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2025年02月06日
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【ツンデレをなでなでしたら、子供扱いするな!と言われたので即座にやめてみた】
2010年09月24日
アフリカっぽいところからの留学生、ナコが可愛いので頭をなでがちな毎日。
「うがー! オマエ、毎日毎日毎日毎日ナコの頭なでてる! いーかげンにしないとナコの頭がはげるゾ!?」
「若い身空でとても可哀想にと思います」
「何を他人事ッぽく!? オマエだ、オマエ! オマエが全部のげンきょーなンだゾ! 分かッてンのか!?」
「実を言うと、よく分かりません」(なでなで)
「言ッてるそばからまたなでなで!? もー、オマエはナコをなでるな! 子供扱いしてるだろ!?」
「子供扱いもしていれば、猫扱いもしています」
「ナコは猫じゃなければ子供でもないッ! もーナコの頭なでるなッ!」
「……ふむ。そこまで嫌がるなら、分かった。もうしない」
「にゃ……? そ、そなのか? ほンとだな? 嘘ついてないな?」
「しないったらしない。武士に二言はない。ただ、俺は武士じゃないので覚悟だけはしとけよ」
「結局のところどッちなンだ!?」
「まあ、嫌がってるようだし、もうなでないよ」
「にゃ……う、うン。分かればいいンだ、分かれば」
そんなわけで、ナコの頭は聖域認定されました。以後気をつけるように。(自身に向かって宣誓)
翌日。いつものように登校し、教室に入る。ナコ発見。早速なでようとするも、昨日の宣誓を思い出し、挨拶だけにする。
「おはよっ、ナコ」
「ン、おはよう。……ふふふ、ナコの頭なでないのだな?」
「一応、約束だからな」
「ふふ、偉いゾ。その調子だゾ?」
「任せろ、得意だ」
「……オマエがそういうこと言うと不安になるのは、なンでだろうな?」
「思ってもいない事を臆面もなく言ってるからじゃないかな?」
「にゃー」
ゆっくりと目潰しされた。
その翌日。今日もまたいつもどおり登校し、そしてナコを発見する。
「おはよっす、ナコ」
「ン、おはよう。……そろそろ禁断症状が出てきたンじゃないか?」
「よく分かったな。皮膚の下を虫が這いずり回る感覚に襲われて仕方がないんだ」
「怖すぎるゾッ! そーゆー怖い嘘禁断症状じゃなくて、ナコの頭をなでたくてしょーがないよーって症状のほう!」
「ああ。まあ、確かになでたくはあるが、それでも我慢できるレベルだから安心しろ」
「にゃう……そ、そッか。ま、まあ、なでたくてもナコはなでさせないけどな!」
「残念なことこの上ないな」
「にー……も、もッと残念がれッ!」
「眼球が沸騰しそうなくらい残念だ。言うなれば、液体になるまで熱された鉄の塊を注射器で目に注ぎ込まれているような」
「オマエの例えはなンかイチイチ怖いッ!」
なんか怒られた。
そのまた翌日。いつものようにナコと出会う。
「おはよるん、ナコ」
「うにー……お、おはよう」
「ん? 何か元気がないようだけど、どうかしたか?」
「にッ!? な、なンでもない。だいじょーぶだ。ナコはいッつも元気だゾ?」
「ならいいが……」
「うー……そ、そろそろナコの頭なでたくなッてきたンじゃないか?」
「いや、最近は慣れてきたのか、なでなくても問題ない。今までなでたりして申し訳ない気持ちまで湧くほどに」
「…………。ふ、ふンッ! ナコも大助かりだッ!」
「なんか怒ってませんか」
「気のせいだゾッ!」
「はぁ。まぁ、いいけど」
「うー……がぶッ!」
「怒ってないならどうして俺は手を噛まれているのだろう」
さらにまた翌日。今日も教室でナコと挨拶。
「おはやう、ナコ」
「うがーッ!」
「どうして登校するなり俺はナコに襲われているのだろう」
「がじがじがじ!」
「歯ががりがりと頭皮に突き刺さり大変に痛いので、やめてはくれまいか」
「なンで頭なでなでしたくならないンだ!?」
「はい?」
「なンでナコの頭をなでなでしたくならないのか聞いてるンだ!」
「え、いや、なんでって、そりゃお前になでるなと言われたからで」
「もー我慢の限界だろ!? だから、なでなでしろッ!」
「大丈夫、まだまだ我慢できる。ていうか、慣れたのでもう一生なでなくても平気かと」
「がぶがぶがぶッ!」
どういうことか、より一層ナコの犬歯が俺の頭に食い込むので泣きそうなほど痛い。
「そろそろ血が出る頃合かと思いますので、やめていただけますと何かと助かります」
「だッたらなでなでしろッ!」
「む? 嫌だったんじゃなかったのか?」
「う、うに……う、うるさいッ! いーからしろッ!」
「まあ、やれと言うならやろう。なので、とりあえず頭がじがじをやめていただきたい」
「うに……ホントのホントだろな? 嘘だッたら承知しないゾ?」
ナコは俺に歯を食い込ませるのをやめると、俺の前にやってきた。
「じゃあ、なでるのでここに座りなさい」
「に? ……こ、ここッて、……お、オマエの膝じゃないか!?」
「無理強いはしないが。最も、座らないのであればご破談ということで」
「ごはだん?」
「なし、ってことだ」
「そンなのずるいゾッ!」
「じゃあ座ればいいじゃない。俺の膝に座ればいいじゃない。そして嫌ならやめればいいじゃない」
「い、嫌とは言ッてない! ナコは言ッてないゾ! ……う、うに」
ナコはおずおずと俺の膝に座り、肩越しに俺を見た。
「こ、こーか? こーなのか?」
「そのような感じです」
ナコを後ろから抱っこして、ゆっくり頭をなでる。数日振りの感触に、久しく忘れていた喜びが全身を駆け巡った。
「う、うに……オマエ、嬉しそう」
「気のせいだ。いーからじっとしてろ」
ナコを前に向かせ、なでなで再開。
「うに……」
「なでなで」
「う、うに……にー」
「なでなでなで」
「に……ふに、に?」
「なでなでなでなで」
「ふに……にー♪」
「超嬉しそうですね」
「にゃあ♪ ……に? にッ!? ちッ、違う、ナコはちッとも嬉しくないゾ!」
「なでなでなで」
「にー♪」
「ほれ見たことか」
「う、うにゅぬ……も、もう終わり! オマエ、ナコの頭なでるの禁止! ……え、えと、今日は!」
「明日以降はなでていいと?」
「に、に……お、オマエはいじわるだッ!」
「有名な話です」
「にぎがー!」
ナコはよく俺を噛むのでガムか何かと勘違いしているのかなと思った。
「うがー! オマエ、毎日毎日毎日毎日ナコの頭なでてる! いーかげンにしないとナコの頭がはげるゾ!?」
「若い身空でとても可哀想にと思います」
「何を他人事ッぽく!? オマエだ、オマエ! オマエが全部のげンきょーなンだゾ! 分かッてンのか!?」
「実を言うと、よく分かりません」(なでなで)
「言ッてるそばからまたなでなで!? もー、オマエはナコをなでるな! 子供扱いしてるだろ!?」
「子供扱いもしていれば、猫扱いもしています」
「ナコは猫じゃなければ子供でもないッ! もーナコの頭なでるなッ!」
「……ふむ。そこまで嫌がるなら、分かった。もうしない」
「にゃ……? そ、そなのか? ほンとだな? 嘘ついてないな?」
「しないったらしない。武士に二言はない。ただ、俺は武士じゃないので覚悟だけはしとけよ」
「結局のところどッちなンだ!?」
「まあ、嫌がってるようだし、もうなでないよ」
「にゃ……う、うン。分かればいいンだ、分かれば」
そんなわけで、ナコの頭は聖域認定されました。以後気をつけるように。(自身に向かって宣誓)
翌日。いつものように登校し、教室に入る。ナコ発見。早速なでようとするも、昨日の宣誓を思い出し、挨拶だけにする。
「おはよっ、ナコ」
「ン、おはよう。……ふふふ、ナコの頭なでないのだな?」
「一応、約束だからな」
「ふふ、偉いゾ。その調子だゾ?」
「任せろ、得意だ」
「……オマエがそういうこと言うと不安になるのは、なンでだろうな?」
「思ってもいない事を臆面もなく言ってるからじゃないかな?」
「にゃー」
ゆっくりと目潰しされた。
その翌日。今日もまたいつもどおり登校し、そしてナコを発見する。
「おはよっす、ナコ」
「ン、おはよう。……そろそろ禁断症状が出てきたンじゃないか?」
「よく分かったな。皮膚の下を虫が這いずり回る感覚に襲われて仕方がないんだ」
「怖すぎるゾッ! そーゆー怖い嘘禁断症状じゃなくて、ナコの頭をなでたくてしょーがないよーって症状のほう!」
「ああ。まあ、確かになでたくはあるが、それでも我慢できるレベルだから安心しろ」
「にゃう……そ、そッか。ま、まあ、なでたくてもナコはなでさせないけどな!」
「残念なことこの上ないな」
「にー……も、もッと残念がれッ!」
「眼球が沸騰しそうなくらい残念だ。言うなれば、液体になるまで熱された鉄の塊を注射器で目に注ぎ込まれているような」
「オマエの例えはなンかイチイチ怖いッ!」
なんか怒られた。
そのまた翌日。いつものようにナコと出会う。
「おはよるん、ナコ」
「うにー……お、おはよう」
「ん? 何か元気がないようだけど、どうかしたか?」
「にッ!? な、なンでもない。だいじょーぶだ。ナコはいッつも元気だゾ?」
「ならいいが……」
「うー……そ、そろそろナコの頭なでたくなッてきたンじゃないか?」
「いや、最近は慣れてきたのか、なでなくても問題ない。今までなでたりして申し訳ない気持ちまで湧くほどに」
「…………。ふ、ふンッ! ナコも大助かりだッ!」
「なんか怒ってませんか」
「気のせいだゾッ!」
「はぁ。まぁ、いいけど」
「うー……がぶッ!」
「怒ってないならどうして俺は手を噛まれているのだろう」
さらにまた翌日。今日も教室でナコと挨拶。
「おはやう、ナコ」
「うがーッ!」
「どうして登校するなり俺はナコに襲われているのだろう」
「がじがじがじ!」
「歯ががりがりと頭皮に突き刺さり大変に痛いので、やめてはくれまいか」
「なンで頭なでなでしたくならないンだ!?」
「はい?」
「なンでナコの頭をなでなでしたくならないのか聞いてるンだ!」
「え、いや、なんでって、そりゃお前になでるなと言われたからで」
「もー我慢の限界だろ!? だから、なでなでしろッ!」
「大丈夫、まだまだ我慢できる。ていうか、慣れたのでもう一生なでなくても平気かと」
「がぶがぶがぶッ!」
どういうことか、より一層ナコの犬歯が俺の頭に食い込むので泣きそうなほど痛い。
「そろそろ血が出る頃合かと思いますので、やめていただけますと何かと助かります」
「だッたらなでなでしろッ!」
「む? 嫌だったんじゃなかったのか?」
「う、うに……う、うるさいッ! いーからしろッ!」
「まあ、やれと言うならやろう。なので、とりあえず頭がじがじをやめていただきたい」
