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2025年04月22日
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【ボクっ娘は辛いものが苦手のようです】

2010年02月04日
 寒いのでラーメンが食いたいラーメン。
「というわけで、ラーメン屋に来ました」
「うわわっ、知らない間に連れてこられてる!?」
 俺に腕を掴まれびっくりしてるボクっ娘は愉快だなあ。
「さて、ボクっ娘よ。何食う?」
「ボクっ娘ってゆーな! 梓って呼べ! あと、ボクは食べないよ。タカシが無理やり連れてきたから、お金持ってくる暇なかったもん」
「あ、店員さん。チャーシュー麺とギョーザ、それと四川坦々麺をお願いします」
「聞いてないよこの人!?」
 なんか知らんがびっくりしてる梓の横で、淡々と注文を聞く店員さん。
 店員さんの後姿を見送り、梓のほっぺをなんとなく引っ張りながらラーメンが来るのを待つ。
「むにー……あのさ、さっきも言ったけど、ボク、お金ないんだけど……」
「あらかじめ警察呼んでおこうか?」
「普通おごるだろ! こーゆー展開だと!」
 変なことを言う梓のほっぺをむにむにしてたら、注文した品々が来た。
「よし、食うぞ。梓、お前どれ食いたい?」
「えっとねえ……って選んでるのにチャーシュー麺取られた!?」
「ずぞぞぞぞーっ。んむ、うまい」
「うー……ボクもチャーシュー麺がよかったのに……タカシのばか」
「まあそう言うな、坦々麺もうまいぞ?」
「汁が真っ赤じゃん! 辛いよコレ絶対! それでなくても熱いの苦手なのに!」
「知ってます」
「タカシから悪意を感じるよ!」
「知ってます」
「うー……ね、ね、交換しない? ほら、タカシ辛いの好きじゃん」
「好きだけど、それ以上に辛いのを食って苦しそうな梓の顔を見る方が好き」
「最悪だようっ!」
「ほれ、いーから早く食え。のびるぞ」
「うー……分かった、分かったよ。食べればいいんだろ?」
 梓は意を決し、箸をラーメンの中に入れた。掬い上げたそれに、麺が絡まっている。心なしか、箸を持つ手が震えている。
「……か、辛そう」
「大丈夫、俺のは辛くない」
「知ってるよッ!」
 ずるずる麺をすする俺の横で、梓は思い切って麺を口に含んだ。
「ひゃー! 辛い! 辛いよコレ! 水、みずー!」
「待て、落ち着け。すぐに俺が水を口に含み、それを吐き戻したものを用意するから」
 水を取ろうとする俺を殴り飛ばし、梓は水をがぶ飲みした。
「……ふーっ。もーっ! 余計なことばっかすんな!」
「ばか、俺が本気で余計なことをしようと思ったらこの程度では済まないぞ」
「なんでいばってるのこの人!?」
「まあそれはともかく、早く食っちまえ。のびちまうぞ」
「……でも」
 よほど辛かったのだろう、梓の手は動かなかった。
「……はぁ。ほら、貸せ」
「え?」
「俺が食べる。元々俺が嫌がらせで注文しただけだし」
「タカシ……うわっ、危ない危ない。危うく感動しそうになっちゃったよ。ていうか、先にこんなの注文したこと謝れー!」
 ムカつくのでチャーシュー麺に俺のツバ混入。
「ひゃああああ!? そ、そんなことしたらボク食べられないじゃんか!」
「大丈夫、俺はお前のツバが混入した坦々麺を平気な顔で食べれる」
 言葉通り、坦々麺の汁をごくごく。うわ、辛え。
「つ、つばなんて入ってないよ! そもそも女の子はつばなんて出ないの! バニラエッセンスが出るの!」
「歯にも体にも悪そうだな。改造人間?」
