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2024年11月21日
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【うっかりしてドブにはまったツンデレ】

2011年04月24日
 最近雨が多くて鬱陶しいよね。鬱陶しいなんて漢字、百回書いても覚えられないよ。
「とー」
 とか考えながら傘を差してゆっくり学校から帰ってると、何やら横合いからそんな気の抜けた声が。そして、それと同時に何やら衝撃が。バランスを崩し、その結果俺の足は側溝に突っ込んでいます。
「ああっ! 足が! 水に! ドブに! 冷たい!」
「これほど醜態が似合うのは世界広しと言えど、おにーさんくらいです」
「なんとなくそうではないかと思ったがやっぱりテメェか、ふみ! ……お?」
 そこにいたのは知り合いであるところの中学生、ふみだった。ただ、普段と違うところが少々。
「……なんですか。私の外見について言及するのはマナー違反だと思います」
「いや、外見っつーかなんつーか」
 ふみの足は俺と同様、水というかドブでずぶ濡れずぶ汚れ(ずぶ汚れ……?)だった。
「……よもや蓋が外れていようとは。そして、増水でそれに気づかなかったとは。天才である私の人生において、唯一と言っていい汚点です」
 憎々しげに口を歪ませるふみ。うん、それはいい。それはいいです。
「で、なんで俺までドブにはまらせた」
「私だけビショビショなんて不愉快です」
「なんて勝手な娘だ。脳改造してやる」
「むしろおにーさんが脳改造されるべきです。おにーさんの性的被害に常に遭っている私は疲労困憊です」
「人聞きが悪すぎる! 何もしてません!」
「おにーさんに遭遇すると、高確率でなでなでとか抱っことかされます」
「え、それも性的被害の範疇入るの?」
「当然です」
「じゃあもう何も言えません。自首するから一緒に警察来てくれない?」
「嫌です。おにーさんはそこのドブで無様に水死するのがお似合いです」
「え、死ぬほどの罪を犯してたの?」
「とはいえ、知り合いがぶくぶく膨れた水死体になるのを見るのも御免です。そんなのを見せられてPTSDになったらどうするつもりですか。慰謝料ください。一億円」
 人を殺そうとするばかりか金まで請求しだした守銭奴のほっぺをぐにーっと引っ張る。
「めそめそ」
「ちっとも効いてねぇ! なぜなら真顔でめそめそ言ってるから!」
「抵抗しない中学生をニヤニヤしながら虐待するおにーさん、素敵です」
「ええい!」
 諦めて手を離す。ふみは片手でほっぺをすりすりしていた。
「顔に出にくいだけで、痛いは痛いんですよ?」
「知らん!」
 とは言いつつも、一応ほっぺをすりすりしてやる。
「どんな時でも女性の肌に触れようとするおにーさんの欲望には正直脱帽です」
「ちげー! 痛いの痛いの飛んでけー的な! そういうの!」
「呪いですね?」
「……いや、まあそうなんだけど、漢字はちょっと。まじない、な。のろい、じゃなくて」
 空中に呪いという文字を書かれたので、一応訂正しておく。
「おにーさんが私を呪います」
「この故意犯め」
「これ以上大きくなるな、俺のロリ魂が萌えるこの丁度いい大きさのまま成長止まれ、というおにーさんの呪いが私を蝕みます」
「そろそろ黙らないと周囲が引くくらい恥も外聞もなく泣く、という俺の必殺技を見せつけるぞ」
「おにーさんに恥や外聞という概念があったとは驚きです。……はくちゅっ」
「くしゃみ?」
「くしゃみません。……くちゅっ」
「くしゃみだな。まあこんだけ濡れてたらな。……こっからだと俺の家の方が近いか。よし、俺の家来い。たぶん風呂沸いてるから」
「あまりに大胆な誘いに、さしもの私もドキドキです」
「ドキドキ土器王紀」
「……その返しは想定外です。おにーさんは小癪にも私の想像の外を行くから嫌いです」
「嫌いでもなんでもいいから行くぞ」
「むぅ」
 頬を膨らませるちっこいのの手を引いて、家に帰りつく。幸いにも風呂は沸いていたので、ふみを脱衣場に追いやる。
「着てた服は洗濯機に突っ込んでくれていいから。入ってる間に着替え用意しとくよ」
「裸ワイのチャンスですよ、おにーさん」
 5、6発チョップしてふみの目をぐるぐるにさせてから、脱衣場のドアを閉める。さて、着替え着替え。

「あがりましたよ、おにーさん」
「ん、そか。じゃ俺も……どういうことだ!!!?」
 風呂からあがったふみは、裸ワイシャツ姿でした。
「萌え萌え?」
 とりあえず頭をはたく。
「むぅ」
「むぅじゃねえ。ていうかどういうことだ。俺は普通のスウェットを置いといたんだけど」
「こんなこともあろうかと、以前おにーさんの家に来た時に仕込んでおきました」
「なんて無意味な用意周到さだ」
 とはいえ驚いたので、賞賛を称えるべくふみの頭をなでる。
「…………」(少し嬉しそう)
「じゃあ、驚いたので普段着に着替えなさい」
「洗濯機に入れちゃいました」
「いや、意味が分からない」
「もうゴーゴー言いながら回ってます。取り出し不可です」
「……ええと。わざと?」
「意味が分かりません」
「……はぁ。まあいいや、とりあえず俺も風呂入ってくるから、部屋で待っててくれ」
「裸ワイシャツの女性を部屋に待たせるだなんて、おにーさんの妄想が現実に侵食してきてますね」
「ははははは。ふみは愉快だなあ」
 ふみの鼻をぐにぐにーっとして溜飲を下げてから、風呂に入る。暖まった後、部屋に戻る。
「遅いです。あんまりにも遅いんで身体が冷えちゃいました」
 ふみはベッドの上にぺたりと座りこみ、頬を膨らませていた。どうやらご機嫌ななめの様子。いや、コイツは基本ずっとご機嫌ななめなんだけど。
「10分も経ってないと思うんだが」
「おにーさんの10分が私の10分と同価値と思っていただなんて驚きです。私の1分は、おにーさんの時間に換算すると80年くらいの価値があります」
「お前の一分と俺の一生は同価値なのか」
「驚きの事実ですね、おにーさん」
 とても悔しいので、ふみのほっぺを引っ張る。
「……って、お前本当に身体冷えてるじゃねえか!」
 俺が風呂上りというのを差し引いても、ふみのほっぺは冷たかった。慌てて布団を広げ、ふみにかぶせる。
「むぅ。大げさです、おにーさん」
「うるせえ。ったく、お前は頭はいいけど、身体はそんな強い方じゃないんだからちっとは自衛しろ、馬鹿」
「むっ。馬鹿とはなんですか。さっき頭はいいと言ったのに馬鹿とは矛盾してるじゃないですか。おにーさんのばか」
