールする嫁。
「……あーと。なんでしょうか」
視線に耐えかね、しょうがなしに問いかける。
「へへー。あのさっ、あのさっ? 私と手、繋ぎたいでしょ?」
「いいえ」
一瞬にして超不機嫌な顔になるかなみ。
「あによっ! こんなくぁいいかなみちゃんと手を繋ぎたくないって言うの!?」
「自分でかなみちゃんとか言うな。じゃなくて」
かなみの耳に口を寄せ、小さな声で囁く。
「わっ、ふひゃっ!?」
「今は周囲に人がいないからいいが、そんなにベタベタしてたら結婚してるってばれるだろ」
素早く離れると、かなみは両手を耳にあて、赤い顔で口を開いた。
「う、うぅー。ベタベタなんてしてないもんっ! ていうか、耳弱いの知ってるくせにふーふー息吹きかけるなっ!」
「そんなつもり毛頭ねぇよ……」
ぺこぽこ弱い攻撃をあしらいながら、小さくため息。そもそも、ばれると面倒くさいことになるから結婚していることを隠そうと言い出したのはかなみからだったのに、実際にばれる原因を作っているのはコイツ。納得がいかない。
「むー。あによ、人の顔をじーっと見て」
「でもまあ、惚れた弱みって奴か。しょうがない」
「そっ、そゆこといきなり言うなっ! 反則! ばか!」
突然かなみは顔を真っ赤にして、再び俺をぺこぽこ叩いた。
「痛い痛い。叩くねい」
「むー……そ、それよりさ。今日はもう学校さぼって家に帰っちゃわない? 授業とか面倒でしょ?」
「いきなり何言ってんだ」
「そ、そしたらちゅーとかいっぱいできるし……」
「…………」
「しっ、したいってことじゃなくてさ!? アンタがしたいんじゃないかって思っただけで!」
「学校行ってる間くらいは我慢できます」
「で、でも、他にも抱っことかなでなでとかもできないんだよ? 発狂しちゃわない?」
「お前は人を何だと思ってんだ……」
「色魔」
かなみにした色々を思い出すに、簡単に否定できない。結婚した後でなければ絶対確実に捕まっている。
「……な、何を赤くなってんのよ、えろまじん」
「貧乳には無限の可能性が眠っていることを思い出しただけだ」
「どえろまじん!!!!!」
そしてかなみも自分がされた色々を思い出したのだろう、超真っ赤になった。
「ううううう……正直、結婚するまでアンタがあそこまでえっちだと思いもしなかったわ」
「まだ全然全力出してませんよ?」
「えええええっ!? えっ、でも毎日一緒にお風呂入ってぺろぺろちゅーちゅーされてるよ!? なのにまだ全力じゃないの!?」
「声がでけえ上に発言がヤバすぎる!」
つむじをぐりぐりぐりーっとして注意する。興奮しすぎだ。
「うにゅぐ……う、うるさいっ! そもそも、アンタが変なこと言うからっ! 全部アンタのせいっ! えっちえっちえっち!」
「何て責任転嫁だ」
げしげしと足を蹴られながら呟く。まあ、こいつを嫁にした時点で受け入れてるからいいんだけど。
「こほん。ともかく、学校をサボるのはダメ。お前も夫がダメ人間になるのを見たくないだろ」
「もー既にダメ人間じゃない」
「そんな説もある」
「あははっ。……でもま、一緒にいたげるけどね。宣言しちゃったもんね、健やかなる時も病める時も、ってね?」
「お前は本当に隠す気があるのか」
得意げにウインクしてるかなみの頭をわしわしっとなでる。なんかもうこいつが俺の隣にいるのが嬉しくて仕方がない。
「い、今は周りに誰もいないからいいんだもん。で、でも学校着いたらベタベタ禁止だからね。ベタベタしたら怒るからね。晩ご飯のおかず一品減らしちゃうからね」
「おかずが減るのは辛いな。分かった、ベタベタせずにふにふにする」
「擬音変えたらいいって話じゃないっ! こら、言ってる傍からふにふにするなーっ!」
ぷりぷり怒りながらも、ほっぺをふにふにされてどこか嬉しそうなかなみだった。
とはいえ、学校ではそういう関係であることは秘密にしているので、表面上は今まで通りただの友人としている。そういうわけで、友人として一緒に登校しているのだけれど。
「…………」
きンらきンらした目で俺の方を見ながら、これみよがしに手をふりふりしてアッピールする嫁。
「……あーと。なんでしょうか」
視線に耐えかね、しょうがなしに問いかける。
「へへー。あのさっ、あのさっ? 私と手、繋ぎたいでしょ?」
「いいえ」
一瞬にして超不機嫌な顔になるかなみ。
「あによっ! こんなくぁいいかなみちゃんと手を繋ぎたくないって言うの!?」
「自分でかなみちゃんとか言うな。じゃなくて」
かなみの耳に口を寄せ、小さな声で囁く。
「わっ、ふひゃっ!?」
「今は周囲に人がいないからいいが、そんなにベタベタしてたら結婚してるってばれるだろ」
素早く離れると、かなみは両手を耳にあて、赤い顔で口を開いた。
「う、うぅー。ベタベタなんてしてないもんっ! ていうか、耳弱いの知ってるくせにふーふー息吹きかけるなっ!」
「そんなつもり毛頭ねぇよ……」
ぺこぽこ弱い攻撃をあしらいながら、小さくため息。そもそも、ばれると面倒くさいことになるから結婚していることを隠そうと言い出したのはかなみからだったのに、実際にばれる原因を作っているのはコイツ。納得がいかない。
「むー。あによ、人の顔をじーっと見て」
「でもまあ、惚れた弱みって奴か。しょうがない」
「そっ、そゆこといきなり言うなっ! 反則! ばか!」
突然かなみは顔を真っ赤にして、再び俺をぺこぽこ叩いた。
「痛い痛い。叩くねい」
「むー……そ、それよりさ。今日はもう学校さぼって家に帰っちゃわない? 授業とか面倒でしょ?」
「いきなり何言ってんだ」
「そ、そしたらちゅーとかいっぱいできるし……」
「…………」
「しっ、したいってことじゃなくてさ!? アンタがしたいんじゃないかって思っただけで!」
「学校行ってる間くらいは我慢できます」
「で、でも、他にも抱っことかなでなでとかもできないんだよ? 発狂しちゃわない?」
「お前は人を何だと思ってんだ……」
「色魔」
かなみにした色々を思い出すに、簡単に否定できない。結婚した後でなければ絶対確実に捕まっている。
「……な、何を赤くなってんのよ、えろまじん」
「貧乳には無限の可能性が眠っていることを思い出しただけだ」
「どえろまじん!!!!!」
そしてかなみも自分がされた色々を思い出したのだろう、超真っ赤になった。
「ううううう……正直、結婚するまでアンタがあそこまでえっちだと思いもしなかったわ」
「まだ全然全力出してませんよ?」
「えええええっ!? えっ、でも毎日一緒にお風呂入ってぺろぺろちゅーちゅーされてるよ!? なのにまだ全力じゃないの!?」
「声がでけえ上に発言がヤバすぎる!」
つむじをぐりぐりぐりーっとして注意する。興奮しすぎだ。
「うにゅぐ……う、うるさいっ! そもそも、アンタが変なこと言うからっ! 全部アンタのせいっ! えっちえっちえっち!」
「何て責任転嫁だ」
げしげしと足を蹴られながら呟く。まあ、こいつを嫁にした時点で受け入れてるからいいんだけど。
「こほん。ともかく、学校をサボるのはダメ。お前も夫がダメ人間になるのを見たくないだろ」
「もー既にダメ人間じゃない」
「そんな説もある」
「あははっ。……でもま、一緒にいたげるけどね。宣言しちゃったもんね、健やかなる時も病める時も、ってね?」
「お前は本当に隠す気があるのか」
得意げにウインクしてるかなみの頭をわしわしっとなでる。なんかもうこいつが俺の隣にいるのが嬉しくて仕方がない。
「い、今は周りに誰もいないからいいんだもん。で、でも学校着いたらベタベタ禁止だからね。ベタベタしたら怒るからね。晩ご飯のおかず一品減らしちゃうからね」
「おかずが減るのは辛いな。分かった、ベタベタせずにふにふにする」
「擬音変えたらいいって話じゃないっ! こら、言ってる傍からふにふにするなーっ!」
ぷりぷり怒りながらも、ほっぺをふにふにされてどこか嬉しそうなかなみだった。
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【ホワイトデー かなみ】
2011年03月17日
今日はホワイトデーだ。何をお返しすればいいのか色々調べたのだけど、結局よく分からなかったので何も用意していない俺を君は責めるか。
「責めるわよッ!」
というようなことをチョコレートをくれた女性であるところのかなみに伝えると、超怒られた。
「どういうことよ!?」
「や、だからさっき説明したとおりのことで」
「別にそんな高いのじゃなくてもいいわよ?」
「まず値段を気にするのですね」
いっぱい殴られた。
「痛いのですが」
「うっさい! いーから今日の放課後一緒に買い物行くわよ!」
「いや、めんどくさいし別にいいよ。かなみにはなんかそこらの石とか贈るよ。あいつ結構馬鹿だから隕石とか適当言ったら喜ぶに違いないよ」
「その石で動けなくなるまで殴られたくなかったら来い」
「はい」(ガクガク震えながら)
そんなわけで、放課後かなみと一緒に街まで出てきた。いつもの調子でエロゲ屋に入ろうとしたら、首根っこを掴まれた。
「学生服でどこに入ろうとしてるかっ!」
「ああ、これは失敬」(ぬぎぬぎ)
「服を脱げばいいって話じゃないっ! 今日は私の用事でしょ!」
「待って待って引っ張らないでズボンがズボンが脱げたままです!」
下半身の防具がパンツだけという恥ずかしい状態で連れて来られたのは、なんだか高そうな貴金属が並んでいるお店の前。
「ほら、入るわよ」
「あのさ、かなみ。お前が俺の懐事情を知らないのを加味したとしても、無理なの分かるだろ」
必死でズボンをはき直しながらかなみを説得する。こんなもん絶対無理だ。
「何よ、情けないわねぇ……大丈夫よ、見るだけだから」
「そうか? それならまあいいが……」
戦々恐々しながら店内に入る。店員のいらっしゃいませ、という声に過敏に反応してしまう俺はどこまでいっても小市民だ。
そんな俺を引っ張り、かなみはリングが並んでいるコーナーへ向かった。
「へぇ、値段の割に結構いいじゃない」
かなみの後ろから値札を見る。なんかいっぱい0が並んでる!
