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2024年11月21日
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【ハナ エイプリルフール】

2013年04月07日
「エイプリルフールという話だが」
「はや」
 4月1日、恋人であるところのハナを呼び出した俺は、唐突にそう切り出した。
「なので、騙しますね」
「困ります」
「む。困られては困りますね」
「はや。じゃ、いいです。騙してください、彰人くん」
「なんという心がけ、素晴らしきは善人思想! 将来は天国行き確定ですね!」
「嬉しいです!」ピョンピョン
「そして俺は悪人なので地獄行きが確定しており、悲しい」
「そんなこと言っちゃダメです! 彰人くんはいい人なので、彰人くんも天国行き確定なのです!」
「ヤッタネ! じゃあ今すぐ殺してください」
「嫌です」
「なんてワガママな」
「今日も彰人くんは無茶苦茶です」
「はい。さて、ではエイプリル嘘、いくぞ!」シュバッ
 折角なのでかっこいいポーズを決めてみる。残念ながら一人称視点を変更できないので確認できないが、かっこいいに違いない。
「はや……今日も彰人くんのタコのうねうねポーズは素敵です」
 素敵と評されたのは嬉しいが、タコのうねうねポーズと評されてしまった俺のかっこいいポーズが可哀想だ。
「まあいいや。えーと、実は俺はハナが嫌いなんだ」
「…………。た、耐えました。先に嘘って聞いてたから耐えられました。偉いですか?」
「…………」
「あ、彰人くん?」クイクイ
「…………」
「あ、あの、彰人くん? 嘘ですよね? 見破りましたよ? あの、あの?」クイクイ
「…………」プイッ
「あ……。あ、あの、ご、ごめんなさい。毎日いっしょだと、さすがに、つ、疲れちゃいますよね? き、今日は帰りますので、また、もしよかったら、メールでいいから、連絡……してくれると、嬉しいです……」
「……はぁ」
「ふぐっ……あ、あの。……そ、それじゃあ、また新学期に」ポロポロ
「うーそー! 嘘だよー! やーい騙されてやんのばーかばーかばーか!」ムギュー
「もっ……もー! もー! もーもーもー!」ムギュギュー
「嘘をつくとあらかじめ言ったのに、どうして泣きますかね」
「あの態度は酷いです! 私だけでなく、古今東西どんな女の子でも泣いちゃいます!」ポロポロ
「ああはいはい。ごめんな。ごめんな」ナデナデ
「ううー。うううー。ううー!」スリスリ
「では、泣かせたお詫びとして、何かひとつだけ願いを叶えてあげましょう」
「……ホントですか?」
「いや、嘘」
「…………」
「エイプリルフール!」ジャーン
「うううううー!」ポカポカ
「わはは。ハナは愉快だなあ」
「ぐすぐす。今日も彰人くんは冴え渡ってて素敵ですが、少しだけ小憎らしいです」
「小僧という言葉に似てるから、しょうがないね」
「そして今日も思考が謎で素敵です」
 それは別に素敵ではないと思う。
「冗談はともかく、お詫びに何か願い事を聞くが、何かあるか?」
「本当ですか? またエイプリルフールですか? ジャーンって口で言うのですか?」
「いや、これは本当。エイプリルフールは関係ない。ジャーンは恥ずかしいから言わないで」
「くすくす。それじゃ、ですね……?」

「あの、ハナさんや」
「なんですか、彰人くん?」
「その、散歩なんてわざわざお願いしなくても、言えばいつでも行くのだけど……」
 ハナと手をつなぎ、一緒に近所をぷらぷらと歩いているだけなので、これだけではどうにも申し訳ない。
「いいのです。この季節に、一緒に歩きたかったんです。これは、お願いごとのランキングの中でもかなり上位のことです。地球のドラゴンボールでは叶えられないレベルです。ポルンガならいけます」
「しかし、地球のシェンロンは多数の人間を同時に生き返せられるから、一概にどちらのレベルが高いか言えないぞ?」
「はや……その通りです! 今日も彰人くんの頭脳は冴え渡ってるので大好きです」
「では、冴え渡らなくなると大嫌いになるのか。鍛えないとなあ」
「? 大好きですよ?」
 不思議そうな顔で俺の手をきゅっと握るハナ。
「つまり、特に理由もなく好きなのか」
「いいえ」
 ハナは小さく頭をふって、俺を見つめた。
「彰人くんだから、好きなんですよ?」
「ぐ……」
 ストライク出ました。直球です。久々に大当たりです。ええい。ええい!