「馬鹿のいうことにイチイチ腹を立てるな、馬鹿」
「むぅ! 私に馬鹿なんて言うの、おにーさんくらいです! おにーさんのばか!」
 手が出た。すかさずふみの頭に手を置き、攻撃を防ぐ。
「むー! 射程範囲外に追いやるとは卑怯です! むー!」
「悔しければ腕の関節を外し、ズームパンチを俺の顎にブチ込むことだな。はっはっは」
「めめたぁ! めめたぁ!」
 残念ながら擬音だけしかブチ込めなかったようで、ふみの手はついぞ俺に触れることはなかった。
「はぁはぁ……うう、おにーさんは今日も卑怯者です」
「リーチの差を活かした技です」
「むー。……はぷしゅ」
「お前のくしゃみはバリエーションに富んでるな」
「くしゃみじゃないです。くしゃみません」
「まあ、この調子で暖まってりゃ風邪ひかないだろ」
「風邪なんて引いたことないです。……ちゃぷちぇ」
「いや、流石にそのくしゃみは嘘だろ!」
「たまには焼肉食べたいです」
「知らん! いや、まあ俺も食べたいけど。食べたの何ヶ月前かなあ」
「ちゃぷちぇが飛び出すほどの寒さです。このままでは死にます」
「待って。まず前提条件であるところのちゃぷちぇが飛び出す寒さってのが理解できない」
「と、いうわけで。緊急避難行動です」
 布団に包まった存在がもそもそ寄ってきたかと思ったら、同化された。
「……ええと」
 流石に正面から抱きつかれると、恥ずかしい。
「……め、めめたぁ」
 こつん、と顎に何か当たった。見ると、ふみの拳が俺の顎に触れていた。
「ず、ずーむぱんちです。波紋が流れたので、おにーさんは血ヘド吐いて死にます」
「お前はすぐに俺を殺そうとするのな」
「憎い相手を殺そうとするのは当然というものです」
「超怖いですね」
 わっしわっしとふみの頭をなでる。
「……私の頭をなでる時、おにーさんはいっつも優しい顔してます」
「菩薩如来の再来か、と言われるほどの俺だからな。優しいのも当然さ」
「……いつだって嘘くさいです」
「ルパン三世の再来か、と言われるほどの俺だからな。嘘くさいのも当然さ」
「びっくりするくらい適当です。おにーさんのばか」
「いやはや。で、寒いのはマシになりましたかな、お嬢さん?」
「……春の雨は身体の奥底まで冷やしてしまうので、ちょっとやそっとじゃダメです」
「じゃあしょうがないな」
「しょがないのです」
 ということらしいので、もうしばらく抱っこ続行。
「あ。そういえば折角の裸ワイシャツなのに、専用イベントが起きてません。起こしますか?」
「前々から思ってたが、お前の台詞はイチイチおかしい」
「おにーさんに侵食されたんですね。それで、どうしますか?」
「……まあ、一応、起こしておこうか」
「流石はおにーさん、どんな些細なイベントも消化するその貪欲な性欲には脱帽です」
「やっぱ起こさない!!!」
「もう遅いです。……えい」
「ん?」
「えい、えい」
「えーと。何をしているのでしょうか」
 ふみは肩を寄せたり広げたりしている。何の運動だろうか。
「……失敗です。谷間を作っておにーさんを誘惑大作戦が、一切谷間が出来ません」
「あー……」
 まあ、そりゃ、ねえ。一般的な中学生と比較しても、明らかに小さいし。……せせせ背の話ですよ!?
「……何かとても失礼なことを想像されてる気がします」
「お前、エスパーか」
「エスパーふみ。趣味はテレポーテーションです」
 こいつは暇さえあれば俺の部屋に入り浸っているため、俺の蔵書に影響されやすい模様。
「将来の夢は、おにーさんをテレポートしてかべのなかにいさせることです」
「勝手に人をロストさせるな」
「まろーる、まろーる」
 呪文を唱えながら人の顔を遠慮なくぺしぺし叩くふみだった。

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【雨天中止 カモ デート】

2011年04月15日
 今日はふみと遊びに行く予定だったのだけど、朝から生憎と雨模様。これはもう出るのが超めんどくせえから中止と電話でふみに告げたら、
『おにーさんとのデート、楽しみだったのに、残念です……』
 なんて寂しげに言われたもんだから、もう転がるように家を出て雨に濡れるのも構わずそのままふみの家へ直行。インターホン連打。
『はい』
「はぁはぁはぁ……お、俺。俺だ。中止は取りやめ。一緒に行こう、デートに!」
『おにーさん相手にデートとか片腹痛いです』
「え……? あれ、さっきデート楽しみとか言われて超浮かれてやってきた俺の立場は? あれぇ?」
『おにーさんのことです、どーせ私とのおでかけを楽しみにするあまり、それがデートだと思い込んだに違いありません。気持ち悪いことこの上ないです。慰謝料を請求します。一億円ください』
「いや、金はともかく、あれ? なんかついさっき電話でデート楽しみとかお前の口から聞いたんだけど?」
『おにーさんの思い込みです』
「うぅむ……」
 極めて納得がいかないが、ふみがそう言うのであれば、そうなのだろう。
『だいたい、こんな雨の中デートに行くとかありえないし、そもそもおにーさんとデートとか地球が割れてもありえないです』
「そこまで俺は嫌われているのですか」
『秘密ですよ?』
「俺以外にのみ、その頼み事は通用すると思うのですが」
『まあともかく、うちにあがってください。雨に打たれて風邪でもひかれたら困ります』
「おお。ふみの心遣いに感謝する」
『おにーさんのことです、私のせいで風邪ひいたー慰謝料よこせーいちおくえんーとか馬鹿みたいなことを言うに違いないからです。他意はないです』
「その慰謝料のくだりはお前の口からよく聞くのですが」
『ぐだぐだ言うなら、このまま帰ってもらってもいいです』
「すいません入れてください俺が悪かったです!」
『まったく……情けないおにーさんです』
 ちうわけで、ふみに入れてもらった。玄関先にタオルを持ったふみがちょこんと立っている。
「はい、おにーさん。タオルです」
「おお、サンキュ」
 受け取ったタオルで頭をガシガシ拭く。そんな長時間外にいたわけではないのに、結構濡れていた。
「ところで、親御さんは?」
「休みだというのに、今日も仕事です。……分かってて聞きましたね?」
「いやいや、いやいやいや! 分からないから聞いたの!」
「分かってるのにあえて聞き、改めて私に寂しい思いをさせるおにーさんの技術、感服します」
「この娘は本当に厄介だなあ」
「……なら、放っておいてください」
 気に障ったのか、ふみは俺に背を向けてしまった。
