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2024年11月24日
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【帰宅したらツンデレが自室の段ボールに捨てられていたようです】

2010年02月17日
 学校から帰宅すると、傍若無人厚顔無恥の歩く皮肉ロボがいない。買い物にでも出かけたかなと思いつつ自室に入ると、段ボール箱の中になんかいる。
「にゃー」
 皮肉ロボ──ヒナタが段ボール箱の中に入り、指を箱のふちに乗せて無表情でにゃーにゃー鳴いてた。
「にゃー」
「…………」
 さて困った。どう処理したものか。
「ふふ、ヒナタの萌え動作にマスターはめろめろです。気持ち悪いマスターの気持ち悪い本で学習した甲斐があるというものです」
 ヒナタの嫌な言動に部屋を漁る……までもなく、俺の机の上に見覚えのある品が。
「なんで俺のエロ本がここにあるんだよ! 隠してたろ! 思春期の多感な時期なんだから察して!」
「もう少しソフトな描写の本にすべきだと提案するヒナタです。あと、出てくる女性全てが小さいのはどうかと」
「まさかの熟読!? ええい、帰れ帰れ、そんな酷いロボットは研究所に帰れ!」
「……ヒナタにもう帰る場所がないと知ってて、マスターはそんなことを言うのですね」
「え……」
 そんな、だって叔父さんの研究所は潰れてないと思ったけど?(注:ヒナタは叔父の開発したロボットであり、実動テストとして預かっています)
 ……はっ、昨今の不況の影響がこんなところにまで!?
「……そ、そうだったのか。ごめんな。そうとは知らず、俺……。なあヒナタ、いつまでもここにいていいんだからな?」
「まあ、嘘なのですが」
「…………」
 なんでこうもさらっと嘘をつくかね、このロボは。
「しかし、マスターの優しさにほんの僅かですが、そう、猫のひたいほどですが、感動したと言うヒナタです」
「あーそりゃどーも」
「マスターが完全に拗ねているのをマスターご機嫌いかが機能にて確認。機嫌修復開始。あばばばばー」
 ヒナタは無表情なままあばばば言った。今日も馬鹿にされてる。なんだ、マスターご機嫌いかが機能って。絶対いま適当に考えてつけたに違いない。
「赤ちゃんじゃないんだから、そんなのじゃ機嫌は直らない」
「マスターの能力は赤子以下。記録。完了」
 このロボは重箱の隅ばかりを狙うので、俺の個人情報がとても悲しい感じになっている。
「ところでマスター、未だにヒナタの萌え動作について感想を頂いていないのですが。きちんと悶えていただかないと困ります」
 そんなこと言われてもこっちが困る。
「愚かなマスターのためにもう一度媚びますので、今度は悶えてください」
 とても嫌な発言のあと、ヒナタは再び「にゃー」と鳴いた。無論、いつものように無表情で。
「どうですか。萌えましたか。萌えましたね。萌えたらヒナタを褒めなさい。なでなでしなさい」
「おまえは一度脳を改造してもらった方がいい」
「改造経験のある人は言うことが違いますね」
「されてねえっ! 人を改造人間みたいに言うなッ! ……あっ、なんか仮面ライダーっぽくて、ちょっと嬉しいかも」
「訂正。マスターが人として失格なため、脳改造された人間のようだとヒナタは言ったのです」
 より嫌な方向になってしまい悲しい。
「やれやれ、マスターはわがままですね。これほどヒナタが媚びているというのに、何が不満だというのですか」
「どんな萌え動作をしようが、故意にやってる時点でダメなんだよ! あーもー説明さすなよ!」
「マスターの気持ち悪い説明を聞くのも面倒ですので、とりあえずヒナタを褒めてください」
「人に説明を求めておいて気持ち悪いとな!? なんて無礼なロボットだ……いつか分解してやる」
「いいから早く褒めなさい。なでなでしなさい。鳴いてやりますから。にゃー。ほら。にゃー」
「……そこまで褒めて欲しいなら条件がある。『ご主人さまぁ……ヒナタ、いっぱいなでなでしてほしいですにゃん♪』と媚っび媚びに言えっ! さすれば褒めてやろう!」
「今日はまた格別に気持ち悪いですね、マスター」
 とても傷ついた。
「マスター、段ボール箱の中に入って泣かないでください。迷惑です」
「うっ、えぐっ……ロボットがいじめる、ロボットが人間をおびやかす」
「安心してください、マスター。ヒナタがおびやかすのはマスターだけですから。特別扱いにマスターにっこり」
 特別扱いなのに、ちっともにっこりできない。
「にっこりしたらそこから出てください。それはヒナタのものです。対マスター用保護欲噴出装置です」