「……え、えへへー。照れましたか?」
「ああ。照れたね。ハナと同等程度には」
「わ、私は照れてませんよ!? ええ、ええ!」
「じゃあその顔が真っ赤な理由を述べよ。配点:20点」
「はや、高配点です! し、しかし、理由は不明であり以後ずっと不明なので20点は諦めます!」
「残念……ん?」
 行く先に、ちらちらと舞い降る何か。桜だ。そうか、春なんだ。
「綺麗……」
 舞い散る桜の中で、空を見上げるハナ。その姿に、思わず息を呑む。情景が完全に一枚の絵画だ。この景色を壊したくない。息すら忘れ、ハナを見つめる。
「……ん? 彰人くん、何してるんですか?」
 呼吸を止めていることをジェスチャーで伝えてみる。
「なんでなのですかっ!?」
 完全に俺のジェスチャーを読み取ったハナが、無理やり俺の口をこじ開けた。
「ぷはあっ。何をする」
「それはこっちのセリフですっ! なんでいきなり死にかけてるんですかっ!?」
「世界は驚きに満ち満ちているね」
「彰人くんといると、本当にそう思います……」
 ぐったりしたかと思うと、ハナは楽しそうにクスクスと笑った。
「ふふっ。……本当に、そう思います。驚きと、幸福に満ち満ちています」
「おや、奇遇ですね。偶然にも、俺もそう感じてますよ」
 ハナは一瞬目を見開くと、顔いっぱいの笑顔を見せた。
「えへへっ。素敵な、素敵な時間ですっ♪」
「でっかい幸せです」
「隙あらばアニメをぶち込んできますが、この程度で私の幸福はぐらつきもしませんよ?」
「なんという牙城か……!」
 それからしばらく近所をぶらついた後、ハナと一緒に帰りました。

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【ハナ 梅雨】

2012年06月22日
 今月は梅雨なので雨がすごい。そして今日は傘なんてその存在意義を問われそうなくらい役に立たないレベルの雨が降っている。
「うう……びしょびしょです」
 そんなわけで、帰宅を諦め公園の東屋に一時避難。だが、既に俺も恋人のハナも雨で濡れ濡れだ。
「本当だな。服が透けて下着が見えて嬉しいな」
「はや、はやややや!? こ、これはダメです、見てはダメです!」
 ハナは顔を真っ赤にして胸元を覆い隠した。
「大丈夫だ、ハナ! 幸いにしてこの公園には俺たちしかいない。だから、さあ、乳を見せろ」
「御免被ります。乳は見せません」
「あ、よく観たら乳はなかった。ないものねだりはよくなかったな。はっはっは」
「女性として鼎の軽重を問われています! あります、おっぱいはあります!」
「…………。いや、そんなことはない」
「じっくり見られてそう言われては、返す言葉がないです……」
 なんだかしょんぼりしてしまったので、頭をなでて慰める。
「冗談だよ、ハナ。俺はそういうちっこいのが大好きなんだ」ナデナデ
「その言葉となでなでで、しょんぼりがどこかへ行ってしまいました♪」
「まあそれはそれとして小さいですよね」
「しょんぼりさん、ご帰還です……」ションボリ
「いやはや、今日も可愛いなあ!」ナデナデナデ
「今日もからかわれていた様子です……くしゅっ」
「あ。……うーむ、止まないなあ」
 ちらりと外を見る。雨は勢いを弱めるどころか、どこか増しているような気さえする。
「だ、だいじょぶです。ちょっとくしゃみが出ただけです。このくらいじゃ風邪なんてひきません。ヘッチャラです。ハナは強い子です」
「ふむン……ちょい失礼」ギュッ
「ふやっ!?」
 ハナの身体をむぎゅっと抱きしめる。濡れてて冷たいが、俺の体温で少しはマシだろう。
「あ、彰人くんっ、彰人くんっ!?」
「はいはい」ナデナデ
「はぅー……。……いやいやっ、違いますっ! 思わず落ち着いちゃいましたが、違いますっ! こっ、こんなお外で抱っこなんて、恥ずかしいですっ!」
