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2025年02月05日
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【ツンデレにキャッチコピーを付けてみよう】
2011年08月22日
キャッチコピーか。任せろ、得意だ。丁度よくかなみがやって来た。
「……『動く昆布』!」
「誰が昆布か! これは髪だって何百回と言ってるでしょうが!」
両のツインテールを持って、かなみがぎゃんぎゃん叫んだ。
「そう怒るなよ、はるぴー」
「はるぴーじゃないッッッ!!!」
すごく怒られた。
「ったく……いきなりなんなのよ」
「いやね、キャッチコピーをつけろって神から啓示がありまして」
「うわー……」
素で引かれた。
「まあそう羨ましがるな」
「引いてんのよッ! ……まあ、どーせアンタのことだから、なんとなくしたくなっちゃっただけだろうケド」
「流石ははるぴー、俺のことをよく理解してらっしゃる」
「かなみだって言ってるでしょうが! 次間違ったら絶対殺す!」
このお嬢さんはすぐに人を殺そうとするのでとても怖い。
「あのね、かなみさん。人を殺すのは、ダメなんだよ?」
「そもそもアンタが原因なんだから諦めなさい」
「それもそうか! わはははは!」
「受け入れて爆笑するな!」
もう何をやっても怒られる。
「ったく、今日も馬鹿。で、道いく人にキャッチコピーつけるなんてどうしようもないことやってんだから、アンタいま暇でしょ?」
「客観的に自分の成したことを言われると死にたくなるが、そうだな、暇だ」
「はぁ……。あのさ、暇なら買い物付き合いなさい。ジュースくらいならおごったげるから」
「デートなら行く」
「だ、誰がアンタなんかとデートなんかするのよ!」
「デートなら行く、もとい。デートという体なら行く」
「……そ、それはつまり、中身は普段の買い物でも、デートって言うなら、来るってコト?」
こっくりうなずくと、かなみは顔を赤くしながら何やら難しい顔をした。
「……わ、分かったわ。分かったわよ! デートよ、デート! 文句ある!?」
「なんで怒ってるの?」
「う、うっさい! いーから行くわよ!」
「ひぃ」
なんか顔を真っ赤にしてる怖い人に手を握られ、連行されました。
強制収容所かどこかに連れて行かれるかと思ったが、いつものウインドウショッピングらしい。のはいいんだが。
「あの。いつまで手を握っているのでしょうか」
「な、何よ! アンタがデートだって言い張るから、握ってやってんでしょ!」
「いや、そうなんだけど」
「……それとも、嫌なの?」
しゅん、とした表情で上目遣いとか、どこで手に入れたキラースキルですか。
「まさかまさかまさかまさかまさか」
「言いすぎ! あと、首を横に振りすぎ! 怖いわよ!」
すごい勢いで否定したら首が取れるところでした。
「……と、とにかく、嫌じゃないのよね?」
「当然です」
「……そ、そか。そなんだ。……えへへっ、ただの買い物なのに、デートだと思ってる。ばーか♪」
かなみは俺にニッコリ微笑みかけた。なんて破壊力だ。
「ちょっと俺の家に来てくれません? 5分ほど舐めるだけですから」
「寄るな変態ッ!」
思ったことを言ったら一瞬にして嫌われた。
「まったく……なんだってアンタはそんなにアホなの?」
「『これを言ったらどうなるかな? 怒られるかな? でも面白いし、言っちゃえ!』が俺の基本理念ですから」
「そんな理念捨ててしまえ!」
「いや全く。あと、さっきのは舐めたいという台詞は、面白いから言ったのではなく、とても可愛いかったので思わず出た言葉です」
「な……っ! ……あ、アンタは、そゆことを、真顔で言うなっ!」
ぽこぽこ、とまるで女の子みたいな威力のパンチを肩に受ける。
「……う、うぅー。こ、こっち見るな、ばかっ!」
かなみは自分のバッグで顔を隠してしまった。
「やっぱ舐めていい?」
「変態を治せ、ばかっ!」
どうやら俺はままならないようです。
「……『動く昆布』!」
「誰が昆布か! これは髪だって何百回と言ってるでしょうが!」
両のツインテールを持って、かなみがぎゃんぎゃん叫んだ。
「そう怒るなよ、はるぴー」
「はるぴーじゃないッッッ!!!」
すごく怒られた。
「ったく……いきなりなんなのよ」
「いやね、キャッチコピーをつけろって神から啓示がありまして」
「うわー……」
素で引かれた。
「まあそう羨ましがるな」
「引いてんのよッ! ……まあ、どーせアンタのことだから、なんとなくしたくなっちゃっただけだろうケド」
「流石ははるぴー、俺のことをよく理解してらっしゃる」
「かなみだって言ってるでしょうが! 次間違ったら絶対殺す!」
このお嬢さんはすぐに人を殺そうとするのでとても怖い。
「あのね、かなみさん。人を殺すのは、ダメなんだよ?」
「そもそもアンタが原因なんだから諦めなさい」
「それもそうか! わはははは!」
「受け入れて爆笑するな!」
もう何をやっても怒られる。
「ったく、今日も馬鹿。で、道いく人にキャッチコピーつけるなんてどうしようもないことやってんだから、アンタいま暇でしょ?」
「客観的に自分の成したことを言われると死にたくなるが、そうだな、暇だ」
「はぁ……。あのさ、暇なら買い物付き合いなさい。ジュースくらいならおごったげるから」
「デートなら行く」
「だ、誰がアンタなんかとデートなんかするのよ!」
「デートなら行く、もとい。デートという体なら行く」
「……そ、それはつまり、中身は普段の買い物でも、デートって言うなら、来るってコト?」
こっくりうなずくと、かなみは顔を赤くしながら何やら難しい顔をした。
「……わ、分かったわ。分かったわよ! デートよ、デート! 文句ある!?」
「なんで怒ってるの?」
「う、うっさい! いーから行くわよ!」
「ひぃ」
なんか顔を真っ赤にしてる怖い人に手を握られ、連行されました。
強制収容所かどこかに連れて行かれるかと思ったが、いつものウインドウショッピングらしい。のはいいんだが。
「あの。いつまで手を握っているのでしょうか」
「な、何よ! アンタがデートだって言い張るから、握ってやってんでしょ!」
「いや、そうなんだけど」
「……それとも、嫌なの?」
しゅん、とした表情で上目遣いとか、どこで手に入れたキラースキルですか。
「まさかまさかまさかまさかまさか」
「言いすぎ! あと、首を横に振りすぎ! 怖いわよ!」
すごい勢いで否定したら首が取れるところでした。
「……と、とにかく、嫌じゃないのよね?」
「当然です」
「……そ、そか。そなんだ。……えへへっ、ただの買い物なのに、デートだと思ってる。ばーか♪」
かなみは俺にニッコリ微笑みかけた。なんて破壊力だ。
「ちょっと俺の家に来てくれません? 5分ほど舐めるだけですから」
「寄るな変態ッ!」
思ったことを言ったら一瞬にして嫌われた。
「まったく……なんだってアンタはそんなにアホなの?」
「『これを言ったらどうなるかな? 怒られるかな? でも面白いし、言っちゃえ!』が俺の基本理念ですから」
「そんな理念捨ててしまえ!」
「いや全く。あと、さっきのは舐めたいという台詞は、面白いから言ったのではなく、とても可愛いかったので思わず出た言葉です」
「な……っ! ……あ、アンタは、そゆことを、真顔で言うなっ!」
ぽこぽこ、とまるで女の子みたいな威力のパンチを肩に受ける。
「……う、うぅー。こ、こっち見るな、ばかっ!」
かなみは自分のバッグで顔を隠してしまった。
「やっぱ舐めていい?」
「変態を治せ、ばかっ!」
どうやら俺はままならないようです。
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【魚が嫌いな男にツンデレが文句を言ったら】
2011年08月17日
とある休日、朝からのんべんだらりとしていた俺の元へ珍客がやってきた。それも、二人。
「さあ、これを食べてください」
「ぷにっ!」
「……え?」
俺の前に差し出される、魚。ぴちぴち跳ねてる生魚。
「いや、意味が分からない」
「別府くん、魚が嫌いなんですってね」
「ぷにっ」
「だからこんな頭が悪いんです。魚のDHAを摂取していないのが原因です。コレを食べて、頭がよくなってください」
「ぷにっ!」
「いや、この一連の会話を鑑みるに、どう考えてもお前の方が頭悪いだろ、委員長」
「なんですってえ!」
「痛っ、痛い! そして生臭い!」
魚で殴打された。それは武器ではないです。
「そしてお前はなんなのだ、ぷに子」
「ぷにー」
さっきからぷにぷに言って委員長に追随しているフリをしているぷに子のほっぺを引っ張る。
こやつはぷに国というふざけた名前の国からやってきたぷに子(命名:俺)だ。一説によると姫さんという噂だが、まさかね。
「ぷにちゃんをいじめないでくださいっ!」
などとぼんやりしながらぷに子をふにふにしてたら、委員長に取られた。
「ぷに、ぷにー!」
しかし、当のぷに子は俺に向け手を伸ばしている。昔、この国に来たての頃に世話を焼いたせいか、刷り込み的に気に入られている俺だ。
「こらっ、ぷにちゃん! こんなのに触ったら病気になりますよっ!」
「ふふ。酷い扱いだ」
しかし、それとは真逆に委員長には嫌われている。……まあ、休みだってのにこうしてわざわざ家まで来てくれるのだから、そこまで嫌われていない……のか?