「うに……ホントのホントだろな? 嘘だッたら承知しないゾ?」
ナコは俺に歯を食い込ませるのをやめると、俺の前にやってきた。
「じゃあ、なでるのでここに座りなさい」
「に? ……こ、ここッて、……お、オマエの膝じゃないか!?」
「無理強いはしないが。最も、座らないのであればご破談ということで」
「ごはだん?」
「なし、ってことだ」
「そンなのずるいゾッ!」
「じゃあ座ればいいじゃない。俺の膝に座ればいいじゃない。そして嫌ならやめればいいじゃない」
「い、嫌とは言ッてない! ナコは言ッてないゾ! ……う、うに」
ナコはおずおずと俺の膝に座り、肩越しに俺を見た。
「こ、こーか? こーなのか?」
「そのような感じです」
ナコを後ろから抱っこして、ゆっくり頭をなでる。数日振りの感触に、久しく忘れていた喜びが全身を駆け巡った。
「う、うに……オマエ、嬉しそう」
「気のせいだ。いーからじっとしてろ」
ナコを前に向かせ、なでなで再開。
「うに……」
「なでなで」
「う、うに……にー」
「なでなでなで」
「に……ふに、に?」
「なでなでなでなで」
「ふに……にー♪」
「超嬉しそうですね」
「にゃあ♪ ……に? にッ!? ちッ、違う、ナコはちッとも嬉しくないゾ!」
「なでなでなで」
「にー♪」
「ほれ見たことか」
「う、うにゅぬ……も、もう終わり! オマエ、ナコの頭なでるの禁止! ……え、えと、今日は!」
「明日以降はなでていいと?」
「に、に……お、オマエはいじわるだッ!」
「有名な話です」
「にぎがー!」
ナコはよく俺を噛むのでガムか何かと勘違いしているのかなと思った。
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【かなみは俺の嫁】
2010年09月19日
「若い身空で結婚、それも学生婚とな。ほほう」
朝食後、コーヒーをごくごく飲みながらぽけーっと呟いてみる。
「ねー、アンタよく何もないところに向かってぶつぶつ呟いてるけど、病気? 脳の」
人が折角色んな人に分かりやすく俺達の状況を説明しているというのに、俺の嫁であるところのかなみが酷いことを言う。そして色んな人とは誰だ。アレか、俺の脳内劇場に出てくる観客か。じゃあ俺は頭の病気だ。
「そうです」
「あー、やっぱり」
「やっぱりとか言うな」
「あははっ。……あ、あの、違うよね? 本当は病気とかじゃなくて」
「当たり前だろうが。何を心配そうな顔をしてる」
「しっ、心配なんてしてないわよ! た、ただ、本当だったらヤだなーとか、介護大変だなーとか、一緒に出かけらんなくなっちゃうなーとか……」
言ってる内に想像してしまったのか、かなみの顔がどんどんと暗くなっていく。
「ぐええ」
そこで、急に泡吹いて倒れてみる。
「!!!!?」
すると、目に見えてかなみがパニックを起こしたので必死でなだめる。
「嘘です、嘘ですから!」
「う、うそ……?」
涙目で力なくぺたんと座ってるかなみに、何度もうなずく。
「そ、そーゆー嘘は禁止! ……な、泣いちゃうじゃない、ばか」
「いやはや。ごめんな」
「……おいしいご飯食べさせてくれるなら、ゆるす」
「分かったよ。今度一緒に牛丼食べに行こうな?」
「牛丼!? 女の子連れで!?」
「おいしいよ?」
「お、おいしいけど……デートなんだからもうちょっと気合入れた場所に連れて行きなさいよ!」
「や、そういった場所には疎くて」
「はぁ……今度そういう雑誌買ってくるから、ちゃんと調べること! いいわね!?」
「超めんどくせえ」
「何か言った!?」
「何も言ってないです」(半泣きになりつつ)
「そっ。ならいいのよ」
「でも、かなみの作る飯は美味いので、そこらの店では太刀打ちできないかと」
これは世辞でもなんでもなく、俺の嫁が作る飯は信じられないくらい美味い。いや最初は正直勘弁してくださいと逃げては殴られるレベルだったが、それを堪えて毎日食ってたら次第に俺好みの味になり、今ではそこらの弁当では吐いちゃうほど。なに、信じられない? じゃあ今すぐ吐いてやる!(今日も電波と会話中)
「こう、うお……ぐええ」
「なにをいきなり吐こうとしてるか!」
吐瀉物を探そうと口に指を突っ込んでたら、かなみに止められた。
「もー、アンタってばいついかなる時でも訳が分からないわね」
「かなみの飯の美味さを証明しようとしたら、なぜか吐かざるを得ない状況に自ら追い込まれたんだ」
「説明されても分かんないわよ……」
言われてみると本当だ。俺の思考は謎に包まれていると言えよう。
「そ、それより。……そんなあたしの作るご飯が好きなの?」
「好き。愛してる。結婚してください」
「……も、もうしてる」
かなみの手を取ったら、そんな恥ずかしい台詞で切り伏せられた。かなみはかなみで顔を赤くして視線をさ迷わせてるし。ええい。
「……う、ううーっ! もうっ! 恥ずかしいじゃないの! 変なこと言わせないでよ、ばかっ!」
「思わぬ展開に俺も驚いてるところだ」
「も、もー。……ばか」
かなみは俺の手を取り、ちらちらとこちらを見た。そして視線が合うと、ぼしょぼしょと何やら呟き始めた。
「あ、あのさ。……あたしと結婚して、嬉しい?」
「当然」
「……あ、あたしも。……ってぇーっ! 何よ、このむず痒空間! ああもうっ、痒い痒い痒いっ!」
「おまーから始めたんだろーが」
「ううう……あ、ああーっ!?」
「今度は何だ。破水でもしたか?」
「まだ妊娠すらしてないッ! ……た、種はいっぱい仕込まれたケド」
だから、そういうことを赤い顔でごにょごにょ言うな。
「じゃ、じゃなくて! 時間っ! 遅刻!」
「はっはっは。余裕を持って起床→朝食のコンボを決めたのに遅刻なわけぶくぶくぶく」
「時計見ただけで泡吹くなっ、ばかっ!」
「ぶくぶく……いや、あまりの時間の過ぎっぷりにびっくりして。これは好きな人と一緒にいると時間が早く過ぎてしまうというウラシマ効果に相違ありませんね?」
「ウラシマ効果じゃないけど……そ、そう。す、好きな……ああもうっ! アンタ恥ずかしい台詞言いすぎっ!」
「ゲペルニッチ将軍」
「だからといって全く意味のない台詞を言えってコトじゃないっ!」
「よく俺の言わんとしたことがすぐに分かったな。流石は俺の嫁」
「う……うっさい! そ、そんなこと言われても、別に嬉しくなんてないんだからねっ!」
「今日も俺の嫁は可愛いなあ」
「う……うぅーっ! 可愛いとか言うなッ!」
「分かった、分かりましたから殴らないで。顔の形が変わります」
この嫁は照れ隠しに人をたくさん殴るので、俺の命が日々危機に晒されるスリル満点の新婚生活と言えよう。普通の新婚生活がいいよ。
「ともかく、遅刻するので行きましょう」
「わ、分かったわよ。それより血拭きなさいよ。血まみれよ」
ハンケチで顔をぐいぐい拭われると、それだけで血が止まった。この特異な能力があるおかげで今日も僕は生きていられます。ていうか毎日殴られた結果備わってしまったのだけど。
「ん! 今日もいいおと……ぶ、ぶさいくね!」
「旦那に向かって今日も失敬だな、おまいは……」
「う、うっさい! ほら、行くわよ馬鹿!」
かなみに手を引っ張られ、今日も登校する俺たち夫婦なのだった。
朝食後、コーヒーをごくごく飲みながらぽけーっと呟いてみる。
「ねー、アンタよく何もないところに向かってぶつぶつ呟いてるけど、病気? 脳の」
人が折角色んな人に分かりやすく俺達の状況を説明しているというのに、俺の嫁であるところのかなみが酷いことを言う。そして色んな人とは誰だ。アレか、俺の脳内劇場に出てくる観客か。じゃあ俺は頭の病気だ。
「そうです」
「あー、やっぱり」
「やっぱりとか言うな」
「あははっ。……あ、あの、違うよね? 本当は病気とかじゃなくて」
「当たり前だろうが。何を心配そうな顔をしてる」
「しっ、心配なんてしてないわよ! た、ただ、本当だったらヤだなーとか、介護大変だなーとか、一緒に出かけらんなくなっちゃうなーとか……」
言ってる内に想像してしまったのか、かなみの顔がどんどんと暗くなっていく。
「ぐええ」
そこで、急に泡吹いて倒れてみる。
「!!!!?」
すると、目に見えてかなみがパニックを起こしたので必死でなだめる。
「嘘です、嘘ですから!」
「う、うそ……?」
涙目で力なくぺたんと座ってるかなみに、何度もうなずく。
「そ、そーゆー嘘は禁止! ……な、泣いちゃうじゃない、ばか」
「いやはや。ごめんな」
「……おいしいご飯食べさせてくれるなら、ゆるす」
「分かったよ。今度一緒に牛丼食べに行こうな?」
「牛丼!? 女の子連れで!?」
「おいしいよ?」
「お、おいしいけど……デートなんだからもうちょっと気合入れた場所に連れて行きなさいよ!」
「や、そういった場所には疎くて」
「はぁ……今度そういう雑誌買ってくるから、ちゃんと調べること! いいわね!?」
「超めんどくせえ」
「何か言った!?」
「何も言ってないです」(半泣きになりつつ)
「そっ。ならいいのよ」
「でも、かなみの作る飯は美味いので、そこらの店では太刀打ちできないかと」
これは世辞でもなんでもなく、俺の嫁が作る飯は信じられないくらい美味い。いや最初は正直勘弁してくださいと逃げては殴られるレベルだったが、それを堪えて毎日食ってたら次第に俺好みの味になり、今ではそこらの弁当では吐いちゃうほど。なに、信じられない? じゃあ今すぐ吐いてやる!(今日も電波と会話中)
「こう、うお……ぐええ」
「なにをいきなり吐こうとしてるか!」
吐瀉物を探そうと口に指を突っ込んでたら、かなみに止められた。
「もー、アンタってばいついかなる時でも訳が分からないわね」
「かなみの飯の美味さを証明しようとしたら、なぜか吐かざるを得ない状況に自ら追い込まれたんだ」
「説明されても分かんないわよ……」
言われてみると本当だ。俺の思考は謎に包まれていると言えよう。
「そ、それより。……そんなあたしの作るご飯が好きなの?」
「好き。愛してる。結婚してください」
「……も、もうしてる」
かなみの手を取ったら、そんな恥ずかしい台詞で切り伏せられた。かなみはかなみで顔を赤くして視線をさ迷わせてるし。ええい。
「……う、ううーっ! もうっ! 恥ずかしいじゃないの! 変なこと言わせないでよ、ばかっ!」
「思わぬ展開に俺も驚いてるところだ」
「も、もー。……ばか」
かなみは俺の手を取り、ちらちらとこちらを見た。そして視線が合うと、ぼしょぼしょと何やら呟き始めた。
「あ、あのさ。……あたしと結婚して、嬉しい?」
「当然」
「……あ、あたしも。……ってぇーっ! 何よ、このむず痒空間! ああもうっ、痒い痒い痒いっ!」
「おまーから始めたんだろーが」
