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2025年04月21日
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【ボクっ娘はなでなでして欲しいけど素直には言えないようです】
2010年03月18日
ボクっ娘をお家に招待しました。それはいいんだけど、さっきからすごい見られてる。
「……あの、何か用でしょうか」
「別に」
訊ねてもそっけない。これはアレですか、頭の中で俺をミンチにする作戦を虎視眈々と練っていると? 生きたままミキサーに? 特製タカシ汁のできあがり、なんて。
嫌だ、そんな死に方嫌だ! 死にたくねぇ!
「うわっ、いきなり泣き出したよこの人!?」
「うっうっ、タカシ汁は勘弁してくださいぃ……」
「? タカシ汁ってなに?」
泣きながら説明したら怒られた。
「なんでボクがタカシをミンチにしなきゃいけないんだよ!」
「いや、普段よく馬鹿にしてるし、憤懣やるかたないとか言いながら巨大ミキサーに俺を入れるのかな、と」
「やるかたくないよ! まったく、タカシは変なことばっか言うから困るよっ!」
「しかし、そうじゃないとしたら一体なにをお考えで? さっきから俺のことじーっと見てるし」
「う……み、見てなんかないもん。何も思ってないもん」
「やはりタカシ汁をご所望で」
「ごしょもわないよ! ちょっとなでなでしてほし……ななな、なんでもないよっ! 何も言ってないよ!」
「ふふ……語るに落ちたな、梓! いやさ、あずっさ!」
ジョジョ立ちを決めながらずびしとあずっさに指をさす。
「う、うう……変なポーズで変な呼ばれ方したけど、それどころじゃないよぉ……」
失礼な。
「しかし、頭なでてほしいって……まるっきり犬だな、犬。梓、お手」
「わんわんじゃないよ! 超人間だよ、ちょー! お手とかしない!」
「お手したらなでなですること請け合い」
「……う、うう……し、しないもん。ホントはなでなでとかしてほしくないもん。ほら、ボク大人だし? 大人はなでなでとかしてもらっても嬉しくないし? 第一タカシなんかになでなでしてもらっても?」
「じゃあいい。遊ぼう。ゲームしようゲーム」
「でででもタカシがどうしてもボクの頭なでたいって言うならボクもやぶさかでないというかそのボクとしては」
「長い! もっと短く! 3文字以内で!」
「う、う~……な、『なでて』」
まさか3文字で収められるとは思ってもいなかった。不覚。
「お、収めたよ! ほら、約束は守るべきだよ!」
「む、それは確かに。約束は守るべきだ。古今、エロいゲームにおいて幼少時代の約束がそのままフラグになることは多々あるからな」
「意味分かんないよ! いーからその、……アレしろよ! “な”がつくアレ!」
「な……殴り合いか! しかし、いかに相手が梓とはいえ、女性を殴る趣味はないなあ。なので、俺が一方的に梓の胸部やらでん部やらをまさぐる遊びにしよう」
「それただの痴漢だよっ! じゃなくて、分かってるだろいじわる虫っ!」
「はははははは」
「もういいよっ。ふん、別になでなでしてもらわなくても死なないもん。へーきだも……え?」
からかうのに満足したので、今度は梓を満足させる番。優しく優しく梓の頭をなでる。
「……い、今さらなでられても、その……」
「じゃ、やめよっか?」
「ダメっ! ……う、あ、いやその……ふにゅ」
変な鳴き声を発し、梓は困ったように視線をさ迷わせた。
「なでなでなでなで」
「あ、あの……た、タカシって本当ボクの頭なでるの好きだよね。ま、まったく、付き合ってあげるボクに感謝するんだよ?」
「そういうことは顔の赤さを取り除いてから言え」
「赤くないよ、全然赤くないよ! ……赤くないよね?」
「赤い。真っ赤。赤といえば梓、と連想するくらい赤い。しかし」
「気のせいだよ目の迷いだよ目が潰れたんだよ! だから色々言うのはやめたほうがいいよ!」
「自分から言い出したくせに、照れなくてもいいと思うんだが」
「……て、照れるとか意味分かんない。なんでボクが照れなきゃいけないんだよ。ふん、だ」
とか言いながら湯気が出そうなほど顔を真っ赤にさせる梓をなでまくる俺でした。
「……えへへぇ」
「梓たん、物凄くにやけてますが」
「にやけてないっ、にやけてないよ! 嬉しくなんかないよ!?」
大満足。
「……あの、何か用でしょうか」
「別に」
訊ねてもそっけない。これはアレですか、頭の中で俺をミンチにする作戦を虎視眈々と練っていると? 生きたままミキサーに? 特製タカシ汁のできあがり、なんて。
嫌だ、そんな死に方嫌だ! 死にたくねぇ!
「うわっ、いきなり泣き出したよこの人!?」
「うっうっ、タカシ汁は勘弁してくださいぃ……」
「? タカシ汁ってなに?」
泣きながら説明したら怒られた。
「なんでボクがタカシをミンチにしなきゃいけないんだよ!」
「いや、普段よく馬鹿にしてるし、憤懣やるかたないとか言いながら巨大ミキサーに俺を入れるのかな、と」
「やるかたくないよ! まったく、タカシは変なことばっか言うから困るよっ!」
「しかし、そうじゃないとしたら一体なにをお考えで? さっきから俺のことじーっと見てるし」
「う……み、見てなんかないもん。何も思ってないもん」
「やはりタカシ汁をご所望で」
「ごしょもわないよ! ちょっとなでなでしてほし……ななな、なんでもないよっ! 何も言ってないよ!」
「ふふ……語るに落ちたな、梓! いやさ、あずっさ!」
ジョジョ立ちを決めながらずびしとあずっさに指をさす。
「う、うう……変なポーズで変な呼ばれ方したけど、それどころじゃないよぉ……」
失礼な。
「しかし、頭なでてほしいって……まるっきり犬だな、犬。梓、お手」
「わんわんじゃないよ! 超人間だよ、ちょー! お手とかしない!」
「お手したらなでなですること請け合い」
「……う、うう……し、しないもん。ホントはなでなでとかしてほしくないもん。ほら、ボク大人だし? 大人はなでなでとかしてもらっても嬉しくないし? 第一タカシなんかになでなでしてもらっても?」
「じゃあいい。遊ぼう。ゲームしようゲーム」
「でででもタカシがどうしてもボクの頭なでたいって言うならボクもやぶさかでないというかそのボクとしては」
「長い! もっと短く! 3文字以内で!」
「う、う~……な、『なでて』」
まさか3文字で収められるとは思ってもいなかった。不覚。
「お、収めたよ! ほら、約束は守るべきだよ!」
「む、それは確かに。約束は守るべきだ。古今、エロいゲームにおいて幼少時代の約束がそのままフラグになることは多々あるからな」
「意味分かんないよ! いーからその、……アレしろよ! “な”がつくアレ!」
「な……殴り合いか! しかし、いかに相手が梓とはいえ、女性を殴る趣味はないなあ。なので、俺が一方的に梓の胸部やらでん部やらをまさぐる遊びにしよう」
「それただの痴漢だよっ! じゃなくて、分かってるだろいじわる虫っ!」
「はははははは」
「もういいよっ。ふん、別になでなでしてもらわなくても死なないもん。へーきだも……え?」
からかうのに満足したので、今度は梓を満足させる番。優しく優しく梓の頭をなでる。
「……い、今さらなでられても、その……」
「じゃ、やめよっか?」
「ダメっ! ……う、あ、いやその……ふにゅ」
変な鳴き声を発し、梓は困ったように視線をさ迷わせた。
「なでなでなでなで」
「あ、あの……た、タカシって本当ボクの頭なでるの好きだよね。ま、まったく、付き合ってあげるボクに感謝するんだよ?」
「そういうことは顔の赤さを取り除いてから言え」
「赤くないよ、全然赤くないよ! ……赤くないよね?」
「赤い。真っ赤。赤といえば梓、と連想するくらい赤い。しかし」
「気のせいだよ目の迷いだよ目が潰れたんだよ! だから色々言うのはやめたほうがいいよ!」
「自分から言い出したくせに、照れなくてもいいと思うんだが」
「……て、照れるとか意味分かんない。なんでボクが照れなきゃいけないんだよ。ふん、だ」
とか言いながら湯気が出そうなほど顔を真っ赤にさせる梓をなでまくる俺でした。
「……えへへぇ」
「梓たん、物凄くにやけてますが」
「にやけてないっ、にやけてないよ! 嬉しくなんかないよ!?」
大満足。
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【吸血鬼になったボクっ娘】
2010年03月17日
数日前から学校に来ないなと思ってボクっ娘宅にお邪魔したら、吸血鬼になったらしい。面白そうなので、信じることにする。
「うう……なんでこんなことに」
「大変だね」
「まったくちっとも全然心がこもってないよ! ちゃんと信じてる? もっと全身全霊で同情してよ!」
同情と言い切った。そこまで言うならこっちもやってやる!
