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2025年02月04日
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【ハナ シュークリーム】
2011年11月02日
恋人であるところのハナがお土産片手に遊びに来たので、頭をなでてみた。
「お土産効果、抜群です。これはもう、毎回お土産を持ってきて頭をなでてもらうしかないです!」
何やら勘違いされてる御様子。
「別に土産を持ってきたからなでたのではなく、なんとなくなでただけです」
「とっても残念な真実です……」
何やらしょんぼり具合が大きくなったので、気合を入れて頭をなでてみる。
「えへへぇ♪」
すると、喜び具合が大きくなったので俺の選択は正しいことが証明されました。
「んで、ハナの人や。何を買ってきたのかね?」
「しゅーくりーむです。大安売りしてたので、奮発して四つ買ってきました、四つ。……偉いですか?」
「歴史の教科書に載る程度には偉い」
「知らず大業を成し遂げていたようです!」
「んじゃ食おう食おう。あ、飲み物何がいい? 俺の唾液?」
「……あ、あーん」
「信じるな。口を開けるな。頬を赤らめるな」
「あ、彰人くんならやりかねないと思ったんです。私の想い人は少し頭がおかしいんです」
「酷いことを言うものだ」
恋人に頭がおかしいと評される符長彰人ですこんばんは。そして俺の脳内こんばんはは今日も冴えている。
「彰人くんに鍛えられました。……凄いですか?」
「あー凄い凄い。んで、飲み物何がいい?」
「んと……紅茶がいいです」
「紅茶ね……あったかなあ」
自室を出て台所へ向かっていると、何やら背後から気配が。すわ背後霊が実体化した、と一瞬思ったが、当然そんなわけはなく、ハナがついてきていただけだった。
「何もついてくる必要はないと思うのだけど」
「……だ、ダメですか?」
「え、いや、ダメではないが……」
「じゃ、じゃあ、一緒がいいです。いっしょ、いっしょ」
ちょこんと俺の服の裾を小さくつまみ、ハナは嬉しそうに呟いた。
「キミはいちいち可愛いので困ります」
「そ、そんなこと言われたら、私の方が困ります」
「双方困ったということで、おでこの刑」
「や、やー! おでこやー!」
ハナはなぜか知らないがおでこをさらされるのを嫌い、普段は前髪で隠している。だが、嫌がるリアクションが楽しくて、俺は度々ハナの前髪を上げ、おでこをさらしてしまう。
「ううう……普段の彰人くんは大好きですが、こうやって私のおでこを晒す彰人くんは嫌いです」
ハナは俺から離れると、少し拗ねたような口ぶりで言った。
「俺はどんなハナでも大好きだよ」
「……そ、そゆこと言って私の機嫌をうかがう彰人くんはずるいです。さっき言った嫌いがもうどこかへ行ってしまったじゃないですか」
ハナは俺の傍まで歩み寄ると、再び俺の服をきゅっと握った。
「えい」
「や、やー! またおでこやー!」
このお嬢さんに学習機能はないようです。
「ううう……いっぱいおでこを晒されました。陵辱されました」
「また人聞きの悪いことを……」
結局台所に辿り着くまで4回おでこを晒しました。楽しかった。
「ぷんぷんです。普段ならすぐに許してしまいますが、私の怒りは有頂天に達して怒髪が天を突いてます。ちょっとやそっとじゃ許しません」
「よく分からないが、怒ってることは伝わった」
「それだけ伝わればじゅーぶんです」
「以心伝心で嬉しいな」
「はい♪ ……い、いやいや、違います。私は怒ってるんです。……あの、彰人くん。あまり私を喜ばせることは言ってはいけません。許しちゃいます」
「ものっそい笑顔で“はい♪”って言ってたな」
「お、怒ってるんです!」
「はいはい」(なでなで)
「な、なでなでも禁止です! ほ、ほら! なんか嬉しくなってきちゃいましたよ! どーしてくれるんですか!」
「そんな怒られても」
「う、ううー……彰人くんはすぐに私を嬉しくするので注意が必要です。要注意人物です」
背後で変なことを言ってる恋人を余所に、紅茶を探す。えーと……あ、棚の中にあった。
「あったあった。よし、たまには俺も紅茶にしよう」
「う。……ま、またです。一緒の飲み物を飲むことにより、私を喜ばせる作戦です。彰人くんは今日も策士です」
「そんなつもりは毛頭ない」
勝手に策士認定されつつ、カップに湯を注いで部屋に戻る。紅茶はハナに持たせました。
「うし。んじゃ、ちゃっちゃと紅茶作って、ハナの買ってきたシュークリームを食おう」
インスタントの紅茶をカップに入れ、ちゃぷちゃぷと揺する。
「? どした、ハナ。紅茶作らないのか?」
「彰人くんの使ってるのを後で使います。……あ、それとも、使い回しとか嫌ですか?」
「いやいや。それどころか、経済観念のしっかりしたお嬢さんで嫁に最適と思った次第だ」
「……お、お嫁さん」
ハナの顔が今世紀最大に赤くなった。
「し、将来の話だよ!?」
「そ、そですよね。……び、びっくりしました」
「俺もびっくりした。サルの尻くらい赤くなるんだもん」
「でん部扱いです……」
何やらしょんぼりした様子で、ハナは俺から受け取った紅茶をカップに入れてちゃぷちゃぷした。
「はぁ……。びっくりしすぎて、怒ってるのがどっか行っちゃいました。大弱りです」
「弱って字が鰯に似てるから?」
「今日も彰人くんの思考は謎に包まれてます」
真顔で言われると辛い。
「まあいいや……ともかく、シュークリームを食おう」
「あ、はい。カスタードといちごの二種類があるんですけど、どっちがいいですか?」
ハナは両手にシュークリームを持ち、俺に訊ねた。
「こうなったら運否天賦だ。せっかくだから俺はこの茶色いシュークリームを選ぶぜ!」
「は、はや……何が折角か分からないし、両方とも茶色いです」
はい、と渡されたシュークリームをまふっとかじる。カスタードの甘い味が口内に広がった。
「カスタードだ。ん、うまい」
「よかったです。じゃ、私はこっちを……いちごです。甘くておいしーです」
ハナは両手でシュークリームを掴み、まふっとかじった。途端、とろけるような笑みを浮かべるので、思わずこちらも気持ち悪い笑みを返してしまう。
「……あ、彰人くん。そ、そーゆー、誰もがくらくらーってなっちゃう笑みは控えるべきです。……むぎゅーってされたくなっちゃいます」
「馬鹿な!? 自分では気持ち悪いことこの上ねぇ笑みのつもりだったのだが……」
「素敵過ぎて心臓が止まりそうになる笑みです。どきどきはーとびーとです」
本当にこのお嬢さんは俺と同い年なのか時々疑問に思う。
「……あ、あの、彰人くん。……ち、ちょこっとだけ、そっち行ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
ハナは俺の隣に座ると、ぴとっと肩をくっ付けた。
「あ、あの。ハナさん?」
「ちょ、ちょこっとです。ちょこっとだけしたら、満足しますから。我慢してください」
「いや、我慢も何も俺も嬉しいからいいんだけど、なんでまた突然」
「……さっきの彰人くんのすーぱー笑顔を見ちゃったら、なんだかとってもくっつきたくなったんです。くっつきたくなっちゃったんです」
ハナはうつむきながらぼそぼそっと呟いた。髪の隙間から覗く耳がやたら赤い。
「あー。あのさ、ハナ。俺たちゃ一応恋人なんだから、好きな時に、好きなだけくっつける権利があるんだよ? だから、別に許可なんか取らなくてもいいんだぞ?」
「で、でも、それだと四六時中くっつく羽目になってしまいます。日常生活が破綻する自信があります」
「あー。なんつーか、死ぬほど好かれてますね、俺。はっはっは」
「……そ、そうです。いっぱい好きです」
笑いながら真っ赤になってる馬鹿と、うつむきながら真っ赤になってる馬鹿が二匹います。ああもう恥ずかしい。
「あ、一応言っておくが、俺もハナに負けないくらいハナが好きだよ?」
「あ、彰人くん、そーゆーことをさりげなく言ってはダメです! 頭がおかしくなってしまいます!」
ハナは顔を真っ赤にしたまま両手をばたばた振った。いっぱいいっぱいなのか、半泣きだ。
