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2024年11月24日
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【ウイルスちなみん】

2010年02月24日
 学校から帰宅して自室に入ると、何かが俺の背中に落ちてきた。
「うわっ、何だこれ! なんかねばねばねちょねちょする! さてはエイリアン的な何かが俺の天井に潜み、今まさに俺を捕食せしめんと涎を垂らしているな! ということは死ぬのか。嫌だなあ」
「……ぶっぶー。はずれ。ばーか」
「…………」
「……正解は、可愛い可愛いウイルスでしたー」
 背中から聞き覚えのある声。いつもの馬鹿だ。
「ウイルスってゲル状なの?」
「……いめぇじ、です。なんか、そんな感じがするのです」
「ま、そんなのはいい。どけ」
 体を振ってウイルスを振り落とす。
「にゃ」
 割と簡単にウイルスを剥がせた。ウイルスは緑色のぶよぶよしたゼリーのような物質に覆われており、まるで緑色のアメフラシのようで気持ち悪い。
「……落ちても、ぶよぶよのおかげで平気ー。痛くないー。……うらやましい?」
 床に落ちたウイルス──ちなみは仰向けのままわさわさ蠢いた。
「ちっとも」
「……うらやましがってくれないと、話が進みません。……それを踏まえて。……うらやましい?」
「全然」
 ちなみの頬がリスみたいに膨れた。
「……うらやましがってください」
 頼まれたので羨ましがってみる。
「いいなあ、緑色のぶよぶよ物体はいいなあ」
 実際に言葉にしてみると、まったく羨ましくない。しかもこうしている最中も床がぶよぶよの緑色の汁でどんどん汚れている。早く帰って欲しい。
「……ふふ。ようやっと本音が出ましたね。えいしょっと。……え、えいしょっと」
 ちなみはおぶおぶと手らしきものを動かして起き上がろうとしているが、着ぐるみの構造上自力では起き上がれないようだ。
「……あ、あの、タカシ、起こしてください」
「起こしたら帰る?」
「……タカシは私と遊びたくないのですか?」
「割と」
「…………」(涙じわーっ)
「ぼく、ちなみんと遊ぶの大好きさ! I play a ちなみん!」
 我ながらいい加減慣れろと思うのだが、泣かれるとついつい甘やかしてしまう。困った性分だと思いつつ、ちなみを抱き起こす。ぶよぶよして気持ち悪い。
「にゅっ。……やれやれ、そんなに私と遊びたいなら遊んであげます。……まったく、私の優しさは天井知らずです。……あ、天井に潜んでいただけに」
「別にうまくないですよ」
「……うるさいです。タカシは黙ってればいいのです」
 ちょっと不満そうにしながら、ちなみは「さて」と言って仕切りなおした。
「私のぶよぶよがうらやましいタカシに、特別さーびすです。このぶよぶよをタカシにもあげます。そーれい」
 そーれいと言いながらちなみが突っ込んできたので、ひらりとかわす。本棚やらテレビ台やらを薙ぎ倒し、ちなみが壁に激突した。
「……かわさないでください」
 壁に緑色の染みを残して、ちなみが恨めしそうに呟いた。
「緑色の物体が突っ込んできたら、誰でもかわすだろ」
「……そんな経験ないので、分かりません」
 俺だって初体験です。
「……いいから、かわさないでください。……ね?」
 ちなみは両手を合わせ、ちょこんと首をかしげて念を押した。ちょっと可愛い。
「……そーれい」
 とか思ってたらまた緑色がつっこんできた。可愛いにゃーとか思ってたせいでかわせず、まともに喰らう。さっきの計算ですか。
「……ふふ、どうです? 実にねばねばでしょう?」
「あー、それはいいが、どうやって脱出するの?」
 俺はちなみの緑のねばねばに包まれてしまった。ねばねばがまるでとりもちのように俺を離さない。
「……ウイルスですから、増殖したのです。これでタカシもウイルス。……いっしょ、いっしょ」
 ちなみは俺の手をきゅっと握り、嬉しそうに笑った。
「ウイルス対策ソフトは?」
「……残念ながら開発ちゅーです。早ければ50年後には完成するかと」
「それ早くない」
「……じゃ、私が満足したら完成します」
「“じゃ”って言ったことについては優しさから追及しないとして、いつ満足するの?」
「……タカシがぎゅーってしてくれたら、満足するやもしれません」
 期待を込めて俺をじっと見る緑な物体に、まあいいかと思いながらむぎゅーと抱きしめる俺だった。

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