「可哀想だ、可哀想だぞボクっ娘! だが、来世はぼいんぼいーんな巨乳に生まれると信じて、現世はつるぺたで生きろ」
「胸のことで同情しろなんて言ってない! ていうか来世って、現世はもう無理なの!?」
「む、腹が減った。ボクっ娘、菓子を持てい」
「人の話を聞けっ! あと、ボクっ娘ボクっ娘ゆーなっ! 梓って呼べよ、梓って! なんでそんな偉そうなんだよっ!」
「分かった、話も聞くし梓とも呼ぶし精神的に平民になる。で、なんだっけ? 吸血鬼?」
「そうだよ。うう……これからは語尾にザマスってつけなきゃだよ。……あ、ザマス」
ボクっ娘の中の吸血鬼観はおかしかった。
「それでは有閑マダムのようなので却下」
「ボクとしてもありがたいよ」
「それで?」
「?」
ボクっ娘は不思議そうに小首を傾げた。その動作は大変可愛らしいですが、そうではなくて。
「俺にどうしろというのだ。生憎と白木の杭なんて持ってなくてな。だが、明日には用意するから待っててほしい」
「杭なんてどうするの?」
どうやら知らないようなので、俺の知っている吸血鬼の弱点(白木の杭を心臓に打ち込むと死ぬ)を述べてみる。
「なんで殺そうとするんだよッ! 怖いよ、吸血鬼ハンターだよ! 吸血鬼ハンタータカシ……ちょっとかっこいいよ!」
「怒るか褒めるかどっちかにしろ」
「えーと……じゃ、怒るよ! 殺意をぶつけられてぷんぷんだよ!」
「いかん、吸血鬼が怒ってるのにまるで怖くない」
「……し、新米吸血鬼だからカナ?」
激しく違うと思うが、はっきり言うと泣かれてしまいそうなので黙っておこう。
「で、なんの話だっけ?」
「ええと、タカシがボクを殺そうとしたことだよ。友達を殺そうとするなんて、タカシは酷いね。極悪だね。ヤクザも真っ青だよ」
「いやなに、俺はてっきり『化け物としてでなく、人として死にたいんだよ。……せめて、愛する人の手で』とかいう展開かと思っただけで」
「あ、ああ愛してなんかないよ! ホントだよ!? ホントだもん!」
「んな全力で否定しなくとも分かってる。ただの冗談だろーが」
「……ふん、分かってないじゃん」(ぼそり)
「何をだ! 言わねば頭蓋骨を粉砕する!」
「タカシ耳が良すぎで、その上怖すぎるよ! 吸血鬼を脅すなよ、ばかっ!」
涙目で抗議されたので、粉砕はやめておく。つーか、今の梓は吸血鬼なので逆に俺が粉砕される。
「……うー、そうじゃなくて、血が吸いたいんだよ、血。ね、ちゅーってしていい?」
「任せろ!」
梓を抱き寄せ、顔を近づける。
「なな、ななな!? なにしてんだよぉ!?」
「ちゅー。いわゆるキス」
「ちゅー違いだよ! 吸うの! ボクが! タカシの血を! ちゅーって!」
「なんだ、紛らわしい」
解放すると、梓はそっぽを向いて3回ほど深呼吸し、こっちに向き直った。
「ま、まったく、どんな勘違いなんだよ。やれやれ、困ったちゃんだね、タカシは」
「梓、まだ顔赤い」
「うるさいッ!」
せっかく教えてあげたのに怒られた。
「とにかく! 血吸うの! いい? いいよね? いただきまー」
「断る!」
「……そ、そうだよね、誰もボクみたいな化け物と一緒にいたくないもんね。……一人寂しく野垂れ死んだ方がいいよね」
いかん、梓たんが一瞬にして自分の世界に逃げ込んでいく!
「というのはフェイントで、本当は血を吸ってほしくて仕方がないんだ」
「フェイント?」
「いーから吸え。早くしないと帰る」
「あっ、あっ、分かったよ。もう、せっかちだなぁ……」
首元をさらす。梓は歯を立て、おずおず俺の首筋に喰らいついた。
「いつっ」
吸血鬼に血を吸われると、絶頂に近い感情を得ると何かで見たのだけど……何か吸われてる感覚だけで、気持ちよくなんてなかった。ちょっと残念。
「ちうちう……ごめんね、タカシ」
「いいさ。蚊に吸われてるのに慣れてる……あ」
「ちゅーちゅー……なに? どしたの?」
「いま気づいたが、血吸われたら俺も吸血鬼になるんじゃ?」
「…………」
「おい。黙るな」
「……え、えへへ、……吸血鬼コンビたんじょー……なんて」
すかさず梓の頭をどつく。
「叩いた! 女の子の頭叩いたよ! 悪魔だよ!」
半泣きのまま両手で頭を押さえる梓のほっぺを引っ張る。
「悪魔じゃなくて吸血鬼だよ!」
言ってるそばから口中に違和感が。……伸びてるな、犬歯。
「あぅあぅ、あぅーっ!」
「ええい、日本語喋れ日本語! もしくは中国語!」
「うー……にーはお!」
中国語を喋ったので許す。梓を解放し、自分の頭を抱える。
「はぁ……吸血鬼なぁ。困ったなあ」
「んー……けっこーへーきだよ? ご飯にちょっと困って、お日さまの光浴びてもちょっとくらくらーってするだけで、だいじょびだったし」
「……浴びたのか?」
「いや、今日寝ぼけてて、人間の時みたいにカーテン開けたらお日さまがぴかーって。てへ」
そのまま灰になってもおかしくない事を平然とするところが、実にボクっ娘的というか。
「まーいーや。とにかく、明日から学校来い。とりあえず普通に日常をこなしつつ、人間に戻る方法を探るべ」
「別にボクはこのままでもいーけど。……タカシとおんなじだし」(ぼそり)
「性別が!? 知らなかった……」
「だから、なんでそんな耳いーんだよ! そして性別は違う! ボク女の子! がーる!」
「そうだな。……そうだといいな」
「なんでそんな慈愛に満ちた目で見るんだよぉ!? ホントだよ、女の子だよ! ……いや、パンツの中は見せないけどさ」
「なんだ」
「なんだって言った! やっぱそれが目当てだったんだ! タカシのエロ! エロ吸血鬼!」
こんなふうに梓とじゃれあってると、別に吸血鬼でもいいかと思えてくる。……梓と一緒だし。
「うう……なんでこんなことに」
「大変だね」
「まったくちっとも全然心がこもってないよ! ちゃんと信じてる? もっと全身全霊で同情してよ!」
同情と言い切った。そこまで言うならこっちもやってやる!