「まあ、人目もないことだし、少しだけ我慢してくださいよ。こうしてりゃちょっとは暖かいだろうし。雨の勢いが弱るまでの我慢ですよ、我慢」
「が、我慢というか、とってもとっても嬉しいですが……あ、あの、恥ずかしいのがどうにもこうにも困っちゃいます」
 ハナは困ったような恥ずかしそうな顔で俺を見上げた。むぎゅー、とその頭を俺の胸に押し付ける。
「はぅぅ……」
「ハナって頭小さいよな」
「自分じゃ分からないです……」
 なんとなくハナの頭にあごを乗せる。
「はぅ。私の頭はあご置き場じゃないですよ?」
「いや、あご置き場だ」
「奇妙極まる置き場にされました……」
「ただ、俺専用のあご置き場だ」
「……はい。それは、その、いい感じです」
「なんだそりゃ」
「その……独占欲が、いい感じに作用した感じです」
「実に感じまくりだな。ハナは敏感なのか?」
「勘違いされている様子です……」
「よし、確かめてみよう」ナデナデ
「はぅー……」
「不感症だ」
「大変に失礼です! 敏感です!」
「だって、頭なでたらはぅーって言うだけでちっとも感じやがらねえ」
「うっとりしただけです! 幸福に耽っていただけです!」
「負けじとこちらもなでてると幸せですよ?」
「今日も彰人くんは嬉しいことばかり言って私を喜ばせるので要注意です」
「この娘は変だなあ」ナデナデ
「彰人くんに変呼ばわりされるとは、予想だにしませんでした……」
 と失礼なことを言われつつなでなですりすりしてたら、いつの間にか雨脚が弱くなったようだ。
「ハナ、今なら大丈夫っぽいぞ」
「はいっ!? ……は、はい」
 なんか知らんがハナが目をつむって口をむちゅーってしだした。
「いや、雨が弱くなったから帰ろうか、って話のつもりだったのだけど」
「…………」
 目をつむったまま、ハナの顔がとんでもなく赤くなっていく。
「……このまま消えてしまいたいほど恥ずかしいです」
 ゆっくりと開いた目は、既に半泣きだった。
「ふむン。ちょい失礼」
「!!?」
 ちゅっ、とハナの口に自分のそれを合わせる。少し湿ってて、そして慣れた感触が唇に訪れる。
「あっ、あきっ、彰人くん!?」
「はいはい」ナデナデ
「こ、今度ばかりははぅーって場合じゃないです! ちゅ、ちゅー! ちゅーしました!」
「気持ちよかったです」
「はいっ! ……いやいや、はいじゃないです。何を元気よく返事してるんですか、私は」
「んじゃ、帰ろっか?」
「は、はい。……あの、彰人くん。さっきのちゅーはどういうことか説明する義務があると思います」
「ハナが可愛いくてちゅーしたくなったので、した」
「……そ、それはずるい説明です。反論とか抗議とかできなくなっちゃいます」
「俺の狙いはばつぐんだ!」
「……私の勘違いで恥ずかしくなっちゃったのをかき消す、華麗な策です。今日も彰人くんは素敵すぎです」
「……全く。恋人の頭がよいと困るね」ナデナデ
「それはこっちの台詞ですよ、彰人くん?」
 ご機嫌な感じのハナと一緒に、相合傘で帰りました。

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【ハナ シュークリーム】

2011年11月02日
 恋人であるところのハナがお土産片手に遊びに来たので、頭をなでてみた。
「お土産効果、抜群です。これはもう、毎回お土産を持ってきて頭をなでてもらうしかないです!」
 何やら勘違いされてる御様子。
「別に土産を持ってきたからなでたのではなく、なんとなくなでただけです」
「とっても残念な真実です……」
 何やらしょんぼり具合が大きくなったので、気合を入れて頭をなでてみる。
「えへへぇ♪」
 すると、喜び具合が大きくなったので俺の選択は正しいことが証明されました。
