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2025年04月20日
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【おばあちゃんの家に行くとおやつに出てくる、仏壇に供えてある四角くて砂糖コーティングの不味いゼリーの商品名が思い出せないツンデレ】
2010年04月05日
「うーんうーんうーん」
自分の席で漫画読んでたら、ボクっ娘がやってきてうんうん唸りだした。
「便秘だな。尻出せ」
「違うよっ! スカートめくんな!」
スカートをまくったら怒られた。今日もボクっ娘のパンツは白い。
「じゃあなんだ? 便秘か? 尻出せ」
「だから違うよっ! いちいちスカートめくんな! 犯罪ってこと分かってる!?」
何度めくってもパンツが白い。大変喜ばしい。
「もー、ばか。……えっとね、こないだおばあちゃんの家行ったんだ」
「ふんふん」
「それでね、おばあちゃんにお菓子もらったんだ。仏壇に供えてたゼリー」
「ほうほう」
「四角くて砂糖のコーティングがしてるやつ。……それの名前がどーしても思い出せないんだ。タカシ、知らない?」
「わははは」
「珍しくちゃんと話を聞いてると思ったら漫画読んでる!?」
「梓あずさ、これ見ろこれ。すげー面白いぞ」
「見ないよっ! ボクの話聞けっ!」
「そう怒るな。漫画を読みつつも話は聞いてたから大丈夫だ」
「本当かなぁ……」
「成長したら大きくなる可能性がないわけでもないから、希望は捨てるな。俺は小さい方が好きだけど」
「そんな話してないっ! タカシのえっち変態ロリコニア!」
適当言ったら怒られた。ロリコニアって何?
「やっぱり聞いてなかったんだね。……はぁ、もっかい言うよ」
ため息一つ吐いて、梓はもう一度おばあちゃんゼリーの話をした。
「……ってワケ。タカシ、知らない?」
「知ってる。梓の言うゼリー状の菓子とは、婆さんのエキスを固めたものだ」
「違うよ! 気持ち悪いよっ! 想像しちゃったじゃん!」
「婆さんが風呂に入った後の湯を抽出し、そうして出来たエキスを三日三晩煮詰めると、ゼリー状の菓子“婆寒天”になります」
「ならないよっ! 嘘説明するな、ばかっ!」
「熟女好きには堪らないんじゃないか? 俺は勘弁願いたいけど」
「ボクだって勘弁願いたいよ! もー、タカシは適当ばっかり言って困るよ……」
「俺から適当を取って、一体何が残ると言うのだ!?」
「逆切れされた!?」
何かショックを受けてる梓をよそに、俺から適当を取ったら何が残るか考える。
「……ふむ、美男子が残るな。うむ、それだけ残れば満足だ」
「変な顔の性犯罪者が残るんじゃないの?」
真顔で大変失礼なことを言う娘さんのほっぺを引っ張る。
「ひへへへへ! ひはひ、ひはひほ!」
「やあ、愉快な顔だ」
愉快な顔に満足したのでほっぺから手を放す。
「うー……取れたらどうすんだよぉ!」
「大変だと思う」
「そうじゃなくて! ……うぅ、やっぱ適当だ」
「そうでもないぞ。取れた後のほっぺの保管場所をどこにするか今も考え中だ」
「そんなどーでもいいこと考えてないで、一緒にゼリーのこと考えてよ」
「しかし、ほっぺが! 取れたほっぺのことを考えるとあまりに不憫で、俺にはほっぺを見捨てることなんてできない!」
「取れないから考えなくていいよっ!」
「じゃあ、まずは取る方法から考えよう」
「考えるなッ! いーからゼリーゼリーゼリー! ゼリーのこと考えてよ!」
「おいしいよね」
「そうじゃなくて!」
「……うむ、たまにはゼリーもいいな。梓、帰りにコンビニでゼリー買うぞ」
「え、いやそうじゃなくて、ボクはおばあちゃんちのゼリーのことを……」
「奢ってやるからお前も来い」
「え、ホント? 行く行く行く!」
おごりという餌をぶらさげることにより、誤魔化すことに成功。……帰ったらゼリーのこと調べるか。
自分の席で漫画読んでたら、ボクっ娘がやってきてうんうん唸りだした。
「便秘だな。尻出せ」
「違うよっ! スカートめくんな!」
スカートをまくったら怒られた。今日もボクっ娘のパンツは白い。
「じゃあなんだ? 便秘か? 尻出せ」
「だから違うよっ! いちいちスカートめくんな! 犯罪ってこと分かってる!?」
何度めくってもパンツが白い。大変喜ばしい。
「もー、ばか。……えっとね、こないだおばあちゃんの家行ったんだ」
「ふんふん」
「それでね、おばあちゃんにお菓子もらったんだ。仏壇に供えてたゼリー」
「ほうほう」
「四角くて砂糖のコーティングがしてるやつ。……それの名前がどーしても思い出せないんだ。タカシ、知らない?」
「わははは」
「珍しくちゃんと話を聞いてると思ったら漫画読んでる!?」
「梓あずさ、これ見ろこれ。すげー面白いぞ」
「見ないよっ! ボクの話聞けっ!」
「そう怒るな。漫画を読みつつも話は聞いてたから大丈夫だ」
「本当かなぁ……」
「成長したら大きくなる可能性がないわけでもないから、希望は捨てるな。俺は小さい方が好きだけど」
「そんな話してないっ! タカシのえっち変態ロリコニア!」
適当言ったら怒られた。ロリコニアって何?
「やっぱり聞いてなかったんだね。……はぁ、もっかい言うよ」
ため息一つ吐いて、梓はもう一度おばあちゃんゼリーの話をした。
「……ってワケ。タカシ、知らない?」
「知ってる。梓の言うゼリー状の菓子とは、婆さんのエキスを固めたものだ」
「違うよ! 気持ち悪いよっ! 想像しちゃったじゃん!」
「婆さんが風呂に入った後の湯を抽出し、そうして出来たエキスを三日三晩煮詰めると、ゼリー状の菓子“婆寒天”になります」
「ならないよっ! 嘘説明するな、ばかっ!」
「熟女好きには堪らないんじゃないか? 俺は勘弁願いたいけど」
「ボクだって勘弁願いたいよ! もー、タカシは適当ばっかり言って困るよ……」
「俺から適当を取って、一体何が残ると言うのだ!?」
「逆切れされた!?」
何かショックを受けてる梓をよそに、俺から適当を取ったら何が残るか考える。
「……ふむ、美男子が残るな。うむ、それだけ残れば満足だ」
「変な顔の性犯罪者が残るんじゃないの?」
真顔で大変失礼なことを言う娘さんのほっぺを引っ張る。
「ひへへへへ! ひはひ、ひはひほ!」
「やあ、愉快な顔だ」
愉快な顔に満足したのでほっぺから手を放す。
「うー……取れたらどうすんだよぉ!」
「大変だと思う」
「そうじゃなくて! ……うぅ、やっぱ適当だ」
「そうでもないぞ。取れた後のほっぺの保管場所をどこにするか今も考え中だ」
「そんなどーでもいいこと考えてないで、一緒にゼリーのこと考えてよ」
「しかし、ほっぺが! 取れたほっぺのことを考えるとあまりに不憫で、俺にはほっぺを見捨てることなんてできない!」
「取れないから考えなくていいよっ!」
「じゃあ、まずは取る方法から考えよう」
「考えるなッ! いーからゼリーゼリーゼリー! ゼリーのこと考えてよ!」
「おいしいよね」
「そうじゃなくて!」
「……うむ、たまにはゼリーもいいな。梓、帰りにコンビニでゼリー買うぞ」
「え、いやそうじゃなくて、ボクはおばあちゃんちのゼリーのことを……」
「奢ってやるからお前も来い」
「え、ホント? 行く行く行く!」
おごりという餌をぶらさげることにより、誤魔化すことに成功。……帰ったらゼリーのこと調べるか。
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【魔法で嘘がつけなくなったタカシ】
2010年04月04日
学校から帰ってると、杖持ったコスプレ娘に襲われた。
「悪人成敗! 私ってばサイコー♪」
頭のおかしな娘のほっぺを引っ張って何をしたのか聞くと、魔法で嘘をつけなくした、と。
「わ、悪い人から嘘を取ったらいい人になるし! いいじゃない、これくらい!」
「自分を呪ってろ、ばか」
「何よ、その言い方じゃまるで私が悪人みたいじゃない! 第一、呪いじゃなくて魔法よ、魔法!」
「うっさい。いきなり初対面の相手を呪う奴が、悪人じゃないとでも?」
「う、うう……悪人に口じゃ勝てない! えぇーい、ぴんくるぽんくる、死ねぇッ!」
死ねと言いながら杖を振りかぶる姿を最後に、意識が途絶える。
気がついたら道端で倒れてて残念無念、逃げられた。次見つけたら肉奴隷にしてやる。
「……といったことが昨日会ったのですよ、ボクっ娘さん」
「へー、そうなんだ。あと、ボクっ娘とか言うな」
昨日の変人とのいざこざを梓に伝えると、そっけない返事が返ってきた。
「それで、本当に嘘がつけなくなったの?」
「信じられないが、そうなのだ。梓はかなりのお馬鹿。……な? 俺の口からは真実しか出ない」
「それ嘘だよ! ボクは賢いよ! アインシュタインもびっくりだよ!」
「では賢い賢い梓たん、円周率を100桁暗唱してください」
「えっ、ええっ!? さ、3.14……ええと、ええと」
「まだ三桁ですが」
「……およそ3!」
近代数学を揺るがす答えが出た。
「だいたいさ、タカシは答え知ってるの?」
「……およそ3」
「ほーら、人のこと言えないじゃん」
む、ボクっ娘のくせに小憎たらしい。鼻つまんでやれ。
「ひゃ、ひゃふ~」
「ひゃふーって言った」
ひゃふーに満足したので手を放すと、猛烈な勢いで抗議してきた。
「ひゃふーとも言うよ! なんで鼻つまむんだよ!」
「エロスに魅入られし者と呼称される俺とはいえ、流石に学校で乳首をつまむのは抵抗が」
「どこでもつまんじゃダメだよっ! えっちなこと言うな、ばかっ!」
「む、梓相手だとつい。ごめんな、梓」
軽口を叩いて馬鹿にするつもりが、呪いの効果か思ったことがそのまま口に出てしまった。このままでは梓をつけ上がらせてしまう、どうにかせねば!