「それができたら苦労しないんだよなあ」
 ふみの頭に、さっき俺の身体を拭いたタオルを置く。我ながら無駄な苦労をしょいこんでる気がする。まあ、性分だから仕方ないか。
「むぅ。私の頭はタオル置き場じゃないです」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないです、おにーさんのばか」
「馬鹿で申し訳ない」
 タオルの上からふみの頭をなでる。
「……なでなでが遠いです」
「タオルが俺のなで力を緩和させているんだね」
「説明なんて不要です。おにーさんのばか」
「いやはや。さて、おでかけはなくなってしまったが、どういうわけだかふみの家にいる。つーわけで、今日はここで一緒に遊びましょうか」
「嫌です。遊びません。身体を拭いたのなら、おにーさんはとっとと帰ってください」
「うーん……」
 依然ご機嫌ななめモードなようで。
「困ったなあ」(なでなで)
「全然そんなこと思ってないです。ずっと私の頭をなでてばかりです。さらに言うならまたしてもタオルの上からなでてます。もうずっとなでなでが遠いです」
「やっぱ直接の方がいい?」
「……ぜ、全然。今ならなでなでが遠くて、おにーさんの体温を感じることができないので、大変心地よいです。ありがたいことこの上ないです」
「じゃあ今後はずっとこのなでなでにしようね」
「……おにーさんのばか」(半泣き)
 ええ。なんだかんだ言ったって、こちとらロリコンですから、そんなの勝てるわけないですよ。
「ああごめんなごめんなふみ。ちょっと調子乗りました。直接が一番に決まってるよね」
 タオルをぶっ飛ばし、直接ふみの頭をなでる。
「お、お、お、おにーさんっ!?」
「うん? ……あ、あー」
 それどころかふみに抱きついてる俺は、本当いつ通報されてもおかしくないよね。
「うぅ……おにーさんが興奮のあまり私に抱きついてます。これはもうこのまま犯されるに違いないです」
「犯しません」
 一瞬で冷静になったので、素直に拘束を解く。
「むぅ」
「なんで膨れてんだ」
「おにーさんの弱みを握れると思ったのに、残念です」
「そんなんで身体を許すな。ふみの貞操観念が緩くて、お兄さんは不安だよ」
「こんなことおにーさんにしかしませんから、大丈夫です」
「なんて恥ずかしいことを真顔で言いやがる、この娘は!」
「おにーさんみたいな面白いカモ、他にいません」
「…………」
 心配して損した。
「そもそも、ここまで私の心にずけずけと土足で踏み込むようなデリカシーなし人間はおにーさんだけなので、その心配は不要です」
「なんて言い様だ」
「……まあ、言い方によっては、私にここまで親身になってくれるのは、おにーさんだけ、とも取れます」
「……そ、そっか」
 ええい。無駄に恥ずかしい。ていうかふみも冷静なフリしてるが顔真っ赤だし。
「……て、てい」
「痛い」
 なんか突然ふみが俺の手を叩いてきた。
「お、おにーさんのくせに照れるとか生意気です。おにーさんはいつもみたく年上っぽく余裕しゃくしゃくな感じで振舞えばいいんです」
「そうありたいんだけど、なかなかなぁ。修行が足りないようで」
「おにーさんは異性との接触の機会が私といる時しかないので、修行のしようがないんです」
「あまり悲しい事実を突きつけるな。泣くぞ」
「……本当にそうなんですか?」
「何を意外そうな顔をしている。そんなモテそうに見えるか?」
 ものすげー首を横に振られた。畜生。
「……そっか、そうなんですか。おにーさんは、私しか異性の友人がいないんですね?」
「だから、殊更言うない。本当に泣くぞ」
「……えへへ。おにーさん、モテません♪」
「よし、もう決めた。恥も外聞もなく泣く」
「あんまりにもおにーさんが可哀想……いえ、哀れなので、今日は一緒に遊んであげます。感謝してくださいね、おにーさん?」
「本当に酷い話だ。本当に」
 ふみの不機嫌が吹き飛び上機嫌になったのはいいが、俺が悲しい休日だった。ただ、まあ、ふみはずっと楽しそうだったし、いいか。

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【ツンデレと豆まきをしたら】

2011年02月05日
 今日は節分です。誰がどう言おうとそうなんです。信じれば夢は叶うんです!
 そんなわけで節分なのだが、高校生ともなるとそういった行事にも疎くなり、結果俺の家の前で待ち構えていた知り合いの中学生、ふみの襲撃に遭う羽目になる。
「鬼は外。鬼は外」
 呪文のように繰り返しながら、ふみは俺の鼻に豆を一粒ずつ詰めた。
「やめてください。すごく迷惑です」
「福は内、福は内」
「文言の問題ではなくて!」
 あまりに詰められると取れなくなるので、ふみの頭に手を置いて攻撃を防ぎつつ、空いてる手で鼻をふんってする。ぱひゃーっと豆が飛んでいった。
「道端に捨てるなんて、おにーさん極悪です。後でおにーさんが美味しくいただいてください」
「俺はTVスタッフではないので美味しく食べない」
「やっぱりおにーさんは極悪です」
「いきなり人の鼻に豆を詰める奴は極悪ではないのか?」
「おにーさん、今日は節分です」
 都合の悪い話を完全無視し、ふみは話を改めた。
「ああ、そうみたいだな。豆の攻撃力をひしひしと感じたところだ」
「どうせおにーさんのことです、節分にかこつけ中学生の豆をいただきだぜーとか言いながら私の家に押しかけ、私の豆をいただくつもりだったろうから、私から来てあげました」
 とても人聞きの悪い台詞を玄関先で吐かれたので、ふみを小脇に抱え、ものすごく急いで家の中に入り、そのままの勢いで自室へゴー。
「はぁはぁ……あのなあ! 世の中には近所づきあいってのがありまして! ていうかさっき隣の爺さんが庭で盆栽いじりしてまして!」
「ここで私の豆を?」
 しつこいので、ふみのどたみにチョップの刑。
「むぅ。痛いです、おにーさん」
「当然の罰だ」
「まあ冗談は置いといて、おにーさん。豆をまきたいです」
「どうぞ自宅で行ってください」
「……一人でしてもつまんないです」
「あ……」
 そうだった。こいつの両親は帰ってくるのがいつも夜遅いので、いつも一人で過ごしてるんだった。
「あ、あのな、ふみ。折角だから俺と一緒に豆まきしよっか?」
「嫌です」
「…………」
 人が折角歩み寄ってやったというのに、何この天邪鬼。
「土下座するなら考えてやらないでもないです」
「えい」
 とりあえず両手でほっぺを引っ張る。……ええい、引っ張られても無表情とはどういうことだ!