「ああもう。ハナちょー可愛い」
「はや、はやややや!? これはもう確実に頭がおかしくなりましたよ!?」
我慢も限界だったのでハナを抱きしめる。しばらくばたばたしていたが、頭を数度なでると、徐々に落ち着いていった。
「はふぅ……。彰人くんに抱きしめられるとドキドキしますが、同時にすっごく落ち着きます。不思議です」
「あー、俺も俺も。ハナに触れてると、何やら落ち着く」
そう言いながらハナのほっぺをふにふにする。ハナはくすぐったそうに目を細めた。
「えへへ。じゃ、いっぱい触ってくださいね?」
「ハナはえろいなあ」
「そ、そういう意味じゃなくてですね!?」
「あ、そういや今日は両親が家を留守にしてたんだ」
「はや、はややややっ!? ど、どうしましょうかっ! 勝負ぱんつをはいてきてませんよ!?」
「しょうがない。じゃ、今日のところはちゅーだけにしておこうか」
「はやーっ!?」
この両目がぐるぐるしてる生物はとても可愛いなあ、と思った。
「お土産効果、抜群です。これはもう、毎回お土産を持ってきて頭をなでてもらうしかないです!」
何やら勘違いされてる御様子。
「別に土産を持ってきたからなでたのではなく、なんとなくなでただけです」
「とっても残念な真実です……」
何やらしょんぼり具合が大きくなったので、気合を入れて頭をなでてみる。
「えへへぇ♪」
すると、喜び具合が大きくなったので俺の選択は正しいことが証明されました。
「んで、ハナの人や。何を買ってきたのかね?」
「しゅーくりーむです。大安売りしてたので、奮発して四つ買ってきました、四つ。……偉いですか?」
「歴史の教科書に載る程度には偉い」
「知らず大業を成し遂げていたようです!」
「んじゃ食おう食おう。あ、飲み物何がいい? 俺の唾液?」
「……あ、あーん」
「信じるな。口を開けるな。頬を赤らめるな」
「あ、彰人くんならやりかねないと思ったんです。私の想い人は少し頭がおかしいんです」
「酷いことを言うものだ」
恋人に頭がおかしいと評される符長彰人ですこんばんは。そして俺の脳内こんばんはは今日も冴えている。
「彰人くんに鍛えられました。……凄いですか?」
「あー凄い凄い。んで、飲み物何がいい?」
「んと……紅茶がいいです」
「紅茶ね……あったかなあ」
自室を出て台所へ向かっていると、何やら背後から気配が。すわ背後霊が実体化した、と一瞬思ったが、当然そんなわけはなく、ハナがついてきていただけだった。
「何もついてくる必要はないと思うのだけど」
「……だ、ダメですか?」
「え、いや、ダメではないが……」
「じゃ、じゃあ、一緒がいいです。いっしょ、いっしょ」
ちょこんと俺の服の裾を小さくつまみ、ハナは嬉しそうに呟いた。
「キミはいちいち可愛いので困ります」
「そ、そんなこと言われたら、私の方が困ります」
「双方困ったということで、おでこの刑」
「や、やー! おでこやー!」
ハナはなぜか知らないがおでこをさらされるのを嫌い、普段は前髪で隠している。だが、嫌がるリアクションが楽しくて、俺は度々ハナの前髪を上げ、おでこをさらしてしまう。
「ううう……普段の彰人くんは大好きですが、こうやって私のおでこを晒す彰人くんは嫌いです」
ハナは俺から離れると、少し拗ねたような口ぶりで言った。
「俺はどんなハナでも大好きだよ」
「……そ、そゆこと言って私の機嫌をうかがう彰人くんはずるいです。さっき言った嫌いがもうどこかへ行ってしまったじゃないですか」
ハナは俺の傍まで歩み寄ると、再び俺の服をきゅっと握った。
「えい」
「や、やー! またおでこやー!」
このお嬢さんに学習機能はないようです。
「ううう……いっぱいおでこを晒されました。陵辱されました」
「また人聞きの悪いことを……」
結局台所に辿り着くまで4回おでこを晒しました。楽しかった。
「ぷんぷんです。普段ならすぐに許してしまいますが、私の怒りは有頂天に達して怒髪が天を突いてます。ちょっとやそっとじゃ許しません」
「よく分からないが、怒ってることは伝わった」
「それだけ伝わればじゅーぶんです」
「以心伝心で嬉しいな」
「はい♪ ……い、いやいや、違います。私は怒ってるんです。……あの、彰人くん。あまり私を喜ばせることは言ってはいけません。許しちゃいます」
「ものっそい笑顔で“はい♪”って言ってたな」
「お、怒ってるんです!」
「はいはい」(なでなで)
「な、なでなでも禁止です! ほ、ほら! なんか嬉しくなってきちゃいましたよ! どーしてくれるんですか!」
「そんな怒られても」
「う、ううー……彰人くんはすぐに私を嬉しくするので注意が必要です。要注意人物です」
背後で変なことを言ってる恋人を余所に、紅茶を探す。えーと……あ、棚の中にあった。
「あったあった。よし、たまには俺も紅茶にしよう」
「う。……ま、またです。一緒の飲み物を飲むことにより、私を喜ばせる作戦です。彰人くんは今日も策士です」
「そんなつもりは毛頭ない」
勝手に策士認定されつつ、カップに湯を注いで部屋に戻る。紅茶はハナに持たせました。
「うし。んじゃ、ちゃっちゃと紅茶作って、ハナの買ってきたシュークリームを食おう」
インスタントの紅茶をカップに入れ、ちゃぷちゃぷと揺する。
「? どした、ハナ。紅茶作らないのか?」
「彰人くんの使ってるのを後で使います。……あ、それとも、使い回しとか嫌ですか?」
「いやいや。それどころか、経済観念のしっかりしたお嬢さんで嫁に最適と思った次第だ」
「……お、お嫁さん」
ハナの顔が今世紀最大に赤くなった。
「し、将来の話だよ!?」
「そ、そですよね。……び、びっくりしました」
「俺もびっくりした。サルの尻くらい赤くなるんだもん」
「でん部扱いです……」
何やらしょんぼりした様子で、ハナは俺から受け取った紅茶をカップに入れてちゃぷちゃぷした。
「はぁ……。びっくりしすぎて、怒ってるのがどっか行っちゃいました。大弱りです」
「弱って字が鰯に似てるから?」
「今日も彰人くんの思考は謎に包まれてます」
真顔で言われると辛い。
「まあいいや……ともかく、シュークリームを食おう」
「あ、はい。カスタードといちごの二種類があるんですけど、どっちがいいですか?」
ハナは両手にシュークリームを持ち、俺に訊ねた。
「こうなったら運否天賦だ。せっかくだから俺はこの茶色いシュークリームを選ぶぜ!」
「は、はや……何が折角か分からないし、両方とも茶色いです」
はい、と渡されたシュークリームをまふっとかじる。カスタードの甘い味が口内に広がった。
「カスタードだ。ん、うまい」
「よかったです。じゃ、私はこっちを……いちごです。甘くておいしーです」
ハナは両手でシュークリームを掴み、まふっとかじった。途端、とろけるような笑みを浮かべるので、思わずこちらも気持ち悪い笑みを返してしまう。
「……あ、彰人くん。そ、そーゆー、誰もがくらくらーってなっちゃう笑みは控えるべきです。……むぎゅーってされたくなっちゃいます」
「馬鹿な!? 自分では気持ち悪いことこの上ねぇ笑みのつもりだったのだが……」
「素敵過ぎて心臓が止まりそうになる笑みです。どきどきはーとびーとです」
本当にこのお嬢さんは俺と同い年なのか時々疑問に思う。
「……あ、あの、彰人くん。……ち、ちょこっとだけ、そっち行ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
ハナは俺の隣に座ると、ぴとっと肩をくっ付けた。
「あ、あの。ハナさん?」
「ちょ、ちょこっとです。ちょこっとだけしたら、満足しますから。我慢してください」
「いや、我慢も何も俺も嬉しいからいいんだけど、なんでまた突然」
「……さっきの彰人くんのすーぱー笑顔を見ちゃったら、なんだかとってもくっつきたくなったんです。くっつきたくなっちゃったんです」
ハナはうつむきながらぼそぼそっと呟いた。髪の隙間から覗く耳がやたら赤い。
「あー。あのさ、ハナ。俺たちゃ一応恋人なんだから、好きな時に、好きなだけくっつける権利があるんだよ? だから、別に許可なんか取らなくてもいいんだぞ?」
「で、でも、それだと四六時中くっつく羽目になってしまいます。日常生活が破綻する自信があります」
