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2024年11月24日
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【体は動かないくせに口だけは達者なツンデレ】

2010年03月04日
 ちなみが倒れた。慌てて保健室に連れて行って診断してもらった結果、ただの貧血らしい。
「心配させんなよ、まったく……」
 ベッド脇のイスに腰掛けたまま、安堵の息を吐く。
「……別に好きで倒れたわけじゃないし、心配してくれなんて頼んでない」
 ちなみは布団から顔を半分だけ出し、視線を逸らしたまま言った。
「この娘は何を偉そうに……まあ今に始まった話じゃないし、別にいいけど。それより、もう放課後だからとっとと帰ろうぜ」
「あ、それなんだが、まだこの女生徒は歩けるほど回復していない。家に連絡しておいたから、到着を待つんだな」
 保健の先生はイスを回転させてこちらを向き、眼鏡のブリッジを指で持ち上げながら言った。
「あ、そうなの。じゃ、俺先に帰るな。またな、ちなみ」
 鞄を持って立ち上がろうとしたら、ちなみが制服の裾を握っていて立ち上がれない。
「なんですか、この手は」
 イスに座りなおし、ちなみに問いかける。
「……別に」
「いや、別にじゃなくて。持たれてたら帰れない人がいますよ?」
「……持ってなんてない」
「いやいやいや、持ってるって。ほれ、こうやって俺の制服を握り締めてますから」
 制服を握ってるちなみの手を上から包むように握り、教える。
「……うう、タカシは隙あらば私の手を握る。……きっと、家に帰ってからこの感触を思い出し、一人励むつもりだ」
「しねーよっ! 女の子がそういうこと言うんじゃありませんっ!」
「あうっ」
 ちなみのおでこにデコピンする。
「……女の子に手を上げるだなんて、タカシはドSだ」
「どちらかと言うと、ドAだ」
「どういうことだ……?」
 机に向かっていた保健医が不思議そうな声を上げた。
「……ドA。Aカップの女の子が好きで好きでしょうがないダメな人を指す」
 ちなみが適当な解説をつけたが、あながち間違いでもないのが嫌だ。あと、ダメな人とか言うな。
「ほら、いいから手を離しなさい。お兄さん、家に帰れないじゃないですか」
「……タカシは家に帰らず、私のそばにずっといたいと言う。……やれやれ、惚れられすぎて困る」
 んなこと一言も言ってねー。
「……キミにいてほしいんじゃないか?」
 傍観してた保健医が口を挟んだ。
「ちっ、違う。いてほしくなんて、ない」
 なぜか慌てた様子でちなみが否定した。
「そりゃそうだ。じゃ、俺そろそろ帰るな」
「む~……がうっ」
「がう?」
 異音に首を傾げてたら、ちなみが俺の手にかじりついてるのに気づいたって痛い痛い痛い!
「痛い痛い痛いっての! 噛むなこの馬鹿!」
「……あぐあぐあぐ(ちょっとくらい空気を読んでも罰は当たらない、と言っている)」
「何言ってんだか分かんねーっての! いーから口離せっ!」
「……あのー、連絡があって妹を連れに……ああっ、妹がタカくんを食べてる! ……お姉ちゃんも食べたいのに、ずるいー」
 ドアを開けてちなみの姉、ちなねえが現れて微妙にピントがずれつつも物騒な事を言う。
「……ちなみは右手食べてるから、お姉ちゃんは左手食べるね」
 ちなねえは俺の手を取り、指をそっと口に含んだ。何をしてるのか、この人は。
「……ちゅ、ちゅぱっ。……タカくんの指、おいしい」
 ちなねえは音を立てて俺の指を舐めた。……しかし、なんつーか。
「……お姉ちゃん、なんかえっちだ」
 俺の気持ちをちなみが代弁した。
「……違います、お姉ちゃんは本当はえっちじゃないんです。タカくんに調教されて、こうなっちゃったんです」
「そこっ! いーかげんなこと言うなっ! 調教なんてしてないっ!」
「……うう、いつかは私も調教される予感」
「するかっ! ちなみも信じるなっ!」
 つっこむ相手が倍に増えてとてもしんどい。
「あー……こうも堂々と不純異性交遊をされると、注意する気も起きんな」
 保健医がげんなりしながら言った。
「……べ、別にそんなのじゃない。……タカシで遊んでるだけ」
 ちょっと恥ずかしそうに俺の手を弄びながら、ちなみがぼそぼそ言った。
「……そうです。タカくんとお姉ちゃんは、不純じゃないです。超純粋です。いわゆる純愛です」
 違う、ちなねえ。そういうことじゃない。
「むっ。……タカシは私の事が大好きだから、お姉ちゃんは遊びに決定。……なぜなら、タカシは貧乳大好きのダメ人間だから。……ああ、貧乳で悲しい」
 言葉とは裏腹に、ちなみはにやにやしながら俺の右腕をぎゅっと抱きしめた。よくよく感じないと分からないほどの膨らみが腕に触れる。
「むむっ。……お姉ちゃんは歳のわりにかなりのぺたんこですから、タカくんのダメな欲求に答えられます。……ちなみは近い将来にぼいんぼいんになり、タカくんに捨てられます。決定」
 ちなみに対抗するように、ちなねえが俺の左腕をぎゅっと抱きしめた。ちなみの1.3倍ほどの膨らみが腕に押し付けられる。
「「……で、どっち?」」
 4つの垂れ目が俺を見る。
「ドラクエとかってさ、名前決める時だいたい4文字じゃん? あれってさ、名前が4文字以上ある人ってどうしてんだろうな」
「……いきなり何の話をしてるか。……ちゃんと答える」
 ちなみが俺のほおをぎうぎう引っ張る。
「……うーん、お姉ちゃんが思うに、名前を短縮して入れてると思うな。健太郎とかだと、けんたろ、って」
 ちなねえが乗った。好機!
「そうか! 長年の疑問がこれでやっと氷解した! いやありがとうな、ちなねえ。というわけで、俺の疑問を解きポイントが追加されたちなねえの勝ちー」
 ちなねえの手を高々と上げ、勝ちを名乗らせる。よし、これでどうにか穏便に話が終わった。
「……がうっ」
「がう?」
 どこかで聞いた音に小首を傾げてると、ちなみが俺の手に噛み付いてるのに気づいた。
「また噛んでるよこの娘! リピートか!」
「……がうがうがうっ(なんで私を選ばない、と言っている)」
「だから、何言ってんだか分かんねーっての!」
「……楽しそう。お姉ちゃんもやるー」
 ちなねえが一緒になって俺の手をぺろぺろ舐める。
「舐めんなっ! ええい、犬か!」
「……タカくんが望むなら、お姉ちゃん、犬になってもいいよ? わんわん♪」
「そういうことじゃなくてっ!」
「……わん」
「なんでちなみも犬っぽくなってるか! つーか、どっから犬耳持ってきた!?」
 いつのまにかちなみの頭にイヌミミが装着されていた。
「……なんでもいいけど、帰ってくれないかね」
 保健医の呟きが聞こえた気がした。

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