「え、あ……うん、反省してるならいいんだよ、うん」
……つけあがる、と思ったのだけど。梓ったらなんかコクコク頷いて、変なの。
「コクコク頷く梓は、なんか可愛いなぁ」
……いやいや。何言ってんだ、俺?
「え、あ、……う」
「む、照れてる顔もいいなぁ。梓は本当に可愛いなぁ」
いやいやいや! 違う、違うって! 違うんですよ、俺はそんなキャラじゃないですよ!? 畜生、呪いか、呪いなのか!?
「……タカシってさ、本当はそんなこと思ってたんだ?」
「うむ。正直、お前にメロメロ」
いやいや、いやいやいや! やめて、誰か俺の口を止めて! コスプレ娘さん悪かったです、お願いだから呪い解いて!
「め、メロメロって……ぐ、具体的に?」
「す、す……」
史上稀に見るほどの意志力で言葉を止める。これはダメ、ダメ絶対!
「……す?」
「す、す、す……すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!」
「うわぁっ、タカシ、タカシ!?」
意志力と呪いが拮抗し、オーバーロードで電源OFF。ぱったり倒れた模様です。
「……あー、しんど」
見知らぬ天井、ではなく見知った天井。保健室の天井。保健室の天丼だったら怖いなぁ。怖いけど天丼食べたいなぁ。美味しいよね、天丼。
「……天丼はどうでもいい。まさか梓にあんなこと言いかけるとは……」
「天丼?」
「うわらばっ!?」
閉められていたカーテンが開けられ、梓が顔を出したので大変驚くと共に変な声が出た。
「うわらば? それよりさ、いきなり倒れないでよね。ここまで運んでくるの、大変だったんだよ」
「あ、ああ……ごめん」
「別にいいケドさ。……それでさ、その、……倒れる前に言いかけたことって、さ」
む、俺の第七感、いわゆるセブンセンシズがビンビン訴えかけている。「誤魔化せ」と!
「好きってことだ!」
うわーん、呪いのばかー。
「…………」
ほら見ろ、ほら見ろ! うつむいてるじゃん! 困ってるじゃん! 今からでも遅くない、誤魔化せ!
「す、好きと言っても、ほら、色々あるじゃん? こ、この好きは、その、愛と! 愛しいと! そう言っていいかと!」
うわーん、呪いのばかー。いや、マジで。勘弁して。
「……うー」
ほらほらほら! うーとか言ってるじゃん! あんま人ってうーって言わないじゃん! 明らかに困ってるじゃん! あーもーだから言いたくなかったのに畜生め!
「でででも、その、梓が困るなら俺としては一向に気にしないというか別に今まで通り友達でいいしその関係を途絶されるのだけは勘弁というか」
「…………」
「……あ、あの、友達もダメ?」
なんてこった。こんなことで、こんな訳の分からない呪いなんかで俺は梓を失うのか。
……ああ、これが足元がなくなる感覚って言うんだな。まるで地の底に落ちて行くようだ。
「……えへ、えへへ」
人が奈落に落ちてるってのに、梓は何やら嬉しそうな声をあげた。
「……なんだよ、そんな友達じゃなくなるのが嬉しいのか?」
「違うよ。そうじゃなくて……えと、……両想い、カナ?」
そう言って、梓ははにかみながら俺の手をきゅっと握った。
「…………」
いま、なんて? 俺の頭が都合よく梓の言葉を捻じ曲げたのでないのなら、……両想い、と? 本当にそう言った?
「えへー」
……言ったな。この満面の笑みを見てると、それだけで実感できる。
「えへえへ言うな。変な奴」
「へ、変じゃないよ! 嬉しい時は笑うもんだよ! それに、タカシも笑ってるじゃん」
「うぇっ、嘘!?」
自分の顔をさする。……む、頬がにやけきってやがる。だらしない頬め。
「ね、ね? ……えへー」
「えへえへ言うな。変な奴」
「し、仕方ないじゃん! ……嬉しいんだもん」
そう言って少し恥ずかしそうに頬を染める梓に、俺は抗う術を持ってなかった。
「あー……なんだ、その、……俺も嬉しい……ような気がしないような気がするような予感がないわけでもないような」
「長いよ、長すぎるよ! ……もっと簡潔に、ね?」
優しく微笑んで、俺の手を柔らかく握る梓。
「……あー、その、俺も嬉しい。梓とこれからも一緒に話をできることが、嬉しくて仕方ない」
……呪われてなきゃ、意地でも言わなかっただろうな。そういう意味では、あのコスプレ女に感謝かな。
「……あ、あのね、ボク……なんかね、……その、もっとタカシに引っ付きたいんだけど……いいカナ?」
「梓に頼まれて、断れる男がいるだろうか」
「ボクは、タカシとしかくっつきたくないよ」
「む……ど、どうぞ」
ええぃ、なんでこう俺を喜ばせることばかり言うかね、このボクっ娘は。
緩みまくる頬をそのままに、ベッドの脇に寄ってスペースを空ける。その空間に梓はそっと座った。
「……暖かいね」
「夏だからな」
「そうじゃなくて! ……もう、空気読んでよ」
「んーと……こう、かな?」
「あ……」
梓の方に体ごと向き直り、そっと近づく。自分の心音が、工事現場の騒音になったかのようだ。
「梓、そ、その、目閉じて……」
「ん……」
「んー、やっぱ悪を更生させるのは愛の力よね♪」
「ああっ、てめぇ頭のおかしいコスプレ娘!」
折角いい雰囲気だと言うのに、昨日の娘が窓から覗いて全て台無しにしやがった。
「頭おかしくないし、コスプレじゃないっ!」
「んなこたぁどうでもいい! 呪い解け、呪い! これのせいで俺はボクっ娘なんかに告白する羽目になっちまったじゃねぇか!」
「キスしようとした相手に向かって羽目って言った!?」
梓が何かショックを受けてるが、それどころではない。
「だーいじょーぶよ。24時間経ったら戻るから。あーもう戻ったかな? これで前みたいに嘘つきほーだいだよ。でも、ま、今のキミは恋人がいるし嘘つかないよね」
「好きだッ!」
「うひゃあああ!?」
ためしに窓まで突撃し、目の前の頭おかしいコスプレ娘に抱きつく。うむ、嘘可能!