「なんですか。こっち見ないでください。気持ち悪いです」
訂正。超嫌われてます。
「あんまりにも悲しいのでぷに子と遊ぼう。おいで、ぷに子」
「ぷにーっ!」
「あっ、こらっ!」
おいでおいでしたら、ぷに子は委員長の拘束を解き、ばびゅーんと飛んできた。がっしと受け止め、頭をなでる。
「ぷにっ、ぷにっ♪」
「ああはいはい、落ち着け」
「ぷににー♪」
「うぐ……そ、そんなことしてる暇があるなら魚を食べなさい、魚っ!」
「もがっ!?」
突然ぴちぴちと跳ねてる新鮮なお魚を口に突っ込まれた。
「ぷはっ。……あのな。どんな拷問だ」
「知りません! 別府くんのばか!」
「いやいや。人の口の中に魚突っ込む方がよほど馬鹿……というか、常識がないと思うぞ」
「ぷに! ぷににっ!」
俺と並び、一緒に委員長を攻撃するぷに子。ただ、ぷに語なので普通の人には何言ってんだか分かりゃしないが。
「ぷ、ぷにちゃんまで……別府くんに劣るだなんて、物凄くショックです」
しかし、委員長と俺はぷに子と付き合いが長いのでぷに語をなんとなく理解できる。そして俺以下はそんなにダメですか。俺まで落ち込みそうだ。
「ぷにー……」
そして、落ち込む二人に置いていかれたぷに子も落ち込んだ。
「いや、別にお前は落ち込まなくていいだろ」
「ぷに?」
ぷに子のほっぺをぷにぷにしながら訂正する。
「……ああもうっ! イチャイチャしすぎですっ! 私がいることをお忘れですかっ!?」
突如委員長が爆発したのでびっくりした。
「いや、イチャイチャって……別に、なぁ?」
「ぷにー♪」
「あああああっ!?」
なあ、って言ってるのに、ぷに子さんったら空気を読まずに俺に抱きついたりなんかして。頬擦りなんかしたりして(焦)。
「わっ、わざとですか!? わざと私に見せ付けてるんですか!?」
「なんでやねん」
なんか知らんが涙目になってる委員長にずびしと突っ込みをいれる。
「ううぅ……も、もういいです! 知りません! たあっ!」
たあの掛け声とともに、委員長が俺の膝にわっさと降って来た。右の膝にはぷに子、左の膝には委員長が住んでおります。
「なんで気がつけば両手に花なの?」
「知りません! 別府くんがこれみよがしにぷにちゃんとイチャイチャするからですっ! 理由なんてないですっ!」
「いやいや。超自分で理由言ってますが」
「うるさいですっ!」
委員長の目が石川賢ばりにぐるぐるしている。こいつぁマズイ。
「ぷにっ、ぷににっ!」
そしてコイツこそ理由はないのだろうけど、ぷに子が全力で頬擦りしてきてちょっと痛い。
「あっ! それ、私にも! 私にもしてください!」
「いやいや。別にこれは俺が能動的にしているのではなくて、ぷに子が自分から」
「早くっ!」
「……はい」
暴走してる委員長に道理を説いても無意味だ。俺は諦めて委員長に頬擦りした。
「ううううぅ……」
「い、委員長? 大丈夫か?」
「なんですかっ! 別に幸せなんかじゃないですっ! もっといっぱいしてくださいっ!」
「…………。はい」
なんか色々思ったが、頬擦り続行。
「ぷにっ! ぷににっ!」
と思ったが、何やらぷに子が怒ってる。
「あーと。まさかとは思うが、お前もしてほしいと?」
「ぷにー♪」
正解らしい。その証拠にほっぺにちゅってされた。
「ああーっ!? わ、私も! 私もそれする!」
「え」
と思う間もなく、真っ赤の顔が寄ってきて、ほっぺに柔らかくて熱い感触。
「え、えーと。い、委員長?」
「……さ、魚」
「はい?」
「魚! 最近食べてなかったから、私まで別府くんのレベルまで馬鹿になっちゃいました! だから、こんなことやっちゃってるんです! 普段の私ならこんなこと絶対やんないです!」
「あ、ああ、そだな」
少なくとも、普段の委員長ならもうちょっとマシな言い訳をしているハズ。
「わ、分かればいいんです。今日だけちょっとおかしいだけなんです。ふにふにしてください」
「なんか最後の言葉がおかしいです」
「冷静に指摘しないでくださいっ!」
委員長が顔を真っ赤にして怒った。
「わはは。委員長かーわいい」
「ううぅぅぅ……別府くんなんて大嫌いです」
「ぷにー♪」
「あっ、ぷにちゃんずるい! 私も!」
とまあ、なんていうか、なんていうか。暴走って怖いよね。
「さあ、これを食べてください」
「ぷにっ!」
「……え?」
俺の前に差し出される、魚。ぴちぴち跳ねてる生魚。
「いや、意味が分からない」
「別府くん、魚が嫌いなんですってね」
「ぷにっ」
「だからこんな頭が悪いんです。魚のDHAを摂取していないのが原因です。コレを食べて、頭がよくなってください」
「ぷにっ!」
「いや、この一連の会話を鑑みるに、どう考えてもお前の方が頭悪いだろ、委員長」
「なんですってえ!」
「痛っ、痛い! そして生臭い!」
魚で殴打された。それは武器ではないです。
「そしてお前はなんなのだ、ぷに子」
「ぷにー」
さっきからぷにぷに言って委員長に追随しているフリをしているぷに子のほっぺを引っ張る。
こやつはぷに国というふざけた名前の国からやってきたぷに子(命名:俺)だ。一説によると姫さんという噂だが、まさかね。
「ぷにちゃんをいじめないでくださいっ!」
などとぼんやりしながらぷに子をふにふにしてたら、委員長に取られた。
「ぷに、ぷにー!」
しかし、当のぷに子は俺に向け手を伸ばしている。昔、この国に来たての頃に世話を焼いたせいか、刷り込み的に気に入られている俺だ。
「こらっ、ぷにちゃん! こんなのに触ったら病気になりますよっ!」
「ふふ。酷い扱いだ」
しかし、それとは真逆に委員長には嫌われている。……まあ、休みだってのにこうしてわざわざ家まで来てくれるのだから、そこまで嫌われていない……のか?
「なんですか。こっち見ないでください。気持ち悪いです」
訂正。超嫌われてます。
「あんまりにも悲しいのでぷに子と遊ぼう。おいで、ぷに子」
「ぷにーっ!」
「あっ、こらっ!」
おいでおいでしたら、ぷに子は委員長の拘束を解き、ばびゅーんと飛んできた。がっしと受け止め、頭をなでる。
「ぷにっ、ぷにっ♪」
「ああはいはい、落ち着け」
「ぷににー♪」
「うぐ……そ、そんなことしてる暇があるなら魚を食べなさい、魚っ!」
「もがっ!?」
突然ぴちぴちと跳ねてる新鮮なお魚を口に突っ込まれた。
「ぷはっ。……あのな。どんな拷問だ」
「知りません! 別府くんのばか!」
「いやいや。人の口の中に魚突っ込む方がよほど馬鹿……というか、常識がないと思うぞ」
「ぷに! ぷににっ!」
俺と並び、一緒に委員長を攻撃するぷに子。ただ、ぷに語なので普通の人には何言ってんだか分かりゃしないが。
「ぷ、ぷにちゃんまで……別府くんに劣るだなんて、物凄くショックです」
しかし、委員長と俺はぷに子と付き合いが長いのでぷに語をなんとなく理解できる。そして俺以下はそんなにダメですか。俺まで落ち込みそうだ。
「ぷにー……」
そして、落ち込む二人に置いていかれたぷに子も落ち込んだ。
「いや、別にお前は落ち込まなくていいだろ」
「ぷに?」
ぷに子のほっぺをぷにぷにしながら訂正する。
「……ああもうっ! イチャイチャしすぎですっ! 私がいることをお忘れですかっ!?」
突如委員長が爆発したのでびっくりした。
「いや、イチャイチャって……別に、なぁ?」
「ぷにー♪」
「あああああっ!?」
なあ、って言ってるのに、ぷに子さんったら空気を読まずに俺に抱きついたりなんかして。頬擦りなんかしたりして(焦)。
「わっ、わざとですか!? わざと私に見せ付けてるんですか!?」
「なんでやねん」
なんか知らんが涙目になってる委員長にずびしと突っ込みをいれる。
「ううぅ……も、もういいです! 知りません! たあっ!」
たあの掛け声とともに、委員長が俺の膝にわっさと降って来た。右の膝にはぷに子、左の膝には委員長が住んでおります。
「なんで気がつけば両手に花なの?」
「知りません! 別府くんがこれみよがしにぷにちゃんとイチャイチャするからですっ! 理由なんてないですっ!」
「いやいや。超自分で理由言ってますが」
「うるさいですっ!」
委員長の目が石川賢ばりにぐるぐるしている。こいつぁマズイ。
「ぷにっ、ぷににっ!」
そしてコイツこそ理由はないのだろうけど、ぷに子が全力で頬擦りしてきてちょっと痛い。
「あっ! それ、私にも! 私にもしてください!」
「いやいや。別にこれは俺が能動的にしているのではなくて、ぷに子が自分から」
「早くっ!」
「……はい」
暴走してる委員長に道理を説いても無意味だ。俺は諦めて委員長に頬擦りした。
「ううううぅ……」
「い、委員長? 大丈夫か?」
「なんですかっ! 別に幸せなんかじゃないですっ! もっといっぱいしてくださいっ!」
「…………。はい」
なんか色々思ったが、頬擦り続行。
「ぷにっ! ぷににっ!」
と思ったが、何やらぷに子が怒ってる。
「あーと。まさかとは思うが、お前もしてほしいと?」
「ぷにー♪」
正解らしい。その証拠にほっぺにちゅってされた。
「ああーっ!? わ、私も! 私もそれする!」
「え」
と思う間もなく、真っ赤の顔が寄ってきて、ほっぺに柔らかくて熱い感触。
「え、えーと。い、委員長?」
「……さ、魚」
「はい?」
「魚! 最近食べてなかったから、私まで別府くんのレベルまで馬鹿になっちゃいました! だから、こんなことやっちゃってるんです! 普段の私ならこんなこと絶対やんないです!」
「あ、ああ、そだな」
少なくとも、普段の委員長ならもうちょっとマシな言い訳をしているハズ。
「わ、分かればいいんです。今日だけちょっとおかしいだけなんです。ふにふにしてください」
「なんか最後の言葉がおかしいです」
「冷静に指摘しないでくださいっ!」
委員長が顔を真っ赤にして怒った。
「わはは。委員長かーわいい」
「ううぅぅぅ……別府くんなんて大嫌いです」
「ぷにー♪」
「あっ、ぷにちゃんずるい! 私も!」
とまあ、なんていうか、なんていうか。暴走って怖いよね。
【魔女とタンク】
2011年08月10日
「ほう」
寝てると空から女の子が──って、これなんてラピュタ?
