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2024年11月21日
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【魔女とタンク】
2011年08月10日
「ほう」
寝てると空から女の子が──って、これなんてラピュタ?
ただ、明らかに天井に穴が空いてるんですよね。今もなお天井から木屑やら瓦の欠片やらが落ちてきて俺の部屋を汚してるし。もっとこう、騙すなら上手に騙して欲しい。変に現実感を出さないで。
といったことを落ちてきた女の子に懇々と説教する。
「……はぁ」
俺の話なんかより、少女は被ってた大きなつばの帽子を被り直す方に興味があるようだ。少女の身体に対し、明らかに大きいので、よくずれるようだ。ていうか、そもそも誰だコイツ。
「……じゃ、動かないで。外れるから」
え、という暇もなく、女の子の持ってた杖が光った。次の瞬間、俺の首へ光の線が走った。
「ライトニングボルトぉーッ!?」
首が吹き飛んだかと思ったが、そうではなかったようで。
「ん、成功」
女の子が小さくガッツポーズをしている。大変可愛いですが、そうではなくて。
「ええと。あの、さっきのは一体?」
「……首輪」
「はぁ、首輪。……首輪っ!?」
慌てて首まわりを確かめる。なるほどつい先ほどまでなかった首輪がこの世界に現出しているではないか。
「えええええーっ!? 何コレ!? S属性はあってもM属性はないんですよ俺は!?」
「……首輪。逃げると困るから」
「いやいや、いやいやいや! 困るも何も現在絶賛困ってるのは俺の方で!」
「……じゃ、行こ」
「質疑応答すらままならないと!?」
少女が杖をまたぐ。まさか!?
「ん」
想像通り、ふわり、と少女の体が宙に浮く。そして、それにつられるように、俺の身体まで──って!
「ぐっ、首輪! 首輪しか浮いてない! 俺の身体は依然重力に引かれていますので、結果何もない宙空に浮かぶ斬新な首吊り死体ができあがりますよ!?」
「……あ、忘れてた」
少女の杖が輝く。すると、先ほどまでの苦しさが嘘のように消え、同時に奇妙な浮遊感が俺を襲った。
「ふぅー……あー、死ぬかと思った」
「……じゃ、今度こそ行こ」
「いや、だから。どこへ行くのだ。ていうか俺はなんでいきなり拉致されているのだ。説明が全くないのだが」
「……いっぱい聞かれた」
少女の頬がぷくーっと膨れた。怒っている……のか?
「なんか分からないけど超可愛いからまあいいやうへへへへ」
「……変なタンク」
それで興味をなくしたのか、少女はぷいっと前を向き、滑るように前へと進みだした。それに引っ張られるように、俺の身体も滑っていく。
「しかし、なんて斬新な拉致だ。こんな拉致なら悪くない……そう、悪くない!」
「……うるさい」
「まあそう言わないでくださいよ。もう状況が全く飲み込めていないので、いっそこれは夢なんじゃないかと半ば信じてきているほどなのだから」
「夢じゃない。現実」
「だよねー」
先ほど感じた苦しみも、今感じている空を飛び、風を身体に受けている感覚も、リアルに感じ取れる。これを夢と思うのは少々無理がある。
「それで、さっき俺のことをタンクと呼んだみたいだけど、それは?」
「……燃料を入れる容器のこと」
「いやいや、いやいやいや。それは分かる。知ってる」
「……じゃあ聞かないで」
再び少女の頬が膨らむ。ゆっくりした喋り方と違い、案外怒りっぽいようだ。
「ただ、その怒り方が俺の食指が超動きまくる感じの怒り方なのでもっと怒っていただきたい!」
「……やっぱり変なタンク」
少女は前を向き、杖を滑らせることに集中したようだ。しょうがないのでその後姿を眺めることにする。
黒い大きなつば付き帽子に、これまた真っ黒なマント。いわゆる魔女の服装、というやつなのだろうか。ということは、こいつは魔女……か?
正直、魔女について造詣は深くない。おジャ魔女どれみで魔女知識は止まっている。まどかマギカを視聴しなかったツケがここに来るとは……!
「着いた」
「え?」
「……だから、着いた」
また少女のほっぺが膨らむ。やっぱ怒りっぽいなコイツ。
そこは、小高い丘の公園だった。一体ここに何があると言うのだ。
そう思いながら周囲を見渡してると、突然少女が俺に抱きついてきたあああああ!?