「よし、これでこそいつもの俺だ! 祝ってくれ、あず……梓?」
「……恋人の目の前で、ボクじゃない子に好きって言った。好きって言って、抱きついた!」
「あ、いや、違う、違うんだよ? これはその、実験というかお試しというか、その」
「ま、まーアレよね、私の魅力に誰しもメロメロ?」
人が必死で言い訳してるってのに、勘違い娘がとんちんかんな事を言いだして場を混乱させた。
「メロンパンおいしい」
「訳わかんないこと言うな! しかも美味しいとか言いながら、ボク以外の子のほっぺ舐めてる!?」
混乱しているのは場ではなく、俺のようだ。ほっぺはすべすべでなんかおいしい。
「あ、あは……もしかして、私惚れられちゃった? きゃーっ! どうしようどうしよう!」
勘違い娘の本領発揮により、梓の怒気が超パワーアップ。超泣きそう。
「告白したそのすぐ後に、ボク以外の子に抱きついて、あまつさえほっぺにちゅーするなんて……タカシの、タカシの浮気者ぉぉぉぉぉ!」
「へぐっ!?」
梓のとんでもない勢いの地獄突きが俺のノドにクリーンヒット。ダルマ落としみたいに首だけ取れるかと思った。
「今日の告白は、なしっ! また後日やり直すようにっ!」
「えええええっ!? 馬鹿な、あんなこっ恥ずかしい真似二度もできるかっ!」
「うるさいうるさいうるさいっ! ボク以外の子とイチャイチャした罰だよっ! めーれーだかんね、めーれー!」
とんでもない罰を残して、梓は保健室から出て行ってしまった。
「う……ううううう、どうしてくれんだよ、コスプレ女っ!」
「コスプレじゃないわよっ! だいたい、あの子に告白できたのは私の魔法のおかげでしょ? 感謝される覚えはあっても、恨まれる覚えはないわよ!」
「ええいうるさい! なんかこう、別の呪いはないのか? 何も言わなくても想いが伝わる呪いとか、他の部族を根絶やしにする呪いとか」
「本当の呪いが混じってるわよ!」
「む、しまった。ともかく、なんかないのか?」
「ないわよ! 自分で頑張ることね。それじゃ、あでゅー♪」
あでゅーとか言って、コスプレ女は最初からいなかったかのようにその場から消えた。
あんな恥ずかしいことを、もう一度。想像するのも勘弁願いたい。願いたいが……。
「……梓には代えられないか」
頭の中でリハーサルを行いながら、俺は保健室を出た。
「悪人成敗! 私ってばサイコー♪」
頭のおかしな娘のほっぺを引っ張って何をしたのか聞くと、魔法で嘘をつけなくした、と。
「わ、悪い人から嘘を取ったらいい人になるし! いいじゃない、これくらい!」
「自分を呪ってろ、ばか」
「何よ、その言い方じゃまるで私が悪人みたいじゃない! 第一、呪いじゃなくて魔法よ、魔法!」
「うっさい。いきなり初対面の相手を呪う奴が、悪人じゃないとでも?」
「う、うう……悪人に口じゃ勝てない! えぇーい、ぴんくるぽんくる、死ねぇッ!」
死ねと言いながら杖を振りかぶる姿を最後に、意識が途絶える。
気がついたら道端で倒れてて残念無念、逃げられた。次見つけたら肉奴隷にしてやる。
「……といったことが昨日会ったのですよ、ボクっ娘さん」
「へー、そうなんだ。あと、ボクっ娘とか言うな」
昨日の変人とのいざこざを梓に伝えると、そっけない返事が返ってきた。
「それで、本当に嘘がつけなくなったの?」
「信じられないが、そうなのだ。梓はかなりのお馬鹿。……な? 俺の口からは真実しか出ない」
「それ嘘だよ! ボクは賢いよ! アインシュタインもびっくりだよ!」
「では賢い賢い梓たん、円周率を100桁暗唱してください」
「えっ、ええっ!? さ、3.14……ええと、ええと」
「まだ三桁ですが」
「……およそ3!」
近代数学を揺るがす答えが出た。
「だいたいさ、タカシは答え知ってるの?」
「……およそ3」
「ほーら、人のこと言えないじゃん」
む、ボクっ娘のくせに小憎たらしい。鼻つまんでやれ。
「ひゃ、ひゃふ~」
「ひゃふーって言った」
ひゃふーに満足したので手を放すと、猛烈な勢いで抗議してきた。
「ひゃふーとも言うよ! なんで鼻つまむんだよ!」
「エロスに魅入られし者と呼称される俺とはいえ、流石に学校で乳首をつまむのは抵抗が」
「どこでもつまんじゃダメだよっ! えっちなこと言うな、ばかっ!」
「む、梓相手だとつい。ごめんな、梓」
軽口を叩いて馬鹿にするつもりが、呪いの効果か思ったことがそのまま口に出てしまった。このままでは梓をつけ上がらせてしまう、どうにかせねば!
「え、あ……うん、反省してるならいいんだよ、うん」
……つけあがる、と思ったのだけど。梓ったらなんかコクコク頷いて、変なの。
「コクコク頷く梓は、なんか可愛いなぁ」
……いやいや。何言ってんだ、俺?
「え、あ、……う」
「む、照れてる顔もいいなぁ。梓は本当に可愛いなぁ」
いやいやいや! 違う、違うって! 違うんですよ、俺はそんなキャラじゃないですよ!? 畜生、呪いか、呪いなのか!?
「……タカシってさ、本当はそんなこと思ってたんだ?」
「うむ。正直、お前にメロメロ」
いやいや、いやいやいや! やめて、誰か俺の口を止めて! コスプレ娘さん悪かったです、お願いだから呪い解いて!
「め、メロメロって……ぐ、具体的に?」
「す、す……」
史上稀に見るほどの意志力で言葉を止める。これはダメ、ダメ絶対!
「……す?」
「す、す、す……すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!」
「うわぁっ、タカシ、タカシ!?」
意志力と呪いが拮抗し、オーバーロードで電源OFF。ぱったり倒れた模様です。
「……あー、しんど」
見知らぬ天井、ではなく見知った天井。保健室の天井。保健室の天丼だったら怖いなぁ。怖いけど天丼食べたいなぁ。美味しいよね、天丼。
「……天丼はどうでもいい。まさか梓にあんなこと言いかけるとは……」
「天丼?」
「うわらばっ!?」
閉められていたカーテンが開けられ、梓が顔を出したので大変驚くと共に変な声が出た。
「うわらば? それよりさ、いきなり倒れないでよね。ここまで運んでくるの、大変だったんだよ」
「あ、ああ……ごめん」
「別にいいケドさ。……それでさ、その、……倒れる前に言いかけたことって、さ」
む、俺の第七感、いわゆるセブンセンシズがビンビン訴えかけている。「誤魔化せ」と!
「好きってことだ!」
うわーん、呪いのばかー。
「…………」
ほら見ろ、ほら見ろ! うつむいてるじゃん! 困ってるじゃん! 今からでも遅くない、誤魔化せ!
「す、好きと言っても、ほら、色々あるじゃん? こ、この好きは、その、愛と! 愛しいと! そう言っていいかと!」
うわーん、呪いのばかー。いや、マジで。勘弁して。
「……うー」
ほらほらほら! うーとか言ってるじゃん! あんま人ってうーって言わないじゃん! 明らかに困ってるじゃん! あーもーだから言いたくなかったのに畜生め!
