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2024年11月22日
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【かなみは俺の嫁】

2010年09月19日
「若い身空で結婚、それも学生婚とな。ほほう」
 朝食後、コーヒーをごくごく飲みながらぽけーっと呟いてみる。
「ねー、アンタよく何もないところに向かってぶつぶつ呟いてるけど、病気? 脳の」
 人が折角色んな人に分かりやすく俺達の状況を説明しているというのに、俺の嫁であるところのかなみが酷いことを言う。そして色んな人とは誰だ。アレか、俺の脳内劇場に出てくる観客か。じゃあ俺は頭の病気だ。
「そうです」
「あー、やっぱり」
「やっぱりとか言うな」
「あははっ。……あ、あの、違うよね? 本当は病気とかじゃなくて」
「当たり前だろうが。何を心配そうな顔をしてる」
「しっ、心配なんてしてないわよ! た、ただ、本当だったらヤだなーとか、介護大変だなーとか、一緒に出かけらんなくなっちゃうなーとか……」
 言ってる内に想像してしまったのか、かなみの顔がどんどんと暗くなっていく。
「ぐええ」
 そこで、急に泡吹いて倒れてみる。
「!!!!?」
 すると、目に見えてかなみがパニックを起こしたので必死でなだめる。
「嘘です、嘘ですから!」
「う、うそ……?」
 涙目で力なくぺたんと座ってるかなみに、何度もうなずく。
「そ、そーゆー嘘は禁止! ……な、泣いちゃうじゃない、ばか」
「いやはや。ごめんな」
「……おいしいご飯食べさせてくれるなら、ゆるす」
「分かったよ。今度一緒に牛丼食べに行こうな?」
「牛丼!? 女の子連れで!?」
「おいしいよ?」
「お、おいしいけど……デートなんだからもうちょっと気合入れた場所に連れて行きなさいよ!」
「や、そういった場所には疎くて」
「はぁ……今度そういう雑誌買ってくるから、ちゃんと調べること! いいわね!?」
「超めんどくせえ」
「何か言った!?」
「何も言ってないです」(半泣きになりつつ)
「そっ。ならいいのよ」
「でも、かなみの作る飯は美味いので、そこらの店では太刀打ちできないかと」
 これは世辞でもなんでもなく、俺の嫁が作る飯は信じられないくらい美味い。いや最初は正直勘弁してくださいと逃げては殴られるレベルだったが、それを堪えて毎日食ってたら次第に俺好みの味になり、今ではそこらの弁当では吐いちゃうほど。なに、信じられない? じゃあ今すぐ吐いてやる!(今日も電波と会話中)
「こう、うお……ぐええ」
「なにをいきなり吐こうとしてるか!」
 吐瀉物を探そうと口に指を突っ込んでたら、かなみに止められた。
「もー、アンタってばいついかなる時でも訳が分からないわね」
「かなみの飯の美味さを証明しようとしたら、なぜか吐かざるを得ない状況に自ら追い込まれたんだ」
「説明されても分かんないわよ……」
 言われてみると本当だ。俺の思考は謎に包まれていると言えよう。
「そ、それより。……そんなあたしの作るご飯が好きなの?」
「好き。愛してる。結婚してください」
「……も、もうしてる」
 かなみの手を取ったら、そんな恥ずかしい台詞で切り伏せられた。かなみはかなみで顔を赤くして視線をさ迷わせてるし。ええい。
「……う、ううーっ! もうっ! 恥ずかしいじゃないの! 変なこと言わせないでよ、ばかっ!」
「思わぬ展開に俺も驚いてるところだ」
「も、もー。……ばか」
 かなみは俺の手を取り、ちらちらとこちらを見た。そして視線が合うと、ぼしょぼしょと何やら呟き始めた。
「あ、あのさ。……あたしと結婚して、嬉しい?」
「当然」
「……あ、あたしも。……ってぇーっ! 何よ、このむず痒空間! ああもうっ、痒い痒い痒いっ!」
「おまーから始めたんだろーが」
「ううう……あ、ああーっ!?」
「今度は何だ。破水でもしたか?」
「まだ妊娠すらしてないッ! ……た、種はいっぱい仕込まれたケド」
 だから、そういうことを赤い顔でごにょごにょ言うな。
「じゃ、じゃなくて! 時間っ! 遅刻!」
「はっはっは。余裕を持って起床→朝食のコンボを決めたのに遅刻なわけぶくぶくぶく」
「時計見ただけで泡吹くなっ、ばかっ!」
「ぶくぶく……いや、あまりの時間の過ぎっぷりにびっくりして。これは好きな人と一緒にいると時間が早く過ぎてしまうというウラシマ効果に相違ありませんね?」
「ウラシマ効果じゃないけど……そ、そう。す、好きな……ああもうっ! アンタ恥ずかしい台詞言いすぎっ!」
「ゲペルニッチ将軍」
「だからといって全く意味のない台詞を言えってコトじゃないっ!」
「よく俺の言わんとしたことがすぐに分かったな。流石は俺の嫁」
「う……うっさい! そ、そんなこと言われても、別に嬉しくなんてないんだからねっ!」
「今日も俺の嫁は可愛いなあ」
「う……うぅーっ! 可愛いとか言うなッ!」
「分かった、分かりましたから殴らないで。顔の形が変わります」
 この嫁は照れ隠しに人をたくさん殴るので、俺の命が日々危機に晒されるスリル満点の新婚生活と言えよう。普通の新婚生活がいいよ。
「ともかく、遅刻するので行きましょう」
「わ、分かったわよ。それより血拭きなさいよ。血まみれよ」
 ハンケチで顔をぐいぐい拭われると、それだけで血が止まった。この特異な能力があるおかげで今日も僕は生きていられます。ていうか毎日殴られた結果備わってしまったのだけど。
「ん! 今日もいいおと……ぶ、ぶさいくね!」
「旦那に向かって今日も失敬だな、おまいは……」
「う、うっさい! ほら、行くわよ馬鹿!」
 かなみに手を引っ張られ、今日も登校する俺たち夫婦なのだった。

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