「あ、あ、あ、あの、あのですね、一体これは?」
「補充」
「ほ、ほじゅう?」
「……ん。補充」
少女は再度むっとしたように眉を寄せて繰り返した。燃料タンク、補充。それらから導き出される答えは──。
「え、俺は何かのエネルギーを溜め込んでいて、それをお前に現在供給してるってコト?」
「……だから、さっきから言ってる」
「いや、言ってねえ」
依然むっとした顔のままだったが、それでも少女は俺から離れなかった。
しかし、これはどうしたものか。普通に役得と思っていればいいのか、それともこれから起こる何かに戦々恐々していればいいのか。
まあ、先のことなんて分かりやしない。今はこんなきゃわいい魔女っ子に抱きつかれた喜びを最大限に味わうのが先決だろう。
「……ん、おーけー」
少女が俺から離れる。ぼさーっとしてる間に補充終わってた!
「がむでぶ! いつもそうだ! 俺はいつだってタイミングの神に嫌われている!」
「……来た」
「え?」
ぞろり、と何かが現れた。
地面が盛り上がり、土くれが形を変え、人型を成していく。歪な人間が三体、現れた。ただ、その大きさたるや、普通の人間の約三倍。巨人だ。土の巨人だ。
巨人たちは、体から土くれを落としながら、ゆっくりと少女に襲い掛かった。
「……遅い」
少女の杖の先端に、閃光が集中する。光は三対の光る帯を生み出し、巨人たちの身体を貫いた。
「……終わった」
くるり、とこちらに少女が振り向く。
「終わってねえ! 危ない!」
思わず声をかける。巨人は光の帯など意にも介さず、その巨大な手を振り上げている!
「……終わってる」
ぴたり、と巨人の動きが止まる。と、巨人たちの体が内側から膨れだし、最後に爆発した。
「おおおおおっ!?」
「……うるさい」
迷惑そうに眉をひそめる少女。お前のせいだっつの。
「……え、ええと。認識が追いつかないのだが」
「……倒した」
「あー、いや、それは分かる。ただ、相手が何者で、そもそもお前は何者かってことも分からなくて、どうして俺がここに居合わせているのかすら分からないので、もうどうしたらいいのか」
「……とりあえず、頑張った私を褒めるのがいいと思う」
「それは候補に上がりすらしなかった」
「…………」
またしても少女の頬が膨らみだした。初対面の人間に褒めて欲しいのか。
「はぁ……まあいいや。よく頑張ったな」(なでなで)
少女の頭を帽子の上からなでつける。だが、帽子がでかすぎるせいで、まるでなでている感覚がない。それどころか、帽子が動きまくり、それにつられ少女の頭がガクガクと動くので怖いだけだ。
「……むぅ」
少女は帽子を脱ぎ、俺につむじを見せた。
「……はい。やりなおし」
なでてほしいのか。変な奴。
「はい、なでなでー」
「…………」
少女は目をつむり、なでなでを堪能しているようだった。
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「ええと……まだ?」
「まだ」
「なでられるの好きなのか?」
「……分かんない。ただ、なんか、ぽわぽわする」
そう言って、少女は俺をじっと見つめた。
「あーはいはい。追加なでなでー」
「…………」(堪能中)
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「あの。たぶんだけど、もっとしてほしい感を感じるのだが」
少女はコクコクうなずいた。
「終わらないのでいい加減終了です」
みるみるうちに少女の頬が膨れていく。
「我慢しなさい」
「……はぁ。ま、いい。んじゃ、補給」
「おお。お? おおお?」
さっきと同じように、少女は俺にべそっと抱きついた。
「い、いや。だから、これ何だ?」
「……補充、ってさっき言った」
「いや言った! 言いましたけど! 何を補充しているのかそして俺は何を供給しているのか皆目見当が!」
俺の話なんてちっとも聞かずに、少女は俺の胸に顔を埋ずめ、ふにゅふにゅつぶやいた。
「まあ、いっか!」
その様子がとても可愛かったので思考を放棄する。ついでに頭もなでてやれ。
「んー」
少女は軽く顔を上げると、猫のように目を細め、小さく呟いた。これは大変に俺の脳がやられるので大変危険です。
「……やっぱ、当たりだ。すっごく深い。観察の甲斐があった」
「はい?」
「……なんでもない」
それっきり、少女は黙って俺に抱きつくだけだった。よく分からんが、返事もないようなので、頭なでるだけにしておこう。
ややあって満足したのか、少女はゆっくりと俺から離れ、帽子をかぶった。
「……んじゃ、帰ろ?」
少女は杖をまたぎ、何か呟いた。少女の体が宙に舞う。同時に俺の身体も……って!