ただ、明らかに天井に穴が空いてるんですよね。今もなお天井から木屑やら瓦の欠片やらが落ちてきて俺の部屋を汚してるし。もっとこう、騙すなら上手に騙して欲しい。変に現実感を出さないで。
といったことを落ちてきた女の子に懇々と説教する。
「……はぁ」
俺の話なんかより、少女は被ってた大きなつばの帽子を被り直す方に興味があるようだ。少女の身体に対し、明らかに大きいので、よくずれるようだ。ていうか、そもそも誰だコイツ。
「……じゃ、動かないで。外れるから」
え、という暇もなく、女の子の持ってた杖が光った。次の瞬間、俺の首へ光の線が走った。
「ライトニングボルトぉーッ!?」
首が吹き飛んだかと思ったが、そうではなかったようで。
「ん、成功」
女の子が小さくガッツポーズをしている。大変可愛いですが、そうではなくて。
「ええと。あの、さっきのは一体?」
「……首輪」
「はぁ、首輪。……首輪っ!?」
慌てて首まわりを確かめる。なるほどつい先ほどまでなかった首輪がこの世界に現出しているではないか。
「えええええーっ!? 何コレ!? S属性はあってもM属性はないんですよ俺は!?」
「……首輪。逃げると困るから」
「いやいや、いやいやいや! 困るも何も現在絶賛困ってるのは俺の方で!」
「……じゃ、行こ」
「質疑応答すらままならないと!?」
少女が杖をまたぐ。まさか!?
「ん」
想像通り、ふわり、と少女の体が宙に浮く。そして、それにつられるように、俺の身体まで──って!
「ぐっ、首輪! 首輪しか浮いてない! 俺の身体は依然重力に引かれていますので、結果何もない宙空に浮かぶ斬新な首吊り死体ができあがりますよ!?」
「……あ、忘れてた」
少女の杖が輝く。すると、先ほどまでの苦しさが嘘のように消え、同時に奇妙な浮遊感が俺を襲った。
「ふぅー……あー、死ぬかと思った」
「……じゃ、今度こそ行こ」
「いや、だから。どこへ行くのだ。ていうか俺はなんでいきなり拉致されているのだ。説明が全くないのだが」
「……いっぱい聞かれた」
少女の頬がぷくーっと膨れた。怒っている……のか?
「なんか分からないけど超可愛いからまあいいやうへへへへ」
「……変なタンク」
それで興味をなくしたのか、少女はぷいっと前を向き、滑るように前へと進みだした。それに引っ張られるように、俺の身体も滑っていく。
「しかし、なんて斬新な拉致だ。こんな拉致なら悪くない……そう、悪くない!」
「……うるさい」
「まあそう言わないでくださいよ。もう状況が全く飲み込めていないので、いっそこれは夢なんじゃないかと半ば信じてきているほどなのだから」
「夢じゃない。現実」
「だよねー」
先ほど感じた苦しみも、今感じている空を飛び、風を身体に受けている感覚も、リアルに感じ取れる。これを夢と思うのは少々無理がある。
「それで、さっき俺のことをタンクと呼んだみたいだけど、それは?」
「……燃料を入れる容器のこと」
「いやいや、いやいやいや。それは分かる。知ってる」
「……じゃあ聞かないで」
再び少女の頬が膨らむ。ゆっくりした喋り方と違い、案外怒りっぽいようだ。
「ただ、その怒り方が俺の食指が超動きまくる感じの怒り方なのでもっと怒っていただきたい!」
「……やっぱり変なタンク」
少女は前を向き、杖を滑らせることに集中したようだ。しょうがないのでその後姿を眺めることにする。
黒い大きなつば付き帽子に、これまた真っ黒なマント。いわゆる魔女の服装、というやつなのだろうか。ということは、こいつは魔女……か?
正直、魔女について造詣は深くない。おジャ魔女どれみで魔女知識は止まっている。まどかマギカを視聴しなかったツケがここに来るとは……!
「着いた」
「え?」
「……だから、着いた」
また少女のほっぺが膨らむ。やっぱ怒りっぽいなコイツ。
そこは、小高い丘の公園だった。一体ここに何があると言うのだ。
そう思いながら周囲を見渡してると、突然少女が俺に抱きついてきたあああああ!?
「あ、あ、あ、あの、あのですね、一体これは?」
「補充」
「ほ、ほじゅう?」
「……ん。補充」
少女は再度むっとしたように眉を寄せて繰り返した。燃料タンク、補充。それらから導き出される答えは──。
「え、俺は何かのエネルギーを溜め込んでいて、それをお前に現在供給してるってコト?」
「……だから、さっきから言ってる」
「いや、言ってねえ」
依然むっとした顔のままだったが、それでも少女は俺から離れなかった。
しかし、これはどうしたものか。普通に役得と思っていればいいのか、それともこれから起こる何かに戦々恐々していればいいのか。
まあ、先のことなんて分かりやしない。今はこんなきゃわいい魔女っ子に抱きつかれた喜びを最大限に味わうのが先決だろう。
「……ん、おーけー」
少女が俺から離れる。ぼさーっとしてる間に補充終わってた!
「がむでぶ! いつもそうだ! 俺はいつだってタイミングの神に嫌われている!」
「……来た」
「え?」
ぞろり、と何かが現れた。
地面が盛り上がり、土くれが形を変え、人型を成していく。歪な人間が三体、現れた。ただ、その大きさたるや、普通の人間の約三倍。巨人だ。土の巨人だ。
巨人たちは、体から土くれを落としながら、ゆっくりと少女に襲い掛かった。
「……遅い」
少女の杖の先端に、閃光が集中する。光は三対の光る帯を生み出し、巨人たちの身体を貫いた。
「……終わった」
くるり、とこちらに少女が振り向く。
「終わってねえ! 危ない!」
思わず声をかける。巨人は光の帯など意にも介さず、その巨大な手を振り上げている!
「……終わってる」
ぴたり、と巨人の動きが止まる。と、巨人たちの体が内側から膨れだし、最後に爆発した。
「おおおおおっ!?」
「……うるさい」
迷惑そうに眉をひそめる少女。お前のせいだっつの。
「……え、ええと。認識が追いつかないのだが」
「……倒した」
「あー、いや、それは分かる。ただ、相手が何者で、そもそもお前は何者かってことも分からなくて、どうして俺がここに居合わせているのかすら分からないので、もうどうしたらいいのか」
「……とりあえず、頑張った私を褒めるのがいいと思う」
「それは候補に上がりすらしなかった」
「…………」
またしても少女の頬が膨らみだした。初対面の人間に褒めて欲しいのか。
「はぁ……まあいいや。よく頑張ったな」(なでなで)
少女の頭を帽子の上からなでつける。だが、帽子がでかすぎるせいで、まるでなでている感覚がない。それどころか、帽子が動きまくり、それにつられ少女の頭がガクガクと動くので怖いだけだ。
「……むぅ」
少女は帽子を脱ぎ、俺につむじを見せた。
「……はい。やりなおし」
なでてほしいのか。変な奴。
「はい、なでなでー」
「…………」
少女は目をつむり、なでなでを堪能しているようだった。
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「ええと……まだ?」
「まだ」
「なでられるの好きなのか?」
「……分かんない。ただ、なんか、ぽわぽわする」
そう言って、少女は俺をじっと見つめた。
「あーはいはい。追加なでなでー」
「…………」(堪能中)
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「あの。たぶんだけど、もっとしてほしい感を感じるのだが」
少女はコクコクうなずいた。
「終わらないのでいい加減終了です」
みるみるうちに少女の頬が膨れていく。
「我慢しなさい」
「……はぁ。ま、いい。んじゃ、補給」
「おお。お? おおお?」
さっきと同じように、少女は俺にべそっと抱きついた。
「い、いや。だから、これ何だ?」
「……補充、ってさっき言った」
「いや言った! 言いましたけど! 何を補充しているのかそして俺は何を供給しているのか皆目見当が!」
俺の話なんてちっとも聞かずに、少女は俺の胸に顔を埋ずめ、ふにゅふにゅつぶやいた。
「まあ、いっか!」
その様子がとても可愛かったので思考を放棄する。ついでに頭もなでてやれ。
「んー」
少女は軽く顔を上げると、猫のように目を細め、小さく呟いた。これは大変に俺の脳がやられるので大変危険です。
「……やっぱ、当たりだ。すっごく深い。観察の甲斐があった」
「はい?」
「……なんでもない」
それっきり、少女は黙って俺に抱きつくだけだった。よく分からんが、返事もないようなので、頭なでるだけにしておこう。
ややあって満足したのか、少女はゆっくりと俺から離れ、帽子をかぶった。
「……んじゃ、帰ろ?」
少女は杖をまたぎ、何か呟いた。少女の体が宙に舞う。同時に俺の身体も……って!