「数字だけで脂汗がにじみ出てきた」
「寄るなっ!」
誰が連れてきたんだ、誰が。
「ったく、これくらい軽く買うくらいの甲斐性ないの?」
「ただの学生に無茶を言うな。俺に買えるのはせいぜいこっちだ」
高級リング類の隣に、0が一つ少ない指輪を売ってるコーナーがある。そこの指輪をひとつ手に取り、かなみの指にはめる。
「え、え!?」
「うん、似合うんじゃないか?」
「で、でも、あの、あのね? ……き、気づいてない?」
「うん?」
「……ひ、ひだりて」
俺がはめた指輪は、かなみの左手、それも悪いことに、薬指にはまってます。
「おおぉおおお!?」
「……ぷ、ぷろぽーず?」
「違う違いますまだ早いです!」
「ま、まだ!?」
混乱するのも分かるが落ち着け俺。深呼吸だ。すーはーすーはーすーはー。
「……ふぅ落ち着いた」
しかし、かなみはまだ落ち着いてないようで、顔を真っ赤にしたまま、どこか陶然とした表情で指輪を見つめている。
「…………」
「ああっ! 何すんのよ!」
無言で指輪を抜き取り、今度は右手の薬指にはめる。
「こっちな、こっち」
「あ、う、うん。……買ってくれるの?」
「このくらいの値段ならなんとかいけるので。そりとも他のがいいか?」
「ううんっ、ううんっ! これがいいっ!」
「そ、そか」
あまりの勢いに少し驚きながらも、何やら超ご機嫌な様子なので特に何も言わないでおく。そんなわけでレジで清算して店から出る。
「へへー。……ふへへー」
それからもかなみは手を透かして指輪を見てはニヤニヤしているので一寸怖い。
「超嬉しそうですね」
「だっ!? だ、誰が嬉しそうだってのよ、誰が! あ、アンタなんかからのお返しなんだから、嬉しくなんてないんだからっ! アンタの財布に大ダメージを与えたのが嬉しいのっ!」
「なんて歪んだ奴だ。まあどっちにしろ、お前が嬉しいならそれでいいや」
「う……な、何よ! そんなこと言われても、感謝とかしないんだからっ!」
「元よりお返しだ、感謝される覚えはない」
「う……ううーっ!」
「頬を引っ張るな」
なんだか俺の頬は誰かに引っ張られがちです。
「ふぅ。……あのさ」
しばらくぎうぎう引っ張って満足したのか、かなみは俺の隣を歩きつつ、目だけをこちらに向けて呟いた。
「……そ、その。アンタの財布にさ、いっぱいダメージ与えたからさ、いっぱい悲しいでしょ?」
「や、一万円いかなかったし、これくらいは覚悟してたから大丈夫」
「いっぱい悲しいでしょ!?」
「はい」
明らかに勢いで押されたが、そうしないと進まない感じだったので肯定しておく。
「でしょ? だ、だからさ。特別にさ。……て、手、繋いだげる」
「はい?」
「とっ、特別なのっ! こういう機会でもないとアンタ一生誰とも手なんて繋げないだろうしっ!」
「や、まあ、それは否定できないけど……」
「だ、だから繋いだげる。お金の分ね、その分ね。それ以外の理由なんてないし」
「はぁ」
「……そ、それとも、この私が相手なのに、不満だって言うの?」
どこか不安げな眼差しが俺に注がれる。何て顔してんだ、この娘は。
「……ああ、不満だな」
「……そ、そか。そなんだ」
「お前が俺に断られるかもしれない、なんて思ってるだなんてな」
意地悪く笑いながら、素早く手を繋ぐ。
「…………」
「いやはや、あんなモテ台詞を言う羽目になるとは。超恥ずかしいですね」
「……う、うぅーっ!」(ふにふに)
かなみは突然俺の腕に抱きつくと、わっさわさと俺の腕に顔をこすりつけた。
「な、何!?」
「うー……うっさい! アンタがかっこつけた言い回しするから! 普通に手を繋ぎたいって言ったらよかったのに!」
噛み付くような言葉とは裏腹に、かなみの顔はこれ以上ないくらい赤かった。
「あー……いやあ、こういう時くらい調子に乗りたいじゃないですか」
「アンタが調子に乗っていい時なんてないの!」
「酷い話だ」
そう言われながら何度も手をにぎにぎされ、知らず頬が緩む。
「に、ニヤニヤするな! へんたい!」
「しょうがないだろ、変態なんだから。ていうか、お前が手を握るだけじゃなくてにぎにぎなんてするからニヤニヤしちまうんだよ」
「アンタの手を握りつぶそうとしてるの!」
「なんて無茶な言い訳だ。ところで、もうちょっと色々回りたいのですが、よろしいですかね?」
「え? いいけど……何か買う物でもあるの?」
「いや、デートだし。沢山かなみといたいし」
「でっ、デートじゃない! デートじゃないもん! ホワイトデーのお返しを一緒に買いに来ただけ!」
「手を繋いでデートじゃないとかなみは言い張る」
「……お、お礼。これはお礼だからいいの」
「そんな些細なことさえデートの記憶にしてしまう俺は凄い」
「で、デートデートうるさいっ! 違うからっ! 絶対デートなんかじゃないからっ!」
「そうなのにゃー?」
「そうなのにゃー! ……って、変なこと言わせるなっ!」
「うわ、この娘超可愛い」(なでなで)
「頭なでるなーっ!」
もぎゃもぎゃ言われたが、デートを続行できたので、大変楽しかったです。
「責めるわよッ!」
というようなことをチョコレートをくれた女性であるところのかなみに伝えると、超怒られた。
「どういうことよ!?」
「や、だからさっき説明したとおりのことで」
「別にそんな高いのじゃなくてもいいわよ?」
「まず値段を気にするのですね」
いっぱい殴られた。
「痛いのですが」
「うっさい! いーから今日の放課後一緒に買い物行くわよ!」
「いや、めんどくさいし別にいいよ。かなみにはなんかそこらの石とか贈るよ。あいつ結構馬鹿だから隕石とか適当言ったら喜ぶに違いないよ」
「その石で動けなくなるまで殴られたくなかったら来い」
「はい」(ガクガク震えながら)
そんなわけで、放課後かなみと一緒に街まで出てきた。いつもの調子でエロゲ屋に入ろうとしたら、首根っこを掴まれた。
「学生服でどこに入ろうとしてるかっ!」
「ああ、これは失敬」(ぬぎぬぎ)
「服を脱げばいいって話じゃないっ! 今日は私の用事でしょ!」
「待って待って引っ張らないでズボンがズボンが脱げたままです!」
下半身の防具がパンツだけという恥ずかしい状態で連れて来られたのは、なんだか高そうな貴金属が並んでいるお店の前。
「ほら、入るわよ」
「あのさ、かなみ。お前が俺の懐事情を知らないのを加味したとしても、無理なの分かるだろ」
必死でズボンをはき直しながらかなみを説得する。こんなもん絶対無理だ。
「何よ、情けないわねぇ……大丈夫よ、見るだけだから」
「そうか? それならまあいいが……」
戦々恐々しながら店内に入る。店員のいらっしゃいませ、という声に過敏に反応してしまう俺はどこまでいっても小市民だ。
そんな俺を引っ張り、かなみはリングが並んでいるコーナーへ向かった。
「へぇ、値段の割に結構いいじゃない」
かなみの後ろから値札を見る。なんかいっぱい0が並んでる!
