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2025年04月20日
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【ツンデレが得意料理を披露してきた】
2010年04月13日
「じゃ~ん! おべんとお~♪」
かなみが弁当を取り出して俺に差し出してきた。
「……狂った?」
無言で殴るのはやめて頂きたい。
「そうじゃなくて! アンタ、私が料理下手だろって昨日言ったでしょ! その発言を撤回させるため、わざわざ作ってきてあげたのよ!」
「いや、俺パン買ってきてるし……」
「食べるわよね? わざわざ早起きして作ったんだから」
目が「食わないと、殺す」と言っているので、俺は震えながらうなずいた。
「確かアンタ玉子焼き好きだったよね?」
「は、はい」
「なに緊張してんだか……はい、ご開帳~」
蓋を取ると、玉子焼きがででんと。玉子焼きが弁当箱全てを占めていた。
「……え」
「私、玉子焼きは得意なんだ。ほら、食べて食べて」
「あ、いや、その、……これだけ?」
「んなわけないじゃん。はい、これ」
かなみはもう一つ弁当箱を取り出し、蓋を取った。中にはおにぎりがぎっしり詰まっていた。
「知ってる? 炊き立てのご飯ってすっごい熱いんだよ。もう二度とおにぎりなんて作らない」
「は、はぁ……その、それで、他のおかずは?」
「これで終わり」
「…………」
「食え」
「……ええと、はい」
なんだろう。折角お弁当作ってもらってるのに、嬉しいどころか恐怖を感じる。
震える手でおにぎりを掴み、口に入れる。
「おいしい? おいしい?」
「もぐもぐもぐ」
「おいしい? ね、おいしいでしょ?」
「むしゃむしゃむしゃ」
「早く飲み込めっ!」
「むぐむぐごっくん。かなみ、お茶」
「はいっ!」
「あついっ!」
お茶を頼んだら熱い茶を浴びせられた。
「熱い熱い熱い! 茶が、茶が顔に!」
「いいから感想言いなさい! おいしい? おいしいでしょ!?」
「熱い」
お茶が俺の頭に注がれた。違う、そこからじゃ飲めない。
熱さのあまり床を転げまわっていると、かなみがおにぎりを持って俺に迫ってきた。
「ほら、も一個食べて! で、ちゃんと感想言いなさい!」
有無を言わさず口に無理やりおにぎりを詰められる。気分は拷問。
「おいしいでしょ?」
仰向けで飯を食うのは大変難しいです。
「げふげふげふっ! ノド、ノドに詰まった!」
なんで飯を食うだけでここまで大騒ぎしなきゃいけないんだろう、なんて思いながら意識が遠のく。
「はい、お茶」
「ぐはっ! げふっ、げふげふっ!」
口に直接お茶を注がれる。熱すぎる。このお嬢さんは俺をゴキブリか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
「大丈夫? で、どう?」
「はぁはぁ……死にかけた」
「なんでご飯食べるだけで死にかけるのよ……」
かなみと一緒に席に戻る。
「とにかく、こんな極限状態で飯を食っても味なんて分からん。普通に食わせてくれ」
「最初っからそうしなさいよ、馬鹿」
お茶を浴びせておいてしれっと馬鹿と。馬鹿と言いましたよ、この娘さん! うぬれ、いつかあっと言わせてやる。そのためには策を練らなくては。
「なに寝てんのよ。ほら、食べて食べて」
目をつぶって策を練ってると、口に玉子焼きが放り込まれた。ん、なんか甘い。
「甘い玉子焼きが好きって前言ってたよね? 砂糖入れてみたの。どう?」
「むぐむぐ……甘いのが好きって、よく覚えてたな。それ言ったの、確かかなり前だったと思ったが」
「そ、それくらい覚えてるわよ。アンタと違って、頭の出来が違うの」
「にしたって、確か言ったの……ええと、半年くらい前だったような」
「い、いいから! ほら、食べちゃってよ」
「もがもが」
手ずから食べさせてもらうのは嬉しいが、加減を考えてくれないと窒息死する。
「もぎゅもぎゅ、ごっくん。……あのさ、死ぬから」
「私の作った玉子焼きが死ぬほどまずいってこと?」
不機嫌なオーラを漂わせ、かなみは笑顔で箸を折った。
「ち、違う。口の中に入れすぎなだけです。味は大変美味しいです」
「あ、あは、そう? やだなタカシってば、美味しいなんて……あははっ」
途端に機嫌が良くなったかなみは、新しい箸を取り出し、俺の口に次々と玉子焼きを入れた。
「もがもが」
また窒息死の危機が訪れる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごっくん。……あのさ、本当に死ぬから」
「まったまた、冗談ばっかり。はい、あーん」
「む、……あ、あーん」
気がつけば、普通に食べさせられていた。これではただのバカップルではないか。一言申さねば!