「ぐぎぎぃ」
「……あ、また忘れてた」
ええ、また空中の首吊り死体が発見されるところでしたよ。
「ごほっごほっ……お前は俺を殺す気なのか」
「……忘れてただけ。そんなギャンギャン言わなくても分かる」(ほっぺぷくー)
「いや、ギャンギャン言いたくもなるよ! 死にかけたんだよ! これはいい壷なんだよ!」
「……いーから帰る」
マ・クベ的な俺を見えない力で引っ張りながら、少女は空を滑る。結局なんだったんだ、今日のことは。
「……ん。着いた」
しばらくして、見慣れた家に到着した。ただ、一部見慣れぬ外観になっているが。
「あのさ。屋根、修理していけ」
悲しいことに、俺の部屋の真上に位置する屋根には未だ大穴が開いていた。
「……めんどくさい」
「めんどくさくても! 直すの! 壊した人が直すのは当然のことだと思いますが!」
「……いんけん」
「陰険じゃねえ! 至極真っ当なことを言ってますよ、俺は!」
「……はぁ、やれやれ」
それは俺の超台詞だ、と思ったが、直すようなので、黙っておく。
少女が杖をかざす。先端部分に小さな光が灯ると、屋根に開いてた大穴に俺の部屋に散乱してた瓦礫やら木屑やら瓦やらが集まっていく。それらは元の位置に収まり、結合していった。
しばらくすると、修繕の跡すら残さず大穴は消えた。
「……ふう。できた」
「おお。すごいな」
「…………」
何やらもの言いたげな視線をこちらに向ける少女。褒めてほしいオーラをひしひしと感じる。だけど、そもそも壊したのコイツだしなあ。
「…………」
なんとなく察したのか、少女がしょぼんとした。
「あー……うん、よく直した。偉い偉い」
しょんぼり少女を放置できるほど出来た人間でもないので、わしわし頭をなでる。
「わ、わわ」
しかし、でけぇ帽子があったので、頭をがくがく揺するだけに終わった。
「……なでる時は先に言って。帽子取るから」
ちょっと怒りながら帽子を取ると、少女は頭頂部を俺に見せつけた。
「もうなでたからいいじゃん」
「……納得がいかない」(ほっぺぷくー)
そんなの納得なんてこちとら一度だってしてないが、膨れられては太刀打ちできない。諦めて優しく頭をなでる。
「ん。ん。……ん」
何かを確認するようにコクコクうなずく少女。なでにくい。
「……分かった。これでもだいじょぶみたい」
「何が?」
「いーからなでろ」
「へーへー」
それから数度なでると、少女は帽子をかぶりなおした。満足したようだ。
「……じゃ」
窓を開け、そこから少女は外に躍り出た。
「……えええええっ!? えっ、終わり!? 状況説明がないままだよ!?」
慌てて窓から身体を半ば出して外を見るが、既に少女の姿はなかった。
「……なんだよこれ。訳が分からん」
結局、それから少女が現れることはなかった。
明けて翌日。昨夜、色々なことがあってなかなか寝付けなかった俺は、当然のように寝坊した。
「これはなかなかスリリングな時間帯だゼ……!」
急ぎ台所へ向かい、栄養補給を行う。父は既に出勤したようだ。母は向こうで何か作っている。少女は眠そうにパンをぱくついて──いやいや。待て。そんなわけがない。
「……おはよう」
人が必死で現実を否定してるのに、少女が声をかけてきた。
「ほら、彰人。ちゃっちゃとご飯食べちゃいなさい。ラピスちゃんまで遅刻しちゃうでしょ」
なんなのこの状況。なんで母さんと顔なじみなんだ。ていうかラピスって名前なのか。
「つーかなんでいるんだ昨日のお前ーっ!!!」
「……朝からうるさい」
ずびしっ、と迷惑そうな少女の顔に指を突きつける俺だった。
続く
寝てると空から女の子が──って、これなんてラピュタ?