「数字だけで脂汗がにじみ出てきた」
「寄るなっ!」
誰が連れてきたんだ、誰が。
「ったく、これくらい軽く買うくらいの甲斐性ないの?」
「ただの学生に無茶を言うな。俺に買えるのはせいぜいこっちだ」
高級リング類の隣に、0が一つ少ない指輪を売ってるコーナーがある。そこの指輪をひとつ手に取り、かなみの指にはめる。
「え、え!?」
「うん、似合うんじゃないか?」
「で、でも、あの、あのね? ……き、気づいてない?」
「うん?」
「……ひ、ひだりて」
俺がはめた指輪は、かなみの左手、それも悪いことに、薬指にはまってます。
「おおぉおおお!?」
「……ぷ、ぷろぽーず?」
「違う違いますまだ早いです!」
「ま、まだ!?」
混乱するのも分かるが落ち着け俺。深呼吸だ。すーはーすーはーすーはー。
「……ふぅ落ち着いた」
しかし、かなみはまだ落ち着いてないようで、顔を真っ赤にしたまま、どこか陶然とした表情で指輪を見つめている。
「…………」
「ああっ! 何すんのよ!」
無言で指輪を抜き取り、今度は右手の薬指にはめる。
「こっちな、こっち」
「あ、う、うん。……買ってくれるの?」
「このくらいの値段ならなんとかいけるので。そりとも他のがいいか?」
「ううんっ、ううんっ! これがいいっ!」
「そ、そか」
あまりの勢いに少し驚きながらも、何やら超ご機嫌な様子なので特に何も言わないでおく。そんなわけでレジで清算して店から出る。
「へへー。……ふへへー」
それからもかなみは手を透かして指輪を見てはニヤニヤしているので一寸怖い。
「超嬉しそうですね」
「だっ!? だ、誰が嬉しそうだってのよ、誰が! あ、アンタなんかからのお返しなんだから、嬉しくなんてないんだからっ! アンタの財布に大ダメージを与えたのが嬉しいのっ!」
「なんて歪んだ奴だ。まあどっちにしろ、お前が嬉しいならそれでいいや」
「う……な、何よ! そんなこと言われても、感謝とかしないんだからっ!」
「元よりお返しだ、感謝される覚えはない」
「う……ううーっ!」
「頬を引っ張るな」
なんだか俺の頬は誰かに引っ張られがちです。
「ふぅ。……あのさ」
しばらくぎうぎう引っ張って満足したのか、かなみは俺の隣を歩きつつ、目だけをこちらに向けて呟いた。
「……そ、その。アンタの財布にさ、いっぱいダメージ与えたからさ、いっぱい悲しいでしょ?」
「や、一万円いかなかったし、これくらいは覚悟してたから大丈夫」
「いっぱい悲しいでしょ!?」
「はい」
明らかに勢いで押されたが、そうしないと進まない感じだったので肯定しておく。
「でしょ? だ、だからさ。特別にさ。……て、手、繋いだげる」
「はい?」
「とっ、特別なのっ! こういう機会でもないとアンタ一生誰とも手なんて繋げないだろうしっ!」
「や、まあ、それは否定できないけど……」
「だ、だから繋いだげる。お金の分ね、その分ね。それ以外の理由なんてないし」
「はぁ」
「……そ、それとも、この私が相手なのに、不満だって言うの?」
どこか不安げな眼差しが俺に注がれる。何て顔してんだ、この娘は。
「……ああ、不満だな」
「……そ、そか。そなんだ」
「お前が俺に断られるかもしれない、なんて思ってるだなんてな」
意地悪く笑いながら、素早く手を繋ぐ。
「…………」
「いやはや、あんなモテ台詞を言う羽目になるとは。超恥ずかしいですね」
「……う、うぅーっ!」(ふにふに)
かなみは突然俺の腕に抱きつくと、わっさわさと俺の腕に顔をこすりつけた。
「な、何!?」
「うー……うっさい! アンタがかっこつけた言い回しするから! 普通に手を繋ぎたいって言ったらよかったのに!」
噛み付くような言葉とは裏腹に、かなみの顔はこれ以上ないくらい赤かった。
「あー……いやあ、こういう時くらい調子に乗りたいじゃないですか」
「アンタが調子に乗っていい時なんてないの!」
「酷い話だ」
そう言われながら何度も手をにぎにぎされ、知らず頬が緩む。
「に、ニヤニヤするな! へんたい!」
「しょうがないだろ、変態なんだから。ていうか、お前が手を握るだけじゃなくてにぎにぎなんてするからニヤニヤしちまうんだよ」
「アンタの手を握りつぶそうとしてるの!」
「なんて無茶な言い訳だ。ところで、もうちょっと色々回りたいのですが、よろしいですかね?」
「え? いいけど……何か買う物でもあるの?」
「いや、デートだし。沢山かなみといたいし」
「でっ、デートじゃない! デートじゃないもん! ホワイトデーのお返しを一緒に買いに来ただけ!」
「手を繋いでデートじゃないとかなみは言い張る」
「……お、お礼。これはお礼だからいいの」
「そんな些細なことさえデートの記憶にしてしまう俺は凄い」
「で、デートデートうるさいっ! 違うからっ! 絶対デートなんかじゃないからっ!」
「そうなのにゃー?」
「そうなのにゃー! ……って、変なこと言わせるなっ!」
「うわ、この娘超可愛い」(なでなで)
「頭なでるなーっ!」
もぎゃもぎゃ言われたが、デートを続行できたので、大変楽しかったです。
【バレンタインに豆を浴びせてくるツンデレ】
2011年02月15日
登校するなり豆を浴びせられ俺はもう一体どうすれば。
「今日は節分じゃないですよ?」
「うっさい、ばーか! 来るの遅いのよ!」
そう言いながら依然俺に豆をぶつけ続けるかなみさん。酷い。
「いつも通りの登校時間なのですが」
「バレンタインデーなんだから、アンタみたいな勘違い男は早く来てソワソワしてたらいいの!」
「や、それがね、お前の言う通り登校中はチョコ何個貰えるかなあ、とか思ってたんですが、途中でふと我に返り、もらえるわけねえかとなり生きるのを諦めかけてたんだ。それでもどうにか登校した俺を褒めろ」
「ばーか」
褒められるどころか、馬鹿にされた。
「バレンタインデーにチョコではなく豆を配る奴に馬鹿呼ばわりされしたくないな」
「うっさい! アンタなんか豆で充分よ、ばーか!」
などと言いながら、なおも俺に豆をぶつけるかなみ。なんて酷い奴だ、許せない!
「くそぅ、こうなったら豆が地面に落ちるより早く口の中に入れて滋養にしてやる!」
酸素不足の金魚みたいに口をぱくぱくさせたが、その様子を見たかなみが嫌そうな顔をしてもう豆を投げてくれなかったので、結果そこには変な金魚がいるだけになりました。
「……恥ずかしいじゃないか」
居住まいを正すが、居心地の悪さはとんでもない。周囲のクラスメイトがこちらをちらちら見ながら何かひそひそ言い合ってるし。
「知らないわよ!」
「まあいいや。それよりチョコおくれ、チョコ。義理でいいから」
「アンタなんかにあげるわけないでしょ、ばーか」
「じゃあもう本命でもいいから」
「なんで本命の方が下の扱いなのよっ!」
叱られる&豆を投げられるばかりで一向にチョコが手に入らない。まあ、ダメ元で頼んでるし、しょうがないか。
などと自分を納得させていると、先生がやってきてこの豆はなんだと言う。
「コイツが投げてました」
あろうことか、かなみの奴が俺のせいにした。俺も必死に反論したが、クラスメイトが一丸になって俺のせいにする。普段の行いがこういうところで出るよね。敗訴。
そんな悲しい時間を過ごしてると、もう放課後。
「……あー、まあ、こんなもんだわな」
収穫0。しょうがないとはいえ、やっぱ悲しいね。
まあないものねだりをしてもは仕方ない。家に帰って不貞寝するかと思いつつ鞄に教科書を詰めてると、不意にかなみが教室に戻ってきた。先に帰ったと思ったのだけど……?