「らいだーぱんち!」
 改造に失敗したようで、攻撃力が全くないぱんちが俺に当たった。
「はぁあ……ボクも普通のラーメン食べたかったよ」
「食えよ、チャーシュー麺」
「タカシの毒唾が混入した毒汁なんて食べれないよっ!」
「元々毒チャーシュー麺だから、中和されて普通のチャーシュー麺になってるから大丈夫」
 偶然聞いてた店の親父さんが悲しそうな顔をした。
「そんなわけないじゃん! もー、食べ物を粗末にして……神様に祟られるよ?」
「じゃあ、神に祟られて死んだら、俺が梓を祟るよ」
「なっ、なんでボクの目をじーっと見つめて、あまつさえ手を握りながら言うんだよっ!」
「いや、なんか素敵っぽい台詞だし」
「っぽいだけで、内容が酷すぎだよ! これが死んだ後もずっと見守ってるとかならかっくいーのに……」
「じゃあ……こほん。もし俺が死んだら、ずっとずっと梓を見守るよ。ずっと傍にいる」
 梓の手を握り、真摯に見つめる。
「た、タカシ……」
 梓の頬が朱に色づく。俺を見つめ返す瞳も、心なしか潤んでいた。
「永遠に貴様につきまとってやる」
「感激度がMAXから0へ急落下だようっ!」
「内容は一緒だよ?」
「言葉を選べ、言葉を!」
「選んだ末の結果だ」
「ロマンスの神様が裸足で逃げ出すよぉ……」
 しょんぼりしながら、梓はチャーシュー麺をすすった。
「いいのか? それ、俺の毒唾が混入した毒チャーシュー麺なんじゃ?」
「へ? ……あああああっ! すっかり忘れてたじゃんか! もーっ、タカシが変なことばっか言うからだぞっ!」
「いやいや、普通のことも言うぞ? 稀に」
「ずっと言えっ! ……はぁ、もういーよ。一回食べたら後はもう一緒だもん、食べるよ、毒チャーシュー麺」
 またしても偶然聞いてた店の親父さんが悲しそうな顔をしてた。
「ずるずるずる。……まあ、タカシのつばが入ってるけど、おいしいはおいしいよね」
「俺の唾が梓の体内へ。これって間接キスだよな」
「ロマンの欠片もない間接キスだよぅ……」
 やや落ち込みながら、梓はギョーザを食べた。
「あ、おいひい♪」
「この店の毒ギョーザは絶品なんだ」
「これも毒!? 毒まみれだよ……」
 半泣きの店の親父さんが店員さんに慰められているのが見えた。

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【ある日突然ボクっ娘がお金持ちになったら】

2010年02月02日
 梓の奴が宝くじに当たったとかで、成金っぷりを遺憾なく発揮してやがる。
「あっはっはー! タカシタカシ、お金欲しい? ほーらあげるよ、500円」
 高らかに笑いながら、梓は床に500円硬貨を投げつけた。
「変わっちまったな、梓。お前はそんな奴じゃなかったのに……」
「素敵っぽい台詞だけど、床に這いつくばりながら言ってるからちっとも素敵じゃないよ?」
「くの、机の下に入り込みやがって……このタカシ様を舐めるな! 梓、なんか長い棒みたいなの持って来い」
「そんなはしたお金なんていーじゃん。ほら、ボクもっといっぱい持って」
「馬鹿野郎! いや女郎! つまり馬鹿女郎? え、そんな言葉あるの? いやそんなのはいい、1円でも大事にしろとお母さんに教わらなかったのか! あとやっぱ馬鹿女郎が気になる!」
「たしなめるならちゃんとそれだけに神経をしゅーちゅーしろ、ばかっ! なんだよ、馬鹿女郎って!」
「あ、物差し。これで……よしっ、取れた! ちゃーちゃっちゃっちゃちゃー♪」
「500円ぽっちで喜んで、ばかみたい」
「ほれ、お前も喜べ」
「ボクがあげたお金なのに、なんでボクが喜ばなくちゃいけないんだよ」
