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2024年11月24日
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【吸血鬼ちなみん】

2010年02月17日
 ちなみが吸血鬼になった、と言い張る。
「……血を吸う系です」
「蚊?」
「……惜しい。……もうちょっと凶悪」
「凶悪な奴は怖いから嫌だなあ」
「……吸血鬼の中でも、あまり凶悪ではないともっぱらの評判。……お子様でも安心の、安全設計」
「そんなヘタレ吸血鬼が、俺に何用ですか」
「……血を」
 すすすっと寄って来たので、同じ距離をすすすっと離れる。
「……逃げられると、吸えない」
「トマトジュースで我慢しろ」
「……トマト、嫌い」
 吸血鬼の眉間が困ったように狭まった。ていうか好き嫌いだけの問題で、血の代替品になるのか、トマト汁。
「……なので、タカシの血を吸おうかと。……ちくっとするだけで、あまり痛くないと思われます」
「仮に痛くないとしても、嫌です」
「……やれやれ、タカシは贅沢だ。……こんなキュートな吸血鬼が吸血してあげるというのに、何が不満だと言うのだ」
「俺だけ血を吸われるのは嫌だ。だから、代わりに俺もお前から何かを要求する」
「……私の血、吸う?」
「俺は吸血鬼じゃないんだから、そんなのもらっても嬉しくない」
「……じゃあ」

「ちなみさん、これはいったいどういう状況なのか、俺に分かりやすく説明してはくれまいか」
「……さーびす?」
 分かりやすくは説明してくれなかったので、俺が説明すると、まず俺が布団の上にあぐらをかいて座り、その上にちなみが座る二重構造となっております。
「サービスと言うが、別段嬉しくはないのだが」
「……抱っこも許可する」
「いや、許可されても」
「……許可する」
 なんかどう足掻いてもしないとダメっぽいので、諦めてちなみを後ろから抱っこする。
「……ん。……で、手を」
「ん? 痛っ! 何す……うひゃあああ!?」
 指先に鋭い痛みが走った次の瞬間、ぬるりと熱い何かに包まれる。
「……ぺろぺろ、ちうちう」
 俺の手を両手で掴み、ちなみはまるで楽しむかのように俺の指に舌をからませていた。
 ちゅっちゅとついばむ様に指に口づけすると、ちなみはおもむろに口腔に含み、ゆっくりと血をすすった。背骨を駆け巡る電撃に似た快楽に、思わず身震いする。
「おま、ちょ、ちょっと! 何してんだよ!」
「……ちゅぷ。……血を」
「血を、じゃねーよ! いや、いいんだけど、なんか言ってからしろよ! お兄さんびっくりだよ!」
「……ちゅー、ちゅちゅ、……ちゅ。……ん。余は満足じゃ」
 俺の指に数度口づけすると、ちなみは薄く笑って口を離した。
「満足したなら帰ってはいかがかな?」
「……まだ、血の代価のさーびすをしてない。……と、いうことで、なでなでを許可する」
「それは俺に対するサービスなのですか」
「……タカシはなでなで変質狂なので、誰かをなでなでしないとおかしくなる。……私が犠牲になることで、今日も世界は平和だ。……ああ、タカシになでなでされるだなんて、嫌だなあ」
「や、なでなでするの嫌いじゃないが、別にそこまで好きではないのだけど」
「……なでなで」
 うるむ瞳でせがまれたので、小さく嘆息してからちなみの頭をなでる。
「……♪」
「いったい誰へのサービスなんだろうな」
「それはもちろん、タカシへのさーびす。……ん?」
 突然、黒い塊が部屋の中央に現れた。
「ここに居たか、羅刹姫。……お命、頂く」
 それが人だと脳が認識した瞬間、風のように俺たちに襲い掛かってきた。
「……えい」
「ぬおっ!?」
 しかし、ちなみの手が軽く振るわれただけで、人影の下半身が霧のように消えた。
「馬鹿な! 新生したばかりの身でありながら、これほどの力を!? ……くっ、一旦引かせて頂こう」
「……ダメ」
「ぬ? ぬ……ぬあああああっ!」
 ちなみが俺に理解できない言葉で何かを呟いた瞬間、人影から黒い炎が噴出した。その炎は部屋の家具を燃やすことなく、人影だけを燃やし尽くした。後には、黒い煤だけが残った。
「……まったく。……ほら、続き」
「…………」
「……? どしたの、タカシ? ……続きをご所望ですが」
「いやいや、いやいやいや! 続きどころじゃねーだろ! なんだよ、羅刹姫とか! え、マジに吸血鬼なの?」
「……最初から嘘なんて言ってない。……まあ、細かいことは気にせず、タカシは私をなでなでするといい」
「いや、なでなでとか超後回しだろ! ほら、なんか怖い人来て、今現在消し炭に成り果てて俺の部屋にいますよ!」
「……なでなでは最優先事項かと」
 煤を指差しながら叫んだら、ちなみのほっぺが膨れた。
「なんでそんなので怒ってんだ! え、なに、何かに狙われてるの?」
「……なんか、よく知らないけど、いっぱい襲ってくる。……毎回返り討ちしてたら、羅刹姫とかいうあだ名をつけられた。……もっと可愛い名前がいいと思う」
「いやいや、可愛い名前とかどうでもよくて! 襲われるとか、大丈夫なのか? 怪我とかしてないか?」
 急に心配になって、ちなみの服をめくって点検する。……うん、目立った外傷はないようだ。一安心。
「……あ、あの、……さすがに照れる」
「ん? ……あ、ああっ! いやその、そういうつもりじゃ!」
 慌てて手を離し、元通りにする。無意識とはいえ、堂々と肌を見てしまったな。……そういや、なんかピンクいのも見えたような……き、気のせいだよな、うん。
「……むぅ」
 ちなみは頬を染め、小さくうめいた。
「あー、なんだ。とにかく、襲われたりするのは危険なので、なんかあったら俺を呼べ。何ができるか分からんが、できる範囲で助けるから」
「……いい。……これでも私、超強いので。……餌を危険にさらすのは、嫌」
「餌ですか、俺」
「……でも、気持ちは嬉しいと思ったり、思わなかったり、……その、ええと」
「あー、うん。大丈夫、分かってる」
「……むぅ」
 ちなみの頭から湯気が出てきたので、ごまかすようにちなみをなでなでする俺だった。

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