「可哀想だ、可哀想だぞボクっ娘! だが、来世はぼいんぼいーんな巨乳に生まれると信じて、現世はつるぺたで生きろ」
「胸のことで同情しろなんて言ってない! ていうか来世って、現世はもう無理なの!?」
「む、腹が減った。ボクっ娘、菓子を持てい」
「人の話を聞けっ! あと、ボクっ娘ボクっ娘ゆーなっ! 梓って呼べよ、梓って! なんでそんな偉そうなんだよっ!」
「分かった、話も聞くし梓とも呼ぶし精神的に平民になる。で、なんだっけ? 吸血鬼?」
「そうだよ。うう……これからは語尾にザマスってつけなきゃだよ。……あ、ザマス」
ボクっ娘の中の吸血鬼観はおかしかった。
「それでは有閑マダムのようなので却下」
「ボクとしてもありがたいよ」
「それで?」
「?」
ボクっ娘は不思議そうに小首を傾げた。その動作は大変可愛らしいですが、そうではなくて。
「俺にどうしろというのだ。生憎と白木の杭なんて持ってなくてな。だが、明日には用意するから待っててほしい」
「杭なんてどうするの?」
どうやら知らないようなので、俺の知っている吸血鬼の弱点(白木の杭を心臓に打ち込むと死ぬ)を述べてみる。
「なんで殺そうとするんだよッ! 怖いよ、吸血鬼ハンターだよ! 吸血鬼ハンタータカシ……ちょっとかっこいいよ!」
「怒るか褒めるかどっちかにしろ」
「えーと……じゃ、怒るよ! 殺意をぶつけられてぷんぷんだよ!」
「いかん、吸血鬼が怒ってるのにまるで怖くない」
「……し、新米吸血鬼だからカナ?」
激しく違うと思うが、はっきり言うと泣かれてしまいそうなので黙っておこう。
「で、なんの話だっけ?」
「ええと、タカシがボクを殺そうとしたことだよ。友達を殺そうとするなんて、タカシは酷いね。極悪だね。ヤクザも真っ青だよ」
「いやなに、俺はてっきり『化け物としてでなく、人として死にたいんだよ。……せめて、愛する人の手で』とかいう展開かと思っただけで」
「あ、ああ愛してなんかないよ! ホントだよ!? ホントだもん!」
「んな全力で否定しなくとも分かってる。ただの冗談だろーが」
「……ふん、分かってないじゃん」(ぼそり)
「何をだ! 言わねば頭蓋骨を粉砕する!」
「タカシ耳が良すぎで、その上怖すぎるよ! 吸血鬼を脅すなよ、ばかっ!」
涙目で抗議されたので、粉砕はやめておく。つーか、今の梓は吸血鬼なので逆に俺が粉砕される。
「……うー、そうじゃなくて、血が吸いたいんだよ、血。ね、ちゅーってしていい?」
「任せろ!」
梓を抱き寄せ、顔を近づける。
「なな、ななな!? なにしてんだよぉ!?」
「ちゅー。いわゆるキス」
「ちゅー違いだよ! 吸うの! ボクが! タカシの血を! ちゅーって!」
「なんだ、紛らわしい」
解放すると、梓はそっぽを向いて3回ほど深呼吸し、こっちに向き直った。
「ま、まったく、どんな勘違いなんだよ。やれやれ、困ったちゃんだね、タカシは」
「梓、まだ顔赤い」
「うるさいッ!」
せっかく教えてあげたのに怒られた。
「とにかく! 血吸うの! いい? いいよね? いただきまー」
「断る!」
「……そ、そうだよね、誰もボクみたいな化け物と一緒にいたくないもんね。……一人寂しく野垂れ死んだ方がいいよね」
いかん、梓たんが一瞬にして自分の世界に逃げ込んでいく!
「というのはフェイントで、本当は血を吸ってほしくて仕方がないんだ」
「フェイント?」
「いーから吸え。早くしないと帰る」
「あっ、あっ、分かったよ。もう、せっかちだなぁ……」
首元をさらす。梓は歯を立て、おずおず俺の首筋に喰らいついた。
「いつっ」
吸血鬼に血を吸われると、絶頂に近い感情を得ると何かで見たのだけど……何か吸われてる感覚だけで、気持ちよくなんてなかった。ちょっと残念。
「ちうちう……ごめんね、タカシ」
「いいさ。蚊に吸われてるのに慣れてる……あ」
「ちゅーちゅー……なに? どしたの?」
「いま気づいたが、血吸われたら俺も吸血鬼になるんじゃ?」
「…………」
「おい。黙るな」
「……え、えへへ、……吸血鬼コンビたんじょー……なんて」
すかさず梓の頭をどつく。
「叩いた! 女の子の頭叩いたよ! 悪魔だよ!」
半泣きのまま両手で頭を押さえる梓のほっぺを引っ張る。
「悪魔じゃなくて吸血鬼だよ!」
言ってるそばから口中に違和感が。……伸びてるな、犬歯。
「あぅあぅ、あぅーっ!」
「ええい、日本語喋れ日本語! もしくは中国語!」
「うー……にーはお!」
中国語を喋ったので許す。梓を解放し、自分の頭を抱える。
「はぁ……吸血鬼なぁ。困ったなあ」
「んー……けっこーへーきだよ? ご飯にちょっと困って、お日さまの光浴びてもちょっとくらくらーってするだけで、だいじょびだったし」
「……浴びたのか?」
「いや、今日寝ぼけてて、人間の時みたいにカーテン開けたらお日さまがぴかーって。てへ」
そのまま灰になってもおかしくない事を平然とするところが、実にボクっ娘的というか。
「まーいーや。とにかく、明日から学校来い。とりあえず普通に日常をこなしつつ、人間に戻る方法を探るべ」
「別にボクはこのままでもいーけど。……タカシとおんなじだし」(ぼそり)
「性別が!? 知らなかった……」
「だから、なんでそんな耳いーんだよ! そして性別は違う! ボク女の子! がーる!」
「そうだな。……そうだといいな」
「なんでそんな慈愛に満ちた目で見るんだよぉ!? ホントだよ、女の子だよ! ……いや、パンツの中は見せないけどさ」
「なんだ」
「なんだって言った! やっぱそれが目当てだったんだ! タカシのエロ! エロ吸血鬼!」
こんなふうに梓とじゃれあってると、別に吸血鬼でもいいかと思えてくる。……梓と一緒だし。
【泳げないツンデレ】
2010年03月16日
大津波が来ると、死ぬよね。だけど、泳げたら波に乗ってどうにかなりそうな気がする。
「というわけで、第一回チキチキ!ボクっ娘をどうにかして泳がせてみよう大会を開催します」
「え? 遊ぶんじゃないの?」
近所の温水プールで遊ぼうとボクっ娘を誘い、水着に着替え終わったところで本来の目的を告げる。
「それはそうと、梓たんはやっぱり今年も浮き輪+スク水のお子様装備ですか」
梓は両手で浮き輪を持ち、そして去年と同じスク水を装着していた。ぺたい胸元に『あずさ』と平仮名で書いてあり、実に馬鹿っぽくて素敵。
「お子様とか言うなっ! 泳げないんだから仕方ないだろっ! 水着は……その、趣味だよ、趣味!」
「金ないの? お兄さん、少しくらいなら貸してもいいぞ?」
「あ、あるよっ! 食うに困ってないよ! 贅沢は敵じゃないよ!」
「普通に言え。ま、スク水は俺の大好物だから嬉しいんだけどさ」
「……去年も言ってたもんね。覚えててよかった」(ぼそり)
「大した記憶力だ! 花丸をやろう!」
「せっかく人がちっちゃい声で言ってるんだから聞くなよっ! なんでそんな耳いーんだよ! 聞こえても聞こえないフリするのが大人ってもんだよ、ばかっ!」
