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2025年02月05日
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【莉未 コスプレ】
2011年10月10日
家に着くと部屋でちっこいのが寝息を立てている。割とよくある日常だ。しかし、以前このことを友人に言ったら鼻で笑われ「妄想は口に出すな」と言われたので、すぴすぴ言ってるこいつは俺の妄想が作り上げた存在なのかもしれない。
「ん……あー。帰ってきてたんだ、彰人」
しかし、俺の妄想の産物であるはずのコイツは目を覚まし、俺の意思とは関係なく喋りだした。それでもなお妄想と言い張るのか、俺は。
「ん? どしたの、彰人。難しい顔しちゃって」
「んや、なんでもない。ただいま、莉未」
「おかーり」
莉未はごろごろ転がって布団から抜け出すと、そのまま俺の足元まで転がってきた。
「抱っこ」
「へいへい」
両手をこちらに向けてる莉未を抱き上げ、むぎゅーっと抱っこする。ついでに頭もなでてやる。
「んー」
何か唸りながら、莉未は俺の胸に顔をこすりつけている。どうにも猫っぽい。
「頭を動かすない。なでにくいだろ」
「なでなきゃいーじゃん」
「なでないと怒るだろ」
「怒る」
なんてわがままな。いつものことながら、この幼なじみは中々に厄介だ。
「あのさ、彰人。録画してるアニメ一緒に見よう」
「ゲームしたい」
「私はアニメ見たい」
とか言いながら勝手に人のビデオを再生する莉未。俺の意見は往々にして却下されがちです。悲しい。
「ん」
準備を終えると、莉未は部屋の中央に置いてある座布団をぽふぽふと叩いた。そこにあぐらをかいて座ると、次に莉未が俺の膝の上に座る。俺の部屋でのいつもの鑑賞姿勢だ。
「あ、しまった。お茶菓子用意してねえ」
莉未が肩越しに俺を睨む。
「しょうがねえだろ、帰って来て早々にこんなことになるとは思ってなかったんだから。ていうか睨むな。お前目つき悪いんだから怖いんだよ」
このお嬢さんは見た目は可愛いのだが、三白眼のうえ愛嬌がないので知らない人からは怖い人だと思われがちだ。昔はクラスメイトから「莉未さんってヤクザの子なの?」とよく聞かれたものだ。
「生まれつきだからしょうがないもん。そんなのいーから早くお菓子用意してきて」
「スーパーめんどくせえが、分かった」
莉未をその場に置いて、台所に向かう。棚をあさると、食いかけのせんべいを発見。文句言われそうだが……まあいっか。
「えー……おせんべ? ケーキとか食べたい」
戦利品を持って部屋に戻ると、想像通り評判は芳しくなかった。
「贅沢言うない」
むーっとした顔のまま、莉未がせんべいに手を伸ばす。
「う。……湿気てる」
「え? ……うわ、マジだ。ふにゃふにゃだな。あ、莉未。ふにゃふにゃって猫っぽく言って」
ふにゃふにゃという語感が気に入ったので、そんな頭の悪いことを言ってみる。
「なんで? まあいいけど……んと、ふにゃふにゃ」
「うむ。100点」(なでなで)
「意味分かんない」(ちょっと嬉しそう)
その後も数度ふにゃふにゃ言ってから、莉未はビデオの再生ボタンを押した。最近莉未がはまっている魔女っ子モノのアニメだ。ただ、俺はあまり興味がないのでふわあああ。
「…………」
「はい、すいません」
じろりと睨まれたので、真剣なフリをして鑑賞する。
そんなこんなで30分後、番組終了。満足げに莉未が息を吐きつつリモコンを操作してビデオの電源を落とした。
「はぁー……今回も面白かったね!」
「そうですね」
「うー……なんかムズムズしてじっとしてらんない。そだ、コスプレして遊ぼう!」
「勘弁してください」
「服取ってくるから、ちょっと待っててね!」
「繰り返すが、勘弁してください」
俺の懇願など意にも介さず、莉未は部屋から出て行った。ほどなくして、服を二着持って戻ってきた。
「はい、これが彰人の」
俺にゴテゴテした服を渡し、自身も魔女っ子服に着替えだした。
「まあ、コスプレは今更いいとして、幼なじみとはいえ年頃の女性が男の前で着替えるのはどうかと思うぞ」
「? 彰人だもん、家族みたいなもんだからいーよ、別に」
「家族なあ……」
……まあ、今はいいか。
「そんなのいーから早く着替えて!」
「へーへー」
そんなわけで、恥ずかしい服に着替える。莉未も着替え終わったようだ。髪型まで魔女っ子仕様でツインテールになっている。
「んじゃ、いくよ? くらえっ、マジカルキャノン!」
魔女っ子のステッキをこちらに向け、恥ずかしげもなく全力で叫ぶ莉未さん(高校2年生)。これはこちらも全力でいくしかあるまい。
「ぐああああっ! ……くうっ、右腕を持っていかれたか」
「そーゆー風にはなんないの!」
「よく知らないんだ」
「さっきまで一緒に見てたのに! 彰人はあとで要復習ね! んじゃ、もっかい! てーっ、マジカルキャノン!」
「ぐああああっ! ……左腕を根こそぎだと!?」
「腕の種類の問題じゃないの!」
「難しいね」
「難しくないっ!」
などとマジカル棒でぺこぽこ叩かれながらも、楽しくコスプレしました。ただ、本音を言うと、もっと淫靡な方のコスチュームプレイがしたいです。
「ん……あー。帰ってきてたんだ、彰人」
しかし、俺の妄想の産物であるはずのコイツは目を覚まし、俺の意思とは関係なく喋りだした。それでもなお妄想と言い張るのか、俺は。
「ん? どしたの、彰人。難しい顔しちゃって」
「んや、なんでもない。ただいま、莉未」
「おかーり」
莉未はごろごろ転がって布団から抜け出すと、そのまま俺の足元まで転がってきた。
「抱っこ」
「へいへい」
両手をこちらに向けてる莉未を抱き上げ、むぎゅーっと抱っこする。ついでに頭もなでてやる。
「んー」
何か唸りながら、莉未は俺の胸に顔をこすりつけている。どうにも猫っぽい。
「頭を動かすない。なでにくいだろ」
「なでなきゃいーじゃん」
「なでないと怒るだろ」
「怒る」
なんてわがままな。いつものことながら、この幼なじみは中々に厄介だ。
「あのさ、彰人。録画してるアニメ一緒に見よう」
「ゲームしたい」
「私はアニメ見たい」
とか言いながら勝手に人のビデオを再生する莉未。俺の意見は往々にして却下されがちです。悲しい。
「ん」
準備を終えると、莉未は部屋の中央に置いてある座布団をぽふぽふと叩いた。そこにあぐらをかいて座ると、次に莉未が俺の膝の上に座る。俺の部屋でのいつもの鑑賞姿勢だ。
「あ、しまった。お茶菓子用意してねえ」
莉未が肩越しに俺を睨む。
「しょうがねえだろ、帰って来て早々にこんなことになるとは思ってなかったんだから。ていうか睨むな。お前目つき悪いんだから怖いんだよ」
このお嬢さんは見た目は可愛いのだが、三白眼のうえ愛嬌がないので知らない人からは怖い人だと思われがちだ。昔はクラスメイトから「莉未さんってヤクザの子なの?」とよく聞かれたものだ。
「生まれつきだからしょうがないもん。そんなのいーから早くお菓子用意してきて」
「スーパーめんどくせえが、分かった」
莉未をその場に置いて、台所に向かう。棚をあさると、食いかけのせんべいを発見。文句言われそうだが……まあいっか。
「えー……おせんべ? ケーキとか食べたい」
戦利品を持って部屋に戻ると、想像通り評判は芳しくなかった。
「贅沢言うない」
むーっとした顔のまま、莉未がせんべいに手を伸ばす。
「う。……湿気てる」
「え? ……うわ、マジだ。ふにゃふにゃだな。あ、莉未。ふにゃふにゃって猫っぽく言って」
ふにゃふにゃという語感が気に入ったので、そんな頭の悪いことを言ってみる。
「なんで? まあいいけど……んと、ふにゃふにゃ」
「うむ。100点」(なでなで)
「意味分かんない」(ちょっと嬉しそう)
その後も数度ふにゃふにゃ言ってから、莉未はビデオの再生ボタンを押した。最近莉未がはまっている魔女っ子モノのアニメだ。ただ、俺はあまり興味がないのでふわあああ。
「…………」
「はい、すいません」
じろりと睨まれたので、真剣なフリをして鑑賞する。
そんなこんなで30分後、番組終了。満足げに莉未が息を吐きつつリモコンを操作してビデオの電源を落とした。
「はぁー……今回も面白かったね!」
「そうですね」
「うー……なんかムズムズしてじっとしてらんない。そだ、コスプレして遊ぼう!」
「勘弁してください」
「服取ってくるから、ちょっと待っててね!」
「繰り返すが、勘弁してください」
俺の懇願など意にも介さず、莉未は部屋から出て行った。ほどなくして、服を二着持って戻ってきた。
「はい、これが彰人の」
俺にゴテゴテした服を渡し、自身も魔女っ子服に着替えだした。
「まあ、コスプレは今更いいとして、幼なじみとはいえ年頃の女性が男の前で着替えるのはどうかと思うぞ」
「? 彰人だもん、家族みたいなもんだからいーよ、別に」
「家族なあ……」
……まあ、今はいいか。
「そんなのいーから早く着替えて!」
「へーへー」
そんなわけで、恥ずかしい服に着替える。莉未も着替え終わったようだ。髪型まで魔女っ子仕様でツインテールになっている。
「んじゃ、いくよ? くらえっ、マジカルキャノン!」
魔女っ子のステッキをこちらに向け、恥ずかしげもなく全力で叫ぶ莉未さん(高校2年生)。これはこちらも全力でいくしかあるまい。
「ぐああああっ! ……くうっ、右腕を持っていかれたか」
「そーゆー風にはなんないの!」
「よく知らないんだ」
「さっきまで一緒に見てたのに! 彰人はあとで要復習ね! んじゃ、もっかい! てーっ、マジカルキャノン!」
「ぐああああっ! ……左腕を根こそぎだと!?」
「腕の種類の問題じゃないの!」
「難しいね」
「難しくないっ!」
などとマジカル棒でぺこぽこ叩かれながらも、楽しくコスプレしました。ただ、本音を言うと、もっと淫靡な方のコスチュームプレイがしたいです。
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【ツンデレがストーカー被害に遭ったら】
2011年09月14日
授業も終わったのでさあ帰ろうと思ったら、先に帰ったはずのかなみが教室に戻ってきた。はて一体どうしたのだろうと様子をうかがっていると、まっすぐこちらにやって来た。
「ちょっと来なさい」
「今日は怒られることしてませんよ? それとも存在しているだけで怒られるレベルにまで達したの? 怪獣レベルですね!」
「いーから早く来い!」
怒られたので素直について行く。しかし、今日は本当に大人しくしていたので怒られる理由が浮かばない。……まさか、なんかとなくむしゃくしゃしたから難癖つけて俺を殴るつもりか? なんて酷い奴だ!
