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2024年11月21日
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【更紗 初登場】

2011年11月16日
 先日、とある事件に巻き込まれ、結果、ちっこい娘さんが我が家に居候することになった。
 それはいい。構わない。俺がロリコンなのでどこまで我慢できるかという一抹の不安はあるが、それより大きな問題がある。
「彰人、彰人」
 とか思ってたら、当の本人が人の背中をちょんちょん突ついてきた。
「ん? おお、更紗。どした? 何か用か?」
 くるりと振り返り、件の少女──更紗に向き直る。一見すると子供のような体躯だが、俺と1つ違い、のハズだ。もし学生だと高校1年生になるのだろうか。
「用はない。けど、強いて言うなら、抱っこしてほしい」
 そんな更紗が抑揚なく呟く。寝起きかと見紛いかねないほどテンションが低いが、これがコイツの普通だ。
「子供か」
「見た目は子供、頭脳は大人」
「どこの新一だ。まあいいや、おいで」
 手でカムカムすると、更紗はスムースに俺の胸の中に収まった。
「ん。ん。……ん」
 そして何かを確認するかのように数度コクコクとうなずいた。
「何の確認だ」
「気になるなら自分で繋げて調べればいいのに」
「そこまで興味ねー。それに、俺は出来る時と出来ない時があるから。何より、疲れるからあんま繋ぎたくない」
「……根性ナシ」
「無茶言うない」
「言ってない。出来るのにやんないのは、ただの怠惰」
「面倒くさがりなんだ」
「知ってる」
「そりゃそうか……」
 というか、いま俺に抱きついてるちっこい娘が知らないことなど、存在しないと言ってもいい。
 事実だけ伝える。更紗はアカシックレコードに接続できる存在だ。
 簡単に説明すると、そこに接続すると、この世界の全てのことが分かる。先日の事件に巻き込まれた結果、限定的だが、俺も接続できるようになってしまった。正直、悪用すれば国家転覆も容易いと思う。
 ……誰だっ! お兄さん中二病って言葉大嫌いですよっ!?
「? どしたの?」
「や、なんでもない」(なでなで)
「むー」
 そんな凄い(笑)のが二人揃っている訳なのだが、世界をどうこうするつもりは……少なくとも俺には全くなく、こうして更紗をなでてるだけで幸せだったりします。
 ……大丈夫とは思うが、一応、更紗にも聞いておくか。
「なあ更紗、お前は、えーと……」
 うぅむ、聞きづらい。どうしたものかと思っていたら、更紗は俺の頬を優しく撫でながらつぶやいた。
「──私は、私を分かってくれる人がそばに居てくれるなら、それだけでいい」
「あー……繋いだ?」
「今の彰人の状態を読んだだけ。上層の意識のことしか読んでないから大丈夫」
「勘弁してください」
「ちょこっとだけ他のとこも読んだ。彰人はロリコンだ」
「読まないで! そして読んだとしても黙っていて! それが大人というもの!」
「実年齢が二桁だとしても、私みたく見た目が幼ければ興奮する?」
「します! いや何を聞いてんだ。ていうか読んだなら知ってるだろ。アレか、言わせたいだけか」
「彰人のへんたい。えっち。だいすき」
「変なのが混じってます」
「しまった、本音が漏れた」
「ぜってーわざとだ」
「実はそう。……嬉しい?」
 小悪魔的な表情で俺を見つめる更紗。何かを探るかのような視線が突き刺さる。
「えーと。つるぺたは大好物なので嬉しいです」
「──。一応本音だけど、照れ隠しが多大に入ってる」
「読まないで!」
「……それで、本当はどう?」
「はぁ……。もう読んだんだろ? じゃ、全部分かるだろ」
「……そういうことは、調べるんじゃなく、本人の口から聞きたい、という程度の乙女心は持ってる」
 ちょっとだけ頬を染めつつ、更紗がつぶやく。
「あー……まあ、なんだ。成り行きとはいえ、お前が今ここにいるのは、俺がそうあってほしいという意思が含まれているんだから、そこから行き着く答えは?」
「もっと短く。要点をまとめて。照れずに」
「……もっとお前と一緒にいたい、とは思っている」
 一瞬で更紗の顔が赤色に染まった。
「す、ストレートすぎ。流石にびっくりした」
「お前が言わせたんだろうがっ!」
 ええい、恥ずかしい。
「しかし、情熱的なプロポーズだった。仕方ない、結婚してやろう。結納に世界をあげる」
「してねえっ! いらんっ!」
「がーん」
 うちの居候は厄介です。