「おいしい?」
「もぎゅもぎゅ……おいしい」
「そ、そう? えへへ……」
「…………」
……まぁ、食い終わるまでいっか。
かなみが弁当を取り出して俺に差し出してきた。
「……狂った?」
無言で殴るのはやめて頂きたい。
「そうじゃなくて! アンタ、私が料理下手だろって昨日言ったでしょ! その発言を撤回させるため、わざわざ作ってきてあげたのよ!」
「いや、俺パン買ってきてるし……」
「食べるわよね? わざわざ早起きして作ったんだから」
目が「食わないと、殺す」と言っているので、俺は震えながらうなずいた。
「確かアンタ玉子焼き好きだったよね?」
「は、はい」
「なに緊張してんだか……はい、ご開帳~」
蓋を取ると、玉子焼きがででんと。玉子焼きが弁当箱全てを占めていた。
「……え」
「私、玉子焼きは得意なんだ。ほら、食べて食べて」
「あ、いや、その、……これだけ?」
「んなわけないじゃん。はい、これ」
かなみはもう一つ弁当箱を取り出し、蓋を取った。中にはおにぎりがぎっしり詰まっていた。
「知ってる? 炊き立てのご飯ってすっごい熱いんだよ。もう二度とおにぎりなんて作らない」
「は、はぁ……その、それで、他のおかずは?」
「これで終わり」
「…………」
「食え」
「……ええと、はい」
なんだろう。折角お弁当作ってもらってるのに、嬉しいどころか恐怖を感じる。
震える手でおにぎりを掴み、口に入れる。
「おいしい? おいしい?」
「もぐもぐもぐ」
「おいしい? ね、おいしいでしょ?」
「むしゃむしゃむしゃ」
「早く飲み込めっ!」
「むぐむぐごっくん。かなみ、お茶」
「はいっ!」
「あついっ!」
お茶を頼んだら熱い茶を浴びせられた。
「熱い熱い熱い! 茶が、茶が顔に!」
「いいから感想言いなさい! おいしい? おいしいでしょ!?」
「熱い」
お茶が俺の頭に注がれた。違う、そこからじゃ飲めない。
熱さのあまり床を転げまわっていると、かなみがおにぎりを持って俺に迫ってきた。
「ほら、も一個食べて! で、ちゃんと感想言いなさい!」
有無を言わさず口に無理やりおにぎりを詰められる。気分は拷問。
「おいしいでしょ?」
仰向けで飯を食うのは大変難しいです。
「げふげふげふっ! ノド、ノドに詰まった!」
なんで飯を食うだけでここまで大騒ぎしなきゃいけないんだろう、なんて思いながら意識が遠のく。
「はい、お茶」
「ぐはっ! げふっ、げふげふっ!」
口に直接お茶を注がれる。熱すぎる。このお嬢さんは俺をゴキブリか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。
「大丈夫? で、どう?」
「はぁはぁ……死にかけた」
「なんでご飯食べるだけで死にかけるのよ……」
かなみと一緒に席に戻る。
「とにかく、こんな極限状態で飯を食っても味なんて分からん。普通に食わせてくれ」
「最初っからそうしなさいよ、馬鹿」
お茶を浴びせておいてしれっと馬鹿と。馬鹿と言いましたよ、この娘さん! うぬれ、いつかあっと言わせてやる。そのためには策を練らなくては。
「なに寝てんのよ。ほら、食べて食べて」
目をつぶって策を練ってると、口に玉子焼きが放り込まれた。ん、なんか甘い。
「甘い玉子焼きが好きって前言ってたよね? 砂糖入れてみたの。どう?」
「むぐむぐ……甘いのが好きって、よく覚えてたな。それ言ったの、確かかなり前だったと思ったが」
「そ、それくらい覚えてるわよ。アンタと違って、頭の出来が違うの」
「にしたって、確か言ったの……ええと、半年くらい前だったような」
「い、いいから! ほら、食べちゃってよ」
「もがもが」
手ずから食べさせてもらうのは嬉しいが、加減を考えてくれないと窒息死する。
「もぎゅもぎゅ、ごっくん。……あのさ、死ぬから」
「私の作った玉子焼きが死ぬほどまずいってこと?」
不機嫌なオーラを漂わせ、かなみは笑顔で箸を折った。
「ち、違う。口の中に入れすぎなだけです。味は大変美味しいです」
「あ、あは、そう? やだなタカシってば、美味しいなんて……あははっ」
途端に機嫌が良くなったかなみは、新しい箸を取り出し、俺の口に次々と玉子焼きを入れた。
「もがもが」
また窒息死の危機が訪れる。
「もぎゅもぎゅもぎゅ、ごっくん。……あのさ、本当に死ぬから」
「まったまた、冗談ばっかり。はい、あーん」
「む、……あ、あーん」
気がつけば、普通に食べさせられていた。これではただのバカップルではないか。一言申さねば!