褒めたのに真っ赤な顔で叱られた。
「それはそうと、梓」
「うう……なんだよ?」
「近い将来、大津波が来るらしい」
「え、えええええっ!?」
それなりの広さを誇るプールに梓の大きな声が響き渡った。あまりの大声に周囲の人たちが俺たちを見るので、非常に居心地が悪い。
「でかい声を出すな! まったく、見た目だけでなく行動まで恥ずかしい奴だ」
「み、見た目だけでなくってどういうことだよっ! ……って、そんなの今はどうでもよくて! どーゆーことだよ、大津波って!」
「なんでも、駅にあるビルより高い波が襲い来るとか。先日見た本にそんなことが書いてあった」
MMRとかなんとか書いてた書物の内容を梓に伝える。
「どどど、どーしよどーしよ! ボク、泳げないよ! ……あ、浮き輪あったらへーきかなぁ? 津波に浮き輪でぷかぷかって」
「ばかちーん!」
「ばかちーん!?」
「いつ何時津波が襲ってくるか分からんのだ! おまえは常に浮き輪を持ち歩く変な人なのか?」
「う……」
「しかし、泳げるようになればそんな心配も不要。津波だって平気、むしろ楽しいイベントに成り下がるだろう!」
「で、でもボクかなりのカナヅチだよ? そんなすぐに泳げるようになるかなぁ……」
「大丈夫、俺に任せろ。きっと、梓でも泳げるようになる」
「た、タカシ……ありがとう! ボク、とっても嬉しいよ!」
「これでも昔は“半ケツのタカシ”と呼ばれたもんだ。そんな俺が教えるんだ、すーぐ泳げるようになるさ」
「折角感動できそうな場面だったのに、あだ名が半ケツ……」
励ましたのに、なんだか梓は悲しそうだった。
「じゃ、練習開始。プール入れ」
「わわっ、押さないでよ! 落ちたら死ぬよ!」
「そんな簡単に死ぬか」
梓と一緒にプールに入る。浮き輪があっては練習にならないので、脇に置いておく。
「で、どのくらいのレベルなんだ? 5mくらいは泳げるのか? 1m? それとも、まったく泳げないのか?」
「……まったく、の方」
「んー……じゃ、とりあえず水の中で目開ける練習からするか」
「いきなり!? タカシ厳しいよ、超ハードだよ、ダイハードだよ!」
「ダイハードではない」
「……い、言いたかっただけだよ。……うー、タカシはスパルタだなぁ。……うー」
梓はうーうー言うばかりで、水に顔をつけようとしなかった。やはり、怖いのだろう。
「やる気が出るよう、陰部でもさらそうか? 水にたゆたう俺の息子を見て、梓のやる気ゲージもうなぎ登り間違いなし」
「さらすなっ! そんなのさらされてもやる気出ないっ!」
「んじゃ、やる気が出る行為を言え。できることならやってやるから」
「……な、なんでもいい?」
「今すぐ死ねというのでなければ。いや、ちょっと後で死ねというのもダメだ。もちろん明日死ねというのも」
「なんで全部死ね関係なんだよっ! そんなのじゃなくて、……あ、あとで言うから、それやってよ」
「まあ、あんまり無茶なことじゃなければ」
「やたっ! 約束だよ? ようし、やる気ゲージがぐんぐん溜まってきたよ! ……よしっ、やるよっ!」
やる気をみなぎらせ、梓は勢い込んで水の中に頭を突っ込んだ。俺も続いて水の中に頭を入れる。
「~っ! ~っ!」
梓は目をぎゅっとつぶり、苦しそうに顔をしかめていた。
『ファイトだ、梓! 今こそボクっ娘力を発揮する時だ!』
水中で喋ったため、げべごべ言うだけで伝わらなかった。
「……っ!」
だが、何か伝わったのか、梓は小さく目を開いた。そして、俺と目が合うと、少し笑った。
「……ぷはあっ!」
水面に上がり、梓は大きく呼吸をした。次いで俺も水面に上がる。
「なんだ、思ったよりも簡単にできたな。これは今日中に泳げるかもな」
「げほっげほっ、……ふぅ。それじゃ、約束守ってよね」
「む、分かった。今すぐ死ぬ。舌を噛み切るので、後始末頼む」
「そんな約束してないっ! すぐ死のうとするなっ! そうじゃなくて、……え、えっと、……うぅ、やっぱいい!」
「なんだと、許さん! 絶対に約束は果たしてもらう!」
頑張った奴に何のねぎらいもしないのは嫌なので、割と強い調子で言った。
「ボクがいいって言ってるの! いーから練習続けるよっ!」
「いかんダメだ不許可! 何が何でもやってもらう!」
「……わ、分かったよ。そこまで言うなら、ボクも覚悟できたよ」
緊張のためか、頬を赤く染め、梓は小さく口を開いた。
「……ぎ、ぎゅーって、……して?」
「う」
「な、なんだよ、タカシが言ったんだろ、何が何でもやってもらうって! 自分が言ったことは守れよっ!」
なんだかやけっぱちのように詰め寄る梓。もちろん嫌な訳ないのだが、プールという場所で、しかも人前で抱擁とか恥ずかしすぎる。
「……そ、それとも、ボクをぎゅーってするの、嫌なのかよ」
寂しそうに下を向いて、梓は小声で言った。
「ぎゅー」
すると、俺の身体が勝手に梓をぎゅーっと抱きしめていたので驚いた。寂しそうな梓を見て、俺の本能が抱きしめれと命令したようだ、とか。
「わ、わわ、わ! ぎ、ぎゅーって言われながらぎゅーってされてるよ!」
「むぎゅー」
「……む、むぎゅーって言いながらだよ。……むぎゅーだよ」
「すりすりすり」
「あ、あぅぅ……すりすりは頼んでないのに、ほお擦りされてるよ、……されちゃったよ。……はぅぅ」
困った。気持ちよすぎて離れられない。梓は梓でとろーんとした顔で目つぶっちゃってるし、うーん。
「ねーママ、あの人たち何してるのー?」
「乳繰り合ってるのよ。ふふ、実に乳繰ってるわね。頑張ってさらに乳繰るのよ、若人たち」
通りすがりの変な親子連れに嫌な指摘をされ、どちらともなくそそくさと離れる。
「……あ、あは、あはははは」
「……え、えへ、えへへへへ」
いかん、史上稀にみる照れくささだ。まともに梓の顔が見れない。
「……た、タカシはえっちだね。ぼ、ボクはぎゅーってしてって言っただけなのに、すりすりまでしてさ」
「ご、ごめん」
「い、嫌とかじゃなくて! ……あ、え、えっとその、……あぅぅ」
つい素で返してしまい、梓を照れさせる羽目に。ああもう。
「……れ、練習すっか?」
「そ、そだね! 練習しよっ!」
何かを誤魔化すように、一心不乱に練習をする俺と梓だった。
「……なのにまったく泳げないってのは、ある種の才能なのかもしれんな」
「うう……頑張ったのに、頑張ったのに」
夕刻に差し掛かる頃まで練習したのだけど、結局今日は水中で目を開けられるようになっただけだった。
「このままじゃ、津波が来たら死んじゃうよぉ……」
「大丈夫。その時が来たら、俺がばびゅーんって梓の元まで行って、ぱひゅーって助けるさ」
「た、タカシ……感動だよ、今まさに感動シーンの真っ最中だよ!」
「いやははは、津波なんてこないだろうにそこまで感動されると、なんだか申し訳ないな」
「……どゆこと?」
津波が来るというのは漫画の話だと言ったら、凄く怒られた。
「もーもーもーっ! 現実と漫画を一緒にするなよ、ばかっ!」