「な、何一人で居残りしてるのよ。まさか誰かにチョコもらえるかもとか思って残ってたの? 気持ち悪いわねー」
「気持ち悪い言うない。じゃなくて、朝の豆事件の責任を被らされ、さっきまで一人で掃除してたんだよ。分かったか真犯人」
「私は普段から品行方正に生きてるから、先生の覚えがいいの。アンタとちょうど真逆ね?」
「よくもまあいけしゃあしゃあと……帰ってから想像の中で3回くらい犯してやる」
「変態っ!」
俺の思想はよく弾圧されます。
「まったく……でも、なんで掃除サボらなかったの? 私が言うのもなんだけど、アンタが豆まいたんじゃないのに」
「教室が汚いままだと明日みんなが嫌がるかも、と偽善者精神をフル回転させた」
「ぎ……あ、先に言った! ずるい!」
「お前の言わんとすることなど、俺にかかればまるっとお見通しだ!」
「……え、えっち」
何がだ。
「そ、それより。アンタ今日は誰かにチョコもらったの?」
「なんかね、女子が男子に渡すシーンはいっぱい見たんですが、その鉢が俺には回ってこないんですよ」
「あははっ、やっぱもらってないんだ?」
「義理でもくれりゃいいと思うんだけどな。うちのクラスの女子はみんな冷たいよ」
「アンタを集団リンチしないだけみんな優しいわよ」
「そこまで目の敵にされてたのか、俺」
「しょっちゅう更衣室で覗きしておいて、よくもまあ嫌われてないと思えるわね……」
毎回見つかるが、それでも未だ停学になってない辺り、俺もなかなかの話術を持っているといえよう。
「覗きで思い出したが、なんでかなみってブラしてるの? 必要か? 絆創膏で充分かと」
「分かった、死ね」
かなみから殺気が質量を伴って一気に噴出した。近辺の犬が一斉に悲鳴とも思える甲高い声を上げる。いかん、死ぬ。
「すいません嘘です凄い巨乳なので絆創膏ではとてもとても!」
「くっ……この、白々しいことを」
「いや、本当に! 一見するとただの平原だが、心の目で見るとそこはもうエベレストもかくやと思えるほどの山がそびえ立っているという噂が!」
「結局見た目はうすぺたいって言ってるじゃない!」
「おお、本当だ。はっはっは。でもまあいいじゃん、俺貧乳大好きだし」
「あっ、アンタの好みなんて知らないわよ! ばーかばーかばーか!」
「痛い痛い痛い」
いっぱい殴られたが、普段の生存を諦めそうになる暴力と違い、なんかちょっと手加減してる感じだった。いやそれでも充分痛いですが!
「そ、それより。話を戻すけど。……チョコの話だけど」
「ああ、はあ。まだ馬鹿にし足りないのか」
「そ、そじゃなくて! ……え、えと」
何か言いづらいことでもあるのか、かなみは髪をいじくりながら視線をさまよわせた。
……む、何やら空気が変貌を。さっきまでの血で血を洗う戦場空気はどこへやら、何やら青春っぽい雰囲気が!
「ち、チョコ。……えっと、えと、あの。……ち、チョコ」
視線が俺の顔に来たかと思えば、胸元に行ったり腰に行ったり忙しない。かと思えば、なんかどんどんかなみの顔が赤くなっていってるし。
「は、はい」
いかん、なんか俺まで緊張してきた。呼吸ってどうやるんだっけ!?
「あ、あの、あのね。ぎ、義理。そう、義理なの。義理だからいいの」
「は、はい。いや全くその通りで?」
「だ、だから、いる?」
「はい?」
「だ、だから。チョコ!」
「は、はい!」
「ぎ、義理だから。絶対義理だから。アンタに本命なんてありえないから。勘違いしたらぶっ殺すから」
「こんな可愛いらしい殺意ぶつけられたの初めてだ」
「い、いーから受け取りなさい!」
「へぎゅっ」
鼻っ柱になんかぶつけられた。
「いたた……あ、これ」
俺の鼻に押し付けられていたのは、可愛くラッピングされた箱だった。
「義理だから! 絶対に義理だから! 中にも義理って書いてるから! ハート型のチョコ真ん中で割って失恋を意味してるから!」
「悪意しか感じられねえ」
「悪意てんこもりだから! 毒入りだから!」
「食べられません」
「食べないと殺すから!」
知らない間にDEAD ENDルートに入ってたようだ。どっちにしても死ぬ。
「しょうがない。どうせ死ぬなら食って死のう」
「そ、それがいい。食べて死んで」
かなみは俺の隣の席に座り、真剣な表情でこちらを見つめている。視線を感じながらピンク色の包装をぺりぺりと破ると、両手で収まるほどの大きさの箱が姿を現した。なるほどハート型だが、これを開けると亀裂があるのだなあ。
そう思いながら蓋を取ると、本来あるはずの亀裂がない。しかも、義理とも書いてない。これはどういうことかとかなみを見ると、
「あ、わ、割るの忘れてたし、義理って書くのも忘れてた」
なんて、あわあわしながら棒読みで読み上げる始末。
「……な、何よ。文句あるなら言いなさいよ!」
「勘違いしてもよろしいか?」
「だ、ダメに決まってるでしょ! ばか、ばーか!」
「痛い痛い痛い」
またしてもぺこぽこ殴られた。
「ほ、ほら。いーから早く食べなさいよ、ばか」
「あ、うん。ちなみに、毒は?」
「入ってる。食べたら死ぬ」
「なるほど」
ということで、一口かじる。大変甘くておいしい。
「ど、どう? おいしい? 死ぬ?」
「ふむ。おいしいけど、死なない」
「あ、え、えっと、毒入れるの忘れてた。残念、それただの義理チョコね」
「しかも、亀裂も義理って入れるのも忘れてるから、俺に本命チョコと勘違いされ、喜ばれる始末」
「……め、迷惑よね。ちょー迷惑よね」
気づいてるのかどうか知らないが、かなみの口角が吊りあがってる。なんかすっげー嬉しそう。言うと怒られそうだが。でも言いたいなあ。
「かなみ、ニコニコしてる」
欲求に耐え切れず、口から言葉がこぼれる。
「わ、笑ってないわよ! こ、こっち見るな、ばかっ! 変態っ!」
「はっはっは。あのさ、かなみ。ホワイトデー、覚悟しろよ」
「う……」
「俺は勘違いする変態なんでな。義理チョコを本命と勘違いし、全力でお返しするからな?」
「う……うっさい! ばか! 死ね! 全力で死ね! 笑うな! ばかーっ!」
などと酷いことを言いながら、真っ赤な顔で俺をぺこぽこ叩くかなみだった。
「今日は節分じゃないですよ?」
「うっさい、ばーか! 来るの遅いのよ!」
そう言いながら依然俺に豆をぶつけ続けるかなみさん。酷い。
「いつも通りの登校時間なのですが」
「バレンタインデーなんだから、アンタみたいな勘違い男は早く来てソワソワしてたらいいの!」
「や、それがね、お前の言う通り登校中はチョコ何個貰えるかなあ、とか思ってたんですが、途中でふと我に返り、もらえるわけねえかとなり生きるのを諦めかけてたんだ。それでもどうにか登校した俺を褒めろ」
「ばーか」
褒められるどころか、馬鹿にされた。
「バレンタインデーにチョコではなく豆を配る奴に馬鹿呼ばわりされしたくないな」
「うっさい! アンタなんか豆で充分よ、ばーか!」
などと言いながら、なおも俺に豆をぶつけるかなみ。なんて酷い奴だ、許せない!
「くそぅ、こうなったら豆が地面に落ちるより早く口の中に入れて滋養にしてやる!」
酸素不足の金魚みたいに口をぱくぱくさせたが、その様子を見たかなみが嫌そうな顔をしてもう豆を投げてくれなかったので、結果そこには変な金魚がいるだけになりました。
「……恥ずかしいじゃないか」
居住まいを正すが、居心地の悪さはとんでもない。周囲のクラスメイトがこちらをちらちら見ながら何かひそひそ言い合ってるし。
「知らないわよ!」
「まあいいや。それよりチョコおくれ、チョコ。義理でいいから」
「アンタなんかにあげるわけないでしょ、ばーか」
「じゃあもう本命でもいいから」
「なんで本命の方が下の扱いなのよっ!」
叱られる&豆を投げられるばかりで一向にチョコが手に入らない。まあ、ダメ元で頼んでるし、しょうがないか。
などと自分を納得させていると、先生がやってきてこの豆はなんだと言う。
「コイツが投げてました」
あろうことか、かなみの奴が俺のせいにした。俺も必死に反論したが、クラスメイトが一丸になって俺のせいにする。普段の行いがこういうところで出るよね。敗訴。
そんな悲しい時間を過ごしてると、もう放課後。
「……あー、まあ、こんなもんだわな」
収穫0。しょうがないとはいえ、やっぱ悲しいね。
まあないものねだりをしてもは仕方ない。家に帰って不貞寝するかと思いつつ鞄に教科書を詰めてると、不意にかなみが教室に戻ってきた。先に帰ったと思ったのだけど……?