「おいしい?」
「もぎゅもぎゅ……おいしい」
「そ、そう? えへへ……」
「…………」
……まぁ、食い終わるまでいっか。
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【朝が弱いツンデレ】
2010年04月12日
隣に住むかなみは朝が弱すぎる。そんなわけで、今日も俺はかなみを起こしに向かうのだった。
「ごめんね、毎日毎日。私じゃどうやっても起きなくてね」
「別に構いませんが、年頃の娘さんの寝姿を男に見せるのはどうかと思いますよ」
「タカシ君だし、別にいいわよ。ついでに貰ってくれない?」
「起こしてもらってる身分だと言うのに、ことある毎に蹴ってくるような奴はご免です」
「それは残念ね」
ひとしきりおばさんと笑いあい、かなみの部屋に入る。
「くぴー……」
今日もかなみの奴は幸せそうに頬を緩ませて寝ていた。
「ほれ、起きろ寝坊娘」
布団を引き剥がすと、かなみはなくなった温もりを探すように手を虚空にさまよわせた。
「ほれ、早く起き……」
布団の下で、かなみのズボンはずれていた。緑色のパンツが俺の眼前に晒される。
「……ほほぅ、これはまたよいパンツで」
思わず起こす手を止め、じっくり鑑賞してしまう。
「ん~……ん? な、なな、なにしてんのよ!」
「あ、おはよう」
「お、おはようじゃなくて! 何してるのか聞いてるのよ!」
「何って……おお」
じっくり鑑賞しすぎたせいか、かなみのパンツに顔を密着させていた。
「道理でよく見えると思った。ついでだし舐めていいよね?」
「とっととのけっ!」
思い切り蹴られた。
「いてて……せっかく起こしてあげたのに、感謝どころか蹴るなんて人としてどうだろう」
「起きたら性犯罪者が股間に顔埋めてんのよ!? 誰でも蹴るわよっ!」
「なるほど、それなら仕方ないか。……ん、性犯罪者?」
「そこで馬鹿みたいに首傾げてる奴よ」
「よく分からんな……下のかなみに聞くか」
「だから、パンツに顔近づけるな馬鹿!」
朝から何度も蹴られ、泣きそうになりながらおばさんの元に戻る。
「起こしました……」
「ご苦労様。あの子もいい加減慣れたらいいのにねぇ」
「いやはや、まったくです」
「お母さん、なんでこんな奴に起こさせるのよ! お母さんが起こしてくれたらいいのに……」
かなみがパジャマから制服に着替えてやってきた。準備は完了のようだ。
「私じゃ起きないでしょ。タカシ君が起こすと一発だし、いいじゃない」
「でも、このバカ私にエッチなことばっかりするのよ!?」
「失礼な、下のかなみと会話しようとしただけだ」
「下のかなみとか言うなっ!」
また蹴られた。尻が痛い。
「ほらほら、いいから早く行きなさい。遅刻するわよ?」
おばさんの言葉に、腕時計を見る。今日も危うい時間帯だった。
「もうっ、タカシのせいでまた遅刻しそうじゃない!」
「……ふぅむ、それは俺の考えと違うな。その辺りの議論を腰を据えて交わそうではないか」
「いいから早く行くわよっ! お母さん、行って来まーす!」
俺の手を取り、かなみは玄関を飛び出した。
「待てっ! かなみがパンツを履いてないように、俺は靴を履いてない!」
「履いてるわよッ!」
「車に気をつけてねー」
おばさんの声に見送られ、今日も慌しく学校へ向かう俺たちだった。
「ごめんね、毎日毎日。私じゃどうやっても起きなくてね」
「別に構いませんが、年頃の娘さんの寝姿を男に見せるのはどうかと思いますよ」
「タカシ君だし、別にいいわよ。ついでに貰ってくれない?」
「起こしてもらってる身分だと言うのに、ことある毎に蹴ってくるような奴はご免です」
「それは残念ね」
ひとしきりおばさんと笑いあい、かなみの部屋に入る。
「くぴー……」
今日もかなみの奴は幸せそうに頬を緩ませて寝ていた。
「ほれ、起きろ寝坊娘」
布団を引き剥がすと、かなみはなくなった温もりを探すように手を虚空にさまよわせた。
「ほれ、早く起き……」
布団の下で、かなみのズボンはずれていた。緑色のパンツが俺の眼前に晒される。
「……ほほぅ、これはまたよいパンツで」
思わず起こす手を止め、じっくり鑑賞してしまう。
「ん~……ん? な、なな、なにしてんのよ!」
「あ、おはよう」
「お、おはようじゃなくて! 何してるのか聞いてるのよ!」
「何って……おお」
じっくり鑑賞しすぎたせいか、かなみのパンツに顔を密着させていた。
「道理でよく見えると思った。ついでだし舐めていいよね?」
「とっととのけっ!」
思い切り蹴られた。
「いてて……せっかく起こしてあげたのに、感謝どころか蹴るなんて人としてどうだろう」
「起きたら性犯罪者が股間に顔埋めてんのよ!? 誰でも蹴るわよっ!」
「なるほど、それなら仕方ないか。……ん、性犯罪者?」
「そこで馬鹿みたいに首傾げてる奴よ」
「よく分からんな……下のかなみに聞くか」
「だから、パンツに顔近づけるな馬鹿!」
朝から何度も蹴られ、泣きそうになりながらおばさんの元に戻る。
「起こしました……」
「ご苦労様。あの子もいい加減慣れたらいいのにねぇ」
「いやはや、まったくです」