ぷんぷんしながら付いていくと、空き教室に連れてこられた。え、誰も見てないところで殴りまくるの? 死ぬよ? ……こうなったら!
「……えっと、それで話なんだけど」
「すいませんでしたっ!」
「……へ?」
先手必勝とばかりにこちらから土下座をしかける。これで毒気を抜かれ、殴られずに済むに違いない!
「……えーと。アンタなんかやったの?」
「いや、何も。いつものように理不尽な暴力が降りかかると思い、先手を打っただけだ」
「理不尽って何よ! んなことしたことないわよ!」
土下座したのに頭をぺこぽこ叩かれた。解せぬ。
「で、殴るんじゃなけりゃ、何の用だ? 人目を忍んでるんだから、それなりの用だろ?」
もう土下座する理由はないので立ち上がり、教室の隅に固められてる机に寄りかかる。
「う……アンタ、無駄に察しがいいのね。頭悪いのに」
「俺は別に帰ってもいいんだが」
「あ、ウソウソ! えっとね、ちょっと頼みがあるの」
「珍しいな。俺に出来ることか?」
「……えーと、アンタにしかできないっていうか」
「? 歯切れ悪いな。ばびっと言え!」
「……ああもうっ! アンタあたしと付き合いなさいっ!」
…………。ほう。
「なっ、何を無言で赤くなってんのよ! ちっ、違うわよ! そーゆうんじゃないわよ! 誰がアンタなんかと!」
「だよな。あーびっくりした」
「(……何で素直に納得してるのよ、馬鹿!)」
「はい? 何か言いました?」
「何も言ってないわよッ!」
「はいすいません、はいすいません!」
なんか超怒られた。怖い。
「ったく、馬鹿。あのさ、あたしってモテるでしょ?」
「あー。性格はともかく、外面はいいからな。猫かぶり姫とでも命名しようか?」
「うるさい。まーそーゆーわけだから、モテてモテて。毎日ラブレターもらうのよ」
「自慢話しにきたのか? そういうの聞くのは得意じゃないのですが、我慢して聞かないといけないの? 一刻も早く帰りてえ」
「いいから黙って聞きなさい! そうやってもらうラブレターの中に、ちょっと変なのが混じっててね」
何やら話がマズイ方向に行ってる気がする。
「その……あたしの盗撮写真、みたいなのが入ってて」
「分かった、犯人を見つけ出して殺す」
「違うっ! 落ち着け! 何を真顔で言ってんのよ!」
「大丈夫だ、社会的に抹殺するだけだ。もちろん骨の一本や二本は覚悟してもらうが」
「ダメだってのっ! 相手は女の子よっ!」
「女だろうが何だろうが……え? おんな? ストーカーが?」
「そうよ。それに、盗撮って言っても、えっちなのじゃなくて、登校中のあたしとか、普段着のあたしが映ってるだけだから」
「そ、そなのか。それならそこまでしなくてもいいか」
「う、うん。……その、アリガト」
「や。その。なんというか、友人が辱められるのは耐え難いからな。まあ今回は相手が女で被害も軽微なようだからアレだけど」
「……え、えいっ」
何やら鼻をむぎゅーっとつままれた。
「何をする」(鼻声)
「うっ、うるさいっ! なんかしたくなっただけ!」
「変な奴」(鼻声)
「アンタには言われたくないっ! ……そ、それでね。そういう写真と一緒に、いつも見てますって手紙が入ってて、ちょっと怖くて……」
「……ふむ」
確かに、知らない奴に監視されてるなんて恐怖以外の何者でもないだろう。
「分かった。それで、俺はどうしたらいい? そのストーカー女とお前がレズってる所を写真に収めればいいのか?」
殴られたので、違うみたい。
「だから、最初に言ったとおり、あたしと付き合うフリをしてほしいの」
「フリか」
「フリよ。当たり前じゃない。誰がアンタなんかと本気で付き合うってのよ」
「そりゃそうだ。わはははは!」
なんかまた殴られた。
「なんで?」
「うっさい! 馬鹿!」
「解せぬ」
「うるさいうるさいうるさいっ! とにかくっ、アンタと付き合ってるって噂が立てば、その子も引き下がるでしょ? そーゆーわけだから、今からあたしとアンタは恋人同士! いいわねっ!?」
「はい」
本当はよくないけど、とても怖かったのでうなずく俺を君は責められるだろうか。
「そっ。……じゃ、じゃあ、一緒に帰ろっか。ほら、恋人同士だし」
「あ、いや、今日は俺本屋に寄るつもりだから別々の方が」
「恋人同士だし、一緒に、帰るわよね?」
「はい」
仮とはいえ、恋人になった瞬間に尻に敷かれる俺を君はどう思うか。
「うんっ、素直でいいわね♪」
「しかし、恋人か……。そだ、せっかくだし、おてて繋ぐか? なーん……」
「えっ!? ……そ、そうね、恋人だもんね」
ちゃって、という声を出す前に、そっとかなみが手を出してきた。
「な、何してんのよ。早く手繋ぎなさいよ、ばか」
なんて、軽くうつむきながら、真っ赤な顔で、ちょっと拗ねたみたいに言うんですの。
「なんかもう信じらんないくらい可愛いので顔を舐めていいですか?」
「アンタ絶対わざとでしょ!」
べしべし叩かれましたの。
とはいえ手は繋ぐみたいで、学校の廊下を手を繋いだまま歩いています。
「やー、しかし、なんと言うか……大変恥ずかしいですね!」
「う、うるさい。こっちだって恥ずかしいの我慢してるんだから、アンタも我慢しなさいよね。……て、ていうか、嘘とはいえ、アンタと恋人なんて最悪なんだけど」
「ごめんなさい」
「なんでアンタが謝んのよッ! あたしから頼んでるのにッ!」
「不思議だね」
「全然思ってない! ていうかあにうっすら笑ってんのよ! 怒れ、この馬鹿!」
「なんで俺が頬をつねられてるの?」
などとイチャイチャ(?)しながら歩いてると、下駄箱に着いた。しかし、かなみは手を離そうとしない。
「あの、かなみさん。手を離さないと靴を履き替えられないのですが」
「わ、分かってるわよ馬鹿。……あの、あとでもっかい繋ぐよね?」(ちょこんと小首を傾げながら)
「うーん。やっぱ舐めていいですか?」
なんか知らんが涙目のかなみに頬をつねられてから、靴を履き替える。履き終わると、ちょこちょこっとかなみが寄ってきて、すぐに手を繋いできた。
「ど、どこから例の子が見てるか分かんないから。外にいる時はずっと恋人のフリしないと」
「あー、確かにお前に気づかれずに隠し撮りしてるくらいだから、ひょっとしたら今も見てるかもしれんなあ」
「そ、そーゆーわけだから、手繋ぐの。……別にアンタと手繋ぎたいわけじゃないから。勘違いしないでよね」
「するわけないだろ」
またしても涙目のかなみに頬をぎうぎう何故か引っ張られる。
「アンタ本当はあたしのこと嫌いでしょ!?」
「いやいや。一方的に嫌われてはいるが、俺はかなみのこと嫌いじゃないぞ?」
「うぐっ」
一瞬にしてかなみの顔が真っ赤になった。
「や。その。もちろん、友達としてデスヨ?」
「わ、分かってるわよ! 当然よ! ……こ、こっち見るな、ばか!」
またしても鼻をつままれた。
「や、そんなことをされては、そちらを見ざるを得ない」(鼻声)
「う、うるさいっ! ばかっ!」
そんなことをしながら一緒に下校。
「はー……なんだって校門をくぐるだけでこんな疲れなくちゃいけないのよ」
「ま、ストーカーが諦めるまでだ。我慢しろ。……あ、そういや、家の中は大丈夫か? 盗撮とか」
「あー、それは流石にだいじょ……」
途中まで言いかけた所で、急にかなみの動きが止まった。どうしたのだろうか。
「……や、やっぱダメかも」
どういうわけか、かなみは真っ赤になりながらダメと訴えかけた。
「マジか。うーん、こうなったらそういう業者に頼んで隠しカメラとか探してもらうしかないかなあ?」
「あ、そ、それは大丈夫。窓から望遠で撮ってるみたいだから」
「あ、そうなのか。んじゃカーテン閉めれば大丈夫だな」
「で、でも、見せ付けるのが目的だから、今日はアンタあたしの家に来なさい。そこでストーカーに見せ付けるの」
「え。……あの、何を?」
「……い、色々」
「いろいろ……」
そりゃ、恋人同士の色々と言ったら、ピンクいのがメインでしょう。
「な、何変なこと考えてんのよっ! えっちなのは禁止だからねっ!」
かなみは頬を染めながら先手を打った。
「今の一言で生きる希望が潰えた」
「やっぱか! この変態めっ! ……そ、そんなにえっちなのはやらせるわけないでしょ、ばかっ!」
「そんなに?」
「ち、ちょっとくらいなら別に。……す、すりすりとか、なでなでとか。……ほっ、ほら、こっちから頼んでるんだから、それくらいのサービスはしないとねっ!?」
「は、はい」
なんだかすごい勢いだったので深く考えずにうなずいたが、よかったのだろうか。
「そ、そう。……じゃ、じゃあ、今日はうちに来なさいよね」
「いかん、なんかもう興奮してきた」
「イチイチ言うなっ、ばかっ!」
ぺこぽこ叩かれながらも、かなみの家に到着。かなみのおばさんにからかわれつつも、どうにか二階に上がることに成功。はひぃ。
「あ、着替えるから廊下で待ってて。覗いたら殺すから」
死ぬのは嫌なので廊下で大人しく待ってると、かなみが顔を出した。
「き、着替え終わったから。入っていいわよ」
ということなので、部屋に入る。かなみはベッドの上にちょこんと座っていた。
「す、好きなとこに座っていいから」
「あ、ああ」
流石にかなみの隣というわけにもいかないので、部屋の中央に置かれたクッションの上に座る。と、かなみの俺の隣にすすすーっと寄ってきた。
「……な、何よ。恋人なんだからこのくらいの距離普通でしょ?」
「分かりません」
「普通なの! ……あ、あたしもよく知んないけど」
とか言いながら、かなみは俺の手を握り、それどころか俺の肩に頭を預けましたよ!?