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【莉未 コスプレ】

2011年10月10日
 家に着くと部屋でちっこいのが寝息を立てている。割とよくある日常だ。しかし、以前このことを友人に言ったら鼻で笑われ「妄想は口に出すな」と言われたので、すぴすぴ言ってるこいつは俺の妄想が作り上げた存在なのかもしれない。
「ん……あー。帰ってきてたんだ、彰人」
 しかし、俺の妄想の産物であるはずのコイツは目を覚まし、俺の意思とは関係なく喋りだした。それでもなお妄想と言い張るのか、俺は。
「ん? どしたの、彰人。難しい顔しちゃって」
「んや、なんでもない。ただいま、莉未」
「おかーり」
 莉未はごろごろ転がって布団から抜け出すと、そのまま俺の足元まで転がってきた。
「抱っこ」
「へいへい」
 両手をこちらに向けてる莉未を抱き上げ、むぎゅーっと抱っこする。ついでに頭もなでてやる。
「んー」
 何か唸りながら、莉未は俺の胸に顔をこすりつけている。どうにも猫っぽい。
「頭を動かすない。なでにくいだろ」
「なでなきゃいーじゃん」
「なでないと怒るだろ」
「怒る」
 なんてわがままな。いつものことながら、この幼なじみは中々に厄介だ。
「あのさ、彰人。録画してるアニメ一緒に見よう」
「ゲームしたい」
「私はアニメ見たい」
 とか言いながら勝手に人のビデオを再生する莉未。俺の意見は往々にして却下されがちです。悲しい。
「ん」
 準備を終えると、莉未は部屋の中央に置いてある座布団をぽふぽふと叩いた。そこにあぐらをかいて座ると、次に莉未が俺の膝の上に座る。俺の部屋でのいつもの鑑賞姿勢だ。
「あ、しまった。お茶菓子用意してねえ」
 莉未が肩越しに俺を睨む。
「しょうがねえだろ、帰って来て早々にこんなことになるとは思ってなかったんだから。ていうか睨むな。お前目つき悪いんだから怖いんだよ」
 このお嬢さんは見た目は可愛いのだが、三白眼のうえ愛嬌がないので知らない人からは怖い人だと思われがちだ。昔はクラスメイトから「莉未さんってヤクザの子なの?」とよく聞かれたものだ。
「生まれつきだからしょうがないもん。そんなのいーから早くお菓子用意してきて」
「スーパーめんどくせえが、分かった」
 莉未をその場に置いて、台所に向かう。棚をあさると、食いかけのせんべいを発見。文句言われそうだが……まあいっか。
「えー……おせんべ? ケーキとか食べたい」
 戦利品を持って部屋に戻ると、想像通り評判は芳しくなかった。
「贅沢言うない」
 むーっとした顔のまま、莉未がせんべいに手を伸ばす。
「う。……湿気てる」
「え? ……うわ、マジだ。ふにゃふにゃだな。あ、莉未。ふにゃふにゃって猫っぽく言って」
 ふにゃふにゃという語感が気に入ったので、そんな頭の悪いことを言ってみる。
「なんで? まあいいけど……んと、ふにゃふにゃ」
「うむ。100点」(なでなで)
「意味分かんない」(ちょっと嬉しそう)
 その後も数度ふにゃふにゃ言ってから、莉未はビデオの再生ボタンを押した。最近莉未がはまっている魔女っ子モノのアニメだ。ただ、俺はあまり興味がないのでふわあああ。
「…………」
「はい、すいません」
 じろりと睨まれたので、真剣なフリをして鑑賞する。
 そんなこんなで30分後、番組終了。満足げに莉未が息を吐きつつリモコンを操作してビデオの電源を落とした。
「はぁー……今回も面白かったね!」
「そうですね」
「うー……なんかムズムズしてじっとしてらんない。そだ、コスプレして遊ぼう!」
「勘弁してください」
「服取ってくるから、ちょっと待っててね!」
「繰り返すが、勘弁してください」
 俺の懇願など意にも介さず、莉未は部屋から出て行った。ほどなくして、服を二着持って戻ってきた。
「はい、これが彰人の」
 俺にゴテゴテした服を渡し、自身も魔女っ子服に着替えだした。
「まあ、コスプレは今更いいとして、幼なじみとはいえ年頃の女性が男の前で着替えるのはどうかと思うぞ」
「? 彰人だもん、家族みたいなもんだからいーよ、別に」
「家族なあ……」
 ……まあ、今はいいか。
「そんなのいーから早く着替えて!」
「へーへー」
 そんなわけで、恥ずかしい服に着替える。莉未も着替え終わったようだ。髪型まで魔女っ子仕様でツインテールになっている。
「んじゃ、いくよ? くらえっ、マジカルキャノン!」
 魔女っ子のステッキをこちらに向け、恥ずかしげもなく全力で叫ぶ莉未さん(高校2年生)。これはこちらも全力でいくしかあるまい。
「ぐああああっ! ……くうっ、右腕を持っていかれたか」
「そーゆー風にはなんないの!」
「よく知らないんだ」
「さっきまで一緒に見てたのに! 彰人はあとで要復習ね! んじゃ、もっかい! てーっ、マジカルキャノン!」
「ぐああああっ! ……左腕を根こそぎだと!?」
「腕の種類の問題じゃないの!」
「難しいね」
「難しくないっ!」
 などとマジカル棒でぺこぽこ叩かれながらも、楽しくコスプレしました。ただ、本音を言うと、もっと淫靡な方のコスチュームプレイがしたいです。