「いや、分かってて言ったんだ」
「悪びれもしないでさらりと言われた!?」
「まーいーじゃん。泳げるようになったんだし」
「全然なってない! 目ぇ開けられるようになっただけだよっ!」
「ま、ま。明日も練習したらちょっとは泳げるようになるかもしれないぞ? だからファイトだ、梓!」
「ふぁいとじゃないよっ!」
ぷりぷり怒る梓と一緒に帰りました。
「というわけで、第一回チキチキ!ボクっ娘をどうにかして泳がせてみよう大会を開催します」
「え? 遊ぶんじゃないの?」
近所の温水プールで遊ぼうとボクっ娘を誘い、水着に着替え終わったところで本来の目的を告げる。
「それはそうと、梓たんはやっぱり今年も浮き輪+スク水のお子様装備ですか」
梓は両手で浮き輪を持ち、そして去年と同じスク水を装着していた。ぺたい胸元に『あずさ』と平仮名で書いてあり、実に馬鹿っぽくて素敵。
「お子様とか言うなっ! 泳げないんだから仕方ないだろっ! 水着は……その、趣味だよ、趣味!」
「金ないの? お兄さん、少しくらいなら貸してもいいぞ?」
「あ、あるよっ! 食うに困ってないよ! 贅沢は敵じゃないよ!」
「普通に言え。ま、スク水は俺の大好物だから嬉しいんだけどさ」
「……去年も言ってたもんね。覚えててよかった」(ぼそり)
「大した記憶力だ! 花丸をやろう!」
「せっかく人がちっちゃい声で言ってるんだから聞くなよっ! なんでそんな耳いーんだよ! 聞こえても聞こえないフリするのが大人ってもんだよ、ばかっ!」
褒めたのに真っ赤な顔で叱られた。
「それはそうと、梓」
「うう……なんだよ?」
「近い将来、大津波が来るらしい」
「え、えええええっ!?」
それなりの広さを誇るプールに梓の大きな声が響き渡った。あまりの大声に周囲の人たちが俺たちを見るので、非常に居心地が悪い。
「でかい声を出すな! まったく、見た目だけでなく行動まで恥ずかしい奴だ」
「み、見た目だけでなくってどういうことだよっ! ……って、そんなの今はどうでもよくて! どーゆーことだよ、大津波って!」
「なんでも、駅にあるビルより高い波が襲い来るとか。先日見た本にそんなことが書いてあった」
MMRとかなんとか書いてた書物の内容を梓に伝える。
「どどど、どーしよどーしよ! ボク、泳げないよ! ……あ、浮き輪あったらへーきかなぁ? 津波に浮き輪でぷかぷかって」
「ばかちーん!」
「ばかちーん!?」
「いつ何時津波が襲ってくるか分からんのだ! おまえは常に浮き輪を持ち歩く変な人なのか?」
「う……」
「しかし、泳げるようになればそんな心配も不要。津波だって平気、むしろ楽しいイベントに成り下がるだろう!」
「で、でもボクかなりのカナヅチだよ? そんなすぐに泳げるようになるかなぁ……」
「大丈夫、俺に任せろ。きっと、梓でも泳げるようになる」
「た、タカシ……ありがとう! ボク、とっても嬉しいよ!」
「これでも昔は“半ケツのタカシ”と呼ばれたもんだ。そんな俺が教えるんだ、すーぐ泳げるようになるさ」
「折角感動できそうな場面だったのに、あだ名が半ケツ……」
励ましたのに、なんだか梓は悲しそうだった。
「じゃ、練習開始。プール入れ」
「わわっ、押さないでよ! 落ちたら死ぬよ!」
「そんな簡単に死ぬか」
梓と一緒にプールに入る。浮き輪があっては練習にならないので、脇に置いておく。
「で、どのくらいのレベルなんだ? 5mくらいは泳げるのか? 1m? それとも、まったく泳げないのか?」
「……まったく、の方」
「んー……じゃ、とりあえず水の中で目開ける練習からするか」
「いきなり!? タカシ厳しいよ、超ハードだよ、ダイハードだよ!」
「ダイハードではない」
「……い、言いたかっただけだよ。……うー、タカシはスパルタだなぁ。……うー」
梓はうーうー言うばかりで、水に顔をつけようとしなかった。やはり、怖いのだろう。
「やる気が出るよう、陰部でもさらそうか? 水にたゆたう俺の息子を見て、梓のやる気ゲージもうなぎ登り間違いなし」
「さらすなっ! そんなのさらされてもやる気出ないっ!」
「んじゃ、やる気が出る行為を言え。できることならやってやるから」
「……な、なんでもいい?」
「今すぐ死ねというのでなければ。いや、ちょっと後で死ねというのもダメだ。もちろん明日死ねというのも」
「なんで全部死ね関係なんだよっ! そんなのじゃなくて、……あ、あとで言うから、それやってよ」
「まあ、あんまり無茶なことじゃなければ」
「やたっ! 約束だよ? ようし、やる気ゲージがぐんぐん溜まってきたよ! ……よしっ、やるよっ!」
やる気をみなぎらせ、梓は勢い込んで水の中に頭を突っ込んだ。俺も続いて水の中に頭を入れる。
「~っ! ~っ!」
梓は目をぎゅっとつぶり、苦しそうに顔をしかめていた。
『ファイトだ、梓! 今こそボクっ娘力を発揮する時だ!』
水中で喋ったため、げべごべ言うだけで伝わらなかった。
「……っ!」
だが、何か伝わったのか、梓は小さく目を開いた。そして、俺と目が合うと、少し笑った。
「……ぷはあっ!」
水面に上がり、梓は大きく呼吸をした。次いで俺も水面に上がる。
「なんだ、思ったよりも簡単にできたな。これは今日中に泳げるかもな」
「げほっげほっ、……ふぅ。それじゃ、約束守ってよね」
「む、分かった。今すぐ死ぬ。舌を噛み切るので、後始末頼む」
「そんな約束してないっ! すぐ死のうとするなっ! そうじゃなくて、……え、えっと、……うぅ、やっぱいい!」
「なんだと、許さん! 絶対に約束は果たしてもらう!」
頑張った奴に何のねぎらいもしないのは嫌なので、割と強い調子で言った。
「ボクがいいって言ってるの! いーから練習続けるよっ!」
「いかんダメだ不許可! 何が何でもやってもらう!」
「……わ、分かったよ。そこまで言うなら、ボクも覚悟できたよ」
緊張のためか、頬を赤く染め、梓は小さく口を開いた。
「……ぎ、ぎゅーって、……して?」
「う」
「な、なんだよ、タカシが言ったんだろ、何が何でもやってもらうって! 自分が言ったことは守れよっ!」
なんだかやけっぱちのように詰め寄る梓。もちろん嫌な訳ないのだが、プールという場所で、しかも人前で抱擁とか恥ずかしすぎる。
「……そ、それとも、ボクをぎゅーってするの、嫌なのかよ」
寂しそうに下を向いて、梓は小声で言った。
「ぎゅー」
すると、俺の身体が勝手に梓をぎゅーっと抱きしめていたので驚いた。寂しそうな梓を見て、俺の本能が抱きしめれと命令したようだ、とか。
「わ、わわ、わ! ぎ、ぎゅーって言われながらぎゅーってされてるよ!」
「むぎゅー」
「……む、むぎゅーって言いながらだよ。……むぎゅーだよ」
「すりすりすり」
「あ、あぅぅ……すりすりは頼んでないのに、ほお擦りされてるよ、……されちゃったよ。……はぅぅ」
困った。気持ちよすぎて離れられない。梓は梓でとろーんとした顔で目つぶっちゃってるし、うーん。