「お母さん、なんでこんな奴に起こさせるのよ! お母さんが起こしてくれたらいいのに……」
かなみがパジャマから制服に着替えてやってきた。準備は完了のようだ。
「私じゃ起きないでしょ。タカシ君が起こすと一発だし、いいじゃない」
「でも、このバカ私にエッチなことばっかりするのよ!?」
「失礼な、下のかなみと会話しようとしただけだ」
「下のかなみとか言うなっ!」
また蹴られた。尻が痛い。
「ほらほら、いいから早く行きなさい。遅刻するわよ?」
おばさんの言葉に、腕時計を見る。今日も危うい時間帯だった。
「もうっ、タカシのせいでまた遅刻しそうじゃない!」
「……ふぅむ、それは俺の考えと違うな。その辺りの議論を腰を据えて交わそうではないか」
「いいから早く行くわよっ! お母さん、行って来まーす!」
俺の手を取り、かなみは玄関を飛び出した。
「待てっ! かなみがパンツを履いてないように、俺は靴を履いてない!」
「履いてるわよッ!」
「車に気をつけてねー」
おばさんの声に見送られ、今日も慌しく学校へ向かう俺たちだった。
【マヨイガにツンデレがいたらどうなるの?】
2010年04月09日
水月やった。雪さんに会いたくなった。寝た。起きたらマヨイガだった。
「やった! 雪さん、雪さん! 来たよ、俺来たよ! 雪さぁぁぁん!!!」
花々を踏みしめながら雪さんの姿を探し、走る。やがて、天を突くような大木が見えた。その根元に、誰かいる。
「……雪さん? 雪さんだよね? 雪さん! 雪さぁぁぁぁん!!!」
「誰が雪さんか!」
雪さんに抱きつこうとすると、鼻っ柱を殴られた。
「貴様、花梨!?」
「かなみよっ!」
「なんで!? 雪さんは? どこ?」
「そんなの知らないわよ。……それより、私見てなにか思わないの?」
かなみの言葉を無視して雪さんを探してたら殴られたので、仕方なくかなみを上から下までじっくり見る。
髪はいつも通りツインテールだ。ちょっと頬が赤いか? 目はいつもの挑むような視線を俺に向けてるし……ふむ。
「太った?」
別に気がついたところなどないので適当に言ったら、首を絞められた。どうやら失言だったようだ。
「太ってない! ……ほ、ほら、メイド服だよ。ヘッドドレスもあるよ? アンタの好きなメイドさんだよ?」
「……は! そんな外見だけでメイドを謳おうなどとは愚かしいにも程がある! いいか? メイドさんは優しくて、ご飯を作ってくれて、買出しについていって袋持とうとすると『嫌です。雪の仕事を取らないでください』とか言って、夜は添い寝してくれて、どんな時でも俺のことを想っていてくれる。そんな、そんなメイドさんをおまえは……ああああ雪さぁぁぁん!!!」
「いちいち叫ぶな! ああもう!」
かなみに突然手を引かれ、バランスを崩し転ぶ。そして俺の頭を持ち、かなみは
「……あ、アンタの言う雪さんは、こ、こういうことしてくれる?」
……俺に、膝枕をした。
「……え、えーと、どうだったかな?」
かなみの太ももの柔らかさにドキドキしつつも、どこか安らぎを感じていた。
「ふ、ふふん、どう? 雪さんよりあたしの方がすごいでしょ?」
「んー……分からん。でも、このまま寝かせてくれたら……」
「……し、しょうがないわね。いいわよ。……お休み、タカシ」
そっと俺の頭をなでてくれる感触を感じながら、俺は夢とも現とも知れない世界でまどろんでいった。
「やった! 雪さん、雪さん! 来たよ、俺来たよ! 雪さぁぁぁん!!!」
花々を踏みしめながら雪さんの姿を探し、走る。やがて、天を突くような大木が見えた。その根元に、誰かいる。
「……雪さん? 雪さんだよね? 雪さん! 雪さぁぁぁぁん!!!」
「誰が雪さんか!」
雪さんに抱きつこうとすると、鼻っ柱を殴られた。
「貴様、花梨!?」
「かなみよっ!」
「なんで!? 雪さんは? どこ?」
「そんなの知らないわよ。……それより、私見てなにか思わないの?」
かなみの言葉を無視して雪さんを探してたら殴られたので、仕方なくかなみを上から下までじっくり見る。
髪はいつも通りツインテールだ。ちょっと頬が赤いか? 目はいつもの挑むような視線を俺に向けてるし……ふむ。
「太った?」
別に気がついたところなどないので適当に言ったら、首を絞められた。どうやら失言だったようだ。
「太ってない! ……ほ、ほら、メイド服だよ。ヘッドドレスもあるよ? アンタの好きなメイドさんだよ?」
「……は! そんな外見だけでメイドを謳おうなどとは愚かしいにも程がある! いいか? メイドさんは優しくて、ご飯を作ってくれて、買出しについていって袋持とうとすると『嫌です。雪の仕事を取らないでください』とか言って、夜は添い寝してくれて、どんな時でも俺のことを想っていてくれる。そんな、そんなメイドさんをおまえは……ああああ雪さぁぁぁん!!!」
「いちいち叫ぶな! ああもう!」
かなみに突然手を引かれ、バランスを崩し転ぶ。そして俺の頭を持ち、かなみは
「……あ、アンタの言う雪さんは、こ、こういうことしてくれる?」
……俺に、膝枕をした。
「……え、えーと、どうだったかな?」
