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2024年11月24日
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【ハナ ホワイトデー】

2010年03月12日
 さういえば、そろそろ白くてどろっとしたものをあの子に押し付ける日だ。別名、ホワイトデーだ。
 なんの冗談か知らないが恋人がいる俺なので、当然のようにバレンタインにはちょこれいとを貰った。なので、今度は俺が当然のようにお返しする番だ。
「相談なんだが、いったい何を貰えば女性というのは嬉しいのだろうか」
「……送る女性によりけりだと思います」
 そういったわけで、学校の帰り道、恋人のハナに相談してみたのだけど、どういったことかこの話題になった途端機嫌が悪くなった。
「ついさっきまで嬉しそうに彰人くん彰人くんと言っていたのが夢幻のよう。やはりこれは夢なのか。そうだな、夢と考えれば俺に恋人がいるなんてことも理解できるな。……ははっ、なんだこれ、涙?」
「な、なんだか分からないけど彰人くんがぴんちっぽいです。……こ、恋人の出番です」
 頭を抱えて滂沱していたら、ふんわりと何かに包まれた。ふと顔をあげると、優しいハナの笑顔。
「……だ、だいじょぶです。夢じゃないです。彰人くんのことを大好きな私は、ここにいます」
 ハナは両手で俺の頬を包み、にっこり笑った。
「……よし! 悪夢は消えた! あとついでにハナが可愛いのでちゅーしたい!」
「は、はや……こ、困ります。……い、家の中でならいいです。……で、でも、どしてもしたいなら、恥ずかしいの、我慢します」
 ハナは目をつむって爪先立ちになると、真っ赤な顔で口をとがらせた。悪戯心がむくむく膨らんだので、鼻をそっとつまむ。
「……彰人くん、そこは鼻です。……ちゅーは口に、ですよ?」
 うっすら目を開けると、ハナは少し不満そうに口を尖らせた。
「ハナが道端でキスをせがむ」
「私がしたいって体にされてます!? うう……相変わらず彰人くんの手練手管はすさまじーです。誰しもがめろめろになるのも致し方ないです。……それで」
「うん?」
「……誰に渡すんですか、バレンタインデーのお返し」
「?」
「い、いえ、?じゃなくて。……うう、邪気のない笑顔が素敵すぎです。心臓止まりそうです」
「ハナが死にそうだ!? 医者、医者ーっ!」
「彰人くんが半狂乱で医者を!? ま、待ってください、へーき、へーきですっ!」

 ややあって平静を取り戻した俺は、近所の公園に連れて行かれた。ベンチに腰掛け、自販機で買ったコーヒーのプルタブを押し開け、一気に飲み干す。
「ふー。落ち着いた」
「まったく……彰人くんは心配性です。そんなすぐ死にません」
「いやあ、気がついたら体が勝手に動いてた。はっはっは」
「あ、あぅ……」
「赤くなる話ではないと思いましたが」
「相変わらずの天然ジゴロです。今日も私は彰人くんにくらくらです」
 ハナは俺の胸に頭を押し当て、大きく息を吸い込んだ。
「……ふー。あの、思い切って聞きます」
「うん?」
 ハナは俺に抱きついたまま、顔だけ上げて問いかけた。
「……浮気、してますか?」
「え? いや、こんな可愛い生き物が俺の一番大切な人になっているというのに、どうしてそんなことをする必要が」
「お、おだててもダメです。証拠はあがってるんです」
 ハナはタコみたいに真っ赤になりながら俺に指を突きつけた。
「さっき、バレンタインデーのお返しに何を送ったらいいか聞かれました。これは間違いなく誰かにチョコレートを貰い、さらにはホワイトデーにお返しするつもりです。しょーめーしゅーりょーです」
「はぁ」
「……気のない返事でがっかりです」
「いや、だって、ハナに渡すものはハナに聞くのが一番かなーっと思って聞いただけだし」
「……私に?」
「いえす。ていうかだな、俺を見くびるな、ハナ。どうしてお前以外の女性にチョコを貰ったと思えるのか。はばかりながらこの符長彰人、今までの人生で貰ったチョコレートはお前以外、皆無っ!!!」
「か……かっこよすぎなぽーずです。心臓、ばくばくです」
 よく人からはタコが陸上でのたうちまわっていると言われるポーズだったが、ハナには好評だったようだ。
「あ、あの。てことは、ですね。……私の勘違い、ですか?」
「うぃ、まだむ」
「うう……あの、あのあの。……ごめんなさい、です。勝手に先走って勝手に焼き餅妬いたりして。……幻滅しました?」
「うん。もう別れよう」
「あ゛ー……」
「全力泣き!? すいません嘘です冗談です俺が悪かったですハナが大好きです!!!」
 涙も鼻水も垂らしまくりのハナに、こちらも全力で土下座するのだった。

「……ぐすぐす。……あんな冗談、こりごりです。……ちーん」
 俺の土下座力によりなんとか泣き止んだハナにティッシュを渡し、鼻をかませる。
「いや全く。久々に肝を冷やした」
「私の肝も冷えまくりです。冷凍庫でコチコチです」
「いや、よく分からん」
「怒ってるってことです。つーん、です」
 ハナはほっぺを少しだけ膨らませて、明後日の方向を見た。
「ふむ。じゃあ、ホワイトデーのお返しには奮発して機嫌を直さないとな。で、何がいい?」
「……土地」
「俺のハナが物欲に塗れている!!! 畜生、こうなったらサラ金を練り歩くしか!?」
「彰人くんが破滅の道を!? 嘘です嘘です、土地なんていらないです!」
「むぅ。じゃあ、何が欲しい?」
「……あの、なんでもいーですか?」
「やっぱ土地か! どこのサラ金から行けばいい!?」
「違いますっ! ……あの、あのですね? ……ホワイトデーには、一日、ずっと一緒がいーです」
 そう言って、ハナは俺の服の袖をきゅっと握った。
「え? いや、でも今も休日はそうやってるし」
「朝に会って、夕方にはお別れです。……朝から晩まで、ずっとずっと、ずーっと一緒にいたいです。おはようって彰人くんに最初に言って、おやすみって彰人くんに最後に言いたいです」
「う……」
 それはつまりお泊りということであり、俺の理性が試されているのか!?
「ダメ、ですか……?」
「そんな悲しそうな顔をしているハナにどうしてNOと言えようか! ああいいさ、いくらでも一緒にいさせてくださいっ!」
 花が咲いたようなハナの笑顔に、俺はどうやって理性を抑えればいいのか苦悩するのだった。

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