「これは大変にいけない! ああもう、俺の中の何かが溢れてきそうだ!」
「う、うるさい! 興奮するな、ばか! フリよ、フリ!」
「分かってます、分かってはいるんですが! ああもうなんか幸せすぎて俺は今日死ぬかもしれない」
「おおげさっ! ……て、ていうか、幸せとか嘘っぽい」
「なんで?」
「な、なんでって……ああもうっ、不思議そうな顔するなっ、ばかっ!」
「痛え」
がじがじと肩を噛まれた。まあ、甘噛みなのでさほど痛くはなかったけど。
「そ、そんなことより、他にも色々しなさいよね」
「い、色々とは?」
「だ、抱っことか、すりすりとか、なでなでとか。……い、一般論よ!? 一般論として、恋人にやってほしいことを羅列しただけっ!」
抱っこはともかく、なでなで等は恋人にもあまりしないと思う。
「うぅー……」
が、してほしそうな感が強かったので、なでてみた。
「……もっといっぱいなでなさいよ、ばか。強さはそれくらいでいーから。もっといっぱい」
「はいはい」
「はいは一回! あと、抱っことかもしろ。後ろからね。抱っこね。むぎゅーってね」
気のせいか、どこか幼くなってきている気がする。とはいえ、その要求にNOを突きつける理由などない。後ろからかなみを抱きかかる。
「う、うぅー……。ね、ねぇ、あたしのこと好き?」
「…………。ええっと。これは恋人のフリをしている状態で答えればいいのでせうか」
「べ、別に。どっちでも。アンタがあたしを好きだろうが嫌いだろうが、あたしの人生には全く関係ないし」
「そうか。なれば応えよう、その心意気に! ええと、実は嫌いじゃないどころか、物凄く好きです」
「~~~~~~~~っ!!!」
「痛い痛い痛い」
かなみは突然俺の腕をがぶがぶ噛んだ。足もドンドン床に叩きつけている。一寸怖い。
「ど、どっちよ! 演技の方、本音の方!?」
「お前の人生には全く関係ないんじゃねーのか」
「いーから! 答えろ!」
「秘密です」
「顔赤いから本音の方! 本音の方よね!?」
「顔赤いのはお前だ。そして、秘密だと言っています」
「本音だって言え!」
「怖いです」
「んなことは聞いてないッ!」
思ったことを言ったら怒られた。
「うぐぐぐ……がぅーっ!」
かなみは妙な叫び声をあげると、くるりと身体を180度回転させた。つまり、俺と抱き合う形になったわけなのだが。
「ま、間違えたの! 間違えたからしょーがないの!」
「何が」
「分かんない!」
ほら見なさい、これが混乱です。
「分かんないから、あたしを抱っこしろ!」
「この状態で? 姫様も無茶を言う」
「いーから! やんないと殺す!」
「はい」
そんなわけで、向き合った状態でかなみを抱っこする。大変柔らかいうえ、ものすごくいい匂いまでしやがる。人生の幸運をとんでもない勢いで消費してるような気がする。
「うぅ……なんか頭クラクラするぅ……。……もーっ、なんなのよっ!」
「何が」
「ふつーの顔がムカツク! アンタは慣れてるかもしんないけど、こっちは初めてなのよっ! ちょっとは気使いなさいよっ!」
「ものすごくえろい台詞ですね!」
ぺこぽこ殴られた。
「一応訂正しておくが、女性を抱っこするなんてこっちも初めてだぞ」
「そ、そなんだ。……は、初めてどーしだ」
だから、どうしてお前はそういうことをはにかみながら言いやがりますか。
「わっ! ものすっごい嬉しそう! ニヤニヤしてる! 顔も赤いし! ばかみたい!」
「馬鹿とか言うな。一応俺も人間なんで、嬉しいとニヤけちまうんだよ」
「えっへっへー、一緒だ一緒ー♪」
かなみは俺に頬擦りしまくりながら、ご機嫌な様子で節をつけて言った。
「ものっそいご機嫌ですね」
「な、何言ってんのよ。そんなことないわよ。アンタなんかとくっついてなくちゃいけないんだもん。不本意よ、不本意」
などと言っている今現在も、かなみは依然俺にべそーっと抱きついており、説得力は皆無と言っていいだろう。
「ほら、手が止まってる。もっとなでなでしろ」
「はいはい」
こんな感じのことをしていたら一瞬で夜になった。どういうことだ。
「はぅ、はぅぅ……」
かなみはなでられすぎて頭がおかしくなったのか、俺に抱きついたままはぅはぅ言ってる。
「あの、そろそろ帰らないといけないのだけど……かなみ? 聞いてる?」
「んー?」
「だから、夜なので、帰らないと、いけないんです」
「んふー……。……ん?」
「いかん、脳のメルトダウンが一向に治まりやしねえ」(なでなで)
「んー♪」
「まあいっか。そういうことで、帰るな」
「ん?」
すっくと立ち上がると、俺の膝に乗ってたかなみはその場にころんと倒れた。
「あうっ。……えっ、あっ? 嘘、もうこんな時間!? どういうことよっ!」
「なんで怒られてるの?」
ようやっと目が覚めたのか、かなみはいつもの調子で俺を怒鳴った。
「ま、今日の様子をストーカーが見てたんならもう大丈夫だろ。そゆわけで、俺は帰るな。ばいばーい」
「う、うん。……あの、明日もよろしくね」
なんか今変な言葉聞きましたよ?
「あの。俺の話聞いてました?」
「し、しつこいから! ストーカーはしつこいから! 最低でも一週間……ううん、二週間……いや、一ヶ月は毎日やんないと。今日みたいなの」
一ヶ月毎日かなみとすりすりイチャイチャ地獄ですか。なんという生殺し。死ぬよ、俺?
「……あによ。嫌なの?」
「いや、そういうことじゃなくて、別の心配をですね」
「……嫌なら別にいいわよ。あ、アンタなんかいなくても、全然へーきだし」(半泣き)
「お前はもう少しその武器の威力を考えた方がいい」
「わっ、ひゃっ!?」
あまりの威力に堪らずかなみを抱っこしつつ頭をなでる。
「え、えーっと。これはその、明日もいいってコト?」
「そゆこと」
「そ、そう。ま、まあ、ストーカーが諦めるまでの辛抱よね。あーあ、アンタなんかと恋人のフリしなきゃなんなんて、本当最悪よね」
「まあ、一ヶ月の我慢ですよ」
「……ひ、ひょっとしたら一ヶ月じゃ諦めないかもしんないから、二ヶ月くらいやんないとダメかも」
「…………」
「さ、三ヶ月カナ?」
「……まあ、いいや。俺でよければ、何ヶ月でも付き合うぞ」
「そ、そう。まあ、あたしと付き合えるんだから、そんなの当然よね?」
「なんて傲岸不遜な。明日嫌というほど抱っこしてやる」
「じゃ、じゃああたしは対抗して、嫌ってほどアンタのほっぺをぺろぺろしてやるもん!」
「誤ってキスしそうですね!」
「し、しないわよ。……えっち」
どうして頬を染めながら満更でもない感じでそんなことを言うのですか!!!
「ああもう結婚してえなあ!!!」
「ひっ、人の家でなに叫んでんのよ、ばかっ!」
あまりに可愛かったので思わず叫んでしまった。ここかなみの家なのに。
戦々恐々しながら家を出る。幸いにしておじさんはまだきたくしてなかったようだ。よかった。とまれ、今日はこれで終わり。かなみと一緒に家を出る。お見送りしてくれるらしい。
「んじゃ明日な。お休みー」
「う、うん。お休み。またね。明日ね」
ちっちゃく手をパタパタ振るかなみに見送られ、俺は家路に就くのだった。とか思ったらケータイが震えだした。かなみからメールだ。
『今日はアリガト。あと、結婚とか無理。大人になってからじゃないと無理。いっぱい稼いでくれないと無理。最悪共働きとか無理。日本式とキリスト教式とどっちがいい?』
全体的におかしい。最後特におかしい。とはいえかなみも疲れているのだろう、責めるのは酷か。俺は無難な返事だけしておくのだった。
で、翌日。
「昨日のメール嘘だから! あの時頭おかしくなってたから!」
登校するなりかなみがよってきて真っ赤な顔でぎゃんぎゃん言ってきて困った。
「分かってる、分かってるから」
「そ、そう。……で、アンタ日本式とキリスト教式とどっちがいいのよ」
「ヤベェ、こいつまだ頭おかしい!」
涙目で俺をつねるかなみでした。
「ちょっと来なさい」
「今日は怒られることしてませんよ? それとも存在しているだけで怒られるレベルにまで達したの? 怪獣レベルですね!」
「いーから早く来い!」
怒られたので素直について行く。しかし、今日は本当に大人しくしていたので怒られる理由が浮かばない。……まさか、なんかとなくむしゃくしゃしたから難癖つけて俺を殴るつもりか? なんて酷い奴だ!
ぷんぷんしながら付いていくと、空き教室に連れてこられた。え、誰も見てないところで殴りまくるの? 死ぬよ? ……こうなったら!
「……えっと、それで話なんだけど」
「すいませんでしたっ!」
「……へ?」
先手必勝とばかりにこちらから土下座をしかける。これで毒気を抜かれ、殴られずに済むに違いない!