「ううう……あ、ああーっ!?」
「今度は何だ。破水でもしたか?」
「まだ妊娠すらしてないッ! ……た、種はいっぱい仕込まれたケド」
だから、そういうことを赤い顔でごにょごにょ言うな。
「じゃ、じゃなくて! 時間っ! 遅刻!」
「はっはっは。余裕を持って起床→朝食のコンボを決めたのに遅刻なわけぶくぶくぶく」
「時計見ただけで泡吹くなっ、ばかっ!」
「ぶくぶく……いや、あまりの時間の過ぎっぷりにびっくりして。これは好きな人と一緒にいると時間が早く過ぎてしまうというウラシマ効果に相違ありませんね?」
「ウラシマ効果じゃないけど……そ、そう。す、好きな……ああもうっ! アンタ恥ずかしい台詞言いすぎっ!」
「ゲペルニッチ将軍」
「だからといって全く意味のない台詞を言えってコトじゃないっ!」
「よく俺の言わんとしたことがすぐに分かったな。流石は俺の嫁」
「う……うっさい! そ、そんなこと言われても、別に嬉しくなんてないんだからねっ!」
「今日も俺の嫁は可愛いなあ」
「う……うぅーっ! 可愛いとか言うなッ!」
「分かった、分かりましたから殴らないで。顔の形が変わります」
この嫁は照れ隠しに人をたくさん殴るので、俺の命が日々危機に晒されるスリル満点の新婚生活と言えよう。普通の新婚生活がいいよ。
「ともかく、遅刻するので行きましょう」
「わ、分かったわよ。それより血拭きなさいよ。血まみれよ」
ハンケチで顔をぐいぐい拭われると、それだけで血が止まった。この特異な能力があるおかげで今日も僕は生きていられます。ていうか毎日殴られた結果備わってしまったのだけど。
「ん! 今日もいいおと……ぶ、ぶさいくね!」
「旦那に向かって今日も失敬だな、おまいは……」
「う、うっさい! ほら、行くわよ馬鹿!」
かなみに手を引っ張られ、今日も登校する俺たち夫婦なのだった。
【深夜になるとデレモード発動するツンデレ】
2010年09月17日
知り合いの中学生、ふみの両親が一晩家を留守にするとかで、ふみを我が家で預かることになった。
「まだ初潮が来てないのをいいことに、一晩中私の中に何度も何度も出すんですね、おにーさん?」
なんて爆弾を家族全員玄関先で出迎えた瞬間に放り込みやがったので、とんでもない家族会議(別名魔女裁判)が開かれ、結果今日は部屋から一歩も出るなという通達が俺になされた。
「俺は何もしてないのに……何も悪くないのに! チクショウ、何もかも全部ふみが悪いんだ! ちょっと可愛いからってあの野郎!」
「いや、私は女なので野郎は適当ではないです」
「ああそれもそうだねちょっと混乱してたのかもうわあっ」
部屋で一人憤ってたハズなのに、気がつけば俺の傍らにふみがちょこんと座っていた。
「ふ、ふ、ふみ!?」
「はい」
「ああよい返事ですね」(なでなで)
「…………」(ちょっと嬉しそう)
「じゃなくて! なんでここに?」
「私の嘘が全面的に信用され、おにーさんがどれほどの屈辱に打ち震えているのかつぶさに観察するために、です」
一点の曇りもない瞳で俺を攻撃するふみ。酷すぎる。
「おにーさんは家族にも信用されていないんですね……」
「やめて! 哀れみの視線が一番辛い!」
「やはりこういう本を普段から読み漁っているのが原因ではないでしょうか」
「人の書斎を荒らさないで!」
俺の書架から子供(特に女児)が見たら人間不信になるよ♪ってな感じのえろい本を取り出し、読みふけるふみ。
「……ほほう」
「読まないで! お願いします!」
「……こんなことを、私にするの?」
「わざとらしく震えるない! しねぇよ! お話! フィクションですから!」
「実験。この本を床に置き、私が服をはだけて叫ぶと、一体おにーさんはどうなってしまうのでしょう?」
「何が望みでしょうか」(青ざめながら)
「この部屋でお泊り」
「……いや、さすがにそれは色々と問題があるのではないかと」
「……すぅぅぅ」
「いいです! いいですから叫ばないで!」
「……ふぅ。最初からそう言えばいいんです」
脅迫に屈してしまったので、携帯を通じて母に連絡……したらそのまま警察に通報されそうな気がするので、ふみに携帯を渡す。
「……おにーさんからのプレゼント。大事に、大事にします」
「ちげー! お前から頼めって言ってんだよ! ていうか分かってやってるだろそれ!」
「ふふり。まあいいです、おにーさんは根性ナシなので、私がおにーさんのご両親を説得してみせます」
部屋の隅に移動し、こしょこしょと何事か話した後、ふみは俺に携帯を渡した。
「おにーさんのお母さんが、おにーさんに話があるそうです」
「え」
嫌な予感を感じながら携帯を受け取る。
「えーと。もしもし」
『分かってると思うけど、手出したら殺す』
「出しません」(超震えながら)
『そっ。じゃあ許可してあげるけど、本当にしちゃダメよ? アンタの遺伝子は後世に引き継がせることは出来ないんだから』
「遺伝子とな!? 俺は実の親にそこまで言われる存在なのか!? 足洗いてえ!」
『はあ? よく分かんない子ね……まあそういうことだから。じゃねー』
ぷつり、と通話が切れた。本当に人の親か。
「遺伝子って何ですか、おにーさん?」
「や……まあ、なんでもない。とにかく、許可が出たので泊まってください」
「しょがないので泊まってやります」
「言い出したの誰だ」
「おにーさんのに対し、私の身体は小さすぎるのできっと溢れちゃいますが、まあ頑張ります」
「何の話!?」
「…………」
「無言でベッドを見つめないで!」
「…………」
「そのまま自分の股を見ないで!」
「まだ生えてません」
「知らんっ! 言うなッ!」
「怒りながらも照れてるおにーさん、可愛いです」
背伸びして人の頭をなでるふみだった。
「はぁ……んで、どうする? もう寝るか?」
時計を見るが、まだ午後10時だ。寝るには早いが、することもないので寝るもアリか。
「ゲームしたいです、ゲーム。普段はあまりやってはいけないと言われているいので、ここで血反吐を吐くまでやりたいです」
「血反吐はともかく、まあいいぞ。何する?」
「これ」
「そこは女子供禁止ゾーンなので、そこ以外で!」
部屋の奥にあるエロゲの棚から大きな箱を取り出そうとしているふみを押し留めながら叫ぶ。
「私みたいなちっちゃい子の絵ばっかです」
「まじまじと見ないで! そこ以外、そこ以外で!」
「しょがないので、これで我慢してあげます」
そんなわけで、ふみといっしょにヴァンパイアをする。いや、次世代機とか持ってないので。
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「飛び道具ばっか撃つな」
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「俺を直接攻撃するな!」
ぺちぺちと叩かれながらしばらく遊んでたら、ふみが欠伸しだした。
「そろそろ寝るか?」
「ふぁ……ん、そですね。おにーさんも私が寝てる隙に色々いたづらしたいでしょうし、寝ましょうか」
「とんでもない印象を持たれているのだなあ、俺」
「否定しないということは、いたづらするんですね」
「しないっ! しませんっ! するもんかっ!」
この娘は油断するとすぐに人を犯罪者に仕立て上げるので怖すぎる。
「んじゃ、お休みなさい、おにーさん」
「あいあい。お休み、ふみ」
部屋の明かりを消す。ふみがベッドで、俺が床。
「……寝る時にお休みって言えるのって、素敵です」
ぽつり、とふみが呟いた。
「……ふみの親御さんは、寝る時にいないのか?」
どうしようか迷ったが、結局訊ねることにする。
「二人とも遅くまで働いてるので、普段はいません」
「……そっか。ごめんな?」
「許しません。殺します」
「死!? ちょっと聞きづらいことを聞いただけで死とな!? なんて酷い話だ! 死んでも死にきれねぇ!」
などと馬鹿なことをくっちゃべっていたら、俺の布団に何か入ってきた。……いや、“誰か”入ってきた。
「あのー。ふみ?」
「あさしんさんじょー。……嘘です」
変な嘘つかれた。前にも似たようなことがあった気がする。
「お、おにーさんを殺すために、適切な場所に移動しただけです。他意はないです」
布団の中で、ふみが俺に抱きついてきた。
「え、えーと。ふみさん? 殺すのに抱きつく必要はないような気がするのですが」
「そ、それが素人の浅はかなところです。あさしんは、暗殺対象をよく調べるために抱きつく必要があるのです。本当はおにーさんなんかに抱きつきたくなどないのですが、あさしんなので我慢して抱きつくのです」
「そ、そうか。それで、分かったか?」
「……ぷよぷよ、です」
人の腹をつまみながら、ふみは嬉しそうに言った。
「いや、そんな太ってないと思うんだけど……まあ仮にそうだとして、それが俺を殺すのに何か役立つ情報なのか?」
「脂肪が多いと刃の通りが悪いので、大型の刃物に変更します」
「割としっかり調べてらっしゃる!?」
「ですが、そうして仕留めても、刃が脂肪や血でねばねばになってしまい、以後使えなくなります。もったいないです」
「それはもう諦めるしかないよ」
「……も、もったいないお化けの出現率を考えるに、こうするのが適当だと思います」
「ぬわ!?」
さきほどより強くふみが抱きついてきた。あたってる、明らかにあたってる! 何かちっこいけどふにゅわんぬわってしたのが背中に!
「むう。おにーさんのことです、きっとあばら骨がごりごり当たって痛いとか酷いこと言うに決まってます」
「いやそれがねふみさん、思いのほか女体ってのは大した物で、お兄さんはふみの柔らかさに興奮してますよ?」
「…………」
あ。しまった。俺は優しいお兄さんでいなければならないのに……!
「……お、おにーさんのえっち」
そう言って、ふみは俺の背中に顔を埋めた。
「や、その、……ごめん」
「ダメです。許しません。……こ、こっちを向かないと許しません」
「勘弁してほしいなあ」
「向かないと泣きます」
泣く子とふみには勝てないので、諦めてくるりと半回転してふみと向き合う。明かりを消していて判然としないが、ふみの顔が赤らんでいるような気がした。
「……こ、こんばんは」
なんか挨拶された。
「あ、はぁ。こんばんは」
「……と、とー」
ずびし、と鼻にチョップされた。ただ、全然力がこもってないので痛くはない。
「こ、攻撃です。あたっくです」
「は、はぁ。大変な痛痒ですね」
「ひ、引き続き攻撃をします。ぷろのあさしんなので、攻撃の手を緩ませることはできないのです」
「は、はぁ。それは大変ですね?」
「……と、というわけで、攻撃再開です。とー」
「ふひっ!?」
突然、ふみが抱きついてきた。さっきと違い、今度はお互い向き合っている。興奮は比ではない!