「がっきゅううんこ」
「女の子が言う台詞じゃありません!!!」
 最終兵器を持ち出されたため、ほっぺ引っ張りを中止。くそぅ。
「学級文庫の何が問題なんですが、おにーさん?」
「ええい、分かってて言ってやがるな」
「ふふん。おにーさん如きが私に歯向かうなんて10年早いです」
「はぁ……なんか疲れた。ちょっと休む」
「根性なしです、おにーさん」
 ベッドに腰掛けると、俺のすぐ隣にふみも座ってきた。
「あの、ふみさんや。少し近くないですかね?」
「至近距離から確実におにーさんを仕留めるためです。致し方ないのです」
「あれ、殺されるの?」
「最近の豆の殺傷能力を侮ってはいけません。おにーさん如き低能力者、豆の一つでダウンです」
「それもう食料の範疇を超えてるよね。ていうか低能力者言うな」
「……しかし、おにーさんが帰ってくるのが遅かったため、待ちぼうけの私は暇つぶしに豆をぽりぽり食べており、結果おにーさんの鼻に詰める分しか確保できませんでした」
「鼻に詰めず撒けばよかったのに。ていうか、別に家の前で待たなくても俺の家に入ってりゃいいのに。いつでも来ていいんだぞ?」
 ふみの頭をうにうにとなでる。
「なでないでください。子供じゃないです」
 やや不機嫌そうにふみは俺を睨んだ。
「中学生は子供だろ?」
「……分かりました。私はまだ子供なので、次から勝手におにーさんの部屋に入り、子供らしく部屋を探検したいと思います」
 ふみをなでていた手が止まる。妙な汗が出てきた。
「い、いや、あの、前言撤回というか、その、居間で待つと言うのも手だと思うぞ? 母さんがおやつ出してくれるだろうし」
 母さんは専業主婦で、かつ可愛いもの好きなので、ふみを大歓迎している。だからと言って可愛くないからと俺を虐待するのは勘弁してください。
「じゃあ、おやつを食べてからおにーさんの部屋を探検します。子供なので好奇心旺盛なんです」
「……すいません俺が悪かったです。ふみは大人ですので探検しないでください」
 俺の負け。首を折ってふみに敗北を伝える。
「最初からそう言えばいいんです。これだからおにーさんは馬鹿なんです」
「はいはい、すいませんでした」
 謝りながらふみの頭をなでる。俺の謝罪に気を良くしたのか、ふみはばふーと鼻息を漏らした。
「それにしても、どうしましょうか、節分」
「もう全然豆残ってないのか?」
「ええと……あ、一個だけ残ってました」
 ふみがポケットを探ると、一粒だけ転がり出てきた。
「一個かぁ……それじゃ撒いても仕方ないなあ」
「……あ、ないすあいであ。まず、おにーさんにこの豆を渡します。鬼は外」
 ぺそっと豆を手渡された。そのついでだか知らないが、握手もされた。
「この握手は?」
「節分により外へ追いやられた鬼たちをおにーさんの手に封じてます」
「今すぐ手を離して! 嘘でも今日という日にやられたらなんか本当に入ってきそう!」
「これで鬼の手が完成です。おにーさんの中二病も満足で、おにーさんにっこり」
「勘弁してください!」
「おにーさんは、そんなに、私と手を繋ぎたくないんですか……?」(うるうる)
「一生繋いでいたいです!」
 今日も俺は女性の涙に弱い模様。
「やめてください。迷惑です」
「…………」
「憮然とした顔のおにーさん、素敵です」
 とても不愉快です。思った通り嘘泣きだったし。
「はぁ……んで、この豆はどうしたらいいんだ?」
「次に、おにーさんが福は内と言いながら私に豆を渡すんです」
「……福は内?」
 豆を返す。一体これのどこがないすあいであと言うのだ。
「このやり取り一回で、鬼は外、福は内というやりとりが完成です。豆の量は、回数でカバーです」
「一応聞いておくが、何回やればいいんだ?」
「最低でも100回はこなす必要があります」
「帰ってください」
「いつでも家に来ていいって言ったのに……おにーさん、酷いです。悪魔です」
「ふみは将来悪女になって男を手玉にとりそうだな。今から怖いよ」
「だいじょぶです。大きくなっても、おにーさんだけを騙します。私を独り占めできて、おにーさんにっこり」
「光栄すぎて涙が出そうだ」
「そんなことより、豆まき再開です。ほら、おにーさん。鬼は外です」
 再び豆が俺の手に乗せられた。それと一緒に、ふみが俺の手を両手でにぎにぎする。
「あ、いま鬼がおにーさんの中に入りました。節分ということで、外には鬼が溢れているようです」
「だから、嘘でもなんか怖いからそういうこと言わないで!」
「……えへへ。おにーさん」
「ん?」
「おかしな豆まきですね?」
「おまいが始めたんだろーが……」
「こんな豆まき、変です。……でも、なんだか、楽しいです」
「……そか。楽しいのが一番だな」
「あとはおにーさんが鬼に完全に侵食されたら完璧です」
「節分って鬼を追い出す行事じゃなかったっけ?」
「私とおにーさんの節分だと、こんな感じになっちゃうのです。ご愁傷様です、おにーさん」
「しょうがない。俺に鬼が入る代わりに、ふみに福を入れて中和してもらおう。つーわけで、福は内」
 ふみと手を繋いだまま、福は内。
「じゃあ、中和してあげますので中和料として一億円ください」
「酷いマッチポンプを見た」
「ご愁傷様です、おにーさん」
 そんな感じで、本来の節分とは程遠い豆まき握手合戦を行う俺達だった。

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【深夜になるとデレモード発動するツンデレ】

2010年09月17日
 知り合いの中学生、ふみの両親が一晩家を留守にするとかで、ふみを我が家で預かることになった。
「まだ初潮が来てないのをいいことに、一晩中私の中に何度も何度も出すんですね、おにーさん?」
 なんて爆弾を家族全員玄関先で出迎えた瞬間に放り込みやがったので、とんでもない家族会議(別名魔女裁判)が開かれ、結果今日は部屋から一歩も出るなという通達が俺になされた。
「俺は何もしてないのに……何も悪くないのに! チクショウ、何もかも全部ふみが悪いんだ! ちょっと可愛いからってあの野郎!」
「いや、私は女なので野郎は適当ではないです」
「ああそれもそうだねちょっと混乱してたのかもうわあっ」
 部屋で一人憤ってたハズなのに、気がつけば俺の傍らにふみがちょこんと座っていた。
「ふ、ふ、ふみ!?」
「はい」
「ああよい返事ですね」(なでなで)
「…………」(ちょっと嬉しそう)
「じゃなくて! なんでここに?」