「……えーと。アンタなんかやったの?」
「いや、何も。いつものように理不尽な暴力が降りかかると思い、先手を打っただけだ」
「理不尽って何よ! んなことしたことないわよ!」
土下座したのに頭をぺこぽこ叩かれた。解せぬ。
「で、殴るんじゃなけりゃ、何の用だ? 人目を忍んでるんだから、それなりの用だろ?」
もう土下座する理由はないので立ち上がり、教室の隅に固められてる机に寄りかかる。
「う……アンタ、無駄に察しがいいのね。頭悪いのに」
「俺は別に帰ってもいいんだが」
「あ、ウソウソ! えっとね、ちょっと頼みがあるの」
「珍しいな。俺に出来ることか?」
「……えーと、アンタにしかできないっていうか」
「? 歯切れ悪いな。ばびっと言え!」
「……ああもうっ! アンタあたしと付き合いなさいっ!」
…………。ほう。
「なっ、何を無言で赤くなってんのよ! ちっ、違うわよ! そーゆうんじゃないわよ! 誰がアンタなんかと!」
「だよな。あーびっくりした」
「(……何で素直に納得してるのよ、馬鹿!)」
「はい? 何か言いました?」
「何も言ってないわよッ!」
「はいすいません、はいすいません!」
なんか超怒られた。怖い。
「ったく、馬鹿。あのさ、あたしってモテるでしょ?」
「あー。性格はともかく、外面はいいからな。猫かぶり姫とでも命名しようか?」
「うるさい。まーそーゆーわけだから、モテてモテて。毎日ラブレターもらうのよ」
「自慢話しにきたのか? そういうの聞くのは得意じゃないのですが、我慢して聞かないといけないの? 一刻も早く帰りてえ」
「いいから黙って聞きなさい! そうやってもらうラブレターの中に、ちょっと変なのが混じっててね」
何やら話がマズイ方向に行ってる気がする。
「その……あたしの盗撮写真、みたいなのが入ってて」
「分かった、犯人を見つけ出して殺す」
「違うっ! 落ち着け! 何を真顔で言ってんのよ!」
「大丈夫だ、社会的に抹殺するだけだ。もちろん骨の一本や二本は覚悟してもらうが」
「ダメだってのっ! 相手は女の子よっ!」
「女だろうが何だろうが……え? おんな? ストーカーが?」
「そうよ。それに、盗撮って言っても、えっちなのじゃなくて、登校中のあたしとか、普段着のあたしが映ってるだけだから」
「そ、そなのか。それならそこまでしなくてもいいか」
「う、うん。……その、アリガト」
「や。その。なんというか、友人が辱められるのは耐え難いからな。まあ今回は相手が女で被害も軽微なようだからアレだけど」
「……え、えいっ」
何やら鼻をむぎゅーっとつままれた。
「何をする」(鼻声)
「うっ、うるさいっ! なんかしたくなっただけ!」
「変な奴」(鼻声)
「アンタには言われたくないっ! ……そ、それでね。そういう写真と一緒に、いつも見てますって手紙が入ってて、ちょっと怖くて……」
「……ふむ」
確かに、知らない奴に監視されてるなんて恐怖以外の何者でもないだろう。
「分かった。それで、俺はどうしたらいい? そのストーカー女とお前がレズってる所を写真に収めればいいのか?」
殴られたので、違うみたい。
「だから、最初に言ったとおり、あたしと付き合うフリをしてほしいの」
「フリか」
「フリよ。当たり前じゃない。誰がアンタなんかと本気で付き合うってのよ」
「そりゃそうだ。わはははは!」
なんかまた殴られた。
「なんで?」
「うっさい! 馬鹿!」
「解せぬ」
「うるさいうるさいうるさいっ! とにかくっ、アンタと付き合ってるって噂が立てば、その子も引き下がるでしょ? そーゆーわけだから、今からあたしとアンタは恋人同士! いいわねっ!?」
「はい」
本当はよくないけど、とても怖かったのでうなずく俺を君は責められるだろうか。
「そっ。……じゃ、じゃあ、一緒に帰ろっか。ほら、恋人同士だし」
「あ、いや、今日は俺本屋に寄るつもりだから別々の方が」
「恋人同士だし、一緒に、帰るわよね?」
「はい」
仮とはいえ、恋人になった瞬間に尻に敷かれる俺を君はどう思うか。
「うんっ、素直でいいわね♪」
「しかし、恋人か……。そだ、せっかくだし、おてて繋ぐか? なーん……」
「えっ!? ……そ、そうね、恋人だもんね」
ちゃって、という声を出す前に、そっとかなみが手を出してきた。
「な、何してんのよ。早く手繋ぎなさいよ、ばか」
なんて、軽くうつむきながら、真っ赤な顔で、ちょっと拗ねたみたいに言うんですの。
「なんかもう信じらんないくらい可愛いので顔を舐めていいですか?」
「アンタ絶対わざとでしょ!」
べしべし叩かれましたの。
とはいえ手は繋ぐみたいで、学校の廊下を手を繋いだまま歩いています。
「やー、しかし、なんと言うか……大変恥ずかしいですね!」
「う、うるさい。こっちだって恥ずかしいの我慢してるんだから、アンタも我慢しなさいよね。……て、ていうか、嘘とはいえ、アンタと恋人なんて最悪なんだけど」
「ごめんなさい」
「なんでアンタが謝んのよッ! あたしから頼んでるのにッ!」
「不思議だね」
「全然思ってない! ていうかあにうっすら笑ってんのよ! 怒れ、この馬鹿!」
「なんで俺が頬をつねられてるの?」
などとイチャイチャ(?)しながら歩いてると、下駄箱に着いた。しかし、かなみは手を離そうとしない。
「あの、かなみさん。手を離さないと靴を履き替えられないのですが」
「わ、分かってるわよ馬鹿。……あの、あとでもっかい繋ぐよね?」(ちょこんと小首を傾げながら)
「うーん。やっぱ舐めていいですか?」
なんか知らんが涙目のかなみに頬をつねられてから、靴を履き替える。履き終わると、ちょこちょこっとかなみが寄ってきて、すぐに手を繋いできた。
「ど、どこから例の子が見てるか分かんないから。外にいる時はずっと恋人のフリしないと」
「あー、確かにお前に気づかれずに隠し撮りしてるくらいだから、ひょっとしたら今も見てるかもしれんなあ」
「そ、そーゆーわけだから、手繋ぐの。……別にアンタと手繋ぎたいわけじゃないから。勘違いしないでよね」
「するわけないだろ」
またしても涙目のかなみに頬をぎうぎう何故か引っ張られる。
「アンタ本当はあたしのこと嫌いでしょ!?」
「いやいや。一方的に嫌われてはいるが、俺はかなみのこと嫌いじゃないぞ?」
「うぐっ」
一瞬にしてかなみの顔が真っ赤になった。
「や。その。もちろん、友達としてデスヨ?」
「わ、分かってるわよ! 当然よ! ……こ、こっち見るな、ばか!」
またしても鼻をつままれた。
「や、そんなことをされては、そちらを見ざるを得ない」(鼻声)
「う、うるさいっ! ばかっ!」
そんなことをしながら一緒に下校。
「はー……なんだって校門をくぐるだけでこんな疲れなくちゃいけないのよ」
「ま、ストーカーが諦めるまでだ。我慢しろ。……あ、そういや、家の中は大丈夫か? 盗撮とか」
「あー、それは流石にだいじょ……」
途中まで言いかけた所で、急にかなみの動きが止まった。どうしたのだろうか。
「……や、やっぱダメかも」
どういうわけか、かなみは真っ赤になりながらダメと訴えかけた。
「マジか。うーん、こうなったらそういう業者に頼んで隠しカメラとか探してもらうしかないかなあ?」
「あ、そ、それは大丈夫。窓から望遠で撮ってるみたいだから」
「あ、そうなのか。んじゃカーテン閉めれば大丈夫だな」
「で、でも、見せ付けるのが目的だから、今日はアンタあたしの家に来なさい。そこでストーカーに見せ付けるの」
「え。……あの、何を?」
「……い、色々」
「いろいろ……」
そりゃ、恋人同士の色々と言ったら、ピンクいのがメインでしょう。
「な、何変なこと考えてんのよっ! えっちなのは禁止だからねっ!」
かなみは頬を染めながら先手を打った。
「今の一言で生きる希望が潰えた」
「やっぱか! この変態めっ! ……そ、そんなにえっちなのはやらせるわけないでしょ、ばかっ!」
「そんなに?」
「ち、ちょっとくらいなら別に。……す、すりすりとか、なでなでとか。……ほっ、ほら、こっちから頼んでるんだから、それくらいのサービスはしないとねっ!?」
「は、はい」
なんだかすごい勢いだったので深く考えずにうなずいたが、よかったのだろうか。
「そ、そう。……じゃ、じゃあ、今日はうちに来なさいよね」
「いかん、なんかもう興奮してきた」
「イチイチ言うなっ、ばかっ!」
ぺこぽこ叩かれながらも、かなみの家に到着。かなみのおばさんにからかわれつつも、どうにか二階に上がることに成功。はひぃ。
「あ、着替えるから廊下で待ってて。覗いたら殺すから」
死ぬのは嫌なので廊下で大人しく待ってると、かなみが顔を出した。
「き、着替え終わったから。入っていいわよ」
ということなので、部屋に入る。かなみはベッドの上にちょこんと座っていた。
「す、好きなとこに座っていいから」
「あ、ああ」
流石にかなみの隣というわけにもいかないので、部屋の中央に置かれたクッションの上に座る。と、かなみの俺の隣にすすすーっと寄ってきた。
「……な、何よ。恋人なんだからこのくらいの距離普通でしょ?」
「分かりません」
「普通なの! ……あ、あたしもよく知んないけど」
とか言いながら、かなみは俺の手を握り、それどころか俺の肩に頭を預けましたよ!?