「あー。なんつーか、死ぬほど好かれてますね、俺。はっはっは」
「……そ、そうです。いっぱい好きです」
笑いながら真っ赤になってる馬鹿と、うつむきながら真っ赤になってる馬鹿が二匹います。ああもう恥ずかしい。
「あ、一応言っておくが、俺もハナに負けないくらいハナが好きだよ?」
「あ、彰人くん、そーゆーことをさりげなく言ってはダメです! 頭がおかしくなってしまいます!」
ハナは顔を真っ赤にしたまま両手をばたばた振った。いっぱいいっぱいなのか、半泣きだ。
「ああもう。ハナちょー可愛い」
「はや、はやややや!? これはもう確実に頭がおかしくなりましたよ!?」
我慢も限界だったのでハナを抱きしめる。しばらくばたばたしていたが、頭を数度なでると、徐々に落ち着いていった。
「はふぅ……。彰人くんに抱きしめられるとドキドキしますが、同時にすっごく落ち着きます。不思議です」
「あー、俺も俺も。ハナに触れてると、何やら落ち着く」
そう言いながらハナのほっぺをふにふにする。ハナはくすぐったそうに目を細めた。
「えへへ。じゃ、いっぱい触ってくださいね?」
「ハナはえろいなあ」
「そ、そういう意味じゃなくてですね!?」
「あ、そういや今日は両親が家を留守にしてたんだ」
「はや、はややややっ!? ど、どうしましょうかっ! 勝負ぱんつをはいてきてませんよ!?」
「しょうがない。じゃ、今日のところはちゅーだけにしておこうか」
「はやーっ!?」
この両目がぐるぐるしてる生物はとても可愛いなあ、と思った。
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【超能力ちなみん】
2011年11月01日
ちなみが超能力を身につけた、と言い張る。
「へー。それはすごい」
「……今日もタカシは全く私の言うことを信用していない。貧乳の言は信用に足らず、とタカシは言う」
「そこまでは言ってねえ」
「……ちなみのちっちゃいおっぱいを揉みしだきてえ、とタカシは言う」
「いっ、言ってねえ」
「……動揺が見られる。揉むむ?」
「揉ままない!」
「……残念」
「お前なあ……もうちょっと、なんつーか、男に対して警戒心を露にしろ。いつか食われるぞ」
「……タカシはいつだって私を独占したがっている。やれやれ、もてる女は辛い」
「殴りましょうか」
「……いじめるの?」(嘘泣き)
「いじめません」(なでなで)
嘘だって完全に分かっているというのに、俺という生物は泣かれると何もできなくなるので厄介です。
「……タカシは今日も簡単だ。やーいばーかばーか」
「…………」(なでなでから頬引っ張りに完全移行)
「おおおおお?」
「はぁ……冗談はともかく、マジに気をつけろよ? 世の中俺みたいなチキンばっかじゃねーんだから」
「……だいじょぶ。タカシにしかしないから」
「やれやれ、もてる男は辛い」
「…………」
「無言で頬を染めるなッ!」
「そ、染めてない。た、タカシの勘違い。や、やれやれ、これだからもてない野郎は」
……まあいい。ここをほじくり返すと互いにダメージを受けそうだ。
「そ、それで、えと……そう。超能力」
「そ、そうか。それはすごいな」
お互いに先ほどの空気を打ち消すべく、一緒になって話題を転換させる。
「そ、そう、すごい。……こんな感じ。えい」
「お?」
ちなみが何やら念じると、俺の手が勝手に動いた。
「手が! 俺の手が!」
「……超能力。すごい?」
「うわ、これはマジにすげえ! どうやったんだ?」
「……なんか、寝て起きたら使えるようになってた」
「コメントのしようがないです」
「……頑張った。褒める?」
「頑張った要素がないので褒めません」
「…………」(不満げ)
「怒るな。それより、そろそろ解放してはくれまいか。手が動かないのですが」
「……頑張った私を褒めないタカシなんて知らない。……こーしてくれる」
「お?」
俺の手が俺ならざる力にいざなわれ、ちなみを抱きしめています。
「……やれやれ、タカシは私が大好きすぎる」
「俺の意思が介在していないのに」
「……嫌いと申すか」(半泣き)
「そうは申さぬけど!」(なでなで)
「……むふー。……ん? なでろって命令してないのに、なでられてる」
「ん、ああ。たぶん超能力なんかよりも、『ちなみをなでねば!』という俺の意志力が上回ったのだろう。たぶん」
「……そんなに人を擦りたいのか。……タカシの性癖はちょっとおかしい」
「ちげーよ。泣いてるお前見てるの苦手だから、なでずにはいられないんだよ」
「…………。や、やれやれ。これだからタカシは、その、アレだ。ダメだ」
「もうちょっと語彙をどうにかしてください」
「う、うるさい、ばか。……あの」
「ん?」
「……な、なんでもない」
珍しく顔中を真っ赤にさせ、ただじっとうつむいて俺に頭をなでられるちなみだった。
「へー。それはすごい」
「……今日もタカシは全く私の言うことを信用していない。貧乳の言は信用に足らず、とタカシは言う」
「そこまでは言ってねえ」
「……ちなみのちっちゃいおっぱいを揉みしだきてえ、とタカシは言う」
「いっ、言ってねえ」
「……動揺が見られる。揉むむ?」
「揉ままない!」
「……残念」
「お前なあ……もうちょっと、なんつーか、男に対して警戒心を露にしろ。いつか食われるぞ」
「……タカシはいつだって私を独占したがっている。やれやれ、もてる女は辛い」
「殴りましょうか」
「……いじめるの?」(嘘泣き)
「いじめません」(なでなで)
嘘だって完全に分かっているというのに、俺という生物は泣かれると何もできなくなるので厄介です。
「……タカシは今日も簡単だ。やーいばーかばーか」
「…………」(なでなでから頬引っ張りに完全移行)
「おおおおお?」
「はぁ……冗談はともかく、マジに気をつけろよ? 世の中俺みたいなチキンばっかじゃねーんだから」
「……だいじょぶ。タカシにしかしないから」
「やれやれ、もてる男は辛い」
「…………」
「無言で頬を染めるなッ!」
「そ、染めてない。た、タカシの勘違い。や、やれやれ、これだからもてない野郎は」
……まあいい。ここをほじくり返すと互いにダメージを受けそうだ。
「そ、それで、えと……そう。超能力」
「そ、そうか。それはすごいな」
お互いに先ほどの空気を打ち消すべく、一緒になって話題を転換させる。
「そ、そう、すごい。……こんな感じ。えい」
「お?」
ちなみが何やら念じると、俺の手が勝手に動いた。
「手が! 俺の手が!」
「……超能力。すごい?」
「うわ、これはマジにすげえ! どうやったんだ?」
「……なんか、寝て起きたら使えるようになってた」
「コメントのしようがないです」
「……頑張った。褒める?」
「頑張った要素がないので褒めません」
「…………」(不満げ)
「怒るな。それより、そろそろ解放してはくれまいか。手が動かないのですが」
「……頑張った私を褒めないタカシなんて知らない。……こーしてくれる」
「お?」
俺の手が俺ならざる力にいざなわれ、ちなみを抱きしめています。
「……やれやれ、タカシは私が大好きすぎる」
「俺の意思が介在していないのに」
「……嫌いと申すか」(半泣き)
「そうは申さぬけど!」(なでなで)
「……むふー。……ん? なでろって命令してないのに、なでられてる」
「ん、ああ。たぶん超能力なんかよりも、『ちなみをなでねば!』という俺の意志力が上回ったのだろう。たぶん」
「……そんなに人を擦りたいのか。……タカシの性癖はちょっとおかしい」
「ちげーよ。泣いてるお前見てるの苦手だから、なでずにはいられないんだよ」
「…………。や、やれやれ。これだからタカシは、その、アレだ。ダメだ」
「もうちょっと語彙をどうにかしてください」
「う、うるさい、ばか。……あの」
「ん?」
「……な、なんでもない」
珍しく顔中を真っ赤にさせ、ただじっとうつむいて俺に頭をなでられるちなみだった。
【ハロウィン 犬子のバヤイ】
2011年10月30日
菓子が食いてえ。しかし、金はない。どうしようかと思いながら黒板を見る。その端に、今日の日付が書いてる。10月31日。……そういや、今日はハロウィンだな。……ハロウィン?
