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2024年11月23日
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【泳げないツンデレ】

2010年03月16日
 大津波が来ると、死ぬよね。だけど、泳げたら波に乗ってどうにかなりそうな気がする。
「というわけで、第一回チキチキ!ボクっ娘をどうにかして泳がせてみよう大会を開催します」
「え? 遊ぶんじゃないの?」
 近所の温水プールで遊ぼうとボクっ娘を誘い、水着に着替え終わったところで本来の目的を告げる。
「それはそうと、梓たんはやっぱり今年も浮き輪+スク水のお子様装備ですか」
 梓は両手で浮き輪を持ち、そして去年と同じスク水を装着していた。ぺたい胸元に『あずさ』と平仮名で書いてあり、実に馬鹿っぽくて素敵。
「お子様とか言うなっ! 泳げないんだから仕方ないだろっ! 水着は……その、趣味だよ、趣味!」
「金ないの? お兄さん、少しくらいなら貸してもいいぞ?」
「あ、あるよっ! 食うに困ってないよ! 贅沢は敵じゃないよ!」
「普通に言え。ま、スク水は俺の大好物だから嬉しいんだけどさ」
「……去年も言ってたもんね。覚えててよかった」(ぼそり)
「大した記憶力だ! 花丸をやろう!」
「せっかく人がちっちゃい声で言ってるんだから聞くなよっ! なんでそんな耳いーんだよ! 聞こえても聞こえないフリするのが大人ってもんだよ、ばかっ!」
 褒めたのに真っ赤な顔で叱られた。
「それはそうと、梓」
「うう……なんだよ?」
「近い将来、大津波が来るらしい」
「え、えええええっ!?」
 それなりの広さを誇るプールに梓の大きな声が響き渡った。あまりの大声に周囲の人たちが俺たちを見るので、非常に居心地が悪い。
「でかい声を出すな! まったく、見た目だけでなく行動まで恥ずかしい奴だ」
「み、見た目だけでなくってどういうことだよっ! ……って、そんなの今はどうでもよくて! どーゆーことだよ、大津波って!」
「なんでも、駅にあるビルより高い波が襲い来るとか。先日見た本にそんなことが書いてあった」
 MMRとかなんとか書いてた書物の内容を梓に伝える。
「どどど、どーしよどーしよ! ボク、泳げないよ! ……あ、浮き輪あったらへーきかなぁ? 津波に浮き輪でぷかぷかって」
「ばかちーん!」
「ばかちーん!?」
「いつ何時津波が襲ってくるか分からんのだ! おまえは常に浮き輪を持ち歩く変な人なのか?」
「う……」
「しかし、泳げるようになればそんな心配も不要。津波だって平気、むしろ楽しいイベントに成り下がるだろう!」
「で、でもボクかなりのカナヅチだよ? そんなすぐに泳げるようになるかなぁ……」
「大丈夫、俺に任せろ。きっと、梓でも泳げるようになる」
「た、タカシ……ありがとう! ボク、とっても嬉しいよ!」
「これでも昔は“半ケツのタカシ”と呼ばれたもんだ。そんな俺が教えるんだ、すーぐ泳げるようになるさ」
「折角感動できそうな場面だったのに、あだ名が半ケツ……」
 励ましたのに、なんだか梓は悲しそうだった。
「じゃ、練習開始。プール入れ」
「わわっ、押さないでよ! 落ちたら死ぬよ!」
「そんな簡単に死ぬか」
 梓と一緒にプールに入る。浮き輪があっては練習にならないので、脇に置いておく。
「で、どのくらいのレベルなんだ? 5mくらいは泳げるのか? 1m? それとも、まったく泳げないのか?」
「……まったく、の方」
「んー……じゃ、とりあえず水の中で目開ける練習からするか」
「いきなり!? タカシ厳しいよ、超ハードだよ、ダイハードだよ!」
「ダイハードではない」
「……い、言いたかっただけだよ。……うー、タカシはスパルタだなぁ。……うー」
 梓はうーうー言うばかりで、水に顔をつけようとしなかった。やはり、怖いのだろう。
「やる気が出るよう、陰部でもさらそうか? 水にたゆたう俺の息子を見て、梓のやる気ゲージもうなぎ登り間違いなし」
「さらすなっ! そんなのさらされてもやる気出ないっ!」
「んじゃ、やる気が出る行為を言え。できることならやってやるから」
「……な、なんでもいい?」
「今すぐ死ねというのでなければ。いや、ちょっと後で死ねというのもダメだ。もちろん明日死ねというのも」
「なんで全部死ね関係なんだよっ! そんなのじゃなくて、……あ、あとで言うから、それやってよ」
「まあ、あんまり無茶なことじゃなければ」