「ぐぎぎぃ」
「……あ、また忘れてた」
ええ、また空中の首吊り死体が発見されるところでしたよ。
「ごほっごほっ……お前は俺を殺す気なのか」
「……忘れてただけ。そんなギャンギャン言わなくても分かる」(ほっぺぷくー)
「いや、ギャンギャン言いたくもなるよ! 死にかけたんだよ! これはいい壷なんだよ!」
「……いーから帰る」
マ・クベ的な俺を見えない力で引っ張りながら、少女は空を滑る。結局なんだったんだ、今日のことは。
「……ん。着いた」
しばらくして、見慣れた家に到着した。ただ、一部見慣れぬ外観になっているが。
「あのさ。屋根、修理していけ」
悲しいことに、俺の部屋の真上に位置する屋根には未だ大穴が開いていた。
「……めんどくさい」
「めんどくさくても! 直すの! 壊した人が直すのは当然のことだと思いますが!」
「……いんけん」
「陰険じゃねえ! 至極真っ当なことを言ってますよ、俺は!」
「……はぁ、やれやれ」
それは俺の超台詞だ、と思ったが、直すようなので、黙っておく。
少女が杖をかざす。先端部分に小さな光が灯ると、屋根に開いてた大穴に俺の部屋に散乱してた瓦礫やら木屑やら瓦やらが集まっていく。それらは元の位置に収まり、結合していった。
しばらくすると、修繕の跡すら残さず大穴は消えた。
「……ふう。できた」
「おお。すごいな」
「…………」
何やらもの言いたげな視線をこちらに向ける少女。褒めてほしいオーラをひしひしと感じる。だけど、そもそも壊したのコイツだしなあ。
「…………」
なんとなく察したのか、少女がしょぼんとした。
「あー……うん、よく直した。偉い偉い」
しょんぼり少女を放置できるほど出来た人間でもないので、わしわし頭をなでる。
「わ、わわ」
しかし、でけぇ帽子があったので、頭をがくがく揺するだけに終わった。
「……なでる時は先に言って。帽子取るから」
ちょっと怒りながら帽子を取ると、少女は頭頂部を俺に見せつけた。
「もうなでたからいいじゃん」
「……納得がいかない」(ほっぺぷくー)
そんなの納得なんてこちとら一度だってしてないが、膨れられては太刀打ちできない。諦めて優しく頭をなでる。
「ん。ん。……ん」
何かを確認するようにコクコクうなずく少女。なでにくい。
「……分かった。これでもだいじょぶみたい」
「何が?」
「いーからなでろ」
「へーへー」
それから数度なでると、少女は帽子をかぶりなおした。満足したようだ。
「……じゃ」
窓を開け、そこから少女は外に躍り出た。
「……えええええっ!? えっ、終わり!? 状況説明がないままだよ!?」
慌てて窓から身体を半ば出して外を見るが、既に少女の姿はなかった。
「……なんだよこれ。訳が分からん」
結局、それから少女が現れることはなかった。
明けて翌日。昨夜、色々なことがあってなかなか寝付けなかった俺は、当然のように寝坊した。
「これはなかなかスリリングな時間帯だゼ……!」
急ぎ台所へ向かい、栄養補給を行う。父は既に出勤したようだ。母は向こうで何か作っている。少女は眠そうにパンをぱくついて──いやいや。待て。そんなわけがない。
「……おはよう」
人が必死で現実を否定してるのに、少女が声をかけてきた。
「ほら、彰人。ちゃっちゃとご飯食べちゃいなさい。ラピスちゃんまで遅刻しちゃうでしょ」
なんなのこの状況。なんで母さんと顔なじみなんだ。ていうかラピスって名前なのか。
「つーかなんでいるんだ昨日のお前ーっ!!!」
「……朝からうるさい」
ずびしっ、と迷惑そうな少女の顔に指を突きつける俺だった。
続く
寝てると空から女の子が──って、これなんてラピュタ?
ただ、明らかに天井に穴が空いてるんですよね。今もなお天井から木屑やら瓦の欠片やらが落ちてきて俺の部屋を汚してるし。もっとこう、騙すなら上手に騙して欲しい。変に現実感を出さないで。
といったことを落ちてきた女の子に懇々と説教する。
「……はぁ」
俺の話なんかより、少女は被ってた大きなつばの帽子を被り直す方に興味があるようだ。少女の身体に対し、明らかに大きいので、よくずれるようだ。ていうか、そもそも誰だコイツ。
「……じゃ、動かないで。外れるから」
え、という暇もなく、女の子の持ってた杖が光った。次の瞬間、俺の首へ光の線が走った。
「ライトニングボルトぉーッ!?」
首が吹き飛んだかと思ったが、そうではなかったようで。
「ん、成功」
女の子が小さくガッツポーズをしている。大変可愛いですが、そうではなくて。
「ええと。あの、さっきのは一体?」
「……首輪」
「はぁ、首輪。……首輪っ!?」
慌てて首まわりを確かめる。なるほどつい先ほどまでなかった首輪がこの世界に現出しているではないか。
「えええええーっ!? 何コレ!? S属性はあってもM属性はないんですよ俺は!?」
「……首輪。逃げると困るから」
「いやいや、いやいやいや! 困るも何も現在絶賛困ってるのは俺の方で!」
「……じゃ、行こ」
「質疑応答すらままならないと!?」
少女が杖をまたぐ。まさか!?
「ん」
想像通り、ふわり、と少女の体が宙に浮く。そして、それにつられるように、俺の身体まで──って!
「ぐっ、首輪! 首輪しか浮いてない! 俺の身体は依然重力に引かれていますので、結果何もない宙空に浮かぶ斬新な首吊り死体ができあがりますよ!?」
「……あ、忘れてた」
少女の杖が輝く。すると、先ほどまでの苦しさが嘘のように消え、同時に奇妙な浮遊感が俺を襲った。
「ふぅー……あー、死ぬかと思った」
「……じゃ、今度こそ行こ」
「いや、だから。どこへ行くのだ。ていうか俺はなんでいきなり拉致されているのだ。説明が全くないのだが」
「……いっぱい聞かれた」
少女の頬がぷくーっと膨れた。怒っている……のか?
「なんか分からないけど超可愛いからまあいいやうへへへへ」
「……変なタンク」
それで興味をなくしたのか、少女はぷいっと前を向き、滑るように前へと進みだした。それに引っ張られるように、俺の身体も滑っていく。
「しかし、なんて斬新な拉致だ。こんな拉致なら悪くない……そう、悪くない!」
「……うるさい」
「まあそう言わないでくださいよ。もう状況が全く飲み込めていないので、いっそこれは夢なんじゃないかと半ば信じてきているほどなのだから」
「夢じゃない。現実」
「だよねー」
先ほど感じた苦しみも、今感じている空を飛び、風を身体に受けている感覚も、リアルに感じ取れる。これを夢と思うのは少々無理がある。
「それで、さっき俺のことをタンクと呼んだみたいだけど、それは?」
「……燃料を入れる容器のこと」
「いやいや、いやいやいや。それは分かる。知ってる」
「……じゃあ聞かないで」
再び少女の頬が膨らむ。ゆっくりした喋り方と違い、案外怒りっぽいようだ。
「ただ、その怒り方が俺の食指が超動きまくる感じの怒り方なのでもっと怒っていただきたい!」
「……やっぱり変なタンク」
少女は前を向き、杖を滑らせることに集中したようだ。しょうがないのでその後姿を眺めることにする。
黒い大きなつば付き帽子に、これまた真っ黒なマント。いわゆる魔女の服装、というやつなのだろうか。ということは、こいつは魔女……か?
正直、魔女について造詣は深くない。おジャ魔女どれみで魔女知識は止まっている。まどかマギカを視聴しなかったツケがここに来るとは……!
「着いた」
「え?」
「……だから、着いた」
また少女のほっぺが膨らむ。やっぱ怒りっぽいなコイツ。
そこは、小高い丘の公園だった。一体ここに何があると言うのだ。
そう思いながら周囲を見渡してると、突然少女が俺に抱きついてきたあああああ!?
「あ、あ、あ、あの、あのですね、一体これは?」
「補充」
「ほ、ほじゅう?」
「……ん。補充」
少女は再度むっとしたように眉を寄せて繰り返した。燃料タンク、補充。それらから導き出される答えは──。
「え、俺は何かのエネルギーを溜め込んでいて、それをお前に現在供給してるってコト?」
「……だから、さっきから言ってる」
「いや、言ってねえ」
依然むっとした顔のままだったが、それでも少女は俺から離れなかった。
しかし、これはどうしたものか。普通に役得と思っていればいいのか、それともこれから起こる何かに戦々恐々していればいいのか。
まあ、先のことなんて分かりやしない。今はこんなきゃわいい魔女っ子に抱きつかれた喜びを最大限に味わうのが先決だろう。
「……ん、おーけー」
少女が俺から離れる。ぼさーっとしてる間に補充終わってた!