「ふっ、ふ、ふ、ふみ!?」
「こっ、興奮しすぎです。おにーさんの変態」
「すいません変態ですいません!」
「ま、まあいいです。抱きつきあたっくです。相手は死にます」
まあ確かにある意味死にそうだ。興奮しすぎて。
「そ、それにしても、おにーさんどきどきしすぎです。中学生に興奮しすぎです」
「許してください。許してください!」
「そんな変態だから、おにーさんには誰も寄り付きません」
「失礼なことを言うものだなあ。事実ですが!」
「……だ、だから、かあいそーなので、私が寄ってあげます」
ふみは全身を使って俺に抱きつくと、ふにふにと顔を俺の胸にこすりつけた。
「いっ、いやあの、ふ、ふみ?」
「ううう……おにーさんのにおいがします。おにーさんの感触がします。おにーさんの体温を感じます。……え、えと。きっ、気持ち悪いこと、このうえないです」
「は、はい、ごめんなさい」
「……なでてください」
「はい?」
「なっ、なでてください! あたま!」
なんかもう赤いんだか泣いてるんだか分からないが、こちらも負けじと頭が破裂しそうになってるので、こくこく頷きながらふみの頭をなでる。
「ううううう……」
「な、なんでしょうか」
「おにーさんの手は何か変な光線が出てます!」
「出てませんよ!? 何をいきなり人を宇宙人扱いしてるかな、この娘は……」
「だって、じゃないと、説明がつかないですっ! なんでこんなふわふわした気持ちになるんですか!?」
「え、えーと。はい。出てます。ふわふわ光線が」
「そうです、出てます! だからこんなふわふわ幸せ心地になるんですっ!」
「そ、そうか。幸せ心地なんだ」
「嘘ですが! 幸せなんて嘘ですが! でもふわふわ心地なんです!」
「とりあえず、落ち着け」
「私はすっごく落ち着いてます! ふーっ、ふーっ!」
「その鼻息で落ち着いてると言い張るのは無理があるかと」
「うるさいですっ! おにーさんは私の頭をなでつつ大好きだよーとか気持ち悪いことを言ってたらいいんですっ!」
「気持ち悪いと評されたことを言えと。なんという罰なのだこれは」
「早く! 早く言わないと叫びます!」
「すいませんすぐ言います!?」
脅迫に屈してばかりだが、しょうがないのでふみの頭をなでる。
「え、えーと。大好きだよ、ふみ」
「~~~~~っ!!!」
ふみは俺の胸に顔をむぎゅうううっと押し付けながら、痛いくらい俺に抱きついた。
「ううう……わ、わんもあ!」
「わんもあ!?」
「すぅぅぅぅ!」
「言います、言いますから! 俺はふみが大好きだ!」
「あぐあぐあぐあぐあぐ!!!」
今度は俺にがぶがぶ噛み付きながら、ふみは両足をばたばたさせた。
「ううううう……ううううう!」
「痛いです。痛いです!」
「うるさいです! もっかい言わないと許しません!」
「もう勘弁して! 近年稀に見るほどの恥ずかしさなのですよ!?」
「言わないと噛み千切ります!」
「即了解しました! ……ふぅ。俺は本当にふみが大好きだぁ!」
「ははひほはひふひへふっ! ほひーはふはひふひ!」
俺をがぶがぶ噛みながら、ふみは何事か言った。何言ってんだか全く分からないけど。
「ううう……おにーさんはえっちです。いっぱい、いっぱい私のことを好きって言います」
「強制ですよ?」
「しょ、しょがないので、私からも言い返してやります。本意ではないですが、お返しは大事なので言います。繰り返しますが、本意ではないです」
「や、別にいいです」
「おにーさんは頭が悪いので知らないかもしれませんが、大人はお返しするものなんです」
「イチイチ頭が悪いとか言うない」
「じゃ、じゃあ、言います。……お、おにーさん、大好きです」
「……っ!」
これは、くる。思ってる以上に、くる。本意でないにしても、くる。頭がおかしくなりそうだ。
「ど、どしました、おにーさん?」
「いや……その、お前の気持ちがよく分かった」
「え、ええっ!? ちっ、違います、好きじゃないです! 本意ではないと言ったはずです! お、おにーさんのばか!」
「いやいや。そうじゃなくて」
「は、はい?」
「“好き”って言葉の破壊力。嘘だってのに、まさかここまで心にずしんと響くとは思わなかった。もう今日の記憶だけで一生大丈夫と思えるほどの破壊力があった。脳内でリピートしまくりだ」
「こ、困ります。著作権が発生します。思い出すたびにお金ください。いちおくえん」
「ほれ、今も思い出したぞ」
「いちおくえん!」
「また思い出した」
「におくえん!」
「はっはっは。思い出しまくりだ」
「ううう……おにーさんはお金を踏み倒しまくりです。酷いです。悪魔です。さんおくえんください」
「また無茶を。今はないので出世払いでお願いします」
「おにーさんが出世なんてできるわけないのでお断りします」
未来のことなのに断言された。酷すぎる。
「だから、おにーさんのそばで見守り、収入があれば即それを貰います」
「鵜飼いの鵜みたいだな、俺」
「それです。そのものずばりです」
「もしくは、熟年夫婦みたい」
「全く違います! 夫婦などではないです!」
「結果だけ見れば一緒なのですが」
「おにーさんは頭が悪いから分からないでしょうが、全く違います! まったく、おにーさんには困ったものです」
「よく分からんが……まあいいや。満足したようなので、ベッドに戻りなさい。俺は寝る」
「ぐーぐーむにゃむにゃ。もう食べられません」
「一瞬で超分かりやすい狸寝入りだと!? まあいいか。じゃあ俺がベッドに」
移動しようとしたが、全力で抱きつかれており動けません。
「ふみ、動けないので手を離して」
「寝てるので無理です」
「寝てる奴は返事しません」
「はっ。……おにーさんは誘導尋問するので悪人です。許しません。いちおくえんください」
ふみはそっと目を開けると、いつものように無茶を言った。
「すぐに一億円請求するな」
「じゃ、一緒に寝るので許してあげます。感謝してもいいです」
「あー……うん、分かった」
まあ、いいか。俺が手を出さなければ済む話だ。大丈夫、我慢我慢。
「あ、寝てる間にいたづらしても気づかないフリしますよ?」
「しませんっ!」
「今日はおにーさんの大好きなしまぱんをはいてますよ?」
「しっ、……しません」
「しまぱんにちょっと心が動くおにーさん、愉快です」
「勘弁しろよ……」
「あはは。それじゃお休みなさい、おにーさん。お休みのちゅーは必要ですか?」
「不要です」
「むちゅー」
「不要! ふ・よ・う!」
唇をとがらせてむちゅーって来たふみの顔面を持って押し留める。
「残念です。ちゅーして慰謝料がっぽがっぽ貰おうと思ったのに。いちおくえんくらい」
「こちとらただの貧乏学生だ。そういうのは金持ちにやってくれ」
「おにーさんおんりーの美人局です。特別扱いに、おにーさんにっこり」
「嬉しくないなあ」
「おにーさん、贅沢です……」
そんなことはないと思う。
「とにかく、そろそろ寝ろ。アレだ、お前が眠るまではここにいるから」
「ダメです。一緒にぐーすか寝ないと殺します」
「このアサシン超怖え」
「はい、超怖いです。だから一緒に寝ないとダメです。朝起きておにーさんがベッドの上にいたら、服を脱いで叫びます」
今日はふみと一緒に寝ることが確定してしまった。
「……分かった。諦めた。一緒に寝ましょう」
「そこまで言うなら寝てあげます。感謝してください、おにーさん」
「どうして俺が頼む風になっているのか」
「えへへ。それじゃお休みなさい、おにーさん」
「へーへー。お休み、ふみ」
ぽんぽんと軽く頭をなでると、ふみは嬉しそうに俺の胸に顔をむいむいとこすりつけた。
で、朝。
「くひゃー……くひゃー……」
全力全開いい湯加減で寝てるふみ。逃げようにも、全身抱きつかれているので動けない。まあ、仮に逃げられる状況に置かれているとしても、脅迫を受けてるので逃げられないのだけど。
「むにゃむにゃ……ん? ……あ、おにーさんだ。えへへ、おにーさん。抱っこしてください」
「されてます」
「はい? ……はい?」
「おはよう、ふみ」
「あ、おはようございます。……おはようございます?」
未だよく分かってないふみの頭をくりくりとなでる。
「……ふにゅ?」
「寝起きのふみは可愛いなあ」
「寝起き。……寝起き? ……っ!?」
ようやっと目が覚めたのか、ふみの瞳に理解の色が浮かんだ。と同時に、顔が一瞬で赤く染まった。
「う……ううううう~!」
「な、なんでしょうか」
「お、おにーさんのせいです! 全部!」
「何のことか分からないのですが」
「わ、分からないならいいです。いいのです」
「昨夜俺に好きだって言わせたり一緒に寝させたり抱っこしたり、といった事柄のような気がするが、よく分からないよ」
ふみは顔を真っ赤にしながら俺をぺけぺけ叩いた。
「はっはっは。愉快痛快」
「おにーさんのばか、ばかばかばか!」
「また泊まりにくればいい。昨夜のようなことが待ってるから」
「絶対に泊まりません! おにーさんのばか!」
ふみはどだどだと部屋のドアまで向かうと、俺に一度あっかんべーをして部屋から出て行った。いやはや。
「……あ」
そういや、あいつ寝起きで服が乱れてたなあ。誰かに乱暴されたと思えなくもないなあ。なんか廊下の奥からすごいプレッシャーを感じるけど気のせいだよなあ。
「……覚悟は、いいわね?」
母さんおはよう。違うよ。話を聞いて。なんで後ろにニヤニヤしてるふみがいるの? あれ、はめられた?