「これは大変にいけない! ああもう、俺の中の何かが溢れてきそうだ!」
「う、うるさい! 興奮するな、ばか! フリよ、フリ!」
「分かってます、分かってはいるんですが! ああもうなんか幸せすぎて俺は今日死ぬかもしれない」
「おおげさっ! ……て、ていうか、幸せとか嘘っぽい」
「なんで?」
「な、なんでって……ああもうっ、不思議そうな顔するなっ、ばかっ!」
「痛え」
がじがじと肩を噛まれた。まあ、甘噛みなのでさほど痛くはなかったけど。
「そ、そんなことより、他にも色々しなさいよね」
「い、色々とは?」
「だ、抱っことか、すりすりとか、なでなでとか。……い、一般論よ!? 一般論として、恋人にやってほしいことを羅列しただけっ!」
抱っこはともかく、なでなで等は恋人にもあまりしないと思う。
「うぅー……」
が、してほしそうな感が強かったので、なでてみた。
「……もっといっぱいなでなさいよ、ばか。強さはそれくらいでいーから。もっといっぱい」
「はいはい」
「はいは一回! あと、抱っことかもしろ。後ろからね。抱っこね。むぎゅーってね」
気のせいか、どこか幼くなってきている気がする。とはいえ、その要求にNOを突きつける理由などない。後ろからかなみを抱きかかる。
「う、うぅー……。ね、ねぇ、あたしのこと好き?」
「…………。ええっと。これは恋人のフリをしている状態で答えればいいのでせうか」
「べ、別に。どっちでも。アンタがあたしを好きだろうが嫌いだろうが、あたしの人生には全く関係ないし」
「そうか。なれば応えよう、その心意気に! ええと、実は嫌いじゃないどころか、物凄く好きです」
「~~~~~~~~っ!!!」
「痛い痛い痛い」
かなみは突然俺の腕をがぶがぶ噛んだ。足もドンドン床に叩きつけている。一寸怖い。
「ど、どっちよ! 演技の方、本音の方!?」
「お前の人生には全く関係ないんじゃねーのか」
「いーから! 答えろ!」
「秘密です」
「顔赤いから本音の方! 本音の方よね!?」
「顔赤いのはお前だ。そして、秘密だと言っています」
「本音だって言え!」
「怖いです」
「んなことは聞いてないッ!」
思ったことを言ったら怒られた。
「うぐぐぐ……がぅーっ!」
かなみは妙な叫び声をあげると、くるりと身体を180度回転させた。つまり、俺と抱き合う形になったわけなのだが。
「ま、間違えたの! 間違えたからしょーがないの!」
「何が」
「分かんない!」
ほら見なさい、これが混乱です。
「分かんないから、あたしを抱っこしろ!」
「この状態で? 姫様も無茶を言う」
「いーから! やんないと殺す!」
「はい」
そんなわけで、向き合った状態でかなみを抱っこする。大変柔らかいうえ、ものすごくいい匂いまでしやがる。人生の幸運をとんでもない勢いで消費してるような気がする。
「うぅ……なんか頭クラクラするぅ……。……もーっ、なんなのよっ!」
「何が」
「ふつーの顔がムカツク! アンタは慣れてるかもしんないけど、こっちは初めてなのよっ! ちょっとは気使いなさいよっ!」
「ものすごくえろい台詞ですね!」
ぺこぽこ殴られた。
「一応訂正しておくが、女性を抱っこするなんてこっちも初めてだぞ」
「そ、そなんだ。……は、初めてどーしだ」
だから、どうしてお前はそういうことをはにかみながら言いやがりますか。
「わっ! ものすっごい嬉しそう! ニヤニヤしてる! 顔も赤いし! ばかみたい!」
「馬鹿とか言うな。一応俺も人間なんで、嬉しいとニヤけちまうんだよ」
「えっへっへー、一緒だ一緒ー♪」
かなみは俺に頬擦りしまくりながら、ご機嫌な様子で節をつけて言った。
「ものっそいご機嫌ですね」
「な、何言ってんのよ。そんなことないわよ。アンタなんかとくっついてなくちゃいけないんだもん。不本意よ、不本意」
などと言っている今現在も、かなみは依然俺にべそーっと抱きついており、説得力は皆無と言っていいだろう。
「ほら、手が止まってる。もっとなでなでしろ」
「はいはい」
こんな感じのことをしていたら一瞬で夜になった。どういうことだ。
「はぅ、はぅぅ……」
かなみはなでられすぎて頭がおかしくなったのか、俺に抱きついたままはぅはぅ言ってる。
「あの、そろそろ帰らないといけないのだけど……かなみ? 聞いてる?」
「んー?」
「だから、夜なので、帰らないと、いけないんです」
「んふー……。……ん?」
「いかん、脳のメルトダウンが一向に治まりやしねえ」(なでなで)
「んー♪」
「まあいっか。そういうことで、帰るな」
「ん?」
すっくと立ち上がると、俺の膝に乗ってたかなみはその場にころんと倒れた。
「あうっ。……えっ、あっ? 嘘、もうこんな時間!? どういうことよっ!」
「なんで怒られてるの?」
ようやっと目が覚めたのか、かなみはいつもの調子で俺を怒鳴った。
「ま、今日の様子をストーカーが見てたんならもう大丈夫だろ。そゆわけで、俺は帰るな。ばいばーい」
「う、うん。……あの、明日もよろしくね」
なんか今変な言葉聞きましたよ?
「あの。俺の話聞いてました?」
「し、しつこいから! ストーカーはしつこいから! 最低でも一週間……ううん、二週間……いや、一ヶ月は毎日やんないと。今日みたいなの」
一ヶ月毎日かなみとすりすりイチャイチャ地獄ですか。なんという生殺し。死ぬよ、俺?
「……あによ。嫌なの?」
「いや、そういうことじゃなくて、別の心配をですね」
「……嫌なら別にいいわよ。あ、アンタなんかいなくても、全然へーきだし」(半泣き)
「お前はもう少しその武器の威力を考えた方がいい」
「わっ、ひゃっ!?」
あまりの威力に堪らずかなみを抱っこしつつ頭をなでる。
「え、えーっと。これはその、明日もいいってコト?」
「そゆこと」
「そ、そう。ま、まあ、ストーカーが諦めるまでの辛抱よね。あーあ、アンタなんかと恋人のフリしなきゃなんなんて、本当最悪よね」
「まあ、一ヶ月の我慢ですよ」
「……ひ、ひょっとしたら一ヶ月じゃ諦めないかもしんないから、二ヶ月くらいやんないとダメかも」
「…………」
「さ、三ヶ月カナ?」
「……まあ、いいや。俺でよければ、何ヶ月でも付き合うぞ」
「そ、そう。まあ、あたしと付き合えるんだから、そんなの当然よね?」
「なんて傲岸不遜な。明日嫌というほど抱っこしてやる」
「じゃ、じゃああたしは対抗して、嫌ってほどアンタのほっぺをぺろぺろしてやるもん!」
「誤ってキスしそうですね!」
「し、しないわよ。……えっち」
どうして頬を染めながら満更でもない感じでそんなことを言うのですか!!!
「ああもう結婚してえなあ!!!」
「ひっ、人の家でなに叫んでんのよ、ばかっ!」
あまりに可愛かったので思わず叫んでしまった。ここかなみの家なのに。
戦々恐々しながら家を出る。幸いにしておじさんはまだきたくしてなかったようだ。よかった。とまれ、今日はこれで終わり。かなみと一緒に家を出る。お見送りしてくれるらしい。
「んじゃ明日な。お休みー」
「う、うん。お休み。またね。明日ね」
ちっちゃく手をパタパタ振るかなみに見送られ、俺は家路に就くのだった。とか思ったらケータイが震えだした。かなみからメールだ。
『今日はアリガト。あと、結婚とか無理。大人になってからじゃないと無理。いっぱい稼いでくれないと無理。最悪共働きとか無理。日本式とキリスト教式とどっちがいい?』
全体的におかしい。最後特におかしい。とはいえかなみも疲れているのだろう、責めるのは酷か。俺は無難な返事だけしておくのだった。
で、翌日。
「昨日のメール嘘だから! あの時頭おかしくなってたから!」
登校するなりかなみがよってきて真っ赤な顔でぎゃんぎゃん言ってきて困った。
「分かってる、分かってるから」
「そ、そう。……で、アンタ日本式とキリスト教式とどっちがいいのよ」
「ヤベェ、こいつまだ頭おかしい!」
涙目で俺をつねるかなみでした。
【妹の日】
2011年09月06日
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 驚くべきことなんだよ!」
「ぐべっ」
授業も終わったしさあ帰ろうと下駄箱で靴を履き替えてたら、校門から妹のみゆが高速でこちらに走り寄ってきて、なんの躊躇もなくランニングネックブリーカードロップを兄である俺に決めた。
「げほっげほっげほっ……な、何事?」
「驚くことだよ、驚くべきことなんだよ!」
みゆは倒れた兄の上にのっしと跨ると、じーっとこちらの顔を覗きこんできた。
「今の技が?」
「今のはお兄ちゃんに飛びつこうとしたら、勢いがつきすぎてプロレス技になっちゃっただけ! まーよくあることだよ」
「そんなことはないです」
「それよりお兄ちゃん、今はみゆの驚くべき情報を聞いて驚いてはいかがかにゃ?」
「兄は首が痛いうえ、周囲の人にじろじろと見られて非常に居心地が悪いので後にしてほしいのですが」
「あのねあのね! 今日は妹の日なの!」
兄の話なんてちっとも聞かず、妹は満面の笑みで伝えた。
「はぁ、そうなのですか」
「つまり、今日はみゆの日なので、抱っこしなさい!」
「意味が分かりません」
分からないが、両手を出して抱っこしてポーズをされては仕方がない。素直にもふもふしてあげる。
「ふにゃー♪ なんという夢心地!」
「それでみゆさん、そろそろ兄はここから逃げ出したいのですが」
「にゃ?」
依然変わらず周囲の人が物珍しげに兄と妹をじろじろ見ているのですよ。下駄箱ですから、ここ。
「だいじょぶ! みゆは気にならない!」
「いや、兄が気になるのですが」
「ふにゅふにゅ♪」
「チクショウ、この猫妹今日も兄の話をちっとも聞きやしねえ!」
頬をすりすりされてしまい相好を崩したまま叫ぶ兄です。
「とはいえいつまでも下駄箱で寝転がっていてもしょうがないと思い、不屈の精神力でどうにか下校した兄を妹はどう思うか」
「結婚したいと思います!」
兄妹だけあってお互い頭が悪いなあ、と思ったので妹の頭をなでてあげる。
「ふにゃふにゃ」
「んで、妹の日って言ってたけど、具体的にどういう日なんだ?」
「ぐぐれかす!」(満面の笑みで)
「うっうっうっ……」
「はにゃーっ! お兄ちゃんが一切の躊躇なく泣き出した! なんというレア表情! 写真写真!」
ケータイで全方向からパシャパシャ撮られ、兄はもう一体どうすれば。
「写真より慰めてください」
「もう泣き止んじゃったのにゃー……」
「つーかだな、みゆ。汚い言葉はダメです。言葉に引っ張られて性格も容姿も悪くなっちゃうぞ?」
「にゃっ! みゆ、反省! まー、さっきのはネットスラングが出ちゃっただけだよ! 普段は優しい妹なのでだいじょぶなのだよ!」
「優しい、という一文だけが看過できない」
「そんなことないよ! さっきランニングネックブリーカーした時も、お兄ちゃんの首が折れないように注意してたもん! ちょー優しいよ!」
妹の優しさの定義が一般人のそれと乖離しているように思えてならない。
「そんなことより、お兄ちゃん。妹の日ってのは、その年に活躍した妹の功績を称えるらしいよ? 将来はみゆが毎年連続で受賞するに違いないよ!」
「功績って、何をするつもりですか」
「せかいせいふく!」(ぺかーっとした笑顔で)
俺の妹がこんなにマッドなわけがない。
「あの、みゆさん。やめてください」
「だいじょぶだよ! お兄ちゃんはみゆと一緒で、搾取する側だから!」
「いやいや、いやいやいや。世界征服とか勘弁してください」