「がむでぶ! いつもそうだ! 俺はいつだってタイミングの神に嫌われている!」
「……来た」
「え?」
ぞろり、と何かが現れた。
地面が盛り上がり、土くれが形を変え、人型を成していく。歪な人間が三体、現れた。ただ、その大きさたるや、普通の人間の約三倍。巨人だ。土の巨人だ。
巨人たちは、体から土くれを落としながら、ゆっくりと少女に襲い掛かった。
「……遅い」
少女の杖の先端に、閃光が集中する。光は三対の光る帯を生み出し、巨人たちの身体を貫いた。
「……終わった」
くるり、とこちらに少女が振り向く。
「終わってねえ! 危ない!」
思わず声をかける。巨人は光の帯など意にも介さず、その巨大な手を振り上げている!
「……終わってる」
ぴたり、と巨人の動きが止まる。と、巨人たちの体が内側から膨れだし、最後に爆発した。
「おおおおおっ!?」
「……うるさい」
迷惑そうに眉をひそめる少女。お前のせいだっつの。
「……え、ええと。認識が追いつかないのだが」
「……倒した」
「あー、いや、それは分かる。ただ、相手が何者で、そもそもお前は何者かってことも分からなくて、どうして俺がここに居合わせているのかすら分からないので、もうどうしたらいいのか」
「……とりあえず、頑張った私を褒めるのがいいと思う」
「それは候補に上がりすらしなかった」
「…………」
またしても少女の頬が膨らみだした。初対面の人間に褒めて欲しいのか。
「はぁ……まあいいや。よく頑張ったな」(なでなで)
少女の頭を帽子の上からなでつける。だが、帽子がでかすぎるせいで、まるでなでている感覚がない。それどころか、帽子が動きまくり、それにつられ少女の頭がガクガクと動くので怖いだけだ。
「……むぅ」
少女は帽子を脱ぎ、俺につむじを見せた。
「……はい。やりなおし」
なでてほしいのか。変な奴。
「はい、なでなでー」
「…………」
少女は目をつむり、なでなでを堪能しているようだった。
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「ええと……まだ?」
「まだ」
「なでられるの好きなのか?」
「……分かんない。ただ、なんか、ぽわぽわする」
そう言って、少女は俺をじっと見つめた。
「あーはいはい。追加なでなでー」
「…………」(堪能中)
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「あの。たぶんだけど、もっとしてほしい感を感じるのだが」
少女はコクコクうなずいた。
「終わらないのでいい加減終了です」
みるみるうちに少女の頬が膨れていく。
「我慢しなさい」
「……はぁ。ま、いい。んじゃ、補給」
「おお。お? おおお?」
さっきと同じように、少女は俺にべそっと抱きついた。
「い、いや。だから、これ何だ?」
「……補充、ってさっき言った」
「いや言った! 言いましたけど! 何を補充しているのかそして俺は何を供給しているのか皆目見当が!」
俺の話なんてちっとも聞かずに、少女は俺の胸に顔を埋ずめ、ふにゅふにゅつぶやいた。
「まあ、いっか!」
その様子がとても可愛かったので思考を放棄する。ついでに頭もなでてやれ。
「んー」
少女は軽く顔を上げると、猫のように目を細め、小さく呟いた。これは大変に俺の脳がやられるので大変危険です。
「……やっぱ、当たりだ。すっごく深い。観察の甲斐があった」
「はい?」
「……なんでもない」
それっきり、少女は黙って俺に抱きつくだけだった。よく分からんが、返事もないようなので、頭なでるだけにしておこう。
ややあって満足したのか、少女はゆっくりと俺から離れ、帽子をかぶった。
「……んじゃ、帰ろ?」
少女は杖をまたぎ、何か呟いた。少女の体が宙に舞う。同時に俺の身体も……って!
「ぐぎぎぃ」
「……あ、また忘れてた」
ええ、また空中の首吊り死体が発見されるところでしたよ。
「ごほっごほっ……お前は俺を殺す気なのか」
「……忘れてただけ。そんなギャンギャン言わなくても分かる」(ほっぺぷくー)
「いや、ギャンギャン言いたくもなるよ! 死にかけたんだよ! これはいい壷なんだよ!」
「……いーから帰る」
マ・クベ的な俺を見えない力で引っ張りながら、少女は空を滑る。結局なんだったんだ、今日のことは。
「……ん。着いた」
しばらくして、見慣れた家に到着した。ただ、一部見慣れぬ外観になっているが。
「あのさ。屋根、修理していけ」
悲しいことに、俺の部屋の真上に位置する屋根には未だ大穴が開いていた。
「……めんどくさい」
「めんどくさくても! 直すの! 壊した人が直すのは当然のことだと思いますが!」
「……いんけん」
「陰険じゃねえ! 至極真っ当なことを言ってますよ、俺は!」
「……はぁ、やれやれ」
それは俺の超台詞だ、と思ったが、直すようなので、黙っておく。
少女が杖をかざす。先端部分に小さな光が灯ると、屋根に開いてた大穴に俺の部屋に散乱してた瓦礫やら木屑やら瓦やらが集まっていく。それらは元の位置に収まり、結合していった。
しばらくすると、修繕の跡すら残さず大穴は消えた。
「……ふう。できた」
「おお。すごいな」
「…………」
何やらもの言いたげな視線をこちらに向ける少女。褒めてほしいオーラをひしひしと感じる。だけど、そもそも壊したのコイツだしなあ。
「…………」
なんとなく察したのか、少女がしょぼんとした。
「あー……うん、よく直した。偉い偉い」
しょんぼり少女を放置できるほど出来た人間でもないので、わしわし頭をなでる。
「わ、わわ」
しかし、でけぇ帽子があったので、頭をがくがく揺するだけに終わった。
「……なでる時は先に言って。帽子取るから」
ちょっと怒りながら帽子を取ると、少女は頭頂部を俺に見せつけた。
「もうなでたからいいじゃん」
「……納得がいかない」(ほっぺぷくー)
そんなの納得なんてこちとら一度だってしてないが、膨れられては太刀打ちできない。諦めて優しく頭をなでる。
「ん。ん。……ん」
何かを確認するようにコクコクうなずく少女。なでにくい。
「……分かった。これでもだいじょぶみたい」
「何が?」
「いーからなでろ」
「へーへー」
それから数度なでると、少女は帽子をかぶりなおした。満足したようだ。
「……じゃ」
窓を開け、そこから少女は外に躍り出た。
「……えええええっ!? えっ、終わり!? 状況説明がないままだよ!?」
慌てて窓から身体を半ば出して外を見るが、既に少女の姿はなかった。
「……なんだよこれ。訳が分からん」
結局、それから少女が現れることはなかった。
明けて翌日。昨夜、色々なことがあってなかなか寝付けなかった俺は、当然のように寝坊した。
「これはなかなかスリリングな時間帯だゼ……!」
急ぎ台所へ向かい、栄養補給を行う。父は既に出勤したようだ。母は向こうで何か作っている。少女は眠そうにパンをぱくついて──いやいや。待て。そんなわけがない。
「……おはよう」
人が必死で現実を否定してるのに、少女が声をかけてきた。
「ほら、彰人。ちゃっちゃとご飯食べちゃいなさい。ラピスちゃんまで遅刻しちゃうでしょ」
なんなのこの状況。なんで母さんと顔なじみなんだ。ていうかラピスって名前なのか。
「つーかなんでいるんだ昨日のお前ーっ!!!」
「……朝からうるさい」
ずびしっ、と迷惑そうな少女の顔に指を突きつける俺だった。
続く
【ツンデレが美人過ぎて男がおいそれと声を掛けられなかったら】
2011年08月03日
学校の中庭には、木がたくさんある。そのうちの一つ、とある木陰に座り込み、思索にふける。思索にふけるとか、俺はなんてかっこいいだ……!