かなみの太ももの柔らかさにドキドキしつつも、どこか安らぎを感じていた。
「ふ、ふふん、どう? 雪さんよりあたしの方がすごいでしょ?」
「んー……分からん。でも、このまま寝かせてくれたら……」
「……し、しょうがないわね。いいわよ。……お休み、タカシ」
そっと俺の頭をなでてくれる感触を感じながら、俺は夢とも現とも知れない世界でまどろんでいった。
【ツンデレの家でご飯を食べたら】
2010年04月08日
かなみの家に遊びに行ってだべってたら、夕食の時間になった。
おばさんの「よかったらタカシ君も食べていって」という言葉をそのまま受け取り、嫌そうな顔をしてるかなみと一緒に食卓へ。
「たくさん食べてね。かなみったら、ダイエットだかなんだか知らないけど最近あんまり食べてくれないの」
「お、お母さん! 変なこと言わないでよ!」
「ダイエットは胸から痩せると聞いたことがある。かなみ、それ以上胸を虐待するのはやめた方がいいと思うぞ」
「忠告ありがとねっ!」
ありがとうと言いながら殴るのはどうしてだろう。
ひりひりする頬をさすり、両手を合わせて食事開始もぐもぐもぐ。
「タカシ、野菜も食べなさいよ。肉ばっか食べてんじゃないわよ」
「別府家の人間は野菜を食うと青紫色の汁を撒き散らしながら悶死するという言い伝えが」
「いいから食えッ!」
「もがもが」
野菜を直接口に詰め込まれる。それはいいが、一緒に指まで突っ込むな。
「ひゃうっ!? な、舐めるな、ばかっ!」
指を舐めると怒られた。あと殴られた。
「ほんっと、かなみはタカシ君がいるとイキイキしてるわね」
「なっ、なに言ってるのよお母さん! そんなわけないじゃない!」
だが、逆に俺はかなみといるとどんどん弱っていく。時に死にかける。
「……つまり、かなみは俺の生体エナジーを吸い取っているのか」
「人を妖怪みたいに言うなッ!」
俺とかなみが話してるのを、おばさんはニコニコと眺めていた。
「タカシ君、おいしい?」
「大変おいしいです、おばさん。思わず結婚を申し込みたいくらい」
「あらやだ、おばさん本気にしちゃうわよ?」
「熟女は本来俺の範囲外なのですが……おばさんくらい綺麗だと、ストライクゾーンに入るかと。どうです?」
「人の母親を堂々とナンパするなッ!」
おばさんの手を握ったら、かなみが俺の首をぎぅっと締めた。いつになく本気だ。うーん、死ぬ。
「じ、冗談よ、かなみ。ね、タカシ君?」
「……げ、げごぉ」
「日本語喋りなさいよ、日本語!」
ノドを絞められており、うまく喋れません。
その後、おばさんの取り成しもあり、どうにか死の淵から生還した。
「……ったく、馬鹿」
「ごめんね、タカシ君。かなみったら、嫉妬しちゃったみたい」
「なっ、なんで私が嫉妬なんかするってのよ!」
かなみは顔を真っ赤にして叫んだ。
「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、近親相姦でレズってのは人としてどうかと思うぞ」
「違うわよッ!」
「じゃあ、一体誰に嫉妬してるのかしらね?」
「う……」
俺とおばさんの連係プレイに、かなみは顔を赤くしてうつむいてしまった。
「も、もう部屋に戻る! ごちそうさまっ!」
かなみは食器を流しに入れると、慌しく部屋から出て行った。
「あらあら、からかいすぎたかしらね」
「かなみはからかうと面白いから、仕方ないですよ」
「ふふっ。……そうそう、かなみったら、家じゃタカシ君のことばかり話してるのよ」
「う……そ、そうですか」
「今日はタカシと何をしたとか、どんなことをしていたとか。口じゃ悪く言ってるけど、それは楽しそうに教えてくれるの」
「は、はぁ……」
なんだか異様に居心地が悪い。背中がむずがゆい。
「……タカシ君はぁ、かなみのこと、どう思ってるのかなー?」
「もぐもぐむしゃむしゃがつがつがつ! ごちそうさまでしたおばさん、大変おいしかったです! おっともうこんな時間だ、そろそろ失礼しまっす!」
勢いよく立ち上がり、言葉を挟ませないうちに家を立ち去ろうとする……が、忘れ物に気づいた。
「鞄、かなみの部屋じゃないの?」
「……はい」
ニッコニコなおばさんに見送られ、かなみの部屋へ。
「た、タカシ、まだいたの?」
「か、鞄を忘れてな」
かなみの部屋に入り、鞄を拾う。さぁ、帰ろう。
「……うー」
……帰ろう、と思うのだが、さっきから枕を抱えて低く唸ってる娘さんが気になって仕方がない。
「か、かなみさん、何か?」
「……嫉妬なんて、してないもん」
「はい?」
「だ、だから、誰も嫉妬なんてしてないもん! そうよね!?」
「はっ、はいっ!」
かなみの勢いに、思わず返事してしまう。
「……そ、そうよ。なんで私が嫉妬なんてしなきゃいけないのよ。気のせいよ、気のせい」
「そうそう、そのとおり。気のせいに決まってる」
思わずへりくだってかなみに同調すると、不満そうに睨まれた。
「……嬉しそうね」
「へ?」
「……嫉妬されてなかったら嬉しいんだ。まーそうよね、私のことなんてタカシからしたらどーでもいいものね」
ああもう、どうしろと言うのだ。なんでそこで機嫌が悪くなる?