「でででも、その、梓が困るなら俺としては一向に気にしないというか別に今まで通り友達でいいしその関係を途絶されるのだけは勘弁というか」
「…………」
「……あ、あの、友達もダメ?」
なんてこった。こんなことで、こんな訳の分からない呪いなんかで俺は梓を失うのか。
……ああ、これが足元がなくなる感覚って言うんだな。まるで地の底に落ちて行くようだ。
「……えへ、えへへ」
人が奈落に落ちてるってのに、梓は何やら嬉しそうな声をあげた。
「……なんだよ、そんな友達じゃなくなるのが嬉しいのか?」
「違うよ。そうじゃなくて……えと、……両想い、カナ?」
そう言って、梓ははにかみながら俺の手をきゅっと握った。
「…………」
いま、なんて? 俺の頭が都合よく梓の言葉を捻じ曲げたのでないのなら、……両想い、と? 本当にそう言った?
「えへー」
……言ったな。この満面の笑みを見てると、それだけで実感できる。
「えへえへ言うな。変な奴」
「へ、変じゃないよ! 嬉しい時は笑うもんだよ! それに、タカシも笑ってるじゃん」
「うぇっ、嘘!?」
自分の顔をさする。……む、頬がにやけきってやがる。だらしない頬め。
「ね、ね? ……えへー」
「えへえへ言うな。変な奴」
「し、仕方ないじゃん! ……嬉しいんだもん」
そう言って少し恥ずかしそうに頬を染める梓に、俺は抗う術を持ってなかった。
「あー……なんだ、その、……俺も嬉しい……ような気がしないような気がするような予感がないわけでもないような」
「長いよ、長すぎるよ! ……もっと簡潔に、ね?」
優しく微笑んで、俺の手を柔らかく握る梓。
「……あー、その、俺も嬉しい。梓とこれからも一緒に話をできることが、嬉しくて仕方ない」
……呪われてなきゃ、意地でも言わなかっただろうな。そういう意味では、あのコスプレ女に感謝かな。
「……あ、あのね、ボク……なんかね、……その、もっとタカシに引っ付きたいんだけど……いいカナ?」
「梓に頼まれて、断れる男がいるだろうか」
「ボクは、タカシとしかくっつきたくないよ」
「む……ど、どうぞ」
ええぃ、なんでこう俺を喜ばせることばかり言うかね、このボクっ娘は。
緩みまくる頬をそのままに、ベッドの脇に寄ってスペースを空ける。その空間に梓はそっと座った。
「……暖かいね」
「夏だからな」
「そうじゃなくて! ……もう、空気読んでよ」
「んーと……こう、かな?」
「あ……」
梓の方に体ごと向き直り、そっと近づく。自分の心音が、工事現場の騒音になったかのようだ。
「梓、そ、その、目閉じて……」
「ん……」
「んー、やっぱ悪を更生させるのは愛の力よね♪」
「ああっ、てめぇ頭のおかしいコスプレ娘!」
折角いい雰囲気だと言うのに、昨日の娘が窓から覗いて全て台無しにしやがった。
「頭おかしくないし、コスプレじゃないっ!」
「んなこたぁどうでもいい! 呪い解け、呪い! これのせいで俺はボクっ娘なんかに告白する羽目になっちまったじゃねぇか!」
「キスしようとした相手に向かって羽目って言った!?」
梓が何かショックを受けてるが、それどころではない。
「だーいじょーぶよ。24時間経ったら戻るから。あーもう戻ったかな? これで前みたいに嘘つきほーだいだよ。でも、ま、今のキミは恋人がいるし嘘つかないよね」
「好きだッ!」
「うひゃあああ!?」
ためしに窓まで突撃し、目の前の頭おかしいコスプレ娘に抱きつく。うむ、嘘可能!
「よし、これでこそいつもの俺だ! 祝ってくれ、あず……梓?」
「……恋人の目の前で、ボクじゃない子に好きって言った。好きって言って、抱きついた!」
「あ、いや、違う、違うんだよ? これはその、実験というかお試しというか、その」
「ま、まーアレよね、私の魅力に誰しもメロメロ?」
人が必死で言い訳してるってのに、勘違い娘がとんちんかんな事を言いだして場を混乱させた。
「メロンパンおいしい」
「訳わかんないこと言うな! しかも美味しいとか言いながら、ボク以外の子のほっぺ舐めてる!?」
混乱しているのは場ではなく、俺のようだ。ほっぺはすべすべでなんかおいしい。
「あ、あは……もしかして、私惚れられちゃった? きゃーっ! どうしようどうしよう!」
勘違い娘の本領発揮により、梓の怒気が超パワーアップ。超泣きそう。
「告白したそのすぐ後に、ボク以外の子に抱きついて、あまつさえほっぺにちゅーするなんて……タカシの、タカシの浮気者ぉぉぉぉぉ!」
「へぐっ!?」
梓のとんでもない勢いの地獄突きが俺のノドにクリーンヒット。ダルマ落としみたいに首だけ取れるかと思った。
「今日の告白は、なしっ! また後日やり直すようにっ!」
「えええええっ!? 馬鹿な、あんなこっ恥ずかしい真似二度もできるかっ!」
「うるさいうるさいうるさいっ! ボク以外の子とイチャイチャした罰だよっ! めーれーだかんね、めーれー!」
とんでもない罰を残して、梓は保健室から出て行ってしまった。
「う……ううううう、どうしてくれんだよ、コスプレ女っ!」
「コスプレじゃないわよっ! だいたい、あの子に告白できたのは私の魔法のおかげでしょ? 感謝される覚えはあっても、恨まれる覚えはないわよ!」
「ええいうるさい! なんかこう、別の呪いはないのか? 何も言わなくても想いが伝わる呪いとか、他の部族を根絶やしにする呪いとか」
「本当の呪いが混じってるわよ!」
「む、しまった。ともかく、なんかないのか?」
「ないわよ! 自分で頑張ることね。それじゃ、あでゅー♪」
あでゅーとか言って、コスプレ女は最初からいなかったかのようにその場から消えた。
あんな恥ずかしいことを、もう一度。想像するのも勘弁願いたい。願いたいが……。
「……梓には代えられないか」
頭の中でリハーサルを行いながら、俺は保健室を出た。
【昨日の晩飯がレタスとご飯だった男とツンデレ】
2010年04月03日
「もむもむもむ。ねータカシ、ご飯食べないの?」
昼休み、ボクっ娘が飯を食う様をじーっと眺めてると、そんなことを訊ねられた。
「もむもむ言いながら飯を食うボクっ娘に答えます。実は、昨夜さる悪事が母にばれ、夕食がレタス&ライスというダイエット中の女性もびっくりな食事が出てきたのです」
「もむもむ……」
折角教えてやったというのに、梓はなんだか嫌そうな顔をした。
「そして今日、弁当を母にもらおうとしたら『反省してる顔じゃない』と言われ、作ってくれませんでした。しかも、学食用の金もくれない有様!」
「へー、大変だね」
全然まったくちっとも大変そうに思ってない口調でのほほんと飯を食うボクっ娘。
「というわけで、腹が減る減る減りまくる」
「あっそー。もむもむもむ」
「……えい」
同情を誘って飯をもらおうと思ったら、ぜーんぜん同情してくれないので勝手に梓のおかずを取る。
「あああああ! ボクのおかず取った!」
「むぐむぐ、うむ。いまいち」
「人のおかず取っといてイマイチとか言ってるよこの人!?」
「梓、ご飯は静かに食べなさい」
「誰のせいでうるさくしてるんだと思ってるんだよぉ!?」
「むしゃむしゃむしゃ。うーん、全体的に野菜が多くて困る。肉が欲しい、肉」
「全然人の話聞かないでボクのお弁当食べまくってる!? こら取るな、ボクんだぞこのお弁当!」
「だがしかし、これを作ったのは梓の母親であって、そういう意味ではこの弁当の本当の持ち主は梓ママと言えるかともぐもぐ」
「いーから食うな! タカシが食べたらボクの分なくなっちゃうだろ!」