「ふにゅー……お兄ちゃんがそう言うなら、考え直すよ」
ちょっと残念そうだったが、みゆはそう言ってくれた。こいつなら冗談ではなく本当にやってしまいそうで怖い。
「んじゃ、代わりにお兄ちゃんを征服します!」
そう言うと、みゆは兄の背中に乗り、後ろから頬擦りしだした。
「……ほふー。外でも家の中でも、お兄ちゃんに触れてるとリラックスするよ」
「んじゃ、今日はおんぶで帰るか? 今日は妹の日らしいし、それくらいはサービスするぞ?」
「なんというありがたい提案! 乗るしかない、このびっぐうぇーぶに!」
「普通に答えれ。んじゃ、鞄だけ持っててくれ」
「お任せだよ、お兄ちゃん!」
そんなわけで妹と鞄を背に乗せ、ゆっくり歩き出す。そのまましばらく歩いてると、後ろからかすかな声が聞こえてきた。
「んにゃが……うぅ、振動とお兄ちゃんの暖かさとリラックスの相乗効果で、眠気が史上最大にまっくすだよぅ……」
「ん、寝ちゃうか? 家に着いたら起こすから、そのまま寝ちゃってもいいぞ」
「よろしく……しちゃうのにゃー……」
ほどなくして、妹のすぴゃすぴゃした寝息が聞こえてきた。俺はできるだけ振動を起こさないよう、さらにゆっくり歩くのだった。
「ぐべっ」
授業も終わったしさあ帰ろうと下駄箱で靴を履き替えてたら、校門から妹のみゆが高速でこちらに走り寄ってきて、なんの躊躇もなくランニングネックブリーカードロップを兄である俺に決めた。
「げほっげほっげほっ……な、何事?」
「驚くことだよ、驚くべきことなんだよ!」
みゆは倒れた兄の上にのっしと跨ると、じーっとこちらの顔を覗きこんできた。
「今の技が?」
「今のはお兄ちゃんに飛びつこうとしたら、勢いがつきすぎてプロレス技になっちゃっただけ! まーよくあることだよ」
「そんなことはないです」
「それよりお兄ちゃん、今はみゆの驚くべき情報を聞いて驚いてはいかがかにゃ?」
「兄は首が痛いうえ、周囲の人にじろじろと見られて非常に居心地が悪いので後にしてほしいのですが」
「あのねあのね! 今日は妹の日なの!」
兄の話なんてちっとも聞かず、妹は満面の笑みで伝えた。
「はぁ、そうなのですか」
「つまり、今日はみゆの日なので、抱っこしなさい!」
「意味が分かりません」
分からないが、両手を出して抱っこしてポーズをされては仕方がない。素直にもふもふしてあげる。
「ふにゃー♪ なんという夢心地!」
「それでみゆさん、そろそろ兄はここから逃げ出したいのですが」
「にゃ?」
依然変わらず周囲の人が物珍しげに兄と妹をじろじろ見ているのですよ。下駄箱ですから、ここ。
「だいじょぶ! みゆは気にならない!」
「いや、兄が気になるのですが」
「ふにゅふにゅ♪」
「チクショウ、この猫妹今日も兄の話をちっとも聞きやしねえ!」
頬をすりすりされてしまい相好を崩したまま叫ぶ兄です。
「とはいえいつまでも下駄箱で寝転がっていてもしょうがないと思い、不屈の精神力でどうにか下校した兄を妹はどう思うか」
「結婚したいと思います!」
兄妹だけあってお互い頭が悪いなあ、と思ったので妹の頭をなでてあげる。
「ふにゃふにゃ」
「んで、妹の日って言ってたけど、具体的にどういう日なんだ?」
「ぐぐれかす!」(満面の笑みで)
「うっうっうっ……」
「はにゃーっ! お兄ちゃんが一切の躊躇なく泣き出した! なんというレア表情! 写真写真!」
ケータイで全方向からパシャパシャ撮られ、兄はもう一体どうすれば。
「写真より慰めてください」
「もう泣き止んじゃったのにゃー……」
「つーかだな、みゆ。汚い言葉はダメです。言葉に引っ張られて性格も容姿も悪くなっちゃうぞ?」
「にゃっ! みゆ、反省! まー、さっきのはネットスラングが出ちゃっただけだよ! 普段は優しい妹なのでだいじょぶなのだよ!」
「優しい、という一文だけが看過できない」
「そんなことないよ! さっきランニングネックブリーカーした時も、お兄ちゃんの首が折れないように注意してたもん! ちょー優しいよ!」
妹の優しさの定義が一般人のそれと乖離しているように思えてならない。
「そんなことより、お兄ちゃん。妹の日ってのは、その年に活躍した妹の功績を称えるらしいよ? 将来はみゆが毎年連続で受賞するに違いないよ!」
「功績って、何をするつもりですか」
「せかいせいふく!」(ぺかーっとした笑顔で)
俺の妹がこんなにマッドなわけがない。
「あの、みゆさん。やめてください」
「だいじょぶだよ! お兄ちゃんはみゆと一緒で、搾取する側だから!」
「いやいや、いやいやいや。世界征服とか勘弁してください」
「ふにゅー……お兄ちゃんがそう言うなら、考え直すよ」
ちょっと残念そうだったが、みゆはそう言ってくれた。こいつなら冗談ではなく本当にやってしまいそうで怖い。
「んじゃ、代わりにお兄ちゃんを征服します!」
そう言うと、みゆは兄の背中に乗り、後ろから頬擦りしだした。
「……ほふー。外でも家の中でも、お兄ちゃんに触れてるとリラックスするよ」
「んじゃ、今日はおんぶで帰るか? 今日は妹の日らしいし、それくらいはサービスするぞ?」
「なんというありがたい提案! 乗るしかない、このびっぐうぇーぶに!」
「普通に答えれ。んじゃ、鞄だけ持っててくれ」
「お任せだよ、お兄ちゃん!」
そんなわけで妹と鞄を背に乗せ、ゆっくり歩き出す。そのまましばらく歩いてると、後ろからかすかな声が聞こえてきた。
「んにゃが……うぅ、振動とお兄ちゃんの暖かさとリラックスの相乗効果で、眠気が史上最大にまっくすだよぅ……」
「ん、寝ちゃうか? 家に着いたら起こすから、そのまま寝ちゃってもいいぞ」
「よろしく……しちゃうのにゃー……」
ほどなくして、妹のすぴゃすぴゃした寝息が聞こえてきた。俺はできるだけ振動を起こさないよう、さらにゆっくり歩くのだった。
【ツンデレと衝突したら】
2011年08月27日
俺には尿を保持する内臓があるので、しばらくは尿を体内に維持したまま生活できる。だが、その慢心が全ての始まりだった。そう、俺は膀胱を過信していたのだ。
簡単に言うと超おしっこ出そう。そんなわけで急いで学校の廊下を走ってたら、曲がり角で誰かにぶつかった。
「きゃっ! いたたたた……」
紳士たる俺は助け起こしたいところだったが、尿保持内臓が限界を訴えていたのでそのまま放置、滑るようにトイレIN、尿、排出!
ふひゅーと便所から出ると、リナが怖い顔で待ち構えていました。
「ああ、今なら誰もいないから便器を舐めてもばれないぞ。ただ、以後俺に近寄るな」
「そんなことしませんわっ! そうじゃなくて、貴方! さっきのアレ、どういうことですの!?」
「なんのことですの?」
「マネしないでくださいまし!」
「ジャッジメントですの!」
「真面目に聞きなさいっ!」
かっこよくポーズを決めたら怒られたので真面目に聞く。
「えーと。何の話ですか」
「何の話ですって!? このわたくしを突き飛ばしておいて、ありえないですわっ!」
「あー。あーあーあー。今理解した。さっきぶつかったのお前だったのな。よし分かった、謝ろう。てへ、ごめりんこ」
「絶対に許しませんわ!!!!!」
謝罪したら余計に頑なになった。どういうことだ。
「もー許しません、えー許しませんわ! 然るべき処置をとらせていただきますわ!」
「いかん、黒服に俺を襲わせ、俺の内蔵を全部売る気だ!」
「そんなことしませんわっ! 人をマフィアか何かと勘違いしてません!?」
「メキシコあたりのマフィアは超怖いよね」
「知りませんわっ! ……ただ、わたくしも鬼ではありません」
「いやいや、謙遜するな。人の内臓を売り捌くんだ、リナは立派な鬼だ」
「余計な茶々は入れないでいただけますことっ!?」
「任せろ、得意だ」
「…………」
全く信用してない視線をこちらに送りつつ、リナは話を続けた。
「え、えーと。そう、そうですわ。女性にぶつかっておいて、しかもその女性を放置するだなんて、人のすることではありませんわ。その汚名をそそぐのですから、それなりのことは覚悟してもらう必要がありますわね?」
「あれ、カツアゲ? お嬢様なのに? どうしよう、昼飯代の200円しかないよ」
「違いますわっ! ていうかお金なさすぎですわ! パンとジュースを買ったら終わりですわよ、それ!?」
「いや、それじゃ足りないからパンを二つ買って、飲み物はいつも水にしてるんだ」
「まあ……」
リナは両手で口を覆い、いたわしげな視線を俺に送った。まっすぐに同情されたら、俺はもうどうすれば。
「い、いや、違いますわ。今はそんなのどうでもいいんですの」
「そうだな、カツアゲの真っ最中だもんな。はい、どうぞ」
「だから、違いますわっ!」
「あぁん」
俺の200円が払いのけられた。わたわたしながら硬貨を拾う。
「わたわたしないでいただけますことっ!?」
「待て、あと10円足りないんだ。……ああ、あったあった。よかったよかった」
「全く……情けないですわね」
「お前と違って、俺は貧乏なんだよ。じゃあそういうことで」
「だから、まだ話は全く終わってませんわっ!」
「ぐえぇえ」
「きゃっ、汚っ!」
首を掴んで止められた。そのやり方は運が悪いと死ぬのでやめてほしいです。あと、あんまりだ。
「誰しも首を絞められるとあんな感じになるんです。嫌ならやらないでくれ」
「う、うるさいですわね……偶然手が首に引っかかっただけですわ!」
「めちゃくちゃだな……まあいい、話ってのは?」
「貴方と話してたら脱線しすぎますから、やってほしいことだけ言いますわ」
「失礼な話だ。んで、何だ?」
「え、えーと……ふ、深い意味はありませんわよ?」
「分かった、深読みする」
「ぶん殴りますわよっ!?」
このお嬢様超怖え。
「き、今日のお昼、特別にわたくしと席を共にすることを許しますわ」
「はい。……はい?」
「だ、だから! ……え、えっと、さっきお昼がパンだけって言ってたから、わたくしの豪勢なお弁当を見せびらかすんですの!」
「ああ、なるほど。それで出た俺の涎を飲み水にするんだな。でも、そんなのしなくても水道から水が出るぞ? リナって変な奴だな」
「貴方だけには言われたくありませんわっ! そんなことするつもりありませんっ!」
「分かってるって。羨まがらせたいだけだろ」
「え? ……そ、そうですわ。そ、それ以外何があると言うんですの!?」
「そうだな。俺に昼飯が貧相で可哀想に思ったから、自分の弁当を分け与えるためにあえて悪ぶったわけないよな」
「ううううう~~~~~~~~っ!!!!!」
何やら全力で頬をつねられた。
「嫌いですわ! 大っ嫌いですわ! もー今日のお昼の約束もナシですわっ!」
「困ったね」
「ちっとも思ってないですわ!!! もー貴方なんてお金なくって餓死して孤独死しちゃえばいいんですわっ!!!」
「いや、餓死した後に孤独死はできないと思う。なぜなら餓死の時点で死んでるから」
「冷静に訂正しないでいただけますことっ!?」
で、昼の時間。
「とかなんとか言いながら、俺に弁当わけてくれるリナ超天使」
「うっ、うるさいですわっ! 多すぎて食べられないから残飯を押し付けてるだけですわ!」
真っ赤な顔でもきゃもきゃ言い訳してるリナだった。
簡単に言うと超おしっこ出そう。そんなわけで急いで学校の廊下を走ってたら、曲がり角で誰かにぶつかった。
「きゃっ! いたたたた……」
紳士たる俺は助け起こしたいところだったが、尿保持内臓が限界を訴えていたのでそのまま放置、滑るようにトイレIN、尿、排出!