「んで、ハナの人や。何を買ってきたのかね?」
「しゅーくりーむです。大安売りしてたので、奮発して四つ買ってきました、四つ。……偉いですか?」
「歴史の教科書に載る程度には偉い」
「知らず大業を成し遂げていたようです!」
「んじゃ食おう食おう。あ、飲み物何がいい? 俺の唾液?」
「……あ、あーん」
「信じるな。口を開けるな。頬を赤らめるな」
「あ、彰人くんならやりかねないと思ったんです。私の想い人は少し頭がおかしいんです」
「酷いことを言うものだ」
 恋人に頭がおかしいと評される符長彰人ですこんばんは。そして俺の脳内こんばんはは今日も冴えている。
「彰人くんに鍛えられました。……凄いですか?」
「あー凄い凄い。んで、飲み物何がいい?」
「んと……紅茶がいいです」
「紅茶ね……あったかなあ」
 自室を出て台所へ向かっていると、何やら背後から気配が。すわ背後霊が実体化した、と一瞬思ったが、当然そんなわけはなく、ハナがついてきていただけだった。
「何もついてくる必要はないと思うのだけど」
「……だ、ダメですか?」
「え、いや、ダメではないが……」
「じゃ、じゃあ、一緒がいいです。いっしょ、いっしょ」
 ちょこんと俺の服の裾を小さくつまみ、ハナは嬉しそうに呟いた。
「キミはいちいち可愛いので困ります」
「そ、そんなこと言われたら、私の方が困ります」
「双方困ったということで、おでこの刑」
「や、やー! おでこやー!」
 ハナはなぜか知らないがおでこをさらされるのを嫌い、普段は前髪で隠している。だが、嫌がるリアクションが楽しくて、俺は度々ハナの前髪を上げ、おでこをさらしてしまう。
「ううう……普段の彰人くんは大好きですが、こうやって私のおでこを晒す彰人くんは嫌いです」
 ハナは俺から離れると、少し拗ねたような口ぶりで言った。
「俺はどんなハナでも大好きだよ」
「……そ、そゆこと言って私の機嫌をうかがう彰人くんはずるいです。さっき言った嫌いがもうどこかへ行ってしまったじゃないですか」
 ハナは俺の傍まで歩み寄ると、再び俺の服をきゅっと握った。
「えい」
「や、やー! またおでこやー!」
 このお嬢さんに学習機能はないようです。

「ううう……いっぱいおでこを晒されました。陵辱されました」
「また人聞きの悪いことを……」
 結局台所に辿り着くまで4回おでこを晒しました。楽しかった。
「ぷんぷんです。普段ならすぐに許してしまいますが、私の怒りは有頂天に達して怒髪が天を突いてます。ちょっとやそっとじゃ許しません」
「よく分からないが、怒ってることは伝わった」
「それだけ伝わればじゅーぶんです」
「以心伝心で嬉しいな」
「はい♪ ……い、いやいや、違います。私は怒ってるんです。……あの、彰人くん。あまり私を喜ばせることは言ってはいけません。許しちゃいます」
「ものっそい笑顔で“はい♪”って言ってたな」
「お、怒ってるんです!」
「はいはい」(なでなで)
「な、なでなでも禁止です! ほ、ほら! なんか嬉しくなってきちゃいましたよ! どーしてくれるんですか!」
「そんな怒られても」
「う、ううー……彰人くんはすぐに私を嬉しくするので注意が必要です。要注意人物です」
 背後で変なことを言ってる恋人を余所に、紅茶を探す。えーと……あ、棚の中にあった。
「あったあった。よし、たまには俺も紅茶にしよう」
「う。……ま、またです。一緒の飲み物を飲むことにより、私を喜ばせる作戦です。彰人くんは今日も策士です」
「そんなつもりは毛頭ない」
 勝手に策士認定されつつ、カップに湯を注いで部屋に戻る。紅茶はハナに持たせました。
「うし。んじゃ、ちゃっちゃと紅茶作って、ハナの買ってきたシュークリームを食おう」
 インスタントの紅茶をカップに入れ、ちゃぷちゃぷと揺する。