「どしたの、符長くん? なんかぐったりしちゃってさ」
「その時、俺様の脳細胞が活性化した。そう、今まさに天啓が俺様に!」
「符長くんが壊れた!?」
失礼なことを言う犬子のほっぺを引っ張る。
「いひゃいいひゃい、いひゃいよ符長くん!」
「しょうがないよ、犬のくせに人間様を馬鹿にしたんだから」
とはいえ、犬に罰を与える趣味はない。とっとと手を離してあげる。
「うぅ~……今日も当然のように犬扱いだよ」
「ちょどいいや、お前もつきあえ」(なでなで)
「付き合うって、何に?」
なんとなく頭をなでながら提案すると、犬子は不思議そうな顔で問いかけてきた。
「今日の日付を考えれば分かるだろう。ハロウィンだ!」
「はろうぃん? え、仮装して色んな人の家に行くの?」
「そのつもりだ。俺は全裸に仮面をつける仮装をするから、犬子もそれに準ずるように」
「痴漢&痴女のコンビの出来上がりだよ、符長くん! とっても嫌だよ!」
「なんだ、贅沢だな。しょうがない、犬子だけがその仮装していいよ。らっきー♪」
「気遣いの方向が明らかに間違ってるよ、符長くん! ちっともらっきーじゃないよ!」
「なんだ。しかし、実際どういう仮装にしようか。コスプレは大好きだが、実際に衣装は持ってないんだよなあ」
「……あの、あのね、符長くん? その、たぶんだけどね、仮装して家々を回っても、お菓子はもらえないと思うよ?」
「俺が行く直前に犬子が先回りして、その家の菓子を根こそぎ奪って行くから? どこまであくどいんだ、お前は」(ぐりぐり)
「勝手に悪人にされたっ!? あうぅーっ!」
悔しさを指先にぶつけ、犬子のおでこをぐりぐりする。
「うぅー……今日も符長くんは酷いよ」
両手でおでこを押さえ、犬子はうるむ瞳で俺を見た。
「ごめんね。我ながら言いがかり以外の何物でもなかったね。近く自殺するので許してね」
「符長くんが切腹する!? そこまで恨んでないよ、ていうか死ぬなんて絶対に許さないよ!」
誰も死ぬ手段が切腹とは言ってないが、犬子は慌てた様子で俺の手を握り、力強い目で俺を睨んだ。
「あー、まあ、半ば冗談だ」
「半ば!?」
「全部だ、全部。ごめんな」(なでなで)
「うぅー……そんな冗談、勘弁して欲しいよ」
空いてる手で犬子をなでる。犬子は悲しそうに俺の手に鼻を寄せた。ふにふにと指で鼻を押してやる。
「……えへへ♪」
なにやら嬉しそうに微笑んでくれたので、悲しみは消えたと考えてよいだろう。やれやれ。
「それより犬子、さっき菓子をもらえないと言っていたが、なんでなのだ?」
「あのね、日本にはそういうイベントは根付いてないから、そんなのやっても不審者扱いされるだけだと思うよ?」
「大丈夫、慣れてる」
「符長くんの日常が思ったより可哀想!?」
なんて台詞だ。後で泣かす。
「しかし、菓子をもらえないのか……うぅむ、どうしたものかな」
「お菓子? ……あの、符長くん。ひょっとして、お菓子が食べたいだけ……とか?」
「おお、よく分かったな。この犬は賢い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないのに……でも、どしてコンビニとか行かないの? 売ってるよ?」
「お金がないんだ」
はぅーって顔をされた。
「あの、それじゃ、よかったらだけどね、私がお菓子作ってこようか?」
「マジか!? 流石は犬子、俺の嫁にしたいランキング一位だな」
「嫁っ!? しっ、しかも一位!? はわっ、はわわわわっ!?」
「いかん、犬子の言語がいい感じに面白くなってきた! はい、深呼吸」
「す、すーはーすーはーすーはー。……ふぅ、ちょっと落ち着いたよ」
「おお、さすが俺の嫁」
「はわわわわっ!?」
「わはははは! 犬子は愉快だなあ」
「こっちは好きで愉快じゃないよっ! もー、どーせいつもの冗談でしょ? 知ってるもん」
「わはははは」
「もー……それじゃ、明日持ってくるからね? あ、でも、もしおいしくなくて許してね? 私、あんまり上手じゃないんだ」
「分かった、表面上は許す」
「怖いよっ! いっそ許してくれない方がありがたいよっ!」
今日も犬子は愉快だった。
「どしたの、符長くん? なんかぐったりしちゃってさ」
「その時、俺様の脳細胞が活性化した。そう、今まさに天啓が俺様に!」
「符長くんが壊れた!?」
失礼なことを言う犬子のほっぺを引っ張る。
「いひゃいいひゃい、いひゃいよ符長くん!」
「しょうがないよ、犬のくせに人間様を馬鹿にしたんだから」
とはいえ、犬に罰を与える趣味はない。とっとと手を離してあげる。
「うぅ~……今日も当然のように犬扱いだよ」
「ちょどいいや、お前もつきあえ」(なでなで)
「付き合うって、何に?」
なんとなく頭をなでながら提案すると、犬子は不思議そうな顔で問いかけてきた。
「今日の日付を考えれば分かるだろう。ハロウィンだ!」
「はろうぃん? え、仮装して色んな人の家に行くの?」
「そのつもりだ。俺は全裸に仮面をつける仮装をするから、犬子もそれに準ずるように」
「痴漢&痴女のコンビの出来上がりだよ、符長くん! とっても嫌だよ!」
「なんだ、贅沢だな。しょうがない、犬子だけがその仮装していいよ。らっきー♪」
「気遣いの方向が明らかに間違ってるよ、符長くん! ちっともらっきーじゃないよ!」
「なんだ。しかし、実際どういう仮装にしようか。コスプレは大好きだが、実際に衣装は持ってないんだよなあ」
「……あの、あのね、符長くん? その、たぶんだけどね、仮装して家々を回っても、お菓子はもらえないと思うよ?」
「俺が行く直前に犬子が先回りして、その家の菓子を根こそぎ奪って行くから? どこまであくどいんだ、お前は」(ぐりぐり)
「勝手に悪人にされたっ!? あうぅーっ!」
悔しさを指先にぶつけ、犬子のおでこをぐりぐりする。
「うぅー……今日も符長くんは酷いよ」
両手でおでこを押さえ、犬子はうるむ瞳で俺を見た。
「ごめんね。我ながら言いがかり以外の何物でもなかったね。近く自殺するので許してね」
「符長くんが切腹する!? そこまで恨んでないよ、ていうか死ぬなんて絶対に許さないよ!」
誰も死ぬ手段が切腹とは言ってないが、犬子は慌てた様子で俺の手を握り、力強い目で俺を睨んだ。
「あー、まあ、半ば冗談だ」
「半ば!?」
「全部だ、全部。ごめんな」(なでなで)
「うぅー……そんな冗談、勘弁して欲しいよ」
空いてる手で犬子をなでる。犬子は悲しそうに俺の手に鼻を寄せた。ふにふにと指で鼻を押してやる。
「……えへへ♪」
なにやら嬉しそうに微笑んでくれたので、悲しみは消えたと考えてよいだろう。やれやれ。
「それより犬子、さっき菓子をもらえないと言っていたが、なんでなのだ?」
「あのね、日本にはそういうイベントは根付いてないから、そんなのやっても不審者扱いされるだけだと思うよ?」
「大丈夫、慣れてる」
「符長くんの日常が思ったより可哀想!?」
なんて台詞だ。後で泣かす。
「しかし、菓子をもらえないのか……うぅむ、どうしたものかな」
「お菓子? ……あの、符長くん。ひょっとして、お菓子が食べたいだけ……とか?」
「おお、よく分かったな。この犬は賢い犬だ」(なでなで)
「犬じゃないのに……でも、どしてコンビニとか行かないの? 売ってるよ?」
「お金がないんだ」
はぅーって顔をされた。
「あの、それじゃ、よかったらだけどね、私がお菓子作ってこようか?」
「マジか!? 流石は犬子、俺の嫁にしたいランキング一位だな」
「嫁っ!? しっ、しかも一位!? はわっ、はわわわわっ!?」
「いかん、犬子の言語がいい感じに面白くなってきた! はい、深呼吸」
「す、すーはーすーはーすーはー。……ふぅ、ちょっと落ち着いたよ」
「おお、さすが俺の嫁」
「はわわわわっ!?」
「わはははは! 犬子は愉快だなあ」
「こっちは好きで愉快じゃないよっ! もー、どーせいつもの冗談でしょ? 知ってるもん」
「わはははは」
「もー……それじゃ、明日持ってくるからね? あ、でも、もしおいしくなくて許してね? 私、あんまり上手じゃないんだ」
「分かった、表面上は許す」
「怖いよっ! いっそ許してくれない方がありがたいよっ!」
今日も犬子は愉快だった。
【お目当ての物が品切れでがっかりなツンデレ】
2011年10月14日
そろそろ秋も深まってきたのでコンビニの品揃えも相応になってきた頃だろう、といったことを友人と話していると、何やら目を輝かせたまつりが寄ってきたのでこっそり逃げようとしたら捕まった。
「なんでわらわが近寄ったら逃げるのじゃ! しつれーなのじゃ!」
後ろから俺に抱きつき、ふがーふがーと鼻息も荒くまつりが叫ぶ。