「喜ばないと殺す」
「わ、わーい! お金取れてよかったね、タカシ!」
 がくがく震えながらこわばる笑顔を見せる梓だった。
「明日の昼飯代が確保できたところで、と。こらっ、梓!」
「わふっ!」
 ぺしんと梓の頭をはたく。
「う~……何すんだよ!」
「金持ちになったのはいい。だが、それと引き換えに品性を失っては何の意味もないとは思わんかね?」
「床に這いつくばってお金を拾うのはいーの? しかも、それを返すわけでもなくお昼代にして」
「何言ってるのかちょっと分からんので気にしないとして、お金持ちになっても今まで通りの梓でいてくれると俺は嬉しい。あと、俺のパトロンになってくれるともっと嬉しい」
「分かんないフリするしぃ……。ところで、パトロンってなに?」
「メトロン星人に間違えやすい言葉だ」
「それで何が分かるってんだよ! パトロンって言葉の意味を聞いてるの!」
「顔から腹にかけてが赤く、手足の先は青。背中は黄色で背筋に沿って白い円形の器官が並んでいる。別名【幻覚宇宙人】」
「それ、メトロン星人の説明だよ!」
「間違えた。そうではなくて、パトロンとは後援者のことだ。芸術家とかに金出して支援する人のことをいう」
「タカシ、芸術家じゃないじゃん。ただの高校生じゃん」
「じゃあ、これから芸術家になるとお前を騙すから金くれ」
「騙す気ぜろだよこの人!?」
「もーなんでもいいから金くれ。贅沢したい。白いおまんまを腹いっぱい食ってみてえだ」
「タカシが急に農民さんに!?」
「だから金寄こせ。もしくは毎日俺に弁当作れ」
「お金はあげないけど……お弁当くらいなら、ボク作ってあげようか?」
「え、マジ? でもなぁ、お前が作ると絶対に毒入れるだろうからなあ」
「入れないよっ! なんでそんな悪人に仕立て上げられてるの!?」
「今日の会話だけでも顧みても、恨まれてること間違いないから」
「あー」
 納得されると、それはそれで傷つく。
「あ、うそうそ、嘘だよ。ボク、タカシに酷いこと言われるの慣れてるもん」
「そう言う事により普段から俺に虐げられていることを知らしめると共に、自らの健気さもアピールするとは……恐ろしい」
「考えすぎだよ! そこまで言うならさ、コックさん雇って、その人に作ってもらおうか?」
「……んにゃ、やっぱお前の作るのがいい」
「えっ? ……あ、あぅ」
「そこの変な人、ここは赤面禁止帯なので赤面しないように」
「へっ、変な人じゃないよ、変な人じゃないよ! 変な人にかけてはタカシに勝てるわけないよっ!」
「ばか、俺なんて世界変な人コンクールじゃ歯牙にもかけられないレベルだぞ?」
「あるの、変な人コンクール!?」
「知らん」
 梓の顔がはぅーって感じになった。
「まーそーゆーわけで、明日から弁当頼むな」
「はぅー。……え、あの、いいの?」
「いいも何も、俺が頼んでるんだ」
「……えへへっ、分かったよ、ボクにお任せだよっ♪」
「金粉を散りばめた弁当を製作し、俺を辟易させる未来に思わず微笑がこぼれる梓だった」
「そんなつもりで笑ってるんじゃないの!」
 よく分からんが、金持ちになっても今まで通りの梓のようで、何よりだ。

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【ツンデレに味噌汁作ってくれって言ったら】

2010年02月01日
 ……プロポーズ? まあいいや、言うぞ!
「梓、俺に味噌汁を作ってくれ」
「もー既に作ってるじゃん」
 しまった、今は食事中であり、現在俺がわっしわっし食ってる飯はすべて梓手製のものでありうめえ!