「……もう寝る。帰って」
「あー、帰れと言うなら帰るが、一つだけ」
「……なによ」
「かなみがどうでもいいなんて思ったこと、一度もないぞ」
瞬間、かなみの顔が真っ赤に染まった。
「あっ、の、ええと、……ああもう、帰れ馬鹿!」
飛んできた枕を鞄でかわし、部屋を飛び出す。
「じゃーなかなみ、また明日」
「うううるさい、ばかっ!」
真っ赤な顔のかなみに見送られ、俺は家を出るのだった。
おばさんの「よかったらタカシ君も食べていって」という言葉をそのまま受け取り、嫌そうな顔をしてるかなみと一緒に食卓へ。
「たくさん食べてね。かなみったら、ダイエットだかなんだか知らないけど最近あんまり食べてくれないの」
「お、お母さん! 変なこと言わないでよ!」
「ダイエットは胸から痩せると聞いたことがある。かなみ、それ以上胸を虐待するのはやめた方がいいと思うぞ」
「忠告ありがとねっ!」
ありがとうと言いながら殴るのはどうしてだろう。
ひりひりする頬をさすり、両手を合わせて食事開始もぐもぐもぐ。
「タカシ、野菜も食べなさいよ。肉ばっか食べてんじゃないわよ」
「別府家の人間は野菜を食うと青紫色の汁を撒き散らしながら悶死するという言い伝えが」
「いいから食えッ!」
「もがもが」
野菜を直接口に詰め込まれる。それはいいが、一緒に指まで突っ込むな。
「ひゃうっ!? な、舐めるな、ばかっ!」
指を舐めると怒られた。あと殴られた。
「ほんっと、かなみはタカシ君がいるとイキイキしてるわね」
「なっ、なに言ってるのよお母さん! そんなわけないじゃない!」
だが、逆に俺はかなみといるとどんどん弱っていく。時に死にかける。
「……つまり、かなみは俺の生体エナジーを吸い取っているのか」
「人を妖怪みたいに言うなッ!」
俺とかなみが話してるのを、おばさんはニコニコと眺めていた。
「タカシ君、おいしい?」
「大変おいしいです、おばさん。思わず結婚を申し込みたいくらい」
「あらやだ、おばさん本気にしちゃうわよ?」
「熟女は本来俺の範囲外なのですが……おばさんくらい綺麗だと、ストライクゾーンに入るかと。どうです?」
「人の母親を堂々とナンパするなッ!」
おばさんの手を握ったら、かなみが俺の首をぎぅっと締めた。いつになく本気だ。うーん、死ぬ。
「じ、冗談よ、かなみ。ね、タカシ君?」
「……げ、げごぉ」
「日本語喋りなさいよ、日本語!」
ノドを絞められており、うまく喋れません。
その後、おばさんの取り成しもあり、どうにか死の淵から生還した。
「……ったく、馬鹿」
「ごめんね、タカシ君。かなみったら、嫉妬しちゃったみたい」
「なっ、なんで私が嫉妬なんかするってのよ!」
かなみは顔を真っ赤にして叫んだ。
「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、近親相姦でレズってのは人としてどうかと思うぞ」
「違うわよッ!」
「じゃあ、一体誰に嫉妬してるのかしらね?」
「う……」
俺とおばさんの連係プレイに、かなみは顔を赤くしてうつむいてしまった。
「も、もう部屋に戻る! ごちそうさまっ!」
かなみは食器を流しに入れると、慌しく部屋から出て行った。
「あらあら、からかいすぎたかしらね」
「かなみはからかうと面白いから、仕方ないですよ」
「ふふっ。……そうそう、かなみったら、家じゃタカシ君のことばかり話してるのよ」
「う……そ、そうですか」
「今日はタカシと何をしたとか、どんなことをしていたとか。口じゃ悪く言ってるけど、それは楽しそうに教えてくれるの」
「は、はぁ……」
なんだか異様に居心地が悪い。背中がむずがゆい。
「……タカシ君はぁ、かなみのこと、どう思ってるのかなー?」
「もぐもぐむしゃむしゃがつがつがつ! ごちそうさまでしたおばさん、大変おいしかったです! おっともうこんな時間だ、そろそろ失礼しまっす!」
勢いよく立ち上がり、言葉を挟ませないうちに家を立ち去ろうとする……が、忘れ物に気づいた。
「鞄、かなみの部屋じゃないの?」
「……はい」
ニッコニコなおばさんに見送られ、かなみの部屋へ。
「た、タカシ、まだいたの?」
「か、鞄を忘れてな」
かなみの部屋に入り、鞄を拾う。さぁ、帰ろう。
「……うー」
……帰ろう、と思うのだが、さっきから枕を抱えて低く唸ってる娘さんが気になって仕方がない。
「か、かなみさん、何か?」
「……嫉妬なんて、してないもん」
「はい?」
「だ、だから、誰も嫉妬なんてしてないもん! そうよね!?」
「はっ、はいっ!」
かなみの勢いに、思わず返事してしまう。
「……そ、そうよ。なんで私が嫉妬なんてしなきゃいけないのよ。気のせいよ、気のせい」
「そうそう、そのとおり。気のせいに決まってる」
思わずへりくだってかなみに同調すると、不満そうに睨まれた。
「……嬉しそうね」
「へ?」
「……嫉妬されてなかったら嬉しいんだ。まーそうよね、私のことなんてタカシからしたらどーでもいいものね」
ああもう、どうしろと言うのだ。なんでそこで機嫌が悪くなる?
