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2024年11月24日
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【アイドルなツンデレと一般人のタカシ】
2010年03月15日
近頃お金がないので、家庭教師で糊口を凌ぐ大学生の別府タカシですこんにちは。
さて、そんなわけで生徒がいるわけなんだが、その生徒は中学生の女の子、とここまではいいんだけど、なんか有名なアイドルらしい。ということで、
「サインくれ、サイン」
「……アンタもそういうのなのね。はぁ、まあいいけ……って、アンタこれ連帯保証人のサインじゃないの!」
「しまった、ばれた」
「ばれた、じゃないでしょうが! ……ったく、変な奴ね」
そんなわけで、何が気に入られたのか知らないが、割と長い期間生徒──かなみに勉強を教えてる。
「先生さ、あたしのライブ来たくない?」
そんなある日。数学の授業中に、かなみがそんなことを口にした。
「ライブって……ははっ、まるでアイドルみたいだな」
「立派なアイドルよっ! テレビつけたらよくあたし映ってるでしょうが! 前にも言ったでしょ、Mステ見ろって!」
「タモリを見るとイモリに変身するんだ。奇病、タモリイモリなんだ。モリモリコンビがお送りする家庭教師の時間です」
「もうちょっとマシな言い訳しなさいよね……」
「テレビはあんまり見なくて。基本的にゲームしたりネットしたりエロゲしたり」
「えろげ? なに、それ」
本当に知らないようなので、ゲームのストーリーやらキャラやらゲーム中に行うことやら体位やらを詳しく詳しく教えると、殴られた。
「なっ、なんで家庭教師が生徒を襲うようなゲームしてんのよっ! この変態変態変態!」
「だいじょぶ、襲わないよう我慢するから」
「我慢とか言うなっ! ……しっかし、典型的なオタクね。やーいオタクオタク」
「ふふ、賛美の声が心地よい。けど、本当は傷つくので、あまりそういうことは言わないで」
「あ、思ったより防御力低い。あははっ、やーいオタクオタク」
「しくしくしく」
「あははっ。……でね、ライブよ、ライブ。来る?」
「タダなら行く」
「……びんぼーにん。しょーがないから、タダであげるわ」
ということで、ライブに招待された。こういうことは初めてなので、少し楽しみだ。
当日。てっきり路上ライブか何かだと思ってたんだけど、
「……しっかりした所じゃん」
立派なコンサートホールの前で、少し驚く。
「……タキシードとか着た方がよかったか?」
しかし、周りを見てみるとそんな格好をした奴はいないのでほっとすると同時に、その方が面白かったかもという考えが俺を襲ったけど面倒なのでこのまま行こう。モギリにチケットを引き裂かれ、中へ。
「……ん?」
通路の脇で、人が群がっていた。何があるのか覗いてみると、かなみの顔がプリントされた悪趣味なCDやらウチワやらが売られていた。
「……買うのか、アレを」
以前、かなみに無理やりCDを渡された時のことを思い出す。一応の礼儀として聞いてはみたものの、その、ええと、……いや、今なら歌唱力も上がってるに違いない! 結構前のことだし、アレ!