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【蜘蛛っ娘】

2011年08月23日
 昔、それは小さな蜘蛛を助けた記憶がある。善意ではない、ただの気紛れだ。
 その蜘蛛が今、恩返しと称し、我が家の玄関先に、人の姿で立っている。
「あっ、この姿はですね、神さまに人にしてもらったんです! えへへっ、どうですか? かわいいですか?」
 少女はくるりとその場を回り、私に容姿の論評を求めた。だが、そういったことを批評するのは苦手だ。
「あ、ああ。可愛いのではないだろうか」
 なんとかそれだけ搾り出す。まったく、慣れない事はするものではない。
「やたっ♪ えへへー、ありがとーございます、おにーさん!」
「や、それはいいんだが……」
「?」
 少女は不思議そうに私を見つめている。
「その、なんだ。恐らくだが、君は家出か何かしたのだろう? それを誤魔化すのに、恩返しに来た蜘蛛というのは、少々無理がないだろうか」
「むーっ! 違います、本当に蜘蛛ですっ! 昔、おにーさんに命を救われた蜘蛛なんですっ!」
 少女は頬を膨らませ、必死に抗議した。しかし、そう言われても、はいそうですかと首肯するわけにはいかない。
「いや、しかしだな……」
「おにーさんは頭が固いです! もっとじゅーなんに生きた方がいいと思います!」
「初対面の女性が蜘蛛だと信じる方が難しいと私には思えるが」
「もーっ! とーにーかーく! そうなんです! いーから信じてください!」
「ふむ……」
 ここまで頑なに言い張るとは、本当に蜘蛛なのだろうか。もし本当に家出少女なら、もう少しマシな理由を言うような気がする。
「……あー、信じ難いが、本当の本当に、君は蜘蛛なのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないですか。おにーさんは頭が本当に固いですね」
「……まあ、いい。君が蜘蛛だと仮定しよう。だが、恩を返されるほどのことをした覚えはない」
「そんなことないですっ! もしあの時おにーさんに助けられなかったら、今頃私は鳥さんに食べられてます! ぱくぱくーって!」
 それがさも大事であるかのように、蜘蛛だと言い張る少女は両手をあげつつ、口を大きく開けた。
「そうか。それは鳥にとっては災難だったな」
「私にとっては大幸運ですっ! おかげさまで、こーして人間になり、おにーさんに恩返しすることができますっ!」
「ふむ。しかし、恩返しと言われても、私は何をされればいいのだ? 君を我が家に住まわせ、反物を作るのを待てばいいのか?」
「あ、そーゆーのはできません」
「……では?」
「おにーさんのお嫁さんになりますっ!」
「ぶっ」
「おにーさん? どしたんですか? あっ、だいじょぶですよ、ちゃんと神さまのところで炊事洗濯はばっちり練習しました! 神れべるです! 神さまのとこで練習しただけに! だーけーにっ!」
 自信満々な表情がやけに腹が立つ。頬を引っ張ってやれ。
「あふふー」
「うむ。いや、そうじゃない。人生の伴侶を決めるのに、恩を使うのはどうだろうか。君の親御さんも悲しむぞ」
「はぁ……」
「というわけで、帰りなさい」
 少女を回れ右させ、背中を押す。面倒事は御免だ。
「わ、わ! ダメです、帰りません! というか、帰る場所なんてないです!」
「え」
「だって、私、蜘蛛でしたもん。家なんてもうないです」