「私の嘘が全面的に信用され、おにーさんがどれほどの屈辱に打ち震えているのかつぶさに観察するために、です」
 一点の曇りもない瞳で俺を攻撃するふみ。酷すぎる。
「おにーさんは家族にも信用されていないんですね……」
「やめて! 哀れみの視線が一番辛い!」
「やはりこういう本を普段から読み漁っているのが原因ではないでしょうか」
「人の書斎を荒らさないで!」
 俺の書架から子供(特に女児)が見たら人間不信になるよ♪ってな感じのえろい本を取り出し、読みふけるふみ。
「……ほほう」
「読まないで! お願いします!」
「……こんなことを、私にするの?」
「わざとらしく震えるない! しねぇよ! お話! フィクションですから!」
「実験。この本を床に置き、私が服をはだけて叫ぶと、一体おにーさんはどうなってしまうのでしょう?」
「何が望みでしょうか」(青ざめながら)
「この部屋でお泊り」
「……いや、さすがにそれは色々と問題があるのではないかと」
「……すぅぅぅ」
「いいです! いいですから叫ばないで!」
「……ふぅ。最初からそう言えばいいんです」
 脅迫に屈してしまったので、携帯を通じて母に連絡……したらそのまま警察に通報されそうな気がするので、ふみに携帯を渡す。
「……おにーさんからのプレゼント。大事に、大事にします」
「ちげー! お前から頼めって言ってんだよ! ていうか分かってやってるだろそれ!」
「ふふり。まあいいです、おにーさんは根性ナシなので、私がおにーさんのご両親を説得してみせます」
 部屋の隅に移動し、こしょこしょと何事か話した後、ふみは俺に携帯を渡した。
「おにーさんのお母さんが、おにーさんに話があるそうです」
「え」
 嫌な予感を感じながら携帯を受け取る。
「えーと。もしもし」
『分かってると思うけど、手出したら殺す』
「出しません」(超震えながら)
『そっ。じゃあ許可してあげるけど、本当にしちゃダメよ? アンタの遺伝子は後世に引き継がせることは出来ないんだから』
「遺伝子とな!? 俺は実の親にそこまで言われる存在なのか!? 足洗いてえ!」
『はあ? よく分かんない子ね……まあそういうことだから。じゃねー』
 ぷつり、と通話が切れた。本当に人の親か。
「遺伝子って何ですか、おにーさん?」
「や……まあ、なんでもない。とにかく、許可が出たので泊まってください」
「しょがないので泊まってやります」
「言い出したの誰だ」
「おにーさんのに対し、私の身体は小さすぎるのできっと溢れちゃいますが、まあ頑張ります」
「何の話!?」
「…………」
「無言でベッドを見つめないで!」
「…………」
「そのまま自分の股を見ないで!」
「まだ生えてません」
「知らんっ! 言うなッ!」
「怒りながらも照れてるおにーさん、可愛いです」
 背伸びして人の頭をなでるふみだった。
「はぁ……んで、どうする? もう寝るか?」
 時計を見るが、まだ午後10時だ。寝るには早いが、することもないので寝るもアリか。
「ゲームしたいです、ゲーム。普段はあまりやってはいけないと言われているいので、ここで血反吐を吐くまでやりたいです」
「血反吐はともかく、まあいいぞ。何する?」
「これ」
「そこは女子供禁止ゾーンなので、そこ以外で!」
 部屋の奥にあるエロゲの棚から大きな箱を取り出そうとしているふみを押し留めながら叫ぶ。
「私みたいなちっちゃい子の絵ばっかです」
「まじまじと見ないで! そこ以外、そこ以外で!」
「しょがないので、これで我慢してあげます」
 そんなわけで、ふみといっしょにヴァンパイアをする。いや、次世代機とか持ってないので。
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「飛び道具ばっか撃つな」
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「俺を直接攻撃するな!」
 ぺちぺちと叩かれながらしばらく遊んでたら、ふみが欠伸しだした。
「そろそろ寝るか?」
「ふぁ……ん、そですね。おにーさんも私が寝てる隙に色々いたづらしたいでしょうし、寝ましょうか」
「とんでもない印象を持たれているのだなあ、俺」
「否定しないということは、いたづらするんですね」
「しないっ! しませんっ! するもんかっ!」
 この娘は油断するとすぐに人を犯罪者に仕立て上げるので怖すぎる。
「んじゃ、お休みなさい、おにーさん」
「あいあい。お休み、ふみ」
 部屋の明かりを消す。ふみがベッドで、俺が床。
「……寝る時にお休みって言えるのって、素敵です」
 ぽつり、とふみが呟いた。
「……ふみの親御さんは、寝る時にいないのか?」
 どうしようか迷ったが、結局訊ねることにする。
「二人とも遅くまで働いてるので、普段はいません」
「……そっか。ごめんな?」
「許しません。殺します」
「死!? ちょっと聞きづらいことを聞いただけで死とな!? なんて酷い話だ! 死んでも死にきれねぇ!」
 などと馬鹿なことをくっちゃべっていたら、俺の布団に何か入ってきた。……いや、“誰か”入ってきた。
「あのー。ふみ?」
「あさしんさんじょー。……嘘です」
 変な嘘つかれた。前にも似たようなことがあった気がする。
「お、おにーさんを殺すために、適切な場所に移動しただけです。他意はないです」
 布団の中で、ふみが俺に抱きついてきた。
「え、えーと。ふみさん? 殺すのに抱きつく必要はないような気がするのですが」
「そ、それが素人の浅はかなところです。あさしんは、暗殺対象をよく調べるために抱きつく必要があるのです。本当はおにーさんなんかに抱きつきたくなどないのですが、あさしんなので我慢して抱きつくのです」
「そ、そうか。それで、分かったか?」
「……ぷよぷよ、です」
 人の腹をつまみながら、ふみは嬉しそうに言った。
「いや、そんな太ってないと思うんだけど……まあ仮にそうだとして、それが俺を殺すのに何か役立つ情報なのか?」
「脂肪が多いと刃の通りが悪いので、大型の刃物に変更します」
「割としっかり調べてらっしゃる!?」
「ですが、そうして仕留めても、刃が脂肪や血でねばねばになってしまい、以後使えなくなります。もったいないです」
「それはもう諦めるしかないよ」
「……も、もったいないお化けの出現率を考えるに、こうするのが適当だと思います」
「ぬわ!?」
 さきほどより強くふみが抱きついてきた。あたってる、明らかにあたってる! 何かちっこいけどふにゅわんぬわってしたのが背中に!