「? どした、ハナ。紅茶作らないのか?」
「彰人くんの使ってるのを後で使います。……あ、それとも、使い回しとか嫌ですか?」
「いやいや。それどころか、経済観念のしっかりしたお嬢さんで嫁に最適と思った次第だ」
「……お、お嫁さん」
 ハナの顔が今世紀最大に赤くなった。
「し、将来の話だよ!?」
「そ、そですよね。……び、びっくりしました」
「俺もびっくりした。サルの尻くらい赤くなるんだもん」
「でん部扱いです……」
 何やらしょんぼりした様子で、ハナは俺から受け取った紅茶をカップに入れてちゃぷちゃぷした。
「はぁ……。びっくりしすぎて、怒ってるのがどっか行っちゃいました。大弱りです」
「弱って字が鰯に似てるから?」
「今日も彰人くんの思考は謎に包まれてます」
 真顔で言われると辛い。
「まあいいや……ともかく、シュークリームを食おう」
「あ、はい。カスタードといちごの二種類があるんですけど、どっちがいいですか?」
 ハナは両手にシュークリームを持ち、俺に訊ねた。
「こうなったら運否天賦だ。せっかくだから俺はこの茶色いシュークリームを選ぶぜ!」
「は、はや……何が折角か分からないし、両方とも茶色いです」
 はい、と渡されたシュークリームをまふっとかじる。カスタードの甘い味が口内に広がった。
「カスタードだ。ん、うまい」
「よかったです。じゃ、私はこっちを……いちごです。甘くておいしーです」
 ハナは両手でシュークリームを掴み、まふっとかじった。途端、とろけるような笑みを浮かべるので、思わずこちらも気持ち悪い笑みを返してしまう。
「……あ、彰人くん。そ、そーゆー、誰もがくらくらーってなっちゃう笑みは控えるべきです。……むぎゅーってされたくなっちゃいます」
「馬鹿な!? 自分では気持ち悪いことこの上ねぇ笑みのつもりだったのだが……」
「素敵過ぎて心臓が止まりそうになる笑みです。どきどきはーとびーとです」
 本当にこのお嬢さんは俺と同い年なのか時々疑問に思う。
「……あ、あの、彰人くん。……ち、ちょこっとだけ、そっち行ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
 ハナは俺の隣に座ると、ぴとっと肩をくっ付けた。
「あ、あの。ハナさん?」
「ちょ、ちょこっとです。ちょこっとだけしたら、満足しますから。我慢してください」
「いや、我慢も何も俺も嬉しいからいいんだけど、なんでまた突然」
「……さっきの彰人くんのすーぱー笑顔を見ちゃったら、なんだかとってもくっつきたくなったんです。くっつきたくなっちゃったんです」
 ハナはうつむきながらぼそぼそっと呟いた。髪の隙間から覗く耳がやたら赤い。
「あー。あのさ、ハナ。俺たちゃ一応恋人なんだから、好きな時に、好きなだけくっつける権利があるんだよ? だから、別に許可なんか取らなくてもいいんだぞ?」
「で、でも、それだと四六時中くっつく羽目になってしまいます。日常生活が破綻する自信があります」
「あー。なんつーか、死ぬほど好かれてますね、俺。はっはっは」
「……そ、そうです。いっぱい好きです」
 笑いながら真っ赤になってる馬鹿と、うつむきながら真っ赤になってる馬鹿が二匹います。ああもう恥ずかしい。
「あ、一応言っておくが、俺もハナに負けないくらいハナが好きだよ?」
「あ、彰人くん、そーゆーことをさりげなく言ってはダメです! 頭がおかしくなってしまいます!」
 ハナは顔を真っ赤にしたまま両手をばたばた振った。いっぱいいっぱいなのか、半泣きだ。
「ああもう。ハナちょー可愛い」
「はや、はやややや!? これはもう確実に頭がおかしくなりましたよ!?」
 我慢も限界だったのでハナを抱きしめる。しばらくばたばたしていたが、頭を数度なでると、徐々に落ち着いていった。
