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2024年11月21日
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【ホワイトデー】

2010年04月11日
 一ヶ月ほど前にレミットからねんがんのチョコレートをてにいれた!
「今日はホワイトデーよ。当然、お返しは用意してるんでしょうね?」
「殺してでも うばいとる!」
「何の話よッ!」
 一人ガラハドごっこをしてると、何やらレミットの怒り顔が目の前に。
「何を怒っているのだ? 可愛らしい顔が怒りに歪み……いかん、それでも可愛い。惚れた弱みという奴か」
「うっ、うるさいっ! そんなことより、ホワイトデーよ、ホワイトデー! ほら、アンタみたいなバカでも感謝の気持ちくらいあるでしょ?」
「失敬な、俺はバカじゃないぞ。なぁ、友よ?」
 偶然通りがかった友人に、いかに俺の頭がいいか説明を求める。
「いや、別府は馬鹿だぞ」
 当然のように俺を馬鹿と言い放ち、友人は去って行った。
「…………。とまぁ、俺が秀才であることが露見しました」
「…………。そうね、よかったね」
 哀れみを感じさせる口調だけど、額面通り受け取ることにした。ほら、知らない方が幸せなこともあるし。
「とにかく、お返し貰ってあげるから寄越しなさい。当然、用意してるでしょうね?」
「当たり前だろ。ほら、これだ」
 ポケットから品を取り出し、机の上に置く。
「……何、コレ」
「きゃんでぃー。おいしいよ」
 一つ包みを開き、口に入れる。レモンの味が口に広がった。
「……つまんない」
「はい?」
「つまんない、つまんない、つまんない! これで終わりって、アンタ私がどれだけ苦労してチョコ作ったのか分かってるの!?」
「苦労? ……俺のために?」
「そっ、そうじゃなくて、いやそうだけど……うぅ、ええと、アンタなんかが知る必要ないの! とにかく、こんなんじゃ割りに合わない!」
「ううん、苦労してくれたのは嬉しいが……金ないしなぁ」
 口の中で飴を転がし、どうしたもんかと腕を組む。他にプレゼントを用意してないし、はてさてどうしよう。
「……よし。鶴と飛行機、どっちが好き?」
「折り紙なんかもらっても嬉しくないッ!」
 鞄から折り紙を取り出したら、レミットに叩き落とされた。
「贅沢だなぁ……」
「こんなの貰っても誰も喜ばないわよ! いい? 今日の放課後までに何か用意しときなさい!」
「ええっ、そんな無茶な!?」
「無茶でもなんでもするの! 言っとくけど、さっきみたいなの持ってきたり、何も用意してなかったら一生口きかないからね」
 レミットが去って行くのを見ながら、血の気が引くのを感じる。放課後までって、いま昼休みだからあと2時間しかないじゃん!
 とにかく、考えるよりまず行動だ。俺は駆け足で廊下に飛び出した。

「あー、では授業を始める。……ん、別府いないのか。あの馬鹿、またサボリか」
 チャイムが鳴って先生が教室に来ても、別府は戻ってこなかった。
 ……ちょっと無茶言っちゃったかな? ううん、いいよね。こんな飴しか用意してないんだもん、これくらい当然よ。
 ポケットから飴を取り出し、口に入れる。……あ、おいしい。
 ……あいつ、何持ってくるだろ。お金ないって言ってたし、何も持ってこないかな。
「……いや、それはないか」
 無駄に行動力だけはあるし、何かしら持ってくるだろうな。……変なの持ってこなきゃいいけど。
 ぼんやり隣にある別府の席を見る。いつもそこにあるアイツの姿がないだけで、なんか変な感じ。
「……ミット、レミット。いないのか?」
「え、あ、はい! います!」
「何をぼーっとしてるんだ。とにかく、この問に答えてくれ」
「す、スイマセン……どのページですか?」
 ぼーっとしていて、先生に呼ばれたのに気づかなかった。みんなに笑われ、恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じる。
 ……うぅ、これも別府のせいだ。いてもいなくても迷惑な奴。これで変なの持ってきてみろ、本当に絶交してやるから。

