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2024年11月22日
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【妖精ちなみん】

2010年05月14日
 今まで色々あったけど、さすがにこれは嘘だろう。
「……みゅ、みゅみゅ」
 だって、ちなみの奴、手のひらサイズになってんだもん。羽生えてるし。服は……ハンカチ巻いてんのか?
「……で、どういうことでしょう?」
「……みゅ」
 俺のベッドの上で座ってるちなみに問いかけると、困ったようにみゅ、と鳴いた。
「まさか、喋れないのか?」
「……みゅみゅ」
 こくり、とうなずくちなみに、思わず頭を抱える。
「まいったな……なんでだ? 呪われたか?」
 小さな頭を指でこづくと、ちなみは羽を動かし空を飛んだ。
「おおっ、飛べるのか?」
 ふらふらと俺の顔まで飛んできて、鼻を噛んだ。
「痛い痛い痛い!」
「みゅ! みゅーみゅ!」
 なにか不満げにみゅうみゅう言っているが、言葉が通じないのでどうにもこうにも。
「……そうだ! 字を書けばいいんだ!」
 引き出しからメモ帳と鉛筆を取り出し、ちなみの前に置く。
「さ、どうしてこうなったか教えてくれ」
「……みゅ」
 ちなみは自分の体より大きな鉛筆を抱えた……が、大きすぎて扱えず転んでしまう。
「みゅ、みゅう……」
 それでも諦めずにもう一度鉛筆を抱えたが、やはり転んでしまう。
「……ああ、可愛いなぁ」
 飛んできて鼻を噛まれた。
「みゅ!」
 たぶんだが、真面目にやれ、と言っている気がする。
「いちいち噛むな。言われんでも真面目にやるよ」
「……みゅ? ……みゅー!」
 小首を傾げた後、ちなみは大きな声を上げた。
「なんだ? どうして言いたいことが分かったかって?」
 ちなみは何度もコクコクと頷いた。
「ん……と、なんとなく、かな?」
 自分でもよく分からないが、なんとなくちなみの言葉が理解できる気がする。
「……みゅ、みゃあ、みゅ」
 ちなみは身振り手振りを交え、俺に何かを伝えようとした。
「……ふんふん、……えっと、分からん。わはははは!」
 ちっとも分からない。理解できると思ったのは気のせいだった。
「みゅー!」
 ちなみは俺の顔に向かって飛んできた。
 また鼻を噛まれるのは嫌なので、鼻防御をする。しかしちなみが飛び込んできた場所は鼻ではなく、口だった。
 つまり、えーと、その、……キスだ。
「……あ、喋れるようになったみゅ」
「……え、あ、えっと?」
「……混乱しない。……説明するみゅ」
 ちなみの説明は、こうだ。 倉庫を整理していたら、古い本を見つけた。その本を開くと、妖精になってしまった、と。
「……ふむ。超嘘くさいけど、実際妖精になってるから信じよう」
「……ん。その本には、元に戻る方法も書いてあったみゅ」
「あー、それも聞きたいんだが、さっきから何みゅみゅ言ってんだ? 語尾に変な言葉つけてキャラを立たせるのはどうかと思うぞ」
「……まだ、治りきってないから出るだけみゅ。どうしても嫌ならタカシの耳を削ぎ取るみゅ」
「ラブリーでいいな。最高」
 暴力の前にひれ伏す。
「……続けるみゅ。それで、元に戻る方法だけど……その、……く、口づけをしないと……みゅ」
「……あー、なんつーか基本だな」
 いつの世も呪いを解くのは王子様の口づけ、ってか。ただ、俺が王子様役ってのは正直どうかと思うが。
「けど、元に戻ってないぞ?」
 確かに喋れるようにはなったが、ちなみの姿は依然ちいさな妖精のままだ。
「……触れるだけのキスだったからみゅ。……もっと、でぃーぷなキスでないと、みゅ」
「ははははは」
「……笑って誤魔化さないみゅ。声、乾いてるみゅ」
 うるさい。知ってる。
「……さ、ちゅーするみゅ。観念するみゅ」
「あー、えっと、そのままでいいじゃん? えっと、ほら、可愛いし」
 最悪の事態だけはさけるため、口から出まかせで煙に巻く。
「……私、可愛い……みゅ?」
「うむ。実にラブリーだ。鳥かごで飼いたい」
「……それ、可愛いの種類が違うみゅ。……動物に対する感情みゅ」
「似たようなもんじゃん。今おまえ動物みたいなもんだし」
「……乙女を愚弄した罰として、たっぷりいじめるみゅ」
 知らない間に逆鱗に触れていたようです。女心は難しい。
 で、色々あってちなみは元に戻りました。色々の部分を言うと泣きそうになるので言えません。
 見も心もぼろぼろになりながら、ちなみを家まで送る。服は俺のを貸した。
「じゃーな。貸した服はまた今度でいいから」
「……ん。……今日は、ありがと」
 ちなみは礼を言って、そそくさと家に入っていった。今日は疲れた、俺も帰ろう。

「……また、やろうかな」
 ちなみが件の本を持ってほくそ笑んでいるのを、タカシは知らない。 

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