「うーん、ノド渇いた。梓、お茶取って」
「取んないよっ! お弁当だけじゃなく、持ってきたお茶まで飲み干すつもりだろ!」
「むー……ノドが渇く渇く渇く。しゃーない、そこらの奴を襲って水筒を奪うか」
「奪うなっ! ……もー、全部飲んじゃイヤだからね?」
梓は嫌そうな表情を浮かべながら、俺に水筒を渡した。
「任せろ!」
キャップを開いてから水筒を傾け、期待通り一気に飲み干す。
「全部飲んじゃイヤって言ったそばから全力で飲んでる!?」
「……ぶはーっ! む、腹がたぽんたぽんだ。略してハポン……む、日本人なので間違ってない」
「全部飲むなって言ってるのに、なんで全部飲むんだよ!」
「やっぱ夏は麦茶だな」
「ちょっとはボクの話聞けッ!」
「初体験はまだです」
「そんな話してないっ! はーっ、はーっ……」
「大丈夫か? ほら、お茶飲め」
「あ、ありがと……」
水筒を傾けるが、茶は出てこない。
「ああ、さっき飲みきったから出てくるわけないな。はっはっは」
「うう……ううううう、ううううう~!」
「ん? うが多いな。どうした梓?」
「タカシのばか! いじめっこ! ロリペド野郎!」
最後の悪口で大ダメージ。
「なんでボクのご飯全部食べちゃうんだよ! ボクお腹空いたよ! ぐーぐーだよ、はらぺこさんだよ!」
「やーい、はらぺこキャラ」
「誰のせいではらぺこキャラになったと思ってるんだよ! どうしてくれるんだよ!」
「むー……梓、今いくら持ってる?」
「教えな……かったら、勝手にボクの財布取りそうだから教える」
随分と信用されてなかった。
「えーと……今日は200円しか持ってきてない」
「ふむ。梓の200円と俺の全財産50円、ふたつ合わせたら学食でなんか食えるだろ」
「タカシ、全財産50円しかないんだ……」
「うっさい。ほれ、早く行かないと5限始まるぞ。急げ急げ」
「ぼ、ボクまだ行くって言ってないよ! こら引っ張るな!」
梓を引っ張って学食へ行く──が、250円では一品しか買えない。買えないなら、感動の名作に倣おう。
「なんでボクがタカシと一緒に……」
「ずるずるずる。黙って食え」
「うー……」
一杯のかけそばならぬ、一杯のラーメンを梓と一緒に分け合って食う。目の前に顔の赤い奴がいたら、大変食いにくい事を学習した。
昼休み、ボクっ娘が飯を食う様をじーっと眺めてると、そんなことを訊ねられた。
「もむもむ言いながら飯を食うボクっ娘に答えます。実は、昨夜さる悪事が母にばれ、夕食がレタス&ライスというダイエット中の女性もびっくりな食事が出てきたのです」
「もむもむ……」
折角教えてやったというのに、梓はなんだか嫌そうな顔をした。
「そして今日、弁当を母にもらおうとしたら『反省してる顔じゃない』と言われ、作ってくれませんでした。しかも、学食用の金もくれない有様!」
「へー、大変だね」
全然まったくちっとも大変そうに思ってない口調でのほほんと飯を食うボクっ娘。
「というわけで、腹が減る減る減りまくる」
「あっそー。もむもむもむ」
「……えい」
同情を誘って飯をもらおうと思ったら、ぜーんぜん同情してくれないので勝手に梓のおかずを取る。
「あああああ! ボクのおかず取った!」
「むぐむぐ、うむ。いまいち」
「人のおかず取っといてイマイチとか言ってるよこの人!?」
「梓、ご飯は静かに食べなさい」
「誰のせいでうるさくしてるんだと思ってるんだよぉ!?」
「むしゃむしゃむしゃ。うーん、全体的に野菜が多くて困る。肉が欲しい、肉」
「全然人の話聞かないでボクのお弁当食べまくってる!? こら取るな、ボクんだぞこのお弁当!」
「だがしかし、これを作ったのは梓の母親であって、そういう意味ではこの弁当の本当の持ち主は梓ママと言えるかともぐもぐ」
「いーから食うな! タカシが食べたらボクの分なくなっちゃうだろ!」
「うーん、ノド渇いた。梓、お茶取って」
「取んないよっ! お弁当だけじゃなく、持ってきたお茶まで飲み干すつもりだろ!」
「むー……ノドが渇く渇く渇く。しゃーない、そこらの奴を襲って水筒を奪うか」
「奪うなっ! ……もー、全部飲んじゃイヤだからね?」
梓は嫌そうな表情を浮かべながら、俺に水筒を渡した。
「任せろ!」
キャップを開いてから水筒を傾け、期待通り一気に飲み干す。
「全部飲んじゃイヤって言ったそばから全力で飲んでる!?」
「……ぶはーっ! む、腹がたぽんたぽんだ。略してハポン……む、日本人なので間違ってない」
「全部飲むなって言ってるのに、なんで全部飲むんだよ!」
「やっぱ夏は麦茶だな」
「ちょっとはボクの話聞けッ!」
「初体験はまだです」
「そんな話してないっ! はーっ、はーっ……」
「大丈夫か? ほら、お茶飲め」
「あ、ありがと……」
水筒を傾けるが、茶は出てこない。
「ああ、さっき飲みきったから出てくるわけないな。はっはっは」
「うう……ううううう、ううううう~!」
「ん? うが多いな。どうした梓?」
「タカシのばか! いじめっこ! ロリペド野郎!」
最後の悪口で大ダメージ。
「なんでボクのご飯全部食べちゃうんだよ! ボクお腹空いたよ! ぐーぐーだよ、はらぺこさんだよ!」
「やーい、はらぺこキャラ」
「誰のせいではらぺこキャラになったと思ってるんだよ! どうしてくれるんだよ!」
「むー……梓、今いくら持ってる?」
「教えな……かったら、勝手にボクの財布取りそうだから教える」
随分と信用されてなかった。
「えーと……今日は200円しか持ってきてない」
「ふむ。梓の200円と俺の全財産50円、ふたつ合わせたら学食でなんか食えるだろ」
「タカシ、全財産50円しかないんだ……」
「うっさい。ほれ、早く行かないと5限始まるぞ。急げ急げ」
「ぼ、ボクまだ行くって言ってないよ! こら引っ張るな!」
梓を引っ張って学食へ行く──が、250円では一品しか買えない。買えないなら、感動の名作に倣おう。
「なんでボクがタカシと一緒に……」
「ずるずるずる。黙って食え」
「うー……」
一杯のかけそばならぬ、一杯のラーメンを梓と一緒に分け合って食う。目の前に顔の赤い奴がいたら、大変食いにくい事を学習した。
【ボクっ娘とカキ氷を食べたら】
2010年03月30日
暑い。まるで太陽が俺だけを照らしてるかのように暑い。
「それというのも全部貴様のせいだ、ボクっ娘ぉぉぉぉぉ!!!」
「え、え?」
一緒に下校してたボクっ娘の鼻っ柱に指をずびしとつきつけると、梓は目を白黒させた。
「説明すると、ボクっ娘がボクと言うたびに俺の体感温度が1℃上がるんだ」
「上がるんだ、じゃないよ! いきなり何言ってんだよ、ばか!」
「いやいや、本当に。試しにボクとか言ってみろ」
「嫌だよ。どーせ言ったら『うぐー梓のせいで暑くなったーどうにかしろー』とか難癖つけられるもん」
む、ボクっ娘のクセに学習してやがる。生意気な。あと超似てねぇ。
「言わない言わない。言う訳がない」
「むー……」
「ほれほれ、言ってみ? だーいじょうぶだって、一回聞いたら満足するから」
「……一回だけだよ? えっと、……ボク」
「うぐー梓のせいで暑くなったーどうにかしろー」
「一字一句違わず一緒だよ! ……はぁ、思った通りだぁ」
「そんな訳で梓より体温が1℃高い俺を助けろ。褒美に俺の秘密を教えてやるから」
「秘密って……どんなの?」
「一週間にどれだけ精を放出するとか、それに使用するオカズとか」