「ちっとも保護欲が噴出しませんでしたよ」
「やはりマスターほどの剛の者ですと、幼女でなければ欲情しませんか」
「おまいはどこまで俺を貶めれば気が済むんだ」
「おかしいですね……先ほどの本には幼女のあられもない姿が多数収録されていたので、間違いないと思ったのですが」
「その記憶は消してください!」
「この世界にはギブアンドテイクという言葉がありまして」
「……つまり、褒めたら忘れる、と?」
「…………」
「……よし、分かった。おまえみたいな性悪ロボを褒めるのは正直嫌すぎるが、背に腹はかえられない。褒めてやろう」
「随分な言いようですが、ヒナタは優しい素敵なアンドロイドですので、夕食の品を悲しい感じにするだけで許してあげます」
 些細な言葉で俺の晩飯が悲しい感じになってしまった。
「はぁ……まあいいや。んで、どうすりゃいいんだ?」
「ヒナタをなでなでしなさい」
「…………」
「な、なんですか、その目は。別にヒナタはマスターのなでなでが好きなんじゃないです。以前、マスターのなでなでを受けた際、ヒナタのプログラムが不可思議な動きをしたので、それを確認するにすぎないのです」
「不可思議、ねえ……」
「分かったらなでなでしなさい。早く、ほら、早く」
「わーったよ。ほい」
 ヒナタの頭に手を乗せ、なでなで。
「は、はふ……」
 ヒナタの頬がほんのり桜色に染まる。ヒナタは自分では自覚が無いようだが、頭をなでられるとこのようになる。ただ、そんな機能はついてないらしいが……。
「どうだ? 確認したか? ついでに記憶も消えたか?」
「も、もっとです。もっとデータが必要です。別に嬉しいからもっとなでなでしてほしいわけではないです」
「…………」
「な、なんですか、その目は」
「……やー、まあいいや。好きなだけしてやるよ」
「ま、マスターにしてはよい判断です。『下等人種にしてはよくやったで賞』を授けます」
 イマイチ嬉しくないのはどうしてだろうね。
「ほれ、ぐだぐだ言ってたらなでねーぞ」
「む。マスターは狭量です。……ん」
 なでること数分。いい加減疲れたのでヒナタの頭から手をどける。
「……はああああ。素敵な時間でした」
「俺は超疲れた」
「だらしないですね。流石はなでなで以外まるで取り柄のないマスターです」
「帰ってくれませんか」
「お断りします」
 にべなく断られた。
「まあいいや、これで俺の素敵アルバムの記憶を消してくれるんだよな?」
「何の話ですか」
「え? ……いや、だって、さっき」
「ヒナタは何も答えませんでした。マスターが勝手にそう思ったに過ぎないと断言するヒナタです」
 記憶をさかのぼる。うん、確かにヒナタは何も言ってないよね。でも、あの感じだと普通沈黙は肯定だと思うよね。それを逆手に取ったんだね。
「……ずるい! なんてずるいロボだ! 卑怯者!」
「マスターほどずるくも卑怯でもありません」
「なんで断言してんだよ! 不愉快だ、ああ不愉快だとも! もう二度とおまえみたいな不愉快ロボなんて撫でてやらないからな!」
「…………」
「……な、なでないからな?」
「…………」
「む、無言でこっちをじーっと見るなよう! 怖くないけど! 怖くないけど見るな!」
「…………」
「ご、ごめんなさい」
 どうして俺が謝る羽目になっているのだろう。
「……ふう。寛大なヒナタだから許してあげます」
 そして、どうしてこいつはこんな偉そうなのだ。主従関係がおかしくなってますよ。
「ほら、もう土下座なんてやめてください。頭を床にこすり付けるなんて、情けないですよ」
「土下座なんてしてねえっ!」
「じゃあしてください。頭を床にこすり付け、情けない姿をヒナタに晒しなさい。その後に優しいヒナタが止めますから。優しいヒナタに、マスターどきどき」
「お前みたいな性悪なロボにドキドキなんてするか!」
「不思議ですね、なんだか先ほどの幼女全集の内容をマスターの友人たちに仔細に伝えたくなるヒナタです」
 脅迫までしてきた。極めて屈辱だが、屈服するほか術がなかった。
「わ、わー、ヒナタにどきどきするなあ」
「不愉快です。やめてください」
「おまーがやれって言ったんだろうが! 言ったんだろうがっ! 言ったんだろうがあっ!」
「うるさいです」
 迷惑そうにヒナタは眉をひそめた。
「あーもーっ! お前、絶対俺のこと嫌いだろ」
「……秘密です」
 いつものように無表情に言うヒナタだったが、どうしてか俺にはヒナタが笑っているように見えた。

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