「まだ初潮が来てないのをいいことに、一晩中私の中に何度も何度も出すんですね、おにーさん?」
なんて爆弾を家族全員玄関先で出迎えた瞬間に放り込みやがったので、とんでもない家族会議(別名魔女裁判)が開かれ、結果今日は部屋から一歩も出るなという通達が俺になされた。
「俺は何もしてないのに……何も悪くないのに! チクショウ、何もかも全部ふみが悪いんだ! ちょっと可愛いからってあの野郎!」
「いや、私は女なので野郎は適当ではないです」
「ああそれもそうだねちょっと混乱してたのかもうわあっ」
部屋で一人憤ってたハズなのに、気がつけば俺の傍らにふみがちょこんと座っていた。
「ふ、ふ、ふみ!?」
「はい」
「ああよい返事ですね」(なでなで)
「…………」(ちょっと嬉しそう)
「じゃなくて! なんでここに?」
「私の嘘が全面的に信用され、おにーさんがどれほどの屈辱に打ち震えているのかつぶさに観察するために、です」
一点の曇りもない瞳で俺を攻撃するふみ。酷すぎる。
「おにーさんは家族にも信用されていないんですね……」
「やめて! 哀れみの視線が一番辛い!」
「やはりこういう本を普段から読み漁っているのが原因ではないでしょうか」
「人の書斎を荒らさないで!」
俺の書架から子供(特に女児)が見たら人間不信になるよ♪ってな感じのえろい本を取り出し、読みふけるふみ。
「……ほほう」
「読まないで! お願いします!」
「……こんなことを、私にするの?」
「わざとらしく震えるない! しねぇよ! お話! フィクションですから!」
「実験。この本を床に置き、私が服をはだけて叫ぶと、一体おにーさんはどうなってしまうのでしょう?」
「何が望みでしょうか」(青ざめながら)
「この部屋でお泊り」
「……いや、さすがにそれは色々と問題があるのではないかと」
「……すぅぅぅ」
「いいです! いいですから叫ばないで!」
「……ふぅ。最初からそう言えばいいんです」
脅迫に屈してしまったので、携帯を通じて母に連絡……したらそのまま警察に通報されそうな気がするので、ふみに携帯を渡す。
「……おにーさんからのプレゼント。大事に、大事にします」
「ちげー! お前から頼めって言ってんだよ! ていうか分かってやってるだろそれ!」
「ふふり。まあいいです、おにーさんは根性ナシなので、私がおにーさんのご両親を説得してみせます」
部屋の隅に移動し、こしょこしょと何事か話した後、ふみは俺に携帯を渡した。
「おにーさんのお母さんが、おにーさんに話があるそうです」
「え」
嫌な予感を感じながら携帯を受け取る。
「えーと。もしもし」
『分かってると思うけど、手出したら殺す』
「出しません」(超震えながら)
『そっ。じゃあ許可してあげるけど、本当にしちゃダメよ? アンタの遺伝子は後世に引き継がせることは出来ないんだから』
「遺伝子とな!? 俺は実の親にそこまで言われる存在なのか!? 足洗いてえ!」
『はあ? よく分かんない子ね……まあそういうことだから。じゃねー』
ぷつり、と通話が切れた。本当に人の親か。
「遺伝子って何ですか、おにーさん?」
「や……まあ、なんでもない。とにかく、許可が出たので泊まってください」
「しょがないので泊まってやります」
「言い出したの誰だ」
「おにーさんのに対し、私の身体は小さすぎるのできっと溢れちゃいますが、まあ頑張ります」
「何の話!?」
「…………」
「無言でベッドを見つめないで!」
「…………」
「そのまま自分の股を見ないで!」
「まだ生えてません」
「知らんっ! 言うなッ!」
「怒りながらも照れてるおにーさん、可愛いです」
背伸びして人の頭をなでるふみだった。
「はぁ……んで、どうする? もう寝るか?」
時計を見るが、まだ午後10時だ。寝るには早いが、することもないので寝るもアリか。
「ゲームしたいです、ゲーム。普段はあまりやってはいけないと言われているいので、ここで血反吐を吐くまでやりたいです」
「血反吐はともかく、まあいいぞ。何する?」
「これ」
「そこは女子供禁止ゾーンなので、そこ以外で!」
部屋の奥にあるエロゲの棚から大きな箱を取り出そうとしているふみを押し留めながら叫ぶ。
「私みたいなちっちゃい子の絵ばっかです」
「まじまじと見ないで! そこ以外、そこ以外で!」
「しょがないので、これで我慢してあげます」
そんなわけで、ふみといっしょにヴァンパイアをする。いや、次世代機とか持ってないので。
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「飛び道具ばっか撃つな」
「ふぁいあふぁいあふぁいあ」
「俺を直接攻撃するな!」
ぺちぺちと叩かれながらしばらく遊んでたら、ふみが欠伸しだした。
「そろそろ寝るか?」
「ふぁ……ん、そですね。おにーさんも私が寝てる隙に色々いたづらしたいでしょうし、寝ましょうか」
「とんでもない印象を持たれているのだなあ、俺」
「否定しないということは、いたづらするんですね」
「しないっ! しませんっ! するもんかっ!」
この娘は油断するとすぐに人を犯罪者に仕立て上げるので怖すぎる。
「んじゃ、お休みなさい、おにーさん」
「あいあい。お休み、ふみ」
部屋の明かりを消す。ふみがベッドで、俺が床。
「……寝る時にお休みって言えるのって、素敵です」
ぽつり、とふみが呟いた。
「……ふみの親御さんは、寝る時にいないのか?」
どうしようか迷ったが、結局訊ねることにする。
「二人とも遅くまで働いてるので、普段はいません」
「……そっか。ごめんな?」
「許しません。殺します」
「死!? ちょっと聞きづらいことを聞いただけで死とな!? なんて酷い話だ! 死んでも死にきれねぇ!」
などと馬鹿なことをくっちゃべっていたら、俺の布団に何か入ってきた。……いや、“誰か”入ってきた。
「あのー。ふみ?」
「あさしんさんじょー。……嘘です」
変な嘘つかれた。前にも似たようなことがあった気がする。
「お、おにーさんを殺すために、適切な場所に移動しただけです。他意はないです」
布団の中で、ふみが俺に抱きついてきた。
「え、えーと。ふみさん? 殺すのに抱きつく必要はないような気がするのですが」
「そ、それが素人の浅はかなところです。あさしんは、暗殺対象をよく調べるために抱きつく必要があるのです。本当はおにーさんなんかに抱きつきたくなどないのですが、あさしんなので我慢して抱きつくのです」
「そ、そうか。それで、分かったか?」
「……ぷよぷよ、です」
人の腹をつまみながら、ふみは嬉しそうに言った。
「いや、そんな太ってないと思うんだけど……まあ仮にそうだとして、それが俺を殺すのに何か役立つ情報なのか?」
「脂肪が多いと刃の通りが悪いので、大型の刃物に変更します」
「割としっかり調べてらっしゃる!?」
「ですが、そうして仕留めても、刃が脂肪や血でねばねばになってしまい、以後使えなくなります。もったいないです」
「それはもう諦めるしかないよ」
「……も、もったいないお化けの出現率を考えるに、こうするのが適当だと思います」
「ぬわ!?」
さきほどより強くふみが抱きついてきた。あたってる、明らかにあたってる! 何かちっこいけどふにゅわんぬわってしたのが背中に!
「むう。おにーさんのことです、きっとあばら骨がごりごり当たって痛いとか酷いこと言うに決まってます」
「いやそれがねふみさん、思いのほか女体ってのは大した物で、お兄さんはふみの柔らかさに興奮してますよ?」
「…………」
あ。しまった。俺は優しいお兄さんでいなければならないのに……!
「……お、おにーさんのえっち」
そう言って、ふみは俺の背中に顔を埋めた。
「や、その、……ごめん」
「ダメです。許しません。……こ、こっちを向かないと許しません」
「勘弁してほしいなあ」
「向かないと泣きます」
泣く子とふみには勝てないので、諦めてくるりと半回転してふみと向き合う。明かりを消していて判然としないが、ふみの顔が赤らんでいるような気がした。
「……こ、こんばんは」
なんか挨拶された。
「あ、はぁ。こんばんは」
「……と、とー」
ずびし、と鼻にチョップされた。ただ、全然力がこもってないので痛くはない。
「こ、攻撃です。あたっくです」
「は、はぁ。大変な痛痒ですね」
「ひ、引き続き攻撃をします。ぷろのあさしんなので、攻撃の手を緩ませることはできないのです」
「は、はぁ。それは大変ですね?」
「……と、というわけで、攻撃再開です。とー」
「ふひっ!?」
突然、ふみが抱きついてきた。さっきと違い、今度はお互い向き合っている。興奮は比ではない!
「ふっ、ふ、ふ、ふみ!?」
「こっ、興奮しすぎです。おにーさんの変態」
「すいません変態ですいません!」
「ま、まあいいです。抱きつきあたっくです。相手は死にます」
まあ確かにある意味死にそうだ。興奮しすぎて。
「そ、それにしても、おにーさんどきどきしすぎです。中学生に興奮しすぎです」
「許してください。許してください!」
「そんな変態だから、おにーさんには誰も寄り付きません」
「失礼なことを言うものだなあ。事実ですが!」
「……だ、だから、かあいそーなので、私が寄ってあげます」
ふみは全身を使って俺に抱きつくと、ふにふにと顔を俺の胸にこすりつけた。
「いっ、いやあの、ふ、ふみ?」
「ううう……おにーさんのにおいがします。おにーさんの感触がします。おにーさんの体温を感じます。……え、えと。きっ、気持ち悪いこと、このうえないです」
「は、はい、ごめんなさい」
「……なでてください」
「はい?」
「なっ、なでてください! あたま!」
なんかもう赤いんだか泣いてるんだか分からないが、こちらも負けじと頭が破裂しそうになってるので、こくこく頷きながらふみの頭をなでる。
「ううううう……」
「な、なんでしょうか」
「おにーさんの手は何か変な光線が出てます!」
「出てませんよ!? 何をいきなり人を宇宙人扱いしてるかな、この娘は……」
「だって、じゃないと、説明がつかないですっ! なんでこんなふわふわした気持ちになるんですか!?」
「え、えーと。はい。出てます。ふわふわ光線が」
「そうです、出てます! だからこんなふわふわ幸せ心地になるんですっ!」
「そ、そうか。幸せ心地なんだ」
「嘘ですが! 幸せなんて嘘ですが! でもふわふわ心地なんです!」
「とりあえず、落ち着け」
「私はすっごく落ち着いてます! ふーっ、ふーっ!」
「その鼻息で落ち着いてると言い張るのは無理があるかと」
「うるさいですっ! おにーさんは私の頭をなでつつ大好きだよーとか気持ち悪いことを言ってたらいいんですっ!」
「気持ち悪いと評されたことを言えと。なんという罰なのだこれは」
「早く! 早く言わないと叫びます!」
「すいませんすぐ言います!?」
脅迫に屈してばかりだが、しょうがないのでふみの頭をなでる。
「え、えーと。大好きだよ、ふみ」
「~~~~~っ!!!」
ふみは俺の胸に顔をむぎゅうううっと押し付けながら、痛いくらい俺に抱きついた。
「ううう……わ、わんもあ!」
「わんもあ!?」
「すぅぅぅぅ!」
「言います、言いますから! 俺はふみが大好きだ!」
「あぐあぐあぐあぐあぐ!!!」
今度は俺にがぶがぶ噛み付きながら、ふみは両足をばたばたさせた。
「ううううう……ううううう!」
「痛いです。痛いです!」
「うるさいです! もっかい言わないと許しません!」
「もう勘弁して! 近年稀に見るほどの恥ずかしさなのですよ!?」
「言わないと噛み千切ります!」
「即了解しました! ……ふぅ。俺は本当にふみが大好きだぁ!」
「ははひほはひふひへふっ! ほひーはふはひふひ!」
俺をがぶがぶ噛みながら、ふみは何事か言った。何言ってんだか全く分からないけど。
「ううう……おにーさんはえっちです。いっぱい、いっぱい私のことを好きって言います」
「強制ですよ?」
「しょ、しょがないので、私からも言い返してやります。本意ではないですが、お返しは大事なので言います。繰り返しますが、本意ではないです」
「や、別にいいです」
「おにーさんは頭が悪いので知らないかもしれませんが、大人はお返しするものなんです」
「イチイチ頭が悪いとか言うない」
「じゃ、じゃあ、言います。……お、おにーさん、大好きです」
「……っ!」
これは、くる。思ってる以上に、くる。本意でないにしても、くる。頭がおかしくなりそうだ。
「ど、どしました、おにーさん?」
「いや……その、お前の気持ちがよく分かった」
「え、ええっ!? ちっ、違います、好きじゃないです! 本意ではないと言ったはずです! お、おにーさんのばか!」
「いやいや。そうじゃなくて」
「は、はい?」
