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2024年11月23日
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【ツンデレに初詣に連れて行かれたら】

2010年01月25日
 今年の正月は寝正月と決め込んでいたのに、かなみが突然やってきて初詣に行こうというの。
「一年の計は元旦にありって言うじゃない。優しいあたしがわざわざ誘ってあげてるんだから、喜んで来なさいよ」
「寒いしめんどい」
「いいから行くのっ!」
「あぁん」
 そういうわけで、無理やり有名でもなんでもない近所の神社に連れて来られた。とはいえ流石は正月、それでも結構な人の数で溢れている。
「やっぱこういう場所に来ると気が引き締まるわねー……って、あれ? タカシ?」
「もぐもぐもぐ」
「何を一人でたこ焼き食べてるか!」
 出店があったのでたこ焼き買って食べてたら怒られた。
「おいしいよ?」
「味が問題じゃないの!」
「分かったよ、一個やるよ……」
「そ、そういうことでもなくて……」
 つまようじでたこ焼きを一つぷすりと刺し、それをかなみに向けると、かなみは顔を真っ赤にしながらあわあわした。やがて、きょろきょろ周囲を見回すと、観念したように口を大きく開けた。
「……あ、あーん」
「ほい」
「もぐもぐ……」
「うまいか?」
「う、うん。……じゃ、じゃなくて! こんなの食べるより、お参りするほうが大事でしょ!」
「待ってまだ全部食べてない」
「ああもう、早く食べちゃいなさいよ!」
「分かった分かったあっちぃ!」
「落ち着けっ!」
「食べさせてくれたら落ち着いて食べられそう」
「う……な、なんであたしがアンタに食べさせなくちゃならないのよ!」
「特に理由はないのだけど、そうしてくれると喜ぶ。主に俺が」
「……あ、ああもうっ、この甘えっ子! ほら、貸しなさい!」
 かなみは俺からたこ焼きをプラスチックトレイごと奪うと、つまようじでたこ焼きをぷすりと刺し、俺に向けた。
「あ、あーん」
「かなみ、顔が怖い」
「う、うっさい! 早く食べなさい!」
「あと、顔が赤い」
「言うなっ! 刺すわよ!」
 とても怖かったので慌ててたこ焼きを食べる。
「もぐもぐもぐ」
「……お、おいし?」
「かなみに食べさせてもらうと格別かと」
「い、いらんことは言わんでいいっ!」
「痛い痛い耳が痛い」
 耳を引っ張られながら拝殿へ向かう。参列者の列に並びながら何を誓うか考えてると、かなみがこしょこしょと耳打ちしてきた。
「ね、アンタは何をお願いするの?」
「うーん。健康?」
「うわっ、アンタおっさん?」
「失礼な。そういうお前は何を願うんだ?」
「えっ、あ、あたしは……」
 かなみは俺をじーっと見ると、なぜか顔を赤くしていった。
「うっ、うっさい! アンタなんかに教える必要ないでしょ!」
「酒焼けが治りますようにっていう願いか?」
「未成年よっ!」
 そんな感じでぎゃーぎゃー言い合ってる(というか主に俺が一方的に言われている)と、俺たちの番になった。賽銭箱に小銭を投げ入れ、でっかい鈴のついた縄をがらんがらん振り、手を二回打ち鳴らし、礼する。
 えーと、何にするかな。……まあ、さっき言ったし、健康でいいか。今年一年健康でいられますように、っと。あとついでにかなみも風邪とか引きませんようにっと。
 終わったので隣を見ると、かなみが目をつぶったまま真剣な表情で何か呟いていた。風に乗って今年こそやらタカシがどうとか聞こえたが、はて。
「……よしっ! ほら、行くわよ」
「ん、あ、ああ」
 かなみに手を引かれ、向かった先はおみくじ販売所だ。一枚百円か。
「どーせアンタは大凶だろうから、あたしの大吉の運を少し分けてあげるわね。感謝しなさいよ?」
「なんで既に決定されてんだ」
「日頃の行いよ」
 などと言いながらおみくじを引く。
「お、大吉。らっくぃー。かなみ、お前は?」
「…………」
 見ると、かなみはおみくじを手にしたまま呆然としていた。手元を覗き見ると、『大凶』の文字が。
「すげぇ……大凶ってホントに入ってんだな」