「はふぅ……。彰人くんに抱きしめられるとドキドキしますが、同時にすっごく落ち着きます。不思議です」
「あー、俺も俺も。ハナに触れてると、何やら落ち着く」
 そう言いながらハナのほっぺをふにふにする。ハナはくすぐったそうに目を細めた。
「えへへ。じゃ、いっぱい触ってくださいね?」
「ハナはえろいなあ」
「そ、そういう意味じゃなくてですね!?」
「あ、そういや今日は両親が家を留守にしてたんだ」
「はや、はややややっ!? ど、どうしましょうかっ! 勝負ぱんつをはいてきてませんよ!?」
「しょうがない。じゃ、今日のところはちゅーだけにしておこうか」
「はやーっ!?」
 この両目がぐるぐるしてる生物はとても可愛いなあ、と思った。

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【ハナ 移動式簡易暖房器具】

2011年01月20日
 ここ最近超寒いので、学校の行き帰りが億劫だ。
「でもまあ、俺には移動式簡易暖房器具があるから平気さ」
「……もしかして、それは私のことなんでしょうか?」
「その通りだよ」
 俺の隣でちょっとだけ不満そうにしてるハナの鼻をふにっと押す。
「あ、でもそれじゃ、私で暖まるんですか……?」
 俺に鼻をふにふにされながら、ハナは疑問を口にした。
「そういうことだな。ちうわけで、お手を拝借」
 ハナの小さな手をとる。いつもながら俺の手と比較すると物凄く小さい。女の子ってのは本当、すごいな。
「あ……。えへへ、おててつないで、です」
「ハナが見た目相応の発言を!?」
「……違います。彰人くんと同じ高校生です。子供扱いしないでください」
 途端にハナはぶすーっと口を尖らせた。
「不満げでも可愛いとはどういうことだ」
「お、怒ってるのに喜ばせるの禁止です! ……うぅ。ほら、もう怒ってるのがどっかに行っちゃったじゃないですか」
 複雑な表情でハナは俺の腕を軽くつねった。
「いやはや。けど、寒いといいな。夏と違い、ハナとくっつくのに理由が必要なくて」
「……べ、別にいいですよ? 夏でも冬でも、何の理由もなく私にくっついてくれたら」
 ハナにしては珍しい大胆発言にそちらを見ると、想像通り顔真っ赤。
「ハナは痴女痴女しいなあ」
 そこで、いじめてみると早速泣きそうになっていた。
「ううう……。折角勇気を振り絞ったのに、酷い話です」
「ごめんな。好きな子に意地悪をする心理が未だに抜け切れていないんだ。そんな少年の心を宿す俺を許してくれ」
「嫌です。許しません」
 珍しいことは続くもので、いつもなら即許してくれるのに、今日のハナは顔を逸らして怒ったままだった。
「ぬ。これは死ぬほど困った。どうしよう。死のうか」
「ダメですっ! ……そ、そじゃなくて。え、えと」
 ハナはきょろきょろと周囲を見回し、小さく息を吸い込んだ。
「だ、抱っこ。抱っこしてください」
「おおぉう。超大胆じゃないですか、ハナさん」
「い、今なら人がいません。大ちゃんすです。おうちの中では数え切れないほど抱っこされましたが、一度くらい外で抱っこされたかったんです」
「ハナに青姦欲望が」
「……よく分かりませんが、たぶんいやらしいことを言ってます」
 ハナの口がとがりだした。この娘、俺と付き合うようになってからカンが鋭くなってやがる。
「と、とにかく抱っこです。可及的速やかに抱っこしてください。そしたら許します。ダメなら死にます」
「自殺という俺の常套手段を使われては仕方ない。はい、おいで」
 両手を広げてカムカムする。自分から言い出したくせに、ハナはためらいを見せた。
「い、いませんよね、誰も? 平気ですよね?」
「早くしないと広げた腕が閉じる罠。ごーよんさんにーいち」
「ぜろっ!」
 の掛け声と同時に、ハナがすっぽり俺の腕に納まった。すかさず抱きしめ、そのまま頭もなでる。