「むう。おにーさんのことです、きっとあばら骨がごりごり当たって痛いとか酷いこと言うに決まってます」
「いやそれがねふみさん、思いのほか女体ってのは大した物で、お兄さんはふみの柔らかさに興奮してますよ?」
「…………」
 あ。しまった。俺は優しいお兄さんでいなければならないのに……!
「……お、おにーさんのえっち」
 そう言って、ふみは俺の背中に顔を埋めた。
「や、その、……ごめん」
「ダメです。許しません。……こ、こっちを向かないと許しません」
「勘弁してほしいなあ」
「向かないと泣きます」
 泣く子とふみには勝てないので、諦めてくるりと半回転してふみと向き合う。明かりを消していて判然としないが、ふみの顔が赤らんでいるような気がした。
「……こ、こんばんは」
 なんか挨拶された。
「あ、はぁ。こんばんは」
「……と、とー」
 ずびし、と鼻にチョップされた。ただ、全然力がこもってないので痛くはない。
「こ、攻撃です。あたっくです」
「は、はぁ。大変な痛痒ですね」
「ひ、引き続き攻撃をします。ぷろのあさしんなので、攻撃の手を緩ませることはできないのです」
「は、はぁ。それは大変ですね?」
「……と、というわけで、攻撃再開です。とー」
「ふひっ!?」
 突然、ふみが抱きついてきた。さっきと違い、今度はお互い向き合っている。興奮は比ではない!
「ふっ、ふ、ふ、ふみ!?」
「こっ、興奮しすぎです。おにーさんの変態」
「すいません変態ですいません!」
「ま、まあいいです。抱きつきあたっくです。相手は死にます」
 まあ確かにある意味死にそうだ。興奮しすぎて。
「そ、それにしても、おにーさんどきどきしすぎです。中学生に興奮しすぎです」
「許してください。許してください!」
「そんな変態だから、おにーさんには誰も寄り付きません」
「失礼なことを言うものだなあ。事実ですが!」
「……だ、だから、かあいそーなので、私が寄ってあげます」
 ふみは全身を使って俺に抱きつくと、ふにふにと顔を俺の胸にこすりつけた。
「いっ、いやあの、ふ、ふみ?」
「ううう……おにーさんのにおいがします。おにーさんの感触がします。おにーさんの体温を感じます。……え、えと。きっ、気持ち悪いこと、このうえないです」
「は、はい、ごめんなさい」
「……なでてください」
「はい?」
「なっ、なでてください! あたま!」
 なんかもう赤いんだか泣いてるんだか分からないが、こちらも負けじと頭が破裂しそうになってるので、こくこく頷きながらふみの頭をなでる。
「ううううう……」
「な、なんでしょうか」
「おにーさんの手は何か変な光線が出てます!」
「出てませんよ!? 何をいきなり人を宇宙人扱いしてるかな、この娘は……」
「だって、じゃないと、説明がつかないですっ! なんでこんなふわふわした気持ちになるんですか!?」
「え、えーと。はい。出てます。ふわふわ光線が」
「そうです、出てます! だからこんなふわふわ幸せ心地になるんですっ!」
「そ、そうか。幸せ心地なんだ」
「嘘ですが! 幸せなんて嘘ですが! でもふわふわ心地なんです!」
「とりあえず、落ち着け」
「私はすっごく落ち着いてます! ふーっ、ふーっ!」
「その鼻息で落ち着いてると言い張るのは無理があるかと」
「うるさいですっ! おにーさんは私の頭をなでつつ大好きだよーとか気持ち悪いことを言ってたらいいんですっ!」
「気持ち悪いと評されたことを言えと。なんという罰なのだこれは」
「早く! 早く言わないと叫びます!」
「すいませんすぐ言います!?」
 脅迫に屈してばかりだが、しょうがないのでふみの頭をなでる。
「え、えーと。大好きだよ、ふみ」
「~~~~~っ!!!」
 ふみは俺の胸に顔をむぎゅうううっと押し付けながら、痛いくらい俺に抱きついた。
「ううう……わ、わんもあ!」
「わんもあ!?」
「すぅぅぅぅ!」
「言います、言いますから! 俺はふみが大好きだ!」
「あぐあぐあぐあぐあぐ!!!」
 今度は俺にがぶがぶ噛み付きながら、ふみは両足をばたばたさせた。
「ううううう……ううううう!」
「痛いです。痛いです!」
「うるさいです! もっかい言わないと許しません!」
「もう勘弁して! 近年稀に見るほどの恥ずかしさなのですよ!?」
「言わないと噛み千切ります!」
「即了解しました! ……ふぅ。俺は本当にふみが大好きだぁ!」
「ははひほはひふひへふっ! ほひーはふはひふひ!」
 俺をがぶがぶ噛みながら、ふみは何事か言った。何言ってんだか全く分からないけど。
「ううう……おにーさんはえっちです。いっぱい、いっぱい私のことを好きって言います」
「強制ですよ?」
「しょ、しょがないので、私からも言い返してやります。本意ではないですが、お返しは大事なので言います。繰り返しますが、本意ではないです」
「や、別にいいです」
「おにーさんは頭が悪いので知らないかもしれませんが、大人はお返しするものなんです」
「イチイチ頭が悪いとか言うない」
「じゃ、じゃあ、言います。……お、おにーさん、大好きです」
「……っ!」
 これは、くる。思ってる以上に、くる。本意でないにしても、くる。頭がおかしくなりそうだ。
「ど、どしました、おにーさん?」
「いや……その、お前の気持ちがよく分かった」
「え、ええっ!? ちっ、違います、好きじゃないです! 本意ではないと言ったはずです! お、おにーさんのばか!」