「あ、おかわりってコト? あー、またワカメ残してる。ちゃんと食べないとダメだよ?」
「ワカメを食うと髪が伸びるんだ。1秒で10mくらい」
「知らない間にタカシが妖怪に!? ていうかワカメ食べたら髪が伸びるって迷信だよ?」
「なんだ。なんでもいいや、おかわり」
 梓に茶碗を渡し、その隙に作戦を練り直す。このタイミングで言っても味噌汁をただ足されるだけなので、鍋に味噌汁がなくなってから言おう。
「……む? しかし、それではさらに追加で味噌汁が作られるだけでは? そんな飲みたくないぞ」
「何を一人でぶつくさ言ってるの? 変なの。まあいっつも変だけど」
 味噌汁のおかわりを俺に渡しながら、梓が俺を変人扱いする。
「いやな、ちょっと味噌汁関連で支障が起こりまして」
「師匠?」
「そう、師匠」
 間違ってるときこそ強くうなずけと昔恩師に教わったので、忠実に行う。
「味噌汁の師匠……赤だし?」
 梓の中では赤だしは味噌汁の上位らしい。
「すし屋とかで食うよな」
「おいしーよね。あ、晩におすし屋さん行こっか? タカシのおごりで」
「心の中がお前への恨み言でいっぱいだけど、普段色々世話になってるから別にいいよ」
「前置きが超余計だよっ! そんなこと言われたら行けないよっ!」
「だいじょうぶ、表面には出さないよう細心の注意を払うから」
「余計怖いよっ! もーいいよ、なんか作るよ。チャーハンとか」
「別にいいけど……お前チャーハン好きだなあ。ウッチャン?」
「違うっ! 簡単だから作るだけだよっ! 作ってもらってて文句言うなっ、ばかっ!」
 ぶちぶち言いながらも晩飯まで作ってくれる梓はいい奴だと思う。よし、この感謝を表に出してみよう。
「いつもありがとうな、梓」
「な、なんだよ、いきなり。気持ち悪いなあ」
「や、なんだかんだ言って、いい奴だなあって思って。俺みたいなひねくれ者相手に優しくしてくれるのって、おまえくらいだし」
「え、あ、……そ、そーだよ! もっとボクに感謝しろよ!」
 一瞬どうしたものかとうろたえた後、梓は胸を張って偉そうにした。しかし、慣れてないのか顔が赤い。
「分かった、ボクっ娘教を作って信者を募るから待ってろ。お布施でうはうはだぞ?」
「感謝の方向性が違うっ! そ、そじゃなくてさ、……そ、その、お買い物に一緒に行くとか、映画に行くとかさ。……で、デートとかじゃなくてね!?」
「分かった、一緒に出かけてる最中に『デートじゃない! これはデートじゃない!』と叫べばいいんだな?」
「タカシ頭おかしいよ!?」
「故意犯なんだ」
「性質が悪いよこの人!?」
 梓はがっくりうなだれてしまった。……あー、いかんな。梓といると、ついふざけてしまう。
「じゃあ、味噌汁を作ってくれ」
「さらにこの上味噌汁まで作れとな!? どこまで勝手なんだよこの人!?」
「これからずっと」
「毎日!? なんて大変……え?」
「そう、毎日」
「……え、えええええっ!?」
 梓が超うるせえ。
「そ、それって、ぷ、ぷ、ぷ」
「プレパラート」
「違うっ! そじゃなくて、その、……ぷ、プロポーズ?」
「いや、ただ純粋に俺に飯を作り続けろと言う命令」
「みらくるちょっぷっぷ!!!」
 何かが逆鱗に触れたのか、大変奇妙なチョップを俺の頭脳に繰り返し炸裂させる梓。
「返せー! 乙女のドキドキを返せー!」
「もぐもぐ……食事中に暴れてはいけませんよ、梓さん?」
「誰のせいで暴れてると思ってるんだよ、ばかーっ!」
 もしゃもしゃ飯を食う俺の頭をチョップしまくる梓だった。

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【自分の名前が気に入らないツンデレにそんなことないよ俺は好きだよって言ったら】

2010年01月28日
 ボクっ娘と一緒に帰宅中、不意に件の娘がため息をついてるのにきずいた。