 そうだ。彼女の言を信じるのであれば、彼女は蜘蛛だったのだ。帰る場所なんてどこにもない。
 ……もっとも、家出少女という一番可能性が高い選択肢を視野に入れないのであれば、という話ではあるが。
「……ふぅ。お嫁さんとか、そういうのはナシでいいのであれば、しばらく家に置いてやらなくもない」
「それは超困りますっ! お嫁さんがいいです! おにーさんの嫁に! 是非嫁に!」
 とても困った。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「……あっ、それともおにーさんは、男の人じゃないとダメな人なんですか?」
「女性は殴らない主義だが、その主義を破る時が来たようだ」
「あっ、違います違います! だって、私みたいなかわいい美少女が来たっていうのに、何もしないなんておかしいですよ! おかしいですよカテジナさん!」
「かわいいと美少女は意味がかぶっている。そして私はカテジナではない」
「あっ、すいません! 神さまのところで見たアニメが面白かったので、つい!」
 神は私が想像してるより俗っぽいようだ。
「……私はまだ学生だ。君を養う甲斐性などない。そして、君という人間のこともよく知らない。以上が、君を嫁にしない理由だ」
「私のことは、これから知ればいいんです! 社会人になれば養えます!」
 二言で論破された。
「……いや、しかし」
「しかしじゃないです! こんな据え膳食べないなんて男の風上にも置けませんっ! しかも、私はおにーさんの大好きなロリ体型です! さらに言うなら、年齢1歳です! もー超ロリです!」
「どうして私の性癖を知っている」
 背中を汗が伝う。これは非常にまずい。
「神さまのパソコンには、ありとあらゆることが載ってるんです! 分からないことなんて何もないです!」
「……分かった。分かったから、とりあえず家にあがれ。近所迷惑だ」
「やった! 嫁、嫁!」
「嫁じゃない」
 小躍りしながら家に入る蜘蛛少女にため息をつきつつ、玄関を閉める。
「えへへー、ここがおにーさんと私の愛の巣ですね? 糸を張り巡らしますか?」
「巡らせなくていい。というか、君はまだ糸が出るのか?」
「……どうなんでしょう? えいっ」
 少女が手を向けた先に、白い糸がべちゃりと付着した。その糸は、少女の手から放たれている。
「わ、出ました! すぱいだーまんみたいです! スパイダーマッ!」
 ……驚いた。彼女は、本当の本当に蜘蛛だったようだ。それはさておき。
「人の部屋を汚すな」
「すり替えておいたのさ!」
 やたら嬉しそうに決めポーズらしきものをしている少女を置いて、壁に付着した糸を剥がす。……むぅ、ベタベタしていて剥がれ難い。
「あっ、たぶん大丈夫です。やっ」
 少女が軽く声をあげると、まるで逆再生を見ているかのように糸はするすると少女の手元に戻った。
「ほら、このとおりです」
「そうか」
「そうか、じゃないです! 褒めてほしいです!」
「君がやったことを自分で解決しただけなのにか?」
「私がやったことを私が解決しただけなのにです!」
 そこまで言われては仕方がない。褒めてみよう。
「偉いぞっ」(なでなで)
 ただ、人を褒めた経験がないので、こんな有様になってしまった。
「……う、うふうううふ。……やっぱ嫁です! 嫁になるしかないです!」
「抱きつくな」
 何やら興奮した様子でふがーふがー言いながら人に抱きついてんだかよじ登ってんだか分からない蜘蛛少女だった。