「うー……なんでアンタが大吉で、あたしが大凶なのよ……」
「日頃の行い?」
 かなみが言う分にはいいらしいが、俺が言うと殴られます。理不尽。
「まあ、アレだ。俺の大吉やるよ。で、お前の大凶よこせ」
 そう言いながら、既にかなみの大凶は奪い、代わりに大吉を押し付けている。
「あっ、そんなのダメよ! 返しなさい!」
「や、俺は基本的にこういうのあまり信じてないもので。かなみは信じてるっぽいから、いいのやるから俺に恩に着ろって話だ」
「……な、何よ。こんなので恩に着たりしないわよ!」
「ええっ!? これで恩に着させ、あとでちゅーとかしてもらう俺の完全なる計画が早くも頓挫しただと!?」
「す、するわけないでしょ!」
「むう、非常に残念。あ、向こうの木に結ぶみたいだぞ」
「え、あ、う、うん」
 おみくじの木と化している木に、さらにおみくじをくくりつける。
「こうして……っと。結べたか?」
「…………」
「かなみ? どした、疲れたか?」
「え、あ、ううん。……うー」
 かなみは何度か自分のおみくじと俺の顔を見た後、しぶしぶといった感じで木におみくじを結んだ。
「あれ、ホントはアンタの分なのに……」
「時々善人を演じたくなるだけだから気にするな」
「……むー」
 納得してない感じだったが、それ以上かなみは何も言わなかった。
「さて、と。んじゃ帰るべ。それとも出店ひやかすか?」
「……帰る」
 心なしか元気がないかなみと一緒に帰途に着く。うーむ、失敗したか。いつかこういうことを嫌味なく出来る大人になりたいものだ。
 などとを思いながら静かな街並みを歩いてると、ふと手に柔らかな感触が。
「……ええと?」
「……かっ、勘違いしないでよね! お、恩には着ないけど、借りを作りっぱなしってのは嫌だから。……そっ、それだけ!」
 あわあわしながらかなみが早口にまくし立てていた。
「つまり、おみくじの礼に手を繋いでやるってえことでせうか?」
「そ、そうよ。……ほ、他のがよかった? 膝枕とか、むぎゅーって抱っことか、ほっぺすりすりとか」
「いやいや、いやいやいや。それも大変魅力的ですが、この手ってのもなかなかどうして俺は大変好きです。かなみの手はやーらかくて気持ちいいし」
「……へ、変態」
「知らなかったのか?」
「受け入れるなッ! ……で、でも、そっか。アンタ、あたしの手、好きなんだ」
「うん。好き」
 きゅっとかなみの手を強めに握る。かなみはこちらをちらりと見ると、おずおずと握り返した。
「……えへ。なんかね、いいね。こーいうの」
 かなみのはにかんだ笑顔に、少しばかり照れる。
「……あ、あのね? ……もうちょっと、そっち行っていい?」
「いいけど、よりまくって俺の身体を壁に押し付け、その摩擦により俺を摩り下ろし殺すつもりなら断りたいです」
「やらないわよっ! なんでそんなこと思うのよ……」
「人と頭の中身が違うからだと思う。ダメな方向に」
「あー」
 あーとか言われると悲しくなる。
「あははっ、うそうそ」
 かなみはニッコリ笑って、俺の腕に自分の腕を巻きつけた。
「……えへへ。ね、あたしとくっつけて嬉しい?」
「かなみほどではないにしろ、嬉しい」
「あっ、あたしは嬉しいとか、そういうのじゃないもん。アンタに借りを返すためだけにやってるだけだもん」
「ほほう。つまり、かなみ自身は嫌々やってるのですな?」
「そ、そうだもん。あー、なんだってアンタなんかと腕を組まなきゃならないのかなー」
「かなみ、かなみ」
「ん?」
「そういう台詞を言うときは、ニコニコしてない方がよいと思います」
「ええっ!? ……し、してた?」
「超」
「う、うー……今のなし。……あー、なんだってアンタなんかと腕を組まなきゃならないのかなー。……どう?」
「まだ笑ってる」
「まだ!? ……い、嫌なのよ? ホントよ? アンタと腕組んで、嬉しいとか思ってないんだからね?」
「はいはいはい」
「し、信じなさいよ、ばかーっ!」
 文句を言いながらも、俺の腕は決して離そうとしないかなみと一緒にゆっくり帰りましたとさ。

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