「“好き”って言葉の破壊力。嘘だってのに、まさかここまで心にずしんと響くとは思わなかった。もう今日の記憶だけで一生大丈夫と思えるほどの破壊力があった。脳内でリピートしまくりだ」
「こ、困ります。著作権が発生します。思い出すたびにお金ください。いちおくえん」
「ほれ、今も思い出したぞ」
「いちおくえん!」
「また思い出した」
「におくえん!」
「はっはっは。思い出しまくりだ」
「ううう……おにーさんはお金を踏み倒しまくりです。酷いです。悪魔です。さんおくえんください」
「また無茶を。今はないので出世払いでお願いします」
「おにーさんが出世なんてできるわけないのでお断りします」
未来のことなのに断言された。酷すぎる。
「だから、おにーさんのそばで見守り、収入があれば即それを貰います」
「鵜飼いの鵜みたいだな、俺」
「それです。そのものずばりです」
「もしくは、熟年夫婦みたい」
「全く違います! 夫婦などではないです!」
「結果だけ見れば一緒なのですが」
「おにーさんは頭が悪いから分からないでしょうが、全く違います! まったく、おにーさんには困ったものです」
「よく分からんが……まあいいや。満足したようなので、ベッドに戻りなさい。俺は寝る」
「ぐーぐーむにゃむにゃ。もう食べられません」
「一瞬で超分かりやすい狸寝入りだと!? まあいいか。じゃあ俺がベッドに」
移動しようとしたが、全力で抱きつかれており動けません。
「ふみ、動けないので手を離して」
「寝てるので無理です」
「寝てる奴は返事しません」
「はっ。……おにーさんは誘導尋問するので悪人です。許しません。いちおくえんください」
ふみはそっと目を開けると、いつものように無茶を言った。
「すぐに一億円請求するな」
「じゃ、一緒に寝るので許してあげます。感謝してもいいです」
「あー……うん、分かった」
まあ、いいか。俺が手を出さなければ済む話だ。大丈夫、我慢我慢。
「あ、寝てる間にいたづらしても気づかないフリしますよ?」
「しませんっ!」
「今日はおにーさんの大好きなしまぱんをはいてますよ?」
「しっ、……しません」
「しまぱんにちょっと心が動くおにーさん、愉快です」
「勘弁しろよ……」
「あはは。それじゃお休みなさい、おにーさん。お休みのちゅーは必要ですか?」
「不要です」
「むちゅー」
「不要! ふ・よ・う!」
唇をとがらせてむちゅーって来たふみの顔面を持って押し留める。
「残念です。ちゅーして慰謝料がっぽがっぽ貰おうと思ったのに。いちおくえんくらい」
「こちとらただの貧乏学生だ。そういうのは金持ちにやってくれ」
「おにーさんおんりーの美人局です。特別扱いに、おにーさんにっこり」
「嬉しくないなあ」
「おにーさん、贅沢です……」
そんなことはないと思う。
「とにかく、そろそろ寝ろ。アレだ、お前が眠るまではここにいるから」
「ダメです。一緒にぐーすか寝ないと殺します」
「このアサシン超怖え」
「はい、超怖いです。だから一緒に寝ないとダメです。朝起きておにーさんがベッドの上にいたら、服を脱いで叫びます」
今日はふみと一緒に寝ることが確定してしまった。
「……分かった。諦めた。一緒に寝ましょう」
「そこまで言うなら寝てあげます。感謝してください、おにーさん」
「どうして俺が頼む風になっているのか」
「えへへ。それじゃお休みなさい、おにーさん」
「へーへー。お休み、ふみ」
ぽんぽんと軽く頭をなでると、ふみは嬉しそうに俺の胸に顔をむいむいとこすりつけた。
で、朝。
「くひゃー……くひゃー……」
全力全開いい湯加減で寝てるふみ。逃げようにも、全身抱きつかれているので動けない。まあ、仮に逃げられる状況に置かれているとしても、脅迫を受けてるので逃げられないのだけど。
「むにゃむにゃ……ん? ……あ、おにーさんだ。えへへ、おにーさん。抱っこしてください」
「されてます」
「はい? ……はい?」
「おはよう、ふみ」
「あ、おはようございます。……おはようございます?」
未だよく分かってないふみの頭をくりくりとなでる。
「……ふにゅ?」
「寝起きのふみは可愛いなあ」
「寝起き。……寝起き? ……っ!?」
ようやっと目が覚めたのか、ふみの瞳に理解の色が浮かんだ。と同時に、顔が一瞬で赤く染まった。
「う……ううううう~!」
「な、なんでしょうか」
「お、おにーさんのせいです! 全部!」
「何のことか分からないのですが」
「わ、分からないならいいです。いいのです」
「昨夜俺に好きだって言わせたり一緒に寝させたり抱っこしたり、といった事柄のような気がするが、よく分からないよ」
ふみは顔を真っ赤にしながら俺をぺけぺけ叩いた。
「はっはっは。愉快痛快」
「おにーさんのばか、ばかばかばか!」
「また泊まりにくればいい。昨夜のようなことが待ってるから」
「絶対に泊まりません! おにーさんのばか!」
ふみはどだどだと部屋のドアまで向かうと、俺に一度あっかんべーをして部屋から出て行った。いやはや。
「……あ」
そういや、あいつ寝起きで服が乱れてたなあ。誰かに乱暴されたと思えなくもないなあ。なんか廊下の奥からすごいプレッシャーを感じるけど気のせいだよなあ。
「……覚悟は、いいわね?」
母さんおはよう。違うよ。話を聞いて。なんで後ろにニヤニヤしてるふみがいるの? あれ、はめられた?
【ツンデレと一緒にプールで泳いだら】
2010年09月10日
欠伸をしつつだらだらと登校してると、俺と同じように暑そうにだらだら歩いてる奴発見。
「おっす、かなみ。暑そうだな」
「暑いわよクソ暑いわよ暦の上では秋だってのにこの暑さは何よどうにかしなさいよ!」
挨拶しただけなのに、ものすごい詰め寄られた。しょうがないのでどうにかする。
「むにゅむにゅむにゅ……どうにか!」
両手をばっとあげ、大きく叫ぶ。
「どうにもなってない! 暑いまんま!」
失敗。俺の術は世界に嫌われているようだ。
「もー! 暑い暑い暑い暑い!」
「うるさいなあ……んじゃ、学校終わったらプールでも行くか?」
プールと聞き、かなみは目を輝かせた。
「あっ……で、でもアンタとなんて行きたくないし。……で、でも、アンタがどーしてもって言うなら、行ってやらなくもないわよ?」
「そこまでして一緒に行きたくありません」
「どーしても一緒に行って欲しいって言え!」
「それもう強制だろ」
「いーから言うの!」
「やれやれ感が非常に強いが……まあいいか。ええと、どうしても一緒に来て欲しい」
「へへー、じゃあしょうがないから行ったげる。感謝するのよ?」
「でもよく考えるとお金がないので行かない」
「行くの! お金ないなら貸したげるから!」
「友人間とはいえ、お金の貸し借りはトラブルの元だからよくないぞ?」
「じゃあもうおごるから一緒に行くの!」
「女性におごられて平気な顔をしていられるほど厚顔無恥でもないからなあ」
「もーっ! どーしろって言うのよ!」
「だから、放課後に学校のプールに忍び込んで勝手に泳ごう」
「水泳部がいるから無理よ、馬鹿」
「そこの部長と部員と顧問の先生の弱み握ってるから大丈夫だ」
「悪魔!?」
そんなわけで、放課後かなみと一緒に学校のプールで泳ぐことになった。今から楽しみだ。
放課後。待ちに待ったふわふわプールタイムだ。だがしかし、ここで俺は驚愕の事実に気づいてしまった。
「水着持ってきてねえ……」
俺一人なら裸の開放感! とか言いながら屋外に飛び出して逮捕されるのも問題ないのだが、かなみも一緒なので色々と問題が山積みだ。あと、よく考えると捕まるので問題ある。
どうしたものかと頭を悩ませながら廊下を歩いてると、見るからに浮かれているかなみがスキップしながらこっちにやってきた。
「あっ……あ、あーあ。とうとう放課後になっちゃったわね。あーあ、やだやだ」
俺を見た途端スキップをやめ、かなみは殊更嫌そうに顔をしかめた。
「もうちょっと前からそういう所作はお願いします」
「う、うっさい、ばか! 暑いからプールが楽しみなだけ! アンタと一緒なのは嫌なんだからね!?」
「それは丁度よかった。実は水着を持ってきてなくて、俺は泳げそうにないんだ。だから、お前だけ泳いでくれ」
「えっ……」
「それでも一応水泳部には話つけておくよ。まあ、俺がいなくても平気だろ?」
「あ、当たり前でしょ。……で、でも、そなんだ。一緒じゃないんだ。……そ、それはラッキーね。……らっきー」
ラッキーならそれらしい顔をして。そんな今にも泣きそうな顔しないで。
「と、とりあえずプール行くか」
「……うん」
ものすごい落ち込んだかなみを連れてプールへ向かう。その途中、購買部の前を通りがかった。
「あ。かなみ、ちょっと待ってて」
「うん? ……うん、待ってる」
かなみをその場に置いて購買部に入り、ちょちょっと買い物する。
「お待たへ。行こ」
「ん」
相変わらずしょげかえってるかなみを連れ、プール前へ到着。
「んじゃちょっと話つけてくるから、その間に着替えてて」
「……ん」
背中からとんでもない悲壮感を噴出してるかなみを見送り、顧問がいる部室棟へ侵入、必殺の弱みを使ってプールの一レーンを借りることに成功。
「ううう……気をつけてたのに、気をつけてたのに……。一体どこで仕入れてくるのよ、そんな写真!」
「コミケ等」
見た目はボーイッシュで普段は男らしい格好を好む先生の、ありえないほどフリフリロリロリした衣装で決めポーズしてる写真を片手に高笑いする。
「ところでこの服何? さくら? CCさくら? 今更感が強いですが、今でも根強い人気が俺内部であるのではにゃーんとか言え」
「はにゃーんッ!」
殴られはしたが、そんな感じでプールを借りられたので、今度は男子更衣室へ向かう。さて、と。
「……あー、涼しいわね。……あー、楽しい。……ふん。ばか」
「独り言とは楽しそうで何よりですね」
「うっさい! ……え、あれ?」
「どした、狐につままれたような顔をして」
実際にかなみのほっぺをふにーっと引っ張る。やーらかくて素敵。
「え、だって、水着ないんじゃ……?」
「購買部で買った」
「……わ、わざわざ?」
「かなみと一緒に泳ぎたかったからな」
やめて。そんな染み渡るような笑顔見せないで。そこまで喜ばれると恥ずかしいです。
「はっ! ……へ、変態。そこまであたしと一緒に泳ぎたかったなんて、泳いでる最中にあたしの身体を触るつもりね!?」
「酷い言われようだ。もう泳ぐのやめようかなあ」
「えっ、嘘! やだ、ダメッ!」
かなみは俺を抱きつくようにして引き止めた。
「……あ、いや、冗談なんだけど」
「うっ! ……う、うぅ~! ず、ずるい!」
冗談と気づき、かなみは俺からぴょいんと離れると顔を真っ赤にして俺を責めた。
「ずるいと言われても」
「わざとそーゆーこと言ってあたしを抱きつくように仕向けた! ずるい!」
「や、そこまで好かれてるとは思ってませんでした」
「だっ、誰がアンタなんかを好きってのよ!? あ、アンタなんてだいっ嫌いなんだからっ!」
「へー」
「う、嘘なんかじゃないわよ! ホントのホントに嫌いなんだからねっ!」
「じゃあ、そんな嫌いで嫌いでしょうがない俺と一緒に泳いだりはしないのだな?」
「……お、泳ぐけど。一緒に泳ぐけど! でも嫌いなの!」
「ほへー」
「超馬鹿にしてえ! 嫌いなの! ホントにホントにホントにホントに!」
「ライオンだー」
「富士サファリパークは関係ないッ!」
「あれ歌ってるの和田アキ男とみせかけ、実は違う人らしいな」
「知んないわよっ! ……て、ていうか、なんかさ。そっちはどうなのよ」
「何が」
「だ、だから、その……あ、あたしのことをさ。その……す、好き? とか、そーゆーの」
「え」
「……や、やっぱなし! 今のうそ! なんもなし!」
かなみは素早く水に潜ると、ぴうーっと潜水したまま泳いでいってしまった。
「ふ……甘いぞ、かなみ! ぼくドザエモンの異名を持つ俺に勝てると思ったか!」
近くの水泳部員が「水死体……?」と怪訝な顔をしているのを尻目に、かなみを追いかける。
「わっ、なんか来た! くっ、来るなっ、ばかっ!」
「ふふん。俺様から逃げられると思ったら大間違いだ!」
かなみの尻目掛けざぶざぶ泳ぐ。目の前の尻がふりふり動くたび、俺の運動能力が+1されるのを確かに感じる。
10mほど泳いだ所でかなみを捕獲成功。後ろからがっしとかなみを掴み、動きを封じる。
「うー! ううー!」
「こら、暴れるな、ばか」
「馬鹿はそっちよ! 馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」
「馬鹿でいいから落ち着け」
「うぅー!」
「まあ、なんだ。答えを言う前に逃げられたので、一応は言っておこうと思いまして」
ぴたり、とかなみの抵抗が止んだ。じぃーっと物言いたげな視線が俺を貫く。その視線の持ち主の耳元に顔を近づける。