「な、何一人で居残りしてるのよ。まさか誰かにチョコもらえるかもとか思って残ってたの? 気持ち悪いわねー」
「気持ち悪い言うない。じゃなくて、朝の豆事件の責任を被らされ、さっきまで一人で掃除してたんだよ。分かったか真犯人」
「私は普段から品行方正に生きてるから、先生の覚えがいいの。アンタとちょうど真逆ね?」
「よくもまあいけしゃあしゃあと……帰ってから想像の中で3回くらい犯してやる」
「変態っ!」
俺の思想はよく弾圧されます。
「まったく……でも、なんで掃除サボらなかったの? 私が言うのもなんだけど、アンタが豆まいたんじゃないのに」
「教室が汚いままだと明日みんなが嫌がるかも、と偽善者精神をフル回転させた」
「ぎ……あ、先に言った! ずるい!」
「お前の言わんとすることなど、俺にかかればまるっとお見通しだ!」
「……え、えっち」
何がだ。
「そ、それより。アンタ今日は誰かにチョコもらったの?」
「なんかね、女子が男子に渡すシーンはいっぱい見たんですが、その鉢が俺には回ってこないんですよ」
「あははっ、やっぱもらってないんだ?」
「義理でもくれりゃいいと思うんだけどな。うちのクラスの女子はみんな冷たいよ」
「アンタを集団リンチしないだけみんな優しいわよ」
「そこまで目の敵にされてたのか、俺」
「しょっちゅう更衣室で覗きしておいて、よくもまあ嫌われてないと思えるわね……」
毎回見つかるが、それでも未だ停学になってない辺り、俺もなかなかの話術を持っているといえよう。
「覗きで思い出したが、なんでかなみってブラしてるの? 必要か? 絆創膏で充分かと」
「分かった、死ね」
かなみから殺気が質量を伴って一気に噴出した。近辺の犬が一斉に悲鳴とも思える甲高い声を上げる。いかん、死ぬ。
「すいません嘘です凄い巨乳なので絆創膏ではとてもとても!」
「くっ……この、白々しいことを」
「いや、本当に! 一見するとただの平原だが、心の目で見るとそこはもうエベレストもかくやと思えるほどの山がそびえ立っているという噂が!」
「結局見た目はうすぺたいって言ってるじゃない!」
「おお、本当だ。はっはっは。でもまあいいじゃん、俺貧乳大好きだし」
「あっ、アンタの好みなんて知らないわよ! ばーかばーかばーか!」
「痛い痛い痛い」
いっぱい殴られたが、普段の生存を諦めそうになる暴力と違い、なんかちょっと手加減してる感じだった。いやそれでも充分痛いですが!
「そ、それより。話を戻すけど。……チョコの話だけど」
「ああ、はあ。まだ馬鹿にし足りないのか」
「そ、そじゃなくて! ……え、えと」
何か言いづらいことでもあるのか、かなみは髪をいじくりながら視線をさまよわせた。
……む、何やら空気が変貌を。さっきまでの血で血を洗う戦場空気はどこへやら、何やら青春っぽい雰囲気が!
「ち、チョコ。……えっと、えと、あの。……ち、チョコ」
視線が俺の顔に来たかと思えば、胸元に行ったり腰に行ったり忙しない。かと思えば、なんかどんどんかなみの顔が赤くなっていってるし。
「は、はい」
いかん、なんか俺まで緊張してきた。呼吸ってどうやるんだっけ!?
「あ、あの、あのね。ぎ、義理。そう、義理なの。義理だからいいの」
「は、はい。いや全くその通りで?」
「だ、だから、いる?」
「はい?」
「だ、だから。チョコ!」
「は、はい!」
「ぎ、義理だから。絶対義理だから。アンタに本命なんてありえないから。勘違いしたらぶっ殺すから」
「こんな可愛いらしい殺意ぶつけられたの初めてだ」
「い、いーから受け取りなさい!」
「へぎゅっ」
鼻っ柱になんかぶつけられた。
「いたた……あ、これ」
俺の鼻に押し付けられていたのは、可愛くラッピングされた箱だった。
「義理だから! 絶対に義理だから! 中にも義理って書いてるから! ハート型のチョコ真ん中で割って失恋を意味してるから!」
「悪意しか感じられねえ」
「悪意てんこもりだから! 毒入りだから!」
「食べられません」
「食べないと殺すから!」
知らない間にDEAD ENDルートに入ってたようだ。どっちにしても死ぬ。
「しょうがない。どうせ死ぬなら食って死のう」
「そ、それがいい。食べて死んで」
かなみは俺の隣の席に座り、真剣な表情でこちらを見つめている。視線を感じながらピンク色の包装をぺりぺりと破ると、両手で収まるほどの大きさの箱が姿を現した。なるほどハート型だが、これを開けると亀裂があるのだなあ。
そう思いながら蓋を取ると、本来あるはずの亀裂がない。しかも、義理とも書いてない。これはどういうことかとかなみを見ると、
「あ、わ、割るの忘れてたし、義理って書くのも忘れてた」
なんて、あわあわしながら棒読みで読み上げる始末。
「……な、何よ。文句あるなら言いなさいよ!」
「勘違いしてもよろしいか?」
「だ、ダメに決まってるでしょ! ばか、ばーか!」
「痛い痛い痛い」
またしてもぺこぽこ殴られた。
「ほ、ほら。いーから早く食べなさいよ、ばか」
「あ、うん。ちなみに、毒は?」
「入ってる。食べたら死ぬ」
「なるほど」
ということで、一口かじる。大変甘くておいしい。
「ど、どう? おいしい? 死ぬ?」
「ふむ。おいしいけど、死なない」
「あ、え、えっと、毒入れるの忘れてた。残念、それただの義理チョコね」
「しかも、亀裂も義理って入れるのも忘れてるから、俺に本命チョコと勘違いされ、喜ばれる始末」
「……め、迷惑よね。ちょー迷惑よね」
気づいてるのかどうか知らないが、かなみの口角が吊りあがってる。なんかすっげー嬉しそう。言うと怒られそうだが。でも言いたいなあ。
「かなみ、ニコニコしてる」
欲求に耐え切れず、口から言葉がこぼれる。
「わ、笑ってないわよ! こ、こっち見るな、ばかっ! 変態っ!」
「はっはっは。あのさ、かなみ。ホワイトデー、覚悟しろよ」
「う……」
「俺は勘違いする変態なんでな。義理チョコを本命と勘違いし、全力でお返しするからな?」
「う……うっさい! ばか! 死ね! 全力で死ね! 笑うな! ばかーっ!」
などと酷いことを言いながら、真っ赤な顔で俺をぺこぽこ叩くかなみだった。
【牛 安楽椅子 ブラウザ】
2011年02月06日
いつも通りの朝だってのに、突然みことが牛に乗って教室に入ってきて、そのうえ牛がぶもーぶもーと超興奮して跳ね回ってるもんだから、教室内ちょっとした阿鼻叫喚を呈しています。
「ええい、落ち着け! 大人しくしろ!」
馬上ならぬ牛上のみことが必死にしがみ付きながらそんなことを叫んでいるので、何らかの事情でこうなったと把握。
とはいえ巻き込まれると大変そうだし面倒だから混乱に乗じてそーっと後ろのドアから逃げようとしたら、ばっつりみことと目が合った。
「貴様っ、私を置いて一人で逃げるつもりか! 見損なったぞ!」
「いやいや、何を言いますか。図書室まで行ってパソコンを立ち上げ、ブラウザで『牛 暴走 教室』と検索し、解決策を探ろうとしていたんだ」
「インターネットは万能ではないッ! そんなことより、早くどうにかしろ!」
「まあ落ち着け。よっこいしょっと」
安楽椅子ではないのが残念だが、近くに落ちてた椅子に腰掛け一服。どんな時でも冷静であれ、という自身のポリシーに則って行動する俺かっこいい。
「こっ、こら、何を落ち着いている!? ああっ、あああああっ!?」
自分に酔ってたら牛に突撃され、ぱひゅーんってすっ飛びながら気絶。
「……むーん。……む?」
目が覚めた。鼻につく薬品の匂い……保健室か?