ふひゅーと便所から出ると、リナが怖い顔で待ち構えていました。
「ああ、今なら誰もいないから便器を舐めてもばれないぞ。ただ、以後俺に近寄るな」
「そんなことしませんわっ! そうじゃなくて、貴方! さっきのアレ、どういうことですの!?」
「なんのことですの?」
「マネしないでくださいまし!」
「ジャッジメントですの!」
「真面目に聞きなさいっ!」
かっこよくポーズを決めたら怒られたので真面目に聞く。
「えーと。何の話ですか」
「何の話ですって!? このわたくしを突き飛ばしておいて、ありえないですわっ!」
「あー。あーあーあー。今理解した。さっきぶつかったのお前だったのな。よし分かった、謝ろう。てへ、ごめりんこ」
「絶対に許しませんわ!!!!!」
謝罪したら余計に頑なになった。どういうことだ。
「もー許しません、えー許しませんわ! 然るべき処置をとらせていただきますわ!」
「いかん、黒服に俺を襲わせ、俺の内蔵を全部売る気だ!」
「そんなことしませんわっ! 人をマフィアか何かと勘違いしてません!?」
「メキシコあたりのマフィアは超怖いよね」
「知りませんわっ! ……ただ、わたくしも鬼ではありません」
「いやいや、謙遜するな。人の内臓を売り捌くんだ、リナは立派な鬼だ」
「余計な茶々は入れないでいただけますことっ!?」
「任せろ、得意だ」
「…………」
全く信用してない視線をこちらに送りつつ、リナは話を続けた。
「え、えーと。そう、そうですわ。女性にぶつかっておいて、しかもその女性を放置するだなんて、人のすることではありませんわ。その汚名をそそぐのですから、それなりのことは覚悟してもらう必要がありますわね?」
「あれ、カツアゲ? お嬢様なのに? どうしよう、昼飯代の200円しかないよ」
「違いますわっ! ていうかお金なさすぎですわ! パンとジュースを買ったら終わりですわよ、それ!?」
「いや、それじゃ足りないからパンを二つ買って、飲み物はいつも水にしてるんだ」
「まあ……」
リナは両手で口を覆い、いたわしげな視線を俺に送った。まっすぐに同情されたら、俺はもうどうすれば。
「い、いや、違いますわ。今はそんなのどうでもいいんですの」
「そうだな、カツアゲの真っ最中だもんな。はい、どうぞ」
「だから、違いますわっ!」
「あぁん」
俺の200円が払いのけられた。わたわたしながら硬貨を拾う。
「わたわたしないでいただけますことっ!?」
「待て、あと10円足りないんだ。……ああ、あったあった。よかったよかった」
「全く……情けないですわね」
「お前と違って、俺は貧乏なんだよ。じゃあそういうことで」
「だから、まだ話は全く終わってませんわっ!」
「ぐえぇえ」
「きゃっ、汚っ!」
首を掴んで止められた。そのやり方は運が悪いと死ぬのでやめてほしいです。あと、あんまりだ。
「誰しも首を絞められるとあんな感じになるんです。嫌ならやらないでくれ」
「う、うるさいですわね……偶然手が首に引っかかっただけですわ!」
「めちゃくちゃだな……まあいい、話ってのは?」
「貴方と話してたら脱線しすぎますから、やってほしいことだけ言いますわ」
「失礼な話だ。んで、何だ?」
「え、えーと……ふ、深い意味はありませんわよ?」
「分かった、深読みする」
「ぶん殴りますわよっ!?」
このお嬢様超怖え。
「き、今日のお昼、特別にわたくしと席を共にすることを許しますわ」
「はい。……はい?」
「だ、だから! ……え、えっと、さっきお昼がパンだけって言ってたから、わたくしの豪勢なお弁当を見せびらかすんですの!」
「ああ、なるほど。それで出た俺の涎を飲み水にするんだな。でも、そんなのしなくても水道から水が出るぞ? リナって変な奴だな」
「貴方だけには言われたくありませんわっ! そんなことするつもりありませんっ!」
「分かってるって。羨まがらせたいだけだろ」
「え? ……そ、そうですわ。そ、それ以外何があると言うんですの!?」
「そうだな。俺に昼飯が貧相で可哀想に思ったから、自分の弁当を分け与えるためにあえて悪ぶったわけないよな」
「ううううう~~~~~~~~っ!!!!!」
何やら全力で頬をつねられた。
「嫌いですわ! 大っ嫌いですわ! もー今日のお昼の約束もナシですわっ!」
「困ったね」
「ちっとも思ってないですわ!!! もー貴方なんてお金なくって餓死して孤独死しちゃえばいいんですわっ!!!」
「いや、餓死した後に孤独死はできないと思う。なぜなら餓死の時点で死んでるから」
「冷静に訂正しないでいただけますことっ!?」
で、昼の時間。
「とかなんとか言いながら、俺に弁当わけてくれるリナ超天使」
「うっ、うるさいですわっ! 多すぎて食べられないから残飯を押し付けてるだけですわ!」
真っ赤な顔でもきゃもきゃ言い訳してるリナだった。
【蜘蛛っ娘】
2011年08月23日
昔、それは小さな蜘蛛を助けた記憶がある。善意ではない、ただの気紛れだ。
その蜘蛛が今、恩返しと称し、我が家の玄関先に、人の姿で立っている。
「あっ、この姿はですね、神さまに人にしてもらったんです! えへへっ、どうですか? かわいいですか?」
少女はくるりとその場を回り、私に容姿の論評を求めた。だが、そういったことを批評するのは苦手だ。
「あ、ああ。可愛いのではないだろうか」
なんとかそれだけ搾り出す。まったく、慣れない事はするものではない。
「やたっ♪ えへへー、ありがとーございます、おにーさん!」
「や、それはいいんだが……」
「?」
少女は不思議そうに私を見つめている。
「その、なんだ。恐らくだが、君は家出か何かしたのだろう? それを誤魔化すのに、恩返しに来た蜘蛛というのは、少々無理がないだろうか」
「むーっ! 違います、本当に蜘蛛ですっ! 昔、おにーさんに命を救われた蜘蛛なんですっ!」
少女は頬を膨らませ、必死に抗議した。しかし、そう言われても、はいそうですかと首肯するわけにはいかない。
「いや、しかしだな……」
「おにーさんは頭が固いです! もっとじゅーなんに生きた方がいいと思います!」
「初対面の女性が蜘蛛だと信じる方が難しいと私には思えるが」
「もーっ! とーにーかーく! そうなんです! いーから信じてください!」
「ふむ……」
ここまで頑なに言い張るとは、本当に蜘蛛なのだろうか。もし本当に家出少女なら、もう少しマシな理由を言うような気がする。
「……あー、信じ難いが、本当の本当に、君は蜘蛛なのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないですか。おにーさんは頭が本当に固いですね」
「……まあ、いい。君が蜘蛛だと仮定しよう。だが、恩を返されるほどのことをした覚えはない」
「そんなことないですっ! もしあの時おにーさんに助けられなかったら、今頃私は鳥さんに食べられてます! ぱくぱくーって!」
それがさも大事であるかのように、蜘蛛だと言い張る少女は両手をあげつつ、口を大きく開けた。
「そうか。それは鳥にとっては災難だったな」
「私にとっては大幸運ですっ! おかげさまで、こーして人間になり、おにーさんに恩返しすることができますっ!」
「ふむ。しかし、恩返しと言われても、私は何をされればいいのだ? 君を我が家に住まわせ、反物を作るのを待てばいいのか?」
「あ、そーゆーのはできません」
「……では?」
「おにーさんのお嫁さんになりますっ!」
「ぶっ」
「おにーさん? どしたんですか? あっ、だいじょぶですよ、ちゃんと神さまのところで炊事洗濯はばっちり練習しました! 神れべるです! 神さまのとこで練習しただけに! だーけーにっ!」
自信満々な表情がやけに腹が立つ。頬を引っ張ってやれ。
「あふふー」
「うむ。いや、そうじゃない。人生の伴侶を決めるのに、恩を使うのはどうだろうか。君の親御さんも悲しむぞ」
「はぁ……」
「というわけで、帰りなさい」
少女を回れ右させ、背中を押す。面倒事は御免だ。
「わ、わ! ダメです、帰りません! というか、帰る場所なんてないです!」
「え」
「だって、私、蜘蛛でしたもん。家なんてもうないです」
そうだ。彼女の言を信じるのであれば、彼女は蜘蛛だったのだ。帰る場所なんてどこにもない。
……もっとも、家出少女という一番可能性が高い選択肢を視野に入れないのであれば、という話ではあるが。
「……ふぅ。お嫁さんとか、そういうのはナシでいいのであれば、しばらく家に置いてやらなくもない」
「それは超困りますっ! お嫁さんがいいです! おにーさんの嫁に! 是非嫁に!」
とても困った。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「……あっ、それともおにーさんは、男の人じゃないとダメな人なんですか?」
「女性は殴らない主義だが、その主義を破る時が来たようだ」
「あっ、違います違います! だって、私みたいなかわいい美少女が来たっていうのに、何もしないなんておかしいですよ! おかしいですよカテジナさん!」
「かわいいと美少女は意味がかぶっている。そして私はカテジナではない」