「……あ、何やら難しげな顔をしているけど、実際は何も考えてない馬鹿発見」
「し、失敬な! 少しは考えてますよ! 今日の晩ご飯のこととか! ソーメン飽きたからそろそろ違うの食べたいが、先日母がスーパーで大量に仕入れていたのを見てしまったのでそれも夢幻になりそうだなあとか!」
くるりと振り返り、なんだか自分で言ってて悲しくなりそうなことをちなみにぶちまける。
「……予想以上にくだらないことを考えていた」
「まあそれだけじゃないんですがね」
「……? どったの? 悩み事? 相談する? みんなに言いふらすけど」
ちなみは俺の隣にちょこんと座りこみ、小さく小首を傾げた。
「最後の一言さえなければ百点だったのになあ」
「……それはもう、諦めるしかない。そのために心配したフリをしてやったのだから」
「普通の友人が欲しい……!」
「……それは私も同様」
お互いままならないようだ。
「……で、本当にどしたの?」
ちなみは再びくりっと首を傾げた。今度は本当に心配しているのだろう。多少は。
「いやね、お前が美人過ぎておいそれと声をかけられない状態になりたいのだが、なれないのだよ」
「……意味が分からないが、不愉快にはなった」
ちなみは俺を睨みながら全力で人の頬を引っ張った。
「まあ待て、落ち着け。誰もブサイクとは言ってないだろう」
「……言ったも同然」
「違う違う。お前は美人ではなく、明らかに可愛いの系統だと言いたかったんだ」
「…………。そ、それくらいで機嫌を直すほど、私は簡単じゃない」
と言いながらも、明らかに俺の頬が受ける痛みが激減している。あと、頬が少し赤らんでいる。
「まあそれはそれとして、お前が美人と仮定して、おいそれと声をかけられない状況を作りたいのだが、どうだろう」
「……どうもこうも、頭が悪いなあ、という印象を受けた」
あながち間違っていない。
「……ま、いい。暇だし。付き合ってやる」
ちなみは俺から手を離し、すっくと立ち上がった。
「本当か? 時々ちなみはいい奴だよな」
「…………」
「ちなみはいつだっていい奴だよー」
またつねられたので言論を調整した。
「……はぁ。それで、私はどうしたらいいの?」
「美人オーラを振りまきながらしゃなりしゃなりとこちらに歩いてきてくれ。そうしたら、俺が行動を起こすから」
「…………。分かった」
ちなみは難しい顔をしながら向こうへ行った。さて。
「……う、うっふん。うっふん」
なんかうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「それは、美人では、ないです」
ちなみの頭をぽふぽふ叩きながら、一字一句区切って説明してやる。
「……わ、分かってる。自分でもちょっと変だと思ってた」
「じゃあやるな」
「……でも、どういうのが美人かよく分からない」
「む、言われてみると確かに。俺は可愛い系にしか興味がないのでそういうものはよく見てなかった。具体例を示すなら、こんな感じの奴」
「……何をするか」
ちなみのほっぺをふにふにしたら額を殴られた。痛い。
「時々お前のほっぺを触りたくてしょうがなくなる時があるんだ。一日に数回」
「大変に迷惑。今すぐ死ね」
「嫌です。んじゃ、もっかい美人オーラを出しながらこっちへ来てくれ」
「……さっきと同じ展開になること請け合い」
それはお互いなんとしても避けたいところだ。うぅむと知恵をひねり出す。
「……! ……ひらめいた」
「おおっ、ちなみの頭上に豆電球が光っている!」
「……幻覚が見えている様子」
なんてドライなつっこみだ。
「えへんえへん。んじゃまあ、やってみろ」
ちなみはこくこくうなずいて、先ほどの位置まで戻った。そして。
「……うっふんにゃ。うっふんにゃ」
やっぱりうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「繰り返すが、それは、美人では、ないです」
「……せっかく媚びてやったのに」
「もっと上手に媚びてください。ていうか媚びるとか言うな」
「ふにゃー」
「……いや、はい。ごめんなさい可愛いです」(なでなで)
「ふにゃふにゃ」
「いや、そうじゃない。初志貫徹しなければ!」
「……今日もタカシは私に操られてばかりだ」
うるさいやい。
「と、とにかくだ! 最後にもう一度、やってみようではないか!」
「……もう飽きた」
「ま、まあそう言わず! 最後だから!」
「……次の休み、私の買い物に付き合うならやってやる」
「ん、ああ。それくらいなら別に構わないが……」
「……やたっ。タカシのお金で贅沢三昧」
「おごるとは言ってませんよ!?」
「……じゃあ、言質もとったので、最後にやってやる」
「取ってません、取ってません! おごるとは言ってません!」
俺の言葉を完膚なきまでに無視し、ちなみは三度向こうへ行った。
「……にゃっにゃにゃにゃ。にゃっにゃにゃにゃ」
もう原型を留めてないほどワケ分かんない状態で、うねうねしながら歩いてる人がこっちに来た。
「……にゃー?」
そして、期待に満ちた目でこちらを見上げている。
「これは良い猫だ」(なでなで)
「ふにゃふにゃ。……いや、違う。なでなでじゃなくて、何かするんでしょ?」
「いやね、ちなみさん。実は『美人過ぎておいそれと声をかけられない奴に、「おいそれ!」と声をかける』という小ネタをやろうとしたんですが、そんなのよりなんかうにゃうにゃ言ってる奴をなでる方を優先したいと思った次第でありまして」
「……酷い話だ」
「まさかこんな引っ張るとは思わなくて。そもそもお前が最初から普通に美人オーラを出して歩けばいいものを、なんか語尾ににゃがついたり極めつけは全部にゃになったりするからこうなるのだ」
「……酷い責任転嫁を見た。……それで」
「ん?」
「……いつまで人の頭をなでてるか」
「ん、おおっ!」
言われてみれば、確かに俺の手はちなみの頭をずっとなでていた。
「なんかね、幸せなんですよ、なでてると」
「……タカシが幸せになると、それに比例して私は不愉快になる」
「うーむ。じゃ、こうしよう。うにゃうにゃ言われると、俺は不幸になります!」
「……大変胡散臭いが、やってみよう。……うにゃうにゃ」
「ああ不幸だあ!」(なでなでなで)
「……ものすごく棒読み。……なでなでも強まったし」(不満げ)
「きっ、気のせいダヨ?」
「……もっかい実験。……うにゃうにゃ」
「不幸に違いない!」(なでなでなで)
「……やはり棒読み&なで力があっぷしているように思える」
「じゃあ、もう一度うにゃうにゃ言ってください。あ、次は可愛い感じでお願いします」
「……不幸になる?」
「なる! なります!」
「……死ぬほど胡散臭いが……まあ、いい。……うにゃうにゃ」
いつもより半音高めのうにゃうにゃが出た。しかも、手を丸め、俺の胸を軽く叩く攻撃付き!
「ああ不幸だこれは実に不幸だあ!」(激なでなで)
「……喜んでいるようにしか見えない」
「いやいや、そんなまさか! 喜ぶだなんて、そんな!」
「……うにゃー」
「ああもうちなみは可愛いなあ!」(超なでなで)
「……馬脚を現した」
「しまったあ! でも、ちなみも途中で……というか、たぶん最初から気づいてたよな」
「……な、なんのことか、ちっとも分からないにゃ。……猫なので」
ちなみは顔を赤らめつつ、明後日の方を見ながらぼそぼそっと呟いた。
「猫か。それなら仕方ないな」
「……そうなのにゃ」
そんな感じでで、猫の頭をなでまくりでした。
「……あ、何やら難しげな顔をしているけど、実際は何も考えてない馬鹿発見」
「し、失敬な! 少しは考えてますよ! 今日の晩ご飯のこととか! ソーメン飽きたからそろそろ違うの食べたいが、先日母がスーパーで大量に仕入れていたのを見てしまったのでそれも夢幻になりそうだなあとか!」
くるりと振り返り、なんだか自分で言ってて悲しくなりそうなことをちなみにぶちまける。
「……予想以上にくだらないことを考えていた」
「まあそれだけじゃないんですがね」
「……? どったの? 悩み事? 相談する? みんなに言いふらすけど」
ちなみは俺の隣にちょこんと座りこみ、小さく小首を傾げた。
「最後の一言さえなければ百点だったのになあ」
「……それはもう、諦めるしかない。そのために心配したフリをしてやったのだから」
「普通の友人が欲しい……!」
「……それは私も同様」
お互いままならないようだ。
「……で、本当にどしたの?」
ちなみは再びくりっと首を傾げた。今度は本当に心配しているのだろう。多少は。
「いやね、お前が美人過ぎておいそれと声をかけられない状態になりたいのだが、なれないのだよ」
「……意味が分からないが、不愉快にはなった」
ちなみは俺を睨みながら全力で人の頬を引っ張った。
「まあ待て、落ち着け。誰もブサイクとは言ってないだろう」
「……言ったも同然」
「違う違う。お前は美人ではなく、明らかに可愛いの系統だと言いたかったんだ」
「…………。そ、それくらいで機嫌を直すほど、私は簡単じゃない」
と言いながらも、明らかに俺の頬が受ける痛みが激減している。あと、頬が少し赤らんでいる。
「まあそれはそれとして、お前が美人と仮定して、おいそれと声をかけられない状況を作りたいのだが、どうだろう」
「……どうもこうも、頭が悪いなあ、という印象を受けた」
あながち間違っていない。
「……ま、いい。暇だし。付き合ってやる」
ちなみは俺から手を離し、すっくと立ち上がった。
「本当か? 時々ちなみはいい奴だよな」
「…………」
「ちなみはいつだっていい奴だよー」
またつねられたので言論を調整した。
「……はぁ。それで、私はどうしたらいいの?」
「美人オーラを振りまきながらしゃなりしゃなりとこちらに歩いてきてくれ。そうしたら、俺が行動を起こすから」