「はふぅぅぅ……。相変わらず彰人くんの腕の中は夢心地です。一生ここにいたいです」
「嬉しいことを言ってくれる。気をよくしたので、この勢いのままお姫様抱っこして家まで送ろうか?」
「恥ずかしさのあまり途中で悶死すること間違いなしですっ!」
 死なれるのは嫌なのでこのまま帰ろうとしてハタと気づく。この状態では歩けねえ。
「あのー、ハナさん。動けないので一度離れてもいいかな?」
「嫌です。ずっと一緒なんです」
「なんて無茶を言いやがる。このままじゃ帰れないぞ?」
「うー……じゃ、とりあえず離れます。でも、それじゃ、家に帰ったらまた抱っこしてくれますか?」
「ということは、今日はハナの家に集まるということでよろしいか?」
「よろしいです」
 よろしいらしいので、両腕部解放。最後にもう一度俺にすりすりしてから、ハナは名残惜しげに離れた。
「……ふぅ。えへへー、お外で抱き合うだなんて、なんだか熱々の恋人さんみたいで素敵でしたね?」
「実際は冷め切ってるけどな」
「私だけが一方的に彰人くんを好きという悲しい図式になってました!?」
 半泣きになってしまい可哀想だったので、帰りにクレープ買ってあげた。
「まぐまぐまぐ。いちごがおいしいです」
「ハナは食事の時リスみたいになるな。リスなのか?」
「人間です」
 しかし、試しに指を目の前でひらひらさせたら口に含んで軽く噛みだしたので、ハナげっ歯類説はかなり有力な説だと言えよう。

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【ハナ ツンデレ風味】

2010年06月03日
 お昼休み。恋人のハナと一緒に校庭で飯を食ってると、ふとハナの口元に目が行った。一口一口が小さいくせに沢山ものを口に入れるため、頬が膨らんでいる。一生懸命咀嚼してる姿は可愛いが、なんかリスみてえ。
「? どしました、彰人くん?」
「てっきり人間だと思ってたんだけど、ハナってリスだったんだな」
「……彰人くんの中でどのような会議が行われていたのか全くわかりませんが、人間ですよ?」
「ほう。では、試してみよう」
 ハナのほっぺをふにふにする。
「は、はや……ふにふにされてます。そ、それで、どですか? ちゃんと人間って確信が持てましたか?」
「実を言うと、適当に難癖つけてハナに触りたかったんだ」
「あ、彰人くんはえっちです。えっちですが、……彰人くんなら許しちゃいます」
「チクショウ、この生物は可愛いなあ!」
「は、はや……」
 なんだかむきゅーっとなってしまったので、勢い余ってハナをぎゅーっと抱きしめたら顔を赤くされた。
「あー可愛い。しかしなんだな、平和ですな」
「だ、抱っこされている現在、私の心臓は平和とは程遠い音を奏でてます。ばくばく言ってます」
「ほう、では実際に聞いてみよう」
「あっ、彰人くん!?」
 ハナのうすぺたい胸に耳をあててみる。ドコドコドコドコ中の小人が全力でノックしていた。
「うむ。すげぇ音」
「あ、彰人くん、彰人くん、彰人くん!?」
「あ、うん。俺はここにいるよ。よしよし」
「は、はや……」
 ハナの頭をなでてみると、落ち着いたのか、顔が安らいでいった。
「──ではないですっ! あ、彰人くん! こ、こんな昼間から、学校で、こ、こんなえっちなことはダメです!」
「えっちなこと?」
「わ、私のおっぱいに顔を埋めました。恥ずかしくて死にそーです」
「あー、客観的に見るとそう見えるか。……でも、まあ、いいか!」
「ちっともよくないです! ……あ、あの、抱っことかはすっごくすっごく嬉しいですが、そーゆーえっちなのは、そ、その、こゆとこじゃ、ちょっと……」
「言葉の裏を読んでみよう。『家でえろいことをしろ』……その命令、承った!」