「ねーママ、あの人たち何してるのー?」
「乳繰り合ってるのよ。ふふ、実に乳繰ってるわね。頑張ってさらに乳繰るのよ、若人たち」
通りすがりの変な親子連れに嫌な指摘をされ、どちらともなくそそくさと離れる。
「……あ、あは、あはははは」
「……え、えへ、えへへへへ」
いかん、史上稀にみる照れくささだ。まともに梓の顔が見れない。
「……た、タカシはえっちだね。ぼ、ボクはぎゅーってしてって言っただけなのに、すりすりまでしてさ」
「ご、ごめん」
「い、嫌とかじゃなくて! ……あ、え、えっとその、……あぅぅ」
つい素で返してしまい、梓を照れさせる羽目に。ああもう。
「……れ、練習すっか?」
「そ、そだね! 練習しよっ!」
何かを誤魔化すように、一心不乱に練習をする俺と梓だった。
「……なのにまったく泳げないってのは、ある種の才能なのかもしれんな」
「うう……頑張ったのに、頑張ったのに」
夕刻に差し掛かる頃まで練習したのだけど、結局今日は水中で目を開けられるようになっただけだった。
「このままじゃ、津波が来たら死んじゃうよぉ……」
「大丈夫。その時が来たら、俺がばびゅーんって梓の元まで行って、ぱひゅーって助けるさ」
「た、タカシ……感動だよ、今まさに感動シーンの真っ最中だよ!」
「いやははは、津波なんてこないだろうにそこまで感動されると、なんだか申し訳ないな」
「……どゆこと?」
津波が来るというのは漫画の話だと言ったら、凄く怒られた。
「もーもーもーっ! 現実と漫画を一緒にするなよ、ばかっ!」
「いや、分かってて言ったんだ」
「悪びれもしないでさらりと言われた!?」
「まーいーじゃん。泳げるようになったんだし」
「全然なってない! 目ぇ開けられるようになっただけだよっ!」
「ま、ま。明日も練習したらちょっとは泳げるようになるかもしれないぞ? だからファイトだ、梓!」
「ふぁいとじゃないよっ!」
ぷりぷり怒る梓と一緒に帰りました。
【ツンデレをおとしてみた】
2010年03月16日
「という題なので、落ちろ」
「いきなり呼び出されて訳の分かんないこと言われた!?」
学校から帰宅後、梓を呼び出していきなり切り出したらびっくりされた。
「いいから落ちろ。ほれ、落ちれー落ちれーお前はどんどん落ちたくなるー」
「催眠術風に言われても落ちたくなんない! そもそも、意味が全く分かんないんだよ! どこに落ちろって言うのさ!」
「……俺?」
「ふへ?」
「そう、俺。俺の手に落ちろ」
「ふ、ふへーっ!?」
梓がおかしくなった。
「そっ、そんなの落ちるわけないよ! ボクがタカシのものになるなんて、そんな……えへへ、そんなの、お断りだよっ!」
「否定する時は、最後までにやけ面を隠した方がいいと思う」
「にっ、にやけてなんかないよっ! ばかっ!」
顔がだらしなく弛緩してる人に怒られた。
「とにかく、そういうことなんで落ちろ」
「何がそういうことなんだよ! 大体さ、落ちろ落ちろって、そんな簡単にボクが落ちるわけないよーだ!」
「むぎゅー」
むぎゅーと言いながらむぎゅーと梓を抱きしめる。
「は、はぅ……」
「よし、堕ちた」
「お、堕ちてないもん。むぎゅーってされただけだもん」
「ぬ、失敗か。じゃあ」
「でででもだからってむぎゅーを解くのは禁止だよっ! 理由は究明中であり今後もずっと究明中!」
「…………」
「なっ、なんだよ! 何とか言えよ!」
「らぶらぶ?」
「そそそっ、そんなわけないよ! のーだよ、のー! 全然だよ! 全然だけど、むぎゅーしてろよっ!」
こんな感じで赤ら顔のボクっ娘をむぎゅーする毎日です。
「いきなり呼び出されて訳の分かんないこと言われた!?」
学校から帰宅後、梓を呼び出していきなり切り出したらびっくりされた。
「いいから落ちろ。ほれ、落ちれー落ちれーお前はどんどん落ちたくなるー」
「催眠術風に言われても落ちたくなんない! そもそも、意味が全く分かんないんだよ! どこに落ちろって言うのさ!」
「……俺?」
「ふへ?」
「そう、俺。俺の手に落ちろ」
「ふ、ふへーっ!?」
梓がおかしくなった。
「そっ、そんなの落ちるわけないよ! ボクがタカシのものになるなんて、そんな……えへへ、そんなの、お断りだよっ!」
「否定する時は、最後までにやけ面を隠した方がいいと思う」
「にっ、にやけてなんかないよっ! ばかっ!」
顔がだらしなく弛緩してる人に怒られた。
「とにかく、そういうことなんで落ちろ」
「何がそういうことなんだよ! 大体さ、落ちろ落ちろって、そんな簡単にボクが落ちるわけないよーだ!」
「むぎゅー」
むぎゅーと言いながらむぎゅーと梓を抱きしめる。
「は、はぅ……」
「よし、堕ちた」
「お、堕ちてないもん。むぎゅーってされただけだもん」
「ぬ、失敗か。じゃあ」
「でででもだからってむぎゅーを解くのは禁止だよっ! 理由は究明中であり今後もずっと究明中!」
「…………」
「なっ、なんだよ! 何とか言えよ!」
「らぶらぶ?」
「そそそっ、そんなわけないよ! のーだよ、のー! 全然だよ! 全然だけど、むぎゅーしてろよっ!」
こんな感じで赤ら顔のボクっ娘をむぎゅーする毎日です。
【アイドルなタカシと一般人のツンデレ】
2010年03月15日
色々な偶然が重なって、アイドルに祭り上げられた。テレビとかにも出るようになった。毎日忙しくて、あまり寝る時間もない。
「なっ、なんでタカシがここにいるんだよぉ!」
「逃げて来たに決まってるだろうが、ばかちん!」
あまりにも疲れたので、梓の家にしばらく隠れることにした。
「ばかちん!? ていうか、なんでボクが怒られてるの!?」
「それはまぁ、お約束と言うか、いじられやすい顔をしているからというか、ボクっ娘だからというか」
「ボクっ娘って……いや、そんなことより、そんな所にいたら危ないよ! とにかく上がって上がって!」
そんな所とは窓であり、今現在窓の外側にヤモリのように張り付いており、落ちると骨折、誰かに見つかると通報される。許可が出たので、部屋に飛び込め。
「やれやれ、怖かった」
「もっと普通に入ってきたらいいのに……それよりさ、こんなとこにいちゃダメだろ? ほら、一応タカシみたいなのでも芸能人なんだし」
「ボクっ娘が冷たい事言って追い出そうとする。傷ついた羽を癒やそうと、一時身を寄せる事すら拒まれるのか!」
「わ、なんかかっこいいっぽいこと言ってる! すごいね、さすがは芸能人だね」
「ふふん、どうだ? 芸能人になればこの程度、すらりすらすら出てくるぞ! もっと聞きたかろ?」
「いや、すごいけど別に……」
「聞きたいよな?」(威圧しつつ)
「き、聞きたいよぅ……」(子犬のようにぷるぷる震えながら)
「ふふん、それでいいのだ。つーわけで、聞きたいならしばらくここに置いてください」
「土下座!? って、ホントにダメだよ。みんな探してるんじゃないの? ……そ、それに、タカシを独り占めなんかしたら、ボク、ファンの子に恨まれちゃうよ」