ただ、明らかに天井に穴が空いてるんですよね。今もなお天井から木屑やら瓦の欠片やらが落ちてきて俺の部屋を汚してるし。もっとこう、騙すなら上手に騙して欲しい。変に現実感を出さないで。
といったことを落ちてきた女の子に懇々と説教する。
「……はぁ」
俺の話なんかより、少女は被ってた大きなつばの帽子を被り直す方に興味があるようだ。少女の身体に対し、明らかに大きいので、よくずれるようだ。ていうか、そもそも誰だコイツ。
「……じゃ、動かないで。外れるから」
え、という暇もなく、女の子の持ってた杖が光った。次の瞬間、俺の首へ光の線が走った。
「ライトニングボルトぉーッ!?」
首が吹き飛んだかと思ったが、そうではなかったようで。
「ん、成功」
女の子が小さくガッツポーズをしている。大変可愛いですが、そうではなくて。
「ええと。あの、さっきのは一体?」
「……首輪」
「はぁ、首輪。……首輪っ!?」
慌てて首まわりを確かめる。なるほどつい先ほどまでなかった首輪がこの世界に現出しているではないか。
「えええええーっ!? 何コレ!? S属性はあってもM属性はないんですよ俺は!?」
「……首輪。逃げると困るから」
「いやいや、いやいやいや! 困るも何も現在絶賛困ってるのは俺の方で!」
「……じゃ、行こ」
「質疑応答すらままならないと!?」
少女が杖をまたぐ。まさか!?
「ん」
想像通り、ふわり、と少女の体が宙に浮く。そして、それにつられるように、俺の身体まで──って!
「ぐっ、首輪! 首輪しか浮いてない! 俺の身体は依然重力に引かれていますので、結果何もない宙空に浮かぶ斬新な首吊り死体ができあがりますよ!?」
「……あ、忘れてた」
少女の杖が輝く。すると、先ほどまでの苦しさが嘘のように消え、同時に奇妙な浮遊感が俺を襲った。
「ふぅー……あー、死ぬかと思った」
「……じゃ、今度こそ行こ」
「いや、だから。どこへ行くのだ。ていうか俺はなんでいきなり拉致されているのだ。説明が全くないのだが」
「……いっぱい聞かれた」
少女の頬がぷくーっと膨れた。怒っている……のか?
「なんか分からないけど超可愛いからまあいいやうへへへへ」
「……変なタンク」
それで興味をなくしたのか、少女はぷいっと前を向き、滑るように前へと進みだした。それに引っ張られるように、俺の身体も滑っていく。
「しかし、なんて斬新な拉致だ。こんな拉致なら悪くない……そう、悪くない!」
「……うるさい」
「まあそう言わないでくださいよ。もう状況が全く飲み込めていないので、いっそこれは夢なんじゃないかと半ば信じてきているほどなのだから」
「夢じゃない。現実」
「だよねー」
先ほど感じた苦しみも、今感じている空を飛び、風を身体に受けている感覚も、リアルに感じ取れる。これを夢と思うのは少々無理がある。
「それで、さっき俺のことをタンクと呼んだみたいだけど、それは?」
「……燃料を入れる容器のこと」
「いやいや、いやいやいや。それは分かる。知ってる」
「……じゃあ聞かないで」
再び少女の頬が膨らむ。ゆっくりした喋り方と違い、案外怒りっぽいようだ。
「ただ、その怒り方が俺の食指が超動きまくる感じの怒り方なのでもっと怒っていただきたい!」
「……やっぱり変なタンク」
少女は前を向き、杖を滑らせることに集中したようだ。しょうがないのでその後姿を眺めることにする。
黒い大きなつば付き帽子に、これまた真っ黒なマント。いわゆる魔女の服装、というやつなのだろうか。ということは、こいつは魔女……か?
正直、魔女について造詣は深くない。おジャ魔女どれみで魔女知識は止まっている。まどかマギカを視聴しなかったツケがここに来るとは……!
「着いた」
「え?」
「……だから、着いた」
また少女のほっぺが膨らむ。やっぱ怒りっぽいなコイツ。
そこは、小高い丘の公園だった。一体ここに何があると言うのだ。
そう思いながら周囲を見渡してると、突然少女が俺に抱きついてきたあああああ!?