嫌な記憶を思い出してしまったことを後悔しながら、チケットに印刷された席に移動する。割と前の方の席だ。
……あ、そういや「挨拶に来ないと殺す」とか言われてたっけ。死ぬのは嫌なので行こう。
ホールの中をほろほろさまよってると、ここから先は関係者以外禁止ですと警備員に止められた。こいつぁラッキーと思いつつ戻ろうとしたら、警備員の後ろに顔見知りを見かけてしまった。
「あっ、先生っ! 来てくれ……こほんっ。やっぱ来たんだ」
嬉しそうに駆け寄ってきたが、突然嫌そうな顔をしたかなみが寄ってきた。そして、俺の腕をがっしと掴み、そのまま楽屋へ連れて行かれた。
「いいのか、俺なんかが入っても」
「ホントはダメだけど、あたしのお客さんだからいいの」
「……? かなみ、なんか緊張してないか?」
「あ、あは、分かる? ……何回やっても、ライブの前は、ね」
小さく震えるかなみの手を、そっと握る。
「せ、先生?」
「あー、なんだ。頑張ってる奴に頑張れって言うの嫌いだから、頑張れとは言わない。適当にやったらいいさ」
そう言いながら、震えをほぐすようにかなみの手を何度も揉む。
「……せ、先生って無責任。適当なんて、できないよ。みんな、今日のために頑張ったんだから」
「…………。国語の授業を始めます」
「せ、先生? 何を……」
「適当の意味を言いなさい」
「え、えっと……その場をつくろうこと、いい加減なこと、……かな?」
「正解。だけど、それで全部じゃないぞ」
「え?」
「ある状態・目的・要求などにぴったり合っていること。ふさわしいこと。……頑張りすぎず、手を抜きすぎず。適当に、な」
なんて、偉そうにかなみを励ます。先生と呼ばれるに相応しいなんて思ってないけど、こんな時くらいは先生らしく虚勢を張る。
「……先生って、すごいね。さすがは先生だね」
「意味が分からん」
「いいのいいの。さっ、そろそろ出てって、準備するから」
かなみに背を押され、そのまま出て行くと見せかけて壁にぶつかって怒られてから、楽屋を出る。
「…………」
その様子を廊下で待機していたマネージャーのお姉さんに見られてた。大変恥ずかしい。
「妖怪、鼻ぶつけ。出現すると壁という壁に鼻をぶつけまくる特殊な」
「失礼、準備がありますので」
皆まで言う前にマネージャーさんは楽屋に入っていった。前から思ってるが、この人冷たい。
「……や、別にいいですけど」
誰に言うでもなくそう呟き、席に戻る。しばらくそのまま待ってると、幕が上がった。始まった。
……終わった。いや、思った以上に面白かった。かなみもステージ上でのびのびしてたし、歌も上達してたし。また来たいと思えるライブだった。
挨拶、してくかな? ……ま、いいか。関係者って訳でもないし、今は内輪だけで盛り上がってるだろ。
人影もまばらになった客席を出て、休憩所でジュースを買う。
「すいません。別府タカシさん、ですね?」
取り出し口からジュースを取ってると、黒服に囲まれた。死ぬのか。
「違います。妖怪の里から出てきたばかりの新米妖怪です。特技はネットでエロ画像収集」
「情報通りの適当ぶり……確保!」
必死に誤魔化そうとするも、瞬く間に拘束され、どっかに運ばれる。
「いやだー、コンクリで海にドボンはいやだー」
「そんなことしません」
運ばれた先に、見覚えのある顔があった。
「あ、マネージャーさんこんにちは。……はっ、ま、まさかあなたも黒服の一員!? 待て、俺を消す前に俺のパソコンのHDDの破壊してくれ! 決して中は見ないで!」
「あなたの性癖なんて興味ありません。この子が呼んでるんです」
マネージャーの後ろから、ステージ衣装のままのかなみが顔を出した。
「先生のことだからそうするとは思ってたけど、やっぱ帰ろうとしてたー。頼んでてよかった。みなさん、ありがとうございました」
かなみが一礼すると、黒服たちは俺の拘束を解き、軽く頷いてどこかへ去っていった。
「ホントにいるんだな、黒服って」
「私が手配したんです。まったく、この忙しいのになんだって……」
マネージャーさんに睨まれた。なんで俺が睨まれるのか分からないので、最大級の変な顔をしてやる。
「ぶふっ! ……くっ、この私が」
吹き出した後、マネージャーさんは悔しそうに俺を見た。なんで悔しいんだ。
「先生、海上に急浮上してきた深海魚みたい……」