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【顔文字 湖畔 メタセコイア】

2011年04月18日
 休みの日は大体家にいるのだけど、たまにはどっか行きたいなあ。海とか山とか。
「むにゃー」
 などと思いながら、人の上でぬべーっとしてる恋人を眺める。油断しきってやがる。このざまでは暗殺者に狙われでもたらひとたまりもないだろう。
「んー……ごろごろごろ」
 人の上を転がりながら、近くにある雑誌を手に取る恋人の人。
「む、人がかぶった」
「ん? 何の話?」
 俺の独り言に反応し、恋人であるところの凛が顔をこちらに向けた。
「俺の脳内の話」
 話しながら凛の頭をなでる。サラサラして気持ちいい。
「今日も彰人はよく分かんない」
 言葉とは裏腹に、凛は気持ちよさそうに目を細めている。どうにも猫っぽい。
「そんな奴を恋人にした苦悩は計り知れないな」
「彰人がどーしても凛と一緒にいたいよーって懇願するから一緒にいてあげてるだけだもーん」
「逆じゃなかったっけ?」
「ち、違うもん。彰人が言ったんだもん」
「そうだったか? 俺の記憶では、なんかステージの上で凛が」
「わ、わーっ! それ言うのナシ! 反則!」
 凛は人の顔を遠慮なくびしばし叩くと、ごろごろ転がって、俺の腕に収まった。
「まったくもー。……ふぅ。やっぱここが一番落ち着くね」
「超顔が痛え」
「それくらい我慢するの!」
「口封じに叩きまくるってどうかと思うぞ」
「うるさいの! それより凛のために腕枕しなさい!」
「へーへー。腕枕はいいんだけど、俺の腕がしびれるのが難点ですよね」
「凛のためだから我慢できるよね?」
「勝手な話だ」
「えへへー♪」
 腕枕をした状態で、一緒に雑誌を眺める。
「……あ、ねーねー彰人、ここ行きたい!」
 凛が指し示したのは、雑誌の中に載ってるちょっとした記事だった。
「えーと……へえ、湖か。綺麗だな」
 記事には湖畔の周りに立ち並ぶメタセコイアとかいう木々の特集が組んであった。生ける化石植物として有名、らしい。そういったものには疎いので初めて見るが。
「こゆとこをさ、一緒に歩いたりしたらさ、なんかさ、なんかさ、恋人っぽくない?」
 しかし、凛の興味を引いたのは化石植物ではなく、湖畔の方のようだ。
「メタセコイアはいいのか」
「何それ? 知らないし、興味ないもん」
「花や木に詳しい女性って女らしくて素敵だよね」
「そんなの思ってもないくせに」
「まぁね。しかし、湖畔か……そだな、いいかもな。こういうとこなら人も少ないだろうから、お前のファンに囲まれる心配もないだろうし」
 こいつは前まで歌って踊ってランラランな仕事をしており、辞めた今でも結構な数のファンがいる、らしい。未だに事務所にファンレターが届くとか。
「ファンで思い出したけどさ、事務所に届くファンレターの中身、半分以上は彰人への呪いらしいよ?」
「\(^o^)/」
「はぁ? 何してんのよ」
「や、動揺を隠し切れないだけだ」
 ひょっとして、俺は今超やばい状態にあるのではないだろうか。こいつと一緒にいたら遠からず死ぬやも。
「…………」
 俺の思考が顔に出たのか、凛は不安げに俺の腕を掴んだ。
「……あ、いや、うん。大丈夫。ずっと一緒だ、一緒」
 まあ、そういうの全部ひっくるめて一緒にいることを誓ったんだ。大丈夫さ。
 そんなことを思いながら、凛の頭を優しくなでる。
「と、当然よ。ずーっと一緒だもん。……も、もちろん凛はどーでもいいけど! 彰人がどーしてもって言うから一緒にいたげてるだけ!」
「へーへー」
「なんか感動が薄いー! ……あ、そだ。あのさ、もっかいさ、改めてどーしても一緒にいたいよーって言って?」
「もーしても一緒にいたいもー」
「なんか牛が混じってる!」
「実は牛人間なんだ」
「もー、超適当! もー! もー!」
 そしてどういうわけだか凛が牛になった。不思議なので頭をなでてみた。
「もにゃー!」
 牛と猫が混じった新生物がここに爆誕した。