「あ、あ、あ、あの、あのですね、一体これは?」
「補充」
「ほ、ほじゅう?」
「……ん。補充」
少女は再度むっとしたように眉を寄せて繰り返した。燃料タンク、補充。それらから導き出される答えは──。
「え、俺は何かのエネルギーを溜め込んでいて、それをお前に現在供給してるってコト?」
「……だから、さっきから言ってる」
「いや、言ってねえ」
依然むっとした顔のままだったが、それでも少女は俺から離れなかった。
しかし、これはどうしたものか。普通に役得と思っていればいいのか、それともこれから起こる何かに戦々恐々していればいいのか。
まあ、先のことなんて分かりやしない。今はこんなきゃわいい魔女っ子に抱きつかれた喜びを最大限に味わうのが先決だろう。
「……ん、おーけー」
少女が俺から離れる。ぼさーっとしてる間に補充終わってた!
「がむでぶ! いつもそうだ! 俺はいつだってタイミングの神に嫌われている!」
「……来た」
「え?」
ぞろり、と何かが現れた。
地面が盛り上がり、土くれが形を変え、人型を成していく。歪な人間が三体、現れた。ただ、その大きさたるや、普通の人間の約三倍。巨人だ。土の巨人だ。
巨人たちは、体から土くれを落としながら、ゆっくりと少女に襲い掛かった。
「……遅い」
少女の杖の先端に、閃光が集中する。光は三対の光る帯を生み出し、巨人たちの身体を貫いた。
「……終わった」
くるり、とこちらに少女が振り向く。
「終わってねえ! 危ない!」
思わず声をかける。巨人は光の帯など意にも介さず、その巨大な手を振り上げている!
「……終わってる」
ぴたり、と巨人の動きが止まる。と、巨人たちの体が内側から膨れだし、最後に爆発した。
「おおおおおっ!?」
「……うるさい」
迷惑そうに眉をひそめる少女。お前のせいだっつの。
「……え、ええと。認識が追いつかないのだが」
「……倒した」
「あー、いや、それは分かる。ただ、相手が何者で、そもそもお前は何者かってことも分からなくて、どうして俺がここに居合わせているのかすら分からないので、もうどうしたらいいのか」
「……とりあえず、頑張った私を褒めるのがいいと思う」
「それは候補に上がりすらしなかった」
「…………」
またしても少女の頬が膨らみだした。初対面の人間に褒めて欲しいのか。
「はぁ……まあいいや。よく頑張ったな」(なでなで)
少女の頭を帽子の上からなでつける。だが、帽子がでかすぎるせいで、まるでなでている感覚がない。それどころか、帽子が動きまくり、それにつられ少女の頭がガクガクと動くので怖いだけだ。
「……むぅ」
少女は帽子を脱ぎ、俺につむじを見せた。
「……はい。やりなおし」
なでてほしいのか。変な奴。
「はい、なでなでー」
「…………」
少女は目をつむり、なでなでを堪能しているようだった。
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「ええと……まだ?」
「まだ」
「なでられるの好きなのか?」
「……分かんない。ただ、なんか、ぽわぽわする」
そう言って、少女は俺をじっと見つめた。
「あーはいはい。追加なでなでー」
「…………」(堪能中)
「はい、終わり」
「…………」
目を薄く開き、何か言いたげに俺を見つめる少女。
「あの。たぶんだけど、もっとしてほしい感を感じるのだが」
少女はコクコクうなずいた。
「終わらないのでいい加減終了です」
みるみるうちに少女の頬が膨れていく。
「我慢しなさい」
「……はぁ。ま、いい。んじゃ、補給」
「おお。お? おおお?」
さっきと同じように、少女は俺にべそっと抱きついた。
「い、いや。だから、これ何だ?」
「……補充、ってさっき言った」
「いや言った! 言いましたけど! 何を補充しているのかそして俺は何を供給しているのか皆目見当が!」
俺の話なんてちっとも聞かずに、少女は俺の胸に顔を埋ずめ、ふにゅふにゅつぶやいた。
「まあ、いっか!」
その様子がとても可愛かったので思考を放棄する。ついでに頭もなでてやれ。
「んー」
少女は軽く顔を上げると、猫のように目を細め、小さく呟いた。これは大変に俺の脳がやられるので大変危険です。
「……やっぱ、当たりだ。すっごく深い。観察の甲斐があった」
「はい?」
「……なんでもない」
それっきり、少女は黙って俺に抱きつくだけだった。よく分からんが、返事もないようなので、頭なでるだけにしておこう。
ややあって満足したのか、少女はゆっくりと俺から離れ、帽子をかぶった。
「……んじゃ、帰ろ?」
少女は杖をまたぎ、何か呟いた。少女の体が宙に舞う。同時に俺の身体も……って!