よく分からないけど馬鹿にされてるようだ。
「あのさ、先生。これから打ち上げなんだけど、先生も来たいでしょ? どうしてもって言うなら、別に来てもいいわよ」
「いい。居場所なさそうだし」
「当然です。かなみさん、この方は無関係ですし、打ち上げに呼ぶ必要なんてありません」
マネージャーさんが俺をいらんもの扱いするが、言ってることはもっともなので特に反論しない。しないが、悔しいので別verの変な顔をする。
「ぶふっ! ……くっ、この私が二度までも」
「先生、変な顔しないの!」
「すいません」
なんか俺が怒られた。
「いいから来るっ! ……その、先生がいたら、打ち上げもちょっとは面白くなるかもしれないからさ」
……ひょっとしたら、かなみはあまり打ち上げが好きじゃないのかもしれない。
「行く。行って可愛い子とお知り合いになってうはうは」
「先生ッ!」
「すいません」
怒られたけど、打ち上げに紛れ込むことに成功。色々な人に誰? と言われたので、その度に
「妖怪、いつの間にか打ち上げに紛れ込みです。特に害はないけど可愛い子がいたら声をかけて知り合いになる。君、俺に電話番号を」
「先生ッ!」
「すいません」
というやりとりをして怒られた。けど、怒りながらも笑っていたので、俺の役目は果たしたと言えよう。
色々あって、打ち上げも終わり、マネージャーさんの運転する車で帰途に着く。一人で帰ると言ったのだが、一緒に連行された。
「あー……怒り疲れた」
隣に座るかなみがぐったりした様子で言った。
「俺は怒られ疲れた」
「怒られるようなことばっかするからでしょうが! ……でも、ありがとね」
「うん?」
「……先生がいたから、今日の打ち上げは楽しかったよ」
「俺は可愛い子とお知り合いになりに行っただけ。感謝される意味が分からん」
「……へへっ、そだね」
ぽふりとかなみが俺の胸元に倒れこんだ。
「ちょっと、疲れちゃった。……少し寝るから、着いたら起こしてね」
「え、あ、う」
「分かりました。お休みなさい、かなみさん」
こっちがオロオロしてる間に、マネージャーさんが答えてしまった。
「……貴方は」
そのまま無言でしばし過ごしてると、ふいにマネージャーさんが口を開いた。
「貴方は、かなみさんのことをどう思ってるんですか?」
「どうって……生徒、ただの生徒だよ」
「それは、本心ですか?」
「……大事な、生徒だよ」
「……なるほど。……かなみさんを泣かせたら、承知しませんよ」
「大丈夫、泣かされてるのは主にこっちだ」
マネージャーさんが笑う雰囲気がこっちに伝わってきた。
「……んにゅ、せんせ……」
胸元でかなみが寝言で小さく俺を呼んだ。
「はいはい、俺はここだよ」
軽くかなみの頭をなでてあげる。
「……うにゅ♪」
変な鳴き声と共に、かなみがはにかんだ。
「あ、そうそう」
かなみの変声に微笑んでると、マネージャーさんが思い出したように声を上げた。
「かなみさんは未成年ですから、手を出したらダメですよ」
「…………。任せろ!」
「……なんですか、最初の間は」
「大丈夫、まだ出してない」
「まっ、まだって何ですか、まだって!」
マネージャーさんの慌て具合が運転にもでたのか、蛇行運転を開始。
「まっ、前見ろ前! バカ、ぶつかる!」
「ばっ、馬鹿とはなんですか、馬鹿とは! 貴方の通ってる三流大学と違い、私は一流大学を出て」
「いいから、まえーっ!」
「んにゅ、もう着いたの……うわわわっ、なになに、ジェットコースター!?」
あやうく死にかけたが、どうにかかなみの家に辿り着いた。
「先生先生、ちょっとちょっと」
家の前までかなみを送ってると、かなみが手招きした。
「うん、なんだ?」
「……人影、なし、と。先生、ちょっとかがんで」
……これは、アレですか。恋人とかがよくやる、アレですか。
「あ、いや、その、アレですよアレなんですよ、ほら、アイドルに手を出すと色々問題があるしそのいや俺としてはやぶさかでもないんですが」
「早くっ!」
「はい」
条件反射的にかがむと、かなみの顔が目の前に。
「……ちゅ」
頬にキスされた。
「……お、お礼。……そ、その、ちゃんとライブに来てくれたことと、励ましてくれたことと、打ち上げに着いてきてくれたことと、えっと、えっと」
「あー……うん。ありがとう」
「ち、違うっ! 感謝するの、あたし!」