「やっと起きたか。いつまで気絶してたら気が済むんだ。全く、男のくせにだらしない奴だ」
「お?」
声に視線を向けると、さっきまで牛の上にいた変な人が今度はベッドの横のパイプ椅子に座ってます。しかし、牛の姿はもうない。
「牛は? どうなったんだ?」
「どうにか処理した」
腰元にある刀を小さく揺らし、みことは何でもないように言った。
「超怖いですね。ていうか普通に持ってるが、学生が帯刀なんかしていいの?」
「ぐだぐだ抜かすな。下ろすぞ」
「卸さないで!」
「漢字が違うぞ! どこの酔狂な者が貴様なんぞを買い取ると言うのだ!」
なぜ分かる。
「ていうかだな、みことよ。あの牛はなんだったんだ? なんだって牛にまたがり登校なんてエキセントリックなマネを?」
「そっ、それはその、だな……」
俺の質問に、突然みことはもじもじしだした。
「そっ、そんなことより腹は空かんか? 貴様は気絶していたので知らんだろうが、もう昼だぞ?」
「む」
言われてみると確かに少し腹が減っているような。そして時計を見るに、昼休みも半ばを過ぎている。
「そうな。んじゃ、ちょっと購買行ってくる。とはいえ、この時間だと大したものは残ってないだろうけどな」
「そっ、そうか! それは災難だったな!」
「なんか知らんが超嬉しそうだな。しかし甘いぞ、みこと! 俺は既に牛に突撃されて昼まで気絶する、という災難を受けている! この程度の災難、物の数ではない!」
「何をいばっている……?」
それは俺にも分からない。
「そ、それより、購買には大したものがないのだろう?」
「ん、ああ。俺の経験上、この時間だとほぼ売り切れて不人気しか残ってないからな」
「そ、そうか。そ、その、なんだ。貴様がだらしなくも気絶してしまい昼食を摂り損ねてしまった理由の数%は私のせいだからな」
「数%!? え、100%じゃなくて?」
なんか刀を鳴らされたので押し黙る。
「だ、だから、詫びというのもなんだが……こっ、これをやる!」
「ふがっ」
勢いよく差し出された箱が俺の鼻を直撃して超痛え。
「あいたた……えーと、なんだ? ……む、これは、俺の勘違いでなければ」
「い、いいから黙って食え!」
「爆弾?」
「勘違いだった!?」
いいリアクションするなあ。
「嘘だよ。弁当か。でもいいのか? 俺が食っちゃって」
「構わん。私の分は既に平らげた。それは、貴様の分だ」
「俺の? え、わざわざ?」
「かっ、勘違いするなっ! わざわざ作ったのではない! ぐ、偶然いつもより早く目が覚めてしまい、暇だったからついでに作っただけだ!」
「ん~……ん。よし。分かった。ありがとう、みこと」
「だっ、だからわざわざ作ったのではないと言っているだろう!? 感謝するなっ、ばかっ!」
「ではでは、いただきまーす」
包みを解いて蓋を取る。閉める。
「おい。何をしている」
「……ええとね。なんかね。全体的に赤かったんですが」
「ん、ああ。今日の料理は少々赤かったな」
「湯気が立ってたんですよ。ほかほかって」
「下ろしたてだからな」
「もう嫌な予感しかしませんが、今日のおかずは何ですか?」
「牛刺しだ。新鮮だぞ?」
ほらね。やっぱりね。思ったとおりだね。
「もうたぶん絶対そうだと思うんですが、さっきの牛さんがここに?」
「そうに決まってるだろ。家の者には新鮮なものを、とだけ伝えたのだが……よもやそのまま来るとは」
「どうなってんだ、おまえん家」
「しかも、そのうえ家では仕留めきれず、学校まで運ばれてしまう始末。いや、私もまだまだ修行不足だな。もっと精進せねば」
気合を入れ直さなきゃいけないのは、みことではなく俺だろう。だって、食わなきゃいけないんだよ? さっきまでぶもーぶもー言ってたアレを。
「ほら、いいから早く食え。……そ、それとも、あれか? 貴様は私に食べさせてもらわないと食わん、と言うのか?」
「すげぇ道に迷い込んだ」
「よ、よし。私も女だ。やってやる!」
「どこで決心がついた!? いいです、やらないで!」
俺から弁当箱を奪い、みことは蓋を開けた。……すげぇ。弁当というくらいなんだからご飯があるんだろうけど、肉と血で全く見えねえ。
「ほ、ほら。あーんだ」
肉を一つつまむと、みことは俺に箸を向けた。肉から血がぼたぼたこぼれているのがお前には見えないのか。
「もしこの場面がアニメ化されたらカットされると思う」
「うん? よく分からんことを言う奴だな……。ほら、あーんだ」
女子のあーん力はかなりのものを誇っていることは知っている。だが、その対象物が血まみれの場合、その力はどうなるのだろう。
「むーん」
「あーんだ! むーんではない! どうして口を閉じる!」
ごめんなさい無理です。せめて血抜きしてほしかったです。
「どうして口を開けない。……ま、まさか、口移しをしてほしいのか!?」
いやもう本当勘弁してください。
「う、うう……どこまでえっちなのだ、貴様は。……よ、養護教諭がいないのも、貴様の手なのか?」
知りません。起きたらすでにいませんでした。偶然の二人きりなんです。
「……あ、あむ。んー」
咥えないで! 牛肉を咥えないで!
「んー。ん?」
“ほら?”って顔しないで! ……ええい、えええい、ええええい!
「あむぐあっ!」
「ひゃっ! ……も、もう。乱暴だぞ、ばか」
みことの口に触れないよう細心の注意を払いながら、ひったくる様に肉を奪う。もぐもぐもぐ。あーもう。想像通り血の味しかしねえ。
「もぐもぐごくんっ! ……はぁ。あのな、みこと」
「ど、どうだ? おいしかったか? もうひとつ食べるか?」
「あ、いや、あのな」
「あむっ。んー」
「いや、あの、だからさ」
「ん?」
「……がうっ!」
「んー♪」
ご褒美なのか罰なのか分からない状態に陥りながら、昼休み全部使ってひたすら生肉を食べました。
「ええい、落ち着け! 大人しくしろ!」
馬上ならぬ牛上のみことが必死にしがみ付きながらそんなことを叫んでいるので、何らかの事情でこうなったと把握。
とはいえ巻き込まれると大変そうだし面倒だから混乱に乗じてそーっと後ろのドアから逃げようとしたら、ばっつりみことと目が合った。
「貴様っ、私を置いて一人で逃げるつもりか! 見損なったぞ!」
「いやいや、何を言いますか。図書室まで行ってパソコンを立ち上げ、ブラウザで『牛 暴走 教室』と検索し、解決策を探ろうとしていたんだ」
「インターネットは万能ではないッ! そんなことより、早くどうにかしろ!」
「まあ落ち着け。よっこいしょっと」
安楽椅子ではないのが残念だが、近くに落ちてた椅子に腰掛け一服。どんな時でも冷静であれ、という自身のポリシーに則って行動する俺かっこいい。
「こっ、こら、何を落ち着いている!? ああっ、あああああっ!?」
自分に酔ってたら牛に突撃され、ぱひゅーんってすっ飛びながら気絶。
「……むーん。……む?」
目が覚めた。鼻につく薬品の匂い……保健室か?
「やっと起きたか。いつまで気絶してたら気が済むんだ。全く、男のくせにだらしない奴だ」
「お?」
声に視線を向けると、さっきまで牛の上にいた変な人が今度はベッドの横のパイプ椅子に座ってます。しかし、牛の姿はもうない。
「牛は? どうなったんだ?」
「どうにか処理した」
腰元にある刀を小さく揺らし、みことは何でもないように言った。
「超怖いですね。ていうか普通に持ってるが、学生が帯刀なんかしていいの?」
「ぐだぐだ抜かすな。下ろすぞ」
「卸さないで!」
「漢字が違うぞ! どこの酔狂な者が貴様なんぞを買い取ると言うのだ!」
なぜ分かる。
「ていうかだな、みことよ。あの牛はなんだったんだ? なんだって牛にまたがり登校なんてエキセントリックなマネを?」
「そっ、それはその、だな……」
俺の質問に、突然みことはもじもじしだした。
「そっ、そんなことより腹は空かんか? 貴様は気絶していたので知らんだろうが、もう昼だぞ?」
「む」
言われてみると確かに少し腹が減っているような。そして時計を見るに、昼休みも半ばを過ぎている。
「そうな。んじゃ、ちょっと購買行ってくる。とはいえ、この時間だと大したものは残ってないだろうけどな」
「そっ、そうか! それは災難だったな!」
「なんか知らんが超嬉しそうだな。しかし甘いぞ、みこと! 俺は既に牛に突撃されて昼まで気絶する、という災難を受けている! この程度の災難、物の数ではない!」
「何をいばっている……?」
それは俺にも分からない。
「そ、それより、購買には大したものがないのだろう?」
「ん、ああ。俺の経験上、この時間だとほぼ売り切れて不人気しか残ってないからな」
「そ、そうか。そ、その、なんだ。貴様がだらしなくも気絶してしまい昼食を摂り損ねてしまった理由の数%は私のせいだからな」
「数%!? え、100%じゃなくて?」
なんか刀を鳴らされたので押し黙る。
「だ、だから、詫びというのもなんだが……こっ、これをやる!」
「ふがっ」
勢いよく差し出された箱が俺の鼻を直撃して超痛え。
「あいたた……えーと、なんだ? ……む、これは、俺の勘違いでなければ」
「い、いいから黙って食え!」
「爆弾?」
「勘違いだった!?」
いいリアクションするなあ。
「嘘だよ。弁当か。でもいいのか? 俺が食っちゃって」
「構わん。私の分は既に平らげた。それは、貴様の分だ」
「俺の? え、わざわざ?」
「かっ、勘違いするなっ! わざわざ作ったのではない! ぐ、偶然いつもより早く目が覚めてしまい、暇だったからついでに作っただけだ!」
「ん~……ん。よし。分かった。ありがとう、みこと」
「だっ、だからわざわざ作ったのではないと言っているだろう!? 感謝するなっ、ばかっ!」
「ではでは、いただきまーす」
包みを解いて蓋を取る。閉める。
「おい。何をしている」
「……ええとね。なんかね。全体的に赤かったんですが」
「ん、ああ。今日の料理は少々赤かったな」
「湯気が立ってたんですよ。ほかほかって」
「下ろしたてだからな」
「もう嫌な予感しかしませんが、今日のおかずは何ですか?」
「牛刺しだ。新鮮だぞ?」
ほらね。やっぱりね。思ったとおりだね。
「もうたぶん絶対そうだと思うんですが、さっきの牛さんがここに?」
「そうに決まってるだろ。家の者には新鮮なものを、とだけ伝えたのだが……よもやそのまま来るとは」
「どうなってんだ、おまえん家」
「しかも、そのうえ家では仕留めきれず、学校まで運ばれてしまう始末。いや、私もまだまだ修行不足だな。もっと精進せねば」
気合を入れ直さなきゃいけないのは、みことではなく俺だろう。だって、食わなきゃいけないんだよ? さっきまでぶもーぶもー言ってたアレを。
「ほら、いいから早く食え。……そ、それとも、あれか? 貴様は私に食べさせてもらわないと食わん、と言うのか?」
「すげぇ道に迷い込んだ」
「よ、よし。私も女だ。やってやる!」
「どこで決心がついた!? いいです、やらないで!」
俺から弁当箱を奪い、みことは蓋を開けた。……すげぇ。弁当というくらいなんだからご飯があるんだろうけど、肉と血で全く見えねえ。
「ほ、ほら。あーんだ」
肉を一つつまむと、みことは俺に箸を向けた。肉から血がぼたぼたこぼれているのがお前には見えないのか。
「もしこの場面がアニメ化されたらカットされると思う」
「うん? よく分からんことを言う奴だな……。ほら、あーんだ」
女子のあーん力はかなりのものを誇っていることは知っている。だが、その対象物が血まみれの場合、その力はどうなるのだろう。
「むーん」
「あーんだ! むーんではない! どうして口を閉じる!」
ごめんなさい無理です。せめて血抜きしてほしかったです。
「どうして口を開けない。……ま、まさか、口移しをしてほしいのか!?」
いやもう本当勘弁してください。
「う、うう……どこまでえっちなのだ、貴様は。……よ、養護教諭がいないのも、貴様の手なのか?」
知りません。起きたらすでにいませんでした。偶然の二人きりなんです。
「……あ、あむ。んー」
咥えないで! 牛肉を咥えないで!