「そんな秘密聞きたくないよっ! ご免こうむるよっ! 記憶から抹消したいよ!」
「だがしかし、すでに梓は俺の秘密を聞いてしまったので助けざるを得ないのだった」
「だった、じゃないよ! もう、勝手なんだから……」
「ま、ま。ほれ、なんか案ないか?」
「……どっかでカキ氷でも食べる? ちょっとは涼しくなるかも、だよ」
「おっ、いいな。しかも奢りとは嬉しいねぇ」
「そんなこと一言も言ってないよ! 奢らないよ! むしろ奢って欲しいよ!」
「けちー」
「……えっと、確かタカシに貸してたお金の総額は……円だね。半分だけでも返してもらおうかな、今すぐに」(にこやかに微笑みながら)
「今日は俺が奢らさせて頂きます、梓様。ですからどうかもうしばし待って頂きたい!」
「え、ホントに奢ってくれるの? えへへっ、なんか悪いなぁ♪」
くっ、してやったりな笑顔をしおって。こんなことばかりしてるから借金が減らないってのに。悔しいので鼻つまんでやる。
「ひゃ、ひゃふ~」(鼻声)
調子に乗って怒られた後、喫茶店へ行き、カキ氷を二つ頼む。俺はイチゴ、目の前で嬉しそうにニコニコしてるのはミルク。
「しゃぐしゃぐしゃぐ……あぅっ、頭キーンってする」
「俺は頭にゃるーんってする」
「……にゃるーん?」(極めて神妙な顔つきで)
「にゃるーん」
「……にゃるーん」
にゃるーんと言いながら、梓は俺のカキ氷を一口食べた。
「あっ、勝手に人の食うな!」
「むぐむぐ……にゃるーんってならないよ?」
「病気です」
「そんなわけないじゃん! むしろにゃるーんってなる方が病気だよ! にゃるーん病だよ!」
「にゃるーん病。見る人物全ての頭にネコミミが見える病気。ある種羨ましいと言えなくもないが、脂ぎったオッサンの頭部にもネコミミが見えるため自殺者が後を絶たない」
「また適当言って……」
少し呆れた様子で、梓は自分のカキ氷を一口食べた。
「ん~……おいしいねぇ。しゃぐしゃぐしゃぐ」
「……うまそうだな。梓、その牛の乳汁がかけられた氷を少しくれないか?」
「そういう風にヤな言い方する人にはあげないもんね」
「訂正。まだら生物の体液がかけられた氷を」
「余計嫌だよっ! あーもう、あげるから変なこと言わないの!」
梓はスプーンで氷をすくい、俺の口の前まで持ち上げた。ぱくりと一口で食べる。
「んぐんぐんぐ。うむ、梓の乳はうまいな」
「変なこと言うなって言ってるだろっ! もう……」
「じゃあ間接キスとか、そういうことも黙ってる」
「……あっ! ……そ、そうだね。そんなの、どうでもいいし、ボクも気にしないもんね」
「……気づいてなかったのか? さすがはボクっ娘、天下の粗忽者だな」
「気づいてたよ、気づきまくりだよ! ……うー」
じゃあ、なんでさっきから顔を赤くしてスプーンを眺めてるのだろう。
「それというのも全部貴様のせいだ、ボクっ娘ぉぉぉぉぉ!!!」
「え、え?」
一緒に下校してたボクっ娘の鼻っ柱に指をずびしとつきつけると、梓は目を白黒させた。
「説明すると、ボクっ娘がボクと言うたびに俺の体感温度が1℃上がるんだ」
「上がるんだ、じゃないよ! いきなり何言ってんだよ、ばか!」
「いやいや、本当に。試しにボクとか言ってみろ」
「嫌だよ。どーせ言ったら『うぐー梓のせいで暑くなったーどうにかしろー』とか難癖つけられるもん」
む、ボクっ娘のクセに学習してやがる。生意気な。あと超似てねぇ。
「言わない言わない。言う訳がない」
「むー……」
「ほれほれ、言ってみ? だーいじょうぶだって、一回聞いたら満足するから」
「……一回だけだよ? えっと、……ボク」
「うぐー梓のせいで暑くなったーどうにかしろー」
「一字一句違わず一緒だよ! ……はぁ、思った通りだぁ」
「そんな訳で梓より体温が1℃高い俺を助けろ。褒美に俺の秘密を教えてやるから」
「秘密って……どんなの?」
「一週間にどれだけ精を放出するとか、それに使用するオカズとか」
「そんな秘密聞きたくないよっ! ご免こうむるよっ! 記憶から抹消したいよ!」
「だがしかし、すでに梓は俺の秘密を聞いてしまったので助けざるを得ないのだった」
「だった、じゃないよ! もう、勝手なんだから……」
「ま、ま。ほれ、なんか案ないか?」
「……どっかでカキ氷でも食べる? ちょっとは涼しくなるかも、だよ」
「おっ、いいな。しかも奢りとは嬉しいねぇ」
「そんなこと一言も言ってないよ! 奢らないよ! むしろ奢って欲しいよ!」
「けちー」
「……えっと、確かタカシに貸してたお金の総額は……円だね。半分だけでも返してもらおうかな、今すぐに」(にこやかに微笑みながら)
「今日は俺が奢らさせて頂きます、梓様。ですからどうかもうしばし待って頂きたい!」
「え、ホントに奢ってくれるの? えへへっ、なんか悪いなぁ♪」
くっ、してやったりな笑顔をしおって。こんなことばかりしてるから借金が減らないってのに。悔しいので鼻つまんでやる。
「ひゃ、ひゃふ~」(鼻声)
調子に乗って怒られた後、喫茶店へ行き、カキ氷を二つ頼む。俺はイチゴ、目の前で嬉しそうにニコニコしてるのはミルク。
「しゃぐしゃぐしゃぐ……あぅっ、頭キーンってする」
「俺は頭にゃるーんってする」
「……にゃるーん?」(極めて神妙な顔つきで)
「にゃるーん」
「……にゃるーん」
にゃるーんと言いながら、梓は俺のカキ氷を一口食べた。
「あっ、勝手に人の食うな!」
「むぐむぐ……にゃるーんってならないよ?」
「病気です」
「そんなわけないじゃん! むしろにゃるーんってなる方が病気だよ! にゃるーん病だよ!」
「にゃるーん病。見る人物全ての頭にネコミミが見える病気。ある種羨ましいと言えなくもないが、脂ぎったオッサンの頭部にもネコミミが見えるため自殺者が後を絶たない」
「また適当言って……」
少し呆れた様子で、梓は自分のカキ氷を一口食べた。
「ん~……おいしいねぇ。しゃぐしゃぐしゃぐ」
「……うまそうだな。梓、その牛の乳汁がかけられた氷を少しくれないか?」
「そういう風にヤな言い方する人にはあげないもんね」
「訂正。まだら生物の体液がかけられた氷を」
「余計嫌だよっ! あーもう、あげるから変なこと言わないの!」
梓はスプーンで氷をすくい、俺の口の前まで持ち上げた。ぱくりと一口で食べる。
「んぐんぐんぐ。うむ、梓の乳はうまいな」
「変なこと言うなって言ってるだろっ! もう……」
「じゃあ間接キスとか、そういうことも黙ってる」
「……あっ! ……そ、そうだね。そんなの、どうでもいいし、ボクも気にしないもんね」
「……気づいてなかったのか? さすがはボクっ娘、天下の粗忽者だな」
「気づいてたよ、気づきまくりだよ! ……うー」
じゃあ、なんでさっきから顔を赤くしてスプーンを眺めてるのだろう。
【憑かれてるツンデレ】
2010年03月30日
近頃ボクっ娘の顔色が冴えないので、ちょっとだけ心配。
「どした、ボクっ娘? なんか疲れてるけど……」
「そうなんだよ、大変なんだよ! 助けてよタカシ!」
「うわっ」
「あぎゅっ」
突然ボクっ娘が走り寄ってきたので、慌てて避けると変な声をあげながら壁にぶつかった。
「やあ、痛そうだ」
「痛いよ! 鼻が取れるかと思ったよ! なんで避けるんだよ!」
鼻をさすさすさすりながら、梓が怒った。
「ボクっ娘に触れると、俺の体は緑色の液体になって溶けちゃうんだ」
「なんだよそのバレバレの嘘! 嘘つくならもっとばれにくい嘘つけよなっ!」