「また厄介ごとに巻き込まれそうな気がしたので、やれやれ系の主人公としてこれ以上やれやれと言いたくないので、前もってトラブルを避けただけなんです」
「貴様などやれやれ系の主人公ではないわ! そも、貴様などが主人公になれるはずがなかろう? なれてせいぜいわらわの物語の脇役に決まっておろう! にゃーっはっはっはっは……こら! 逃げるな!」
気持ちよさそうに笑ってるスキに逃げようとしたら、また見つかった。しかも、俺が知らず注目を集めてるスキに友人は姿を消してるし。くそぅ。
「はぁ……。んで、何用ですか猫姫さん」(なでなで)
「姫ではあるが、わらわは猫ではない! なでるな、たわけ!」
「なでやすい位置に頭があるのでなでてるだけだ、気にするな。ただ、猫姫なんだからちゃんと猫耳を用意しておくように。次回までの宿題です」
「だから、わらわは猫ではないと言っておろうがっ! 何度言えばわるかのじゃ!?」
「なでなでなで」
「にゃっ、にゃにゃにゃ……にゃふー」
「ほらみろ、猫だ」
「猫じゃないわいっ! 貴様に強めになでられると、なんかにゃふーって鳴いちゃうだけじゃっ!」
「馬鹿丸出しですね。いや、誤解されがちですが、褒め言葉ですよ?」
「褒めてる要素がないのじゃばかものうわーんっ!」
「ああごめんごめんなさい」
何やらうにゃうにゃ泣いてしまったので、頭をなでて慰める。この姫さんは打たれ弱すぎる。
「ぐしゅ……うう、貴様は今日もいじわるなのじゃ。すぐにわらわをいじめるのじゃ」
「基本的に人とのコミュニケーションが苦手なんだ。許せよ乙女」
「うにゅ……わらわじゃから許してやるが、次泣かしたりしたら許さんのじゃよ?」
小さな両手で俺の手を包み込み、小さく首を傾げるまつりさん。どこで覚えた、そんな殺人技。
「分かった、結婚しよう」
「そ、そんなこと言ってないのじゃっ!」
顔をべちべちべちっと叩かれた。
「ああ、いやその、混乱してましたスイマセン」
「ま、まったく! 貴様には困ったものなのじゃ! ぷんぷん、なのじゃ!」
顔を赤くしながら、まつりは腕を組んでそっぽを向いた。あまりの分かりやすい怒りのポーズに笑いがこみ上げる。
「な、何を笑っとるのじゃ! わらわは怒っとるのじゃぞ!?」
「や、悪い悪い。あんまりにもあんまりなので、こらえ切れなくて」
「う~……今日も貴様は嫌な感じなのじゃ。……あっ、そ、そうじゃ! わらわを怒らせた罰なのじゃ、わらわにあんまんをおごるのじゃ!」
「唐突だな。肥え太りたくなったのか?」
「……本当に嫌な感じなのじゃ」
じろーっとした感じの目でにらまれた。確かに、デリカシーの欠けた発言だったか。
「冗談だが、悪かった。でも、お前はもうちょっと飯食った方がいいぞ。軽すぎる」
まつりの両ワキに手を通し、持ち上げる。さほど力をいれずとも、簡単に持ち上がった。
「わ! お、下ろすのじゃ、ばかものっ!」
「まあ落ち着け、窓の外まで手を持っていたら離してやるから」
「それじゃわらわだけが引力に引かれてミンチよりも酷くなってしまうのじゃ! 普通に教室の床に下ろすのじゃ!」
「わがままだなあ。姫の本領発揮といったところか」
「姫関係ない欲求じゃ! 生存本能なのじゃ!」
とまれ、俺も知り合いのミンチなんて見たくはない。その場にストンと下ろしてあげる。
「うむ。それでよいのじゃ」
「よかったよかった。じゃあ俺はこれで」
「うむっ♪ ……ではないっ! 普通に解放しそうになっちゃったのじゃ! なんという策士じゃ!」
「いや、策士ではなく、単にまつりが馬鹿なだけだよ」
「冷静に説明するないばかものうわーんっ!」
また泣かせてしまい、おろおろする俺です。
「さて、コンビニまで来ましたよ、姫さん」
「うむ」
なんとか泣き止ませた俺だったが、その後もスキあらば逃げようとするので手を握られてます。
「わらわを二回も泣かせた罰なのじゃ。おなかいっぱいあんまんを食べさせるのじゃ」
「え、一個じゃなくて?」
「わらわをいっぱい泣かせたのじゃから、それくらいの罰はとーぜんなのじゃ!」
「いや、おごるのは別に構わんのだが、あんま量食ったら晩飯入らないんじゃないのか? お前そんな健啖な方じゃねーだろ」
「う。……じゃ、じゃあ、二個だけにしとくのじゃ。それも、一個は今食べて、もう一個は食後に温めなおして食べるのじゃ。それなら平気じゃよ……ね?」
コクンと小首を傾げ、俺に訊ねてくるまつり。だから。気軽にそれを使うない。
「そうだな、子供は二人くらいほしいな」
「何の話じゃっ!?」
「まあとにかく、入ろう」
「わ、わわっ! ひ、引っ張るでない!」
自動ドアに念力を送ってドアをこじ開け、店内に入り、レジの前へ行く。
「……む? な、なんじゃとおおおおお!?」
しかし、運命の神は俺たちに微笑まなかったようだ。
「あの。ひょっとして、あんまん売り切れですか?」
店員さんは申し訳なさそうな顔をしながらうなずいた。
「ふむ。しょうがない、帰るか、まつり……まつり?」
まるでこの世の終わりのような雰囲気をまとわせ、力なくうつむいているまつり。そんな食いたかったのか。
「んー……あの、すいません、これください」
「ぬ……?」
店員さんに包んでもらい、レジで清算して店を出る。
「のう、のう。何を買ったのじゃ?」
俺の手をくいくいと引いて、まつりが訊ねる。
「ん、ああ。これこれ」
「ぬ? ……これは? 肉まん、かの?」
「あんまんがなかったからな。何もナシってのも寂しいし。一個しかないけど、よかったら食え」
「……ふ、ふんっ! わらわはあんまんが食べたかったのじゃ! こんなの食べたくないのじゃ!」
「そっか。残念だ」
「……で、でも、どーしてもわらわに食べてほしいのなら、食べてやらなくもないのじゃよ?」
チラチラと俺を見ながら、まつりが虚勢を張る。
「な、なんで笑うのじゃ!? 今日も貴様はしつれーなのじゃ!」
「いや、なんつーか……もう逆にそこがチャームポイントにしか見えねえ。しょうがない、結婚するか!」
「す、するわけないのじゃっ! どーして貴様はすぐにわらわに結婚を申し込むのじゃ!? と、とっても不愉快なのじゃ! ぷんぷんっ!」
まつりは顔を赤くしたままそっぽを向いた。もっとちゃんと叱ってほしいものだ。
「いやはや。とにかく、お前のために買ったんだ。できれば食ってほしいのだけれど」
「……そ、そこまで言うなら食べてやるのじゃ。……と、特別なのじゃ!」
「そいつぁありがたい。んじゃ、ほい」
まつりに包みを渡す。俺の手を離し、まつりはごそごそと中を探った。まだ湯気の立っている肉まんが姿を現す。
「んしょ、んしょ」
と、突然それを二つに割り出した。何をしているのかと思ったら、その片割れを俺に差し出した。
「も、元々あんまんを食べたかったのじゃ。お腹がそれ用になっちゃってるから、一個丸まるなんて入らないのじゃ。じゃ、じゃから、半分やるのじゃ。……他意なんてないのじゃっ!」
なんだか半分怒りながら、ぐいーっと俺に肉まんを押しつけるまつり。
「そか。じゃ、ありがたくもらおうか」
「そ、そうじゃ。ありがたがるがいいのじゃ」
俺に肉まんを渡し、まつりは即座にその手で俺の手を握った。
「……な、なんじゃ。貴様が逃げてはいかんから握っただけじゃ! 他意などないっ!」
「何も言ってません」
「へーきな顔をするでないっ、たわけっ!」
「一体どうしろと言うのだ」
「ぐぅぅぅぅ……も、もーよいのじゃ! そこの公園で一緒に食うのじゃ!」
まつりに引っ張られ、以前も来た気がする公園へ。そこのベンチにまつりと並んで座る。
「もぐもぐもぐ。……あ、おいしーのじゃ」
「ふむ。確かにうまいな」
「うむっ♪」
よほど気に入ったのか、まつりは足をパタパタさせながら肉まんを平らげた。子供みたいで行儀が悪いが、見た目が子供なので問題ないとも言えよう。
「もぐもぐもぎゅ……ぷはーっ! ごちそーさまなのじゃ。思ったよりもおいしかったのじゃ!」
「気に入ったようで何よりだ」
「うむっ♪ ……でも、ちょびっと足んないのじゃ」
明らかにまつりの視線が俺の食べかけの肉まんに注がれている。
「そ、そうか。でも、もうすぐ夕飯の時間だし、大丈夫だよな?」
「……わらわ、ちょこっとだけ足りないのじゃよ?」
稚気をふんだんに織り交ぜ、まつりは甘えた声で囁いた。ごくり、とノドが鳴る。なんだその新技。
「一個全部は食べられないんじゃなかったのか」
しかし、これ以上篭絡されるわけにはいかない。俺は目をつむって効いてないフリを試みた。
「あ、あの、あののの? ……な、なんでわらわを抱っこするのじゃ?」
「へ? ……おおおおおっ!?」
心は平静だったが、身体はその制御を失い、宿主が願う行動を取っていた。まつりを膝に乗せ、抱きかかえている。どういうことだ、俺!