「…………。分かった」
ちなみは難しい顔をしながら向こうへ行った。さて。
「……う、うっふん。うっふん」
なんかうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「それは、美人では、ないです」
ちなみの頭をぽふぽふ叩きながら、一字一句区切って説明してやる。
「……わ、分かってる。自分でもちょっと変だと思ってた」
「じゃあやるな」
「……でも、どういうのが美人かよく分からない」
「む、言われてみると確かに。俺は可愛い系にしか興味がないのでそういうものはよく見てなかった。具体例を示すなら、こんな感じの奴」
「……何をするか」
ちなみのほっぺをふにふにしたら額を殴られた。痛い。
「時々お前のほっぺを触りたくてしょうがなくなる時があるんだ。一日に数回」
「大変に迷惑。今すぐ死ね」
「嫌です。んじゃ、もっかい美人オーラを出しながらこっちへ来てくれ」
「……さっきと同じ展開になること請け合い」
それはお互いなんとしても避けたいところだ。うぅむと知恵をひねり出す。
「……! ……ひらめいた」
「おおっ、ちなみの頭上に豆電球が光っている!」
「……幻覚が見えている様子」
なんてドライなつっこみだ。
「えへんえへん。んじゃまあ、やってみろ」
ちなみはこくこくうなずいて、先ほどの位置まで戻った。そして。
「……うっふんにゃ。うっふんにゃ」
やっぱりうねうねしながら歩いてる変な人が来た。
「繰り返すが、それは、美人では、ないです」
「……せっかく媚びてやったのに」
「もっと上手に媚びてください。ていうか媚びるとか言うな」
「ふにゃー」
「……いや、はい。ごめんなさい可愛いです」(なでなで)
「ふにゃふにゃ」
「いや、そうじゃない。初志貫徹しなければ!」
「……今日もタカシは私に操られてばかりだ」
うるさいやい。
「と、とにかくだ! 最後にもう一度、やってみようではないか!」
「……もう飽きた」
「ま、まあそう言わず! 最後だから!」
「……次の休み、私の買い物に付き合うならやってやる」
「ん、ああ。それくらいなら別に構わないが……」
「……やたっ。タカシのお金で贅沢三昧」
「おごるとは言ってませんよ!?」
「……じゃあ、言質もとったので、最後にやってやる」
「取ってません、取ってません! おごるとは言ってません!」
俺の言葉を完膚なきまでに無視し、ちなみは三度向こうへ行った。
「……にゃっにゃにゃにゃ。にゃっにゃにゃにゃ」
もう原型を留めてないほどワケ分かんない状態で、うねうねしながら歩いてる人がこっちに来た。
「……にゃー?」
そして、期待に満ちた目でこちらを見上げている。
「これは良い猫だ」(なでなで)
「ふにゃふにゃ。……いや、違う。なでなでじゃなくて、何かするんでしょ?」
「いやね、ちなみさん。実は『美人過ぎておいそれと声をかけられない奴に、「おいそれ!」と声をかける』という小ネタをやろうとしたんですが、そんなのよりなんかうにゃうにゃ言ってる奴をなでる方を優先したいと思った次第でありまして」
「……酷い話だ」
「まさかこんな引っ張るとは思わなくて。そもそもお前が最初から普通に美人オーラを出して歩けばいいものを、なんか語尾ににゃがついたり極めつけは全部にゃになったりするからこうなるのだ」
「……酷い責任転嫁を見た。……それで」
「ん?」
「……いつまで人の頭をなでてるか」
「ん、おおっ!」
言われてみれば、確かに俺の手はちなみの頭をずっとなでていた。
「なんかね、幸せなんですよ、なでてると」
「……タカシが幸せになると、それに比例して私は不愉快になる」
「うーむ。じゃ、こうしよう。うにゃうにゃ言われると、俺は不幸になります!」
「……大変胡散臭いが、やってみよう。……うにゃうにゃ」
「ああ不幸だあ!」(なでなでなで)
「……ものすごく棒読み。……なでなでも強まったし」(不満げ)
「きっ、気のせいダヨ?」
「……もっかい実験。……うにゃうにゃ」
「不幸に違いない!」(なでなでなで)
「……やはり棒読み&なで力があっぷしているように思える」
「じゃあ、もう一度うにゃうにゃ言ってください。あ、次は可愛い感じでお願いします」
「……不幸になる?」
「なる! なります!」
「……死ぬほど胡散臭いが……まあ、いい。……うにゃうにゃ」
いつもより半音高めのうにゃうにゃが出た。しかも、手を丸め、俺の胸を軽く叩く攻撃付き!
「ああ不幸だこれは実に不幸だあ!」(激なでなで)
「……喜んでいるようにしか見えない」
「いやいや、そんなまさか! 喜ぶだなんて、そんな!」
「……うにゃー」
「ああもうちなみは可愛いなあ!」(超なでなで)
「……馬脚を現した」
「しまったあ! でも、ちなみも途中で……というか、たぶん最初から気づいてたよな」
「……な、なんのことか、ちっとも分からないにゃ。……猫なので」
ちなみは顔を赤らめつつ、明後日の方を見ながらぼそぼそっと呟いた。
「猫か。それなら仕方ないな」
「……そうなのにゃ」
そんな感じでで、猫の頭をなでまくりでした。
【財布を忘れたツンデレ】
2011年08月02日
夏は暑いので結構な頻度で自販機のジュースを買う。学校でもまた同様。しかも、学校の自販機は安いのでお得だ。しかし、レパートリーがお前それ誰が飲むんだ的なものも多いので、注意が必要だ。
とか思ってるとノドが乾いた。よし、実際に買って偏った品揃えを脳内で実況しよう。
そんなわけで件の自販機に向かうと、先客がいた。ちなみだ。何やら途方に暮れた様子で自販機を見上げているが……あ、こっちに気づいた。
ちなみはずかずかとこちらに歩いてくると、殴る勢いで手を出した。
「……金を出せ」
「脅迫とな! お兄さん流石に驚いたよ。よもや学校で犯罪に巻き込まれるとは予想だにしなかった」
「……くだんないこと言ってないで、いーから金を出せ」
「財布でも忘れたのか?」
ちなみは「ぐ」と小さくうめいて、手を震わせた。
「……わ、忘れてない。家に置いてきただけ。……無意識に」
「それを一般的に忘れたというのです」
「……いーから早く金を出せ」
「へーへー」
ちゃりちゃりと小銭を投入口に入れてやる。
「んで、何飲むんだ?」
「……タカシには関係ない」
「金出したの、俺」
ちなみは半眼で俺をじろーっと睨んだあと、嫌そうに小さく呟いた。
「……ぎゅうにゅう」
「……あー、いや、今更そんなの飲んでも背も乳も無理だと思……痛っ、痛え!」
俺のすねを遠慮なく蹴りまくるちなみさん。痛いです。
「……黙れゴミ虫。また背とか胸のこと言ったら殺す」
「どちらも俺のストライクゾーンど真ん中なのに!?」
「……それもあるから、大きくなりたい」
「そんな馬鹿な!!? ちなみはこの全体的にちっこい感じが可愛らしいのに! 世界はまた俺を裏切るのか!?」
「……最後のだけ聞くとかっこいいのに、前半部分のせいで全部台無しだ」
「いやあ厨二病っぽいの大好きなんですよえへへへへ」
「……照れるな。気持ち悪い」
ままならぬ。
「……いーから早く牛乳を買え、のろま」
「ええい、イチイチ罵詈雑言が付着しやがる……ほい」
購入ボタンを押し、取り出し口から牛乳を取り出す。それをちなみに差し出すと、ひったくるように奪われた。
「ん。……ん、よく冷えてておいしい」
「そいつぁ何より。さて、俺も何か飲むかな……」
「……クラスの女子の噂によると、これを買う男子が今モテモテらしい」
「なんだと!? そいつぁ聞き逃せん! どれだっ!?」
ちなみが指す先を見る。
「……あの、このクソ暑いのにどうして『あったか~い』コーナーがあるんでしょうか」
「……この学校の七不思議のひとつ」
「そして、その中でもひときわ異彩を放っているものを指しているような気がするのですが」
「……だいじょぶ、気のせい」
そう言って、ちなみはニヤニヤと底意地の悪い笑みを見せた。
「あの。なんですか、『なす汁』って」
「……なすびの、汁?」
「いやいや、いやいやいや。そんなわけない、そんなわけない。だって、金を取ってるんだよ? 金を取って、消費者に買ってもらうんだよ? 仮にも大人が……いやいや、そんなハズがない」
「……じゃあ、買ってみればいい」
「う、うぅむ……」
「……なす汁を飲む男性って、かっこいい」
「あ」
手が無意識にボタンを押下していた。ガチャコン、と無慈悲な音が取り出し口から響く。
「……おおぅ、チャレンジャー」
「てめぇ! 何しやがる! てめぇ!」
「……やったのは自分」
「だってあんなこと言われたら体が勝手に動きますよ、普通!」
「……そんなことはない」
「ああもう、ああもう! 暑いからジュース飲みに来たのに! よりにもよってなすびの汁! しかもあったか~い! 優しい響きがまた恨めしい!」
「……うるさい」
ちなみは迷惑そうに眉をひそめた。
「……いーから早く飲み干してこの場から去れ。もしくはこの世界から去れ」
「死ねって言われた!?」
「……だから、うるさい。早く飲め」
「いや、でも……」
改めて缶を見る。全体が紫色で染め上げられており、一目見ただけで食欲を減退させる仕組みになっている。しかも、その紫色の上に『なす汁』という単語が無秩序に、これでもかというほど並べられている。呪いの品だと言われても納得しそうだ。
「あの、やっぱり……」
「飲め。のーめ」
ちなみは手をぱたぱたやって俺を追い立てた。
「人が飲むと思って、勝手なことを……!」
「……それとも、ちなみが選んだの、飲んでくれないの……?」(うるうる)
「飲むに決まってるじゃないか!」
一瞬の躊躇なく缶を飲み干……
「げほげほげほばびゅらっ!」
無理。人類には無理ですこんなの。
「……折角媚びてやったのに、飲まないなんてタカシらしくない」