「んー。ん?」
“ほら?”って顔しないで! ……ええい、えええい、ええええい!
「あむぐあっ!」
「ひゃっ! ……も、もう。乱暴だぞ、ばか」
みことの口に触れないよう細心の注意を払いながら、ひったくる様に肉を奪う。もぐもぐもぐ。あーもう。想像通り血の味しかしねえ。
「もぐもぐごくんっ! ……はぁ。あのな、みこと」
「ど、どうだ? おいしかったか? もうひとつ食べるか?」
「あ、いや、あのな」
「あむっ。んー」
「いや、あの、だからさ」
「ん?」
「……がうっ!」
「んー♪」
ご褒美なのか罰なのか分からない状態に陥りながら、昼休み全部使ってひたすら生肉を食べました。
【ツンデレと豆まきをしたら】
2011年02月05日
今日は節分です。誰がどう言おうとそうなんです。信じれば夢は叶うんです!
そんなわけで節分なのだが、高校生ともなるとそういった行事にも疎くなり、結果俺の家の前で待ち構えていた知り合いの中学生、ふみの襲撃に遭う羽目になる。
「鬼は外。鬼は外」
呪文のように繰り返しながら、ふみは俺の鼻に豆を一粒ずつ詰めた。
「やめてください。すごく迷惑です」
「福は内、福は内」
「文言の問題ではなくて!」
あまりに詰められると取れなくなるので、ふみの頭に手を置いて攻撃を防ぎつつ、空いてる手で鼻をふんってする。ぱひゃーっと豆が飛んでいった。
「道端に捨てるなんて、おにーさん極悪です。後でおにーさんが美味しくいただいてください」
「俺はTVスタッフではないので美味しく食べない」
「やっぱりおにーさんは極悪です」
「いきなり人の鼻に豆を詰める奴は極悪ではないのか?」
「おにーさん、今日は節分です」
都合の悪い話を完全無視し、ふみは話を改めた。
「ああ、そうみたいだな。豆の攻撃力をひしひしと感じたところだ」
「どうせおにーさんのことです、節分にかこつけ中学生の豆をいただきだぜーとか言いながら私の家に押しかけ、私の豆をいただくつもりだったろうから、私から来てあげました」
とても人聞きの悪い台詞を玄関先で吐かれたので、ふみを小脇に抱え、ものすごく急いで家の中に入り、そのままの勢いで自室へゴー。
「はぁはぁ……あのなあ! 世の中には近所づきあいってのがありまして! ていうかさっき隣の爺さんが庭で盆栽いじりしてまして!」
「ここで私の豆を?」
しつこいので、ふみのどたみにチョップの刑。
「むぅ。痛いです、おにーさん」
「当然の罰だ」
「まあ冗談は置いといて、おにーさん。豆をまきたいです」
「どうぞ自宅で行ってください」
「……一人でしてもつまんないです」
「あ……」
そうだった。こいつの両親は帰ってくるのがいつも夜遅いので、いつも一人で過ごしてるんだった。
「あ、あのな、ふみ。折角だから俺と一緒に豆まきしよっか?」
「嫌です」
「…………」
人が折角歩み寄ってやったというのに、何この天邪鬼。
「土下座するなら考えてやらないでもないです」
「えい」
とりあえず両手でほっぺを引っ張る。……ええい、引っ張られても無表情とはどういうことだ!
「がっきゅううんこ」
「女の子が言う台詞じゃありません!!!」
最終兵器を持ち出されたため、ほっぺ引っ張りを中止。くそぅ。
「学級文庫の何が問題なんですが、おにーさん?」
「ええい、分かってて言ってやがるな」
「ふふん。おにーさん如きが私に歯向かうなんて10年早いです」
「はぁ……なんか疲れた。ちょっと休む」
「根性なしです、おにーさん」
ベッドに腰掛けると、俺のすぐ隣にふみも座ってきた。
「あの、ふみさんや。少し近くないですかね?」
「至近距離から確実におにーさんを仕留めるためです。致し方ないのです」
「あれ、殺されるの?」
「最近の豆の殺傷能力を侮ってはいけません。おにーさん如き低能力者、豆の一つでダウンです」
「それもう食料の範疇を超えてるよね。ていうか低能力者言うな」
「……しかし、おにーさんが帰ってくるのが遅かったため、待ちぼうけの私は暇つぶしに豆をぽりぽり食べており、結果おにーさんの鼻に詰める分しか確保できませんでした」
「鼻に詰めず撒けばよかったのに。ていうか、別に家の前で待たなくても俺の家に入ってりゃいいのに。いつでも来ていいんだぞ?」
ふみの頭をうにうにとなでる。
「なでないでください。子供じゃないです」
やや不機嫌そうにふみは俺を睨んだ。
「中学生は子供だろ?」
「……分かりました。私はまだ子供なので、次から勝手におにーさんの部屋に入り、子供らしく部屋を探検したいと思います」
ふみをなでていた手が止まる。妙な汗が出てきた。
「い、いや、あの、前言撤回というか、その、居間で待つと言うのも手だと思うぞ? 母さんがおやつ出してくれるだろうし」
母さんは専業主婦で、かつ可愛いもの好きなので、ふみを大歓迎している。だからと言って可愛くないからと俺を虐待するのは勘弁してください。
「じゃあ、おやつを食べてからおにーさんの部屋を探検します。子供なので好奇心旺盛なんです」
「……すいません俺が悪かったです。ふみは大人ですので探検しないでください」
俺の負け。首を折ってふみに敗北を伝える。
「最初からそう言えばいいんです。これだからおにーさんは馬鹿なんです」
「はいはい、すいませんでした」
謝りながらふみの頭をなでる。俺の謝罪に気を良くしたのか、ふみはばふーと鼻息を漏らした。
「それにしても、どうしましょうか、節分」
「もう全然豆残ってないのか?」
「ええと……あ、一個だけ残ってました」
ふみがポケットを探ると、一粒だけ転がり出てきた。
「一個かぁ……それじゃ撒いても仕方ないなあ」
「……あ、ないすあいであ。まず、おにーさんにこの豆を渡します。鬼は外」
ぺそっと豆を手渡された。そのついでだか知らないが、握手もされた。
「この握手は?」
「節分により外へ追いやられた鬼たちをおにーさんの手に封じてます」
「今すぐ手を離して! 嘘でも今日という日にやられたらなんか本当に入ってきそう!」
「これで鬼の手が完成です。おにーさんの中二病も満足で、おにーさんにっこり」
「勘弁してください!」
「おにーさんは、そんなに、私と手を繋ぎたくないんですか……?」(うるうる)
「一生繋いでいたいです!」
今日も俺は女性の涙に弱い模様。
「やめてください。迷惑です」
「…………」
「憮然とした顔のおにーさん、素敵です」
とても不愉快です。思った通り嘘泣きだったし。
「はぁ……んで、この豆はどうしたらいいんだ?」
「次に、おにーさんが福は内と言いながら私に豆を渡すんです」
「……福は内?」
豆を返す。一体これのどこがないすあいであと言うのだ。
「このやり取り一回で、鬼は外、福は内というやりとりが完成です。豆の量は、回数でカバーです」
「一応聞いておくが、何回やればいいんだ?」
「最低でも100回はこなす必要があります」
「帰ってください」
「いつでも家に来ていいって言ったのに……おにーさん、酷いです。悪魔です」
「ふみは将来悪女になって男を手玉にとりそうだな。今から怖いよ」
「だいじょぶです。大きくなっても、おにーさんだけを騙します。私を独り占めできて、おにーさんにっこり」
「光栄すぎて涙が出そうだ」
「そんなことより、豆まき再開です。ほら、おにーさん。鬼は外です」
再び豆が俺の手に乗せられた。それと一緒に、ふみが俺の手を両手でにぎにぎする。
「あ、いま鬼がおにーさんの中に入りました。節分ということで、外には鬼が溢れているようです」
「だから、嘘でもなんか怖いからそういうこと言わないで!」
「……えへへ。おにーさん」
「ん?」
「おかしな豆まきですね?」
「おまいが始めたんだろーが……」
「こんな豆まき、変です。……でも、なんだか、楽しいです」
「……そか。楽しいのが一番だな」
「あとはおにーさんが鬼に完全に侵食されたら完璧です」
「節分って鬼を追い出す行事じゃなかったっけ?」
「私とおにーさんの節分だと、こんな感じになっちゃうのです。ご愁傷様です、おにーさん」