「……もう寝る。帰って」
「あー、帰れと言うなら帰るが、一つだけ」
「……なによ」
「かなみがどうでもいいなんて思ったこと、一度もないぞ」
瞬間、かなみの顔が真っ赤に染まった。
「あっ、の、ええと、……ああもう、帰れ馬鹿!」
飛んできた枕を鞄でかわし、部屋を飛び出す。
「じゃーなかなみ、また明日」
「うううるさい、ばかっ!」
真っ赤な顔のかなみに見送られ、俺は家を出るのだった。
【鹿せんべい買って鹿に追い回されるツンデレ 】
2010年04月08日
修学旅行で奈良の鹿が生息するという公園に連行された。
「じゃあここでしばらく自由行動にします。みんな、鹿さんと触れ合ってね♪」
「いかに童顔とはいえ、30過ぎの女性が音符マークを飛ばすのはどうかと思うぞ」
「まだ29だもん!」
「もん、とか言うな。四捨五入すると30過ぎの人」
「ううう……別府くんがいじめるぅぅぅぅぅ!」
泣きダッシュをかます担任を尻目に、級友たちはわらわらと散っていった。
「アンタねー、先生泣かすんじゃないわよ」
俺も鹿と戯れるかと思ってると、呆れ顔のかなみが寄ってきた。
「いつものことだ、気にするな。で、どうする? 鹿と遊ぶか?」
「んー……そうね。折角だし、鹿せんべいでもあげましょ」
かなみと一緒に露天でせんべいを買うと、早速鹿たちが寄ってきた。
「あははっ、食べてる食べてる。アンタの方は?」
「ぱりぱりぱり……うむ、思った通りおいしくない。味しない」
「なんで自分で食べてるのよッ!」
せんべいを食ってると怒られた。
「自分で買ったんだし、いいだろ別に。それよりかなみ、えらく鹿が寄ってきてるぞ」
「え……わっ、本当だ」
最初は数匹の鹿が、今はもう10を越すほどの数に膨れ上がっていた。
「人間にはその暴力で敬遠されるかなみだったが、そうと知らない鹿には大人気だった」
「暴力なんてしたことないわよっ!」
なんて言いながら俺の頬をぶつこれは暴力以外の何ですか。痛いですよ?
「そ、それより……なんか、すっごい寄ってきてるんだけど」
「うむ、鹿まみれだな」
まるで何かに追い立てられるかのように、鹿がかなみの元に集まっていく。少しばかり怖い。
「ちょ、ちょっと、もう鹿せんべい持ってないのに……た、助けてよタカシ~」
「そんな情けない声を出すでない。いつもの暴力で鹿を振り払えばいいだろうに」
「そんな可哀想なことできるわけないでしょ! ほら、こういう時くらい役に立ちなさいよ!」
「あいにく鹿に襲われてる友人を助けるHowTo本を読んだことがなくてな。くっ……こんな時に何もできない自分が歯痒い」
「そんなHowTo本ないっ! いいから助けろ馬鹿!」
「大丈夫だって、鹿は草食だから別に食われやしないぞ」
「そ、そうだけど……やだ、ちょっと服噛まないでよ!」
鹿にスカートの裾を噛まれ、かなみは悲鳴をあげた。
「わっ、ちょっと……もうヤダ、やめてよ!」
どうにか鹿を振り払い、かなみはその場から逃げ出した。その後を鹿がぞろぞろ着いていく。
「羊飼いの少女のようで、一見のどかな風景ですね。いや、鹿飼いの少女か」
「何をのん気に……早く助けなさいよ、タカシ!」
「しかし、これほどのどかな光景を失うのは人類にとって大きな痛手になるかと。かなみを取るか、人類を取るか……これは極めて難しい選択だ」
「早くしろ、ばかっ!」
叱られたので、鹿を散らす。具体的な方法を記すと政府に消されるので秘密。
「はー……怖かった」
「大丈夫か?」
ぺたりと地面に座り込んでるかなみに手を差し伸べる。
「大丈夫じゃないわよ! なんで最初っから助けてくれないのよ!」
俺の手をとらず、座ったままかなみは俺に疑問をぶつけた。
「なんでと言われても……ただ、鹿に追われるかなみが可愛かったから、それをできるだけ長く見たかったからとしか」
「んなっ!?」
途端、かなみの顔に朱が射した。
「そ、そんな言い訳で私が納得するとでも……」
ごにょごにょ口元で言われても、俺の耳まで届かない。
「とはいえ、すぐ助けないのは確かにダメだな。悪かった」
「……ま、まぁ、別に、その、謝ることないっていうか……うぅ」
「とにかく、ぼちぼち立て。この辺りは地雷が埋まってて危険だぞ」
「地雷……?」
「鹿がいるんだ、糞に決まってるだろ。……それとも糞と戯れる趣味が?」