「え、俺にファンいるの!?」
「いないの!? タカシ、テレビに出まくってるんだから、いるでしょ?」
「……そういや、楽屋に手紙が山ほど届いてて、好きですとか愛してますとか結婚してくださいとか書いてたけど……そうか、あれファンレターか」
「なんだと思ってたんだよ! それ以外ないだろ!」
「いや、なんか電波の人が集団で俺に嫌がらせの手紙を送ってたんだとばかり」
「タカシって、芸能人になっても変なんだね」
なんだとコンチクショウ。
「……でも、そっか。タカシみたいなのでも、そういうファンレター貰うんだね」
「んーむ……一人くらい食っときゃよかった」
「だっ、ダメに決まってるだろっ! ダメのダメダメだよっ! 食べちゃダメっ!」
「いや、別に物理的にむしゃむしゃ食うってワケじゃなくて、エッチするって意味の食べるだ。安心しろ」
「全然まったくちっとも安心できないっ! エッチとかしちゃダメだよっ! そういうことは、すっ、好きな人としか、しちゃダメなんだからッ!」
「ぶーぶー、いーじゃんちょっとくらい」
「ぶーぶーじゃないっ! 好きでもない子とエッチとか禁止禁止禁止っ!」
「やれやれ、分かったよ。エッチしない」
「はふー……それでいいんだよ、それで」
「代わりに、しばらくここに居させろ」
「う……だ、だからダメだって」
「ダメならファンの子とエッチする。しまくる。そりゃもう阿鼻叫喚の地獄絵図もかくやというほど」
「うぐ……わ、分かったよ! いろよ! い、いてもいいけど、ボクに手だしたら怒るよ!」
「だいじょぶ、つるぺたは趣味じゃないです」
「嘘つけっ! 前にテレビで見たけど、おっぱいちっちゃい子とタカシが一緒に出演してた時、すっごく嬉しそうだったじゃん!」
「な、俺の最重要機密がこうも易々と!?」
「なーにが最重要機密だよ。大体さ、テレビに出る前から、タカシって胸が小さい子好きじゃん」
「ぬぐ、俺の99の秘密が次々と……!」
「何が99の秘密だよ。……ぷっ」
「梓が異性の前でためらいもなく屁を」
「違うよっ! 吹き出したんだよっ! タカシがさ、アイドルになる前と全然変わらないことにちょっと可笑しくなったから吹き出したの!」
「なんだ。それなら普通に吹き出せばいいものを」
「ボクは普通にしたの! タカシが変にしたんだよっ! ……まったく、全然変わってないよ。……本当、ボクと一緒に学校通ってた頃と同じだもん」
ほんの数ヶ月前までは毎日のように通っていた学校も、近頃はまるで足を向けていない。その頃を思い出したのか、梓は少し寂しそうに笑った。
「……そんな顔すんない。なに、すぐに俺なんて飽きられて、仕事もなくなるって。そしたら、また一緒に学校行けるようになるさ」
「……無理だよ。知んないの? タカシってさ、すっごい人気なんだよ? グッズとかCDとか、人気すぎて売り切れ店続出なんだから。飽きられるなんて、ずっとずっと先……」
「グッズって、これか?」
「え? ……にゃーっ!」
ベッドに置かれてたタカシくん人形を手に取ったら、ボクっ娘にあるまじき速度で奪われた。
「か、買ってない、買ってないよ!? 朝の4時から並んでない! え、えと……当たった! なんか、雑誌のプレゼントで偶然! いらないんだけど、捨てるのもアレだし!」
「あ……うん」
あまりにも必死なので、信じてあげる。嘘も時には優しさです。あと、背中に隠してるみたいだけど、全然隠れてません。
「あ、あとCDラックも見るなよ! 理由は特にないけど!」
CDも買いましたか。や、いいんだけど、友達が俺のCD持ってるってのは、なんか凄く恥ずかしいです。
「別にそんなの買わなくても、お前にだったら生で直接歌ってやるのに……ま、俺の歌なんて聴いてもしょうがな」
「え、えええっ!? い、いいの?」
「……聴きたいの?」
首がもげる勢いでうなずかれた。
「あー……じゃ、歌おうか? アカペラで悪いが」
「わぁ……タカシの生歌だぁ……」
「じゃ、生タカシが生梓に生歌を生歌います生」
せっかく歌ってやるというのに、梓が嫌そうな顔をした。
歌い終わった。んむ、そこそこの出来かと。
「はぅ……」
が、梓はトリップしっぱなしで帰ってきてない。
「梓たん、終わりましたよ? 聞こえてますか?」
「……んにゅ? ……はっ、……え、えと、まぁまぁだったね」
「まーなー。歌、そんな上手くないし」
「そんなことないっ! すっごい素敵だったよっ! 聞き惚れちゃうくらい!」
「…………」
「……はうあっ! ちっ、違くて! そ、そういう意見の人もいるんじゃないかって思ったりしたり、その……あぅ」
「……ひょっとしてさ、梓って、俺のファン?」
「そそそっ、そんなわけないよっ! 自意識かじょーマンが出現だよ! 自衛隊に出動要請だよ! びびびびびーっ!」
「お嬢ちゃんいくつ?」
びびびーと言いながら落ちてたリモコンをOnOffするお嬢ちゃんに優しく訊ねる。
「タカシと同い年だよっ! どうせ子供っぽいよっ!」
「いやはや、お前も変わらんな」
「ふん、ふん。そんな数ヶ月で変わったりしないよ」
「だな。……あー、なんか安心した」
「へ?」
「ずっとこっちにいなかったから、俺の知ってる梓はいなくなってると勝手に思ってて。でも、梓は昔のままで、俺の知ってる子供っぽくも優しい梓のままで、安心した」
言いながら、梓の頭をやさしくなでる。
「う……た、タカシってさ、……真顔でそういうこと言うからさ、……ず、ずるいと思う」
恥ずかしいのか、梓は顔を真っ赤にして言った。
「そういうことって……ああ、おっぱい触らせてって台詞か。いや、自分でもかっこいい台詞かと」
「そんなこと言ってないだろっ! その台詞のどこにかっこいい要素があるんだよ! ……あれ? ひょっとして、自分の言った台詞で照れてる?」
「全然まったくちっとも意味が分からん! 意味が分からんので追求は不可!」
「タカシってば、アイドルになっても照れ屋さんなんだねぇ。まったく、困ったちゃんだね♪」
梓の奴がにっこり笑って俺を見るのでああもう困る。
「困ったちゃんは眠いので寝る! お休み!」
「あ、うんいいけ……あっ、コラ、床で寝るなんてダメだよ! 布団で寝ないと疲れ取れないよ!」
「いや、布団一個しかないし、俺が使うと梓が」
で、色々協議した結果。
「た、タカシ、もっとそっち行けよ。こっち狭いんだよ」
「ぬ、ごめん。それより梓、あまりつるぺたいものをすりつけるな」
「つっ、つるぺたいってなんだよ、つるぺたいって!」
一緒に寝ることになってなんか女の子の甘い匂いとか腕に感じるふにふにしたのとか寝れるか。
「……うー、なんかタカシの顔、えっちぃ顔だよ」
「超気のせいだ!」
「……言っとくけどね、ボクが寝てる間に触ったり、ち、ちゅーしたりしたら、怒るからね」
「なんだ、怒るだけか」
「超! 怒るから! 触るのもちゅーも禁止だよっ!」
超怒られては敵わないので、理性を総動員して触らないでおこうと決意。俺、頑張るよ!