「やたっ! 約束だよ? ようし、やる気ゲージがぐんぐん溜まってきたよ! ……よしっ、やるよっ!」
 やる気をみなぎらせ、梓は勢い込んで水の中に頭を突っ込んだ。俺も続いて水の中に頭を入れる。
「~っ! ~っ!」
 梓は目をぎゅっとつぶり、苦しそうに顔をしかめていた。
『ファイトだ、梓! 今こそボクっ娘力を発揮する時だ!』
 水中で喋ったため、げべごべ言うだけで伝わらなかった。
「……っ!」
 だが、何か伝わったのか、梓は小さく目を開いた。そして、俺と目が合うと、少し笑った。
「……ぷはあっ!」
 水面に上がり、梓は大きく呼吸をした。次いで俺も水面に上がる。
「なんだ、思ったよりも簡単にできたな。これは今日中に泳げるかもな」
「げほっげほっ、……ふぅ。それじゃ、約束守ってよね」
「む、分かった。今すぐ死ぬ。舌を噛み切るので、後始末頼む」
「そんな約束してないっ! すぐ死のうとするなっ! そうじゃなくて、……え、えっと、……うぅ、やっぱいい!」
「なんだと、許さん! 絶対に約束は果たしてもらう!」
 頑張った奴に何のねぎらいもしないのは嫌なので、割と強い調子で言った。
「ボクがいいって言ってるの! いーから練習続けるよっ!」
「いかんダメだ不許可! 何が何でもやってもらう!」
「……わ、分かったよ。そこまで言うなら、ボクも覚悟できたよ」
 緊張のためか、頬を赤く染め、梓は小さく口を開いた。
「……ぎ、ぎゅーって、……して?」
「う」
「な、なんだよ、タカシが言ったんだろ、何が何でもやってもらうって! 自分が言ったことは守れよっ!」
 なんだかやけっぱちのように詰め寄る梓。もちろん嫌な訳ないのだが、プールという場所で、しかも人前で抱擁とか恥ずかしすぎる。
「……そ、それとも、ボクをぎゅーってするの、嫌なのかよ」
 寂しそうに下を向いて、梓は小声で言った。
「ぎゅー」
 すると、俺の身体が勝手に梓をぎゅーっと抱きしめていたので驚いた。寂しそうな梓を見て、俺の本能が抱きしめれと命令したようだ、とか。
「わ、わわ、わ! ぎ、ぎゅーって言われながらぎゅーってされてるよ!」
「むぎゅー」
「……む、むぎゅーって言いながらだよ。……むぎゅーだよ」
「すりすりすり」
「あ、あぅぅ……すりすりは頼んでないのに、ほお擦りされてるよ、……されちゃったよ。……はぅぅ」
 困った。気持ちよすぎて離れられない。梓は梓でとろーんとした顔で目つぶっちゃってるし、うーん。
「ねーママ、あの人たち何してるのー?」
「乳繰り合ってるのよ。ふふ、実に乳繰ってるわね。頑張ってさらに乳繰るのよ、若人たち」
 通りすがりの変な親子連れに嫌な指摘をされ、どちらともなくそそくさと離れる。
「……あ、あは、あはははは」
「……え、えへ、えへへへへ」
 いかん、史上稀にみる照れくささだ。まともに梓の顔が見れない。
「……た、タカシはえっちだね。ぼ、ボクはぎゅーってしてって言っただけなのに、すりすりまでしてさ」
「ご、ごめん」
「い、嫌とかじゃなくて! ……あ、え、えっとその、……あぅぅ」
 つい素で返してしまい、梓を照れさせる羽目に。ああもう。
「……れ、練習すっか?」
「そ、そだね! 練習しよっ!」
 何かを誤魔化すように、一心不乱に練習をする俺と梓だった。

「……なのにまったく泳げないってのは、ある種の才能なのかもしれんな」
「うう……頑張ったのに、頑張ったのに」
 夕刻に差し掛かる頃まで練習したのだけど、結局今日は水中で目を開けられるようになっただけだった。
「このままじゃ、津波が来たら死んじゃうよぉ……」
「大丈夫。その時が来たら、俺がばびゅーんって梓の元まで行って、ぱひゅーって助けるさ」
「た、タカシ……感動だよ、今まさに感動シーンの真っ最中だよ!」
「いやははは、津波なんてこないだろうにそこまで感動されると、なんだか申し訳ないな」
「……どゆこと?」
 津波が来るというのは漫画の話だと言ったら、凄く怒られた。
「もーもーもーっ! 現実と漫画を一緒にするなよ、ばかっ!」
「いや、分かってて言ったんだ」
「悪びれもしないでさらりと言われた!?」
「まーいーじゃん。泳げるようになったんだし」
「全然なってない! 目ぇ開けられるようになっただけだよっ!」
「ま、ま。明日も練習したらちょっとは泳げるようになるかもしれないぞ? だからファイトだ、梓!」
「ふぁいとじゃないよっ!」
 ぷりぷり怒る梓と一緒に帰りました。

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