「あっ、すいません! 神さまのところで見たアニメが面白かったので、つい!」
神は私が想像してるより俗っぽいようだ。
「……私はまだ学生だ。君を養う甲斐性などない。そして、君という人間のこともよく知らない。以上が、君を嫁にしない理由だ」
「私のことは、これから知ればいいんです! 社会人になれば養えます!」
二言で論破された。
「……いや、しかし」
「しかしじゃないです! こんな据え膳食べないなんて男の風上にも置けませんっ! しかも、私はおにーさんの大好きなロリ体型です! さらに言うなら、年齢1歳です! もー超ロリです!」
「どうして私の性癖を知っている」
背中を汗が伝う。これは非常にまずい。
「神さまのパソコンには、ありとあらゆることが載ってるんです! 分からないことなんて何もないです!」
「……分かった。分かったから、とりあえず家にあがれ。近所迷惑だ」
「やった! 嫁、嫁!」
「嫁じゃない」
小躍りしながら家に入る蜘蛛少女にため息をつきつつ、玄関を閉める。
「えへへー、ここがおにーさんと私の愛の巣ですね? 糸を張り巡らしますか?」
「巡らせなくていい。というか、君はまだ糸が出るのか?」
「……どうなんでしょう? えいっ」
少女が手を向けた先に、白い糸がべちゃりと付着した。その糸は、少女の手から放たれている。
「わ、出ました! すぱいだーまんみたいです! スパイダーマッ!」
……驚いた。彼女は、本当の本当に蜘蛛だったようだ。それはさておき。
「人の部屋を汚すな」
「すり替えておいたのさ!」
やたら嬉しそうに決めポーズらしきものをしている少女を置いて、壁に付着した糸を剥がす。……むぅ、ベタベタしていて剥がれ難い。
「あっ、たぶん大丈夫です。やっ」
少女が軽く声をあげると、まるで逆再生を見ているかのように糸はするすると少女の手元に戻った。
「ほら、このとおりです」
「そうか」
「そうか、じゃないです! 褒めてほしいです!」
「君がやったことを自分で解決しただけなのにか?」
「私がやったことを私が解決しただけなのにです!」
そこまで言われては仕方がない。褒めてみよう。
「偉いぞっ」(なでなで)
ただ、人を褒めた経験がないので、こんな有様になってしまった。
「……う、うふうううふ。……やっぱ嫁です! 嫁になるしかないです!」
「抱きつくな」
何やら興奮した様子でふがーふがー言いながら人に抱きついてんだかよじ登ってんだか分からない蜘蛛少女だった。
その蜘蛛が今、恩返しと称し、我が家の玄関先に、人の姿で立っている。
「あっ、この姿はですね、神さまに人にしてもらったんです! えへへっ、どうですか? かわいいですか?」
少女はくるりとその場を回り、私に容姿の論評を求めた。だが、そういったことを批評するのは苦手だ。
「あ、ああ。可愛いのではないだろうか」
なんとかそれだけ搾り出す。まったく、慣れない事はするものではない。
「やたっ♪ えへへー、ありがとーございます、おにーさん!」
「や、それはいいんだが……」
「?」
少女は不思議そうに私を見つめている。
「その、なんだ。恐らくだが、君は家出か何かしたのだろう? それを誤魔化すのに、恩返しに来た蜘蛛というのは、少々無理がないだろうか」
「むーっ! 違います、本当に蜘蛛ですっ! 昔、おにーさんに命を救われた蜘蛛なんですっ!」
少女は頬を膨らませ、必死に抗議した。しかし、そう言われても、はいそうですかと首肯するわけにはいかない。
「いや、しかしだな……」
「おにーさんは頭が固いです! もっとじゅーなんに生きた方がいいと思います!」
「初対面の女性が蜘蛛だと信じる方が難しいと私には思えるが」
「もーっ! とーにーかーく! そうなんです! いーから信じてください!」
「ふむ……」
ここまで頑なに言い張るとは、本当に蜘蛛なのだろうか。もし本当に家出少女なら、もう少しマシな理由を言うような気がする。
「……あー、信じ難いが、本当の本当に、君は蜘蛛なのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないですか。おにーさんは頭が本当に固いですね」
「……まあ、いい。君が蜘蛛だと仮定しよう。だが、恩を返されるほどのことをした覚えはない」
「そんなことないですっ! もしあの時おにーさんに助けられなかったら、今頃私は鳥さんに食べられてます! ぱくぱくーって!」
それがさも大事であるかのように、蜘蛛だと言い張る少女は両手をあげつつ、口を大きく開けた。
「そうか。それは鳥にとっては災難だったな」
「私にとっては大幸運ですっ! おかげさまで、こーして人間になり、おにーさんに恩返しすることができますっ!」
「ふむ。しかし、恩返しと言われても、私は何をされればいいのだ? 君を我が家に住まわせ、反物を作るのを待てばいいのか?」
「あ、そーゆーのはできません」
「……では?」
「おにーさんのお嫁さんになりますっ!」
「ぶっ」
「おにーさん? どしたんですか? あっ、だいじょぶですよ、ちゃんと神さまのところで炊事洗濯はばっちり練習しました! 神れべるです! 神さまのとこで練習しただけに! だーけーにっ!」
自信満々な表情がやけに腹が立つ。頬を引っ張ってやれ。
「あふふー」
「うむ。いや、そうじゃない。人生の伴侶を決めるのに、恩を使うのはどうだろうか。君の親御さんも悲しむぞ」
「はぁ……」
「というわけで、帰りなさい」
少女を回れ右させ、背中を押す。面倒事は御免だ。
「わ、わ! ダメです、帰りません! というか、帰る場所なんてないです!」
「え」
「だって、私、蜘蛛でしたもん。家なんてもうないです」
そうだ。彼女の言を信じるのであれば、彼女は蜘蛛だったのだ。帰る場所なんてどこにもない。
……もっとも、家出少女という一番可能性が高い選択肢を視野に入れないのであれば、という話ではあるが。
「……ふぅ。お嫁さんとか、そういうのはナシでいいのであれば、しばらく家に置いてやらなくもない」
「それは超困りますっ! お嫁さんがいいです! おにーさんの嫁に! 是非嫁に!」
とても困った。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「……あっ、それともおにーさんは、男の人じゃないとダメな人なんですか?」
「女性は殴らない主義だが、その主義を破る時が来たようだ」
「あっ、違います違います! だって、私みたいなかわいい美少女が来たっていうのに、何もしないなんておかしいですよ! おかしいですよカテジナさん!」
「かわいいと美少女は意味がかぶっている。そして私はカテジナではない」
「あっ、すいません! 神さまのところで見たアニメが面白かったので、つい!」
神は私が想像してるより俗っぽいようだ。
「……私はまだ学生だ。君を養う甲斐性などない。そして、君という人間のこともよく知らない。以上が、君を嫁にしない理由だ」
「私のことは、これから知ればいいんです! 社会人になれば養えます!」
二言で論破された。
「……いや、しかし」
「しかしじゃないです! こんな据え膳食べないなんて男の風上にも置けませんっ! しかも、私はおにーさんの大好きなロリ体型です! さらに言うなら、年齢1歳です! もー超ロリです!」
「どうして私の性癖を知っている」
背中を汗が伝う。これは非常にまずい。
「神さまのパソコンには、ありとあらゆることが載ってるんです! 分からないことなんて何もないです!」
「……分かった。分かったから、とりあえず家にあがれ。近所迷惑だ」
「やった! 嫁、嫁!」
「嫁じゃない」
小躍りしながら家に入る蜘蛛少女にため息をつきつつ、玄関を閉める。
「えへへー、ここがおにーさんと私の愛の巣ですね? 糸を張り巡らしますか?」
「巡らせなくていい。というか、君はまだ糸が出るのか?」
「……どうなんでしょう? えいっ」
少女が手を向けた先に、白い糸がべちゃりと付着した。その糸は、少女の手から放たれている。
「わ、出ました! すぱいだーまんみたいです! スパイダーマッ!」
……驚いた。彼女は、本当の本当に蜘蛛だったようだ。それはさておき。
「人の部屋を汚すな」
「すり替えておいたのさ!」
やたら嬉しそうに決めポーズらしきものをしている少女を置いて、壁に付着した糸を剥がす。……むぅ、ベタベタしていて剥がれ難い。
「あっ、たぶん大丈夫です。やっ」
少女が軽く声をあげると、まるで逆再生を見ているかのように糸はするすると少女の手元に戻った。
「ほら、このとおりです」
「そうか」
「そうか、じゃないです! 褒めてほしいです!」
「君がやったことを自分で解決しただけなのにか?」
「私がやったことを私が解決しただけなのにです!」
そこまで言われては仕方がない。褒めてみよう。
「偉いぞっ」(なでなで)
ただ、人を褒めた経験がないので、こんな有様になってしまった。
「……う、うふうううふ。……やっぱ嫁です! 嫁になるしかないです!」
「抱きつくな」
何やら興奮した様子でふがーふがー言いながら人に抱きついてんだかよじ登ってんだか分からない蜘蛛少女だった。