「うっ……ばっ、ばかっ!」
口を開く前にかなみは俺を突き飛ばすと、ばしゃばしゃと水をかけた。
「ぷわ。ぷわ。ぷわ」
「ばっ、ばか! ばかばか! ばかばかばか!」
「馬鹿馬鹿言うな。ぷわ。自覚はしてる。ぷわ。ていうか水をかけるのやめろ。ぷわ。まだ言ってないんだから」
「うっ、うるさい、ばか! アンタの気持ちなんてどーでもいいわよ! どっちにしろ、あたしはアンタなんて大嫌いなんだからっ!」
「嫌いであろうとなかろうと、俺の気持ちは別に」
「わ、わーっわーっわーっ! 聞こえない聞こえない聞こえないーっ!」
「ちくわ大明神」
「全く関係ないッ!」
聞こえてるじゃん。
「うう……なによ、この敗北感は!」
「知らん。ていうかなんか疲れた。もう普通に泳ごうぜ……」
「そ、そうね。普通が一番よね」
そんなわけで、かなみと一緒にしばらく泳ぐ。
「あー……涼しくて気持ちいいわねー。プールって大好き!」
「全くだな」
「でしょ? アンタもそう……」
油断してるかなみに背後からすいーっと近づき、耳元でぽしょぽしょ囁く。
「!!!!?」
そしてすぐさますいーっと逃げる。
「こっ、こら、ばか! そ、そういうこと言うだけ言って逃げるとかずるい! ばか、ばかばか!」
「いやははは、これでも人並みに羞恥心がありましてね。ああ、返事はまた後日で結構」
「ばか、ばかばか、ばかばかばか! 今すぐ返事言わせろ、ばかーっ!」
真っ赤な顔で泳いでくるかなみから逃げるぼくドザエモンだった。
「おっす、かなみ。暑そうだな」
「暑いわよクソ暑いわよ暦の上では秋だってのにこの暑さは何よどうにかしなさいよ!」
挨拶しただけなのに、ものすごい詰め寄られた。しょうがないのでどうにかする。
「むにゅむにゅむにゅ……どうにか!」
両手をばっとあげ、大きく叫ぶ。
「どうにもなってない! 暑いまんま!」
失敗。俺の術は世界に嫌われているようだ。
「もー! 暑い暑い暑い暑い!」
「うるさいなあ……んじゃ、学校終わったらプールでも行くか?」
プールと聞き、かなみは目を輝かせた。
「あっ……で、でもアンタとなんて行きたくないし。……で、でも、アンタがどーしてもって言うなら、行ってやらなくもないわよ?」
「そこまでして一緒に行きたくありません」
「どーしても一緒に行って欲しいって言え!」
「それもう強制だろ」
「いーから言うの!」
「やれやれ感が非常に強いが……まあいいか。ええと、どうしても一緒に来て欲しい」
「へへー、じゃあしょうがないから行ったげる。感謝するのよ?」
「でもよく考えるとお金がないので行かない」
「行くの! お金ないなら貸したげるから!」
「友人間とはいえ、お金の貸し借りはトラブルの元だからよくないぞ?」
「じゃあもうおごるから一緒に行くの!」
「女性におごられて平気な顔をしていられるほど厚顔無恥でもないからなあ」
「もーっ! どーしろって言うのよ!」
「だから、放課後に学校のプールに忍び込んで勝手に泳ごう」
「水泳部がいるから無理よ、馬鹿」
「そこの部長と部員と顧問の先生の弱み握ってるから大丈夫だ」
「悪魔!?」
そんなわけで、放課後かなみと一緒に学校のプールで泳ぐことになった。今から楽しみだ。
放課後。待ちに待ったふわふわプールタイムだ。だがしかし、ここで俺は驚愕の事実に気づいてしまった。
「水着持ってきてねえ……」
俺一人なら裸の開放感! とか言いながら屋外に飛び出して逮捕されるのも問題ないのだが、かなみも一緒なので色々と問題が山積みだ。あと、よく考えると捕まるので問題ある。
どうしたものかと頭を悩ませながら廊下を歩いてると、見るからに浮かれているかなみがスキップしながらこっちにやってきた。
「あっ……あ、あーあ。とうとう放課後になっちゃったわね。あーあ、やだやだ」
俺を見た途端スキップをやめ、かなみは殊更嫌そうに顔をしかめた。
「もうちょっと前からそういう所作はお願いします」
「う、うっさい、ばか! 暑いからプールが楽しみなだけ! アンタと一緒なのは嫌なんだからね!?」
「それは丁度よかった。実は水着を持ってきてなくて、俺は泳げそうにないんだ。だから、お前だけ泳いでくれ」
「えっ……」
「それでも一応水泳部には話つけておくよ。まあ、俺がいなくても平気だろ?」
「あ、当たり前でしょ。……で、でも、そなんだ。一緒じゃないんだ。……そ、それはラッキーね。……らっきー」
ラッキーならそれらしい顔をして。そんな今にも泣きそうな顔しないで。
「と、とりあえずプール行くか」
「……うん」
ものすごい落ち込んだかなみを連れてプールへ向かう。その途中、購買部の前を通りがかった。
「あ。かなみ、ちょっと待ってて」
「うん? ……うん、待ってる」
かなみをその場に置いて購買部に入り、ちょちょっと買い物する。
「お待たへ。行こ」
「ん」
相変わらずしょげかえってるかなみを連れ、プール前へ到着。
「んじゃちょっと話つけてくるから、その間に着替えてて」
「……ん」
背中からとんでもない悲壮感を噴出してるかなみを見送り、顧問がいる部室棟へ侵入、必殺の弱みを使ってプールの一レーンを借りることに成功。
「ううう……気をつけてたのに、気をつけてたのに……。一体どこで仕入れてくるのよ、そんな写真!」
「コミケ等」
見た目はボーイッシュで普段は男らしい格好を好む先生の、ありえないほどフリフリロリロリした衣装で決めポーズしてる写真を片手に高笑いする。
「ところでこの服何? さくら? CCさくら? 今更感が強いですが、今でも根強い人気が俺内部であるのではにゃーんとか言え」
「はにゃーんッ!」
殴られはしたが、そんな感じでプールを借りられたので、今度は男子更衣室へ向かう。さて、と。
「……あー、涼しいわね。……あー、楽しい。……ふん。ばか」
「独り言とは楽しそうで何よりですね」
「うっさい! ……え、あれ?」
「どした、狐につままれたような顔をして」
実際にかなみのほっぺをふにーっと引っ張る。やーらかくて素敵。
「え、だって、水着ないんじゃ……?」
「購買部で買った」
「……わ、わざわざ?」
「かなみと一緒に泳ぎたかったからな」
やめて。そんな染み渡るような笑顔見せないで。そこまで喜ばれると恥ずかしいです。
「はっ! ……へ、変態。そこまであたしと一緒に泳ぎたかったなんて、泳いでる最中にあたしの身体を触るつもりね!?」
「酷い言われようだ。もう泳ぐのやめようかなあ」
「えっ、嘘! やだ、ダメッ!」
かなみは俺を抱きつくようにして引き止めた。
「……あ、いや、冗談なんだけど」
「うっ! ……う、うぅ~! ず、ずるい!」
冗談と気づき、かなみは俺からぴょいんと離れると顔を真っ赤にして俺を責めた。
「ずるいと言われても」
「わざとそーゆーこと言ってあたしを抱きつくように仕向けた! ずるい!」
「や、そこまで好かれてるとは思ってませんでした」
「だっ、誰がアンタなんかを好きってのよ!? あ、アンタなんてだいっ嫌いなんだからっ!」
「へー」
「う、嘘なんかじゃないわよ! ホントのホントに嫌いなんだからねっ!」
「じゃあ、そんな嫌いで嫌いでしょうがない俺と一緒に泳いだりはしないのだな?」
「……お、泳ぐけど。一緒に泳ぐけど! でも嫌いなの!」
「ほへー」
「超馬鹿にしてえ! 嫌いなの! ホントにホントにホントにホントに!」
「ライオンだー」
「富士サファリパークは関係ないッ!」
「あれ歌ってるの和田アキ男とみせかけ、実は違う人らしいな」
「知んないわよっ! ……て、ていうか、なんかさ。そっちはどうなのよ」
「何が」
「だ、だから、その……あ、あたしのことをさ。その……す、好き? とか、そーゆーの」
「え」
「……や、やっぱなし! 今のうそ! なんもなし!」
かなみは素早く水に潜ると、ぴうーっと潜水したまま泳いでいってしまった。
「ふ……甘いぞ、かなみ! ぼくドザエモンの異名を持つ俺に勝てると思ったか!」
近くの水泳部員が「水死体……?」と怪訝な顔をしているのを尻目に、かなみを追いかける。
「わっ、なんか来た! くっ、来るなっ、ばかっ!」
「ふふん。俺様から逃げられると思ったら大間違いだ!」
かなみの尻目掛けざぶざぶ泳ぐ。目の前の尻がふりふり動くたび、俺の運動能力が+1されるのを確かに感じる。
10mほど泳いだ所でかなみを捕獲成功。後ろからがっしとかなみを掴み、動きを封じる。
「うー! ううー!」
「こら、暴れるな、ばか」
「馬鹿はそっちよ! 馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」
「馬鹿でいいから落ち着け」
「うぅー!」
「まあ、なんだ。答えを言う前に逃げられたので、一応は言っておこうと思いまして」
ぴたり、とかなみの抵抗が止んだ。じぃーっと物言いたげな視線が俺を貫く。その視線の持ち主の耳元に顔を近づける。
「うっ……ばっ、ばかっ!」
口を開く前にかなみは俺を突き飛ばすと、ばしゃばしゃと水をかけた。
「ぷわ。ぷわ。ぷわ」
「ばっ、ばか! ばかばか! ばかばかばか!」
「馬鹿馬鹿言うな。ぷわ。自覚はしてる。ぷわ。ていうか水をかけるのやめろ。ぷわ。まだ言ってないんだから」
「うっ、うるさい、ばか! アンタの気持ちなんてどーでもいいわよ! どっちにしろ、あたしはアンタなんて大嫌いなんだからっ!」
「嫌いであろうとなかろうと、俺の気持ちは別に」
「わ、わーっわーっわーっ! 聞こえない聞こえない聞こえないーっ!」
「ちくわ大明神」
「全く関係ないッ!」
聞こえてるじゃん。
「うう……なによ、この敗北感は!」
「知らん。ていうかなんか疲れた。もう普通に泳ごうぜ……」
「そ、そうね。普通が一番よね」
そんなわけで、かなみと一緒にしばらく泳ぐ。
「あー……涼しくて気持ちいいわねー。プールって大好き!」
「全くだな」
「でしょ? アンタもそう……」
油断してるかなみに背後からすいーっと近づき、耳元でぽしょぽしょ囁く。
「!!!!?」
そしてすぐさますいーっと逃げる。
「こっ、こら、ばか! そ、そういうこと言うだけ言って逃げるとかずるい! ばか、ばかばか!」
「いやははは、これでも人並みに羞恥心がありましてね。ああ、返事はまた後日で結構」
「ばか、ばかばか、ばかばかばか! 今すぐ返事言わせろ、ばかーっ!」
真っ赤な顔で泳いでくるかなみから逃げるぼくドザエモンだった。
【亜衣 ぺとぺと妹】
2010年09月08日
妹が欲しい。いや、違う。訂正しよう。“普通”の妹が欲しい。
「何を考え込んでるんですか、お兄ちゃん?」
最近出来た義理の妹を見ながら、そう思う。
「いや……あの、亜衣?」
「なんですか、お兄ちゃん?」
「俺の背中から降りてはどうだろうか」
先ほどから俺の背中にべたーっと張り付いている義妹に優しく語り掛けてみる。
「嫌です。今は亜衣のお兄ちゃん引っ付きタイムなので、降りられません」
「そんな時間はないのですが」
「んー……まあいいです。んしょっと」
亜衣は俺の背中から降りると、今度は俺の前に回りこんできて俺の手を取った。
「亜衣を抱っこしますか? いいですよ? はい、抱っこ」
「いやいや、いやいやいや。そんなの望んでません」
「望んでください」
一体兄に何を求めているのだ、この義妹は。
「あのな、亜衣。確かに俺たちゃ兄妹になった。でも、だからって、四六時中一緒にいるのはおかしいと思わないか?」
なぜかは知らないが顔を合わせた瞬間に大変気に入られ、それからずっと亜衣は俺と一緒にいようとする。
「亜衣はずっとずっとお兄ちゃんが欲しかったんです。半ば諦めていた頃にお母さんが再婚して降って湧いたお兄ちゃんに、亜衣は興奮を隠せませんでした。そして出会ったお兄ちゃんは、亜衣の理想のお兄ちゃん像にピタリ一致していて、亜衣の興奮は有頂天に達したのです」
「全体を通して分かったことは、頭が悪いことくらいですね」
「そういう意地が悪いことをさらっと言うところもポイント高いです」
何を言っても気に入られるビクンビクン悔しいでも(ry
「クリムゾンですか?」
「人の思考を読まないで!」
「妹にかかればお手の物です。ふふん。……褒めますか?」
「褒めません」
「残念です……」
「…………」(なでなで)
悲しそうだったので、思わず頭をなでてしまう俺は弱い人間だと思う。
「こういうところもポイント高いです」
「ええい。ていうかいうかていうかだな、一応俺と亜衣は兄妹なので仲が良いのは問題ないが、その仲が過剰なのは色々と問題があるのではなくって?」
「お兄ちゃんの秘蔵の本によると、兄妹仲が過剰によいのは何ら問題ないようです。むしろ、推奨されてます」
「馬鹿な!!!!?」
幾重のダミーに守られているはずの、俺の、俺の『大人になる呪文』が、どうして亜衣の手の平に!?