「ちっとも言ってないです! ……あ、あの、でも、……そ、そのうち、なら……」
 ハナは顔を真っ赤にし、うつむきながら俺の服の袖をちょこんと引っ張った。ああ、もう。
「お前は可愛さで敵を殺す新型の兵器か」
「……あ、彰人くん限定で、そうです。がちゃーん、がちゃーん」
 奇怪なロボットダンスもどきを見せられ、俺はどうすれば。
「……何か言ってください」
「今日はいい天気だね」
「……言外にへたと言われました。しょっくです」
「まあそう落ち込むな。ところでハナ」
「はい?」
 ハナはこてりと小首を傾げ、俺の言葉を待った。
「唐突だが、ツンデレっぽく振舞って」
「……本当に唐突です。どしてですか?」
「えい」
「きゅっ」
 ハナの鼻を摘まむ。ハナは小さく鳴いた後、困ったように眉根を寄せて俺を見つめた。
「こういうわけだ」
「まったく分かりません。……でも、だ、大好きな彰人くんの頼みですから、が、頑張ります」
「極めて嬉しい事を言ってくれる。しかし、鼻声のままだったのでイマイチ感動できなかった」
「勝手な言い分です……」
 とりあえず鼻から手を離す。ついでにほっぺを手ですりすりする。
「……えへへ。彰人くん♪」
 ハナは俺の手に自分の手をあて、うっとりした顔でつぶやいた。
「じゃ、とりあえずお願いします」
「……も、もちょっとすりすりダメですか?」
「しょうがない。あと7時間だけだぞ?」
「思ったより長かったです! 嬉しい誤算とはこのことです」
 実際は3分ほどだったが、ハナのほっぺの感触を堪能した。
「……はぁ。大満足です。……じゃ、その、えっと、ツンデレっての、やってみますね?」
「頑張れ。俺はここで応援してるぞ」
「こほん。……そ、その。……か、勘違いしないでください。彰人くんなんて好きでもなんでもない……こともないです。実を言うと大好きです」
「それはツンデレではないです」
「む、難しーです。至難の業です。で、でも、頑張ります」
 再度咳払いをして、ハナは俺を見つめた。
「あ、彰人くんなんて、彰人くんなんて……え、えと、嘘ですけど、大嫌いです」
「前置きが余計です」
「……む、無理です。言えません。頑張ったけど、無理です」
「そこをなんとか頑張れ、ハナ! 言えなかったら罰としておでこ全開の刑が待ってるぞ!」
「なんとしても言わなければならない理由が出来てしまいました……」
 ハナがしょんぼりした。しかし、意を決したように目をくわっと開き、俺を見つめた。
「あ、彰人くんなんて……だ、だ、だ……だいっ嫌いです!」
「ハナに嫌いって言われた!?」
「嘘です、嘘ですよ!? ホントはすっごくすっごく好きですよ!?」
 なんとなくショックを受けた風を装ったら、俺の5倍くらいうろたえるハナの姿を見ることができた。
「なんだ。それなら俺と一緒だな」
「え? ……え、えへへ。い、いっしょ。いっしょ、です」
 ハナははにかみながら俺の服をそっと握った。
「……ふぅ。なんだかとっても疲れてしまいました。……これというのも、彰人くんが思ってもない事を私に言わせるからです。私、ちょっと怒ってます」
「おや、珍しい」
「そです。めずらしーです。……だ、だから、その罰として、その……だ、抱っこ、いーですか?」
 うつむきがちに甘えるハナに、俺は両手を広げておいでおいでするのだった。

 すると、二人してチャイムが聞こえないくらい抱っこに耽溺するというオチまでつく始末。
「抱っこの魅力、恐るべし、です……」
「全くだな。もうこれは抱っこ禁止令を出すしかないな」
 俺の言葉を聞いた瞬間にハナが泣きそうになったので、禁止令は施行されないことが可決されました。

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