そう言われても、頭が柔らかかったとしか考えてくれないのでよく分からない。
「……うっと、そ、その、……また今度っ!」
かなみは顔を真っ赤にして、家に飛び込んでいった。
「あ、うん」
残された俺は俺で、たぶん赤くしているのだろう。
「……ふ、ふふ、手を出すなと言った途端これですか。……いい度胸ですね、貴方」
そして、車の中にいるはずのマネージャーの声が聞こえてきて、赤いのが青くなってきた。
「すなわちナイス度胸」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「あっ、待ちなさい! この、三流大学がーっ!」
マネージャーが俺に大変嫌なあだ名をつけつつ、追ってきた。そんな一日でした。
さて、そんなわけで生徒がいるわけなんだが、その生徒は中学生の女の子、とここまではいいんだけど、なんか有名なアイドルらしい。ということで、
「サインくれ、サイン」
「……アンタもそういうのなのね。はぁ、まあいいけ……って、アンタこれ連帯保証人のサインじゃないの!」
「しまった、ばれた」
「ばれた、じゃないでしょうが! ……ったく、変な奴ね」
そんなわけで、何が気に入られたのか知らないが、割と長い期間生徒──かなみに勉強を教えてる。
「先生さ、あたしのライブ来たくない?」
そんなある日。数学の授業中に、かなみがそんなことを口にした。
「ライブって……ははっ、まるでアイドルみたいだな」
「立派なアイドルよっ! テレビつけたらよくあたし映ってるでしょうが! 前にも言ったでしょ、Mステ見ろって!」
「タモリを見るとイモリに変身するんだ。奇病、タモリイモリなんだ。モリモリコンビがお送りする家庭教師の時間です」
「もうちょっとマシな言い訳しなさいよね……」
「テレビはあんまり見なくて。基本的にゲームしたりネットしたりエロゲしたり」
「えろげ? なに、それ」
本当に知らないようなので、ゲームのストーリーやらキャラやらゲーム中に行うことやら体位やらを詳しく詳しく教えると、殴られた。
「なっ、なんで家庭教師が生徒を襲うようなゲームしてんのよっ! この変態変態変態!」
「だいじょぶ、襲わないよう我慢するから」
「我慢とか言うなっ! ……しっかし、典型的なオタクね。やーいオタクオタク」
「ふふ、賛美の声が心地よい。けど、本当は傷つくので、あまりそういうことは言わないで」
「あ、思ったより防御力低い。あははっ、やーいオタクオタク」
「しくしくしく」
「あははっ。……でね、ライブよ、ライブ。来る?」
「タダなら行く」
「……びんぼーにん。しょーがないから、タダであげるわ」
ということで、ライブに招待された。こういうことは初めてなので、少し楽しみだ。
当日。てっきり路上ライブか何かだと思ってたんだけど、
「……しっかりした所じゃん」
立派なコンサートホールの前で、少し驚く。
「……タキシードとか着た方がよかったか?」
しかし、周りを見てみるとそんな格好をした奴はいないのでほっとすると同時に、その方が面白かったかもという考えが俺を襲ったけど面倒なのでこのまま行こう。モギリにチケットを引き裂かれ、中へ。
「……ん?」
通路の脇で、人が群がっていた。何があるのか覗いてみると、かなみの顔がプリントされた悪趣味なCDやらウチワやらが売られていた。
「……買うのか、アレを」
以前、かなみに無理やりCDを渡された時のことを思い出す。一応の礼儀として聞いてはみたものの、その、ええと、……いや、今なら歌唱力も上がってるに違いない! 結構前のことだし、アレ!
嫌な記憶を思い出してしまったことを後悔しながら、チケットに印刷された席に移動する。割と前の方の席だ。
……あ、そういや「挨拶に来ないと殺す」とか言われてたっけ。死ぬのは嫌なので行こう。
ホールの中をほろほろさまよってると、ここから先は関係者以外禁止ですと警備員に止められた。こいつぁラッキーと思いつつ戻ろうとしたら、警備員の後ろに顔見知りを見かけてしまった。
「あっ、先生っ! 来てくれ……こほんっ。やっぱ来たんだ」
嬉しそうに駆け寄ってきたが、突然嫌そうな顔をしたかなみが寄ってきた。そして、俺の腕をがっしと掴み、そのまま楽屋へ連れて行かれた。
「いいのか、俺なんかが入っても」
「ホントはダメだけど、あたしのお客さんだからいいの」
「……? かなみ、なんか緊張してないか?」