「しかし、この本の妹に対し、私は中学生なので少々成長しすぎです。問題ありますか?」
「いや年齢も体つきもまだまだ余裕で俺の射程範囲内なので全く問題ありませんじゃなくって!」
「ノリツッコミです……♪」
何をそんなに喜んでいる。
「ええいっ、いいから返せ!」
とにかく、亜衣から本を奪い返す。
「あっ。全くもー、お兄ちゃんは乱暴です。横暴です。大好きです」
「なんか混じってる!」
「キスしますか?」
「甘えのベクトルがおかしい! 仮に甘えるとしても、兄に甘えるのであればもうちょっと、こう、緩いものだろう!?」
「初めてのお兄ちゃんなので、どこまでいったらいいのか分からないんです」
「ん……ま、まあ、それはしょうがないな。適宜言うしかないか」
「じゃあ、キスしましょう」
「いきなり間違ってるッ!」
がぶあっと抱きついてきたので、全力で抵抗する。
「ぐぐぐ……キスします、キスします!」
「しないから! しないから!」
おでこを押さえつけ、妹の魔の手を防ぐ。ややあって諦めたのか、亜衣はぺたりと座り込んで頬を膨らました。
「ぶー」
「ぶーじゃねえ。あのな、亜衣。さういうことは、好きな人にしなさい」
「亜衣はお兄ちゃんが大好きですよ?」
「いやいや、いやいやいや。そうじゃなくてだな、異性として好きな人に対してすることで」
「亜衣はいつだってお兄ちゃんを性的な目で見てますよ?」
「それはそれで色々問題があるかと思いますが!」
「寝てる間にちゅーとかしていいですか?」
「ダメです!」
「じゃあやっぱり起きてる間に無理やりするしかないです」
再び寄ってきたのでぐぐぐっと抵抗する。
「キスします! させてください!」
「ダメだっての! ええい、なんでお前はやること全部力技なんだ!」
「ほっぺたで! ほっぺたで我慢しますから!」
「……本当だな?」
コクコクと嬉しそうにうなずいたので、ひとまず信じてみることにする。
「あー……じゃあ、まあ、それならいいや。ほれ、ぶちゅーっとしろ」
「亜衣にお任せです」
亜衣は俺の前に回りこむと、ぶちゅー。
「ほっぺって言ったろーが!!!」
慌てて亜衣を引き離す。超びっくりした。
「ああっ、まだ舌を入れてないのに」
「入れるな!!! はぁ……全く、最近の若い子は慣れてるのだか知らないが、恥じらいがなくて困るよ」
「あ、ファーストキスですよ?」
「…………。……そ、そうか」
「お兄ちゃん、照れてます?」
「あー……まあ、人並み程度には」
「お兄ちゃんの恥ずかしがる姿に、亜衣はすっごくドキドキしてますよ? どうしてくれますか?」
「知らんッ!」
ぺとぺとくっついてくる義妹に困る俺だった。
「何を考え込んでるんですか、お兄ちゃん?」
最近出来た義理の妹を見ながら、そう思う。
「いや……あの、亜衣?」
「なんですか、お兄ちゃん?」
「俺の背中から降りてはどうだろうか」
先ほどから俺の背中にべたーっと張り付いている義妹に優しく語り掛けてみる。
「嫌です。今は亜衣のお兄ちゃん引っ付きタイムなので、降りられません」
「そんな時間はないのですが」
「んー……まあいいです。んしょっと」
亜衣は俺の背中から降りると、今度は俺の前に回りこんできて俺の手を取った。
「亜衣を抱っこしますか? いいですよ? はい、抱っこ」
「いやいや、いやいやいや。そんなの望んでません」
「望んでください」
一体兄に何を求めているのだ、この義妹は。
「あのな、亜衣。確かに俺たちゃ兄妹になった。でも、だからって、四六時中一緒にいるのはおかしいと思わないか?」
なぜかは知らないが顔を合わせた瞬間に大変気に入られ、それからずっと亜衣は俺と一緒にいようとする。
「亜衣はずっとずっとお兄ちゃんが欲しかったんです。半ば諦めていた頃にお母さんが再婚して降って湧いたお兄ちゃんに、亜衣は興奮を隠せませんでした。そして出会ったお兄ちゃんは、亜衣の理想のお兄ちゃん像にピタリ一致していて、亜衣の興奮は有頂天に達したのです」
「全体を通して分かったことは、頭が悪いことくらいですね」
「そういう意地が悪いことをさらっと言うところもポイント高いです」
何を言っても気に入られるビクンビクン悔しいでも(ry
「クリムゾンですか?」
「人の思考を読まないで!」
「妹にかかればお手の物です。ふふん。……褒めますか?」
「褒めません」
「残念です……」
「…………」(なでなで)
悲しそうだったので、思わず頭をなでてしまう俺は弱い人間だと思う。
「こういうところもポイント高いです」
「ええい。ていうかいうかていうかだな、一応俺と亜衣は兄妹なので仲が良いのは問題ないが、その仲が過剰なのは色々と問題があるのではなくって?」
「お兄ちゃんの秘蔵の本によると、兄妹仲が過剰によいのは何ら問題ないようです。むしろ、推奨されてます」
「馬鹿な!!!!?」
幾重のダミーに守られているはずの、俺の、俺の『大人になる呪文』が、どうして亜衣の手の平に!?
「しかし、この本の妹に対し、私は中学生なので少々成長しすぎです。問題ありますか?」
「いや年齢も体つきもまだまだ余裕で俺の射程範囲内なので全く問題ありませんじゃなくって!」
「ノリツッコミです……♪」
何をそんなに喜んでいる。
「ええいっ、いいから返せ!」
とにかく、亜衣から本を奪い返す。
「あっ。全くもー、お兄ちゃんは乱暴です。横暴です。大好きです」
「なんか混じってる!」
「キスしますか?」
「甘えのベクトルがおかしい! 仮に甘えるとしても、兄に甘えるのであればもうちょっと、こう、緩いものだろう!?」
「初めてのお兄ちゃんなので、どこまでいったらいいのか分からないんです」
「ん……ま、まあ、それはしょうがないな。適宜言うしかないか」
「じゃあ、キスしましょう」
「いきなり間違ってるッ!」
がぶあっと抱きついてきたので、全力で抵抗する。
「ぐぐぐ……キスします、キスします!」
「しないから! しないから!」
おでこを押さえつけ、妹の魔の手を防ぐ。ややあって諦めたのか、亜衣はぺたりと座り込んで頬を膨らました。
「ぶー」
「ぶーじゃねえ。あのな、亜衣。さういうことは、好きな人にしなさい」
「亜衣はお兄ちゃんが大好きですよ?」
「いやいや、いやいやいや。そうじゃなくてだな、異性として好きな人に対してすることで」
「亜衣はいつだってお兄ちゃんを性的な目で見てますよ?」
「それはそれで色々問題があるかと思いますが!」
「寝てる間にちゅーとかしていいですか?」
「ダメです!」
「じゃあやっぱり起きてる間に無理やりするしかないです」
再び寄ってきたのでぐぐぐっと抵抗する。
「キスします! させてください!」
「ダメだっての! ええい、なんでお前はやること全部力技なんだ!」
「ほっぺたで! ほっぺたで我慢しますから!」
「……本当だな?」
コクコクと嬉しそうにうなずいたので、ひとまず信じてみることにする。
「あー……じゃあ、まあ、それならいいや。ほれ、ぶちゅーっとしろ」
「亜衣にお任せです」
亜衣は俺の前に回りこむと、ぶちゅー。
「ほっぺって言ったろーが!!!」
慌てて亜衣を引き離す。超びっくりした。
「ああっ、まだ舌を入れてないのに」
「入れるな!!! はぁ……全く、最近の若い子は慣れてるのだか知らないが、恥じらいがなくて困るよ」
「あ、ファーストキスですよ?」
「…………。……そ、そうか」
「お兄ちゃん、照れてます?」
「あー……まあ、人並み程度には」
「お兄ちゃんの恥ずかしがる姿に、亜衣はすっごくドキドキしてますよ? どうしてくれますか?」
「知らんッ!」
ぺとぺとくっついてくる義妹に困る俺だった。