「い、いやあの、ち、違うんデスよ? こ、これはその、なんつーか」
「……に、にゃー」
「えええええ!?」
「お、おぬしは以前からわらわのことを猫じゃ猫じゃと言うからの。そ、その、猫のフリをすれば肉まんをもらえるかと思ったのじゃ。……そ、それだけじゃからの?」
「な、なるほど。それなら猫の鳴き真似をするのも仕方ないですね」
「そ、そうなのじゃ。仕方ないのじゃ。にゃーなのじゃ」
「うーむ。これはなでざるを得ない」
「にゃ。にゃにゃにゃ。ふにゃー。にゃ」
リズムをつけてなでると、鳴き声にも変化が出て面白い。これはやみつきになる。
「もうっ! 人で遊んではいけないのじゃ!」
ニコニコしながらまつりが俺のなでなでを制止する。
「や、なんかもう楽しくて楽しくて」
「全く……困ったものなのじゃ。こ、こんなところを誰かに見られたら、恋人だと思われてしまうではないか」
怒ったような拗ねたような顔で、まつりが俺を見る。何かを期待している目だ。
「心の中ではお互い蛇蝎のごとく嫌ってるけどな」
なんか心の中に選択肢が出たんだけど、間違ったのを選んだ気がする。
「違わいっ! ……あ、いや、違くないけど、違うのじゃ! え、えと……そ、そこまで嫌っておらんってことなのじゃ……よ?」
「じゃあ俺が一方的にまつりを死ぬほど嫌ってるんだよ」(なでなで)
「ものすっごく優しい目&手つきのなでなでなのに、言ってる台詞が酷すぎなのじゃ!」
「わはははは。まつりは愉快だなあ」
「うぅー……貴様は冗談ばっかで、どれが本音なのか分からないのじゃ」
「うーん。行動からある程度察してください」
そう言いながら、まつりの黒髪を手で梳く。シルクのようなさらさらとした髪は、何の抵抗もなく俺の手の平を滑っていった。
「……あ、あぅ」
「赤くなるな。逆にこっちが恥ずかしい」
「っ! わ、わらわは! 貴様なんか嫌いじゃ! 嫌いじゃからな!」
「悲しい話だ」
「……で、でも、その肉まんをくれたら、ちょっとだけ好きになってやってもいいのじゃよ?」
「ふむ。それは心惹かれる提案だもぐもぐごっくん」
「あーっ!? もぐもぐごっくんって全部食べちゃったのじゃ! わらわの肉まん!」
「あ。……でも、まあ、いいか!」(ぺたぺた)
「ぬーっ!? 晴れやかな笑顔でわらわの顔に手をなすりつけるでないっ、たわけ!」
「ベタベタするんだ」
「だからと言ってどうしてわらわの顔で拭くのじゃ! こんな素敵な雰囲気でそんなのするって、貴様頭がおかしいのじゃ!」
「舐めてベタベタを取ってください」
「絶対嫌なのじゃ! ていうか明らかにベタベタ取るのと別の目的なのじゃろ!?」
「ななな何の話だか! 決して指フェラさせようとなんて!」
「今日も貴様は隙あらばえっちなのじゃーっ!」
ごばーっと怒られたが、なだめすかして舐めさせはしました。はい、変態です!(ちょお晴れやかな笑顔で)
「ちゅ、ちゅう……うー、今回だけじゃよ?」
俺の指を口内に入れながら、少しだけ困ったような顔でまつりがつぶやく。喋るたびにまつりのちっちゃな舌が指にあたり、腰骨がゾクゾクと。
「ウヒヒィ」
「ひぃーっ!? 気持ち悪いのじゃ、気持ち悪いのじゃ!」
「し、失礼な! あまりの気持ちよさに声が漏れただけですよ!?」
「それが気持ち悪いと言っとるのじゃ!」
「なんだとコンチクショウ!? 分かった、それなら明日も一緒に買い食いしよう!」
「こやつ今日もまるで話を聞いておらん!?」
「あ、別にこうやって指を舐めてもらうだけでも俺は一向にかまいません」
「わらわが一向にかまうのじゃ! 絶対に嫌なのじゃ!」
「なんと。それよりまつり、もうちょっと舐めてください」
「どんだけ変態なのじゃ貴様!? ……あ、あとちょっとしか舐めないからの?」
俺の手を両手で持ち、ぺろぺろと舐めるまつり。上目遣いで俺を見ながら、ねっとりと舌を俺の指にからめる。
「フヒヒィ!」
そりゃ再度声が漏れますよ。
「ぴぃーっ!? 何度聞いても気持ち悪いのじゃーっ!」
人気のない公園にまつりの声が響くのだった。
「なんでわらわが近寄ったら逃げるのじゃ! しつれーなのじゃ!」
後ろから俺に抱きつき、ふがーふがーと鼻息も荒くまつりが叫ぶ。
「また厄介ごとに巻き込まれそうな気がしたので、やれやれ系の主人公としてこれ以上やれやれと言いたくないので、前もってトラブルを避けただけなんです」
「貴様などやれやれ系の主人公ではないわ! そも、貴様などが主人公になれるはずがなかろう? なれてせいぜいわらわの物語の脇役に決まっておろう! にゃーっはっはっはっは……こら! 逃げるな!」
気持ちよさそうに笑ってるスキに逃げようとしたら、また見つかった。しかも、俺が知らず注目を集めてるスキに友人は姿を消してるし。くそぅ。
「はぁ……。んで、何用ですか猫姫さん」(なでなで)
「姫ではあるが、わらわは猫ではない! なでるな、たわけ!」
「なでやすい位置に頭があるのでなでてるだけだ、気にするな。ただ、猫姫なんだからちゃんと猫耳を用意しておくように。次回までの宿題です」
「だから、わらわは猫ではないと言っておろうがっ! 何度言えばわるかのじゃ!?」
「なでなでなで」
「にゃっ、にゃにゃにゃ……にゃふー」
「ほらみろ、猫だ」
「猫じゃないわいっ! 貴様に強めになでられると、なんかにゃふーって鳴いちゃうだけじゃっ!」
「馬鹿丸出しですね。いや、誤解されがちですが、褒め言葉ですよ?」
「褒めてる要素がないのじゃばかものうわーんっ!」
「ああごめんごめんなさい」
何やらうにゃうにゃ泣いてしまったので、頭をなでて慰める。この姫さんは打たれ弱すぎる。
「ぐしゅ……うう、貴様は今日もいじわるなのじゃ。すぐにわらわをいじめるのじゃ」
「基本的に人とのコミュニケーションが苦手なんだ。許せよ乙女」
「うにゅ……わらわじゃから許してやるが、次泣かしたりしたら許さんのじゃよ?」
小さな両手で俺の手を包み込み、小さく首を傾げるまつりさん。どこで覚えた、そんな殺人技。
「分かった、結婚しよう」
「そ、そんなこと言ってないのじゃっ!」
顔をべちべちべちっと叩かれた。
「ああ、いやその、混乱してましたスイマセン」
「ま、まったく! 貴様には困ったものなのじゃ! ぷんぷん、なのじゃ!」
顔を赤くしながら、まつりは腕を組んでそっぽを向いた。あまりの分かりやすい怒りのポーズに笑いがこみ上げる。
「な、何を笑っとるのじゃ! わらわは怒っとるのじゃぞ!?」
「や、悪い悪い。あんまりにもあんまりなので、こらえ切れなくて」
「う~……今日も貴様は嫌な感じなのじゃ。……あっ、そ、そうじゃ! わらわを怒らせた罰なのじゃ、わらわにあんまんをおごるのじゃ!」
「唐突だな。肥え太りたくなったのか?」
「……本当に嫌な感じなのじゃ」
じろーっとした感じの目でにらまれた。確かに、デリカシーの欠けた発言だったか。
「冗談だが、悪かった。でも、お前はもうちょっと飯食った方がいいぞ。軽すぎる」
まつりの両ワキに手を通し、持ち上げる。さほど力をいれずとも、簡単に持ち上がった。
「わ! お、下ろすのじゃ、ばかものっ!」
「まあ落ち着け、窓の外まで手を持っていたら離してやるから」
「それじゃわらわだけが引力に引かれてミンチよりも酷くなってしまうのじゃ! 普通に教室の床に下ろすのじゃ!」
「わがままだなあ。姫の本領発揮といったところか」
「姫関係ない欲求じゃ! 生存本能なのじゃ!」
とまれ、俺も知り合いのミンチなんて見たくはない。その場にストンと下ろしてあげる。
「うむ。それでよいのじゃ」
「よかったよかった。じゃあ俺はこれで」
「うむっ♪ ……ではないっ! 普通に解放しそうになっちゃったのじゃ! なんという策士じゃ!」
「いや、策士ではなく、単にまつりが馬鹿なだけだよ」
「冷静に説明するないばかものうわーんっ!」
また泣かせてしまい、おろおろする俺です。
「さて、コンビニまで来ましたよ、姫さん」
「うむ」
なんとか泣き止ませた俺だったが、その後もスキあらば逃げようとするので手を握られてます。
「わらわを二回も泣かせた罰なのじゃ。おなかいっぱいあんまんを食べさせるのじゃ」
「え、一個じゃなくて?」
「わらわをいっぱい泣かせたのじゃから、それくらいの罰はとーぜんなのじゃ!」
「いや、おごるのは別に構わんのだが、あんま量食ったら晩飯入らないんじゃないのか? お前そんな健啖な方じゃねーだろ」