「せいやっ! せいやあっ!」
「うわあああ!? なになに、何事!?」
「いや、気づいたと言おうとしたのだけど、変換を誤って築いたと言ってしまったので、仕方なく梓の頭に煎り豆を築きあげてる最中です」
「色々ダメだよこの人!?」
 全くその通りと思ったので、煎り豆砦の建築は中止する。果てしなく防衛力なさそうだし。
「まったくもー……どしたの、その豆」
「おやつ。家から持ってきた」
「タカシはへーわだねぇ……一個ちょーだい」
「いいぞ。はい、あーん」
「…………」
 梓は無言で俺から豆をひったくり、口の中に入れた。
「なんて酷い奴だ」
「あーんなんてするわけないだろ、ばかっ!」
「いや、する。特に歯医者とかでならしまくる」
「誰でもそうだよ、そんなの!」
「なんだ。それよりだな、梓の人。何か悩み事があるなら俺に言え。解決は期待するな」
「まるで話そうと思えない前置きを言うな、ばかっ! ……いちおー言うけど」
 言うのか。
「……あのね、ボクって名前、梓っていうじゃん?」
「初耳だ」
「タカシさっきから梓あずさって言ってるじゃんか! ふつーに受け答えしろよ!」
「任せろ、得意だ」
「…………」
 俺がこう言うと、誰が相手でも大概ジト目で見られます。
「……まあいいや、タカシだし。あのね、ボク梓って名前があんまり好きじゃないんだ」
「なんだと!? じゃあ俺はタカシって名前が異常に嫌いだ。その名を聞いただけでも虫唾が走るのに、その名を俺が持っているせいで常に虫唾が走り、故に体が痒い」
「なんで無駄に対抗すんだよっ!」
「だが実際は昨日体を洗うの面倒だから洗っておらず、そのせいで体が痒い」
「うるさいっ! 今はボクが悩み事を話すターンなの!」
 叱られたので黙る。
「……えーと。あ、そーそー。ボクの名前の話だ。タカシはどう? ボクの名前」
「あずにゃんって名前なら既に婚姻届を出してるが、梓という珍妙な名前のせいで基本的には心の中は恨み言でいっぱいだ」
「珍妙なのはあずにゃんって名前の方だし、なんで梓って名前だけで恨まれてるんだよっ! ていうかボケは一回につき一つにしろっ! つっこみが大変だよっ!」
 何について怒られているんでしょうね。
「冗談はさておき、俺は梓って名前好きだよ」
「ふぇっ!?」
「そう、笛」
「何が!?」
 そんなものは俺にだって分からない。
「そ、それよりさっき! す、す、す、好きって! タカシ、好きって言った!」
「いや、言ってない」
「堂々と嘘つくなっ! ど、どしよ……うわわ、心臓ばくばく言ってる」
「あー……何か勘違いしているようなので一応訂正しておきますが、名前の話ですよ、好きって言ったの」
「へ? ……え、えと、そんなの分かりまくりだもん。わざとだもん。タカシを騙しただけだもん」
 羞恥のためか、梓は顔を真っ赤にして俺を見た。
「……でも、そっか。タカシはボクの名前好きなんだ。ねー、そんな好きならさ、特別にボクの名前呼ぶの許可してあげる。いっぱい呼んでいーよ?」
「梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓梓」
「怖い怖い怖いっ! なんで無表情で連呼すんだよっ!」
「ごめん。次から携帯に非通知で真夜中に連呼する」
「それだけで一本ホラー映画作れそうなくらい怖いよっ! もっと普通に言えっ!」
「わーったよ。……こほん、梓」
 優しく呼びかけてみると、梓の顔がほにゃーっと蕩けた。
「え、えへ、えへへ……えへへへっ♪ ねーねー、もっかい呼んでもいーよ?」
「いえ、一度で充分です」
「言っていーってばさ。ほらほら」
「いや、だから」
 充分と言ったのに、何度も何度も何度も呼ばされた。その度ほにゃーっとなるので、こちらも思わずほにゃーっとなりそうで大変でした。

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【男がツインテール好きと知ったボクっ娘】