「あ、あは、分かる? ……何回やっても、ライブの前は、ね」
小さく震えるかなみの手を、そっと握る。
「せ、先生?」
「あー、なんだ。頑張ってる奴に頑張れって言うの嫌いだから、頑張れとは言わない。適当にやったらいいさ」
そう言いながら、震えをほぐすようにかなみの手を何度も揉む。
「……せ、先生って無責任。適当なんて、できないよ。みんな、今日のために頑張ったんだから」
「…………。国語の授業を始めます」
「せ、先生? 何を……」
「適当の意味を言いなさい」
「え、えっと……その場をつくろうこと、いい加減なこと、……かな?」
「正解。だけど、それで全部じゃないぞ」
「え?」
「ある状態・目的・要求などにぴったり合っていること。ふさわしいこと。……頑張りすぎず、手を抜きすぎず。適当に、な」
なんて、偉そうにかなみを励ます。先生と呼ばれるに相応しいなんて思ってないけど、こんな時くらいは先生らしく虚勢を張る。
「……先生って、すごいね。さすがは先生だね」
「意味が分からん」
「いいのいいの。さっ、そろそろ出てって、準備するから」
かなみに背を押され、そのまま出て行くと見せかけて壁にぶつかって怒られてから、楽屋を出る。
「…………」
その様子を廊下で待機していたマネージャーのお姉さんに見られてた。大変恥ずかしい。
「妖怪、鼻ぶつけ。出現すると壁という壁に鼻をぶつけまくる特殊な」
「失礼、準備がありますので」
皆まで言う前にマネージャーさんは楽屋に入っていった。前から思ってるが、この人冷たい。
「……や、別にいいですけど」
誰に言うでもなくそう呟き、席に戻る。しばらくそのまま待ってると、幕が上がった。始まった。
……終わった。いや、思った以上に面白かった。かなみもステージ上でのびのびしてたし、歌も上達してたし。また来たいと思えるライブだった。
挨拶、してくかな? ……ま、いいか。関係者って訳でもないし、今は内輪だけで盛り上がってるだろ。
人影もまばらになった客席を出て、休憩所でジュースを買う。
「すいません。別府タカシさん、ですね?」
取り出し口からジュースを取ってると、黒服に囲まれた。死ぬのか。
「違います。妖怪の里から出てきたばかりの新米妖怪です。特技はネットでエロ画像収集」
「情報通りの適当ぶり……確保!」
必死に誤魔化そうとするも、瞬く間に拘束され、どっかに運ばれる。
「いやだー、コンクリで海にドボンはいやだー」
「そんなことしません」
運ばれた先に、見覚えのある顔があった。
「あ、マネージャーさんこんにちは。……はっ、ま、まさかあなたも黒服の一員!? 待て、俺を消す前に俺のパソコンのHDDの破壊してくれ! 決して中は見ないで!」
「あなたの性癖なんて興味ありません。この子が呼んでるんです」
マネージャーの後ろから、ステージ衣装のままのかなみが顔を出した。
「先生のことだからそうするとは思ってたけど、やっぱ帰ろうとしてたー。頼んでてよかった。みなさん、ありがとうございました」
かなみが一礼すると、黒服たちは俺の拘束を解き、軽く頷いてどこかへ去っていった。
「ホントにいるんだな、黒服って」
「私が手配したんです。まったく、この忙しいのになんだって……」
マネージャーさんに睨まれた。なんで俺が睨まれるのか分からないので、最大級の変な顔をしてやる。
「ぶふっ! ……くっ、この私が」
吹き出した後、マネージャーさんは悔しそうに俺を見た。なんで悔しいんだ。
「先生、海上に急浮上してきた深海魚みたい……」
よく分からないけど馬鹿にされてるようだ。
「あのさ、先生。これから打ち上げなんだけど、先生も来たいでしょ? どうしてもって言うなら、別に来てもいいわよ」
「いい。居場所なさそうだし」
「当然です。かなみさん、この方は無関係ですし、打ち上げに呼ぶ必要なんてありません」
マネージャーさんが俺をいらんもの扱いするが、言ってることはもっともなので特に反論しない。しないが、悔しいので別verの変な顔をする。
「ぶふっ! ……くっ、この私が二度までも」
「先生、変な顔しないの!」
「すいません」
なんか俺が怒られた。
「いいから来るっ! ……その、先生がいたら、打ち上げもちょっとは面白くなるかもしれないからさ」
……ひょっとしたら、かなみはあまり打ち上げが好きじゃないのかもしれない。