 6時間目の授業が終わって、ホームルームも終わった。
 ……別府は、戻ってこなかった。面倒くさくなって家に帰っちゃったのかな? いや、鞄もここにあるし、大丈夫だいじょうぶ。
「ねぇレミットちゃん、一緒に帰らない?」
 自分を納得させてると、友達が話しかけてきた。
「あ、ごめんね。私、別府の馬鹿を待ってないと」
「あー、昼休みのアレね。大変ね、別府くんも」
「なーに言ってるのかな。お返しがこれよ、これ」
 私はポケットからキャンディーを取り出し、友達に見せた。
「……お返しがキャンディーって、普通じゃない?」
「で、でも、私があんな苦労してチョコ作ったのに、こんなどこにでもあるキャンディーで済まされるって、その……」
「あははっ、わがままな彼女で別府くんってば本当に大変ね」
「か、かか、彼女ぉ!? じょ、冗談じゃないわよ!」
「違うの?」
「違う違う違う! ただの友達!」
「なーんだ。別府くん、レミットちゃんに好き好きオーラ出してるし、てっきり付き合ってるものだと思ってた」
「勘弁してよ、なんであんな奴と付き合わなくちゃいけないのよ……」
 友達のあんまりな言いように、思わずぐったりしてしまう。
「でも、嫌いじゃないよね?」
「ま、まぁ……と・も・だ・ち、だからね!」
 友達、というのを強調して言うと、彼女は笑顔を見せた。
「あははっ、そっかぁ。じゃ、そろそろ私帰るから、頑張ってね!」
「な、何を頑張るって言うのよ!」
 友達は笑顔を残して教室を出て行った。がらんとした教室に一人取り残される。
 あーあ、アイツも帰ってこないし、私も帰っちゃおうかな。
 ……で、でも、もうちょっとだけ待ってあげてもいいよね、友達だもん。そう、友達友達。恋人じゃなくて、友達!
 ……ああもう、あの子が変なこと言うから意識しちゃうじゃないの。
「はぁっはぁっ……れ、レミットはいるか!?」
 なんて考えてると、別府が息を切らせて教室に飛び込んできた。
「お、遅いじゃないの! もう授業終わっちゃったわよ!?」
「はぁはぁ……ほ、放課後に間に合った? セーフ?」
「アウト……と言いたいところだけど、ギリギリセーフにしてあげるわ」
 別府の顔が絶望に落ちた表情から、ゆっくり安堵に満ちた表情に変化していく。ふふっ、変な顔。
「はぁ……よかった、死ぬかと思った。ちょっとプレゼント探すのに手間取ってな、遅れてゴメン。はい、プレゼント」
 そう言って、別府は花束を私に渡した。
「花……?」
「や、色々探し回ったはいいが、金もないし時間もないでろくな物が見つからなくてな。で、公園でちょっと休憩してたらいい匂いがして。その元を探したらこれがあったんだ」
 そう言って別府は花束を──沈丁花を指した。
「結構いい匂いだろ?」
「確かにいい香りだけど……近くで嗅ぐにはちょっと匂いが強すぎて嫌味ね」
「う……と、とりあえず今日のところはそれで我慢してくれ。また後日、ちゃんとしたプレゼント渡すから」
 そう言って、別府は申し訳なさそうに笑った。
「……べ、別に、これだけでいい」
「え、いや、でも」
「綺麗だし、……それに、近くで嗅がなかったらいい匂いだもの。まるで誰かさんみたい」
「……誰かって、誰かなー?」
「ヒントを言うなら、そばにいたら迷惑だけど、遠くから見る分には面白い奴ね」
「……いやはや、誰のことかまったく分かりませんな。そんな奴いたかな?」
 そう平然と言う別府だったけど、明らかに誰を指してるか分かってるな。あははっ、不満そう不満そう。
「とにかく、帰るべ。なんかもークタクタだ」
「だらしないなぁ、もう」
「お前なぁ、2時間くらい走りまわってたんだぞ? それで疲れない奴いたら見たいぞ」
「そ、それもそうね。あははっ」
 ……そっか、ずっと私へのプレゼント探してくれてたんだ。
「うー、足ガクガクだ……明日筋肉痛だな」
 よろよろと歩く別府の後姿に、私は心の中で感謝の言葉を告げた。
 ……口にすると、どーせまた調子に乗るしね、コイツは。

「レミットちゃん、その花は?」
 リビングの花瓶に花を生けてると、ママが帰ってきた。
「ちょっとね」
「へぇ、いい匂いね。……でも、近くで嗅ぐと匂いが強すぎるわね」
「……慣れたら、近くで嗅ぐのも悪くないわよ」
「そう?」
「うん。……えへへっ、いい匂い」
 不思議そうなママをよそに、私は沈丁花の甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

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