2010年01月26日
「ツインテールの子っていいよね。あのちょいーんってなってる髪で朝起こされたいよね。なんなら俺のいけない箇所をそれでくすぐってほしいよね」
「タカシが本格的に生物としてアウトだ!」
「しまった、俺の密やかな願望をボクっ娘に聞かれた!」
「ボクっ娘ってゆーな! 梓って素敵すぐる名前があるの、ボクには! ていうか、ボクが聞き耳立ててたみたいに言うな! わざわざボクの席まで来てでっかい声でしゃべってるじゃん!」
「それは、遠まわしに、お前にツインテールになれと言っているのです」
「絶対なんないっ! ていうか、ボク髪短いから無理だもん」
「これだから丸坊主はダメだな」
「ショートカットだよ!? ……タカシ目までダメなの?」
「まで、とか言うな」
「み゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? あだま、あだま割れるーっ!?」
「アイアンクローは鉄の尻」
「鉄の爪だよ!? あぅーっ、痛い痛い痛いーっ!?」

 そんな鉄の尻の翌日、頭ぼやーっとしたまま登校してると背後から声をかけられた。
「……お、おはよ、タカシ」
「あー、おはよ梓……梓?」
 条件反射的に挨拶を交わしてから、その交わした人物を改めて見る。
「……な、なんだよ」
「すいません、人違いでした」
「合ってるよ!?」
「いや、俺の知ってる梓は丸坊主で」
「翌日まで引っ張るネタじゃないっ!」
「まちがい。丸坊主ではないが、普通のショートカットだったはず」
 そう。梓の頭にちょこんと結わえられてる小さな髪の固まりは、昨日までは存在しなかったはずだ。
「……べっ、別にタカシのためじゃないもん! いめちぇんだもん、いめちぇん!」
 何かぎゃーぎゃー言ってるが、そんなことより俺は梓の頭で揺れる小さなツインテールに心奪われていた。
「ふぅむ……いやはや、可愛いな」
「あ……」
 思わず手が出た。梓の頭に手を乗せる、なでなでなでる。
「……ぅー」
「変な声を出すない」
「う、唸ってるんだよ! 威嚇だよ、威嚇! わんわん!」
「犬だ」
「notわんわん! 人間だよ!」
「自分から言い出して何言ってんだ」
「うー……だ、だって、いきなり頭なでたりするから……」
「すまん。次はいきなり尻をなでる」
「痴漢宣言!?」
「関白宣言みたいで売れそうだな」
「確実に捕まるよ! ……そ、それより、いつまでボクの頭なでてんだよ」
「あ、すまん」
 気づかなかったが、無意識のうちにずっと梓の頭をなでていたようだ。
「……すまん、って言いながらなで続けてるしぃ」
「大丈夫。今は自分の意思でなでている」
「……うー」
 何か文句を言いたかったのだろうけど、うまい文句が浮かばなかったのか、梓は少しだけ不満そうに口を尖らして俺を上目遣いで見た。
「しかし、アレだな。道端で頭なでてる状態って、布教してるみたいだな」
「とてもノー! 誰がどー見てもイチャイチャバカップル状態だよ! ……ば、バカップル!?」
 自分で言っておいて、梓は自分の言葉に衝撃を受けているようだ。
「う、うー……タカシなんかとバカップルに見られるなんて、今世紀最大の屈辱だよ……」
「梓さん」
「な、なんだよ」
「口元がニヤニヤしているのはわざとですか」
「ええっ!? し、してない、してないよ!? ……してないよね?」
「してます」
「むーっ!」
 梓は突然自分のほっぺをぎゅーっとつねった。
「……ふぅ。これでニヤニヤなんかしないもん」
「まだ笑ってる」
「まだ!? う、うぅ……い、いい加減ボクの頭なでるのやめろよ!」
「しかしだな、梓の人。こんな可愛いツインテールの持ち主を可愛がることをやめることが出来るだろうか。いやできない。反語。でも頑張れば出来る」
「反語が消えた!?」