「行く。行って可愛い子とお知り合いになってうはうは」
「先生ッ!」
「すいません」
怒られたけど、打ち上げに紛れ込むことに成功。色々な人に誰? と言われたので、その度に
「妖怪、いつの間にか打ち上げに紛れ込みです。特に害はないけど可愛い子がいたら声をかけて知り合いになる。君、俺に電話番号を」
「先生ッ!」
「すいません」
というやりとりをして怒られた。けど、怒りながらも笑っていたので、俺の役目は果たしたと言えよう。
色々あって、打ち上げも終わり、マネージャーさんの運転する車で帰途に着く。一人で帰ると言ったのだが、一緒に連行された。
「あー……怒り疲れた」
隣に座るかなみがぐったりした様子で言った。
「俺は怒られ疲れた」
「怒られるようなことばっかするからでしょうが! ……でも、ありがとね」
「うん?」
「……先生がいたから、今日の打ち上げは楽しかったよ」
「俺は可愛い子とお知り合いになりに行っただけ。感謝される意味が分からん」
「……へへっ、そだね」
ぽふりとかなみが俺の胸元に倒れこんだ。
「ちょっと、疲れちゃった。……少し寝るから、着いたら起こしてね」
「え、あ、う」
「分かりました。お休みなさい、かなみさん」
こっちがオロオロしてる間に、マネージャーさんが答えてしまった。
「……貴方は」
そのまま無言でしばし過ごしてると、ふいにマネージャーさんが口を開いた。
「貴方は、かなみさんのことをどう思ってるんですか?」
「どうって……生徒、ただの生徒だよ」
「それは、本心ですか?」
「……大事な、生徒だよ」
「……なるほど。……かなみさんを泣かせたら、承知しませんよ」
「大丈夫、泣かされてるのは主にこっちだ」
マネージャーさんが笑う雰囲気がこっちに伝わってきた。
「……んにゅ、せんせ……」
胸元でかなみが寝言で小さく俺を呼んだ。
「はいはい、俺はここだよ」
軽くかなみの頭をなでてあげる。
「……うにゅ♪」
変な鳴き声と共に、かなみがはにかんだ。
「あ、そうそう」
かなみの変声に微笑んでると、マネージャーさんが思い出したように声を上げた。
「かなみさんは未成年ですから、手を出したらダメですよ」
「…………。任せろ!」
「……なんですか、最初の間は」
「大丈夫、まだ出してない」
「まっ、まだって何ですか、まだって!」
マネージャーさんの慌て具合が運転にもでたのか、蛇行運転を開始。
「まっ、前見ろ前! バカ、ぶつかる!」
「ばっ、馬鹿とはなんですか、馬鹿とは! 貴方の通ってる三流大学と違い、私は一流大学を出て」
「いいから、まえーっ!」
「んにゅ、もう着いたの……うわわわっ、なになに、ジェットコースター!?」
あやうく死にかけたが、どうにかかなみの家に辿り着いた。
「先生先生、ちょっとちょっと」
家の前までかなみを送ってると、かなみが手招きした。
「うん、なんだ?」
「……人影、なし、と。先生、ちょっとかがんで」
……これは、アレですか。恋人とかがよくやる、アレですか。
「あ、いや、その、アレですよアレなんですよ、ほら、アイドルに手を出すと色々問題があるしそのいや俺としてはやぶさかでもないんですが」
「早くっ!」
「はい」
条件反射的にかがむと、かなみの顔が目の前に。
「……ちゅ」
頬にキスされた。
「……お、お礼。……そ、その、ちゃんとライブに来てくれたことと、励ましてくれたことと、打ち上げに着いてきてくれたことと、えっと、えっと」
「あー……うん。ありがとう」
「ち、違うっ! 感謝するの、あたし!」
そう言われても、頭が柔らかかったとしか考えてくれないのでよく分からない。
「……うっと、そ、その、……また今度っ!」
かなみは顔を真っ赤にして、家に飛び込んでいった。
「あ、うん」
残された俺は俺で、たぶん赤くしているのだろう。
「……ふ、ふふ、手を出すなと言った途端これですか。……いい度胸ですね、貴方」
そして、車の中にいるはずのマネージャーの声が聞こえてきて、赤いのが青くなってきた。
「すなわちナイス度胸」
それだけ言って猿も裸足で逃げ出すほどの手練で逃げる。
「あっ、待ちなさい! この、三流大学がーっ!」
マネージャーが俺に大変嫌なあだ名をつけつつ、追ってきた。そんな一日でした。
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