「しょうがない。俺に鬼が入る代わりに、ふみに福を入れて中和してもらおう。つーわけで、福は内」
ふみと手を繋いだまま、福は内。
「じゃあ、中和してあげますので中和料として一億円ください」
「酷いマッチポンプを見た」
「ご愁傷様です、おにーさん」
そんな感じで、本来の節分とは程遠い豆まき握手合戦を行う俺達だった。
そんなわけで節分なのだが、高校生ともなるとそういった行事にも疎くなり、結果俺の家の前で待ち構えていた知り合いの中学生、ふみの襲撃に遭う羽目になる。
「鬼は外。鬼は外」
呪文のように繰り返しながら、ふみは俺の鼻に豆を一粒ずつ詰めた。
「やめてください。すごく迷惑です」
「福は内、福は内」
「文言の問題ではなくて!」
あまりに詰められると取れなくなるので、ふみの頭に手を置いて攻撃を防ぎつつ、空いてる手で鼻をふんってする。ぱひゃーっと豆が飛んでいった。
「道端に捨てるなんて、おにーさん極悪です。後でおにーさんが美味しくいただいてください」
「俺はTVスタッフではないので美味しく食べない」
「やっぱりおにーさんは極悪です」
「いきなり人の鼻に豆を詰める奴は極悪ではないのか?」
「おにーさん、今日は節分です」
都合の悪い話を完全無視し、ふみは話を改めた。
「ああ、そうみたいだな。豆の攻撃力をひしひしと感じたところだ」
「どうせおにーさんのことです、節分にかこつけ中学生の豆をいただきだぜーとか言いながら私の家に押しかけ、私の豆をいただくつもりだったろうから、私から来てあげました」
とても人聞きの悪い台詞を玄関先で吐かれたので、ふみを小脇に抱え、ものすごく急いで家の中に入り、そのままの勢いで自室へゴー。
「はぁはぁ……あのなあ! 世の中には近所づきあいってのがありまして! ていうかさっき隣の爺さんが庭で盆栽いじりしてまして!」
「ここで私の豆を?」
しつこいので、ふみのどたみにチョップの刑。
「むぅ。痛いです、おにーさん」
「当然の罰だ」
「まあ冗談は置いといて、おにーさん。豆をまきたいです」
「どうぞ自宅で行ってください」
「……一人でしてもつまんないです」
「あ……」
そうだった。こいつの両親は帰ってくるのがいつも夜遅いので、いつも一人で過ごしてるんだった。
「あ、あのな、ふみ。折角だから俺と一緒に豆まきしよっか?」
「嫌です」
「…………」
人が折角歩み寄ってやったというのに、何この天邪鬼。
「土下座するなら考えてやらないでもないです」
「えい」
とりあえず両手でほっぺを引っ張る。……ええい、引っ張られても無表情とはどういうことだ!
「がっきゅううんこ」
「女の子が言う台詞じゃありません!!!」
最終兵器を持ち出されたため、ほっぺ引っ張りを中止。くそぅ。
「学級文庫の何が問題なんですが、おにーさん?」
「ええい、分かってて言ってやがるな」
「ふふん。おにーさん如きが私に歯向かうなんて10年早いです」
「はぁ……なんか疲れた。ちょっと休む」
「根性なしです、おにーさん」
ベッドに腰掛けると、俺のすぐ隣にふみも座ってきた。
「あの、ふみさんや。少し近くないですかね?」
「至近距離から確実におにーさんを仕留めるためです。致し方ないのです」
「あれ、殺されるの?」
「最近の豆の殺傷能力を侮ってはいけません。おにーさん如き低能力者、豆の一つでダウンです」
「それもう食料の範疇を超えてるよね。ていうか低能力者言うな」
「……しかし、おにーさんが帰ってくるのが遅かったため、待ちぼうけの私は暇つぶしに豆をぽりぽり食べており、結果おにーさんの鼻に詰める分しか確保できませんでした」
「鼻に詰めず撒けばよかったのに。ていうか、別に家の前で待たなくても俺の家に入ってりゃいいのに。いつでも来ていいんだぞ?」
ふみの頭をうにうにとなでる。
「なでないでください。子供じゃないです」
やや不機嫌そうにふみは俺を睨んだ。
「中学生は子供だろ?」
「……分かりました。私はまだ子供なので、次から勝手におにーさんの部屋に入り、子供らしく部屋を探検したいと思います」
ふみをなでていた手が止まる。妙な汗が出てきた。
「い、いや、あの、前言撤回というか、その、居間で待つと言うのも手だと思うぞ? 母さんがおやつ出してくれるだろうし」
母さんは専業主婦で、かつ可愛いもの好きなので、ふみを大歓迎している。だからと言って可愛くないからと俺を虐待するのは勘弁してください。
「じゃあ、おやつを食べてからおにーさんの部屋を探検します。子供なので好奇心旺盛なんです」
「……すいません俺が悪かったです。ふみは大人ですので探検しないでください」
俺の負け。首を折ってふみに敗北を伝える。
「最初からそう言えばいいんです。これだからおにーさんは馬鹿なんです」
「はいはい、すいませんでした」
謝りながらふみの頭をなでる。俺の謝罪に気を良くしたのか、ふみはばふーと鼻息を漏らした。
「それにしても、どうしましょうか、節分」
「もう全然豆残ってないのか?」
「ええと……あ、一個だけ残ってました」
ふみがポケットを探ると、一粒だけ転がり出てきた。
「一個かぁ……それじゃ撒いても仕方ないなあ」
「……あ、ないすあいであ。まず、おにーさんにこの豆を渡します。鬼は外」
ぺそっと豆を手渡された。そのついでだか知らないが、握手もされた。
「この握手は?」
「節分により外へ追いやられた鬼たちをおにーさんの手に封じてます」
「今すぐ手を離して! 嘘でも今日という日にやられたらなんか本当に入ってきそう!」
「これで鬼の手が完成です。おにーさんの中二病も満足で、おにーさんにっこり」
「勘弁してください!」
「おにーさんは、そんなに、私と手を繋ぎたくないんですか……?」(うるうる)
「一生繋いでいたいです!」
今日も俺は女性の涙に弱い模様。
「やめてください。迷惑です」
「…………」
「憮然とした顔のおにーさん、素敵です」
とても不愉快です。思った通り嘘泣きだったし。
「はぁ……んで、この豆はどうしたらいいんだ?」
「次に、おにーさんが福は内と言いながら私に豆を渡すんです」
「……福は内?」
豆を返す。一体これのどこがないすあいであと言うのだ。
「このやり取り一回で、鬼は外、福は内というやりとりが完成です。豆の量は、回数でカバーです」
「一応聞いておくが、何回やればいいんだ?」
「最低でも100回はこなす必要があります」
「帰ってください」
「いつでも家に来ていいって言ったのに……おにーさん、酷いです。悪魔です」
「ふみは将来悪女になって男を手玉にとりそうだな。今から怖いよ」
「だいじょぶです。大きくなっても、おにーさんだけを騙します。私を独り占めできて、おにーさんにっこり」
「光栄すぎて涙が出そうだ」
「そんなことより、豆まき再開です。ほら、おにーさん。鬼は外です」
再び豆が俺の手に乗せられた。それと一緒に、ふみが俺の手を両手でにぎにぎする。
「あ、いま鬼がおにーさんの中に入りました。節分ということで、外には鬼が溢れているようです」
「だから、嘘でもなんか怖いからそういうこと言わないで!」
「……えへへ。おにーさん」
「ん?」
「おかしな豆まきですね?」
「おまいが始めたんだろーが……」
「こんな豆まき、変です。……でも、なんだか、楽しいです」
「……そか。楽しいのが一番だな」
「あとはおにーさんが鬼に完全に侵食されたら完璧です」
「節分って鬼を追い出す行事じゃなかったっけ?」
「私とおにーさんの節分だと、こんな感じになっちゃうのです。ご愁傷様です、おにーさん」
「しょうがない。俺に鬼が入る代わりに、ふみに福を入れて中和してもらおう。つーわけで、福は内」
ふみと手を繋いだまま、福は内。
「じゃあ、中和してあげますので中和料として一億円ください」
「酷いマッチポンプを見た」
「ご愁傷様です、おにーさん」
そんな感じで、本来の節分とは程遠い豆まき握手合戦を行う俺達だった。