 言葉通り、頑張って梓の頭から手をどける。まあ、嫌がってる奴に無理やりすることでもないしね。
「……そ、そんなすぐやめることないと思わなくもないけど。人に言われたからすぐやめるって、自分がないみたいでボクは嫌いだなー」
「しかし、その梓の提言を聞くと、この提言すら否定する羽目になり、結果ここでビッグバンが起き宇宙が誕生します」
「誕生しない! 途中で考えるの面倒になったろ!?」
 俺の考えは梓に読まれがちです。
「しかし、梓。なんでまたツインテールに?」
「だ、だから、いめちぇんだよ。いーだろ、ボクがいめちぇんしたって」
「ほう。つまり、俺がツインテールの良さを語ったその日、偶然にも梓がイメチェンしたくなり、さらに偶然にツインテールにした、と言うのだな」
「……そ、そうだよ。偶然がいくつも重なり合ったんだよ。文句ある!?」
 腰に手を当て、俺を睨んで威圧する梓。だがその視線はきょろきょろと定まっていなかった。
「本来ならあるはずなのだけど、俺に都合の良い偶然が重なったのでまったくないです」
 梓のショートツインテールを指先で遊びながら答える。
「こ、こら、いじるなよぅ」
「やけにエロい台詞だ! 録音せねば!」
「するなっ!」
 急いで鞄からmp3プレーヤーを取り出してたら、怒られた。
「や、それにしてもよい光景だな。これからも毎日お願いします」
「ヤだよ。今日は特別だもん。明日っからはいつも通りだよ」
「なんと! また丸坊主の日々か!」
「ショートカットって言ってるだろ! どれだけ引っ張ってるんだよ!」
「まあそう言わず、毎日とは言わないから、たまには今日みたいな髪型にしてくれないか?」
「……どーしよっかな?」
 梓は意味ありげに片目をつむって俺を見た。
「……分かった。今日から心の中で呟いてたお前への悪態の量を減らすよ」
「すっごく恨まれてる!? ていうか減らすって、0にはしないの!?」
「もしくは、俺のおごりでお買い物やら食事に付き合います」
「えっ、そ、それって、で、……デートじゃん」
「そんな深く考えず。自分の懐は痛まずに思い切りショッピングを楽しめると考えましょう」
「……そ、そだね。ぜ、贅沢できるなら、たまにはこの髪型にしてあげよっかな?」
「でもよく考えると普段のお前の髪型も好きだし、贅沢されて破産するくらいなら別に以前のままでもいいかと思った」
「何もかも台無しだよ!? ……え、ていうか普段のボクも好きって……え? ……えええええっ!?」
 梓は顔を真っ赤にして大音量で叫んだ。
「大変にうるさいです。普段のお前が好きではなく、普段のお前の髪型も嫌いではない、と言ったのです」
「な、なんだ……びっくりした」
「俺もお前の声の音量にびっくりして失禁した」
「お爺ちゃんかっ!」
「将来的には」
「そーゆーことじゃなくて! ……あ、そーだ。それよりさ、いつもの髪型に戻すってことはさ、今日のデートは……?」
「デートじゃないって自分で言ってたろ」
「デートじゃないけど、デートじゃないけど! なんかそーゆーのあったじゃん! それはどーなったの?」
「当然、キャンセル」
「そ、そんなぁ……」
 目に見えて梓が落ち込んだ。肩が地面まで落ちそうだ。
「そんな贅沢したかったのか」
「違うよ、タカシと一緒にいた……そそそそそうっ! 贅沢したかったの!」
「…………」
 なんつーか、こいつは、計算じゃないのがずるい。
「や、やー、すっごくお金使いたかったのになー? 残念だなー?」
「……いやはや。うん、それなら放課後遊びましょうか」
「ホントにっ!?」
「本当に」
「やたっ! えへへっ、たーっくさん奢ってもらうから、覚悟しろよ?」
 ニコニコと嬉しそうな顔をしてる梓の頭で、小さく揺れるツインテールだった。

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