「ぐぎぎぃ」
「……あ、また忘れてた」
ええ、また空中の首吊り死体が発見されるところでしたよ。
「ごほっごほっ……お前は俺を殺す気なのか」
「……忘れてただけ。そんなギャンギャン言わなくても分かる」(ほっぺぷくー)
「いや、ギャンギャン言いたくもなるよ! 死にかけたんだよ! これはいい壷なんだよ!」
「……いーから帰る」
マ・クベ的な俺を見えない力で引っ張りながら、少女は空を滑る。結局なんだったんだ、今日のことは。
「……ん。着いた」
しばらくして、見慣れた家に到着した。ただ、一部見慣れぬ外観になっているが。
「あのさ。屋根、修理していけ」
悲しいことに、俺の部屋の真上に位置する屋根には未だ大穴が開いていた。
「……めんどくさい」
「めんどくさくても! 直すの! 壊した人が直すのは当然のことだと思いますが!」
「……いんけん」
「陰険じゃねえ! 至極真っ当なことを言ってますよ、俺は!」
「……はぁ、やれやれ」
それは俺の超台詞だ、と思ったが、直すようなので、黙っておく。
少女が杖をかざす。先端部分に小さな光が灯ると、屋根に開いてた大穴に俺の部屋に散乱してた瓦礫やら木屑やら瓦やらが集まっていく。それらは元の位置に収まり、結合していった。
しばらくすると、修繕の跡すら残さず大穴は消えた。
「……ふう。できた」
「おお。すごいな」
「…………」
何やらもの言いたげな視線をこちらに向ける少女。褒めてほしいオーラをひしひしと感じる。だけど、そもそも壊したのコイツだしなあ。
「…………」
なんとなく察したのか、少女がしょぼんとした。
「あー……うん、よく直した。偉い偉い」
しょんぼり少女を放置できるほど出来た人間でもないので、わしわし頭をなでる。
「わ、わわ」
しかし、でけぇ帽子があったので、頭をがくがく揺するだけに終わった。
「……なでる時は先に言って。帽子取るから」
ちょっと怒りながら帽子を取ると、少女は頭頂部を俺に見せつけた。
「もうなでたからいいじゃん」
「……納得がいかない」(ほっぺぷくー)
そんなの納得なんてこちとら一度だってしてないが、膨れられては太刀打ちできない。諦めて優しく頭をなでる。
「ん。ん。……ん」
何かを確認するようにコクコクうなずく少女。なでにくい。
「……分かった。これでもだいじょぶみたい」
「何が?」
「いーからなでろ」
「へーへー」
それから数度なでると、少女は帽子をかぶりなおした。満足したようだ。
「……じゃ」
窓を開け、そこから少女は外に躍り出た。
「……えええええっ!? えっ、終わり!? 状況説明がないままだよ!?」
慌てて窓から身体を半ば出して外を見るが、既に少女の姿はなかった。
「……なんだよこれ。訳が分からん」
結局、それから少女が現れることはなかった。
明けて翌日。昨夜、色々なことがあってなかなか寝付けなかった俺は、当然のように寝坊した。
「これはなかなかスリリングな時間帯だゼ……!」
急ぎ台所へ向かい、栄養補給を行う。父は既に出勤したようだ。母は向こうで何か作っている。少女は眠そうにパンをぱくついて──いやいや。待て。そんなわけがない。
「……おはよう」
人が必死で現実を否定してるのに、少女が声をかけてきた。
「ほら、彰人。ちゃっちゃとご飯食べちゃいなさい。ラピスちゃんまで遅刻しちゃうでしょ」
なんなのこの状況。なんで母さんと顔なじみなんだ。ていうかラピスって名前なのか。
「つーかなんでいるんだ昨日のお前ーっ!!!」
「……朝からうるさい」
ずびしっ、と迷惑そうな少女の顔に指を突きつける俺だった。
続く
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