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【亜衣 ぺとぺと妹】

2010年09月08日
 妹が欲しい。いや、違う。訂正しよう。“普通”の妹が欲しい。
「何を考え込んでるんですか、お兄ちゃん?」
 最近出来た義理の妹を見ながら、そう思う。
「いや……あの、亜衣?」
「なんですか、お兄ちゃん?」
「俺の背中から降りてはどうだろうか」
 先ほどから俺の背中にべたーっと張り付いている義妹に優しく語り掛けてみる。
「嫌です。今は亜衣のお兄ちゃん引っ付きタイムなので、降りられません」
「そんな時間はないのですが」
「んー……まあいいです。んしょっと」
 亜衣は俺の背中から降りると、今度は俺の前に回りこんできて俺の手を取った。
「亜衣を抱っこしますか? いいですよ? はい、抱っこ」
「いやいや、いやいやいや。そんなの望んでません」
「望んでください」
 一体兄に何を求めているのだ、この義妹は。
「あのな、亜衣。確かに俺たちゃ兄妹になった。でも、だからって、四六時中一緒にいるのはおかしいと思わないか?」
 なぜかは知らないが顔を合わせた瞬間に大変気に入られ、それからずっと亜衣は俺と一緒にいようとする。
「亜衣はずっとずっとお兄ちゃんが欲しかったんです。半ば諦めていた頃にお母さんが再婚して降って湧いたお兄ちゃんに、亜衣は興奮を隠せませんでした。そして出会ったお兄ちゃんは、亜衣の理想のお兄ちゃん像にピタリ一致していて、亜衣の興奮は有頂天に達したのです」
「全体を通して分かったことは、頭が悪いことくらいですね」
「そういう意地が悪いことをさらっと言うところもポイント高いです」
 何を言っても気に入られるビクンビクン悔しいでも(ry
「クリムゾンですか?」
「人の思考を読まないで!」
「妹にかかればお手の物です。ふふん。……褒めますか?」
「褒めません」
「残念です……」
「…………」(なでなで)
 悲しそうだったので、思わず頭をなでてしまう俺は弱い人間だと思う。
「こういうところもポイント高いです」
「ええい。ていうかいうかていうかだな、一応俺と亜衣は兄妹なので仲が良いのは問題ないが、その仲が過剰なのは色々と問題があるのではなくって?」
「お兄ちゃんの秘蔵の本によると、兄妹仲が過剰によいのは何ら問題ないようです。むしろ、推奨されてます」
「馬鹿な!!!!?」
 幾重のダミーに守られているはずの、俺の、俺の『大人になる呪文』が、どうして亜衣の手の平に!?
「しかし、この本の妹に対し、私は中学生なので少々成長しすぎです。問題ありますか?」
「いや年齢も体つきもまだまだ余裕で俺の射程範囲内なので全く問題ありませんじゃなくって!」
「ノリツッコミです……♪」
 何をそんなに喜んでいる。
「ええいっ、いいから返せ!」
 とにかく、亜衣から本を奪い返す。
「あっ。全くもー、お兄ちゃんは乱暴です。横暴です。大好きです」
「なんか混じってる!」
「キスしますか?」
「甘えのベクトルがおかしい! 仮に甘えるとしても、兄に甘えるのであればもうちょっと、こう、緩いものだろう!?」
「初めてのお兄ちゃんなので、どこまでいったらいいのか分からないんです」
「ん……ま、まあ、それはしょうがないな。適宜言うしかないか」
「じゃあ、キスしましょう」
「いきなり間違ってるッ!」
 がぶあっと抱きついてきたので、全力で抵抗する。
「ぐぐぐ……キスします、キスします!」
「しないから! しないから!」
 おでこを押さえつけ、妹の魔の手を防ぐ。ややあって諦めたのか、亜衣はぺたりと座り込んで頬を膨らました。
「ぶー」
「ぶーじゃねえ。あのな、亜衣。さういうことは、好きな人にしなさい」
「亜衣はお兄ちゃんが大好きですよ?」
「いやいや、いやいやいや。そうじゃなくてだな、異性として好きな人に対してすることで」
「亜衣はいつだってお兄ちゃんを性的な目で見てますよ?」
「それはそれで色々問題があるかと思いますが!」
「寝てる間にちゅーとかしていいですか?」
「ダメです!」
「じゃあやっぱり起きてる間に無理やりするしかないです」
 再び寄ってきたのでぐぐぐっと抵抗する。
「キスします! させてください!」
「ダメだっての! ええい、なんでお前はやること全部力技なんだ!」
「ほっぺたで! ほっぺたで我慢しますから!」
「……本当だな?」
 コクコクと嬉しそうにうなずいたので、ひとまず信じてみることにする。
「あー……じゃあ、まあ、それならいいや。ほれ、ぶちゅーっとしろ」
「亜衣にお任せです」
 亜衣は俺の前に回りこむと、ぶちゅー。
「ほっぺって言ったろーが!!!」
 慌てて亜衣を引き離す。超びっくりした。
「ああっ、まだ舌を入れてないのに」
「入れるな!!! はぁ……全く、最近の若い子は慣れてるのだか知らないが、恥じらいがなくて困るよ」
「あ、ファーストキスですよ?」
「…………。……そ、そうか」
「お兄ちゃん、照れてます?」
「あー……まあ、人並み程度には」
「お兄ちゃんの恥ずかしがる姿に、亜衣はすっごくドキドキしてますよ? どうしてくれますか?」
「知らんッ!」
 ぺとぺとくっついてくる義妹に困る俺だった。

拍手[26回]

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