「ないわよっ! 早く言え、馬鹿!」
かなみは左手で俺の手を引っ張り、右手で俺のあごを打ちぬいた。
「あーもう、やっぱアンタって最低! べーっだ!」
このままでは地雷に顔から突っ込むというのに、俺ときたら舌を出すかなみの仕草に心を奪われる体たらくだった。
「じゃあここでしばらく自由行動にします。みんな、鹿さんと触れ合ってね♪」
「いかに童顔とはいえ、30過ぎの女性が音符マークを飛ばすのはどうかと思うぞ」
「まだ29だもん!」
「もん、とか言うな。四捨五入すると30過ぎの人」
「ううう……別府くんがいじめるぅぅぅぅぅ!」
泣きダッシュをかます担任を尻目に、級友たちはわらわらと散っていった。
「アンタねー、先生泣かすんじゃないわよ」
俺も鹿と戯れるかと思ってると、呆れ顔のかなみが寄ってきた。
「いつものことだ、気にするな。で、どうする? 鹿と遊ぶか?」
「んー……そうね。折角だし、鹿せんべいでもあげましょ」
かなみと一緒に露天でせんべいを買うと、早速鹿たちが寄ってきた。
「あははっ、食べてる食べてる。アンタの方は?」
「ぱりぱりぱり……うむ、思った通りおいしくない。味しない」
「なんで自分で食べてるのよッ!」
せんべいを食ってると怒られた。
「自分で買ったんだし、いいだろ別に。それよりかなみ、えらく鹿が寄ってきてるぞ」
「え……わっ、本当だ」
最初は数匹の鹿が、今はもう10を越すほどの数に膨れ上がっていた。
「人間にはその暴力で敬遠されるかなみだったが、そうと知らない鹿には大人気だった」
「暴力なんてしたことないわよっ!」
なんて言いながら俺の頬をぶつこれは暴力以外の何ですか。痛いですよ?
「そ、それより……なんか、すっごい寄ってきてるんだけど」
「うむ、鹿まみれだな」
まるで何かに追い立てられるかのように、鹿がかなみの元に集まっていく。少しばかり怖い。
「ちょ、ちょっと、もう鹿せんべい持ってないのに……た、助けてよタカシ~」
「そんな情けない声を出すでない。いつもの暴力で鹿を振り払えばいいだろうに」
「そんな可哀想なことできるわけないでしょ! ほら、こういう時くらい役に立ちなさいよ!」
「あいにく鹿に襲われてる友人を助けるHowTo本を読んだことがなくてな。くっ……こんな時に何もできない自分が歯痒い」
「そんなHowTo本ないっ! いいから助けろ馬鹿!」
「大丈夫だって、鹿は草食だから別に食われやしないぞ」
「そ、そうだけど……やだ、ちょっと服噛まないでよ!」
鹿にスカートの裾を噛まれ、かなみは悲鳴をあげた。
「わっ、ちょっと……もうヤダ、やめてよ!」
どうにか鹿を振り払い、かなみはその場から逃げ出した。その後を鹿がぞろぞろ着いていく。
「羊飼いの少女のようで、一見のどかな風景ですね。いや、鹿飼いの少女か」
「何をのん気に……早く助けなさいよ、タカシ!」
「しかし、これほどのどかな光景を失うのは人類にとって大きな痛手になるかと。かなみを取るか、人類を取るか……これは極めて難しい選択だ」
「早くしろ、ばかっ!」
叱られたので、鹿を散らす。具体的な方法を記すと政府に消されるので秘密。
「はー……怖かった」
「大丈夫か?」
ぺたりと地面に座り込んでるかなみに手を差し伸べる。
「大丈夫じゃないわよ! なんで最初っから助けてくれないのよ!」
俺の手をとらず、座ったままかなみは俺に疑問をぶつけた。
「なんでと言われても……ただ、鹿に追われるかなみが可愛かったから、それをできるだけ長く見たかったからとしか」
「んなっ!?」
途端、かなみの顔に朱が射した。
「そ、そんな言い訳で私が納得するとでも……」
ごにょごにょ口元で言われても、俺の耳まで届かない。
「とはいえ、すぐ助けないのは確かにダメだな。悪かった」
「……ま、まぁ、別に、その、謝ることないっていうか……うぅ」
「とにかく、ぼちぼち立て。この辺りは地雷が埋まってて危険だぞ」
「地雷……?」
「鹿がいるんだ、糞に決まってるだろ。……それとも糞と戯れる趣味が?」
「ないわよっ! 早く言え、馬鹿!」
かなみは左手で俺の手を引っ張り、右手で俺のあごを打ちぬいた。
「あーもう、やっぱアンタって最低! べーっだ!」
このままでは地雷に顔から突っ込むというのに、俺ときたら舌を出すかなみの仕草に心を奪われる体たらくだった。