「いや頑張りましたよ!? ただ、無理です。もう完全にナスビの汁なんです。それをぬるくした感じです」
『あったか~い』ではなく、『ぬる~い』だった。節電の影響か。
「……はぁ、しょがない。まあ、面白かったので我慢してやる」
「別に俺は面白がらせようとした覚えはないです。潤いが欲しかっただけです」
「……新しいジュースを買えばいい」
「一日にそう何度も買えるほど金銭的余裕ないんだよ……」
「びんぼーにん」
「その貧乏人に奢らせたの誰だ」
「……はぁ。しょがない、これをちょっとだけやる」
そう言って、ちなみは自分が先ほどまで飲んでいた牛乳を差し出した。
「……いいのか?」
「……元々おごってもらったものだし、別に構わない」
「あー……いや、それとは別の件で」
「……? ……! ……か、構わない。そ、そんなの全然ヘーキだし」
ようやっと思い至ったのか、ちなみは顔を赤くしながら目をそむけた。
「まあ、お前がそう言うなら……」
「の、飲むだけ。口つけるところぺろぺろしたら殺す」
「どんだけ変態だと思われてんだ、俺は」
「タカシならやりかねない……」
これだけ変態だと思われている様子。悲しい。
「まあいい、いただきます」
ストローに口をつけてちうちう飲む。先ほどのナス汁が洗い流され、清涼感に包まれる。
「……んマいっ! いや、久々に牛乳飲んだけど、うまいのな!」
「……い、いーから早く飲め、ばか」
俺の感想なんて聞かずに、ちなみは落ち着かない様子で俺と牛乳を交互に見ていた。
「あー……その、どしてもアレだったらも一個買ってもいいんだが……」
「……さっき、お金ないって言ってた」
「や、ないのは事実だけど、まあ明日ジュース飲むの我慢すればいい話で」
「……だ、だいじょぶ。へーき。タカシなんかには負けない」
「いや、負けないって……」
「……ほ、ほら。もういいでしょ。返して」
ちなみは俺から牛乳を奪い取ると、赤い顔でじっと見つめた。
「……じゃ、じゃあ。飲む。飲むから」
「は、はあ。どうぞ」
無駄に緊張感をみなぎらせ、ちなみは宣言した。そこまで嫌なら素直にもう一個おごられりゃいいのに。
「……ん、んー」
「…………。あの、ネタでしょうか」
「……?」
「どうして、ストロー口にキスしてるんですか」
「!!? ……ちっ、違う。ちょっと緊張しすぎただけ。別にタカシとキスしたいとかそんなの欠片も思ってない」
普段ならそりゃそうだろうと信じるが、もう顔全体がりんごみたいに赤くなってるので、ちょっとばかり信憑性が怪しい感じだ。
「……う、うぅ。……に、ニヤニヤするな、変態!」
「痛えっ!?」
再びすねを蹴り上げられるも、顔の弛緩を止められない俺だった。
とか思ってるとノドが乾いた。よし、実際に買って偏った品揃えを脳内で実況しよう。
そんなわけで件の自販機に向かうと、先客がいた。ちなみだ。何やら途方に暮れた様子で自販機を見上げているが……あ、こっちに気づいた。
ちなみはずかずかとこちらに歩いてくると、殴る勢いで手を出した。
「……金を出せ」
「脅迫とな! お兄さん流石に驚いたよ。よもや学校で犯罪に巻き込まれるとは予想だにしなかった」
「……くだんないこと言ってないで、いーから金を出せ」
「財布でも忘れたのか?」
ちなみは「ぐ」と小さくうめいて、手を震わせた。
「……わ、忘れてない。家に置いてきただけ。……無意識に」
「それを一般的に忘れたというのです」
「……いーから早く金を出せ」
「へーへー」
ちゃりちゃりと小銭を投入口に入れてやる。
「んで、何飲むんだ?」
「……タカシには関係ない」
「金出したの、俺」
ちなみは半眼で俺をじろーっと睨んだあと、嫌そうに小さく呟いた。
「……ぎゅうにゅう」
「……あー、いや、今更そんなの飲んでも背も乳も無理だと思……痛っ、痛え!」
俺のすねを遠慮なく蹴りまくるちなみさん。痛いです。
「……黙れゴミ虫。また背とか胸のこと言ったら殺す」
「どちらも俺のストライクゾーンど真ん中なのに!?」
「……それもあるから、大きくなりたい」
「そんな馬鹿な!!? ちなみはこの全体的にちっこい感じが可愛らしいのに! 世界はまた俺を裏切るのか!?」
「……最後のだけ聞くとかっこいいのに、前半部分のせいで全部台無しだ」
「いやあ厨二病っぽいの大好きなんですよえへへへへ」
「……照れるな。気持ち悪い」
ままならぬ。
「……いーから早く牛乳を買え、のろま」
「ええい、イチイチ罵詈雑言が付着しやがる……ほい」
購入ボタンを押し、取り出し口から牛乳を取り出す。それをちなみに差し出すと、ひったくるように奪われた。
「ん。……ん、よく冷えてておいしい」
「そいつぁ何より。さて、俺も何か飲むかな……」
「……クラスの女子の噂によると、これを買う男子が今モテモテらしい」
「なんだと!? そいつぁ聞き逃せん! どれだっ!?」
ちなみが指す先を見る。
「……あの、このクソ暑いのにどうして『あったか~い』コーナーがあるんでしょうか」
「……この学校の七不思議のひとつ」
「そして、その中でもひときわ異彩を放っているものを指しているような気がするのですが」
「……だいじょぶ、気のせい」
そう言って、ちなみはニヤニヤと底意地の悪い笑みを見せた。
「あの。なんですか、『なす汁』って」
「……なすびの、汁?」
「いやいや、いやいやいや。そんなわけない、そんなわけない。だって、金を取ってるんだよ? 金を取って、消費者に買ってもらうんだよ? 仮にも大人が……いやいや、そんなハズがない」
「……じゃあ、買ってみればいい」
「う、うぅむ……」
「……なす汁を飲む男性って、かっこいい」
「あ」
手が無意識にボタンを押下していた。ガチャコン、と無慈悲な音が取り出し口から響く。
「……おおぅ、チャレンジャー」
「てめぇ! 何しやがる! てめぇ!」
「……やったのは自分」
「だってあんなこと言われたら体が勝手に動きますよ、普通!」
「……そんなことはない」
「ああもう、ああもう! 暑いからジュース飲みに来たのに! よりにもよってなすびの汁! しかもあったか~い! 優しい響きがまた恨めしい!」
「……うるさい」
ちなみは迷惑そうに眉をひそめた。
「……いーから早く飲み干してこの場から去れ。もしくはこの世界から去れ」
「死ねって言われた!?」
「……だから、うるさい。早く飲め」
「いや、でも……」
改めて缶を見る。全体が紫色で染め上げられており、一目見ただけで食欲を減退させる仕組みになっている。しかも、その紫色の上に『なす汁』という単語が無秩序に、これでもかというほど並べられている。呪いの品だと言われても納得しそうだ。
「あの、やっぱり……」
「飲め。のーめ」
ちなみは手をぱたぱたやって俺を追い立てた。
「人が飲むと思って、勝手なことを……!」
「……それとも、ちなみが選んだの、飲んでくれないの……?」(うるうる)
「飲むに決まってるじゃないか!」
一瞬の躊躇なく缶を飲み干……
「げほげほげほばびゅらっ!」
無理。人類には無理ですこんなの。
「……折角媚びてやったのに、飲まないなんてタカシらしくない」
「いや頑張りましたよ!? ただ、無理です。もう完全にナスビの汁なんです。それをぬるくした感じです」
『あったか~い』ではなく、『ぬる~い』だった。節電の影響か。
「……はぁ、しょがない。まあ、面白かったので我慢してやる」
「別に俺は面白がらせようとした覚えはないです。潤いが欲しかっただけです」
「……新しいジュースを買えばいい」
「一日にそう何度も買えるほど金銭的余裕ないんだよ……」
「びんぼーにん」
「その貧乏人に奢らせたの誰だ」
「……はぁ。しょがない、これをちょっとだけやる」
そう言って、ちなみは自分が先ほどまで飲んでいた牛乳を差し出した。
「……いいのか?」
「……元々おごってもらったものだし、別に構わない」
「あー……いや、それとは別の件で」
「……? ……! ……か、構わない。そ、そんなの全然ヘーキだし」
ようやっと思い至ったのか、ちなみは顔を赤くしながら目をそむけた。
「まあ、お前がそう言うなら……」
「の、飲むだけ。口つけるところぺろぺろしたら殺す」
「どんだけ変態だと思われてんだ、俺は」
「タカシならやりかねない……」
これだけ変態だと思われている様子。悲しい。
「まあいい、いただきます」
ストローに口をつけてちうちう飲む。先ほどのナス汁が洗い流され、清涼感に包まれる。
「……んマいっ! いや、久々に牛乳飲んだけど、うまいのな!」
「……い、いーから早く飲め、ばか」
俺の感想なんて聞かずに、ちなみは落ち着かない様子で俺と牛乳を交互に見ていた。
「あー……その、どしてもアレだったらも一個買ってもいいんだが……」
「……さっき、お金ないって言ってた」
「や、ないのは事実だけど、まあ明日ジュース飲むの我慢すればいい話で」
「……だ、だいじょぶ。へーき。タカシなんかには負けない」
「いや、負けないって……」
「……ほ、ほら。もういいでしょ。返して」
ちなみは俺から牛乳を奪い取ると、赤い顔でじっと見つめた。
「……じゃ、じゃあ。飲む。飲むから」
「は、はあ。どうぞ」
無駄に緊張感をみなぎらせ、ちなみは宣言した。そこまで嫌なら素直にもう一個おごられりゃいいのに。
「……ん、んー」
「…………。あの、ネタでしょうか」
「……?」
「どうして、ストロー口にキスしてるんですか」
「!!? ……ちっ、違う。ちょっと緊張しすぎただけ。別にタカシとキスしたいとかそんなの欠片も思ってない」
普段ならそりゃそうだろうと信じるが、もう顔全体がりんごみたいに赤くなってるので、ちょっとばかり信憑性が怪しい感じだ。
「……う、うぅ。……に、ニヤニヤするな、変態!」
「痛えっ!?」
再びすねを蹴り上げられるも、顔の弛緩を止められない俺だった。