「梓を抱き留めたりなんかしたら、恥ずかしさのあまり顔真っ赤になっちゃって、俺が梓のこと好きだってバレちゃうじゃん」
「えっ、えええええ!? たっ、タカシって、ボクのこと好きなの!?」
「ばれにくい嘘成功」
「半分くらいはそうだと思ったよ、ばかぁ!」
なんか怒られた。半分は信じたのか。
「んで、どしたんだ? 大変とか言ってたけど……」
「あっ、そう! そうなんだよ! ボク、憑かれちゃったんだ!」
「ほう、漬かれた? 俺の知らない間に大人の階段上り、シンデレラならぬ漬物になってたんだな。何味?」
「違うよっ! 大人の階段上っても漬物にならないっ! 漬物じゃなくて、幽霊! 幽霊に取り憑かれちゃったんだよ!」
いっぱいつっこまれた。
「要約すると、漬物の幽霊に取り付かれて漬物にされそうだ、ということか?」
「全然違うよっ! タカシが言ってるのとごちゃごちゃになってるよっ!」
「漬物の幽霊って何?」
「知らないよっ! ああもう、タカシと話してるとボクまで馬鹿になっちゃいそうだよ……」
失礼な。
「とにかく、幽霊に取り憑かれちゃったんだ。どうにかしてよ」
「どうにかと言っても……漬物の幽霊なんて聞いたことないしなぁ」
「漬物のことはもう忘れて! 全然関係ないから!」
「分かった。今後一切漬物なんて考えないし、見もしない。それどころか存在を抹消させるべく、漬物抹殺部隊を編成して市場に溢れる漬物を」
「もーっ、もーっ、もーっ! 変なことばっか言うな!」
怒られたので真面目に相手することにする。
「しかし、幽霊と言われてもなぁ……どんなの?」
「なんか、女の人っぽい。怖くてはっきり見てないけど」
「怖がり」
「しっ、仕方ないじゃん! ……女の子だもん」
「だがしかし、ここに男だと言うのにホラー映画に怯える者がいることを忘れるな!」
「なんでここまでかっこ悪い事を誇らしげに言えるんだろ……」
うるさい。
「んじゃ、幽霊出して」
「出してって……ボクの意思じゃどうにもならないよ。それに、夜にならないと出てこないんだ」
「んじゃ、夜まで梓の部屋で待つとしますか。何する? えっちなこと?」
「するわけないだろ、えっちっ!」
という訳で梓の部屋でゲームしたりだべったりして時間を潰し、夜になった。
「……眠い。寝る」
「ダメだよっ! 何しに来たんだよっ!」
「確か、寝に来たような」
「違うだろっ!」
首をひねって思い出そうとするが、生憎眠くて頭が働かない。
「うーんうーんうーん……あ、思い出した。幽霊だ、幽霊」
「それくらい覚えてろよなぁ、もう……」
「梓の後ろに立ってる人見て思い出した。やあ、よかったよかった」
「後ろって……うう、うしろっ!?」
自分の後ろに立ってる体の透けてる人を見て、梓は大げさに驚いた。
「でっ、でで、出たよ出たよ! 退治だよ除霊だよどうにかしてよタカシ!」
「どうにかしろと言われても、何の対策もしてないしなぁ。はっはっは」
「笑ってないでどうにかしろっ! ぼ、ボクが呪い殺されちゃってもいいの?」
「む、それは困る」
「え……」
梓が殺されてしまうと、俺はこれから先誰をからかえばいいと言うのだ。
「待ってろ梓、いま助ける!」
「う……うん! なんだかタカシが有り得ないほどかっこよく見えるよ……」
梓の近くに寄り、幽霊と接触を試みる。
「…………?」
自分の置かれている状況をよく理解していないのか、幽霊は小首を傾げた。
「えい」
「ひゃんっ!?」
触れるか試しにおっぱいをつついたら、幽霊の口から色っぽい声が飛び出した。
「な、なな、なにやってんだよ!」
「接触を試みた」
「もっと方法があるだろ! なんで胸つつくんだよ!」
「触れて一番嬉しい場所だし」
素直に言ったのに、梓にほっぺ引っ張られた。怒っているようだ。
「胸をつつかれるとは……生まれてから死んだ後の今までで、初の事です。……ちょっと、ドキドキです」
幽霊は少しうつむきながらも、ほんのり頬を染めながら言った。
「や、そんなこと言われるとお兄さん照れますよ? はっはっは」
「むーっ!」
照れ隠しに笑ってたら、梓にほっぺをつねられた。
「デレデレしてる暇があったら除霊してよ!」
「何を言うか。デレデレなんてしてないぞ?」
「してたよ、しまくりだよ! デレーってほっぺ緩ませちゃってさ、馬鹿みたい」
「む、梓の頭じゃないんだから緩まないぞ」
「ボクの頭だって緩まないよっ! 人をバカみたいに言うなっ!」
「……幽霊というレアな存在なのに、無視されてます。……少し、寂しいです」
梓と俺、どっちが緩んでるか議論してると、幽霊が言葉どおり寂しそうに俺の服の裾を引っ張った。
「それは悪いことをした。もう大丈夫、俺がいるからな」
「あっ……」
「ああーっ!」
優しくしたら除霊できるかもと思ったので、幽霊の体を優しく抱きしめると梓が素っ頓狂な声をあげた。
「あ、ああ、あああああ! な、なにを抱きしめてんだよ!」
「いや、除霊を……」
「除霊を、じゃないよ! 抱きしめてんじゃん!」
「はぅ……」
「幽霊さんもなにうっとりしてんだよぉ!?」
「……男の人に抱きしめられるなんて、生きてる間もなかったことです。……なんだか、好きになっちゃいそうです」
「だだダメっ! そんなのダメダメダメだよっ! こんなの好きになっちゃ人生終わりだよっ!」
酷い言い草だ。
「……私はもう人生終わってるので、好きになっても問題ないです」
「あ、そういやもう死んでるもんな。わはははは!」
「笑えないよっ!」
それもそうだ。不謹慎でした。
「だ、第一さ、タカシってばいじわるだし、変なことばっか言うよ? 一緒にいたら疲れるし、やめといた方がいいよ?」
「その割にゃ、梓はいつも俺のそばにいるよな。疲れないのか?」
「ぼ、ボクは慣れてるからへーきだもん。慣れてない幽霊さんは大変だよ? だ、だからやめた方が……」
「……幽霊なので、疲れというものとは無縁です。……ぶい」
ぶい、と言いながらピースサインを梓に向ける幽霊。明るい幽霊だ。
「……と、いうわけで、今日から貴方の幽霊さんです。……しばらく取り憑かせて頂きます」
「や、これはこれはご丁寧に」
お辞儀されたので、礼を返す。
「これで幽霊は梓から俺に移行したな。よかったな、梓……あずさ?」
「う、うう、ううううう~っ!」
てっきり「これで霊障に悩まされずに済んで嬉しいよ! お礼にボクの初めてあげる!」とでも言うと思ったのに、梓ったら目尻に涙を浮かべて俺を睨んでいた。
「ダメのダメダメダメっ! 一緒にいるとかダメっ! これボクんだぞっ!」
すげー勢いで梓が俺の腕を抱きしめ、幽霊を睨んだ。
「え、いや梓、俺の所有権は俺自身にあり、決して梓には」
「タカシは黙ってて!」
「は、はい」
いつにない迫力に、思わず押し黙る。
「……嫌です。あげません。私のです」
梓につかまれてる反対側の腕をぎゅっと抱きしめる幽霊。知らない間に幽霊にも所有権を奪われていた。
「ボクのボクのボクの!」
「……私のです」
「あ、あの、お嬢さん方、俺は誰のものでも」
「「うるさいっ!」」
「すいません」
結局、夜が明けるまで俺の所有権を奪い合われた。
「どした、ボクっ娘? なんか疲れてるけど……」
「そうなんだよ、大変なんだよ! 助けてよタカシ!」
「うわっ」
「あぎゅっ」
突然ボクっ娘が走り寄ってきたので、慌てて避けると変な声をあげながら壁にぶつかった。
「やあ、痛そうだ」