……が、梓の柔らかな身体は腕に当たってるし常時甘い匂いがするし口唇が半開きで妙にエロいし寝言で俺の名前呼んだりするしまさに蛇の生殺し。死ぬゼ。
「なっ、なんでタカシがここにいるんだよぉ!」
「逃げて来たに決まってるだろうが、ばかちん!」
あまりにも疲れたので、梓の家にしばらく隠れることにした。
「ばかちん!? ていうか、なんでボクが怒られてるの!?」
「それはまぁ、お約束と言うか、いじられやすい顔をしているからというか、ボクっ娘だからというか」
「ボクっ娘って……いや、そんなことより、そんな所にいたら危ないよ! とにかく上がって上がって!」
そんな所とは窓であり、今現在窓の外側にヤモリのように張り付いており、落ちると骨折、誰かに見つかると通報される。許可が出たので、部屋に飛び込め。
「やれやれ、怖かった」
「もっと普通に入ってきたらいいのに……それよりさ、こんなとこにいちゃダメだろ? ほら、一応タカシみたいなのでも芸能人なんだし」
「ボクっ娘が冷たい事言って追い出そうとする。傷ついた羽を癒やそうと、一時身を寄せる事すら拒まれるのか!」
「わ、なんかかっこいいっぽいこと言ってる! すごいね、さすがは芸能人だね」
「ふふん、どうだ? 芸能人になればこの程度、すらりすらすら出てくるぞ! もっと聞きたかろ?」
「いや、すごいけど別に……」
「聞きたいよな?」(威圧しつつ)
「き、聞きたいよぅ……」(子犬のようにぷるぷる震えながら)
「ふふん、それでいいのだ。つーわけで、聞きたいならしばらくここに置いてください」
「土下座!? って、ホントにダメだよ。みんな探してるんじゃないの? ……そ、それに、タカシを独り占めなんかしたら、ボク、ファンの子に恨まれちゃうよ」
「え、俺にファンいるの!?」
「いないの!? タカシ、テレビに出まくってるんだから、いるでしょ?」
「……そういや、楽屋に手紙が山ほど届いてて、好きですとか愛してますとか結婚してくださいとか書いてたけど……そうか、あれファンレターか」
「なんだと思ってたんだよ! それ以外ないだろ!」
「いや、なんか電波の人が集団で俺に嫌がらせの手紙を送ってたんだとばかり」
「タカシって、芸能人になっても変なんだね」
なんだとコンチクショウ。
「……でも、そっか。タカシみたいなのでも、そういうファンレター貰うんだね」
「んーむ……一人くらい食っときゃよかった」
「だっ、ダメに決まってるだろっ! ダメのダメダメだよっ! 食べちゃダメっ!」
「いや、別に物理的にむしゃむしゃ食うってワケじゃなくて、エッチするって意味の食べるだ。安心しろ」
「全然まったくちっとも安心できないっ! エッチとかしちゃダメだよっ! そういうことは、すっ、好きな人としか、しちゃダメなんだからッ!」
「ぶーぶー、いーじゃんちょっとくらい」
「ぶーぶーじゃないっ! 好きでもない子とエッチとか禁止禁止禁止っ!」
「やれやれ、分かったよ。エッチしない」
「はふー……それでいいんだよ、それで」
「代わりに、しばらくここに居させろ」
「う……だ、だからダメだって」
「ダメならファンの子とエッチする。しまくる。そりゃもう阿鼻叫喚の地獄絵図もかくやというほど」
「うぐ……わ、分かったよ! いろよ! い、いてもいいけど、ボクに手だしたら怒るよ!」
「だいじょぶ、つるぺたは趣味じゃないです」
「嘘つけっ! 前にテレビで見たけど、おっぱいちっちゃい子とタカシが一緒に出演してた時、すっごく嬉しそうだったじゃん!」
「な、俺の最重要機密がこうも易々と!?」
「なーにが最重要機密だよ。大体さ、テレビに出る前から、タカシって胸が小さい子好きじゃん」
「ぬぐ、俺の99の秘密が次々と……!」
「何が99の秘密だよ。……ぷっ」
「梓が異性の前でためらいもなく屁を」
「違うよっ! 吹き出したんだよっ! タカシがさ、アイドルになる前と全然変わらないことにちょっと可笑しくなったから吹き出したの!」
「なんだ。それなら普通に吹き出せばいいものを」
「ボクは普通にしたの! タカシが変にしたんだよっ! ……まったく、全然変わってないよ。……本当、ボクと一緒に学校通ってた頃と同じだもん」
ほんの数ヶ月前までは毎日のように通っていた学校も、近頃はまるで足を向けていない。その頃を思い出したのか、梓は少し寂しそうに笑った。
「……そんな顔すんない。なに、すぐに俺なんて飽きられて、仕事もなくなるって。そしたら、また一緒に学校行けるようになるさ」
「……無理だよ。知んないの? タカシってさ、すっごい人気なんだよ? グッズとかCDとか、人気すぎて売り切れ店続出なんだから。飽きられるなんて、ずっとずっと先……」
「グッズって、これか?」
「え? ……にゃーっ!」
ベッドに置かれてたタカシくん人形を手に取ったら、ボクっ娘にあるまじき速度で奪われた。
「か、買ってない、買ってないよ!? 朝の4時から並んでない! え、えと……当たった! なんか、雑誌のプレゼントで偶然! いらないんだけど、捨てるのもアレだし!」
「あ……うん」
あまりにも必死なので、信じてあげる。嘘も時には優しさです。あと、背中に隠してるみたいだけど、全然隠れてません。
「あ、あとCDラックも見るなよ! 理由は特にないけど!」
CDも買いましたか。や、いいんだけど、友達が俺のCD持ってるってのは、なんか凄く恥ずかしいです。
「別にそんなの買わなくても、お前にだったら生で直接歌ってやるのに……ま、俺の歌なんて聴いてもしょうがな」
「え、えええっ!? い、いいの?」
「……聴きたいの?」
首がもげる勢いでうなずかれた。
「あー……じゃ、歌おうか? アカペラで悪いが」
「わぁ……タカシの生歌だぁ……」
「じゃ、生タカシが生梓に生歌を生歌います生」
せっかく歌ってやるというのに、梓が嫌そうな顔をした。
歌い終わった。んむ、そこそこの出来かと。
「はぅ……」
が、梓はトリップしっぱなしで帰ってきてない。
「梓たん、終わりましたよ? 聞こえてますか?」
「……んにゅ? ……はっ、……え、えと、まぁまぁだったね」
「まーなー。歌、そんな上手くないし」
「そんなことないっ! すっごい素敵だったよっ! 聞き惚れちゃうくらい!」
「…………」
「……はうあっ! ちっ、違くて! そ、そういう意見の人もいるんじゃないかって思ったりしたり、その……あぅ」
「……ひょっとしてさ、梓って、俺のファン?」
「そそそっ、そんなわけないよっ! 自意識かじょーマンが出現だよ! 自衛隊に出動要請だよ! びびびびびーっ!」
「お嬢ちゃんいくつ?」
びびびーと言いながら落ちてたリモコンをOnOffするお嬢ちゃんに優しく訊ねる。
「タカシと同い年だよっ! どうせ子供っぽいよっ!」
「いやはや、お前も変わらんな」
「ふん、ふん。そんな数ヶ月で変わったりしないよ」
「だな。……あー、なんか安心した」
「へ?」
「ずっとこっちにいなかったから、俺の知ってる梓はいなくなってると勝手に思ってて。でも、梓は昔のままで、俺の知ってる子供っぽくも優しい梓のままで、安心した」
言いながら、梓の頭をやさしくなでる。
「う……た、タカシってさ、……真顔でそういうこと言うからさ、……ず、ずるいと思う」
恥ずかしいのか、梓は顔を真っ赤にして言った。
「そういうことって……ああ、おっぱい触らせてって台詞か。いや、自分でもかっこいい台詞かと」
「そんなこと言ってないだろっ! その台詞のどこにかっこいい要素があるんだよ! ……あれ? ひょっとして、自分の言った台詞で照れてる?」
「全然まったくちっとも意味が分からん! 意味が分からんので追求は不可!」
「タカシってば、アイドルになっても照れ屋さんなんだねぇ。まったく、困ったちゃんだね♪」
梓の奴がにっこり笑って俺を見るのでああもう困る。
「困ったちゃんは眠いので寝る! お休み!」
「あ、うんいいけ……あっ、コラ、床で寝るなんてダメだよ! 布団で寝ないと疲れ取れないよ!」
「いや、布団一個しかないし、俺が使うと梓が」
で、色々協議した結果。
「た、タカシ、もっとそっち行けよ。こっち狭いんだよ」
「ぬ、ごめん。それより梓、あまりつるぺたいものをすりつけるな」
「つっ、つるぺたいってなんだよ、つるぺたいって!」
一緒に寝ることになってなんか女の子の甘い匂いとか腕に感じるふにふにしたのとか寝れるか。
「……うー、なんかタカシの顔、えっちぃ顔だよ」
「超気のせいだ!」
「……言っとくけどね、ボクが寝てる間に触ったり、ち、ちゅーしたりしたら、怒るからね」
「なんだ、怒るだけか」
「超! 怒るから! 触るのもちゅーも禁止だよっ!」
超怒られては敵わないので、理性を総動員して触らないでおこうと決意。俺、頑張るよ!
……が、梓の柔らかな身体は腕に当たってるし常時甘い匂いがするし口唇が半開きで妙にエロいし寝言で俺の名前呼んだりするしまさに蛇の生殺し。死ぬゼ。