「う。……じゃ、じゃあ、二個だけにしとくのじゃ。それも、一個は今食べて、もう一個は食後に温めなおして食べるのじゃ。それなら平気じゃよ……ね?」
コクンと小首を傾げ、俺に訊ねてくるまつり。だから。気軽にそれを使うない。
「そうだな、子供は二人くらいほしいな」
「何の話じゃっ!?」
「まあとにかく、入ろう」
「わ、わわっ! ひ、引っ張るでない!」
自動ドアに念力を送ってドアをこじ開け、店内に入り、レジの前へ行く。
「……む? な、なんじゃとおおおおお!?」
しかし、運命の神は俺たちに微笑まなかったようだ。
「あの。ひょっとして、あんまん売り切れですか?」
店員さんは申し訳なさそうな顔をしながらうなずいた。
「ふむ。しょうがない、帰るか、まつり……まつり?」
まるでこの世の終わりのような雰囲気をまとわせ、力なくうつむいているまつり。そんな食いたかったのか。
「んー……あの、すいません、これください」
「ぬ……?」
店員さんに包んでもらい、レジで清算して店を出る。
「のう、のう。何を買ったのじゃ?」
俺の手をくいくいと引いて、まつりが訊ねる。
「ん、ああ。これこれ」
「ぬ? ……これは? 肉まん、かの?」
「あんまんがなかったからな。何もナシってのも寂しいし。一個しかないけど、よかったら食え」
「……ふ、ふんっ! わらわはあんまんが食べたかったのじゃ! こんなの食べたくないのじゃ!」
「そっか。残念だ」
「……で、でも、どーしてもわらわに食べてほしいのなら、食べてやらなくもないのじゃよ?」
チラチラと俺を見ながら、まつりが虚勢を張る。
「な、なんで笑うのじゃ!? 今日も貴様はしつれーなのじゃ!」
「いや、なんつーか……もう逆にそこがチャームポイントにしか見えねえ。しょうがない、結婚するか!」
「す、するわけないのじゃっ! どーして貴様はすぐにわらわに結婚を申し込むのじゃ!? と、とっても不愉快なのじゃ! ぷんぷんっ!」
まつりは顔を赤くしたままそっぽを向いた。もっとちゃんと叱ってほしいものだ。
「いやはや。とにかく、お前のために買ったんだ。できれば食ってほしいのだけれど」
「……そ、そこまで言うなら食べてやるのじゃ。……と、特別なのじゃ!」
「そいつぁありがたい。んじゃ、ほい」
まつりに包みを渡す。俺の手を離し、まつりはごそごそと中を探った。まだ湯気の立っている肉まんが姿を現す。
「んしょ、んしょ」
と、突然それを二つに割り出した。何をしているのかと思ったら、その片割れを俺に差し出した。
「も、元々あんまんを食べたかったのじゃ。お腹がそれ用になっちゃってるから、一個丸まるなんて入らないのじゃ。じゃ、じゃから、半分やるのじゃ。……他意なんてないのじゃっ!」
なんだか半分怒りながら、ぐいーっと俺に肉まんを押しつけるまつり。
「そか。じゃ、ありがたくもらおうか」
「そ、そうじゃ。ありがたがるがいいのじゃ」
俺に肉まんを渡し、まつりは即座にその手で俺の手を握った。
「……な、なんじゃ。貴様が逃げてはいかんから握っただけじゃ! 他意などないっ!」
「何も言ってません」
「へーきな顔をするでないっ、たわけっ!」
「一体どうしろと言うのだ」
「ぐぅぅぅぅ……も、もーよいのじゃ! そこの公園で一緒に食うのじゃ!」
まつりに引っ張られ、以前も来た気がする公園へ。そこのベンチにまつりと並んで座る。
「もぐもぐもぐ。……あ、おいしーのじゃ」
「ふむ。確かにうまいな」
「うむっ♪」
よほど気に入ったのか、まつりは足をパタパタさせながら肉まんを平らげた。子供みたいで行儀が悪いが、見た目が子供なので問題ないとも言えよう。
「もぐもぐもぎゅ……ぷはーっ! ごちそーさまなのじゃ。思ったよりもおいしかったのじゃ!」
「気に入ったようで何よりだ」
「うむっ♪ ……でも、ちょびっと足んないのじゃ」
明らかにまつりの視線が俺の食べかけの肉まんに注がれている。
「そ、そうか。でも、もうすぐ夕飯の時間だし、大丈夫だよな?」
「……わらわ、ちょこっとだけ足りないのじゃよ?」
稚気をふんだんに織り交ぜ、まつりは甘えた声で囁いた。ごくり、とノドが鳴る。なんだその新技。
「一個全部は食べられないんじゃなかったのか」
しかし、これ以上篭絡されるわけにはいかない。俺は目をつむって効いてないフリを試みた。
「あ、あの、あののの? ……な、なんでわらわを抱っこするのじゃ?」
「へ? ……おおおおおっ!?」
心は平静だったが、身体はその制御を失い、宿主が願う行動を取っていた。まつりを膝に乗せ、抱きかかえている。どういうことだ、俺!
「い、いやあの、ち、違うんデスよ? こ、これはその、なんつーか」
「……に、にゃー」
「えええええ!?」
「お、おぬしは以前からわらわのことを猫じゃ猫じゃと言うからの。そ、その、猫のフリをすれば肉まんをもらえるかと思ったのじゃ。……そ、それだけじゃからの?」
「な、なるほど。それなら猫の鳴き真似をするのも仕方ないですね」
「そ、そうなのじゃ。仕方ないのじゃ。にゃーなのじゃ」
「うーむ。これはなでざるを得ない」
「にゃ。にゃにゃにゃ。ふにゃー。にゃ」
リズムをつけてなでると、鳴き声にも変化が出て面白い。これはやみつきになる。
「もうっ! 人で遊んではいけないのじゃ!」
ニコニコしながらまつりが俺のなでなでを制止する。
「や、なんかもう楽しくて楽しくて」
「全く……困ったものなのじゃ。こ、こんなところを誰かに見られたら、恋人だと思われてしまうではないか」
怒ったような拗ねたような顔で、まつりが俺を見る。何かを期待している目だ。
「心の中ではお互い蛇蝎のごとく嫌ってるけどな」
なんか心の中に選択肢が出たんだけど、間違ったのを選んだ気がする。
「違わいっ! ……あ、いや、違くないけど、違うのじゃ! え、えと……そ、そこまで嫌っておらんってことなのじゃ……よ?」
「じゃあ俺が一方的にまつりを死ぬほど嫌ってるんだよ」(なでなで)
「ものすっごく優しい目&手つきのなでなでなのに、言ってる台詞が酷すぎなのじゃ!」
「わはははは。まつりは愉快だなあ」
「うぅー……貴様は冗談ばっかで、どれが本音なのか分からないのじゃ」
「うーん。行動からある程度察してください」
そう言いながら、まつりの黒髪を手で梳く。シルクのようなさらさらとした髪は、何の抵抗もなく俺の手の平を滑っていった。
「……あ、あぅ」
「赤くなるな。逆にこっちが恥ずかしい」
「っ! わ、わらわは! 貴様なんか嫌いじゃ! 嫌いじゃからな!」
「悲しい話だ」
「……で、でも、その肉まんをくれたら、ちょっとだけ好きになってやってもいいのじゃよ?」
「ふむ。それは心惹かれる提案だもぐもぐごっくん」
「あーっ!? もぐもぐごっくんって全部食べちゃったのじゃ! わらわの肉まん!」
「あ。……でも、まあ、いいか!」(ぺたぺた)
「ぬーっ!? 晴れやかな笑顔でわらわの顔に手をなすりつけるでないっ、たわけ!」
「ベタベタするんだ」
「だからと言ってどうしてわらわの顔で拭くのじゃ! こんな素敵な雰囲気でそんなのするって、貴様頭がおかしいのじゃ!」
「舐めてベタベタを取ってください」
「絶対嫌なのじゃ! ていうか明らかにベタベタ取るのと別の目的なのじゃろ!?」
「ななな何の話だか! 決して指フェラさせようとなんて!」
「今日も貴様は隙あらばえっちなのじゃーっ!」
ごばーっと怒られたが、なだめすかして舐めさせはしました。はい、変態です!(ちょお晴れやかな笑顔で)
「ちゅ、ちゅう……うー、今回だけじゃよ?」
俺の指を口内に入れながら、少しだけ困ったような顔でまつりがつぶやく。喋るたびにまつりのちっちゃな舌が指にあたり、腰骨がゾクゾクと。
「ウヒヒィ」
「ひぃーっ!? 気持ち悪いのじゃ、気持ち悪いのじゃ!」
「し、失礼な! あまりの気持ちよさに声が漏れただけですよ!?」
「それが気持ち悪いと言っとるのじゃ!」
「なんだとコンチクショウ!? 分かった、それなら明日も一緒に買い食いしよう!」
「こやつ今日もまるで話を聞いておらん!?」
「あ、別にこうやって指を舐めてもらうだけでも俺は一向にかまいません」
「わらわが一向にかまうのじゃ! 絶対に嫌なのじゃ!」
「なんと。それよりまつり、もうちょっと舐めてください」
「どんだけ変態なのじゃ貴様!? ……あ、あとちょっとしか舐めないからの?」
俺の手を両手で持ち、ぺろぺろと舐めるまつり。上目遣いで俺を見ながら、ねっとりと舌を俺の指にからめる。