「痛いよ! 鼻が取れるかと思ったよ! なんで避けるんだよ!」
鼻をさすさすさすりながら、梓が怒った。
「ボクっ娘に触れると、俺の体は緑色の液体になって溶けちゃうんだ」
「なんだよそのバレバレの嘘! 嘘つくならもっとばれにくい嘘つけよなっ!」
「梓を抱き留めたりなんかしたら、恥ずかしさのあまり顔真っ赤になっちゃって、俺が梓のこと好きだってバレちゃうじゃん」
「えっ、えええええ!? たっ、タカシって、ボクのこと好きなの!?」
「ばれにくい嘘成功」
「半分くらいはそうだと思ったよ、ばかぁ!」
なんか怒られた。半分は信じたのか。
「んで、どしたんだ? 大変とか言ってたけど……」
「あっ、そう! そうなんだよ! ボク、憑かれちゃったんだ!」
「ほう、漬かれた? 俺の知らない間に大人の階段上り、シンデレラならぬ漬物になってたんだな。何味?」
「違うよっ! 大人の階段上っても漬物にならないっ! 漬物じゃなくて、幽霊! 幽霊に取り憑かれちゃったんだよ!」
いっぱいつっこまれた。
「要約すると、漬物の幽霊に取り付かれて漬物にされそうだ、ということか?」
「全然違うよっ! タカシが言ってるのとごちゃごちゃになってるよっ!」
「漬物の幽霊って何?」
「知らないよっ! ああもう、タカシと話してるとボクまで馬鹿になっちゃいそうだよ……」
失礼な。
「とにかく、幽霊に取り憑かれちゃったんだ。どうにかしてよ」
「どうにかと言っても……漬物の幽霊なんて聞いたことないしなぁ」
「漬物のことはもう忘れて! 全然関係ないから!」
「分かった。今後一切漬物なんて考えないし、見もしない。それどころか存在を抹消させるべく、漬物抹殺部隊を編成して市場に溢れる漬物を」
「もーっ、もーっ、もーっ! 変なことばっか言うな!」
怒られたので真面目に相手することにする。
「しかし、幽霊と言われてもなぁ……どんなの?」
「なんか、女の人っぽい。怖くてはっきり見てないけど」
「怖がり」
「しっ、仕方ないじゃん! ……女の子だもん」
「だがしかし、ここに男だと言うのにホラー映画に怯える者がいることを忘れるな!」
「なんでここまでかっこ悪い事を誇らしげに言えるんだろ……」
うるさい。
「んじゃ、幽霊出して」
「出してって……ボクの意思じゃどうにもならないよ。それに、夜にならないと出てこないんだ」
「んじゃ、夜まで梓の部屋で待つとしますか。何する? えっちなこと?」
「するわけないだろ、えっちっ!」
という訳で梓の部屋でゲームしたりだべったりして時間を潰し、夜になった。
「……眠い。寝る」
「ダメだよっ! 何しに来たんだよっ!」
「確か、寝に来たような」
「違うだろっ!」
首をひねって思い出そうとするが、生憎眠くて頭が働かない。
「うーんうーんうーん……あ、思い出した。幽霊だ、幽霊」
「それくらい覚えてろよなぁ、もう……」
「梓の後ろに立ってる人見て思い出した。やあ、よかったよかった」
「後ろって……うう、うしろっ!?」
自分の後ろに立ってる体の透けてる人を見て、梓は大げさに驚いた。
「でっ、でで、出たよ出たよ! 退治だよ除霊だよどうにかしてよタカシ!」
「どうにかしろと言われても、何の対策もしてないしなぁ。はっはっは」
「笑ってないでどうにかしろっ! ぼ、ボクが呪い殺されちゃってもいいの?」
「む、それは困る」
「え……」
梓が殺されてしまうと、俺はこれから先誰をからかえばいいと言うのだ。
「待ってろ梓、いま助ける!」
「う……うん! なんだかタカシが有り得ないほどかっこよく見えるよ……」
梓の近くに寄り、幽霊と接触を試みる。
「…………?」
自分の置かれている状況をよく理解していないのか、幽霊は小首を傾げた。
「えい」
「ひゃんっ!?」
触れるか試しにおっぱいをつついたら、幽霊の口から色っぽい声が飛び出した。
「な、なな、なにやってんだよ!」
「接触を試みた」
「もっと方法があるだろ! なんで胸つつくんだよ!」
「触れて一番嬉しい場所だし」
素直に言ったのに、梓にほっぺ引っ張られた。怒っているようだ。
「胸をつつかれるとは……生まれてから死んだ後の今までで、初の事です。……ちょっと、ドキドキです」
幽霊は少しうつむきながらも、ほんのり頬を染めながら言った。
「や、そんなこと言われるとお兄さん照れますよ? はっはっは」
「むーっ!」
照れ隠しに笑ってたら、梓にほっぺをつねられた。
「デレデレしてる暇があったら除霊してよ!」
「何を言うか。デレデレなんてしてないぞ?」
「してたよ、しまくりだよ! デレーってほっぺ緩ませちゃってさ、馬鹿みたい」
「む、梓の頭じゃないんだから緩まないぞ」
「ボクの頭だって緩まないよっ! 人をバカみたいに言うなっ!」
「……幽霊というレアな存在なのに、無視されてます。……少し、寂しいです」
梓と俺、どっちが緩んでるか議論してると、幽霊が言葉どおり寂しそうに俺の服の裾を引っ張った。
「それは悪いことをした。もう大丈夫、俺がいるからな」
「あっ……」
「ああーっ!」
優しくしたら除霊できるかもと思ったので、幽霊の体を優しく抱きしめると梓が素っ頓狂な声をあげた。
「あ、ああ、あああああ! な、なにを抱きしめてんだよ!」
「いや、除霊を……」
「除霊を、じゃないよ! 抱きしめてんじゃん!」
「はぅ……」
「幽霊さんもなにうっとりしてんだよぉ!?」
「……男の人に抱きしめられるなんて、生きてる間もなかったことです。……なんだか、好きになっちゃいそうです」
「だだダメっ! そんなのダメダメダメだよっ! こんなの好きになっちゃ人生終わりだよっ!」
酷い言い草だ。
「……私はもう人生終わってるので、好きになっても問題ないです」
「あ、そういやもう死んでるもんな。わはははは!」
「笑えないよっ!」
それもそうだ。不謹慎でした。
「だ、第一さ、タカシってばいじわるだし、変なことばっか言うよ? 一緒にいたら疲れるし、やめといた方がいいよ?」
「その割にゃ、梓はいつも俺のそばにいるよな。疲れないのか?」
「ぼ、ボクは慣れてるからへーきだもん。慣れてない幽霊さんは大変だよ? だ、だからやめた方が……」
「……幽霊なので、疲れというものとは無縁です。……ぶい」
ぶい、と言いながらピースサインを梓に向ける幽霊。明るい幽霊だ。
「……と、いうわけで、今日から貴方の幽霊さんです。……しばらく取り憑かせて頂きます」
「や、これはこれはご丁寧に」
お辞儀されたので、礼を返す。
「これで幽霊は梓から俺に移行したな。よかったな、梓……あずさ?」
「う、うう、ううううう~っ!」
てっきり「これで霊障に悩まされずに済んで嬉しいよ! お礼にボクの初めてあげる!」とでも言うと思ったのに、梓ったら目尻に涙を浮かべて俺を睨んでいた。
「ダメのダメダメダメっ! 一緒にいるとかダメっ! これボクんだぞっ!」
すげー勢いで梓が俺の腕を抱きしめ、幽霊を睨んだ。
「え、いや梓、俺の所有権は俺自身にあり、決して梓には」
「タカシは黙ってて!」
「は、はい」
いつにない迫力に、思わず押し黙る。
「……嫌です。あげません。私のです」
梓につかまれてる反対側の腕をぎゅっと抱きしめる幽霊。知らない間に幽霊にも所有権を奪われていた。
「ボクのボクのボクの!」
「……私のです」
「あ、あの、お嬢さん方、俺は誰のものでも」
「「うるさいっ!」」
「すいません」
結局、夜が明けるまで俺の所有権を奪い合われた。