「いやいや。そうじゃなくて」
「は、はい?」
「“好き”って言葉の破壊力。嘘だってのに、まさかここまで心にずしんと響くとは思わなかった。もう今日の記憶だけで一生大丈夫と思えるほどの破壊力があった。脳内でリピートしまくりだ」
「こ、困ります。著作権が発生します。思い出すたびにお金ください。いちおくえん」
「ほれ、今も思い出したぞ」
「いちおくえん!」
「また思い出した」
「におくえん!」
「はっはっは。思い出しまくりだ」
「ううう……おにーさんはお金を踏み倒しまくりです。酷いです。悪魔です。さんおくえんください」
「また無茶を。今はないので出世払いでお願いします」
「おにーさんが出世なんてできるわけないのでお断りします」
 未来のことなのに断言された。酷すぎる。
「だから、おにーさんのそばで見守り、収入があれば即それを貰います」
「鵜飼いの鵜みたいだな、俺」
「それです。そのものずばりです」
「もしくは、熟年夫婦みたい」
「全く違います! 夫婦などではないです!」
「結果だけ見れば一緒なのですが」
「おにーさんは頭が悪いから分からないでしょうが、全く違います! まったく、おにーさんには困ったものです」
「よく分からんが……まあいいや。満足したようなので、ベッドに戻りなさい。俺は寝る」
「ぐーぐーむにゃむにゃ。もう食べられません」
「一瞬で超分かりやすい狸寝入りだと!? まあいいか。じゃあ俺がベッドに」
 移動しようとしたが、全力で抱きつかれており動けません。
「ふみ、動けないので手を離して」
「寝てるので無理です」
「寝てる奴は返事しません」
「はっ。……おにーさんは誘導尋問するので悪人です。許しません。いちおくえんください」
 ふみはそっと目を開けると、いつものように無茶を言った。
「すぐに一億円請求するな」
「じゃ、一緒に寝るので許してあげます。感謝してもいいです」
「あー……うん、分かった」
 まあ、いいか。俺が手を出さなければ済む話だ。大丈夫、我慢我慢。
「あ、寝てる間にいたづらしても気づかないフリしますよ?」
「しませんっ!」
「今日はおにーさんの大好きなしまぱんをはいてますよ?」
「しっ、……しません」
「しまぱんにちょっと心が動くおにーさん、愉快です」
「勘弁しろよ……」
「あはは。それじゃお休みなさい、おにーさん。お休みのちゅーは必要ですか?」
「不要です」
「むちゅー」
「不要! ふ・よ・う!」
 唇をとがらせてむちゅーって来たふみの顔面を持って押し留める。
「残念です。ちゅーして慰謝料がっぽがっぽ貰おうと思ったのに。いちおくえんくらい」
「こちとらただの貧乏学生だ。そういうのは金持ちにやってくれ」
「おにーさんおんりーの美人局です。特別扱いに、おにーさんにっこり」
「嬉しくないなあ」
「おにーさん、贅沢です……」
 そんなことはないと思う。
「とにかく、そろそろ寝ろ。アレだ、お前が眠るまではここにいるから」
「ダメです。一緒にぐーすか寝ないと殺します」
「このアサシン超怖え」
「はい、超怖いです。だから一緒に寝ないとダメです。朝起きておにーさんがベッドの上にいたら、服を脱いで叫びます」
 今日はふみと一緒に寝ることが確定してしまった。
「……分かった。諦めた。一緒に寝ましょう」
「そこまで言うなら寝てあげます。感謝してください、おにーさん」
「どうして俺が頼む風になっているのか」
「えへへ。それじゃお休みなさい、おにーさん」
「へーへー。お休み、ふみ」
 ぽんぽんと軽く頭をなでると、ふみは嬉しそうに俺の胸に顔をむいむいとこすりつけた。

 で、朝。
「くひゃー……くひゃー……」
 全力全開いい湯加減で寝てるふみ。逃げようにも、全身抱きつかれているので動けない。まあ、仮に逃げられる状況に置かれているとしても、脅迫を受けてるので逃げられないのだけど。
「むにゃむにゃ……ん? ……あ、おにーさんだ。えへへ、おにーさん。抱っこしてください」
「されてます」
「はい? ……はい?」
「おはよう、ふみ」
「あ、おはようございます。……おはようございます?」
 未だよく分かってないふみの頭をくりくりとなでる。
「……ふにゅ?」
「寝起きのふみは可愛いなあ」
「寝起き。……寝起き? ……っ!?」
 ようやっと目が覚めたのか、ふみの瞳に理解の色が浮かんだ。と同時に、顔が一瞬で赤く染まった。
「う……ううううう~!」
「な、なんでしょうか」
「お、おにーさんのせいです! 全部!」
「何のことか分からないのですが」
「わ、分からないならいいです。いいのです」
「昨夜俺に好きだって言わせたり一緒に寝させたり抱っこしたり、といった事柄のような気がするが、よく分からないよ」
 ふみは顔を真っ赤にしながら俺をぺけぺけ叩いた。
「はっはっは。愉快痛快」
「おにーさんのばか、ばかばかばか!」
「また泊まりにくればいい。昨夜のようなことが待ってるから」
「絶対に泊まりません! おにーさんのばか!」
 ふみはどだどだと部屋のドアまで向かうと、俺に一度あっかんべーをして部屋から出て行った。いやはや。
「……あ」
 そういや、あいつ寝起きで服が乱れてたなあ。誰かに乱暴されたと思えなくもないなあ。なんか廊下の奥からすごいプレッシャーを感じるけど気のせいだよなあ。
「……覚悟は、いいわね?」
 母さんおはよう。違うよ。話を聞いて。なんで後ろにニヤニヤしてるふみがいるの? あれ、はめられた?