「フヒヒィ!」
そりゃ再度声が漏れますよ。
「ぴぃーっ!? 何度聞いても気持ち悪いのじゃーっ!」
人気のない公園にまつりの声が響くのだった。
【瑠璃 観測】
2011年10月10日
近頃体育祭の練習だとかで毎日放課後に居残りさせられる。とてもしんどいので何かと理由をつけてサボっていたのだけど、とうとう理由も底を突いてしまったので委員長に睨まれる前に屋上に退避。
「お」
「……やあ、彰人。久しいね」
しかし、そこには先客がいた。瑠璃色の長い髪を風に遊ばせ、金網越しに虚空をぼーっと眺める変人。友人の瑠璃だ。
「久しくねえ。さっきぶりだ」
瑠璃の隣に並び、金網に軽く背中を預ける。キィ、と金網が小さくきしんだ。
「彰人もサボりかい?」
「も、ってコトは……お前もか。ダメだぞ、ちゃんと練習しないと?」
「彰人はすごいね。サボりにきた当人が恥ずかしげもなくそんなこと言えるんだから」
「ちょお馬鹿にされてる」
「いや、純粋に尊敬しているんだよ?」
俺の手を握り、にっこり微笑む瑠璃。
「俺に尊敬できるところなんてねーよー」
瑠璃から視線を逸らし、遠い稜線を眺める。生徒達の声の隙間から、鳥の声が聞こえてくる。今日も世界は平和だ。どこかで世界を守ってる偉い人ありがとう。
「……ん?」
ふと隣に視線を向けると、瑠璃がじーっとこちらを見ていた。
「どした?」
「彰人といるとね、なんだか自分がとてもちっぽけな人間に感じる時があるよ」
「いやいや、いやいやいや。逆ならともかく、お前がそんなの感じる必要ねーだろ」
性格は浮世離れしているものの、成績優秀眉目秀麗才色兼備といくつ四文字熟語を連ねればいいんだ的なスペックを誇ってるくせに、何を言ってるのだコイツは。
「うーん……彰人は素直に世界を愛しているよね。私には到底無理な芸当を平気な顔でするところに、私はとても惹かれているんだよ?」
「はい?」
「……いや、そんな彰人だからこそ、世界から祝福されているのか?」
瑠璃は何事かぶつぶつと呟きだした。俺には分からない世界に生きているようだ。賢すぎるってのも大変だな。
「何を言ってんだ?」
「ん、ああ。簡単に言うと、平行世界を信じるかい、ってことさ」
「唐突だな……パラレルワールドか。面白いけど、信じるかと言われると、うーん」
「なるほど。理想の答えなのかもしれないね?」
「何がだ」
「うーん……やめておくよ。記録はともかく、記憶から消えてしまうのはとても悲しいからね?」
「…………。あの、何の話をしているのだ?」
「ふふ、いいんだよ。彰人はそれで」
瑠璃はいつものように薄く微笑むだけで、それ以上説明しようとしなかった。
「……ふぅ。たくさん喋ったら疲れてしまったよ」
何か言いたげに甘い視線を俺に向ける瑠璃。それに気づかないフリをする俺。はい、根性ナシです。
「……彰人は根性ナシだ」
むぅ、と瑠璃の口が尖っていく。このように、瑠璃にはすぐに看破されてしまうので悲しい。
「もう一度だけ言うよ? ……ふぅ。たくさん喋ったら疲れてしまったよ」
「あーと。よろしければそちらのベンチに座ってはいかが?」
「……20点、かな」
瑠璃さんは中々に辛口だ。
「疲れたらベンチに座る。人類の共通認識だと思いますが」
「そこに個人の嗜好というノイズが入るから、人間というのは面白い。そんな発言をする人もいるよ?」
「えーと。つまり?」
「よければ一緒にベンチに座らないかい? とスマートに誘ってほしいものだよ」
少しだけ頬を膨らませ、瑠璃はいつもよりちょっとだけ感情を込めて言った。
「なるほど。じゃあそれをさらに進歩させて……ええと、瑠璃。よければ俺と踊りませんか?」
間違った方向へ進歩させてしまったため、ベンチに座るはずが夢の中へ行く感じになってしまった。
「……喜んで」
一瞬目を見開いて驚いた様子を見せた瑠璃だったが、すぐにいつもの薄い空気のベールを纏いなおし、たおやかに自分の手を俺の手に乗せた。
「えーと。自分で言っておいて何だが、踊れません」
「…………」
瑠璃の頬が膨らむのと比例して、彼女の目に涙がどんどんたまっていく。
「ああごめんごめんなさい俺の知ってる踊りでいいなら踊りますから泣かないで!」
必死で慰める俺だった。
「……ここかっ!? あーっ、いたっ! ……けど、あの、何やってるの?」
「遅い夏祭りを実施中だ」
「……夏祭り?」
目を輝かせて俺と一緒に盆踊りをする瑠璃を、怪訝な目で見る委員長だった。
「お」
「……やあ、彰人。久しいね」
しかし、そこには先客がいた。瑠璃色の長い髪を風に遊ばせ、金網越しに虚空をぼーっと眺める変人。友人の瑠璃だ。
「久しくねえ。さっきぶりだ」
瑠璃の隣に並び、金網に軽く背中を預ける。キィ、と金網が小さくきしんだ。
「彰人もサボりかい?」
「も、ってコトは……お前もか。ダメだぞ、ちゃんと練習しないと?」
「彰人はすごいね。サボりにきた当人が恥ずかしげもなくそんなこと言えるんだから」
「ちょお馬鹿にされてる」
「いや、純粋に尊敬しているんだよ?」
俺の手を握り、にっこり微笑む瑠璃。
「俺に尊敬できるところなんてねーよー」
瑠璃から視線を逸らし、遠い稜線を眺める。生徒達の声の隙間から、鳥の声が聞こえてくる。今日も世界は平和だ。どこかで世界を守ってる偉い人ありがとう。
「……ん?」
ふと隣に視線を向けると、瑠璃がじーっとこちらを見ていた。
「どした?」
「彰人といるとね、なんだか自分がとてもちっぽけな人間に感じる時があるよ」
「いやいや、いやいやいや。逆ならともかく、お前がそんなの感じる必要ねーだろ」
性格は浮世離れしているものの、成績優秀眉目秀麗才色兼備といくつ四文字熟語を連ねればいいんだ的なスペックを誇ってるくせに、何を言ってるのだコイツは。
「うーん……彰人は素直に世界を愛しているよね。私には到底無理な芸当を平気な顔でするところに、私はとても惹かれているんだよ?」
「はい?」
「……いや、そんな彰人だからこそ、世界から祝福されているのか?」
瑠璃は何事かぶつぶつと呟きだした。俺には分からない世界に生きているようだ。賢すぎるってのも大変だな。
「何を言ってんだ?」
「ん、ああ。簡単に言うと、平行世界を信じるかい、ってことさ」
「唐突だな……パラレルワールドか。面白いけど、信じるかと言われると、うーん」
「なるほど。理想の答えなのかもしれないね?」
「何がだ」
「うーん……やめておくよ。記録はともかく、記憶から消えてしまうのはとても悲しいからね?」
「…………。あの、何の話をしているのだ?」
「ふふ、いいんだよ。彰人はそれで」
瑠璃はいつものように薄く微笑むだけで、それ以上説明しようとしなかった。
「……ふぅ。たくさん喋ったら疲れてしまったよ」
何か言いたげに甘い視線を俺に向ける瑠璃。それに気づかないフリをする俺。はい、根性ナシです。
「……彰人は根性ナシだ」
むぅ、と瑠璃の口が尖っていく。このように、瑠璃にはすぐに看破されてしまうので悲しい。
「もう一度だけ言うよ? ……ふぅ。たくさん喋ったら疲れてしまったよ」
「あーと。よろしければそちらのベンチに座ってはいかが?」
「……20点、かな」
瑠璃さんは中々に辛口だ。
「疲れたらベンチに座る。人類の共通認識だと思いますが」
「そこに個人の嗜好というノイズが入るから、人間というのは面白い。そんな発言をする人もいるよ?」
「えーと。つまり?」
「よければ一緒にベンチに座らないかい? とスマートに誘ってほしいものだよ」
少しだけ頬を膨らませ、瑠璃はいつもよりちょっとだけ感情を込めて言った。
「なるほど。じゃあそれをさらに進歩させて……ええと、瑠璃。よければ俺と踊りませんか?」
間違った方向へ進歩させてしまったため、ベンチに座るはずが夢の中へ行く感じになってしまった。
「……喜んで」
一瞬目を見開いて驚いた様子を見せた瑠璃だったが、すぐにいつもの薄い空気のベールを纏いなおし、たおやかに自分の手を俺の手に乗せた。
「えーと。自分で言っておいて何だが、踊れません」
「…………」
瑠璃の頬が膨らむのと比例して、彼女の目に涙がどんどんたまっていく。
「ああごめんごめんなさい俺の知ってる踊りでいいなら踊りますから泣かないで!」
必死で慰める俺だった。
「……ここかっ!? あーっ、いたっ! ……けど、あの、何やってるの?」
「遅い夏祭りを実施中だ」
「……夏祭り?」
目を輝かせて俺と一緒に盆踊りをする瑠璃を、怪訝な目で見る委員長だった。