拍手[34回]

【ふと男のことを大好きと言ってしまったツンデレ】

2010年02月02日
 部屋で一人死体ごっこをしてると、突然ドアががちゃりと開いた。
「俺の密やかな趣味がばれた!?」
「あんまりにもあんまりな趣味ですね、おにーさん」
 ノックもなしにやってきた闖入者は、知り合いの中学生、ふみだった。酷薄な笑みを浮かべていて超泣きそう。
「ええい、うるさい。何か用か? あ、何か妖怪? なんちて。うひゃひゃ」
「そんなザマでも生きていけると、おにーさんを見ていると勇気を持てます」
 賞賛がそのまま攻撃になる技を受ける。
「俺をいじめに来たのか?(泣)」
「まあ、そのような、そうでないような」
 ふみはきょろきょろと部屋を見回した後、クッションの上に座った。
「あ、私のことは気にせず、どうぞ引き続き何が面白いんだか全く分からない死体のフリをしてください」
「無茶言うな。で、マジで何か用か? 勉強でも教わりに来たのか?」
「おにーさんに教わるくらいなら、そこらで鼻垂らしてる小学生に教わります」
「……いや、さすがに小学生よりは学力あると自負してるぞ? ていうか、実は成績もそんな悪くないし」
「うるさいです。いーから、私のことは気にせず、おにーさんは適当にゲームでもしててください」
 よく分からないが、遊びに来た割に構って欲しくないようだ。しょうがないので、適当にゲームで遊ぶことにする。
「あ、折角だし一緒にゲームでも」
「結構です」
 すげなく断られた。悲しみに打ち震えながらゲーム機の電源を入れ、ゲーム開始。
「わ」
「げ」
 しまった。いまゲーム機の中に入っているゲームは、女の子が沢山出てくるゲームだった。最近してなかったので、すっかり忘れていた。慌ててスイッチを切る。
「おにーさん……」
「いっ、いや、違っ! これは友達が貸してくれたゲームとかって漫画とかじゃよく言うけど、これは俺がバイトしてお金貯めて買ったゲームであり、オタクだからしょうがないんだ」
「否定すると思いきや、思い切り打ち明けたおにーさん、素敵です」
「いやぁそうかなウヒヒヒヒ」
「まあ、気持ち悪いのには変わりないですが」
 悲しいので寝る。敷きっぱなしの布団にもそもそ移動し、そのまま就寝。
「寝ないでください。起きてください、おにーさん」
「傷心の身ゆえ、HPが足りなくて起きれないんだ」
「せっかく遊びに来てあげたというのに一人でふて寝するおにーさん、素敵です」
「なんと言われようが今は起き上がって相手する元気がないです。ていうか帰れ」
「……はぁ、しょうがないおにーさんです。……しょ、しょがないので、こうしてあげます」
「ひゃうわっ!?」
 突然ふみが俺の背中に抱きついてきた。驚きのあまり変な声が出た。
「へ、変な声出さないでください。おにーさんのばか」
「い、いや、無理。変な声出る」
 だってだってなんか柔らかな身体が俺の背中に当たってるんですもの! わずかながらにふにっとしたのが背中に! もふー!
「か、勘違いしないでください。これは、知らず傷つけてしまったおにーさんへの謝罪の気持ちを表しているだけです。それ以外の感情は一切入ってないです」
「そ、そうなのか。まあでも勘違いしそうになるくらい気持ちいですよ?」
「き、気持ちいいとか言わないでください。これだから女性に慣れていない人は嫌なんです。えいえい」
 ふみはえいえいと言いながら抱きしめる力を少しだけ強めた。より一層密着が激しくなり、俺の動悸もどっきんどきどきな感じに。
「ど、どきどきしすぎです、おにーさん。こっちまでどきどきが響いてきます」
「いつ殺されるのか気が気じゃないから仕方ないんだ」
「あさしんさんじょー。……嘘です」
 変な嘘つかれた。
「……え、えと。お、おにーさんの背中、結構広いですね」
「え、遠近法の関係で普段は小さく見えるんだ」
「……そんなわけないです。おにーさんはいつ何時でも馬鹿なんですね」
「いつ何時も辛らつな奴よりマシだな」
「そんな酷い人がおにーさんの近くにはいるんですか。おにーさんは可哀想ですね」
「よくもまぁそこまで他人事のように言えますね」
「私は、ある人間以外にはとっても優しいですもの」
「その範疇に丁度俺が入ってるんだよなあ」
「ふふ。残念でしたね、おにーさん」
「いや、全くだ」
 馬鹿話をしている内にお互い緊張が解れてきたのか、ふみのこわばりが解けてきた。時折俺のお腹をぽふぽふしたりする余裕まで出てきている。
「おにーさん、メタボです」
「そこまで太ってないやい。BMIでも標準値だったし」
「でも、お腹つまめます。うにうに」
「人の腹で遊ぶねい」
「えへへっ。おにーさん、大好……」
「えっ!?」
 あまりの衝撃に思わず振り向くと、ふみは真っ赤な顔で必死に手をフリフリ振っていた。
「違っ、違いますっ! ……こほん、違います。何も言ってません。何も言ってません」
 冷静にとつとつと告げるふみだったが、まだ全力で顔が赤い。
「……あ、あまりこっちを見ないように。おにーさんに見られると顔が腐り落ちます」
「そんな魔眼持ってないやい。それより、さっき」
「言ってません。何も言ってません。もし何か聞こえたとするならば、それはおにーさんの都合のいい幻聴です」
「む? ……ふむ」
 よくよく考えると、確かにその可能性の方が高いような気がしてきた。そうだよな、悲しいが、ふみが俺のことを大好きとか言うはずないか。
「そうです。どうして私がおにーさんを大好きなんて言うのですか。まったく、おにーさんは人類で最も気持ち悪いです」
「失礼な。……ん?」
「どしました、おにーさん」
「いや、幻聴も俺のことを大好きって言ってたんだ。なんで分かったんだ?」
 再びふみの顔が赤一色で染め上げられた。
「だっ、まっ、だっ!?」
「だまだ? 俺の知らない言語が今まさに」
「うっ、うるさいですっ! おにーさんはもう向こう向いててください! そしてこっちを見ないでください! 一生!」
「一生!? 馬鹿な、俺は一生壁を見続けて生きなければならないのか!?」
「そうですっ! おにーさんなんか一生壁を見続ければいいんですっ! ばかばか、ばーか!」
 がうがう言いながら、俺の背中にぎゅーっとしがみつくふみだった。

拍手[29回]